(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の作業車両の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
以下、本発明の作業車両の一例である農用トラクター1を例に挙げて具体的に説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態の農用トラクター1の概略左側面図である。
【0021】
また、
図2は、本実施の形態の農用トラクター1の動力伝動機構の伝動線図である。
【0022】
図1に示す通り、本実施の形態の農用トラクター1は、左右一対の前輪2と、左右一対の後輪3を備え、走行車体1aの前部にエンジン5を内装し、後部にキャビン4を備える構成である。
【0023】
キャビン4内には、運転座席6と、ステアリングハンドル7等が設けられている。
【0024】
また、エンジン5の駆動力は、
図2に示す伝動機構を介して適宜減速され、その減速された回転動力が左右一対の後輪3、3に伝達され走行車体1aを走行させる構成である。
【0025】
また、後輪3、3に伝達された回転動力は、等速四輪駆動クラッチ110又は、増速四輪駆動クラッチ120を介して左右一対の前輪2、2にも伝達可能に構成されている。本実施の形態では、等速四輪駆動クラッチ110と増速四輪駆動クラッチ120を包括して前輪伝動クラッチ装置100と呼ぶ。
【0026】
本実施の形態の農用トラクター1の伝動機構は、
図2に示す通り、低速と高速で二段に変速される高低変速装置11と、低速を四段及び高速を四段へ変速する主変速装置12と、前進と後進の切り替えを行う前後進クラッチ装置13と、低速四段及び高速四段の回転について、それぞれ四段の変速を行う副変速装置14と、上述した前輪伝動クラッチ装置100と、PTO軸15の回転を逆転及び1速〜3速に変速するPTO系変速伝動装置16とを備えた構成である。
【0027】
また、
図2に示す通り、副変速装置14を経た動力はドライブ軸46を駆動し、後輪デフ機構49等を介して、右後輪回転軸53Rと左後輪回転軸53Lを駆動し、左右一対の後輪3、3を回転駆動させる構成である。
【0028】
更に、ドライブ軸46の回転は、取出ギヤ60から後側PTO伝動軸58に支持させた2段ギヤ61を介して、前輪伝動軸62に外嵌して入力ギヤ63を支持する入力筒軸64を連動する。
【0029】
この入力筒軸64と前輪伝動軸62との間には、油圧クラッチ形態の等速四輪駆動クラッチ110と、増速四輪駆動クラッチ120と、増速ギヤ組67a,67bとが配設されている。
【0030】
そして、等速四輪駆動クラッチ110を接続(入り状態)すると、入力筒軸64と一体的に前輪伝動軸62を駆動し、増速四輪駆動クラッチ120を接続(入り状態)すると増速ギヤ組67a,67bを経由した増速伝動状態となって前輪伝動軸62を駆動する構成である。
【0031】
また、等速四輪駆動クラッチ110を切断(切り状態)し、且つ、増速四輪駆動クラッチ120を切断(切り状態)すると、入力筒軸64及び増速ギヤ組67bは何れも前輪伝動軸62に遊嵌されているので、ドライブ軸46の回転は、前輪伝動軸62には伝達されない構成である。この場合は、左右一対の後輪3、3のみ駆動し、左右一対の前輪2、2は従動する。
【0032】
尚、前輪伝動軸62の駆動力は、前輪デフ機構70等を介して、左右一対の前輪2、2を回転駆動させる構成である。
【0033】
また、等速四輪駆動クラッチ110、及び増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力は、等速切替比例ソレノイドバルブ111、及び増速切替比例ソレノイドバルブ121により、それぞれ変更制御可能に構成されている(
図3参照)。ここで、
図3は、等速切替比例ソレノイドバルブ111、及び増速切替比例ソレノイドバルブ121を説明する概略の油圧回路図である。
【0034】
即ち、等速四輪駆動クラッチ110、及び増速四輪駆動クラッチ120の圧力制御は、比例圧力制御弁によりクラッチ押しつけピストン(図示省略)の制御圧力を可変にコントロールする構成である。
【0035】
次に、
図2を用いて、本実施の形態の農用トラクター1の動力伝動機構に設けられた各種センサーについて説明する。
【0036】
図2に示す通り、動力伝動機構には、前輪伝動クラッチ装置100の入力軸側の入力筒軸64の回転数を検出する後軸回転センサー101と、前輪伝動クラッチ装置100の出力軸側の前輪伝動軸62の回転数を検出する前軸回転センサー102と、左後輪回転軸53Lの回転数を検出する左後輪回転センサー153Lと、右後輪回転軸53Rの回転数を検出する右後輪回転センサー153Rと、が設けられている。
