特許第6379962号(P6379962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6379962マイクロ波無電極ランプ及びこれを使用した光照射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379962
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】マイクロ波無電極ランプ及びこれを使用した光照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 65/04 20060101AFI20180820BHJP
   H01J 61/12 20060101ALI20180820BHJP
   H01J 61/30 20060101ALI20180820BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20180820BHJP
   F21Y 103/00 20160101ALN20180820BHJP
【FI】
   H01J65/04 B
   H01J61/12 Z
   H01J61/30 P
   F21S2/00 681
   F21Y103:00
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-207568(P2014-207568)
(22)【出願日】2014年10月8日
(65)【公開番号】特開2016-76452(P2016-76452A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 要泰
(74)【代理人】
【識別番号】100100169
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 剛
(72)【発明者】
【氏名】東藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】小田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 静二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和明
(72)【発明者】
【氏名】張 豪俊
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−106508(JP,A)
【文献】 特開2002−150805(JP,A)
【文献】 特開2011−258359(JP,A)
【文献】 特開2006−210249(JP,A)
【文献】 特開昭57−172650(JP,A)
【文献】 特公昭46−039559(JP,B1)
【文献】 特開2011−233311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21K9/00−9/90
F21S2/00−45/70
H01J61/00−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波エネルギーを受けて発光するマイクロ波無電極ランプにおいて、
石英ガラス製の管状の放電容器と、
該放電容器内に封入された希ガス及び発光物質と、を有し、
前記発光物質は、亜鉛、及び、ヨウ化コバルトを含み、
前記放電容器の内径は5.0〜7.0mmである、マイクロ波無電極ランプ。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロ波無電極ランプにおいて、
前記放電容器の希ガスの圧力が2.0〜9.0torrである、マイクロ波無電極ランプ。
【請求項3】
請求項1記載のマイクロ波無電極ランプにおいて、
前記発光物質はコバルト単体を含む、マイクロ波無電極ランプ。
【請求項4】
請求項1記載のマイクロ波無電極ランプにおいて、
前記亜鉛の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccであり、前記ヨウ化コバルトの封入密度は4.0〜10.0μmol/ccである、マイクロ波無電極ランプ。
【請求項5】
マイクロ波発振器と、
前記マイクロ波発振器に付属するアンテナと、
請求項1記載のマイクロ波無電極ランプとを備えた光照射装置。
【請求項6】
請求項5記載の光照射装置において、
前記発光物質は、亜鉛、ヨウ化コバルト、及び、コバルト単体、を含み、
前記放電容器の希ガスの圧力が2.0〜9.0torrである、光照射装置。
