(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表面領域における前記Ta元素濃度の最大含有量をTas、前記表面領域よりも内部の内部領域における前記Ta元素濃度の内部含有量をTaiとしたとき、Tas/Taiは、0.8以上1.2以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のサーメット工具。
前記表面領域における前記W元素濃度の最大含有量をWs、前記内部領域における前記W元素濃度の内部含有量をWiとしたとき、Ws/Wiは、1.0以上1.5以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のサーメット工具。
前記表面領域における前記第1硬質相の芯部の面積率をC1s、前記内部領域における前記第1硬質相の芯部の面積率をC1iとしたとき、C1s/C1iは、0.3倍以上0.9倍以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のサーメット工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の切削加工では高速化、高送り化および深切込み化が顕著となり、高温発熱を伴う高速切削条件においては、従来よりも工具寿命が低下する傾向が見られるようになってきた。この様な背景により上記従来のサーメット工具では、耐熱衝撃性が不十分であるため、加工初期発生したサーマルクラックが起点となり、チッピングまたは欠損を引き起こすという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、耐摩耗性を低下させずに、耐熱衝撃性を向上させることにより、優れた耐欠損性と優れた耐チッピング性とを有し、工具寿命の長いサーメット工具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、サーメット工具について種々の検討を行った。その結果、本発明者は、サーメット工具の硬質相の組成および形態を工夫することによって、耐摩耗性を低下させずに、耐熱衝撃性を向上させ、優れた耐欠損性と優れた耐チッピング性とを有するサーメット工具を得ることができることを明らかにし、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)硬質相を75体積%以上95体積%以下と、
結合相を5体積%以上25体積%以下とからなるサーメットであって、
前記硬質相は、
(a)芯部がTiとTaとMoとの複合炭窒化物相、周辺部がTiとTaとMoとWとZr、またはTiとTaとMoとWの複合炭窒化物[以下、(Ti,Ta,Mo,W,Zr)CN、または(Ti,Ta,Mo,W)CNで示す]相からなる有芯構造の第1硬質相、
(b)芯部および周辺部の両方が(Ti,Ta,Mo,W,Zr)CN相、または(Ti,Ta,Mo,W)CN相からなる有芯構造の第2硬質相、
(c)TiとTaとMoとの複合炭窒化物相のみからなる第3硬質相、
以上(a)、(b)および(c)で構成され、
前記結合相は、Co、NiおよびFeからなる群の少なくとも1種を主成分とする元素で構成され、
前記サーメット工具の表面から300μm深さまでの範囲を表面領域とし、
前記表面領域よりも内部を内部領域としたとき、
前記サーメット工具の前記内部領域における断面において、前記第1硬質相の面積率をA1、前記第2硬質相の面積率をA2、前記第3硬質相の面積率をA3とし、前記硬質相全体の面積を100面積%としたとき、前記A1が75面積%以上95面積%以下、前記A2が4面積%以上24面積%以下、前記A3が1面積%以上24面積%以下であり、
前記第1硬質相の周辺部の平均厚さに対する前記第1硬質相の芯部の平均厚さ[芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さ]の関係が1以上5以下を満たす第1硬質相の個数が第1硬質相の総数に対して50%以上であるサーメット工具。
(2)前記第1硬質相の周辺部の平均厚さに対する前記第1硬質相の芯部の平均厚さ[芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さ]の関係が1以上5以下を満たす第1硬質相の個数が第1硬質相の総数に対して70%以上である(1)のサーメット工具。
(3)前記表面領域における前記Ta元素濃度の最大含有量をTas、前記表面領域よりも内部の内部領域における前記Ta元素濃度の内部含有量をTaiとしたとき、Tas/Taiは、0.8以上1.2以下である(1)または(2)のいずれかのサーメット工具。
(4)前記表面領域における前記W元素濃度の最大含有量をWs、前記内部領域における前記W元素濃度の内部含有量をWiとしたとき、Ws/Wiは、1.0以上1.5以下である(1)〜(3)のいずれかのサーメット工具。
