特許第6380010号(P6380010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6380010-駆動力配分装置 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6380010
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】駆動力配分装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/34 20120101AFI20180820BHJP
   B60K 17/16 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   F16H48/34
   B60K17/16 E
   B60K17/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-223367(P2014-223367)
(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公開番号】特開2016-89911(P2016-89911A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆男
【審査官】 岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−009710(JP,A)
【文献】 特開2010−210054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/34
B60K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動軸と第2駆動軸の回転差を許容する差動装置と、
第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整するトルク配分調整装置と、
を備え、
差動装置は、
第1駆動軸とともに回転する第1差動回転要素と、
第2駆動軸とともに回転する第2差動回転要素と、
第1及び第2差動回転要素間で回転を伝達する第3差動回転要素と、
第3差動回転要素を回転自在に支持する第4差動回転要素であって、その回転により第3差動回転要素を第1差動回転要素の回転軸まわりに周回させる第4差動回転要素と、
を有し、第3差動回転要素の回転により第1駆動軸と第2駆動軸の回転差を許容し、
トルク配分調整装置は、
互いに相対回転可能な第1回転子と第2回転子の間に生じる電磁気相互作用によって、第1回転子と第2回転子間にトルクを発生可能な回転電機と、
第1回転子と第2回転子の回転差に応じた回転を第4差動回転要素と第1駆動軸または第2駆動軸とに回転差を発生させるよう伝達する回転伝達装置と、
を含み、
第1駆動軸と第2駆動軸が等しい回転速度で回転している場合は、第1回転子と第2回転子が等しい回転速度で回転し、
第1回転子と第2回転子間にトルクを発生させて第1回転子と第2回転子に回転差を発生させることで、第1駆動軸と第2駆動軸に回転差を発生させ、
第1回転子と第2回転子間に発生させるトルクに応じて第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整する、駆動力配分装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力配分装置であって、
回転伝達装置は、第1回転子と第2回転子間に発生するトルクを増幅して出力する、駆動力配分装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動力配分装置であって、
回転伝達装置が複数段直列接続されている、駆動力配分装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の駆動力配分装置であって、
回転伝達装置は、
第1回転子とともに回転する第1伝達回転要素と、
第2回転子とともに回転する第2伝達回転要素と、
第1伝達回転要素と第2伝達回転要素の回転差の発生に応じて回転する第3伝達回転要素と、
第3伝達回転要素の回転に応じて回転差が発生する第4及び第5伝達回転要素と、
を有し、
第4及び第5伝達回転要素の回転を第4差動回転要素と第1駆動軸または第2駆動軸とに伝達する、駆動力配分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動力配分装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による駆動力配分装置は、差動装置と、第1、第2及び第3遊星歯車機構と、モータとを備える。モータは、ステータ及びロータを有し、ロータが第1遊星歯車機構のサンギアに連結されている。第1及び第2遊星歯車機構のキャリア同士が連結され、第2遊星歯車機構のサンギアの回転は固定されている。第1遊星歯車機構のリングギアは第3遊星歯車機構のリングギアに連結され、第2遊星歯車機構のリングギアは第3遊星歯車機構のサンギアに連結され、第3遊星歯車機構のピニオンギア(遊星ギア)は差動装置のピニオンギアに連結されている。
【0003】
特許文献1において、差動装置の右サイドギアと左サイドギア(右ドライブシャフトと左ドライブシャフト)が等しい回転速度で同方向に回転している場合は、第1遊星歯車機構のリングギアの回転速度と第2遊星歯車機構のリングギアの回転速度が等しく、ロータの回転は停止している。一方、ステータからロータにトルクを作用させてロータを回転駆動すると、第3遊星歯車機構のリングギアとサンギア(第1遊星歯車機構のリングギアと第2遊星歯車機構のリングギア)に回転差が発生し、第3遊星歯車機構のピニオンギアが差動装置のピニオンギアとともに一体で回転(自転)する。差動装置のピニオンギアの自転によって、右サイドギアと左サイドギア(右ドライブシャフトと左ドライブシャフト)に回転差が発生し、ステータからロータに作用させるトルクに応じて、右ドライブシャフトと左ドライブシャフトのトルク配分が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/76542号