【請求項7】
請求項6記載の光照射装置において、
前記亜鉛の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccであり、前記ヨウ化コバルトの封入密度は4.0〜10.0μmol/ccである、光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波給電方式のマイクロ波無電極ランプ、及び、これを使用した光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光線又は紫外線を放射する放電ランプとして、マイクロ波無電極ランプが開発されている。マイクロ波無電極ランプを搭載する光照射装置は、典型的には、マイクロ波発振器と、マイクロ波空洞と、放電管(発光管)である無電極ランプを有する。無電極ランプはマイクロ波空洞に着脱可能に支持される。マイクロ波空洞には、無電極ランプからの可視光線又は紫外線を光出射口に導くための反射鏡が設けられている。光出射口には、マイクロ波に対しては不透過性であるが可視光線又は紫外線に対しては透過性の導電性メッシュが設けられている。
【0003】
放電管には、始動用の希ガス又は不活性ガスと発光物質が封入されている。発光物質を適宜選択することによって、所望の波長の可視光線又は紫外線を得ることができる。紫外線は、波長400〜315nmのUV−A領域、波長315〜280nmのUV−B領域、波長280〜200nmのUV−C領域に分けられる。UV−A領域の紫外線は塗料、樹脂等の硬化処理に用いられる。UV−C領域の紫外線は殺菌用に用いられる。
【0004】
従来、発光物質として一般的に、水銀が広く用いられている。近年、水銀は環境負荷物質として使用量の低減又は不使用の要望が強くなっている。即ち、従来の有水銀タイプの放電ランプの代わりに、同等の発光強度及び発光分光特性を有する無水銀タイプの放電ランプの要望が高まっている。
【0005】
特許文献1には、無水銀タイプの無電極ランプの例が記載されている。発光物質として、亜鉛、ヨウ化インジウム、ヨウ化タリウム等が用いられている。緑色を帯びた白色光を発光する照明用の光源が得られる。特許文献2には、有水銀タイプの無電極ランプの例が記載されている。発光物質として、水銀、ハロゲン、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウム等が用いられている。特許文献3には、無水銀タイプの有電極ランプの例が記載されている。亜鉛は、UV−C領域の波長214nm、UV−B領域の波長308nm、UV−A領域の波長330nm、335nm、可視領域の波長468nm、472nm、481nm等にて発光ピークを有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−315782号公報
【特許文献2】特開昭57−172650号公報
【特許文献3】特表2008−516379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、塗料、樹脂等の硬化処理に用いられる波長315〜400nm(UV−A領域)の紫外線の需要が高くなっている。UV−A領域の紫外線の光源として、マイクロ波無電極ランプが好適である。そこで、本願の発明者は、有水銀タイプと同等の発光強度及び発光分光特性を有する無水銀タイプのマイクロ波無電極ランプの開発を行った。
【0008】
無水銀タイプのマイクロ波無電極ランプでは、水銀の代わりとなる発光物質の種類と封入量の選択が重要である。しかしながら、発光物質の封入量を増加させることは好ましくない。更に、始動性が低下することも好ましくない。
【0009】
本発明の目的は、UV−A領域の紫外線の光源として、有水銀タイプの放電ランプと同等の発光強度及び発光分光特性を有し、更に、発光物質の封入量を抑制し、始動性を向上させることができる無水銀タイプのマイクロ波無電極ランプ及びこれを使用した光照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者は、先ず、発光物質について鋭意検討した。特許文献3(特表2008−516379号公報)に記載されているように、亜鉛は、UV−A領域の波長330nm、335nmにて発光ピークを生成することが知られている。そこで、UV−A領域の紫外線の発光強度を向上させるために、発光物質として亜鉛を用いることとした。特許文献2(特開昭57−172650号公報)に記載されているように、有水銀タイプの無電極ランプでは、発光物質として、鉄系元素(鉄、ニッケル、コバルト)とそのハロゲン化物を用いることが知られている。そこで本願の発明者は、実験を行い、無水銀タイプの無電極ランプにて、発光物質として鉄系元素(鉄、ニッケル、コバルト)とそのハロゲン化物を用いることが有効であることを確認した。