(5)前記表面領域におけるビッカース硬さをHs、前記内部領域におけるビッカース硬さをHiとしたとき、Hs/Hiは、1.1倍以上1.3倍以下である(1)〜(4)のいずれかのサーメット工具。
(6)前記表面領域における前記第1硬質相の芯部の面積率をC1s、前記内部領域における前記第1硬質相の芯部の面積率をC1iとしたとき、C1s/C1iは、0.3倍以上0.9倍以下である(1)〜(5)のいずれかのサーメット工具。
(7)前記表面領域における前記硬質相の平均粒径をds、前記内部領域における前記硬質相の平均粒径をdiとしたとき、ds/diは、1.0以上2.0以下である(1)〜(6)のいずれかのサーメット工具。
(8)前記硬質相の平均粒径が1.0μm以上3.0μm以下である(1)〜(7)のいずれかのサーメット工具。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載のサーメット工具の表面に被覆層が形成された被覆サーメット工具。
【発明の効果】
【0009】
本発明のサーメット工具は、耐摩耗性を低下させずに、耐熱衝撃性を向上させることにより、優れた耐欠損性と優れた耐チッピング性とを有するため、従来よりも工具寿命を延長することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のサーメット工具の種類として具体的には、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル、エンドミルなどを挙げることができる。
【0012】
本発明のサーメット工具は、硬質相と、Co、NiおよびFeからなる群より選択された少なくとも1種を主成分とする結合相とからなるサーメット工具である。前記硬質相のサーメット工具全体(100体積%)に対する割合は75〜95体積%であり、前記結合相が残部を占める。
【0013】
本発明のサーメット工具は、硬質相の割合が75体積%未満であると、サーメット工具の耐摩耗性が低下し、硬質相の割合が95体積%を超えるとサーメット工具の耐欠損性が低下すると共に、相対的に残部の結合相量が減少するため、サーメット工具の製造の際の原料の焼結性が低下する。そこで、硬質相の割合を75〜95体積%、結合相の割合を残部と定めた。前記の観点から、硬質相の割合が80〜90体積%、結合相の割合が残部であると、さらに好ましい。
【0014】
なお、本発明のサーメット工具における硬質相及び結合相の割合は、以下のようにして求める。サーメット工具の表面から深さ方向に500μm内部までの断面組織をエネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し、さらに王水を用いて断面組織を食刻し、食刻された断面組織をEDS付きSEMにて観察する。そして、これら二種類の断面組織から食刻されなかった硬質相の面積率と食刻された結合相の面積率を測定し、その結果からサーメット工具の硬質相の体積%と結合相の体積%の割合を求める。
【0015】
本発明のサーメット工具の結合相は、Co、NiおよびFeの中から選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属である。Co、NiおよびFeの中から選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属とは、結合相のCo、NiおよびFeの中から選ばれた少なくとも1種の金属の合計質量が、結合相の全質量に対して50質量%以上である金属を意味する。本発明の結合相には、Co、NiおよびFe以外に、硬質相成分が含まれていてもよい。通常、本発明の結合相に含まれる硬質相成分の合計含有量は、結合相の全質量に対して20質量%以下である。その中でも、本発明のサーメット工具の結合相が、CoおよびNiの1種または2種を主成分とした金属であることがより好ましい。その場合には、結合相と硬質相との濡れ性、耐熱性および耐食性に優れたサーメット工具を得ることができる。
【0016】
本発明のサーメット工具の硬質相は、芯部がTiとTaとMoとの複合炭窒化物[以下、(Ti,Ta,Mo)CNで示す]相、周辺部がTiとTaとMoとWとZr、またはTiとTaとMoとWの複合炭窒化物[以下、(Ti,Ta,Mo,W,Zr)CN、または(Ti,Ta,Mo,W)CNで示す]相からなる有芯構造の第1硬質相を有する。なお、芯部と周辺部とは異なる組成を有する。Taは、高温硬さおよび耐酸化性が優れるため、高速の加工において、反応摩耗が抑制されるので、サーメット工具の耐摩耗性が優れる。また、Taは、耐熱衝撃性に優れるため、サーマルクラックの発生を抑制することができる。Moは、焼結時における結合相との濡れ性および硬質相同士の濡れ性にも優れるため、サーメット工具の強度が向上することにより、耐欠損性および耐チッピング性が向上する。さらに、Wは、硬さが優れるため、サーメット工具の耐摩耗性が優れ、硬質相中のZrは、高温強度が優れるため、サーメット工具の耐塑性変形性に優れる。