【特許文献2】国際公開第2012/28372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、ステータからロータにトルクを作用させてロータを回転駆動することで、差動装置のピニオンギアを回転(自転)させて右ドライブシャフトと左ドライブシャフトのトルク配分を変化させている。ただし、差動装置の右サイドギアと左サイドギア(右ドライブシャフトと左ドライブシャフト)が等しい回転速度で同方向に回転している場合は、ロータの回転は停止するが、その際には、第1及び第2遊星歯車機構のサンギアとピニオンギアとリングギアは一体で回転せず、ピニオンギアが自転してサンギアとリングギアに回転差が発生する(差動する)ことによる損失が発生する。
【0006】
本発明は、第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整する駆動力配分装置において、第1駆動軸と第2駆動軸が等しい回転速度で回転している場合の損失を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る駆動力配分装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る駆動力配分装置は、第1駆動軸と第2駆動軸の回転差を許容する差動装置と、第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整するトルク配分調整装置と、を備え、差動装置は、第1駆動軸とともに回転する第1差動回転要素と、第2駆動軸とともに回転する第2差動回転要素と、第1及び第2差動回転要素間で回転を伝達する第3差動回転要素と、第3差動回転要素を回転自在に支持する第4差動回転要素であって、その回転により第3差動回転要素を第1差動回転要素の回転軸まわりに周回させる第4差動回転要素と、を有し、第3差動回転要素の回転により第1駆動軸と第2駆動軸の回転差を許容し、トルク配分調整装置は、互いに相対回転可能な第1回転子と第2回転子の間に生じる電磁気相互作用によって、第1回転子と第2回転子間にトルクを発生可能な回転電機と、第1回転子と第2回転子の回転差に応じた回転を第4差動回転要素と第1駆動軸または第2駆動軸とに回転差を発生させるよう伝達する回転伝達装置と、を含み、第1駆動軸と第2駆動軸が等しい回転速度で回転している場合は、第1回転子と第2回転子が等しい回転速度で回転し、第1回転子と第2回転子間にトルクを発生させて第1回転子と第2回転子に回転差を発生させることで、第1駆動軸と第2駆動軸に回転差を発生させ、第1回転子と第2回転子間に発生させるトルクに応じて第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整することを要旨とする。
【0009】
本発明の一態様では、回転伝達装置は、第1回転子と第2回転子間に発生するトルクを増幅して出力することが好適である。
【0010】
本発明の一態様では、回転伝達装置が複数段直列接続されていることが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、回転伝達装置は、第1回転子とともに回転する第1伝達回転要素と、第2回転子とともに回転する第2伝達回転要素と、第1伝達回転要素と第2伝達回転要素の回転差の発生に応じて回転する第3伝達回転要素と、第3伝達回転要素の回転に応じて回転差が発生する第4及び第5伝達回転要素と、を有し、第4及び第5伝達回転要素の回転を第4差動回転要素と第1駆動軸または第2駆動軸とに伝達することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1回転子と第2回転子間に発生させるトルクに応じて第1駆動軸と第2駆動軸のトルク配分を調整することができるとともに、第1駆動軸と第2駆動軸が等しい回転速度で回転している場合の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る駆動力配分装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る駆動力配分装置の他の概略構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る駆動力配分装置の他の概略構成を示す図である。
図4】回転電機30の第1ロータ31と第2ロータ32とステータ33に作用するトルクを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る駆動力配分装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る駆動力配分装置は、以下に説明する差動装置10と回転電機30と回転伝達装置50とを備える。
【0016】
差動装置10は、第1及び第2差動回転要素としての一対のサイドギア11,12と、第3差動回転要素としての複数のピニオンギア13と、第4差動回転要素としての回転ケース(ディファレンシャルケース)14とを含む差動歯車装置(ディファレンシャルギア装置)により構成される。各ピニオンギア13は、ベベルギア(かさ歯車)により構成され、回転ケース14に設けられたピニオンシャフト15に回転自在に支持されている。サイドギア11,12もベベルギア(かさ歯車)により構成され、各ピニオンギア13がサイドギア11,12と噛み合っている。サイドギア12の回転中心軸はサイドギア11の回転中心軸と一致しており、回転ケース14の回転中心軸はサイドギア11,12の回転中心軸と一致しており、各ピニオンギア13の回転中心軸(ピニオンシャフト15の中心軸)はサイドギア11,12及び回転ケース14の回転中心軸に対して垂直である。各ピニオンギア13がピニオンシャフト15まわりに回転(自転)することで、各ピニオンギア13を介してサイドギア11,12間で回転が伝達される。その際には、サイドギア11,12同士でトルクの方向が互いに逆方向になるように、各ピニオンギア13でトルクの方向が反転してからサイドギア11,12間でトルクが伝達される。また、各ピニオンギア13は、回転ケース14の回転により、サイドギア11,12の回転中心軸(回転ケース14の回転中心軸と一致する)まわりに周回(公転)する。各ピニオンギア13の周回(公転)により、サイドギア11,12と回転ケース14との間で回転が伝達される。その際には、サイドギア11とサイドギア12と回転ケース14とでトルクの方向が互いに同方向になるように、サイドギア11,12と回転ケース14との間でトルクが伝達される。
