(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源の駆動力が常時伝達される主駆動輪と、車両の前後方向に前記駆動力を伝達する駆動軸を介して前記駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪と、前記駆動源から前記駆動軸への駆動力伝達を遮断可能な第1のクラッチと、前記駆動軸から前記補助駆動輪への駆動力伝達を遮断可能な第2のクラッチと、を備えた四輪駆動車に搭載され、前記第1及び第2のクラッチを制御する四輪駆動車の制御装置であって、
前記第1及び第2のクラッチにおける駆動力伝達が遮断された二輪駆動時に、車速及び運転者による加速操作量に基づいて前記主駆動輪に伝達されると推定される推定駆動力を演算し、前記推定駆動力が前記主駆動輪のスリップ限界トルクに応じて定められた駆動力閾値よりも大きいとき、前記第1及び前記第2のクラッチのうち何れか一方のクラッチを駆動力伝達可能な状態とする、
四輪駆動車の制御装置。
前記第1のクラッチは、第1回転部材に形成された凹部と第2回転部材に形成された凸部との噛み合いによって駆動力を伝達する噛み合いクラッチであり、前記第2のクラッチは、クラッチプレート間の摩擦によって駆動力を伝達する摩擦クラッチであり、
前記推定駆動力が前記駆動力閾値よりも大きいとき、前記第2のクラッチを駆動力伝達可能な状態とし、前記第2のクラッチによって前記補助駆動輪から前記駆動軸に伝達される回転力によって前記第1のクラッチにおける前記第1回転部材と前記第2回転部材とを回転同期させる、
請求項1又は2に記載の四輪駆動車の制御装置。
前記推定駆動力が前記駆動力閾値よりも所定値以上大きいとき、前記推定駆動力と前記駆動力閾値との差が前記所定値未満である場合に比較して、前記第2のクラッチによって伝達される回転力を大きくする、
請求項3に記載の四輪駆動車の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明の四輪駆動車の制御装置を実施する場合の好適な一具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、四輪駆動車1は、走行用のトルクを発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常時伝達される左右前輪21L,21Rと、走行状態に応じてエンジン11の駆動力が伝達される左右一対の左右後輪22L,22Rとを備えている。すなわち、本実施の形態では、左右前輪21L,21Rが主駆動輪であり、左右後輪22L,22Rが補助駆動輪である。補助駆動輪としての左右後輪22L,22Rには、四輪駆動車1の前後方向に延在する駆動軸としてのプロペラシャフト15を介して、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が伝達される。
【0016】
四輪駆動車1は、左右前輪21L,21R及び左右後輪22L,22Rにエンジン11の駆動力を伝達する四輪駆動状態と、左右前輪21L,21Rのみに駆動力を伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。以下、左右前輪21L,21R(左前輪21L及び右前輪21R)を総称して「前輪21」という場合がある。また、左右後輪22L,22R(左後輪22L及び右後輪22R)を総称して「後輪22」という場合がある。
【0017】
また、四輪駆動車1は、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力を左右前輪21L,21R及び左右後輪22L,22Rに伝達する駆動力伝達系(ドライブライン)10として、フロントディファレンシャル13と、噛み合いクラッチ3と、前輪側ギヤ機構14と、プロペラシャフト15と、後輪側ギヤ機構16と、リヤディファレンシャル17と、トルクカップリング4と、左右の前輪側ドライブシャフト181,182と、左右の後輪側ドライブシャフト191,192とを有している。
【0018】
またさらに、四輪駆動車1には、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4を制御する制御装置としてのECU(Electric Control Unit)5が搭載されている。また、四輪駆動車1には、左前輪21Lの回転速度を検出する第1回転速センサ501、右前輪21Rの回転速度を検出する第2回転速センサ502、左後輪22Lの回転速度を検出する第3回転速センサ503、右後輪22Rの回転速度を検出する第4回転速センサ504、プロペラシャフト15の回転速度を検出する第5回転速センサ505、及び運転者が足踏み操作する加速操作子としてのアクセルペダル111の加速操作量(アクセル開度)を検出するためのアクセルペダルセンサ506が設けられ、ECU5は、これら各センサの検出結果を取得可能である。
【0019】
四輪駆動車1は、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4による駆動力の伝達が共になされる場合に四輪駆動状態となり、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4の少なくとも何れかにおける駆動力の伝達がなされない場合には二輪駆動状態となる。本実施の形態に係るECU5は、プロペラシャフト15の回転抵抗に起因する走行抵抗を抑制することによって低燃費化を図るため、二輪駆動状態において噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4による駆動力伝達を共に遮断し、プロペラシャフト15の回転を停止させることが可能である。ここで、プロペラシャフト15の回転抵抗に起因する走行抵抗には、プロペラシャフト15を可能に支持する軸受等の回転抵抗の他、前輪側ギヤ機構14及び後輪側ギヤ機構16における潤滑油の撹拌抵抗が含まれる。