【0037】
また、走行停止の為にブレーキペダル(図示省略)を踏み込む「ブレーキ操作」の有無を検出するブレーキ操作検出センサー160と、ステアリングハンドル7の操作による前輪2の操舵角を検出する操舵角センサー170(
図4参照)が設けられている。
【0038】
尚、本実施の形態のブレーキ操作検出センサー160は、本発明のブレーキ操作検出器の一例にあたり、また、本実施の形態の操舵角センサー170は、本発明の操舵角検出器の一例にあたる。
【0039】
次に、上述した各種センサーからの検出結果に基づいて、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力、及び増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力をそれぞれ制御する制御部200について、
図4〜
図8を用いて説明する。
【0040】
図4は、本実施の形態の農用トラクター1の制御部200を説明するブロック図である。
【0041】
図5は、制御部200のメモリ部210に予め格納されている、周速比Dsと接続圧力Pとの対応関係を示す模式図である。
【0042】
ここで、後輪3の周速は、後軸回転センサー101で検出された入力筒軸64の回転数に、入力筒軸64の回転数を基準とした時の後輪3の回転数の比と、後輪3の直径を乗算することで取得し、前輪2の周速は、前軸回転センサー102で検出された前輪伝動軸62の回転数に、前輪伝動軸62の回転数を基準とした時の前輪2の回転数の比と、前輪2の直径を乗算することで取得する。
【0043】
図6は、前輪の周速と後輪の周速との間の周速比の適正範囲を示す概略図である。
【0044】
図4に示す通り、制御部200に対して、後軸回転センサー101、前軸回転センサー102、左後輪回転センサー153L、右後輪回転センサー153R、ブレーキ操作検出センサー160、及び操舵角センサー170からの検出結果が送られる。
【0045】
ここでは、(1)農用トラクター1が、例えば圃場外の路上で2WD(二輪駆動)で直進走行している場合において、制御部200により2WDから等速4WD(等速四輪駆動)の直進走行に自動で切り替えられる場合と、(2)農用トラクター1が、例えば圃場での耕耘作業中に等速4WD(等速四輪駆動)で前進走行した後、圃場の端で旋回走行し始めた場合において、制御部200により等速4WDから増速4WD(増速四輪駆動)に自動で切り替えられ、旋回走行後、直進走行に戻ると、再び等速4WDに自動的に切り替わる場合とに分けて説明する。
【0046】
(1)直進走行の場合について:
ここでは、更に、ブレーキ操作がなされていない場合と、ブレーキ操作がなされた場合に分けて説明する。
【0047】
(1−1)制御部200は、操舵角センサー170とブレーキ操作検出センサー160との検出結果から、農用トラクター1が前進走行中であり、且つブレーキ操作はなされていないと判定した場合、
図5中の第1制御特性線501を利用して、次の制御を行う。
【0048】
即ち、制御部200は、後軸回転センサー101により検出された回転数と、前軸回転センサー102により検出された回転数とに基づいて、周速比Dsを算出して、その値が適正範囲内かどうかを判定する。そして、その周速比Dsが、適正範囲内(
図5に示す周速比DsがD1以上D2未満の範囲内で、同図において「第一規定範囲」と表示した)であれば、2WDを維持するが、例えば、周速比DsがDα(Dα>D2)であると判定すると、2WDから等速4WDに切り替えるべく、等速四輪駆動クラッチ110を接続(入り状態)する。この場合の接続圧力Pは、
図5の第1制御特性線501に示す通り、等速四輪駆動クラッチ110の全圧P1とする。
【0049】
尚、本実施の形態の適正範囲は、本発明の第一の規定の範囲の一例にあたる。
【0050】
その後、制御部200は、後軸回転センサー101により検出された回転数と、前軸回転センサー102により検出された回転数とに基づいて、周速比Dsを算出して、その値が適正範囲内かどうかを判定し、適正範囲内に入るまで上記と同様の制御を繰り返し、適正範囲に入れば、等速4WDを2WDに戻す。
【0051】
尚、2WDから等速4WDに切り替える際の接続圧力P0からP1への昇圧及び等速4WDから2WDに切り替える際の接続圧力P1からP0への減圧は徐々に行っても良いし、急激に行ってもよいが、搭乗者がショック(違和感)を感じない程度に滑らかに昇圧及び減圧することがより好ましい。