【0017】
本発明のサーメット工具の硬質相は、芯部および周辺部の両方が(Ti,Ta,Mo,W,Zr)CN相、または(Ti,Ta,Mo,W)CN相からなる有芯構造の第2硬質相を有する。Wは、硬さが優れるため、サーメット工具の耐摩耗性が優れ、硬質相中のZrは、高温強度が優れるため、サーメット工具の耐塑性変形性に優れる。
【0018】
本発明のサーメット工具の硬質相は、TiとTaとMoとの複合炭窒化物[以下、(Ti,Ta,Mo)CNで示す]相からなる単一相粒子構造の第3硬質相 を有する。第3硬質相は熱伝導率が高いため、第1硬質相および第2硬質相よりも耐熱衝撃性が優れるので、サーマルクラックの発生を抑制することができる。そのため、サーメット工具中に第3硬質相が分散して存在することにより、耐欠損性が向上する。
【0019】
特に、本発明のサーメット工具は、第1硬質相、第2硬質相および第3硬質相の全ての硬質相において、TaおよびMoを含むため、従来のサーメット工具よりも耐熱衝撃性、耐欠損性に優れ、高温における耐摩耗性にも優れる。
【0020】
本発明のサーメット工具は、第1硬質相の周辺部の平均厚さに対する第1硬質相の芯部の平均厚さ[芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さ]の関係が1以上5以下を満たす第1硬質相の個数が第1硬質相の総数に対して50%以上である。その中でも、70%以上であると好ましい。芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が1以上5以下を満たす第1硬質相の個数が第1硬質相の総数に対して50%以上であると、耐熱衝撃性に優れるため、耐チッピング性および耐欠損性を向上させることができる。芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が1未満である第1硬質相は、サーメット工具の熱伝導率が低くなるため、耐熱衝撃性が低下し、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が5を超えて大きくなる第1硬質相は、サーメット工具の耐摩耗性が低下する。よって、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が1以上5以下を満たす第1硬質相の個数が第1硬質相の総数に対して50%未満の個数しか存在しない場合、十分な耐熱衝撃性を得ることができないことによる、耐チッピング性および耐欠損性の低下、または耐摩耗性の低下が生じる。
【0021】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域におけるTa元素濃度の最大含有量をTas、表面領域よりも内部の内部領域におけるTa元素濃度の内部含有量をTaiとしたとき、Tas/Taiは、0.8以上1.2以下であると、サーメット工具の表面領域と内部領域におけるTa元素濃度がほぼ均一であることにより、高温強度が優れるため、好ましい。Tas/Taiが0.8未満であると、サーメット工具の耐熱衝撃性が低下する傾向がみられ、Tas/Taiが1.2を超えて大きくなるとサーメット工具の耐欠損性が低下する傾向がみられる。
【0022】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域におけるW元素濃度の最大含有量をWs、表面領域よりも内部の内部領域におけるW元素濃度の内部含有量をWiとしたとき、Ws/Wi は、1.0以上1.5以下であると、サーメット工具の表面領域の硬さが優れ、内部領域の靱性が優れることにより、耐摩耗性、耐チッピング性および耐欠損性が向上する傾向がみられる。Ws/Wiが1.0未満であると、サーメット工具の耐摩耗性が低下する傾向がみられ、Ws/Wiが1.5を超えて大きくなるとサーメット工具の耐チッピング性および耐欠損性が低下する傾向がみられる。
【0023】
本発明のサーメット工具は、表面領域と内部領域における、Ta元素濃度を均一にし、表面領域のW元素濃度を高くすることで、耐熱衝撃性および耐摩耗性などの切削性能が向上する。すなわち、高温発熱と冷却を伴う高速断続加工の切削条件においては、耐熱衝撃性および高温硬さに優れるTaが切削性能に寄与し、低速加工で熱衝撃が小さい従来の切削条件においては、Wが切削性能に寄与するため、あらゆる加工条件において切削性能を低下させることなく加工することができる。
