(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンが収容される上部ユニットと、プロペラが取り付けられたプロペラ軸を回転可能に支持する下部ユニットと、前記上部ユニットと前記下部ユニットの間に設けられて前記エンジンからの回転動力を前記プロペラ軸に伝達するドライブ軸の一部が収容される中間部ユニットとを有するとともに、シフトポジションを切替えるシフト装置を有する船外機であって、
前記ドライブ軸は、同軸かつ直列に並べて設けられる第1のドライブ軸と第2のドライブ軸とを有し、
前記シフト装置は、
前記第1のドライブ軸に一体に回転する第1の歯車と、
前記第2のドライブ軸に同軸で、前記第2のドライブ軸に対して相対的に回転可能に設けられる第2の歯車と、
前記第1の歯車と前記第2の歯車に噛合しており、前記第1の歯車の回転を前記第2の歯車に伝達する中間歯車と、
前記中間歯車が設けられる中間軸を回転可能に支持する軸受と、
を有してシフト装置室に収容され、
前記中間歯車と、前記中間軸と、前記軸受と、前記軸受を収容する軸受ハウジングとが、前記下部ユニットとは別に単体としての中間歯車モジュールとして組み立てられてモジュール化がなされ、前記中間歯車モジュールが前記シフト装置室に着脱可能に取り付けられることを特徴とする船外機。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態では、二重反転プロペラを有する船外機を例に示す。なお、各図においては、適宜、船外機の前側を矢印Frで、後側を矢印Rrで、右側を矢印Rで、左側を矢印Lで、上側を矢印Upで、下側を矢印Dnで示す。
【0016】
<船外機の全体構成>
船外機1の全体的な構成例について、
図1と
図2を参照して説明する。
図1は、船外機1の構成例を模式的に示す部分断面図である。
図2は、船外機1の下部の内部の構成例を拡大して示す断面図である。
図1に示すように、船外機1は、最も上側に設けられる上部ユニット901と、最も下側に設けられる下部ユニット903と、上部ユニット901と下部ユニット903との間に設けられる中間部ユニット902とを有する。上部ユニット901は、筐体としてエンジンカバー101を有する。そして、エンジンカバー101の内部には、船外機1の駆動力源であるエンジン13(内燃機関)が搭載される。
【0017】
下部ユニット903は、筐体としてロアーユニットハウジング103を有する。ロアーユニットハウジング103の内部には、プロペラ軸23が、回転可能に収容される。プロペラ軸23は、前側プロペラ11と後側プロペラ12のそれぞれに、回転動力を伝達する。ロアーユニットハウジング103の後側には、推進力を発生させる前側プロペラ11と後側プロペラ12とが、同軸で前後方向に並ぶように配置されている。そして、前側プロペラ11と後側プロペラ12とが、互いに反対方向に回転する二重反転プロペラを構成する。本発明の実施形態では、後方から見て、前側プロペラ11が右回り(時計回り)に回転し、後側プロペラ12が左回り(反時計回り)に回転すると、船外機1が前進するものとする。
【0018】
中間部ユニット902は、筐体としてドライブシャフトハウジング102を有する。ドライブシャフトハウジング102の内部には、エンジン13の回転動力をプロペラ軸23に伝達するドライブ軸17の一部が収容される。ドライブシャフトハウジング102の前側には、船外機1を船体に取り付けるためのブラケット装置14が設けられる。船外機1は、このブラケット装置14を介して船舶の船尾板などに取り付けられて使用される。そして、エンジンカバー101とドライブシャフトハウジング102とロアーユニットハウジング103とが、船外機1の本体の外装(筺体)を構成する。
【0019】
船外機1の動力伝達系の構成は、次のとおりである。
図1に示すように、船外機1は、エンジン13(内燃機関)と、ドライブ軸17と、シフト装置4と、プロペラ軸23とを有する。エンジン13は、船外機1の駆動力源である。ドライブ軸17は、エンジン13が出力する回転動力をプロペラ軸23に伝達する。ドライブ軸17は、第1のドライブ軸である上側ドライブ軸171と、第2のドライブ軸である下側ドライブ軸172とで構成される。上側ドライブ軸171と下側ドライブ軸172とは別体の部材であり、上下方向に同軸に並べて配置される。シフト装置4は、ドライブ軸17を構成する上側ドライブ軸171と下側ドライブ軸172との間で、回転動力の断続と回転方向の切替え(すなわち、シフトポジションの切替え)を行う。プロペラ軸23は、前側プロペラ11と一体に回転する内側軸231と、後側プロペラ12と一体に回転する外側軸232とで構成される。外側軸232は中空軸である。内側軸231は、外側軸232の内部に同軸に配置される。エンジン13が出力する回転動力は、上側ドライブ軸171と、シフト装置4と、下側ドライブ軸172と、プロペラ軸23(内側軸231と外側軸232)とを介して、前側プロペラ11と後側プロペラ12のそれぞれに伝達される。
【0020】
図1に示すように、エンジンカバー101の内部には、エンジン13が、エンジンホルダ15の上側に支持された状態で搭載される。エンジン13には、例えば、バーティカル型(縦型)の水冷エンジンが適用される。この場合には、エンジン13は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケースなどの組み合わせにより構成される。そして、エンジン13は、クランクケースが最も前側に位置し、シリンダブロックがクランクケースの後側に位置し、シリンダヘッドが最も後側に位置し、クランクシャフトの軸線が上下方向に平行になる向きで配置される。エンジンホルダ15の下側であってドライブ軸17の後側には、オイルパン16が配置される。
【0021】
ドライブシャフトハウジング102の内部には、ドライブ軸17の一部である上側ドライブ軸171が、上下方向(鉛直方向)に延伸する向き(軸線が鉛直となる向き)で回転可能に収容されている。上側ドライブ軸171の上端部は、エンジン13のクランクシャフトに接続されている。上側ドライブ軸171の下端部は、シフト装置4に接続されている。そして、上側ドライブ軸171は、エンジン13が出力する回転動力をシフト装置4に伝達する。また、ドライブシャフトハウジング102の内部には、ウォーターポンプ28が配置される。ウォーターポンプ28は、上側ドライブ軸171の回転によって作動し、船外機1の外部から冷却水を取り入れてエンジン13に送給する。
【0022】
図2に示すように、下部ユニット903の筐体であるロアーユニットハウジング103は、中間部ユニット902の筐体であるドライブシャフトハウジング102の下側に設けられる。ロアーユニットハウジング103の内部には、シフト装置4と、下側ドライブ軸172と、軸受ハウジング20と、一対の被動ギアである前側歯車21および後側歯車22と、プロペラ軸23(内側軸231と外側軸232)とが配置される。なお、ロアーユニットハウジング103の内部の上寄り(ドライブシャフトハウジング102と接合部の近傍)には、シフト装置収容室106が形成される。シフト装置収容室106は、上側(ドライブシャフトハウジング102の側)が開口する空間である。そして、シフト装置4は、このシフト装置収容室106の内部に収容される。シフト装置4の構成の詳細については後述する。
【0023】
下側ドライブ軸172は、上側ドライブ軸171の下側に、上側ドライブ軸171と同軸かつ直列に配置される。下側ドライブ軸172の軸線は、上下方向に平行である。そして、下側ドライブ軸172は、2つの軸受46,49によって回転可能に支持される。2つの軸受46,49のうちの上側に位置する軸受46には、ラジアル荷重と上下両方向のスラスト荷重に耐えられるように、複列型の円錐ころ軸受(テーパーローラーベアリング)が適用される。本実施形態では、このような複列型の円錐ころ軸受として、単一のアウターレース462と2組の円錐ころの列461を有する円錐ころ軸受が適用される。そして、軸受46は、リングナット464によって下側ドライブ軸172の外周に保持され、ロアーユニットハウジング103の内部に設けられる軸受収容室108の内部に収容される。また、下側の軸受49には、円筒ころ軸受や針状ころ軸受などのラジアル軸受が適用される。ただし、この軸受46には、2個の単列型の円錐ころ軸受を互いに反対向きに直列に配置し、これら2個の単列型の円錐ころ軸受を単一の円筒状の部材(アウターレース462に相当する部材)に収容する構成であってもよい。