【0011】
本願の発明者は、次に、発光物質の封入量を低減させる方法を鋭意検討した。そこで、放電容器の内径を小さくし、放電容器の容積を小さくすることを考えた。本願の発明者は、従来の放電容器の内径より小さい内径を有する多数の放電容器を試作し、点灯試験を行った。その結果、所望の発光強度及び発光分光特性が得られ、且つ、発光物質の封入量を抑制することができることを確認した。
【0012】
本発明の実施形態によると、マイクロ波エネルギーを受けて発光するマイクロ波無電極ランプにおいて、
石英ガラス製の管状の放電容器と、
該放電容器内に封入された希ガス及び発光物質と、を有し、
前記発光物質は、亜鉛、及び、ヨウ化コバルトを含み、
前記放電容器の内径は5.0〜7.0mmである。
【0013】
本発明の実施形態によると、前記マイクロ波無電極ランプにおいて、前記放電容器の希ガスの圧力が2.0〜9.0torrである、としてよい。
【0014】
本発明の実施形態によると、前記マイクロ波無電極ランプにおいて、前記発光物質はコバルトを含む、としてよい。
【0015】
本発明の実施形態によると、前記マイクロ波無電極ランプにおいて、前記亜鉛の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccであり、前記ヨウ化コバルトの封入密度は4.0〜10.0μmol/ccである、としてよい。
【0016】
本発明の実施形態によると、マイクロ波発振器と、該マイクロ波発振器に付属するアンテナと、該アンテナからのマイクロ波エネルギーを受けて発光する無電極ランプと、を有する光照射装置において、
前記無電極ランプは不活性ガスと発光物質が封入された放電容器を有し、
前記放電容器の内径は5.0〜7.0mmである。
【0017】
本発明の実施形態によると、前記光照射装置において、前記発光物質は、亜鉛、ヨウ化コバルト、及び、コバルト単体、を含み、前記放電容器の希ガスの圧力が2.0〜9.0torrである、としてよい。
【0018】
本発明の実施形態によると、前記光照射装置において、前記亜鉛の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccであり、前記ヨウ化コバルトの封入密度は4.0〜10.0μmol/ccである、としてよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、UV−A領域の紫外線の光源として、有水銀タイプの放電ランプと同等の発光強度及び発光分光特性を有し、更に、発光物質の封入量を抑制し、始動性を向上させることができる無水銀タイプのマイクロ波無電極ランプ及びこれを使用した光照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、本実施形態に係るマイクロ波無電極ランプを使用した光照射装置の一例を示す概略斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aの光照射装置を正面から見た概略正面図である。
図2図2は、本実施形態に係る光照射装置の筐体の前側内部の断面構成を示す図である。
図3図3は、本実施形態に係る無電極ランプの一例を示す図である。
図4図4は、本実施形態に係る無電極ランプの例の寸法を説明する図である。
図5図5は、本願発明者が行った無電極ランプの点灯実験により得られたランプ入力電力とUV−A領域の紫外線のピーク強度の関係を説明する図である。
図6図6は、本願発明者が行った無電極ランプの点灯実験により得られたランプ入力電力とUV−A領域の紫外線の積算光量の関係を説明する図である。
図7図7は、本願発明者が行った無電極ランプの点灯実験により得られた波長とUV−A領域の紫外線の強度の関係を説明する図である。
図8図8は、本願発明者が行った無電極ランプの点灯実験により得られた波長と紫外線及び可視光線の相対強度の関係を説明する図である。
図9A図9Aは本願の発明者が実施した紫外線の測定系の正面構成の例を説明する図である。
図9B図9Bは本願の発明者が実施した紫外線の測定系の平面構成の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る無電極ランプ及びこれを使用した光照射装置の実施形態に関して、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施形態は、例示であって、本発明を何等限定するものではないことを承知されたい。