【0052】
これにより、前輪2の駆動状態を適正なものに出来、前輪2の過剰な回転を抑え、泥の巻き付きやタイヤの摩耗を防ぐことが出来る。
【0053】
ここで、前輪2の周速と後輪3の周速との間の周速比の適正範囲について、
図6を用いて説明する。
図6は、前輪の周速と後輪の周速との間の周速比の適正範囲について説明する図である。
【0054】
図6の横軸は後輪の周速を示し、縦軸は前輪の周速を示す。
図6中の実線は、後輪の周速と前輪の周速が一致している最適状態を示す最適状態線300であり、
図6中の破線は、前輪2が後輪3に比べて回り過ぎている状態における適正限界を示す前輪オーバーラン適正限界線310であり、
図6中の一転鎖線は、後輪3が前輪2に比べて回り過ぎている状態における適正限界を示す、後輪スリップ適正限界線320である。
【0055】
即ち、前輪の周速と後輪の周速との周速比が、
図6に示した前輪オーバーラン状態の適正限界を示す前輪オーバーラン適正限界線310と、後輪スリップ状態の適正限界を示す後輪スリップ適正限界線320との間の範囲内に入っていれば、前輪の駆動状態は適正であると言える。
【0056】
ここで、
図5に示す第一規定範囲(上記適正範囲)の下限の基準値D1は後輪スリップ限界線320の傾きに基づき、上限の基準値D2は前輪オーバーラン適正限界線310の傾きに基づいてそれぞれ定められた固定値である。
【0057】
尚、基準値D1、D2は後輪の周速に対応して変化する構成としても良い。
【0058】
(1−2)制御部200は、操舵角センサー170とブレーキ操作検出センサー160との検出結果から、農用トラクター1が前進走行中において、ブレーキ操作がなされたと判定した場合、
図5中の第2制御特性線502を利用して、次の制御を行う。
【0059】
ブレーキ操作時は、走行車体1aをスムーズに且つ確実に停止させることが求められる。その為、制御部200は、後軸回転センサー101により検出された回転数と、前軸回転センサー102により検出された回転数とにかかわらず、2WDから等速4WDに切り替えるべく、等速四輪駆動クラッチ110を接続(入り状態)すると共に、その接続圧力Pを、メモリ部210に予め格納されている第2制御特性線502(
図5参照)を用いて、全圧P1に決定して、等速切替比例ソレノイドバルブ111に対して、全圧P1の接続圧力を出力させるべく指令を出す。
【0060】
図5では、第2制御特性線502を、周速比Dsにかかわらず、縦軸に示す接続圧力Pが全圧P1となる一点鎖線の直線で表したが、周速比Dsが0からD1の間と、D2を越える範囲では、実線で表された第1制御特性線501と重複している。
【0061】
尚、この接続圧力P1に向けての昇圧のさせ方は、急激に昇圧させるより滑らかなカーブを描いて昇圧させる方が停止時の衝撃が少なくなる。
【0062】
これにより、ブレーキ非操作時には前輪2の駆動状態を適正なものにするべく、接続圧力Pを予め定めた第1制御特性線501に沿って可変制御出来、ブレーキ操作時には制動力を高めるべく接続圧力を全圧P1に制御することが出来る(
図5参照)。
【0063】
(2)旋回走行の場合について:
制御部200は、操舵角センサー170の検出結果から、走行車体1aが例えば、反時計回りに旋回を開始したと判定した場合、
図7中の第3制御特性線503を利用して、次の制御を行う。
図7は、本実施の形態の農用トラクター1の制御部200のメモリ部210に予め格納されている、旋回走行における周速比Dsと増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pとの対応関係を示す模式図である。
【0064】
尚、本実施の形態では、旋回走行の場合における、旋回外側の後輪の周速と前輪の周速との周速比についての最適状態は、項目(1)で説明した直進走行の場合の最適状態(
図6の符号300参照)と異なるので、その点について、
図8を用いて説明する。
【0065】
図8は、旋回外側の後輪の周速と前輪の周速との間の周速比Ds(
図7参照)の最適状態について説明する図である。
【0066】
即ち、本実施の形態では、旋回走行の場合、
図8に示す通り、前輪の周速が旋回外側の後輪の周速に対して常にやや速くなる状態を最適状態と決め、図中において旋回時最適状態線400とした。
【0067】
尚、前輪の周速と旋回外側の後輪の周速とが一致している周速一致状態を示す線を周速一致状態線410とした。
【0068】
また、本実施の形態では、