【0024】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域よりも内部の内部領域における断面において、第1硬質相の面積率をA1、第2硬質相の面積率をA2、第3硬質相の面積率をA3とし、硬質相全体の面積を100面積%としたとき、A1が75面積%以上95面積%以下、A2が4面積%以上24面積%以下、A3が1面積%以上24面積%以下である。A1が75面積%未満であると、靭性が不十分なため、耐欠損性が低下し、A1が95面積%を超えて大きくなると、相対的にA2またはA3の面積が小さくなるため、硬さまたは熱伝導率が低下するので、耐摩耗性または耐熱衝撃性が低下する。A2が4面積%未満であると、硬さが不十分なため、耐摩耗性が低下し、A2が24面積%を超えて大きくなると、相対的にA1またはA3の面積が小さくなるため、靭性および熱伝導率が低下するので、耐欠損性または耐熱衝撃性が低下する。A3が1面積%未満であると、熱伝導率が不十分なため、耐熱衝撃性が低下し、A3が24面積%を超えて大きくなると、相対的にA1またはA2の面積が小さくなるため、耐摩耗性が低下し、また靭性が低下するので、耐欠損性が低下する。
【0025】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域におけるビッカース硬さをHs 、表面領域よりも内部の内部領域におけるビッカース硬さをHiとしたとき、Hs/Hiは、1.1倍以上1.3倍以下であると好ましい。本発明のサーメット工具のHs/Hiが1.1倍未満では耐摩耗性が劣る傾向がみられ、1.3倍を超えて大きくなると、耐チッピング性および耐欠損性が劣る傾向がみられる。
【0026】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域における第1硬質相の芯部の面積率 をC1s、表面領域よりも内部の内部領域における第1硬質相の芯部の面積率 をC1iとしたとき、C1s/C1iは、0.3倍以上0.9倍以下であると好ましい。本発明のサーメット工具のC1s/C1iが0.3倍未満では耐熱衝撃性が低下する傾向がみられ、0.9倍を超えて大きくなると、耐摩耗性が低下する傾向がみられる。
【0027】
本発明のサーメット工具は、サーメット工具の表面から 300μm深さまでの範囲の表面領域における硬質相の平均粒径をds、表面領域よりも内部の内部領域における硬質相の平均粒径をdiとしたとき、ds/diは、1.0以上2.0以下であると好ましい。本発明のサーメット工具のds/diが1.0倍未満では耐欠損性が低下する傾向がみられ、2.0倍を超えて大きくなると、耐摩耗性が低下する傾向がみられる。
【0028】
本発明のサーメット工具は、硬質相の平均粒径が1.0μm以上3.0μm以下であると好ましい。本発明のサーメット工具の硬質相の平均粒径が1.0μm未満では耐欠損性が低下する傾向がみられ、3.0μmを超えて大きくなると、硬さが低下し耐摩耗性が低下する傾向がみられる。
【0029】
本発明のサーメット工具のTa元素濃度およびW元素濃度は、以下のようにして求めることができる。サーメット工具をサーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨し、その研磨面の断面組織をSEMにて観察し、SEMに付属するEDSを用いて求めることができる。サーメット工具の表面から垂直方向に10μm間隔となるように10箇所の濃度を測定し、最もTa含有量が高い値をTasとし、最もW含有量が高い値をWsとし、表面から500μmの位置について任意の10箇所の濃度を測定し、その平均値をTaiおよびWiとした。
【0030】
本発明のサーメット工具の表面領域におけるビッカース硬さHsおよび内部領域におけるビッカース硬さHiは、以下のようにして求めることができる。サーメット工具の表面から内部までの硬さを測定する為に、サーメット工具をサーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨し、サーメット工具の表面から垂直方向に10μm間隔となるようにマイクロビッカース硬さ計を用いて印加荷重4.9Nのビッカース硬さを測定した。サーメット工具の表面から300μmまでの範囲の最大硬さをHsとし、サーメット工具の表面から500μmの位置について5箇所のビッカース硬さを測定し、その5箇所のうちの最大硬さをHiとした。
【0031】
本発明のサーメット工具の硬質相の表面領域における平均粒径dsおよび内部領域における平均粒径diは、以下のようにして求めることができる。サーメット工具をサーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨し、その研磨面の断面組織をSEMで2000〜10000倍に拡大した画像から、フルマンの式(1)を用いて求めることができる。
dm=(4/π)・(NL/NS) (1)
(式中、dmは平均粒径、πは円周率、NLは断面組織上の任意の直線によってヒットされる単位長さあたりの硬質相の数、NSは任意の単位面積内に含まれる硬質相の数である。)