【0024】
下側ドライブ軸172の上端部は、シフト装置4に接続されている。そして、下側ドライブ軸172は、シフト装置4から鉛直方向下側に向かって延伸する。下側ドライブ軸172の下端部には、駆動歯車として機能するピニオン歯車18が、下側ドライブ軸172と一体に回転するように設けられる。このピニオン歯車18には、笠歯車(べベルギア)が適用される。また、このピニオン歯車18は、下側ドライブ軸172の下端部に、スプライン結合している。
【0025】
軸受ハウジング20は、プロペラ軸23および後側歯車22を回転可能に支持する部材である。軸受ハウジング20は、軸線方向に貫通する筒状の部材であり、その軸線が前後方向に平行な向きで配置される。軸受ハウジング20は、後側からロアーユニットハウジング103の内部に挿入され、ボルトなどによってロアーユニットハウジング103に着脱可能に固定されている。そして、軸受ハウジング20は、軸受221,238によって、外側軸232および後側歯車22を回転可能に支持している。
【0026】
外側軸232は中空軸であり、その軸線が前後方向に平行な向きで配置されている。外側軸232の長手方向(前後方向)の中間部は、軸受ハウジング20の内部に挿通されており、軸受221,238によって、軸受ハウジング20に対して回転可能に支持される。なお、外側軸232を回転可能に支持する軸受221,238には、針状ころ軸受や、円筒ころ軸受などのころがり軸受が適用される。外側軸232の前端部には、後側歯車22が、ナットなどによって一体に回転するように固定されている。外側軸232の後端部には、前側プロペラ11が、図略のシャーピンなどを介して一体に回転するように設けられる。
【0027】
内側軸231は、その長手方向の中間部が外側軸232の内部に挿入されており、軸受236,237によって、外側軸232および後側歯車22に対して回転可能に支持されている。外側軸232に設けられる軸受236には、例えば、針状ころ軸受などの転がり軸受が適用される。後側歯車22に設けられる軸受237には、円錐ころ軸受などが適用できる。このような構成により、内側軸231と外側軸232とは、互いに独立して回転可能である。内側軸231の前端部は、外側軸232の前端部から前方に突出しており、側面視において下側ドライブ軸172よりも前方に位置している。そして、内側軸231の前端部には、前側歯車21が一体に回転するように係合している。内側軸231の後端部は、外側軸232の後端部から後方に突出している。そして、内側軸231の後端部には、後側プロペラ12が、図略のシャーピンなどによって一体に回転するように設けられる。
【0028】
一対の被動歯車である前側歯車21と後側歯車22には、いずれもベベルギア(笠歯車)が適用される。前側歯車21と後側歯車22は、それぞれ、駆動歯車であるピニオン歯車18と常時噛合しており、ピニオン歯車18から回転動力が伝達されて回転する。前側歯車21は、ピニオン歯車18の前下側に配置され、ロアーユニットハウジング103の内部に、軸受233(例えば、円錐ころ軸受など)を介して回転可能に支持されている。後側歯車22は、ピニオン歯車18の後下側に配置され、軸受ハウジング20の前側に、軸受221(例えば、スラスト針状ころ軸受やスラスト円筒ころ軸受と円筒ころ軸受との組み合わせ)によって、回転可能に支持されている。前側歯車21と後側歯車22は、回転中心軸が前後方向に平行となる向きで、前後方向に同軸に並べて設けられる。そして、前述のとおり、前側歯車21は、内側軸231の前端部に係合しており、前側歯車21と内側軸231とは一体に回転する。一方、後側歯車22は、外側軸232の前端部に設けられており、後側歯車22と外側軸232とは一体に回転する。そして、前側歯車21と後側歯車22とは、下側ドライブ軸172から伝達される回転動力によって互いに反対方向に回転する。
【0029】
このように、エンジン13が出力する回転動力は、上側ドライブ軸171と、シフト装置4と、下側ドライブ軸172と、ピニオン歯車18とを介して、一対の被動歯車である前側歯車21と後側歯車22とに伝達される。そして、前側歯車21に伝達された回転動力は、内側軸231を介して後側プロペラ12に伝達される。また、後側歯車22に伝達された回転動力は、外側軸232を介して前側プロペラ11に伝達される。これにより、前側プロペラ11と後側プロペラ12とは、互いに反対方向に回転する二重反転プロペラを構成する。
【0030】
なお、軸受ハウジング20と、外側軸232と、内側軸231と、後側歯車22とは、モジュール化されている。そして、モジュール化された状態で、ボルトなどによってロアーユニットハウジング103に着脱可能に組み付けられる。
【0031】
図1に示すように、ブラケット装置14は、船外機1の筐体の前側(特に、ドライブシャフトハウジング102の前側)に設けられる。ブラケット装置14は、スイベルブラケット141とトランサムブラケット142とを有する。スイベルブラケット141は、パイロット軸143を介して、船外機1の筐体の前側に水平方向に回転可能(左右方向に揺動可能)に連結される。パイロット軸143は、船外機1の操舵中心となる軸である。パイロット軸143は、その軸線が上下方向(鉛直方向)に平行になる向きで、船外機1の筐体の前側に固定されている。例えば、パイロット軸143の上端部が上部マウントブラケット145を介して船外機1の筐体に固定され、下端部が下部マウントブラケット146を介して船外機1の筐体に固定される。なお、パイロット軸143は、軸線方向に貫通する管状の構成が適用される。
【0032】
トランサムブラケット142は、ティルト軸144を介して、スイベルブラケット141にピッチング方向に回転可能(上下方向に揺動可能)に連結される。ティルト軸144は、その軸線が左右方向に平行になる向きで、スイベルブラケット141に固定されている。トランサムブラケット142には、このほか、船舶の船尾板などに取り付けるためのクランプなどが設けられる。そして、船外機1は、ブラケット装置14のトランサムブラケット142を介して、船舶の船尾板などに取り付けられる。ブラケット装置14がこのような構成であると、船外機1は、船舶の船尾板などに取り付けられた状態で、パイロット軸143を中心として水平方向に回転可能となり、ティルト軸144を中心として上下方向に回転可能となる。
【0033】
なお、上部マウントブラケット145には、図略のステアリングブラケットが設けられる。ステアリングブラケットには、図略の操舵ハンドルが連結される。操船者は、操舵ハンドルを操作することによって、船外機1の操舵の操作をおこなう。また、船外機1には、図略のトリム制御装置が設けられる。トリム装置は、油圧などによって船外機1をピッチング方向に回転させることができる。そして操船者は、トリム制御装置を操作することによって、船外機1のティルトやトリム調整を行う。
【0034】
このほか、船外機1には、エンジン13の排気ガスを船外機1の外部に導く排気経路25と、冷却水をエンジン13に導く冷却水経路26が設けられる。
排気経路25は、上部排気経路251と、下部排気経路252とで構成される。上部排気経路251は、ドライブシャフトハウジング102の内部に、上側ドライブ軸171の後側に形成される。下部排気経路252は、ロアーユニットハウジング103の内部に、シフト装置4の後側に形成される。そして、排気経路25は、ドライブシャフトハウジング102とロアーユニットハウジング103の内部を上下方向に延伸する。上部排気経路251はエンジン13の排気ポート(図略)に連通している。下部排気経路252は、例えばキャビテーションプレート105の下面に形成される排気口(図略)と連通している。そして、ロアーユニットハウジング103がドライブシャフトハウジング102に取り付けられると、上部排気経路251と下部排気経路252とが一体に連通する。このため、エンジン13の排気ガスは、上部排気経路251と下部排気経路252と排気口を通じて、船外機1の外部に排出される。
【0035】
<シフト装置の構成>
次に、シフト装置4の構成について、
図3〜
図6を参照して説明する。
図3は、シフト装置4の構成例を模式的に示す分解斜視図である。