【0017】
サイドギア11はドライブシャフト(第1駆動軸)26と機械的に係合し、ドライブシャフト26は車両の駆動輪28と機械的に連結されており、サイドギア11がドライブシャフト26及び駆動輪28とともに同じ回転速度で一体で回転する。サイドギア12はドライブシャフト(第2駆動軸)27と機械的に係合し、ドライブシャフト27は車両の駆動輪29と機械的に連結されており、サイドギア12がドライブシャフト27及び駆動輪29とともに同じ回転速度で一体で回転する。なお、以下の説明では、サイドギア11、ドライブシャフト26、及び駆動輪28を右サイドギア、右ドライブシャフト、及び右駆動輪とし、サイドギア12、ドライブシャフト27、及び駆動輪29を左サイドギア、左ドライブシャフト、及び左駆動輪とする。
【0018】
回転ケース14の外周にはドリブンギア21が固定されており、ドリブンギア21はドライブギア22と噛み合っている。ドライブギア22は、プロペラシャフト23と機械的に連結されており、プロペラシャフト23とともに同じ回転速度で一体で回転する。プロペラシャフト23は、例えばエンジンやモータ等の動力源からの動力が伝達されることで回転駆動する。プロペラシャフト23の回転は、ドライブギア22とドリブンギア21との噛み合いにより回転ケース14に伝達される。
【0019】
回転電機30は、第1ロータ31と、所定の空隙を空けて第1ロータ31と対向し第1ロータ31に対し相対回転可能な第2ロータ32とを備える。第1ロータ31は、ロータコア(第1回転子鉄心)41と、ロータコア41にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線40とを含む。複数相のロータ巻線40に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線40は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。第2ロータ32は、ロータコア(第2回転子鉄心)42と、ロータコア42にその周方向に沿って第1ロータ31と対向して配設され界磁束を発生する永久磁石43とを含む。スリップリング45は、第1ロータ31と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線40の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ46は、スリップリング45に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング45は、ブラシ46に対し摺動しながら(ブラシ46との電気的接触を維持しながら)、第1ロータ31とともに同じ回転速度で回転する。図1に示す例では、第1ロータ31、第2ロータ32、スリップリング45、及びブラシ46が右ドライブシャフト26の外周側に配置されている。そして、第1ロータ31と第2ロータ32がロータ回転軸と直交する径方向に対向し、第2ロータ32が第1ロータ31の外周側に同心円状に配置され、第1ロータ31の回転中心軸及び第2ロータ32の回転中心軸が右ドライブシャフト26の回転中心軸(右サイドギア11の回転中心軸)と一致する。
【0020】
回転伝達装置50は、第1伝達回転要素としてのサンギア51と、第2伝達回転要素としてのリングギア52と、第3伝達回転要素としての複数のピニオンギア(遊星ギア)53a,53bと、第4伝達回転要素としてのリングギア54と、第5伝達回転要素としてのサンギア55と、第6伝達回転要素としてのキャリア56とを含む遊星歯車機構により構成される。サンギア51,55及びピニオンギア53a,53bは外歯車により構成され、リングギア52,54は内歯車により構成される。各ピニオンギア53aはサンギア51及びリングギア52と噛み合っており、各ピニオンギア53bはサンギア55及びリングギア54と噛み合っている。各ピニオンギア53a,53bは、キャリア56に回転自在に支持されている。サンギア51の回転中心軸、リングギア52の回転中心軸、サンギア55の回転中心軸、リングギア54の回転中心軸、及びキャリア56の回転中心軸は互いに一致しており、ピニオンギア53a,53bの回転中心軸はこれらの回転中心軸と平行である。ピニオンギア53a,53b同士は、互いに結合されており、同じ回転速度で一体で回転(自転)する。さらに、各ピニオンギア53a,53bは、キャリア56の回転に応じて、サンギア51,55の回転中心軸まわりに周回(公転)する。
【0021】
サンギア51は、第1ロータ31と機械的に連結されており、第1ロータ31とともに同じ回転速度で一体で回転する。リングギア52は、第2ロータ32と機械的に連結されており、第2ロータ32とともに同じ回転速度で一体で回転する。サンギア55は、右ドライブシャフト26と機械的に係合し、右サイドギア11及び右ドライブシャフト26とともに同じ回転速度で一体で回転する。リングギア54は、回転ケース14と機械的に連結されており、回転ケース14とともに同じ回転速度で一体で回転する。図1に示す例では、サンギア55の半径rsun2はサンギア51の半径rsun1よりも大きく、リングギア54の半径rring2はリングギア52の半径rring1よりも小さく、ピニオンギア53bの半径rpini2はピニオンギア53aの半径rpini1よりも小さい。つまり、サンギア55の半径rsun2とリングギア54の半径rring2との比ρ=rsun2/rring2が、サンギア51の半径rsun1とリングギア52の半径rring1との比ρ=rsun1/rring1よりも大きい。また、図1に示す例では、回転伝達装置50は、右ドライブシャフト26の外周側に配置され、右ドライブシャフト26の回転中心軸方向において差動装置10と回転電機30との間の位置に配置されている。そして、サンギア51,55、リングギア52,54、及びキャリア56の回転中心軸が右ドライブシャフト26の回転中心軸(右サイドギア11の回転中心軸)と一致する。