また、硬質相の平均粒径は、表面領域における平均粒径dsと内部領域における平均粒径diとの平均を求めた値とした。
【0032】
本発明のサーメット工具の内部領域における各硬質相の面積率A1、A2およびA3は、断面組織のSEM画像から、市販の画像解析ソフトを用いる方法や前記フルマンの式を用いる方法によって求めることができる。フルマンの式を用いる場合の具体的な測定方法を以下に示す。サーメット工具を研磨し、サーメット工具の内部領域におけるその研磨面の断面組織をSEMで2000〜10000倍に拡大した画像から、前記フルマンの式(1)を用いて求めることができる。上述の第1硬質相の平均粒径を求める方法と同様に、フルマンの式(1)を用いて第2硬質相および第3硬質相の平均粒径をそれぞれ求める。各硬質相の平均粒径と単位面積内に含まれる各硬質相の数とを用いて、単位面積内に含まれる各硬質相の面積を求めることにより、各硬質相の面積率A1、A2およびA3を求めることができる。
【0033】
本発明のサーメット工具の表面領域における第1硬質相の芯部の面積率C1sおよび内部領域における第1硬質相の芯部の面積率C1iは、以下のようにして求めることができる。サーメット工具をサーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨し、その断面研磨面をSEMで2000〜10000倍に拡大した写真を撮影し、その写真を市販の画像解析ソフトを用いて、C1sおよびC1iを算出することができる。
【0034】
本発明のサーメット工具の内部領域における第1硬質相の周辺部の平均厚さに対する第1硬質相の芯部の平均厚さ[芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さ]の関係は、以下のようにして求めることができる。
【0035】
サーメット工具の任意の断面を研磨し、SEMを用いて2000〜10000倍に拡大したサーメット工具の内部領域における研磨面を反射電子像で観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、第1硬質相を同定することができる。本発明の第1硬質相の粒子は、
図1に示すように、芯部が濃灰色(1)であり、周辺部が白色(2)であることを特定することができる。その後、SEMを用いて組織写真を撮影する。得られた組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて、
図1に示すように第1硬質相の芯部の重心(3)を求める。その後、第1硬質相の芯部の重心(3)から第1硬質相の周辺部まで放射状に等間隔に8本の直線を引く。このとき、得られた直線において、第1硬質相の芯部と周辺部の界面から他方の第1硬質相の芯部と周辺部の界面までを第1硬質相の芯部の厚さ(4a、4b、4c、4d)とする。同様にして、第1硬質相の芯部の重心(3)から第1硬質相粒子の粒界まで放射状に等間隔に直線を引く。このとき、第1硬質相の芯部と周辺部の界面から第1硬質相の周辺部の粒界までの長さを周辺部の厚さ(5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g)とする。得られた第1硬質相の芯部の厚さおよび周辺部の厚さをそれぞれ平均した値を芯部の平均厚さおよび周辺部の平均厚さとし、得られた結果から第1硬質相の周辺部の平均厚さに対する第1硬質相の芯部の平均厚さ[芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さ]の関係を求めることができる。
【0036】
また、組織写真中に存在する第1硬質相について同様に、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係を求め、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が、1以上5以下を満たす第1硬質相の個数を測定する。その後、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係が、1以上5以下を満たす第1硬質相の個数と第1硬質相の総数に対する割合を求めることができる。
【0037】
次に、本発明のサーメット工具の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本発明のサーメット工具の製造方法は、当該サーメット工具の構成(硬質相及び結合相)を達成し得る限り特に制限されるものではない。
【0038】
例えば、本発明のサーメット工具の製造方法は、