図8において、旋回外側の後輪の周速における、旋回時最適状態線400の傾きを基準値D3と定めた。ここで、基準値D3は固定値であるが、旋回外側の後輪の周速に対応して変化する構成としても良い。
【0069】
そして、制御部200は、周速比Ds(
図7参照)がD3未満であれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを高くし、D3以上であれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを低くする構成とした。
【0070】
これによれば、周速比Dsが旋回時最適状態線400上を移動するべく接続圧力が制御されるので、前輪が常に駆動力を出して後輪を少し引っ張る状態の挙動になり、旋回性が向上する。
【0071】
尚、最適な周速比D3に対応する接続圧力P3は、路面状況によって変動する構成としても良い。
【0072】
ここで、再び、
図7中の第3制御特性線503を利用した制御部200の説明に戻る。
【0073】
制御部200は、操舵角センサー170の検出結果から走行車体1aが反時計回りに旋回を開始したと判定した場合、等速4WDから増速4WDに切り替えるべく、前輪伝動クラッチ装置100における等速四輪駆動クラッチ110を切断し、且つ、増速四輪駆動クラッチ120を接続させる。そして、メモリ部210に予め格納されている第3制御特性線503(
図7参照)を用いて、周速比Dβに対応する接続圧力Pβを決定して、増速切替比例ソレノイドバルブ121に対して、接続圧力Pβを出力させるべく指令を出す。
【0074】
尚、制御部200は、反時計回りの旋回走行において、周速比Dsを算出する際、右後輪回転センサー153Rで検出された右後輪の回転数に後輪3の直径を乗算することで右後輪の周速Srを取得し、前軸回転センサー102で検出された前輪伝動軸62の回転数に、前輪伝動軸62の回転数を基準とした時の前輪2の回転数の比と、前輪2の直径を乗算することで前輪の周速Sfを取得し、Ds=Sf/Srの演算を行って求める。
【0075】
反時計回りの旋回中においてその後、制御部200は、旋回外側の右後輪回転センサー153Rにより検出された回転数と、前軸回転センサー102により検出された回転数とに基づいて一定の時間間隔で周速比Dsを算出して、Ds=D3となるように、上記と同様の制御を繰り返し、周速比Ds<D3となれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを高くし、周速比Ds>D3となれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを低くする。
【0076】
尚、決定した接続圧力Pβに向けての昇圧又は減圧の仕方は、滑らかなカーブを描くべく昇圧させても良いし、急激に昇圧させても良い。
【0077】
これにより、旋回走行時において、前輪2に対して増速状態での適正駆動トルクを与えることで、圃場条件により前輪2がブレーキ気味に作用したり、空回りする状態(駆動力が少ない状態)を防止出来る。
【0078】
次に、本実施の形態の農用トラクター1が、路上を直進走行した後、圃場に進入し、圃場内において耕耘作業を行う場合の動作を、
図9を用いて説明する。
【0079】
図9は、農用トラクター1における、上述した各種クラッチの動作状況の一例を示す模式図である。
【0080】
図9に示す通り、路上走行行程600においては、概ね直進走行であるので、制御部200は、2WDによる走行中に、周速比Dsが例えばDα(Dα>D2)であると判定すると(
図5参照)、2WDから等速4WDに切り替えるべく、等速四輪駆動クラッチ110を接続(入り状態)する。この場合、接続圧力Pの決め方は、
図5で説明した通りである。
【0081】
その後、圃場内に進入し耕耘開始位置まで走行する圃場進入行程610においては、制御部200は、周速比Dsが概ねD2より大きいと判定するので、2WDから等速4WDに切り替えるべく、等速四輪駆動クラッチ110を接続(入り状態)し、
図5で説明した判定を行いながら、例えば、耕耘開始位置までその接続状態を維持する。
【0082】
次に、耕耘作業行程620においては、作業者の操作により作業機(図示省略)が下げられて耕耘作業が開始されると、制御部200は、
図5で説明した判定を行いながら、例えば、直進走行中は等速4WDで耕耘作業を行い、圃場の端まで来て旋回を開始すると、操舵角センサー170の検出結果により旋回方向を判定して、