【0022】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置49は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。蓄電装置49とロータ巻線40との間で電力変換を行う電力変換装置として設けられたインバータ47は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置49からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ46及びスリップリング45を介してロータ巻線40の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ47は、ロータ巻線40の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置49に回収する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線40の交流電力がスリップリング45及びブラシ46により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ47で直流に変換される。このように、インバータ47は、蓄電装置49とロータ巻線40との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0023】
インバータ47のスイッチング動作により複数相のロータ巻線40に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線40は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ロータ巻線40で発生した回転磁界と永久磁石43で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。電子制御ユニット(ECU)70は、インバータ47のスイッチング動作を制御してロータ巻線40の各相に流れる交流電流を制御する、例えばロータ巻線40に流れる交流電流の振幅や位相角を制御することで、第1ロータ31と第2ロータ32間に作用するトルクを制御する。
【0024】
次に、本実施形態に係る駆動力配分装置の動作、特に、右ドライブシャフト26及び左ドライブシャフト27を回転駆動する場合の動作について説明する。
【0025】
エンジンやモータ等の動力源からの動力がプロペラシャフト23を介して差動装置10の回転ケース14に伝達されることで回転ケース14が回転駆動し、回転ケース14の回転に応じて各ピニオンギア13がサイドギア11,12の回転中心軸まわりに周回(公転)することで、右ドライブシャフト26及び左ドライブシャフト27が回転駆動する。右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27(右駆動輪28と左駆動輪29)が等しい回転速度で同方向に回転している場合は、各ピニオンギア13はピニオンシャフト15まわりに回転(自転)せず、差動装置10のサイドギア11,12、ピニオンギア13、及び回転ケース14が一体となって回転駆動する。さらに、差動装置10の一体回転に応じて、サンギア55及びリングギア54が右サイドギア11及び回転ケース14とともに等しい回転速度で同方向に回転することで、各ピニオンギア53a,53bがサンギア51,55の回転中心軸まわりに周回(公転)する。したがって、回転伝達装置50のサンギア51,55、リングギア52,54、ピニオンギア53a,53b、及びキャリア56が一体となって回転駆動し、回転電機30の第1ロータ31と第2ロータ32が等しい回転速度で同方向に回転する。右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27に駆動トルクを均等に配分する場合は、インバータ47のスイッチング動作を行わず、ロータ巻線40に交流電流を流さないことで、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupを発生させない。
【0026】
一方、インバータ47のスイッチング動作によりロータ巻線40に交流電流を流すことで、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupを発生させると、第1ロータ31と第2ロータ32が互いに相対回転して回転差が発生し、回転伝達装置50のサンギア51とリングギア52に回転差が発生する。第1ロータ31からサンギア51を介してピニオンギア53a,53bに作用するトルクと、第2ロータ32からリングギア52を介してピニオンギア53a,53bに作用するトルクは、互いに同方向であり、サンギア51とリングギア52の回転速度差(第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差)に応じた回転速度で各ピニオンギア53a,53bが回転(自転)する。そして、各ピニオンギア53a,53bの回転がサンギア55及びリングギア54に伝達され、サンギア55の回転が右ドライブシャフト26に伝達され、リングギア54の回転が回転ケース14に伝達される。ピニオンギア53a,53bからサンギア55に作用するトルクと、ピニオンギア53a,53bからリングギア54に作用するトルクは、互いに逆方向であり、ピニオンギア53a,53bの自転速度に応じた回転差がサンギア55とリングギア54に発生する。つまり、第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差に応じた回転差が右ドライブシャフト26と回転ケース14に発生する。これによって、各ピニオンギア13がピニオンシャフト15まわりに回転(自転)することで、左サイドギア12が回転駆動される。右ドライブシャフト26に作用するトルクと、左ドライブシャフト27に作用するトルクは、互いに逆方向であり、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が変化して、第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差に応じた回転差が右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27に発生する。その際には、回転伝達装置50が第1ロータ31と第2ロータ32の回転差に応じた回転を右ドライブシャフト26と回転ケース14に回転差を発生させるよう伝達することで、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の回転差が許容される。
