特許第6379963号(P6379963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379963
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】非吸着性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20180820BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20180820BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 133/20 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20180820BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B32B27/36
   B32B27/30 A
   C09D175/06
   C09D167/00
   C09D133/20
   C09D7/65
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-207807(P2014-207807)
(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公開番号】特開2016-74860(P2016-74860A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】泉 理恵子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 野枝
(72)【発明者】
【氏名】石田 悟
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−007988(JP,A)
【文献】 特開2006−182967(JP,A)
【文献】 特開2012−184357(JP,A)
【文献】 特開2014−172966(JP,A)
【文献】 特開平08−143452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材上に、下記非吸着性コーティング剤を塗工して形成した非吸着層を設けたことを特徴とする、薬剤または食品包装用の非吸着性積層体。
非吸着性コーティング剤:少なくとも主剤と硬化剤と分散媒とブロッキング防止剤とを含み、 前記ブロッキング防止剤は少なくともポリアクリロニトリル粒子を含有し、該ポリアクリロニトリル粒子の平均粒径が0.05μm以上60μm以下であり、前記主剤と前記硬化剤と前記分散媒と前記ブロッキング防止剤の合計質量に対する該ポリアクリロニトリル粒子の割合が30質量%以下である。
【請求項2】
前記主剤がポリエステルポリオールからなり、かつ前記硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤であることを特徴とする請求項1に記載の非吸着性積層体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた非吸着性を有するコーティング剤に関する。また、基材上に該コーティング剤を塗工して形成した、非吸着性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容物の有効成分に対する非吸着性に優れた包装材料として、金属箔を含む積層体や金属の蒸着層を形成したプラスチックフィルムを含む積層体が広く使用されており、袋状の容器に成形(製袋)されて使用されている。そして上記金属としてはアルミニウム箔が性能、コスト、加工性の点から一般的に使用されている。
【0003】
包装袋に透明性を付与したい場合には、ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、アクリロニトリル共重合体等を成形したフィルム、ポリエステルやポリプロピレンに酸化アルミニウムや酸化ケイ素を蒸着したフィルムなどが用いられている。
【0004】
特にアクリロニトリル共重合体は熱接着性を有し、非吸着性に優れることから、非吸着性包装材料の最内層に使用されている。また、アクリロニトリル共重合体は香気成分を透過させない保香性材料としても知られている。
【0005】
このアクリロニトリル共重合体は、例えば厚さ20〜30μmのフィルムとして提供されており、通常、接着剤を用いたドライラミネート、あるいは溶融した接着性樹脂の層を介するサンドラミネートにより、他のフィルム(例えば基材フィルム)と積層される(特許文献1)。
【0006】
基材フィルム上にセルロース系コーティング剤を単独、またはポリビニルアルコールなどの水溶性高分子と混合して塗布、乾燥して、非吸着性を有する層を溶液コーティング法で形成する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、長尺状の基材に塗工して塗工物を巻き取ったり、枚葉状の基材に塗工して塗工物を重ねたりする場合、基材の表面状態や保管条件によっては、塗工物が互いに貼りつく現象であるブロッキングが発生することがある。ブロッキングを抑制するためには、ブロッキング防止剤を添加することが一般的である。しかし、この方法では、ブロッキング防止剤が内容物の有効成分を吸着するため、非吸着性コーティング剤の非吸着性能が劣化することを本発明者らは確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−143452号公報
【特許文献2】特開2014−77084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は基材に塗工後巻き取ったり、重ねたりしても、ブロッキングが起きない優れた非吸着性能を有する非吸着性コーティング剤および非吸着性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の通りである。