図4は、シフト装置4の構成例を模式的に示す斜視図である。
図5は、シフト装置4の構成例を示す断面図である。
図6は、シフト装置4がロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106の内部に組み付けられた状態を模式的に示す断面斜視図である。なお、
図3においては、中間歯車モジュール401が分解された状態と、ロアーユニットハウジング103に組み付けられた状態とを、まとめて示してある。
【0036】
シフト装置4は、第1の歯車である上側歯車41と、中間歯車42を有する中間歯車モジュール401と、第2の歯車である下側歯車44と、ドッグクラッチ45(クラッチ体)と、アクチュエータ5と、シフトフォーク部材61と、シフトフォークガイド62とを有する。そして、シフト装置4は、ロアーユニットハウジング103の内部に形成されるシフト装置収容室106に収容される。シフト装置収容室106は、ロアーユニットハウジング103の内部の上寄りの部分に形成される空間であり、上側(ドライブシャフトハウジング102に接合される側)が開口している。そして、ロアーユニットハウジング103の上部には、シフト装置収容室106の上側の開口を塞ぐ蓋部材71が取り付けられる。これにより、シフト装置収容室106に外部から水等が侵入することが防止される。また、シフト装置4のアクチュエータ5とシフトフォークガイド62と上側歯車41は、この蓋部材71に支持される。
【0037】
蓋部材71は、平板状に形成される。そして、蓋部材71の平面視における外形は、なお、蓋部材71の平面視の形状は、ロアーユニットハウジング103に形成されるシフト装置収容室106の開口部を塞ぐことができるように、この開口部の上端縁の形状に応じた形状に形成される。
【0038】
蓋部材71の前寄りの部分には、上下方向に貫通する開口部711が形成される。アクチュエータ5は、この開口部711に上側から嵌め込まれて下側に突出した状態で、蓋部材71に固定される。蓋部材71には、この開口部711を囲むように、ガスケット714を嵌め込むための溝(図略)が形成される。蓋部材71の前後方向中央部であって、開口部711の後側には、軸受支持部712が設けられる。軸受支持部712は、上側ドライブ軸171を回転可能に支持する軸受413(
図2参照)と、上側歯車41を回転可能に支持する軸受412(
図2参照)とを収容して支持する部分である。軸受支持部712は、その内部にこれらの軸受412,413を収容して支持できるように、内部に空間が形成された筒状の構成を有する。そして軸受支持部712は、蓋部材71の他の部分から上側に向かって突出(換言すると膨出)し、下側が開口する。蓋部材71の下面には、側面視において開口部711と軸受支持部712との間に、後述するシフトフォークガイド62を保持するガイド支持部713が設けられる。ガイド支持部713は、蓋部材71の下面から下方に向かって突出する筒状の構成を有し、シフトフォークガイド62の上端部を挿入できる。また、ガイド支持部713は上下方向に貫通する貫通孔が形成されており、上面側からボルト64を挿入することができる。さらに、蓋部材71の下面には、ガスケット714を嵌め込むための溝が、平面視において外周縁に沿って形成される。
【0039】
一方、ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106の上端部には、上面視においてシフト装置収容室106を囲むように、係合面107が設けられる。係合面107は上側を向く面であり、かつ、ドライブ軸17の軸線方向に直角な面である。この係合面107は、蓋部材71が接合される面であり、ロアーユニットハウジング103と蓋部材71との分割面となる。
【0040】
そして、蓋部材71は、ロアーユニットハウジング103の上側から取り付けられる。具体的には、蓋部材71の下面の周縁部に設けられる溝にガスケット714が嵌め込まれ、その状態で、蓋部材71の下面の周縁部が、ロアーユニットハウジング103の係合面に重ね合わせられる。そして、蓋部材71は、ボルトなどによって、ロアーユニットハウジング103に着脱可能に固定される。このような構成であると、ロアーユニットハウジング103に設けられるシフト装置収容室106は、蓋部材71によって塞がれる。また、蓋部材71とロアーユニットハウジング103の係合面との間は、ガスケット714によって気密性(水密性)が確保される。したがって、外部からシフト装置収容室106の内部への水等の浸入が防止される。
【0041】
上側歯車41は、軸受412によって、蓋部材71の軸受支持部712に回転可能に支持される。この軸受412には、ラジアル玉軸受やラジアルころ軸受などが適用される。そして、上側歯車41は、上側ドライブ軸171の下端部に、上側ドライブ軸171と一体に回転するように係合している。例えば、上側歯車41と上側ドライブ軸171の下端部とはスプライン結合している。上側歯車41は、中間歯車42と常時噛合している。そして、上側歯車41は、エンジン13から上側ドライブ軸171を介して伝達された回転動力を、中間歯車42に常時伝達する。なお、上側歯車41には、ベベルギア(笠歯車)が適用される。上側歯車41の下面には、ドッグクラッチ45の上側係合爪451と係合可能な係合爪411(ドッグ)が設けられる。
【0042】
中間歯車モジュール401は、中間歯車42と、この中間歯車42と一体に回転する中間軸43と、この中間軸43を回転可能に支持する軸受および軸受ハウジング47とを有する。中間歯車42および中間軸43は、それらの軸線が前後方向に平行となる向きに配置される。中間歯車42には、笠歯車(ベベルギア)が適用される。中間歯車42は、上側歯車41と下側歯車44の間に設けられ、これらと常時噛合している。そして、中間歯車42は、上側歯車41から伝達された回転動力を、下側歯車44に常時伝達する。なお、中間歯車モジュール401は、ロアーユニットハウジング103とは別体である。そして、中間歯車モジュール401は、ボルト476およびナット473によって、ロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付けられる。また、中間歯車モジュール401は、ドライブ軸17の後側に配置される。なお、中間歯車モジュール401の構成については後述する。
【0043】
下側歯車44は、上側歯車41から所定の距離をおいて離れた下側の位置に、上側歯車41と同軸に配置される。下側歯車44には、ベベルギア(笠歯車)が適用される。下側歯車44は、ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106の内部に、軸受442を介して回転可能に支持される。この軸受442には、例えばラジアル玉軸受やラジアルころ軸受が適用される。下側歯車44は、中間歯車42と常時噛合しており、上側歯車41から中間歯車42を介して回転動力が伝達される。このような構成であると、下側歯車44は、上側歯車41とは反対方向に回転する。なお、下側歯車44の上面には、ドッグクラッチ45の下側係合爪452と係合可能な係合爪441(ドッグ)が設けられる。
【0044】
下側ドライブ軸172の上端部は、下側歯車44の軸孔を貫通して上側歯車41と下側歯車44との間に突出している。なお、下側歯車44と下側ドライブ軸172とは固定されておらず、互いに独立して回転することができる。
【0045】
上側歯車41と下側歯車44との間には、下側ドライブ軸172の上端部の外周には、ドッグクラッチ45が設けられる。ドッグクラッチ45は、下側ドライブ軸172と一体に回転するが、下側ドライブ軸172に対してその軸線方向(上下方向)に相対的に往復動可能である。例えば、ドッグクラッチ45の軸孔にはスプライン孔が適用され、下側ドライブ軸172の上端部にはスプライン軸が適用される。そして、ドッグクラッチ45と下側ドライブ軸172の上端部とはスプライン結合している。ドッグクラッチ45の上面には上側係合爪451(ドッグ)が設けられ、下面には下側係合爪452(ドッグ)が設けられる。
【0046】