図7で説明した通り、等速4WDから増速4WDに切り替えるべく、増速四輪駆動クラッチ120を接続(入り状態)すると共に、その接続圧力Pを、周速比DsがD3に一致するべくフィードバック制御する。
【0083】
そして、旋回が完了して直進走行が再開されると、制御部200は、周速比Dsを判定して(
図5参照)、増速4WDから等速4WDに切り替える。耕耘作業中においては、上記動作を繰り返す。
【0084】
これにより、農用トラクター1が直進走行している場合に、例えば、前輪と後輪との周速度の間に差が発生すると、四輪駆動クラッチの接続圧力を、当該差の大きさに対応した値に制御することで、前輪の駆動状態を適正なものに出来、前輪の過剰な回転を抑え、泥の巻き付きやタイヤの摩耗を防ぐことが出来る。
【0085】
また、操舵角センサー170の検出結果により農用トラクター1が旋回中であると判定された場合、前輪に対して増速で駆動力を伝達するべく前輪伝動クラッチ装置100が切り替えられると共に、前輪に適正な駆動トルクを与えることが出来、安定した旋回を行うことが出来る。
【0086】
尚、上記実施の形態では、
図5中の第1制御特性線501で示した通り、制御部200は、周速比Dsが第一規定範囲の外にあるときは、周速比Dsの値に関わらず、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力Pとして一律に全圧P1を掛ける構成について説明したが、これに限らず例えば、
図10に示す通り、制御部200は、周速比DsがD1以上かつD2未満であれば、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力PをP0とすることで等速四輪駆動クラッチ110を「切」状態とし2WDの走行を維持するが、D1未満又はD2以上であれば、2WDを等速4WDに切り替えると共に、その周速比Dsの値に対応した接続圧力Pを決定して、その決定した接続圧力Pを用いて、等速四輪駆動クラッチ110の接続状態を維持する構成であっても良い。例えば、
図10では、制御部200は、周速比がDαの場合、予め定められた第4制御特性線504を利用して、接続圧力PをPα(Pα<P1)とする。ここで、
図10は、本実施の形態の農用トラクター1の制御部200のメモリ部210に予め格納されている、周速比と接続圧力との対応関係を示す別の例の模式図である。
【0087】
尚、上記実施の形態では、等速四輪駆動クラッチ110の接続又は切断の判定の基準値D1、D2(
図5参照)は、固定値の場合について説明したが、これに限らず例えば、基準値D1、D2は、D1、D2の平均値や、或いは、D1、D2の内の最大値、或いはその他の値等といった固定値であっても良いし、後輪の周速に対応して決められる構成としても良い。
【0088】
また、上記実施の形態では、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを決定する基準値D3(
図7参照)は、固定値の場合について説明したが、これに限らず例えば、基準値D3は、D3の平均値や、D3の内の最大値、或いはその他の値等といった固定値であっても良いし、旋回外側の後輪の周速に対応して決められる構成としても良い。
【0089】
また、上記実施の形態では、農用トラクター1の制御部200が、直進走行時において、2WDから等速4WDに切り替える際の等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を所定のルールに基づいて制御する構成と(
図5、
図10参照)、旋回走行時において、等速4WDから増速4WDに切り替える際に増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力を別の所定のルールに基づいて制御する構成(
図7参照)を同時に実現する場合について説明したが、これに限らず例えば、直進走行時における制御と、旋回走行時における制御との内、何れか一方の制御を実現する構成であっても良い。
【0090】
また、上記実施の形態では、周速比Dsが適正範囲内にあれば、即ち、基準値D1以上D2未満であれば、2WDを実行する構成について説明したが、これに限らず例えば、周速比Dsが、最適状態線300(
図6参照)上にくるまでは、等速4WDを実行すると共に、その接続圧力を低めに設定する制御を行っても良い。また、この構成では、前輪の周速と後輪の周速の関係が、