1.少なくとも主剤と硬化剤と分散媒とブロッキング防止剤とを含む非吸着性コーティング剤であって、
前記ブロッキング防止剤は少なくともポリアクリロニトリル粒子を含有し、該ポリアクリロニトリル粒子の平均粒径が0.05μm以上60μm以下であり、前記主剤と前記硬化剤と前記分散媒と前記ブロッキング防止剤の合計質量に対する該ポリアクリロニトリル粒子の割合が30質量%以下であることを特徴とする非吸着性コーティング剤。
2.前記主剤がポリエステルポリオールからなり、かつ前記硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤であることを特徴とする前記1に記載の非吸着性コーティング剤。
3.基材上に、前記1または2に記載の非吸着性コーティング剤を塗工して形成した非吸着層を設けたことを特徴とする非吸着性積層体。
【発明の効果】
【0010】
非吸着性コーティング剤のブロッキング防止剤として、ポリアクリロニトリル粒子を用いることで、ブロッキング防止剤自体が優れた非吸着性を持つことから、ブロッキングを防止し、且つ非吸着性能を維持した非吸着性コーティング剤および非吸着性積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<非吸着性コーティング剤>
本発明の非吸着性コーティング剤(以下、「コーティング剤」と略す。)は、基材に塗工されて基材に非吸着性を付与するためのものである。コーティング剤は、少なくとも主剤と硬化剤と分散媒とブロッキング防止剤とを含む。下記で説明するように、ブロッキング防止剤は、ポリアクリロニトリル粒子を用いることが好ましい。
このコーティング剤を、基材に塗布、乾燥させることで、主剤と硬化剤が架橋構造を形成する。例えば、主剤にポリエステルポリオールを、硬化剤にポリイソシアネート系硬化剤を用いた場合、ポリエステルポリオールとイソシアネートがウレタン結合を密に形成し、食品、医薬品、化粧品などに含まれる有効成分を吸着しづらい性質(非吸着性とする)を有する。また、ブロッキング防止剤としてポリアクリロニトリル粒子を含有することで、非吸着性能を維持しつつ、ブロッキングを防ぐことができる。
吸着の抑制が要求される有効成分としては、例えば、揮発性成分ではオレンジジュースなどに含まれるリモネン、医薬品に含まれるサリチル酸メチル、l−メントール、dl−カンファーなどが挙げられる。吸着の抑制が要求される有効成分として、不揮発性成分では消炎鎮痛剤などに用いられる各種薬剤、例えばケトプロフェン、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物などが挙げられる。
【0012】
(主剤)
主剤は、ポリエステルポリオールからなることが好ましい。ポリエステルポリオールとしては、例えば、少なくとも1種の多塩基酸と、少なくとも1種のジオールを反応させて得られるものを用いることが可能である。多塩基酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸などの脂肪族系二塩基酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族系二塩基酸等の二塩基酸などが挙げられる。
ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなど脂肪族系ジオール、シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式系ジオール、キシリレングリコールなどの芳香族系ジオール等が挙げられる。
【0013】
(硬化剤)
硬化剤は、ポリイソシアネート系硬化剤であることが好ましい。ポリイソシアネート系硬化剤としては、例えば、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−もしくは2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネートなどから選ばれるイソシアネート化合物の単体、あるいは上記イソシアネート化合物から選択される少なくとも一種のイソシアネート化合物からなるアダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体が挙げられる。
【0014】
主剤と硬化剤の比率は、主剤中の官能基(A)と硬化剤中の反応性官能基(B)のモル比、(B)/(A)が0.5以上5.0以下であることが好ましく、0.8以上3.5以下であることがより好ましい。(B)/(A)が前記下限値以上であれば十分に主剤を硬化させることができ、前記上限値以下であれば膜が硬くなりすぎてコーティング膜が脆くなることを防ぐことができる。
【0015】
(分散媒)
分散媒は、主剤及び硬化剤を溶解または分散させる液体であり、溶解および希釈可能であれば特に限定されるものではない。分散媒としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、炭化水素系溶剤を使用することができる。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
グリコール系溶剤としては、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独又はまたはそれらの2種以上を含んだ混合物を使用することができる。溶解時の安定性や塗工後の乾燥性の点で、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。
【0016】
(ブロッキング防止剤)
ブロッキング防止剤には、ポリアクリロニトリル粒子を用いる。ポリアクリロニトリル粒子は、アクリロニトリルの単独重合体、またはその共重合体であり、アクリロニトリル単量体を50質量%以上含有し、好ましくは75質量%である。共重合成分としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類、酢酸ビニル等のビニルエステル類等であり、これらが単独もしくは2種類以上含有していてもかまわない。