そして、ドッグクラッチ45が上側に移動すると、ドッグクラッチ45の上側係合爪451と上側歯車41の下面の係合爪411とが係合し、ドッグクラッチ45は上側歯車41と一体に回転する。このため、上側ドライブ軸171の回転動力は、上側歯車41とドッグクラッチ45を介して下側ドライブ軸172に伝達される。一方、ドッグクラッチ45が下側に移動すると、ドッグクラッチ45の下側係合爪452と下側歯車44の上面の係合爪441とが係合し、ドッグクラッチ45は下側歯車44と一体に回転する。このため、上側ドライブ軸171の回転動力は、上側歯車41と中間歯車42と下側歯車44とドッグクラッチ45とを介して、下側ドライブ軸172に伝達される。ドッグクラッチ45が上下動の範囲の中間に位置すると、ドッグクラッチ45の上側係合爪451は上側歯車41の係合爪411と係合せず、かつ、下側係合爪452は下側歯車44の上面の係合爪441と係合しない。このため、上側ドライブ軸171の回転動力は、下側ドライブ軸172に伝達されない。
【0047】
ここで、中間歯車モジュール401の構成例について説明する。中間歯車モジュール401は、中間歯車42と、中間軸43と、2つの軸受471と、軸受ハウジング47と、ナット474,475とを有する。
【0048】
中間歯車42および中間軸43は、それらの軸線が前後方向に平行となる向きで配置される。中間歯車42は、前述のとおり笠歯車が適用される。そして、中間歯車42は、中間軸43の前端部に、中間軸43と一体に回転するように設けられる。中間軸43は、2つの軸受471によって軸受ハウジング47に回転可能に支持される。中間軸43の前端部と後端部は、それぞれナット474,475を締結できるように、雄ネジが形成される。2つの軸受471には、円錐ころ軸受(テーパーローラーベアリング)が適用される。そして、2つの軸受471(円錐ころ軸受)は、互いに反対向きで前後方向に並べて同軸に配置される。
【0049】
軸受ハウジング47は、2つの軸受471を収容する。軸受ハウジング47は、例えば半割などの分割構造ではなく、一体構造を有している。例えば、軸受ハウジング47は鋼などの金属によって一体に形成される。そして、軸受ハウジング47の内周面の軸線方向の略中心には、軸受471を係止する係止部477が設けられる。係止部477は、例えば、半径方向内側に向かって突起し、円周方向に延伸するリブ状の構成を有する。ただし、係止部477の構成は、この構成に限定されない。要は、軸受ハウジング47に収容された軸受471の端面に係止する構成であればよい。
【0050】
2つの軸受471のうちの一方は前側から軸受ハウジング47に嵌め込まれ、他方は後側から嵌め込まれる。軸受ハウジング47に嵌め込まれた2つの軸受471のそれぞれの端面は、軸受ハウジング47の係止部477に係止する。そして、2つの軸受471に中間軸43が挿通される。その状態で、中間軸43の後端部にナット474が締結される。また、中間軸43の前端部には、中間歯車42が嵌め込まれ、さらにその前側からナット475が締結される。このように、中間軸43の両端部に締結されるナット474,475が、2つの軸受471は軸線方向に予圧を掛ける第1の予圧部材として機能する。なお、前側に設けられる軸受471は、中間歯車42を介してナット475により予圧が掛けられる。このように、本実施形態においては、中間軸43に締結される2つのナット474,475によって、2つの軸受471に予圧が掛けられる。また、2つのナット474,475が中間軸43に締結されることによって、中間歯車42と中間軸43と軸受ハウジング47と2つの軸受471とがモジュール化され、中間歯車モジュール401が構成される。
【0051】
このように、軸受ハウジング47は、ロアーユニットハウジング103と別体に構成される。このような構成であると、軸受ハウジング47とロアーユニットハウジング103とを別種類の材料により形成できる。例えば、ロアーユニットハウジング103は、軽量化の観点からアルミニウムやアルミニウム合金などにより形成されるが、軸受ハウジング47は、強度の観点から鋼によって形成できる。このため、軸受ハウジング47の剛性を高めることができ、軸受471に高い予圧を掛けることができる。
【0052】
また、軸受ハウジング47は、半割構造などといった複数の部材の組み合わせによって形成される構成ではなく、一体に形成される単一の部材である。このような構成によれば、軸受ハウジング47の内周(すなわち、軸受471が収容される部分)の寸法精度を高めることができる。そして、軸受ハウジング47の寸法精度を高めることによって、中間軸43の組み立て精度が高くでき、中間軸43の回転振れを小さくできる。したがって、中間歯車42と上側歯車41および下側歯車44との歯当たりの精度が高くなり、歯車の寿命を延ばすことができる。
【0053】
また、本実施形態においては、
図3に示すように、中間歯車42と中間軸43と軸受ハウジング47と2つの軸受471と
ナット474,475とがモジュール化される。このような構成であると、中間歯車モジュール401は、下部ユニット903とは別に単体での組み立てが可能になる。このため、中間歯車モジュール401の組み立て工程において、軸受471に予圧を掛けることが容易となる。また、中間歯車モジュール401は、小型で軽量な部品で構成されることから、組み立てが容易である。そして、予圧が掛かる部品も小型であることから、寸法のバラつきが小さい。
【0054】
中間歯車モジュール401は、ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106に収容され、ロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付けられる。例えば、軸受ハウジング47には、上下方向に貫通してボルト476を挿通可能な複数の貫通孔472が形成される。一方、ロアーユニットハウジング103には、上側に向かって突起するように、ボルト476が固定されている。そして、これらの貫通孔472にボルト476を挿通し、貫通孔472から突出した部分にナット473を締結する。これにより、中間歯車モジュール401がロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付けられる。
【0055】
次に、アクチュエータ5について説明する。アクチュエータ5は、シフトフォーク部材61を介してドッグクラッチ45をドライブ軸17の軸線方向に移動させる。これにより、シフトポジションを切替える。本実施形態では、アクチュエータ5には、電動式で直動型のアクチュエータ(リニアアクチュエータ)が適用される。電動式のアクチュエータ5は、油圧式に比較して、次のような利点がある。まず、油圧式であると、油圧を発生させるための構成が必要になり、油圧を発生させるための動力をエンジン13からから分配する必要がある。これに対して、電動式であれば、このような構成は不要であるため、燃費の向上を図ることができる。また、油圧式であると、油圧配管やソレノイドバルブなどが必要になる。これに対して、電動式であると、それらの機構は不要である。このため、構造の単純化を図ることができ、製造コストや部品コストの削減を図ることができる。また、ロアーユニットハウジング103をドライブシャフトハウジング102から分離する場合には、油圧式であるとオイルが漏れないようにする必要になるが、電動式であればそのような機構や作業は不要である。
【0056】
図3〜
図5に示すように、アクチュエータ5は、ドッグクラッチ45の前側に隣接するように設けられる。特に、アクチュエータ5は、ドッグクラッチ45と略同じ高さに配置される。アクチュエータ5は、モーター51と、中間歯車52と、ボールネジ機構53とを有する。そして、モーター51と、中間歯車52と、ボールネジ機構53とは、ハウジング501に収容されている。モーター51は、アクチュエータ5の駆動力源であり、回転動力を出力する。モーター51の回転出力軸には駆動歯車510が設けられる。中間歯車52は、モーター51の駆動歯車510とボールネジナット531に噛合しており、モーター51の回転動力をボールネジナット531に伝達する。ボールネジ機構53は、ボールネジナット531とネジ軸532とを有する。ボールネジナット531は、その外周に歯が設けられる歯車(外歯車)でもある。ボールネジ機構53のネジ軸532は、ボールネジ機構の動力出力部材であり、ボールネジナット531の回転に伴ってその軸線方向に移動(直線運動)する。
【0057】
このように、アクチュエータ5は、モーター51の回転動力をネジ軸532の直線運動に変換して出力する直動型のアクチュエータである。
図3〜