【0022】
図1A及び図1Bは、本実施形態に係るマイクロ波無電極ランプを使用した光照射装置の一例を説明する図である。図1Aは、光照射装置10の斜視図である。図1Bは、図1Aの光照射装置10を正面から見た概略正面図である。図示のように、光照射装置10のランプ軸線方向に沿ってX軸、光照射装置10からの発光方向(矢印方向)に沿ってZ軸、X−Z面に垂直方向にY軸を設定する。
【0023】
光照射装置10は、矩形の筐体4を有し、筐体4の後側内部にマイクロ波発振器3(図示なし)が設けられている。光照射装置10は、更に、マイクロ波発振器3に付属するアンテナ8と、アンテナ8からのマイクロ波エネルギーを受けて発光する無電極ランプ12と、無電極ランプ12の軸線に沿って配置された反射鏡14を有する。反射鏡14によって囲まれた空間は、マイクロ波空洞5を形成している。無電極ランプ12は、マイクロ波空洞5に配置されている。
【0024】
光照射装置10は、更に、無電極ランプ12を冷却する冷却空気供給機構を有する。冷却空気供給機構は、図示しない冷却空気源と、筐体4の上側には装着された冷却用送風ダクト6(図1Bでは省略)を有する。
【0025】
マイクロ波は、波長1m〜100μm、周波数300MHz〜3THzの電磁波を指し、電波の中で最も短い波長域である。マイクロ波発振器3として、マグネトロン、クライストロン、進行波管(TWT)、ジャイロトロン、ガンダイオードを用いた回路等がある。本実施形態では、マイクロ波発振器としてマグネトロンを使用する。マグネトロンは、発振用真空管の一種であり、強力なノンコヒーレントマイクロ波を発生する。身近なところでは、マグネトロンは、レーダーや電子レンジに使われている。本実施形態では、電子レンジ、好ましくは業務用電子レンジに使用されているマグネトロンを使用する。なお、電子レンジでは周波数2,450MHzが使用されているが、これは技術的な制限によるものではなく、法的規制によるものである。
【0026】
図2は、本実施形態に係る光照射装置10の筐体4の前側内部の断面構成を示す。反射鏡14は、代表的には、被照射面に集光させる楕円面反射鏡、被照射面に平行光を当てる放物面反射鏡等が有る。楕円面も放物面も少なくとも1つの焦点を有する。図2の実施例では、反射鏡14は樋型楕円面反射鏡であり、無電極ランプ12は直管型で、その中心軸が楕円面反射鏡の焦点に位置するように配置されている。なお、無電極ランプの中心(中心軸)が反射鏡の焦点位置に必ずしも一致している必要は無く、ランプ設置の位置的誤差等も考慮して、ランプ本体の中央部分が焦点を含む位置に配置されていればよい。
【0027】
反射鏡14の筐体4の前面には光出射口2が形成され、光出射口は導電性メッシュ16によって覆われている。導電性メッシュ16は、マイクロ波に対しては不透過性であるが、マイクロ波空洞からの照射光18、即ち、可視光線及び紫外線に対しては透過性である。
【0028】
マイクロ波発振器3から発生したマイクロ波は、アンテナ8を介して放射され、マイクロ波空洞5に供給され、そこで定在波を形成する。マイクロ波空洞5に配置された無電極ランプ12の内部にプラズマを励起する。プラズマが放射する可視光線或いは紫外線は、照射光18として反射鏡14を反射し、又は、直接、光出射口2に向かって放射され、導電性メッシュ16を通過して、被照射面に照射される。
【0029】
図示しない冷却空気源からの冷却用空気17は、冷却用送風ダクト6(図1A)を経由し、反射鏡14の孔14Aを介してマイクロ波空洞5に供給される。冷却用空気17は無電極ランプ12の外周面に衝突し、無電極ランプ12を冷却する。
【0030】
図3を参照して本実施形態に係る直管型の無電極ランプの例を説明する。無電極ランプ12は、円筒状の放電容器12Aを有する直管型であり、その両端に突起部12Bを有する。放電容器の両端の突起部12Bを筐体の両側の内壁の係合部に係合させることによって、無電極ランプ12はマイクロ波空洞内に保持される。
【0031】
マグネトロンを発振させると、2,450MHzのマイクロ波エネルギーがマイクロ波空洞5に供給され定在波が形成される。マイクロ波が無電極ランプ12の放電容器12Aと結合されて内部にプラズマが励起される。発光物質から可視光線或いは紫外線が放射される。
【0032】