【0017】
ポリアクリロニトリル粒子の平均粒径の下限は0.05μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。ポリアクリロニトリル粒子の平均粒径が前記下限値以上であれば、安定した品質のポリアクリロニトリル粒子が調整され、且つコーティング層が十分なブロッキング防止性能を持つことができる。また、ポリアクリロニトリル粒子の平均粒径の上限は60μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。前記上限値以下であれば、機械での安定したコーティングが可能であり、また良好な外観を得られる。
ここで本発明でいう平均粒径とは、マイクロトラック式粒度分布測定法により測定された粒径において、小径側から累積50%の粒径を指すものとする。
【0018】
前記主剤と前記硬化剤と前記分散媒と前記ブロッキング防止剤の合計質量に対するポリアクリロニトリル粒子の割合の下限は、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上である。また、ポリアクリロニトリル粒子の割合の上限は、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がとくに好ましい。ポリアクリロニトリル粒子の濃度は前記下限値以上であれば、コーティング層が十分なブロッキング防止性能を持ち、前記上限値以下であれば、機械での安定したコーティングが可能であり、また低コストである。
【0019】
必要に応じて、ポリアクリロニトリル粒子以外の他のブロッキング防止剤を加えてもかまわない。例えば、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナなどの無機粒子、他に有機粒子、オイル類、ワックス類などを用いることができる。
【0020】
また本コーティング剤の固形分濃度は3〜60質量%にされていることが好ましく、4〜45質量%にされていることがより好ましく、5〜35質量%にされていることがさらに好ましい。コーティング剤の固形分濃度が前記下限値以上であれば、1回の塗工でも十分な厚さの非吸着層を容易に形成でき、前記上限値以下であれば、粘度が適度に低くなり、塗工性が向上する。固形分濃度とは、コーティング剤100質量%中の主剤を構成する重合体(正味量)と、硬化剤(正味量)とポリアクリロニトリル粒子(正味量)の合計質量割合である。
【0021】
(その他の成分)
本発明のコーティング剤には、主剤、硬化剤、分散媒及びブロッキング防止剤以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、消泡剤、レベリング剤等を、非吸着性およびブロッキング防止効果を失わない範囲で加えても構わない。
【0022】
(作用効果)
本発明者らが調べたところ、前記主剤と硬化剤と分散媒とブロッキング防止剤を含有するコーティング剤の塗工によって形成された非吸着層は、非吸着性に優れていた。また、コーティング剤の塗工による非吸着層の形成では、非吸着層を容易に薄くできるため、コーティング剤の使用量を少なくできる。したがって、前記コーティング剤の塗工によれば、非吸着性に優れた非吸着層を低コストで形成できる。
また、本コーティング剤は、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱接着性樹脂からなる樹脂フィルムに塗工できる。これらの熱接着性樹脂フィルムにパターン塗工することにより、非吸着性と共に熱接着性を発揮できる。
【0023】
<非吸着性積層体>
本発明の非吸着性積層体は、基材上に、前記非吸着性コーティング剤を塗工して形成した非吸着層を設けたものである。非吸着層は、非吸着性積層体を包装材料に用いた際に、食品、医薬品、化粧品などの内容物と接する最内層に設けられるものである。
【0024】
(基材)
基材としては、プラスチックフィルム、紙、不織布、金属箔等を用いることができるが、非吸着性コーティング剤の塗工量が少量でも非吸着層を形成でき、また、透明性を確保しやすいことから、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられ、ポリアミドとしては、6−ナイロン、6,6−ナイロン等が挙げられ、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。
また、プラスチックフィルムは1軸延伸フィルムであっても、2軸延伸フィルムであっても、無延伸フィルムであってもよいが、機械的強度に優れることから、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムが好ましい。
【0025】
基材には、必要に応じて、例えば、静電防止剤、スリップ剤、防曇剤、紫外線吸収剤等の添加剤が含まれてもよい。
基材には、必要に応じて、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、フレーム処理等の表面処理が施されてもよい。
基材には、必要に応じて、イソシアネート系化合物、ポリエチレンイミン、変性ポリブタジエン等のアンカーコート剤があらかじめ塗工されていてもよい。
基材の厚さは特に制限されないが、経済性と使用しやすさとを両立できる点では、12〜40μmであることが好ましい。
基材は、単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0026】
非吸着性積層体には、通常、印刷層が形成されるが、印刷層の配置は特に限定されない。例えば、基材の、非吸着層とは反対面に印刷層を積層してもよいし、基材上に印刷層を形成し、その上に非吸着層を設けてもよい。また、ポリエステルや延伸ポリプロピレンフィルムなどの汎用的に用いられる印刷用基材にあらかじめ絵柄を印刷したものと、非吸着性積層体とを、接着剤を用いてラミネートすることもできる。さらに、印刷層が形成された基材の例えば印刷層形成面に、ポリオレフィン等のシーラントフィルムを、接着剤を介してラミネートした後に、当該シーラントフィルム上に非吸着層を設けてもよい。