図5に示すように、ボールネジ機構53の動力出力部材であるネジ軸532は、その軸線がドライブ軸17の軸線と平行な向きで配置される。すなわち、ネジ軸532は、ドライブ軸17と平行な方向に往復直線運動する。なお、ボールネジ機構53のネジ軸532の外周には、シフトフォーク部材61を連結するために、ネジ(雄ネジ)が形成される。
【0058】
アクチュエータ5のハウジング501は、上半体502と下半体503とからなる上下半割構造を有する。下半体503の内部には、モーター51が収容されるモーター収容室504と、ボールネジ機構53が収容されるボールネジ機構収容室505とが形成される。モーター収容室504は、有底で上側が開口する領域である。ボールネジ機構収容室505は、上側が開口するとともに、底部にはネジ軸532を挿通する貫通孔506が形成される。ボールネジナット531は、ボールネジ機構収容室505に収容され、軸受を介して回転可能に支持される。ネジ軸532の下部は、ボールネジ機構収容室505の底部に形成される貫通孔506から、外部(下側)に突出している。なお、この貫通孔506にはパッキンなどが設けられ、シフト装置収容室106からオイルなどが浸入しないように構成されている。ハウジング501の下半体503の上縁部には、平面視において外側に向かって延出するフランジ状の係合部507が設けられる。
【0059】
一方、ハウジング501の上半体502は、下側が開口する箱状の構成を有する。上半体502の下縁部には、下半体503と同様に、平面視において外側に向かって延出するフランジ状の係合部が設けられる。また、上半体502の上部には、ハウジング501の内外を連通する貫通孔が形成される。ケーブル類は、上半体502に形成される貫通孔を通じて配策される。なお、この貫通孔には止水グロメットなどが設けられており、外部から水等が浸入しないように構成される。
【0060】
そして、上半体502の係合部と下半体503の係合部507とを重ね合わせられ、その状態で蓋部材71にボルト止めされる。このため、ハウジング501の下半体503は、蓋部材71の開口部711から下側に突出する。一方、ハウジング501の上半体502は、蓋部材71の上側に設けられることになる。
【0061】
なお、
図1に示すように、アクチュエータ5のモーター51は、パイロット軸143の下端部が固定される下部マウントブラケット146よりも下側に設けられる。そして、モーター51は、側面視において、パイロット軸143よりも前側に設けられている。このように、ロアーユニットハウジング103の前端部は、側面視において、パイロット軸143よりも前側に位置している。このような構成であると、船外機1の操舵性の向上を図ることができる。すなわち、船外機1を左右に操舵した場合、ロアーユニットハウジング103の左右で水流の速度に差が生じ、この速度の差によって、ロアーユニットハウジング103に左右方向の力(揚力)が生じる。そして、操舵中心(すなわち、パイロット軸143の中心)は、この揚力中心に近い位置にあると、操舵性が向上する。本実施形態のように、ロアーユニットハウジング103の前端部をパイロット軸143よりも前側に張り出すように設け、そこにモーター51を配置することにより、揚力中心を前側に移動させてパイロット軸143に近付けることができる。したがって、操舵性の向上を図ることができる。
【0062】
アクチュエータ5を駆動や制御するための信号や電力を伝送するケーブル類は、ハウジング501の上半体502から上側に引き出され、中空軸であるパイロット軸143の内部を通過し、パイロット軸143の上端から図略のステアリングブラケットの近傍に至る。そして、このケーブル類の端部は、船舶や操舵ハンドルに設けられるコントロールボックス(図略)などに接続される。操船者等は、コントロールボックスなどを操作することにより、アクチュエータ5を制御してシフトポジションを切替えることができる。
【0063】
シフトフォークガイド62は、シフトフォーク部材61を、ドライブ軸17の軸線に平行な方向に往復動可能にガイドするガイド部材である。シフトフォークガイド62は、
図3〜
図5に示すように、棒状の部材である。シフトフォークガイド62は、アクチュエータ5とドライブ軸17との間に、その軸線がドライブ軸17の軸線と平行な向き(軸線が上下方向に平行な向き)で設けられる。シフトフォークガイド62は、蓋部材71に取り付けられる。
【0064】
シフトフォークガイド62の組み付け構造は、次のとおりである。蓋部材71には、シフトフォークガイド62を支持するガイド支持部713が設けられる。ガイド支持部713は、蓋部材71の下面から下側に向かって突出する柱状の構成を有する。そしてその下端面には、シフトフォークガイド62の上端部を挿入できる凹部が形成される。一方、ロアーユニットハウジング103にも、シフトフォークガイド62を支持するガイド支持部713が設けられる。このガイド支持部は、ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106の内周面に設けられる凹部が適用できる。そして、シフトフォークガイド62の上端部は蓋部材71のガイド支持部713の凹部に嵌め込まれ、下端部はシフト装置収容室106の内周面に設けられるガイド支持部の凹部に嵌め込まれる。これにより、シフトフォークガイド62は、上下端を、それぞれ、蓋部材71とロアーユニットハウジング103により支持される。
【0065】
なお、次のような組み付け構造であってもよい。蓋部材71のガイド支持部713の内部には、上下方向に貫通する貫通孔が形成される。貫通孔の内径は、上寄りの部分と下寄りの部分とで異なっており、下寄りの部分の方が上寄りの部分よりも大きい。このため、ガイド支持部713の内部には、下側を向く段差面が設けられる。ガイド支持部713に差し込まれたシフトフォークガイド62の上端は、ガイド支持部713の内部の段差面に当接することで、軸線方向に位置決めされる。シフトフォークガイド62の上端部には雌ネジが形成される。そして、蓋部材71の上側からこの貫通孔にボルト64が挿通され、シフトフォークガイド62の雌ネジに螺合する。これにより、シフトフォークガイド62は、蓋部材71に、位置決めされた状態で保持される。
【0066】
シフトフォーク部材61は、シフトフォークガイド62にスライド式に往復動可能に設けられる。シフトフォーク部材61は、ボールネジ機構53のネジ軸532より駆動されてシフトフォークガイド62の軸線方向(すなわち、ドライブ軸17の軸線方向)に平行な方向に直線運動し、ドッグクラッチ45をドライブ軸17の軸線方向に移動させる。シフトフォーク部材61は、スライド部611と、フォーク部612と、被動部613とを有する。
【0067】
スライド部611は、貫通孔が形成される筒状の構成を有する。そして、このスライド部の貫通孔に、シフトフォークガイド62が挿通されている。このため、スライド部611を含むシフトフォーク部材61は、シフトフォークガイド62の軸線方向(すなわち、ドライブ軸17の軸線方向)に平行な方向にスライド式に往復動できる。
【0068】
フォーク部612は、スライド部611から後側に向かって延伸してドッグクラッチと係合する部分である。フォーク部612は、例えば平面視において略U字形状の腕を有しており、この腕がドッグクラッチ45に係合している。例えば、ドッグクラッチ45の外周面には、円周方向に延伸する溝が形成され、フォーク部612(略U字形状の腕)がこの溝に嵌まり込んでいる。このため、ドッグクラッチ45は、シフトフォーク部材61に対して相対的に回転可能であるが、シフトフォーク部材61の軸線方向の移動に伴って、ドライブ軸17の軸線方向に平行な方向に移動する。
【0069】
被動部613は、スライド部611から前側に向かって延伸してボールネジ機構53のネジ軸532に結合される部分である。被動部613の前端部には、雌ネジが形成されている。そして、ボールネジ機構53のネジ軸532に設けられる雄ネジと連結している。このため、被動部613を含むシフトフォーク部材61は、ボールネジ機構53のネジ軸532の直線運動に伴って、シフトフォークガイド62の軸線方向に平行な方向に直線運動する。前述のとおり、ボールネジ機構53のネジ軸532の軸線と、シフトフォークガイド62の軸線と、ドライブ軸17の軸線とは、互いに平行で、かつ、上下方向に平行である。
【0070】