【0027】
例えば、第1ロータ31及び第2ロータ32の回転方向と同方向のトルクτcoup(τcoupについてはドライブシャフト26,27が等しい回転速度で同方向に回転している場合の第1及び第2ロータ31,32の回転方向を正とする)が第2ロータ32から第1ロータ31に作用するとともに、その反作用として、第1ロータ31及び第2ロータ32の回転方向と逆方向のトルク−τcoupが第1ロータ31から第2ロータ32に作用する場合は、右ドライブシャフト26の駆動トルク配分が増加するとともに、左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が減少する。第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも高くなると、右ドライブシャフト26の回転速度は左ドライブシャフト27の回転速度よりも高くなる。
【0028】
一方、第1ロータ31及び第2ロータ32の回転方向と逆方向のトルク−τcoupが第2ロータ32から第1ロータ31に作用するとともに、その反作用として、第1ロータ31及び第2ロータ32の回転方向と同方向のトルクτcoupが第1ロータ31から第2ロータ32に作用する場合は、右ドライブシャフト26の駆動トルク配分が減少するとともに、左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が増加する。第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも低くなると、右ドライブシャフト26の回転速度は左ドライブシャフト27の回転速度よりも低くなる。
【0029】
ここで、サンギア51(第1ロータ31)の回転速度をωsun1、リングギア52(第2ロータ32)の回転速度をωring1、サンギア55(右ドライブシャフト26)の回転速度をωsun2、リングギア54(回転ケース14)の回転速度をωring2、ピニオンギア53a,53bの回転速度をωpini、キャリア56の回転速度をωcarriとすると、以下の(1)〜(4)式が成立する。(1)〜(4)式から、第2ロータ32と第1ロータ31の差動回転速度ΔωCM(=ωring1−ωsun1)と、回転ケース14と右ドライブシャフト26の差動回転速度Δωdef(=ωring2−ωsun2)との関係は、以下の(5)式で表される。そして、第2ロータ32と第1ロータ31間の差動トルクτcoupと、回転ケース14と右ドライブシャフト26の差動トルクτdefとの関係は、以下の(6)式で表される。(5)、(6)式において、Γ,Γは、以下の(7)式で表される。
【0030】
【数1】
【0031】
差動トルクτcoupに対し、回転ケース14からドライブシャフト26,27に大きさがτdef/2で互いに逆方向のトルクが作用するため、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク差はτdefで与えられる。(6)式で表されるように、第1ロータ31と第2ロータ32間に作用するトルクτcoupが大きいほど、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク差τdefが大きくなる。したがって、第1ロータ31と第2ロータ32間に発生するトルクτcoupに応じて右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が調整され、回転電機30及び回転伝達装置50が右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27(右駆動輪28と左駆動輪29)の駆動トルク配分を調整するトルク配分調整装置として機能する。電子制御ユニット70は、インバータ47のスイッチング動作によりロータ巻線40の各相に流れる交流電流を制御して第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを制御することで、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク配分を制御することができる。
【0032】
(6)式から、Γ/Γ>1を満たすように回転伝達装置50を設計することで、第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupが増幅されて出力され、回転伝達装置50がトルク増幅機構(減速機構)として機能する。(7)式から、ρ>ρを満たすことで、Γ/Γ>1が成立する。さらに、回転伝達装置50において、(rsun1+rring1)が(rsun2+rring2)に等しいことから、rring2<rring1(rsun2>rsun1)を満たすことで、ρ>ρが成立する。したがって、rring2<rring1を満たすように回転伝達装置50を設計することで、第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを増幅して右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27に駆動トルク差τdefを発生させることができる。
【0033】
また、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27に回転差が発生している場合は、第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差が大きいほど、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の回転速度差が大きくなる。右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の回転速度差(第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差)を増加させる方向に第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを作用させる場合は、蓄電装置49からの直流電力を交流に変換してブラシ46及びスリップリング45を介してロータ巻線40へ供給するようにインバータ47のスイッチング動作を行う。