また、非吸着性積層体に風合や剛性を付与するために、外側に紙や不織布(坪量15〜90g/m)を積層することも可能である。
酸素バリア性あるいは遮光性を必要とする内容物では、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着フィルムを積層できる。ただし、本発明の非吸着性積層体においては、透明性、環境配慮の観点から、構成中にアルミニウム層を含まないことが好ましい。アルミニウム層の代わりに、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデンなどのガス/水蒸気バリア性を有する樹脂フィルムや、酸化アルミニウムや酸化ケイ素などを蒸着した樹脂フィルム、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸を塗工した樹脂フィルムを積層することが好ましい。
【0027】
(非吸着性積層体の製造方法)
非吸着性積層体を製造する方法としては、基材の少なくとも一方の面に、上記コーティング剤を塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。
コーティング剤の塗工方法としては特に制限はなく、例えば、ワイヤーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、カーテンコート法等を適用できる。
コーティング剤の塗工厚さは、乾燥後の非吸着層の厚さで0.05〜10μmにすることが好ましく、0.1〜5μmにすることがより好ましい。塗工厚さが前記下限値以上であれば、汎用的な塗工装置によって容易に塗工でき、前記上限値以下であれば、塗工量が少なくなるため、充分に低コスト化できる。
塗工後の乾燥方法としては、熱風乾燥法、赤外線照射乾燥法等を適用できる。乾燥温度は、40〜120℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。乾燥温度が前記下限値以上であれば、乾燥速度を速くでき、前記上限値以下であれば、経済的である。
乾燥後には、主剤と硬化剤とを充分に反応させるための加熱処理が施されてもよい。加熱処理の温度は30〜100℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。
【0028】
(作用効果及び用途)
本発明の非吸着性積層体は、前記コーティング剤を基材に塗工することによって得られたものであるため、非吸着性に優れ、しかも低コストである。また、本発明者らが調べたところ、前記コーティング剤の塗工によって形成された非吸着層は、メントールなどの香り成分の透過を防ぐ保香性にも優れていることが分かった。
このような非吸着性積層体は、薬剤や食品を包装するための包装材料として好適に使用できる。
【0029】
本発明の非吸着性積層体を包装材料として使用する場合、非吸着性積層体をフィルム状のまま使用してもよいし、非吸着性積層体を成形または加工して袋状にしてもよい。
また、本発明の非吸着性積層体には、熱接着性を付与してもよい。本発明の非吸着性積層体に熱接着性を付与すると、非吸着性と共に熱接着性を発揮するため、包装袋作製用材料として好適である。熱接着性を付与する方法としては、非吸着層にパターンコートにより熱接着性を有する層を積層する方法、熱接着性を有する層を先に形成した後に、熱接着性を有する層に非吸着層をパターンコートにより形成する方法が挙げられる。熱接着性を有する樹脂としては、酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂などを利用できる。
【0030】
非吸着性積層体によって包装される内容物としては、香辛料、調味料、水産加工品、菓子類などの食品、経口薬品、経皮薬品、貼付剤などの医薬品、その他化粧品、農薬などが挙げられる。
特に、非吸着性積層体によって包装される薬剤としては、サリチル酸メチルやリモネン、シトラール、l−メントール、dl−カンファーなどのテルペン類、サリチル酸、ナフタレンなどの芳香族化合物、その他ビタミン類などが挙げられる。また、鎮痛消炎剤などとして用いられるケトプロフェンやフルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物なども挙げられる。一般的には、分子量が低いほど揮発しやすく、吸着しやすいと言われており、低分子量の薬剤、また比較的高分子量であっても高価な薬剤などの包装に対しては、本発明の非吸着性積層体は、より有用である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について具体的な例を挙げて記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<非吸着性コーティング剤の調整>
《実施例1》
下記組成の混合物を均一になるように攪拌混合し、非吸着性コーティング剤を調製した。
ポリエステルポリオール 7.3質量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン131」)
ポリイソシアネート系硬化剤 12.7質量部
(三井化学株式会社製「タケネート160N」)
酢酸エチル 79.3質量部
ポリアクリロニトリル(PAN)粒子 0.7質量部
(東洋紡株式会社製「タフチックASF−7」 平均粒径:7μm)
このとき、主剤中の反応性官能基(A)と硬化剤中の反応性官能基(B)のモル比である(B)/(A)=2.0、固形分濃度は17.5%であった。
【0033】
《実施例2》
ポリアクリロニトリル粒子の粒径を0.05μmにした以外は実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0034】
《比較例1》