工程(A):平均粒径0.5〜4.0μmの炭窒化チタンタンタルモリブデン粉末30〜90質量%と、炭窒化チタンタンタルモリブデン粉末を除く平均粒径0.5〜4.0μmの、Ti、Zr、Ta、MoおよびWから成る群より選択された少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物、炭窒化物から成る群より選択された少なくとも1種の粉末5〜40質量%と、平均粒径0.5〜3.0μmの、Co、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種の粉末5〜30質量%とを配合(ただし、これらの合計は100質量%である)する工程と、
工程(B):原料粉を配合して5〜35時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を準備する混合工程と、
工程(C):得られた混合物を所定の工具の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
工程(D):前記工程(C)で得られた成形体を100Pa以下の真空中にて1200〜1400℃の範囲の所定の温度まで昇温する第1昇温工程と、
工程(E):前記工程(D)を経た成形体を0.6〜26.6kPaの水素気流中にて1200〜1400℃の範囲の所定の温度にて所定の時間保持する第1焼結工程と、
工程(F):前記工程(E)を経た成形体を133〜1330Paの窒素気流中にて1200〜1400℃の範囲の所定の温度から該温度よりも高い1400〜1600℃の範囲の焼結温度まで昇温する第2昇温工程と、
工程(G):前記工程(F)を経た成形体を工程(F)と同じ圧力の窒素気流中にて1400〜1600℃の範囲の焼結温度で所定の時間保持して焼結する第2焼結工程と、
工程(H):前記工程(G)を経た成形体を所定の温度から常温まで冷却する冷却工程とを含む。
【0039】
なお、工程(A)において使用される原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定されたものである。
【0040】
本発明のサーメット工具の製造方法の各工程は、以下の意義を有する。
工程(A)では炭窒化チタンタンタルモリブデン粉末と、Ti、Zr、Ta、MoおよびWから成る群より選択された少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物、炭窒化物から成る群より選択された少なくとも1種の粉末を用いることにより、第1硬質相、第2硬質相および第3硬質相を構成することができる。また、芯部の厚さに対して、周辺部の厚さが薄い第1硬質相は、Taを固溶した炭窒化チタンタンタルモリブデン粉末を使用することで得ることができる。なお、炭窒化チタンタンタルモリブデン粉末にW、ZrおよびNbなどの他の元素を固溶させた場合、靱性や耐熱衝撃性などの特性のバランスが低下するため、切削性能が低下する。
【0041】
工程(B)では硬質相の平均粒径を調整したり、所定の配合組成の混合粉末を均一に混合させることができる。これを以下の工程で成形・焼結・冷却することによって、特定の組成の硬質相及び結合相からなる本発明のサーメット工具が得られる。
【0042】
工程(C)では得られた混合物を所定の工具の形状に成形する。得られた成形体を以下の焼結工程で焼結する。
【0043】
工程(D)では成形体を133Pa以下の真空中で昇温することで、脱ガスを促進させ、以下の焼結工程における焼結性を向上させる。
【0044】
工程(E)では水素気流中にて1400〜1600℃の範囲の温度で焼結することにより、さらに脱ガスを促進させるとともにサーメット工具の表面領域を炭化させることにより、表面領域のW元素濃度を高くすることができる。また、工程(F)では窒素雰囲気とすることで、成形体の表面からの脱窒を防ぎ、これにより脱窒に伴う焼き肌面の平滑性の低下および焼き肌面近傍の(Ti,Ta,Mo)CNなどの硬質相の減少を抑制する。
【0045】
工程(G)では工程(F)よりも高い焼結温度で焼結することにより、第1硬質相、第2硬質相および第3硬質相の面積率を任意なものとする。
【0046】
そして工程(H)では、焼結された成形体を常温まで冷却し、本発明のサーメット工具が得られる。
【0047】
工程(A)から工程(H)までの工程を経て得られたサーメット工具に対して、必要に応じて研削加工や刃先のホーニング加工を行ってもよい。
【実施例1】
【0048】
[サーメット工具の製造]
原料粉末として、市販されている、平均粒径2.0μmの(Ti,Ta,Mo)(C,N)粉末、平均粒径2.0μmの(Ti,Nb,Ta,Mo)(C,N)粉末、平均粒径2.0μmのTi(C,N)粉末、平均粒径1.5μmのWC粉末、平均粒径1.5μmのZrC粉末、平均粒径1.5μmのTaC粉末、平均粒径1.5μmのMo
2C粉末、平均粒径1.0μmのCo粉末、平均粒径1.0μmのNi粉末を用意した。なお、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定されたものである。
【0049】