【0020】
左右前輪21L,21Rには、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側ドライブシャフト181,182を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右前輪側ドライブシャフト181,182にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131と、一対のサイドギヤ131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132と、一対のピニオンギヤ132を支持するピニオンギヤシャフト133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
【0021】
プロペラシャフト15には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13のフロントデフケース134、噛み合いクラッチ3、及び前輪側ギヤ機構14を介して伝達される。プロペラシャフト15に伝達されたエンジン11の駆動力は、さらに後輪側ギヤ機構16を介してリヤディファレンシャル17に伝達され、リヤディファレンシャル17からトルクカップリング4及び左後輪側ドライブシャフト191を介して左後輪22Lに、またリヤディファレンシャル17から右後輪側ドライブシャフト192を介して右後輪22Rに、それぞれ伝達される。
【0022】
リヤディファレンシャル17は、一対のサイドギヤ171と、一対のサイドギヤ171にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ172と、一対のピニオンギヤ172を支持するピニオンギヤシャフト173と、これらを収容するリヤデフケース174とを有している。一対のサイドギヤ171のうち左側のサイドギヤ171には、トルクカップリング4の連結のためのサイドギヤシャフト175が相対回転不能に連結されている。また、一対のサイドギヤ171のうち右側のサイドギヤ171には、右後輪側ドライブシャフト192が相対回転不能に連結されている。
【0023】
プロペラシャフト15は、駆動力伝達上流側(エンジン11側)の端部に前端部ピニオンギヤ141が連結され、駆動力伝達下流側(後輪22側)の端部に後端部ピニオンギヤ161が連結されている。前端部ピニオンギヤ141は、噛み合いクラッチ3の出力部材としてのリングギヤ142と噛合している。また、後端部ピニオンギヤ161は、リヤデフケース174に固定されたリングギヤ162と噛合している。前端部ピニオンギヤ141及びリングギヤ142は、前輪側ギヤ機構14を構成し、後端部ピニオンギヤ161及びリングギヤ162は、後輪側ギヤ機構16を構成する。
【0024】
(噛み合いクラッチの構成)
図2(a)は、噛み合いクラッチ3及びその周辺部の構成例を示す断面図であり、
図2(b)は、解放状態における噛み合いクラッチ3の噛み合い部を模式的に示す説明図である。なお、
図2(a)では、噛み合いクラッチ3におけるフロントデフケース134の回転軸線Oよりも上側の半分の範囲を図示している。
【0025】
噛み合いクラッチ3は、フロントデフケース134の軸方向の端部に固定された第1回転部材31と、第1回転部材31に対して軸方向に移動可能な第2回転部材32と、前輪側ギヤ機構14のリングギヤ142が固定された第3回転部材33と、第2回転部材32を第1回転部材31に対して進退移動させるアクチュエータ34と、アクチュエータ34の移動力を第2回転部材32に伝達するシフトフォーク35とを有している。噛み合いクラッチ3は、エンジン11からプロペラシャフト15への駆動力伝達を遮断可能な本発明の「第1のクラッチ」の一態様である。
【0026】
第1回転部材31は、その内周側に右前輪側ドライブシャフト182を挿通させる環状であり、外周面にフロントデフケース134の回転軸線Oと平行に延在して形成された複数のスプライン歯311を有している。複数のスプライン歯311のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯311の間には、それぞれ凹部310が形成されている。
【0027】
第3回転部材33は、内周側に右前輪側ドライブシャフト182を挿通させる筒状に形成され、第1回転部材31と同軸上で相対回転可能である。また、第3回転部材33は、その外周面に、フロントデフケース134の回転軸線Oと平行に延在して形成された複数のスプライン歯331を有している。複数のスプライン歯331のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯331の間には、それぞれ凹部330が形成されている。
【0028】
第2回転部材32は、第1回転部材31及び第3回転部材33の外周側にて、第1回転部材31及び第3回転部材33と同軸上で軸方向移動可能に支持されたスリーブ状の連結部材である。第2回転部材32の内周面には、第1回転部材31の複数のスプライン歯311、及び第3回転部材33の複数のスプライン歯331と係合可能な複数のスプライン歯321が形成されている。
【0029】
第2回転部材32は、第3回転部材33と常に噛み合い、かつ第3回転部材33に対して軸方向移動可能である。より具体的には、第2回転部材32の複数のスプライン歯321が第3回転部材33の凹部330に噛み合い、この噛み合い状態を保ちながら第2回転部材32が第3回転部材33に対して軸方向移動可能である。
【0030】