図6に示した前輪オーバーラン適正限界線310より上側(即ち、オーバーラン大ゾーン)にある場合、及び、後輪スリップ適正限界線320より下側(即ち、スリップ大ゾーン)にある場合、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を高めに設定する。更に、この構成では、等速四輪駆動クラッチ110のクラッチ材は、カーボン製等のすべりに強い材質とし、滑りトルクを発生させながら回転数のコントロールが出来る構成としても良い。これにより、路面との関係で適正な駆動力を、クラッチ面を滑らせながらコントロールする事で、常に適正な駆動力で摩耗の少ない駆動を実現出来る。
【0091】
また、上記実施の形態では、直進走行において、後輪の周速と前輪の周速との周速比Dsを算出し、その周速比Dsに基づいて等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を決める構成について説明したが、これに限らず例えば、後輪の回転数と前輪の回転数との比又は差を利用して、等速四輪駆動クラッチ110接続圧力を決める構成であっても良い。また、この場合、後輪の回転数と前輪の回転数とが求められるのであれば、何れの場所の回転数を利用する構成でも良い。
【0092】
また、上記実施の形態では、旋回走行において、旋回外側の後輪の周速と前輪の周速との周速比Dsを算出し、その周速比Dsに基づいて増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力を決める構成について説明したが、これに限らず例えば、旋回外側の後輪の回転数と前輪の回転数との比又は差を利用して、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力を決める構成であっても良い。また、この場合、旋回外側の後輪の回転数と前輪の回転数とが求められるのであれば、何れの場所の回転数を利用する構成であっても良い。
【0093】
また、上記実施の形態では、直進走行において、ある時点で検出された後輪及び前輪の瞬時値の回転数に基づいて、周速比を算出する構成を中心に説明したが、これに限らず例えば、後軸回転センサー101の検出結果から求めた後軸回転数と、前軸回転センサー102の検出結果から求めた前軸平均回転数との比又は差に基づいて、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を制御する構成でも良い。これにより、前輪2の回転数の頻繁な変動に対しても、接続圧力の制御を安定的に行える。
【0094】
また、上記実施の形態では、直進走行において、ある時点で検出された後輪及び前輪の瞬時値の回転数に基づいて、周速比を算出する構成を中心に説明したが、これに限らず例えば、
図11に示す通り、制御部200は、(1)後軸回転センサー101により検出された瞬時値と前軸回転センサー102により検出された瞬時値との比又は差(
図11の符号710参照)が、上記第一規定範囲(
図11参照)を含む予め定められた第二規定範囲(
図11参照)の内にある場合、後軸回転センサー101の検出結果から求めた後軸回転数と前軸回転センサー102の検出結果から求めた前軸平均回転数との比又は差(
図11の符号720参照)に基づいて、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を制御し、(2)後軸回転センサー101により検出された瞬時値と前軸回転センサー102により検出された瞬時値との比又は差(
図11の符号710参照)が、第二規定範囲の外にある場合、後軸回転センサー101により検出された瞬時値と前軸回転センサー102により検出された瞬時値との比又は差(
図11の符号710参照)に基づいて、所定時間(
図11のTw参照)の間、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を制御する構成でも良い。
【0095】
ここで、
図11は、本実施の形態の農用トラクター1の周速比Ds(前輪/後輪)と等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力Pとの関係の一例を時系列で示した模式図である。
【0096】
これにより、例えば、後軸回転数と前軸回転数との瞬時値の比又は差(
図11の符号710参照)が第二規定範囲の内にあるときは、前軸回転数について平均回転数を求め、後軸回転数と当該前軸平均回転数との比又は差(
図11の符号720参照)に基づいて、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力を制御することにより、前輪2の駆動状態を適正なものとし、また、ブレーキ操作時に後輪3がロックした場合や、二輪駆動に近い接続圧力時に後輪3がスリップした場合等、後軸回転数と前軸回転数との瞬時値の比又は差(