例えば第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも高い状態で第1ロータ31に回転方向と同方向のトルクτcoupを作用させるとともに第2ロータ32に回転方向と逆方向のトルク−τcoupを作用させる場合や、第2ロータ32の回転速度が第1ロータ31の回転速度よりも高い状態で第2ロータ32に回転方向と同方向のトルクτcoupを作用させるとともに第1ロータ31に回転方向と逆方向のトルク−τcoupを作用させる場合は、インバータ47のスイッチング動作により蓄電装置49からロータ巻線40への電力供給を行う。一方、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の回転速度差(第1ロータ31と第2ロータ32の回転速度差)を減少させる方向に第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを作用させる場合は、ロータ巻線40の交流電力を直流に変換して蓄電装置49に回収するようにインバータ47のスイッチング動作を行う。例えば第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも高い状態で第1ロータ31に回転方向と逆方向のトルク−τcoupを作用させるとともに第2ロータ32に回転方向と同方向のトルクτcoupを作用させる場合や、第2ロータ32の回転速度が第1ロータ31の回転速度よりも高い状態で第2ロータ32に回転方向と逆方向のトルク−τcoupを作用させるとともに第1ロータ31に回転方向と同方向のトルクτcoupを作用させる場合は、インバータ47のスイッチング動作によりロータ巻線40から蓄電装置49への電力回収を行う。
【0034】
以上説明した本実施形態では、第1ロータ31と第2ロータ32間に発生させるトルクτcoupに応じて、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク配分を調整することができる。その際には、前述の特許文献1(3つの遊星歯車機構)と比較して、回転伝達装置50の回転要素の数を削減することができ、駆動トルク配分を調整するための構成を簡素化することができる。さらに、rring2<rring1(ρ>ρ)を満たすように回転伝達装置50を設計することで、回転伝達装置50が第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを増幅して差動トルクτdefを発生させるトルク増幅機構(減速機構)として機能するため、所定の差動トルクτdefを発生させるのに必要な差動トルクτcoupを小さくすることができる。その結果、第1ロータ31と第2ロータ32間のトルク容量を小さくすることができ、回転電機30の小型化、低電流容量化、及び低損失化を実現することができる。
【0035】
また、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27が等しい回転速度で同方向に回転している場合は、回転伝達装置50のサンギア51,55、リングギア52,54、ピニオンギア53a,53b、及びキャリア56が一体となって回転する(差動しない)ため、回転伝達装置50での損失を低減することができる。さらに、その場合は、第1ロータ31と第2ロータ32が等しい回転速度で同方向に回転し、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupが発生しないため、回転電機30での損失を低減することができる。したがって、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27が等しい回転速度で同方向に回転している場合の損失を低減することができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、ピニオンギア13の回転中心軸(ピニオンシャフト15の中心軸)がサイドギア11,12及び回転ケース14の回転中心軸に対して垂直である差動装置10の構成であっても、駆動トルク配分を調整するための回転電機30及び回転伝達装置50の配置が容易となる。
【0037】
本実施形態では、回転伝達装置50のサンギア55は、左ドライブシャフト27と機械的に係合し、左サイドギア12及び左ドライブシャフト27とともに同じ回転速度で一体で回転する構成であってもよい。つまり、回転伝達装置50は、サンギア55の回転を左ドライブシャフト27に伝達するとともにリングギア54の回転を回転ケース14に伝達することで、第1ロータ31と第2ロータ32の回転差に応じた回転を左ドライブシャフト27と回転ケース14に回転差を発生させるよう伝達する構成であってもよい。その場合は、第1ロータ31、第2ロータ32、スリップリング45、ブラシ46、及び回転伝達装置50を左ドライブシャフト27の外周側に配置することが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、例えば図2に示すように、回転電機30と差動装置10間に回転伝達装置50を複数段直列接続することも可能である。図2の例では、2段の回転伝達装置50−1,50−2が直列接続されている。回転伝達装置50−1のサンギア51−1は、第1ロータ31と機械的に連結されており、第1ロータ31とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−1のリングギア52−1は、第2ロータ32と機械的に連結されており、第2ロータ32とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−1のサンギア55−1は、回転伝達装置50−2のサンギア51−2と機械的に連結されており、サンギア51−2とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−1のリングギア54−1は、回転伝達装置50−2のリングギア52−2と機械的に連結されており、リングギア52−2とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−2のサンギア55−2は、右ドライブシャフト26と機械的に係合し、右サイドギア11及び右ドライブシャフト26とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−2のリングギア54−2は、回転ケース14と機械的に連結されており、回転ケース14とともに同じ回転速度で一体で回転する。回転伝達装置50−1,50−2におけるサンギア51−1,55−1,51−2,55−2、リングギア52−1,54−1,52−2,54−2、ピニオンギア53−1a,53−1b,53−2a,53−2b、及びキャリア56−1,56−2のその他の構成は、回転伝達装置50におけるサンギア51,55、リングギア52,54、ピニオンギア53a,53b、及びキャリア56の構成と同様である。