ポリアクリロニトリル粒子の粒径を80μmにした以外は実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0035】
《実施例3》
ポリアクリロニトリル粒子を0.003質量部に、酢酸エチルを79.997質量部にした以外は実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0036】
《比較例2》
ポリアクリロニトリル粒子を45質量部に、酢酸エチルを35質量部にした以外は実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0037】
《比較例3》
ポリアクリロニトリル粒子を用いずシリコーン粒子(日興リカ製「MSP−3000」 平均粒径 6μm)を添加した以外は実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0038】
《比較例4》
ポリアクリロニトリル粒子を加えず、実施例1と同様に非吸着性コーティング剤を得た。
【0039】
<非吸着性積層体>
コロナ処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製E5100、厚さ12μm)を用意し、ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に実施例1及び比較例1〜4のそれぞれの非吸着性コーティング剤を、#6のワイヤーバーを用いて1回塗工した。次いで、80℃で1分間乾燥させ、50℃で5日間加熱処理して、厚さ1.0μmの非吸着層を形成した。これにより、非吸着性積層体を得た。
【0040】
<評価1>
実施例1〜3及び比較例1〜4のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体の非吸着層上に、熱接着性を有する樹脂層を形成した。具体的には、非吸着層の上に、熱圧着型接着剤(大日精化工業(株)“セイカダイン1900W”)をグラビアコート法によりパターン状に塗工して、熱接着層を有する非吸着性積層体を得た。熱接着層の塗布量は乾燥時で5g/mであった。
次に、インパルスシーラーを用いて非吸着層が内面に配置されるようにパウチ状に製袋し、約0.1gのl−メントールを封入した後、完全に密封した。温度40℃、相対湿度75%の環境下に7日間放置した後、l−メントールを取り除き、パウチを開き、5分間空気にさらし、その後メントールの残香について官能評価を行った。メントールの残香の具合に応じて、パウチのメントールの非吸着性を○、△、×とした。
【0041】
<評価2>
実施例1〜3及び比較例1〜4のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は「ポリエチレンテレフタレートフィルム/非吸着層」という層構成をなしている。それぞれについて、100mm×100mmサイズにカットし、「ポリエチレンテレフタレートフィルム/非吸着層」/「ポリエチレンテレフタレートフィルム/非吸着層」/・・・となるように10枚重ね合わせたのち、ブロッキングテスターを用いて、荷重100kg重にて、50℃で5日間保管した。保管後、異なるカットサンプル間のブロッキング状態について、剥離するときに剥離音がするサンプルは×とし、その剥離音や密着状況に応じて△、○、◎とした。また非吸着層が裏移りしていないか目視にて確認した。
【0042】
《結果》
実施例1〜3及び比較例1〜4のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体について、塗工適性および評価1、評価2の結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1から3及び比較例3、4は、問題なく非吸着性コーティング剤を塗工できた。比較例1はワイヤーバーに一部の大粒径のポリアクリロニトリル粒子が目詰まりを起こしたため、非吸着性コーティング剤の塗工適性がないと判断した。また比較例2は、非吸着性コーティング剤の粘度が高く、均一に成膜できなかったため、塗工適性がないと判断した。
【0045】
<評価1>
実施例1〜3及び比較例4のコーティング剤を用いて得られたパウチは、いずれもメントールの残香はほとんどなかった。比較例3のコーティング剤を用いて得られたパウチは強いメントール臭が残っていた。
【0046】
<評価2>
実施例1及び比較例3のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は、サンプル間は全くくっついておらず、何の抵抗もなく10枚がバラバラになるようであった。実施例2のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は、品質は問題がないが、わずかにサンプル間がくっついており、10枚をばらばらにするには1枚ずつ剥がす必要があった。実施例3のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は、わずかに剥離音を発生し、また剥離時抵抗があった。比較例4のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は、大きな剥離音を発生し、剥離時大きな抵抗があった。
また、実施例1〜3及び比較例3、4のコーティング剤を用いて形成された非吸着性積層体は、いずれも非吸着層がポリエチレンテレフタレートフィルムに裏移りしていないことを目視にて確認した。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、優れた非吸着性コーティング剤及び非吸着性積層体が得られる。さらなる利益および変形は、当業者には容易である。それゆえ、本発明は、そのより広い側面において、ここに記載された特定の記載や代表的な態様に限定されるべきではない。したがって、添付の請求の範囲およびその等価物によって規定される本発明の包括的概念の真意または範囲から逸脱しない範囲内で、様々な変形が可能である。