図11の符号710参照)が第二規定範囲の外になったときは、平均ではなく、後軸回転数と前軸回転数との瞬時値の比又は差(
図11の符号710参照)に基づいて、等速四輪駆動クラッチの接続圧力を制御することで、後輪ロックやスリップに瞬時に対応出来る。
【0097】
ここで、本実施の形態の第一規定範囲は本発明の第一の規定の範囲の一例にあたり、本実施の形態の第二規定範囲は本発明の第二の規定の範囲の一例にあたる。
【0098】
ここで、上記構成において、
図11を参照しながら、制御部200による、周速比Ds(前輪/後輪)に基づいた、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力Pの制御の一例を時系列的に説明する。
【0099】
図11において、前輪回転数の変化曲線は、前輪回転数の瞬時値曲線701については実線で示し、前輪回転数の平均値曲線702については破線で示した。また、周速比Ds(前輪周速/後輪周速)の変化曲線は、後輪回転数の瞬時値と前輪回転数の瞬時値とに基づいた瞬時値周速比曲線710については実線で示し、後輪回転数の瞬時値と前輪回転数の平均回転数とに基づいた平均値周速比曲線720については破線で示した。また、第一規定範囲は1.1〜1.6の範囲であり、第二規定範囲は0.4〜2.0の範囲である。
【0100】
図11に示す通り、時刻t1では、瞬時値周速比曲線710は第二規定範囲の内にあり、且つ、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外ではないので、等速四輪駆動クラッチ110は「切」状態のまま、即ち、接続圧力はP0である。
【0101】
次に、時刻t2では、瞬時値周速比曲線710は第二規定範囲の内にあり、且つ、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外にあるので、等速四輪駆動クラッチ110は「入」状態となり、時刻t3で接続圧力P1に到達する。
【0102】
その後、時刻t4で、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の内に入るので、二輪駆動状態とするべく、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力は、時刻t4からt5に至るまでの間において徐々に低下して、時刻t5において完全に「切」状態となる。
【0103】
次に、時刻t6において、瞬時値周速比曲線710は第二規定範囲の外にあるので、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外にあるか否かにかかわらず、等速四輪駆動クラッチ110は「入」状態となり、時刻t7で接続圧力P1に到達する。その後、時刻t8で接続圧力は、時刻t8からt9に至るまでの間において徐々に低下して、時刻t9において完全に「切」状態となる。この場合、予め定められた時間Twの間、即ち、時刻t6〜t8の間、等速四輪駆動クラッチ110は接続圧力として実質上P1が掛けられ、時刻t9以降は、二輪駆動状態に戻る。
【0104】
ここで、時刻t6周辺において、瞬時値周速比曲線710が急激に第二規定範囲の下限値0.4を下回ったのは、後輪は回転しているが、前輪の回転数の瞬時値が極端に低下した状態(
図11の時刻t6周辺の瞬時値曲線701参照)、即ち後輪がスリップ状態にあることを意味している。
【0105】
尚、
図11では、時刻t9の少し手前から、旋回走行が開始されているので、直進走行において行われていた、上記第一規定範囲及び第二規定範囲に基づく等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力の制御は、旋回走行中は行われない。その代わり、上記項目(2)で説明した通り、周速比Dsを最適な周速比D3と一致させるべく周速比Ds<D3となれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを高くし、周速比Ds>D3となれば、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力Pを低くするフィードバック制御が行われる。その結果、時刻t9以降において、周速比Ds(前輪周速/後輪周速)が、高めの値を維持している。
【0106】
また、