無電極ランプ12を点灯すると、放電容器12Aの内部に、破線で示すように、2つのプラズマ領域13が形成される。プラズマ領域13は、腹131とその両側の節132を有する定在波を形成する。この定在波の波長は、λ=伝播速度/周波数=2.99×108(m/s)/2.45GHz≒123mmとなる。無電極ランプの放電容器12Aの軸線方向長さは、一波長の長さに略等しく形成されている。
【0033】
定在波の腹131の部分は比較的温度が高く、比較的強い発光をする。ここは高温領域(ホットゾーン)12a、12bと呼ばれる。定在波の節132の部分は比較的温度が低く、比較的弱い発光をする。ここは低温領域(コールドゾーン)12c、12d、12eと呼ばれる。放電容器12Aにて定在波は左右対称的に形成される。従って、中央の最低温位置は、放電容器12Aの軸線方向の中央の位置にある。低温領域12c、12d、12eでは、封入物質の蒸発が阻害され、又は、再凝集が起こることがある。従って、無電極ランプ12の放電容器12Aの温度分布は軸線方向に沿って不均一となる。
【0034】
図4を参照して本実施形態に係る直管型の無電極ランプの例を説明する。本実施形態に係る無電極ランプ12は円筒状の放電容器12Aと両側の突起部12B、12Bを有する。放電容器12Aは、円筒部121を有する。円筒部の両側に端部123、123が形成されている。端部123、123は、放電容器の両側の低温領域12d、12eに形成され、球面形状、楕円球面状等の回転曲面状に形成されてよい。
【0035】
無電極ランプの軸線方向の寸法をL1、放電容器12Aの軸線方向の寸法をL、突起部12B、12Bの軸線方向の寸法をそれぞれLtとする。L1=L+2Lt=150〜160mm、L=130〜140mm、Lt=8.0〜9.0mmである。円筒部121の内径をD、突起部12B、12Bの外径をDtとする。
【0036】
無電極ランプ12は石英ガラス製である。放電容器12Aは石英ガラス製の密閉容器によって形成されている。突起部12B、12Bは石英ガラス製の棒材である。放電容器12Aには、始動用の希ガス又は不活性ガスと発光物質が封入される。
【0037】
本発明の実施形態の無電極ランプにおける発光物質について説明する。上述のように、本発明の実施形態では、発光物質として、亜鉛、鉄系元素(鉄、ニッケル、コバルト)、及び、鉄系元素のハロゲン化物を用いることとした。尚、インジウム(In)、ヨウ化インジウム(InI)等は用いていない。
【0038】
先ず、亜鉛について説明する。上述のように、亜鉛は、UV−A領域の波長330nm、335nmにて発光ピークを生成することが知られている。更に、亜鉛は蒸気圧が高いため点灯中のインピーダンスが高くでき、マイクロ波のエネルギーを効率よく吸収することができる。そのため、プラズマ温度を上昇させ、コバルトの発光強度を上昇させることができる。本願の発明者が行った実験によって得られた知見(特願2014-067228号)によると、亜鉛のハロゲン化物よりも亜鉛単体のほうが好ましいことが確認されている。更に、亜鉛単体の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccとすることが好ましいことが確認されている。従って、本実施形態においても、亜鉛単体の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccとする。
【0039】
次に、鉄系元素(鉄、ニッケル、コバルト)、及び、鉄系元素のハロゲン化物について説明する。本願の発明者が行った実験によって得られた知見(特願2014-067228号)によると、鉄系元素のハロゲン化物としてヨウ化コバルト(CoI2)を用いると、UV−A領域の発光強度が増加することが確認されている。更に、ヨウ化コバルト(CoI2)の封入密度は4.0〜10.0μmol/ccとすること好ましいことが知られている。従って、本実施形態においても、ヨウ化コバルト(CoI2)の封入密度は4.0〜10.0μmol/ccとする。更に、ヨウ化コバルト(CoI2)に対して更にコバルト単体(Co)を付加すると、始動性が改善され、UV−A領域の発光強度が増加することも確認されている。
【0040】
上述のように、本願の発明者は、所望の発光強度及び発光分光特性を有し、更に、発光物質の封入量を低減させるために、放電容器の内径を小さくし、放電容器の容積を小さくすることを考えた。本願の発明者は、放電容器の内径が異なる多数の放電容器を試作し、点灯試験を行った。その結果、放電容器の内径を小さくしても、所望の発光強度及び発光分光特性が得られることが確認された。即ち、所望の発光強度及び発光分光特性を達成すると同時に、発光物質の封入量を抑制することができることを確認した。