用意した原料粉末を下記表1の配合組成になるように秤量して、秤量した原料粉末をアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共にステンレス製ポットに入れて湿式ボールミルで混合および粉砕を行った。湿式ボールミルによる混合および粉砕時間を表2に示す。湿式ボールミルによる混合・粉砕後、アセトン溶媒を蒸発して得られた混合物を、焼結後の形状がISO1832のインサート形状CNMG120408ブレーカー付きになる金型およびSDKN1203の金型でもって圧力196MPaでプレス成形して、混合物の成形体を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
混合物の成形体を焼結炉内に入れた後、133Pa以下の真空にて室温から下記表3(a)に記載の水素導入温度T1(℃)まで昇温した。炉内温度が水素導入温度T1(℃)になったとき、炉内圧力が表3(b)に記載の炉内圧力P1(kPa)になるまで水素ガスを焼結炉内に導入した。炉内圧力P1(kPa)の水素雰囲気にて60分間保持して焼結した。その後、炉内の水素を排気し、炉内圧力が100Pa以下になったとき、炉内圧力が表3(c)に記載の炉内圧力P2(Pa)になるまで窒素を導入した。水素導入温度T1(℃)から表3(d)に記載の焼結温度T2(℃)まで昇温した。炉内温度が焼結温度T2(℃)になったとき、炉内圧力P2(Pa)の窒素雰囲気にて焼結温度T2(℃)で60分間保持して焼結した。その後、焼結温度がT2(℃)から室温までアルゴン雰囲気で冷却した。
【0053】
【表3】
【0054】
焼結して得られたサーメット工具は、湿式ブラシホーニング機により、サーメット工具の刃先にホーニング処理を施した。
【0055】
作製した発明品及び比較品のサーメット工具をサーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨し、その研磨面の断面組織をSEMにて観察し、SEMに付属するEDSを用いて表面領域のTasおよびWs、内部領域のTaiおよびWiの各組成をそれぞれ測定した。測定した組成からTas/TaiおよびWs/Wiを求めた。その結果を表4に示した。
【0056】
【表4】
【0057】
サーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨した、研磨面について、その研磨面の断面組織をSEMで5000倍に拡大した画像を撮影し、撮影した画像からフルマンの式(1)を用いて硬質相の表面領域における平均粒径dsおよび内部領域における平均粒径diを測定し、ds/diを求めた。また、硬質相の平均粒径は、表面領域における平均粒径dsと内部領域における平均粒径diとの平均値とした。ds/diおよび硬質相の平均粒径を表5に示す。さらに、撮影した画像からフルマンの式(1)を用いて表面領域における第1硬質相の芯部の面積率C1s、内部領域における第1硬質相の芯部の面積率 C1iを測定した。測定したC1sおよびC1iからC1s/C1iを求め、その結果を表5に示した。
【0058】
【表5】
【0059】
サーメット工具の表面に対して10°傾けて研磨した、研磨面について、サーメット工具の表面から垂直方向に10μm間隔となるようにマイクロビッカース硬さ計を用いて印加荷重4.9Nのビッカース硬さを測定した。サーメット工具の表面から300μmまでの範囲の最大硬さをHsとし、サーメット工具の表面から500μmの位置について5箇所のビッカース硬さを測定し、その5箇所のうちの最大硬さをHiとした。その結果を表6に示した。
【0060】
【表6】
【0061】
サーメット工具の任意の断面を研磨し、SEMを用いて5000倍に拡大したサーメット工具の内部領域における研磨面を反射電子像で観察した。SEMに付属しているEDSを用いて、第1硬質相を同定した後、組織写真を撮影した。得られた組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて、各第1硬質相の周辺部の厚さおよび芯部の厚さを求めた。得られた結果から、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係を求めた。また、組織写真中に存在する各第1硬質相の個数を求め、芯部の平均厚さ/周辺部の平均厚さの関係を満たす第1硬質相の割合を求めた。それらの結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