なお、シフトフォーク部材61のフォーク部612は、ドッグクラッチ45に係合して、ドッグクラッチ45をドライブ軸17の軸線方向に移動させることができる構成であればよく、具体的な構成は限定されない。同様に、シフトフォーク部材61の被動部613は、ボールネジ機構53のネジ軸532に結合される構成であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0071】
ここで、下側ドライブ軸172とシフト装置4のロアーユニットハウジング103への組み付け方法の例について説明する。本実施形態に係る船外機1においては、前側歯車21とピニオン歯車18を組み付けた後に、下側ドライブ軸172を組み付け、さらにその後、シフト装置4を組み付ける。下側ドライブ軸172とシフト装置4とは、いずれも上側からロアーユニットハウジング103に組み付けられる。前述のとおり、ロアーユニットハウジング103の上側は開口しており、かつ、シフト装置収容室106はロアーユニットハウジング103の上寄りの部分に設けられることから、組み付けの作業が容易である。
【0072】
まず、下側ドライブ軸172の外周に、下側ドライブ軸172を回転可能に支持する軸受46を装着する。この軸受46には、単一のアウターレース462と2列の円錐ころの列461を有する複列型の円錐ころ軸受が適用される。下側ドライブ軸172には、軸受46の一方のインナーレース(装着された状態で下側に地位するインナーレース)の端面が係合する段差面が設けられる。この段差面は、上側を向く面である。そして、下側ドライブ軸172の上側から軸受46を装着する。軸受46が下側ドライブ軸172に装着されると、軸受46の下側のインナーレースの端面は、下側ドライブ軸172に設けられる段差面に係止する。そしてその状態で、下側ドライブ軸172の上側からリングナット464を締結する。具体的には、下側ドライブ軸172には雄ネジが形成されており、このリングナット464を下側ドライブ軸172の雄ネジに締結する。これにより、軸受46は、下側ドライブ軸172に設けられる段差面とリングナット464とにより挟まれる。
【0073】
そして、リングナット464の締結力を調整することにより、軸受46にかける与圧を調整する。なお、軸受46とリングナット464との間に、各種のシムを介在させてもよい。このように、リングナット464が、軸受46に予圧を掛ける第2の予圧部材として機能する。このような構成であると、軸受46にかける与圧の調整が容易となる。すなわち、本実施形態では、リングナット464を締結するだけで、軸受46にかける与圧を調整できる。また、リングナット464は小型の部品であることから、寸法のばらつきが小さく、組み付けも容易である。
【0074】
そして、下側ドライブ軸172は、軸受46が装着された状態で、ロアーユニットハウジング103に設けられる軸受収容室108に、上側から収容される。この軸受収容室108は、上側が開口する空間である。また、この軸受収容室108の底部には、下側ドライブ軸172の下端部を挿通するための貫通孔が形成される。
【0075】
そして、下側ドライブ軸172の軸受46が装着される部分を軸受収容室108に収容した状態で、上側から、保持部材463を締結する。具体的には、保持部材463は外周面に雄ネジが形成されるリング状の部材であり、軸受収容室108の内周面には雌ネジが形成される。そして、保持部材463を軸受収容室108の雌ネジに締結する。これにより、軸受46は、軸受収容室108の内部に保持される。この保持部材463は、ピニオン歯車18と前側歯車21および後側歯車22との歯当たりを調整する機能を有する。すなわち、ピニオン歯車18から前側歯車21と後側歯車22に回転動力が伝達されると、下側ドライブ軸172には、上側に押し上げられるような反力が掛かる。このため、軸受46のアウターレース462の上端が保持部材463に押し付けられることになる。そこで、保持部材463の位置を調整することによって、ピニオン歯車18から前側歯車21と後側歯車22に回転動力が伝達されている状態における歯当たりを調整することができる。そして、この歯当たりの調整は、保持部材463の位置を調整するだけでよく、かつ、上側から作業できるから、作業性がよい。
【0076】
また、本実施形態では、下側ドライブ軸172を回転可能に支持する軸受46に、単一のアウターレース462を有する複列型の円錐ころ軸受が適用される。このような構成であると、複数の軸受を設ける構成に比較して、軸受46が装着される部分の長さを短くできる。このため、軸受46に予圧を掛ける予圧部材であるリングナット464からピニオン歯車18までの距離を短くできる。したがって、ロアーユニットハウジング103の上下方向寸法を小さくして剛性を高めることができる。また、ピニオン歯車18からリングナット464までの距離を短くできるから、駆動時にピニオン歯車18にかかる反力によって生じる下側ドライブ軸172の軸線方向の変形が小さくなる。このため、ピニオン歯車18と前側歯車21および後側歯車22との歯当たりの変動が小さくなり、歯車の寿命を延ばすことができる。
【0077】
そして、下側ドライブ軸172の上側から、軸受442と下側歯車44を、ロアーユニットハウジング103に組み付ける。下側歯車44は、この軸受442によって、ロアーユニットハウジング103に回転可能に支持される。すなわち、下側歯車44は、軸受442を介してロアーユニットハウジング103に装着される。なお、下側歯車44と下側ドライブ軸172とは結合しておらず、互いに独立して回転可能である。このような構成であると、下側歯車44と中間歯車42との歯当たりの調整は、下側歯車44または軸受442の下側に配置するシムを交換するだけでよい。したがって、歯当たりの調整が容易であり、短時間で可能になる。
【0078】
また、このような構成であると、前進時においては、下側ドライブ軸172がピニオン歯車18を介して前側歯車21および後側歯車22から受ける反力(スラスト荷重)は、軸受46によって受けることになる。一方、後進時において下側歯車44が中間歯車42から受ける反力(スラスト荷重)は、軸受442によって受けることになる。そして、本実施形態によれば、軸受46と軸受442の外径を略同じに小さくできる。このため、ロアーユニットハウジング103のこれらの軸受46,442が設けられる部分の寸法を小さくできる。したがって、ロアーユニットハウジング103の流体抵抗を小さくできる。
【0079】
そして、中間歯車モジュール401を、ドライブ軸17の後側に組み付ける。中間歯車モジュール401は、ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106に、ボルト476とナット473によって着脱可能に取り付けられる。中間歯車モジュール401がシフト装置収容室106に収容されて固定されると、下側歯車44と中間歯車42とが噛合する。
【0080】
アクチュエータ5とシフトフォークガイド62とを蓋部材71に組み付ける。また、シフトフォーク部材61をアクチュエータ5とシフトフォークガイドに組み付ける。具体的には、モーター51と中間歯車52とボールネジ機構53とが組み付けられたハウジング501を、蓋部材71の開口部711に上側から嵌め込む。これにより、ハウジング501の下半体503の係合部507が、蓋部材71の開口部711の周縁部の上面に重なるように係合する。そして、アクチュエータ5のハウジング501の下半体503は、蓋部材71の開口部711を通じて、蓋部材71の下側(すなわち、シフト装置収容室106の内部)に突出する。また、アクチュエータ5のハウジング501の下半体503の底面からは、ネジ軸532が下側に向かって突出する。
【0081】
なお、蓋部材71の開口部711を囲む溝には、ガスケット508を嵌め込んでおく。アクチュエータ5のハウジング501が蓋部材71に取り付けられると、蓋部材71の開口部711はハウジング501の下半体503によって塞がれる。すなわち、アクチュエータ5のハウジング501が、蓋部材71の開口部711を塞ぐ蓋になる。さらに、ハウジング501の係合部507の下面と、蓋部材71の上面との間には、ガスケット508が介在する。そして、このガスケット508によって、シフト装置収容室106の内部に水等が侵入しないように封止される。
【0082】