【0041】
以下に、本願の発明者が行った実験について説明する。表1は、本願の発明者が試作した実験例1〜9の放電容器の仕様と発光物質を示す。この実験では、図4に示す直管型の無電極ランプを用いた。先ず、実験で使用した無電極ランプの放電容器12Aの形状及び寸法を説明する。放電容器の寸法は以下のとおりである。L1=L+2Lt=155mm、L=138mm、Lt=8.5mm、Dt=3mmである。表1に示すように、放電容器12Aの内径はD=4.0〜20.0mm、放電容器12Aの内容積は1.69〜41.0ccである。尚、放電容器12Aの肉厚は1〜2mmである。
【0042】
実験例3の放電容器の内径はD=9.0mmであり、容積は8.78ccであるが、これは通常使用されている放電容器の内径及び容積と同一である。そこで、実験例3を以下に比較例と称する。実験例1及び2の場合、放電容器の内径はD>9.0mmであり、比較例(実験例3)の放電容器の内径より大きい。実験例4〜9の場合、放電容器の内径はD<9.0mmであり、比較例(実験例3)の放電容器の内径より小さい。
【0043】
【表1】
【0044】
実験例1〜8の発光物質は、コバルト単体(Co)、ヨウ化コバルト(CoI2)及び亜鉛(Zn)である。実験例9の発光物質は、ヨウ化コバルト(CoI2)及び亜鉛(Zn)である。実験例1〜8では、発光物質の総量の封入密度が約30μmol/ccとなるように、各発光物質の封入量及び封入密度を設定した。実験例1〜8では、コバルト単体(Co)の封入密度は19.9〜22.0μmol/cc、ヨウ化コバルト(CoI2)の封入密度は5.7〜6.5μmol/cc、亜鉛の封入密度は3.0〜3.8μmol/ccである。実験例9では、コバルト単体(Co)の封入量はゼロ、ヨウ化コバルト(CoI2)の封入密度は5.91μmol/cc、亜鉛の封入密度は3.50μmol/ccである。放電容器12Aに封入する始動用の希ガスとしてアルゴンを用いた。
【0045】
上述のように本願の発明者は、UV−A領域の紫外線の光源として、有水銀タイプの放電ランプと同等の発光強度及び発光分光特性を有する無水銀タイプの無電極ランプを実現することを目指した。有水銀タイプの無電極放電ランプでは、例えば、ランプ入力電力が1.8kWの場合、UV−A領域の紫外線のピーク強度は1320mW/cm2、積算光量は620mJ/cm2である。そこで、UV−A領域の紫外線のピーク強度が、少なくとも、1254mW/cm2(95%)、好ましくは、1280mW/cm2(97%)を超えることを目標とした。また、UV−A領域の紫外線の積算光量が620mJ/cm2を超えることを目標とした。尚、UV−A領域の紫外線の積算光量は、搬送速度6m/minで走行する紫外線測定装置によって測定した値を用いている。紫外線の積算光量の測定方法は後に説明する。
【0046】
本願の発明者が行った第1の実験を説明する。第1の実験では、アルゴンの圧力を5.0torr(一定)とし、ランプ入力電力を変化させて、UV−A領域の紫外線の発光強度、及び、分光特性を測定した。ランプ入力電力が1.8kWのときに、UV−A領域の紫外線のピーク強度及び積算光量が目標値を超えるものを合格とした。第1の実験によると、実験例3、4〜7、及び、9の場合、UV−A領域の紫外線のピーク強度及び積算光量が目標値を超えることが確認された。但し、実験例3(比較例)の場合、放電容器の内径は、D=9.0mmであり、通常の放電容器の内径と同一である。従って、発光物質の封入量の低減という本発明の目標を達成することができない。従って、表1の右端の列に示すように、実験例4〜7、及び、9を合格とする。即ち、放電容器の内径Dを5.0〜7.0mmとすることによって、UV−A領域の紫外線について所望の発光強度及び発光分光特性が得られることが確認された。
【0047】
図5を参照して第1の実験の結果を更に詳細に説明する。図5は、ランプ入力電力とUV−A領域の紫外線のピーク強度の関係を示す。横軸はランプ入力電力(単位:W)、縦軸はUV−A領域の紫外線のピーク強度(単位:mW/cm2)である。図5は、実験例3(比較例)と、合格と判定された実験例4、5、及び、9の結果を示す。ランプ入力電力を増加させると、UV−A領域の紫外線のピーク強度が略直線的に増加するのが判る。上述のようにランプ入力電力が1.8kWのときに、いずれもUV−A領域の紫外線のピーク強度が目標値である1254mW/cm2(95%)、及び、1280mW/cm2(97%)を超えていることが判る。紫外線のピーク強度の測定方法は後に説明する。