発明品及び比較品のサーメット工具をサーメット工具の表面に対して垂直に研磨し、その研磨面の断面組織をEDS付きSEMにて各硬質相の組成を同定した。さらにSEMにてサーメット工具の内部領域における断面組織を10000倍に拡大した画像を撮影し、撮影した画像を市販の画像解析ソフトを用いて各硬質相の面積率A1、A2およびA3を求めた。その結果を表8に示した。その後、サーメット工具の表面から深さ方向に500μm内部までの断面組織をEDS付きSEMにて観察し、結合相の組成を同定した。さらに王水を用いて断面組織を食刻し、食刻された断面組織をEDS付きSEMにて観察する。そして、これら二種類の断面組織から食刻されなかった硬質相の面積率と食刻された結合相の面積率を測定し、その結果からサーメット工具の硬質相の体積%と結合相の体積%の割合を求めた。その結果を表9に示した。
【0064】
【表8】
【0065】
【表9】
【0066】
得られた試料を用いて、切削試験1および切削試験2を行った。切削試験1は耐サーマルクラック性および耐欠損性を評価し、切削試験2は耐摩耗性を評価する試験である。切削試験の結果を表10に示した。
【0067】
[切削試験1]
加工形態:転削、
工具形状:SDKN1203、
被削材:SCM440、
被削材形状:200mm×80mm×200mm(形状:板材にφ30mmの穴が6個)、
切削速度:140m/min、
送り:0.25mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
クーラント:無し、
評価項目:0.5min加工し、加工後のインサートに発生したサーマルクラックの本数を測定した。さらに加工を継続し、試料が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。
【0068】
[切削試験2]
加工形態:外周連続旋削、
工具形状:CNMG120408、
被削材:S45C、
被削材形状:φ200mm×400mm、
切削速度:200m/min、
送り:0.20mm/rev、
切り込み:1.0mm、
クーラント:有り、
評価項目:試料が欠損したとき、または最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。
【0069】
【表10】
【0070】
なお、切削試験1のサーマルクラックの本数について、4本以下を○、5本以上7本以下を△、8本以上を×として評価した。また、切削試験1の加工時間について、10min以上を○、5min以上10min未満を△、5min未満を×として評価した。また、切削試験2の加工時間について、10min以上を○、5min以上10min未満を△、5min未満を×として評価した。この評価では、(優)○>△>×(劣)という順位になり、○を有するほど切削性能が優れる。得られた評価の結果を表11に示した。
【0071】
【表11】
【0072】
発明品の耐欠損性および耐摩耗性の評価はすべて○を有し、耐摩耗性および耐欠損性に優れることがわかる。一方、比較品の評価は△または×を有し、耐摩耗性および耐欠損性の性能を満足していないことがわかる。さらに、発明品は、サーマルクラックの発生が抑制されたことにより、耐欠損性が向上し、比較品よりも工具寿命が長いことがわかる。
【実施例2】
【0073】
実施例1の発明品1〜9および比較品1〜6の表面にPVD装置を用いて被覆処理を行った。発明品1〜9および比較品1〜6のサーメット工具の表面に平均層厚2.5μmのTiAlN層を被覆したものを発明品10〜18、比較品7〜12とし、発明品1のサーメット工具の表面に平均層厚2.5μmのTiCN層を被覆したものを発明品19とした。また、発明品1のサーメット工具の表面に、1層あたり3nmのTiAlNと、1層あたり3nmのTiAlTaWNとを交互に500層ずつ積層した交互積層を被覆したものを発明品20とした。発明品10〜20および比較品7〜12について実施例1と同じ切削試験1および2を行った。その結果を表12に示す。
【0074】
【表12】
【0075】
なお、切削試験1のサーマルクラックの本数について、4本以下を○、5本以上7本以下を△、8本以上を×として評価した。また、切削試験1の加工時間について、10min以上を○、5min以上10min未満を△、5min未満を×として評価した。また、切削試験2の加工時間について、10min以上を○、5min以上10min未満を△、5min未満を×として評価した。この評価では、(優)○>△>×(劣)という順位になり、○を有するほど切削性能が優れる。得られた評価の結果を表13に示した。
【0076】
【表13】
【0077】
発明品の耐欠損性および耐摩耗性の評価はすべて○を有し、耐摩耗性および耐欠損性に優れることがわかる。一方、比較品の評価は△または×を有し、耐摩耗性および耐欠損性の性能を満足していないことがわかる。さらに、発明品は、サーマルクラックの発生が抑制されたことにより、耐欠損性が向上し、比較品よりも工具寿命が長いことがわかる。また、耐摩耗性試験において、被覆層を被覆していない発明品の工具寿命は10.7min以上であるのに対し、被覆層を被覆した発明品の工具寿命は12.3min以上になり、工具寿命が長くなっていることがわかる。