蓋部材71の下面に設けられるガイド支持部713に、シフトフォークガイド62を取り付ける。前述のとおり、シフトフォークガイド62の上端部を、蓋部材71に設けられるガイド支持部713の凹部に嵌め込む。または、シフトフォークガイド62には、蓋部材71の上側から挿通されるボルト64によって、蓋部材71の下側に固定される。この際、このボルト64によって、ハウジング501の下半体503とシフトフォークガイド62とを、蓋部材71に共締めする。
【0083】
さらに、シフトフォーク部材61のスライド部611を、シフトフォークガイド62に係合する。また、シフトフォーク部材61の被動部613を、ハウジング501から下側に突出するボールネジ機構53のネジ軸532に結合する。
【0084】
また、上側ドライブ軸171を回転可能に支持する軸受413と、上側歯車41回転可能に支持する軸受412を、蓋部材71の軸受支持部712に下側から収容し、さらにその下側から上側歯車41を嵌め込む。または、上側歯車41に軸受412を組み付けてから、軸受412を軸受支持部712に下側から収容する。これにより、上側歯車41は、軸受412を介して、蓋部材71に回転可能に支持される。軸受支持部712は下側が開口する構成であるから、これらの工程を蓋部材71の下側から行うことができる。
【0085】
そして、アクチュエータ5とシフトフォークガイド62と上側歯車41が組み付けられた蓋部材71を、ロアーユニットハウジング103の上側に取り付ける。この際、シフトフォーク部材61のフォーク部612に、ドッグクラッチ45を係合させる。また、蓋部材71の下面の周縁部に設けられる溝に、ガスケット714を嵌め込んでおく。ロアーユニットハウジング103のシフト装置収容室106の上縁には、上面視においてシフト装置収容室106の開口を囲むように、係合面107が設けられる。係合面107は、上側を向く面である。また、係合面107の外側には、複数のネジ孔が形成される。これらのネジ孔は、軸線が上下方向に平行で、上側からボルトを締結可能なネジ孔である。そして、蓋部材71を、ボルトによってロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付ける。蓋部材71がロアーユニットハウジング103に取り付けられると、蓋部材71の下面の外周縁がロアーユニットハウジング103の係合面107に重なる。そして、蓋部材71の下面とロアーユニットハウジング103の係合面107との間には、ガスケット714が介在する。したがって、外部からシフト装置収容室106に水等が浸入することが防止される。
【0086】
このように、本実施形態では、シフト装置4は、側面視において、ロアーユニットハウジング103とドライブシャフトハウジング102との合わせ面の近傍に配置され、ロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付けられる。このような構成であると、ロアーユニットハウジング103がドライブシャフトハウジング102から取り外されると、シフト装置4は、ロアーユニットハウジング103の最上部に位置する。このため、上側(すなわち、開口する側)からのアクセスが容易となり、整備性がよい。
【0087】
また、アクチュエータ5が蓋部材71に取り付けられ、上側ドライブ軸171と上側歯車41とが蓋部材71に設けられる軸受支持部712に回転可能に支持される。このため、アクチュエータ5のネジ軸532と上側ドライブ軸171との平行度を出しやすい。したがって、組み付け精度の向上を図ることができる。
【0088】
また、下部ユニット903の筐体であるロアーユニットハウジング103を中間部ユニット902の筐体であるドライブシャフトハウジング102から分離しても、シフト装置収容室106の開口部は蓋部材71に塞がれた状態に維持される。このため、ロアーユニットハウジング103をドライブシャフトハウジング102から分離した状態であっても、シフト装置収容室106に異物が入り込むことや、シフト装置収容室106からオイルが漏出することが防止される。したがって、下部ユニット903を横倒しにした状態で保管することができる。
【0089】
なお、中間歯車モジュール401をロアーユニットハウジング103と別体にモジュール化し、ロアーユニットハウジング103に着脱可能に取り付けられる構成とすると、係合面107を単純な平面とすることができる。すなわち、中間歯車42および中間軸43は、それらの軸線が前後方向に平行である。このため、軸受471をロアーユニットハウジング103に一体に形成する構成では、前後方向に貫通する貫通孔を形成するために、ロアーユニットハウジング103の前方または後方に、貫通孔を形成する工具との干渉を防止るための切欠きなどを設けなければならない。このため、係合面107が単純な平面ではなく、切欠きに応じて立体的な形状となる。係合面107が立体的な形状となると、ロアーユニットハウジング103と蓋部材71との間の液密性が困難になる。これに対して、本実施形態では、係合面107を単純な平面にできるから、ロアーユニットハウジング103と蓋部材71との間の液密性の確保が容易となる。
【0090】
また、本実施形態では、アクチュエータ5のハウジング501が、蓋部材71に設けられる開口部711の蓋となる。したがって、アクチュエータ5のハウジング501の全体をシフト装置収容室106に収容する構成では、ハウジング501とは別の専用の蓋部材が必要になるが、本実施形態の構成では、専用の蓋部材が不要である。また、ハウジング501の内部に収容されるモーター51などに接続されるケーブル類は、上半体502から上側に引き出される。このような構成であると、ケーブル類は、シフト装置収容室106の内部に配策されない。したがって、ケーブルに耐熱性や耐油性を持たせる必要がない。
【0091】
また、本実施形態では、アクチュエータ5が、ドッグクラッチ45の前側に隣接して設けられる。さらに、アクチュエータ5(特に、ハウジング501から突出しているネジ軸532)とドッグクラッチ45は、略同じ高さに設けられる。このような構成であると、アクチュエータ5とドッグクラッチ45との距離が小さくなるから、アクチュエータ5からドッグクラッチ45の間に介在するシフトフォーク部材61の小型化と軽量化を図ることができる。そして、シフトフォーク部材61は、軽量化によって慣性が小さくなるから、動作速度の向上と、動作精度の向上を図ることができる。さらに、アクチュエータ5とドッグクラッチ45とが略同じ高さにあると、両者の間に介在する部材の数を減らすことができる。このため、両者の間に介在する部材どうしの間の遊び(がたつき)を減らすことができる。したがって、正確なシフト動作が可能になる。また、このような構成であると、両者の間に介在する機構を含め、ドッグクラッチ45を移動させるための機構の剛性を高めることができる。このため、アクチュエータ5の駆動力や反力による撓みが小さくなり、正確なシフト動作が可能になる。また、このような構成であると、両者の間の位置ずれが小さくなる。このため、シフトポジションの切替えに必要となるアクチュエータ5の動作量の測定や推定が容易となる。
【0092】
また、従来のように、アクチュエータ5がドッグクラッチ45の上方(例えばエンジンカバー101の内部)に配置される構成であると、アクチュエータ5からドッグクラッチ45に駆動力を伝達するために、長尺のシフトロッドなどのリンク機構が必要になる。また、シフトロッドを支持する機構も必要になる。このため、リンク機構のガタ(遊び)やシフトロッドのたわみなどによって、ドッグクラッチ45の正確な駆動が困難になる。これに対して、本実施形態は、アクチュエータ5がドッグクラッチ45の前側に隣接して配置され、シフトフォーク部材61によってドッグクラッチ45を移動させる構成である。このような構成であると、従来の構成と比較して、アクチュエータ5からドッグクラッチ45に駆動力を伝達するための機構の小型化や単純化を図ることができる。そして、この機構のガタ(遊び)や撓みが小さくなるから、ドッグクラッチ45の動作量の精度を高めることができる。また、従来構成と比較して、フリクションなどによる駆動力の伝達のロスが発生する箇所を少なくできるから、アクチュエータ5の駆動力を大きくしなくてもよくなり、アクチュエータ5の小型化を図ることができる。
【0093】