【0048】
図6を参照して第1の実験の結果を更に詳細に説明する。図6は、ランプ入力電力とUV−A領域の紫外線の積算光量の関係を示す。横軸はランプ入力電力(単位:W)、縦軸はUV−A領域の紫外線の積算光量(単位:mJ/cm2)である。図6は、実験例3(比較例)と、合格と判定された実験例4、5、及び、9の結果を示す。ランプ入力電力を増加させると、UV−A領域の紫外線の積算光量が略直線的に増加するのが判る。アルゴンの圧力が5.0torr、ランプ入力電力が1.8kWのときに、いずれもUV−A領域の紫外線の積算光量が目標値である620mJ/cm2を超えていることが判る。紫外線の積算光量の測定方法は後に説明する。
【0049】
表2は、実験例3(比較例)と、合格と判定された実験例4、5、及び、9について、ランプ入力が1.8kWのときの、UV−A領域の紫外線のピーク強度(単位:mW/cm2)と積算光量(単位:mJ/cm2)を抜き出して表に纏めたものである。いずれもUV−A領域の紫外線のピーク強度及び積算光量が目標値である1254mW/cm2(95%)、及び、1280mW/cm2(97%)を超えている。また、UV−A領域の紫外線の積算光量の目標値である620mJ/cm2を超えている。
【0050】
【表2】
【0051】
図7を参照して第1の実験の結果を更に詳細に説明する。図7は、波長とUV−A領域の紫外線の分光強度の関係を示す。横軸は波長(単位:nm)、縦軸はUV−A領域の紫外線の分光強度(単位:μW/cm2/nm)である。図7は、アルゴンの圧力が5.0torr、ランプ入力電力が1.8kWのときの、実験例3(比較例)と、合格と判定された実験例5のUV−A領域(波長315〜400nm)の分光特性を示す。UV−A領域(波長315〜400nm)において、実験例5の発光強度は実験例3(比較例)の発光強度より大きいことが判る。
【0052】
図8を参照して第1の実験の結果を更に詳細に説明する。図8は、波長と紫外線及び可視光線の相対強度の関係を示す。横軸は波長(単位:nm)、縦軸は紫外線及び可視光線の相対強度(%)である。ここで相対強度は、発光ピークの強度の値を100%として、各波長における強度を100分率で表したものである。図8は、アルゴンの圧力が5.0torr、ランプ入力電力が1.8kWのときの、実験例3(比較例)と、合格と判定された実験例5の分光特性を示す。いずれの場合も、UV−A領域(波長315〜400nm)における発光強度は、可視光の領域(波長380〜780nm)の発光強度より大きい。従って、本実施形態の無電極ランプでは、UV−A領域(波長315〜400nm)において効率的に紫外線が発光されていることが判る。尚、波長465〜500nmの領域にてピークが現れているが、これは、波長468nm、472nm、481nmにおける亜鉛の発光ピークに対応しているものと思われる。
【0053】
表3を参照して第2の実験及びその結果を説明する。第2の実験では、アルゴンの圧力を変化させて、始動性を観察した。この実験で使用した放電容器の仕様は、表1の実験例5に相当する。即ち、放電容器の内径は6.5mmであり、発光物質は、コバルト単体(Co)、ヨウ化コバルト(CoI2)及び亜鉛(Zn)である。また、ランプ入力電力は1.8kW(一定)とした。アルゴンの圧力が、2.0〜9.0torrのとき、始動性が良好であった。
【0054】
【表3】
【0055】
表4を参照して第3の実験及びその結果を説明する。第3の実験では、放電容器の内径と始動性の関係を測定した。実験例10以外は、表1の実験例2、3、5〜8に相当する。実験例10の発光物質は、表1の実験例2、3、5〜8と同様に、コバルト単体(Co)、ヨウ化コバルト(CoI2)及び亜鉛(Zn)であり、発光物質の総量の封入密度が約30μmol/ccとなるように、各発光物質の封入量及び封入密度を設定した。また、アルゴンの圧力は5.0torr、ランプ入力電力は1.8kW(一定)とした。放電容器の内径が5.0〜12.0mmのとき、始動性が良好となることが判った。尚、実験例2、3の場合、放電容器の内径が9mm以上となるので、発光物質の封入量の低減という本発明の目標を達成することができない。従って、実験例2、3については、本発明の本実施の形態から除く。
【0056】
【表4】
【0057】