図11で説明した構成例では、瞬時値周速比曲線710が第二規定範囲の外にある場合は、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外にあるか否かにかかわらず、一定時間Twの間、等速四輪駆動クラッチ110に接続圧力として実質上P1が掛けられる制御について説明したが、これに限らず例えば、瞬時値周速比曲線710が第二規定範囲の外に出ると同時に、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外に出る場合は、平均値周速比曲線720が第一規定範囲の外に居る時間と一定時間Twとの内、何れか長い方の時間、等速四輪駆動クラッチ110の接続圧力として実質上P1を掛ける制御としても良い。
【0107】
また、
図11で説明した構成例では、周速比Dsの値に関わらず、条件を満たせば、等速四輪駆動クラッチ110に接続圧力として、一律に全圧P1を掛ける構成について説明したが、これに限らず例えば、周速比Dsの値に対応した接続圧力を決定して、その決定した接続圧力Pを用いて、等速四輪駆動クラッチ110の接続状態を維持する構成であっても良い。
【0108】
また、上記実施の形態では、操舵角センサー170により旋回方向を検出する構成について説明したが、これに限らず例えば、操舵角センサー170を設けずに、右後輪回転センサー153Rと左後輪回転センサー153Lのそれぞれの検出結果から、回転数の速い方の後輪を求めて、旋回方向は、その求めた後輪の位置と反対側の方向であると判定する構成であっても良い。
【0109】
また、上記実施の形態では、旋回走行において、前輪が常に駆動力を出して後輪を少し引っ張る状態で旋回するべく、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力を決定する構成について説明したが、これに限らず例えば、旋回走行を開始した直後において、前輪が駆動力を出して後輪を少し引っ張る状態で旋回するべく、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力を決定し、その後は、前輪の周速と旋回外側の後輪の周速が一致するべく接続圧力を制御する構成でも良い。これにより、旋回開始時の増速4WDへの切り替わりのショックが和らぐ。
【0110】
また、上記実施の形態では、旋回走行時において、前輪の周速が旋回外側の後輪の周速に対して常にやや速くなる状態を維持するべく、即ち、周速比Dsが旋回時最適状態線400上にくるべく増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力が制御される(
図8参照)構成について説明したが、これに限らず例えば、周速比Dsが旋回時最適状態線400と周速一致状態線410とで囲まれた範囲を移動するべく接続圧力が制御される構成でも良い。この構成では、接続圧力Pは、
図7において、周速比が1〜D3の範囲では同一の値を示す点で、上記構成と相違する。
【0111】
また、上記実施の形態では、旋回走行時において、周速比Dsが旋回時最適状態線400上にくるべく増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力が制御される(
図8参照)構成について説明したが、これに限らず例えば、周速比Dsが1となるべく、即ち、前輪の周速が旋回外側の後輪の周速に一致するべく、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力が制御される構成でも良い。
【0112】
また、上記実施の形態の増速四輪駆動クラッチ120の前輪増速ギヤの回転比は、2倍以上の回転比となるギヤで構成しても良い。即ち、最大を2倍以上の回転数が発生するギヤで構成しておくことで、増速四輪駆動クラッチ120の接続圧力をコントロールすることによるトルクコントロールで、路面状態により適正トルクでのコントロールが可能となる。
【0113】
また、上記実施の形態の等速四輪駆動クラッチ110、増速四輪駆動クラッチ120のクラッチ材は、カーボン製等のすべりに強い材質とし、滑りトルクを発生させながら回転数のコントロールが出来る構成としても良い。
【0114】
これにより、路面との関係で適正な駆動力を、クラッチ面を滑らせながらコントロールする事で、常に適正な駆動力で摩耗の少ない駆動を実現出来る。
【0115】
また、上記実施の形態では、作業車両の一例として農用トラクターについて説明したが、これに限らず例えば、農業用以外に、建築用、運搬用等に用いるトラクターであっても良いし、トラクターに限らず例えば、その他の作業車両であっても良い。