また、ドッグクラッチ45とアクチュエータ5は、シフトポジションの切替えに用いられる歯車(上側歯車41、中間歯車42、下側歯車44)と同様に、ロアーユニットハウジング103に設けられる。このような構成であると、ドッグクラッチ45やアクチュエータ5などを、前述の歯車と同じ取付基準を用いて取り付けることができる。このため、これらの間の相対的な位置決め精度を高めることができ、滑らかなシフト動作が可能になる。
【0094】
また、アクチュエータ5とシフトフォーク部材61は、上側歯車41と中間歯車42と下側歯車44とドッグクラッチ45と同じく、ロアーユニットハウジング103に取り付けられる。このため、ロアーユニットハウジング103をドライブシャフトハウジング102に組み付ける前に、下部ユニット903が単体の状態で、シフト装置4の動作確認を行うことができる。すなわち、アクチュエータ5を含め、シフト装置4の全体が、ロアーユニットハウジング103に組み付けられる。このような構成であると、上側歯車41を回転させることによって、シフト装置4の動作確認ができる。したがって、エンジン13を作動させなくても、シフト装置4の動作確認が可能になるから、検査環境の改善を図ることができる。また、下部ユニット903を単体で出荷することが可能になる。
【0095】
次に、シフト装置4の動作について、
図7を参照して説明する。
図7は、シフト装置4の動作を模式的に示す断面図である。それぞれ、
図7(a)はシフトポジションが中立位置である状態を示し、
図7(b)はシフトポジションが前進位置である状態を示し、
図7(c)はシフトポジションが後進位置である状態を示す。
【0096】
操船者等は、アクチュエータ5を操作してモーター51を作動させる。モーター51が作動すると、モーター51の回転動力は、駆動歯車510と中間歯車52とを介してボールネジ機構53に伝達され、ボールネジ機構53のネジ軸532が上側または下側に直線運動する。ボールネジ機構53のネジ軸532にはシフトフォーク部材61の被動部613が結合され、シフトフォーク部材61のフォーク部612はドッグクラッチ45に係合している。このため、ネジ軸532が上側または下側に直線運動すると、ドッグクラッチ45はネジ軸532の移動に応じて、上側または下側に移動する。
【0097】
図7(a)に示すように、ドッグクラッチ45が上下方向の可動範囲の中間に位置すると、ドッグクラッチ45の上側係合爪451は上側歯車41の下端面の係合爪411と係合せず、かつ、下側係合爪452は下側歯車44の上端面の係合爪441と係合しない。この場合には、エンジン13から出力された回転動力は、下側ドライブ軸172に伝達されない。したがって、シフトポジションは中立となる。
【0098】
図7(b)に示すように、ドッグクラッチ45が上方向に移動すると、ドッグクラッチ45の上側係合爪451が上側歯車41の係合爪411と係合し、ドッグクラッチ45は、上側歯車41および上側ドライブ軸171と一体的に回転する。また、前述のとおり、ドッグクラッチ45は、下側ドライブ軸172と一体的に回転するように設けられている。このため、この状態では、下側ドライブ軸172は、上側歯車41および上側ドライブ軸171と一体的に、同じ方向に回転する。そして、エンジン13の回転動力は、上側ドライブ軸171と上側歯車41とドッグクラッチ45とを介して、下側ドライブ軸172に伝達される。なお、本実施形態では、
図7(a)に示すように、上側歯車41からドッグクラッチ45を介して下側ドライブ軸172に回転動力が伝達される状態となると、シフトポジションが前進となる。
【0099】
図7(c)に示すように、ドッグクラッチ45が下方向に移動すると、ドッグクラッチ45の下側係合爪452が下側歯車44の上端面の係合爪441と係合し、ドッグクラッチ45と下側歯車44とは一体的に同じ方向に回転する。下側歯車44は、上側歯車41と中間歯車42を介して回転動力が伝達され、上側歯車41とは反対方向に回転する。このため、下側ドライブ軸172は、上側歯車41および上側ドライブ軸171とは反対方向に回転する。そしてこの場合には、エンジン13の回転動力は、上側ドライブ軸171と、上側歯車41と、中間歯車42と、下側歯車44と、ドッグクラッチ45とを介して、下側ドライブ軸172に伝達される。本実施形態では、この状態となると、シフトポジションが後進となる。
【0100】
下側ドライブ軸172に伝達された回転動力は、さらに、ピニオン歯車18から前側歯車21と後側歯車22に伝達される。前側歯車21に伝達された回転動力は、内側軸231を介して後側プロペラ12に伝達される。後側歯車22に伝達された回転動力は、外側軸232を介して前側プロペラ11に伝達される。
【0101】
このように、本実施形態では、直動型のアクチュエータ5によって、シフトフォーク部材61をドライブ軸17の軸線に平行な方向に移動させる。そして、シフトフォーク部材61によってドッグクラッチ45をドライブ軸17の軸線に平行な方向に移動させる。これにより、シフトポジションを、前進、後進、中立に切替えることができる。
【0102】
なお、前述のとおり、シフトポジションが後進である場合に、エンジン13の回転動力は、上側歯車41と中間歯車42と下側歯車44とを介して下側ドライブ軸172に伝達される。通常、シフトポジションが後進である場合には、前進である場合に比較して伝達する動力が小さい。このため、上側歯車41と中間歯車42と下側歯車44の強度を低くできるから、これらの歯車の小型化を図ることができる。したがって、シフト装置4の小型化および軽量化を図ることができる。
【0103】
さらに、シフト装置4には、シフトポジションを保持するポジション保持機構63が設けられる。ポジション保持機構63は、例えば、シフトフォークガイド62の外周面に設けられる3箇所の係合凹部631と、シフトフォーク部材61に設けられる係合部材632および付勢部材633とで構成される。付勢部材633は、例えば圧縮コイルばねが適用され、係合部材632をシフトフォークガイド62の外周面に付勢して押し付ける。係合部材632は、例えば鋼球などが適用される。係合部材632は、シフトポジションが中立、前進、後進のそれぞれである場合において、シフトフォークガイド62の外周面に形成される3箇所の係合凹部631のいずれかに嵌まり込む。なお、ここでは、3箇所の係合凹部631が設けられる構成を示したが、この構成に限定されない。例えば、中立位置において係合する1箇所の係合凹部631が設けられる構成であってもよい。
【0104】
このような構成であると、シフトフォーク部材61に軸線方向の外力が掛からない状態では、付勢部材633の付勢力によって、係合部材632が3箇所の係合凹部631のいずれかに嵌まり込んだ状態に保持される。このため、シフトポジションが保持される。シフトチェンジを行う際には、アクチュエータ5は、ある程度の力を掛けてネジ軸532を移動させる。そうすると、係合部材632は、シフトフォーク部材61の移動によって、付勢部材633の付勢力に抗して係合凹部631から抜け出る。したがって、シフトポジションの切替えが可能となる。
【0105】
以上説明したとおり、本実施形態では、アクチュエータ5は直動型であり、駆動力出力部材であるネジ軸532が直線運動する。そして、ネジ軸532の直線運動の方向と、ドッグクラッチ45の移動方向(ドライブ軸17の軸線方向)は平行である。このような構成であると、アクチュエータ5が発生する駆動力(直線運動)の方向を変換しなくてもよい。このため、シフト装置4の構成の単純化を図ることができる。また、アクチュエータ5の駆動力の方向を変換する構成であると、方向の変換において偏差が発生する。これに対して、本実施形態の構成によれば、このような偏差が発生しないから、正確な動作が可能になる。
【0106】
さらに、本実施形態では、ドッグクラッチ45の移動量と、アクチュエータ5の作動量とが等しくなる。このため、ドッグクラッチ45の動作の制御が容易となる。また、シフトポジションを前進に切替える場合と後進に切替える場合とで、ドッグクラッチ45のストロークが同じであるから、アクチュエータ5の動作量も同じとなる。したがって、アクチュエータ5の制御が簡単になる。
【0107】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明したが、前記実施形態は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。