表5を参照して第4の実験及びその結果を説明する。第4の実験では、放電容器の内径とアークの分裂及び赤色化の関係を観察した。本願の発明者はアークの分裂及び赤色化の状態を撮像した。尚、写真の図示は省略する。無水銀タイプの無電極ランプでは、ランプ入力電力の増加、又は、冷却風量の低下に起因して、アークの分裂及び赤色化が発生し、ランプ効率が低下する。アークの分裂及び赤色化は、プラズマ温度が上昇すると、プラズマ周波数が高くなり、プラズマ内部にマイクロ波エネルギーが進入できなくなった為と考えられる。第4の実験によって得られた画像(図示なし)によると、放電容器の内径を小さくすると、アークの分裂及び赤色化が起き難いことが判った。表5の丸印はアークの分裂及び赤色化が起きなかったことを示し、×印はアークの分裂及び赤色化が起きたことを示す。上述のように、本発明の実施の形態では、放電容器の内径はD=5.0〜7.0mmである。従って、本発明の実施の形態ではアークの分裂及び赤色化は回避される。
【0058】
【表5】
【0059】
図9A及び図9Bを参照して、UV−A領域の紫外線のピーク強度及び積算光量の測定方法の例を説明する。図9Aは本願の発明者が実施した測定系の正面構成の例を示し、図9Bはその平面構成の例を示す。コンベヤ201の上方に本実施形態の光照射装置10が配置され、コンベヤ201の上に紫外線測定装置202が配置される。光照射装置10は、図2を参照して説明したように、筐体4、反射鏡14及び無電極ランプ12を有し、更に、冷却用送風ダクト6を有する。
【0060】
反射鏡14は下方に、即ち、コンベヤ201の上面を向いている。光照射装置10は、無電極ランプ12の中心軸線がコンベヤ201の幅方向に沿って、即ち、コンベヤ201の進行方向に直交するように、配置される。無電極ランプ12からの紫外線は、直接に又は反射鏡14を介して下方に照射される。筐体4の下端とコンベヤ201の間の距離Haは、Ha=63mm、無電極ランプ12と紫外線測定装置202の間の距離は、Hb=105mmである。コンベヤ201は一定の搬送速度V(m/min)にて走行する。尚、搬送速度はV=6m/minとした。紫外線測定装置202は、光照射装置10の下方を通過するとき、紫外線を検出する。
【0061】
紫外線測定装置202は、UV−A領域の紫外線の強度のピーク値とその積算値を計測する。紫外線の強度は、横軸を時間、縦軸を紫外線強度とするグラフとして得られる。このグラフの山の頂点が紫外線のピーク強度(単位:mW/cm2)であり、このグラフの山の面積が積算光量(単位:mJ/cm2)を表す。
【0062】
本願の発明者が行った実験から得られた知見を纏める。UV−A領域の紫外線の光源として、有水銀タイプの放電ランプと同等の発光強度及び発光分光特性を有する無水銀タイプの無電極ランプを実現するために必要な条件は次の通りである。
【0063】
(1)有水銀タイプの放電ランプと同等の発光強度及び発光分光特性を確保し、且つ、発光物質の封入量の総量を低減するには、放電容器の内径Dを従来の放電容器の内径D=9.0mmより小さくすればよく、より詳細には、5.0〜7.0mmとするとよい。
【0064】
(2)更に、放電容器の封入ガスの圧力を2.0〜9.0torrとする。
【0065】
(3)発光物質として亜鉛(Zn)、及び、ヨウ化コバルト(CoI2)を用いる。更に、コバルト単体(Co)を付加してもよい。
【0066】
(4)目標とする発光強度及び発光分光特性を実現するために、亜鉛単体の封入密度は3.0〜4.0μmol/ccとし、ヨウ化コバルト(CoI2)の封入密度は4.0〜10.0μmol/ccとする。
【0067】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の範囲はこれらの実施の形態によって制限されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者であれば容易に理解されよう。
【0068】
本発明は、マイクロ波無電極ランプを搭載した光照射装置は、例えば、インク、塗装等が塗布された面の表面硬化処理などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
2…光出射口、3…マイクロ波発振器、4…筐体、5…マイクロ波空洞、6…冷却用送風ダクト、8…アンテナ、10…光照射装置、12…無電極ランプ、12A…放電容器、12B…突起部、12a、12b…高温領域(ホットゾーン)、12c、12d、12e…低温領域(コールドゾーン)、13…プラズマ領域、14…反射鏡、14A…孔、16…導電性メッシュ、17…冷却用空気、18…照射光、121…円筒部、123…端部、131…腹、132…節、201…コンベヤ、202…紫外線測定装置
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B