【0039】
前述のように、回転伝達装置50−1において、リングギア54−1の半径rring12をリングギア52−1の半径rring11よりも小さく(サンギア55−1の半径rsun12をサンギア51−1の半径rsun11よりも大きく)設計することで、回転伝達装置50−1が第1ロータ31と第2ロータ32間のトルクτcoupを増幅して出力するトルク増幅機構として機能する。同様に、回転伝達装置50−2において、リングギア54−2の半径rring22をリングギア52−2の半径rring21よりも小さく(サンギア55−2の半径rsun22をサンギア51−2の半径rsun21よりも大きく)設計することで、回転伝達装置50−2がサンギア55−1とリングギア54−1間のトルクを増幅して差動トルクτdefを発生させるトルク増幅機構として機能する。したがって、図2の構成例によれば、所定の差動トルクτdefを発生させるのに必要な差動トルクτcoupをさらに小さくすることができ、第1ロータ31と第2ロータ32間のトルク容量をさらに小さくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、例えば図3に示すように、回転電機30は、所定の空隙を空けて第2ロータ32と対向配置されたステータ33をさらに備えていてもよい。ステータ33は、ステータコア(固定子鉄心)34と、ステータコア34にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線35と、を含む。複数相のステータ巻線35に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線35は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。第2ロータ32は、ロータコア42にその周方向に沿ってステータ33と対向して配設され界磁束を発生する永久磁石44をさらに含む。ただし、永久磁石43,44を一体化することも可能である。図3に示す例では、ステータ33と第2ロータ32がロータ回転軸と直交する径方向に対向し、ステータ33が第2ロータ32の外周側に同心円状に配置されている。
【0041】
蓄電装置49とステータ巻線35との間で電力変換を行う電力変換装置として設けられたインバータ48は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置49からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線35の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ48は、ステータ巻線35の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置49に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ48は、蓄電装置49とステータ巻線35との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0042】
インバータ48のスイッチング動作により複数相のステータ巻線35に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線35は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線35で発生した回転磁界と永久磁石44で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、ステータ33と第2ロータ32間にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、第2ロータ32を回転駆動することができる。電子制御ユニット70は、インバータ48のスイッチング動作によりステータ巻線35の各相に流れる交流電流を制御する、例えばステータ巻線35に流れる交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ33と第2ロータ32間に作用するトルクを制御することができる。
【0043】
インバータ48のスイッチング動作によりステータ巻線35に交流電流を流すことでステータ33と第2ロータ32間にトルクτmgを発生させるとともに、インバータ47のスイッチング動作によりロータ巻線40に交流電流を流すことで第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupを発生させる場合の第1及び第2ロータ31,32の運動方程式は以下の(8)、(9)式で表される。(8)、(9)式において、Jは第1ロータ31の慣性モーメント、Jは第2ロータ32の慣性モーメント、ωは第1ロータ31の回転速度、ωは第2ロータ32の回転速度、τRL1は第1ロータ31の負荷トルク、τRL2は第2ロータ32の負荷トルクである。図4に示すように、τcoupについては、ドライブシャフト26,27が等しい回転速度で同方向に回転している場合の第1ロータ31の回転方向(図の時計回り)を正とし、τmgについては、ドライブシャフト26,27が等しい回転速度で同方向に回転している場合の第2ロータ32の回転方向(図の時計回り)を正とする。
【0044】
【数2】
【0045】
τEVを所望の駆動トルクとして、τmg=τEV、τcoup=τEV/2とすると、(8)、(9)式は以下の(10)、(11)式となる。その場合、第1ロータ31から第2ロータ32に作用するトルクは、ステータ33から第2ロータ32に作用するトルクの1/2であり、且つステータ33から第2ロータ32に作用するトルクと逆方向であるため、第2ロータ32に作用するτmgとτcoupの合成トルクは、第1ロータ31に作用するトルクτcoupと等しく且つ同方向となる。
【0046】
【数3】
【0047】
(10)、(11)式から、第1及び第2ロータ31,32とで負荷及び慣性モーメントが同一の場合は、トルクτmg,τcoupによって第1及び第2ロータ31,32が等しい回転速度で同方向に回転し、回転伝達装置50のサンギア51とリングギア52が等しい回転速度で同方向に回転することで、各ピニオンギア53a,53bがサンギア51,55の回転中心軸まわりに周回(公転)する。したがって、トルクτmg,τcoupによって回転伝達装置50のサンギア51,55、リングギア52,54、ピニオンギア53a,53b、及びキャリア56が一体となって回転駆動する。さらに、右サイドギア11及び回転ケース14がサンギア55及びリングギア54とともに等しい回転速度で同方向に回転することで、差動装置10のサイドギア11,12、ピニオンギア13、及び回転ケース14が一体となって回転駆動する。したがって、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27に駆動トルクが均等に配分され、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27が等しい回転速度で同方向に回転駆動する。
【0048】
また、τmg=τEV、τcoup>τEV/2であり、第2ロータ32に作用するτmgとτcoupの合成トルクが第1ロータ31に作用するトルクτcoupよりも小さく且つ同方向である場合は、右ドライブシャフト26の駆動トルク配分が増加するとともに、左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が減少する。第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも高くなると、右ドライブシャフト26の回転速度は左ドライブシャフト27の回転速度よりも高くなる。
【0049】
一方、τmg=τEV、τcoup<τEV/2であり、第2ロータ32に作用するτmgとτcoupの合成トルクが第1ロータ31に作用するトルクτcoupよりも大きく且つ同方向である場合は、右ドライブシャフト26の駆動トルク配分が減少するとともに、左ドライブシャフト27の駆動トルク配分が増加する。第1ロータ31の回転速度が第2ロータ32の回転速度よりも低くなると、右ドライブシャフト26の回転速度は左ドライブシャフト27の回転速度よりも低くなる。
【0050】
なお、第1及び第2ロータ31,32の負荷が同一でない場合であっても、第1及び第2ロータ31,32を等しい回転速度で同方向に回転させるためには、電子制御ユニット70は、第1及び第2ロータ31,32の回転速度ω,ωを用いたフィードバック制御を行うことが好ましい。例えば、第2ロータ32の回転速度ωが目標回転速度(例えば回転ケース14の回転速度とする)ωrefに等しくなるように第2ロータ32の回転速度ωと目標回転速度ωrefとの偏差に基づいてステータ33と第2ロータ32間のトルクτmgを制御するとともに、第1ロータ31の回転速度ωが目標回転速度ωrefに等しくなるように第1ロータ31の回転速度ωと目標回転速度ωrefとの偏差に基づいて第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupを制御することが好ましい。
【0051】
図3の構成例でも、第1ロータ31と第2ロータ32間に発生させるトルクτcoupに応じて、右ドライブシャフト26と左ドライブシャフト27の駆動トルク配分を調整することができる。さらに、図3の構成例では、ステータ33と第2ロータ32間にトルクτmgを発生させるとともに、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクτcoupを発生させることで、エンジンやモータ等の動力源からの動力をプロペラシャフト23を介して回転ケース14に伝達しなくても、トルクτmg,τcoupによってドライブシャフト26,27を回転駆動することが可能である。また、エンジンやモータ等の動力源からの動力をプロペラシャフト23を介して回転ケース14に伝達するとともに、トルクτmg,τcoupを発生させることで、ドライブシャフト26,27の駆動トルクを増加させることができる。
【0052】
本実施形態では、第1ロータ31に永久磁石43を設け、第2ロータ32にロータ巻線40を設け、スリップリング45を第2ロータ32に接続することも可能である。また、本実施形態において、第1ロータ31と第2ロータ32間にトルクを発生させる構成は、永久磁石43を設ける等、磁石トルクを発生させる構成に限られるものではなく、例えばリラクタンストルクを発生させる構成であってもよい。また、図3の構成例において、ステータ33と第2ロータ32間にトルクを発生させる構成は、永久磁石44を設ける等、磁石トルクを発生させる構成に限られるものではなく、例えばリラクタンストルクを発生させる構成であってもよい。
【0053】
以上の実施形態では、車両の右駆動輪28と左駆動輪29のトルク配分を調整する場合について説明した。ただし、本発明については、車両の前駆動輪と後駆動輪のトルク配分を調整する場合に対しても適用することが可能である。さらに、本発明については、車両以外の用途に対しても適用することが可能である。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
10 差動装置、11,12 サイドギア、13,53a,53−1a,53−2a,53b,53−1b,53−2b ピニオンギア、14 回転ケース、15 ピニオンシャフト、21 ドリブンギア、22 ドライブギア、23 プロペラシャフト、26,27 ドライブシャフト、28,29 駆動輪、30 回転電機、31 第1ロータ、32 第2ロータ、33 ステータ、34 ステータコア、35 ステータ巻線、40 ロータ巻線、41,42 ロータコア、43,44 永久磁石、45 スリップリング、46 ブラシ、47,48 インバータ、49 蓄電装置、50,50−1,50−2 回転伝達装置、51,51−1,51−2,55,55−1,55−2 サンギア、52,52−1,52−2,54,54−1,54−2 リングギア、56,56−1,56−2 キャリア、70 電子制御ユニット。
図1
図2
図3
図4