また、第2回転部材32は、アクチュエータ34によって第1回転部材31側に移動したとき、第2回転部材32の凸部としての複数のスプライン歯321が第1回転部材31の凹部310に噛み合い、第1回転部材31と相対回転不能に連結される。これにより、第1回転部材31と第3回転部材33とが第2回転部材32を介して相対回転不能に連結され、第1回転部材31から第3回転部材33にエンジン11の駆動力を伝達可能な状態となる。
【0031】
一方、第2回転部材32が第1回転部材31から離間すると、第2回転部材32の複数のスプライン歯321と第1回転部材31の凹部310との噛み合いが解除され、第1回転部材31と第3回転部材33とが相対回転可能となる。これにより、第1回転部材31から第3回転部材33への駆動力伝達が遮断される。
【0032】
アクチュエータ34は、例えば励磁コイルに通電することにより発生する磁力によって可動鉄心を動かす電磁アクチュエータにより構成される。また、アクチュエータ34は、本体部340に対してシャフト341が軸方向に移動することにより、シャフト341に連結されたシフトフォーク35を介して第2回転部材32を進退移動させる。シフトフォーク35は、第2回転部材32の外周に形成された環状溝322に摺動自在に係合し、第2回転部材32をフロントデフケース134の回転軸線Oと平行に進退移動させる。
【0033】
(トルクカップリングの構成)
図3は、トルクカップリング4及びその周辺部の概略の構成例を示す概略構成図である。トルクカップリング4は、多板クラッチ41,電磁クラッチ42,カム機構43、インナシャフト44、及びこれらを収容するハウジング45を有し、後輪側ギヤ機構16及びリヤディファレンシャル17と共にディファレンシャルキャリア170に収容されている。
【0034】
ディファレンシャルキャリア170内の空間は、隔壁176によって第1及び第2の空間170a,170bに液密に分離されている。後輪側ギヤ機構16及びリヤディファレンシャル17が配置される第1の空間170aには、ギヤの潤滑に適した図略のギヤオイルが所定の充填率で充填されている。また、トルクカップリング4が収容される第2の空間170bには、後述するインナクラッチプレート411及びアウタクラッチプレート412の潤滑に適した図略の潤滑油が所定の充填率で充填されている。
【0035】
サイドギヤシャフト175は、リヤディファレンシャル17の一方のサイドギヤ171に一端が連結された軸部175aと、軸部175aの他端に設けられたフランジ部175bとを一体に有し、軸部175aが隔壁176に挿通されている。トルクカップリング4は、サイドギヤシャフト175から左後輪側ドライブシャフト191に伝達される駆動力を調節可能である。
【0036】
トルクカップリング4のハウジング45は、互いに相対回転不能に結合された第1ハウジング部材451と第2ハウジング部材452とからなる。第1ハウジング部材451は有底円筒状であり、第2ハウジング部材452は、第1ハウジング部材451の一方端部を塞ぐように配置されている。ハウジング45は、第1ハウジング部材451がサイドギヤシャフト175と相対回転不能に連結されている。
【0037】
多板クラッチ41は、ハウジング45の第1ハウジング部材451と円筒状のインナシャフト44との間に配置され、インナシャフト44の外周面に相対回転不能にスプライン係合する複数のインナクラッチプレート411と、第1ハウジング部材451の内周面に相対回転不能にスプライン係合する複数のアウタクラッチプレート412とからなる。インナクラッチプレート411とアウタクラッチプレート412とは、ハウジング45の軸方向に沿って交互に配置されている。インナシャフト44は、左後輪側ドライブシャフト191にスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。
【0038】
電磁クラッチ42は、環状の電磁コイル421及びアーマチャカム422を有し、ハウジング45の回転軸線上に配置されている。電磁クラッチ42は、電磁コイル421による電磁力の発生によってアーマチャカム422を電磁コイル421側に移動させ、第2ハウジング部材452にアーマチャカム422を摩擦摺動させるように構成されている。第2ハウジング部材452には、径方向の中央部に、電磁コイル421への通電によって発生する磁束の短絡を防ぐ非磁性体からなる非磁性リング452aが設けられている。
【0039】
カム機構43は、カム部材としてアーマチャカム422を含み、このアーマチャカム422にハウジング45の回転軸線に沿って並列するメインカム431、及びこのメインカム431とアーマチャカム422との間に介在する球状のカムフォロア432を有している。そして、カム機構43は、電磁コイル421への通電によってアーマチャカム422がハウジング45からの回転力を受け、多板クラッチ41を軸方向に押圧する押圧力に変換するように構成されている。
【0040】
電磁コイル421に通電されるとアーマチャカム422と第2ハウジング部材452との摩擦力が増大し、メインカム431が多板クラッチ41を押圧する。これにより、多板クラッチ41のインナクラッチプレート411とアウタクラッチプレート412との間に摩擦力が発生し、この摩擦力によってハウジング45からインナシャフト44に駆動力が伝達される。すなわち、多板クラッチ41は、本発明の「第2のクラッチ」の一態様であり、プロペラシャフト15から後輪22への駆動力伝達を遮断可能である。また、多板クラッチ41は、クラッチプレート間(インナクラッチプレート411とアウタクラッチプレート412との間)の摩擦によって駆動力を伝達する摩擦クラッチである。
【0041】
このように、トルクカップリング4は、電磁コイル421への通電量に応じて多板クラッチ41の押圧力を可変に制御することができ、ひいてはサイドギヤシャフト175から左後輪側ドライブシャフト191に伝達される駆動力を調節可能である。
【0042】
トルクカップリング4の多板クラッチ41によるトルク伝達容量が大きく、サイドギヤシャフト175と左後輪側ドライブシャフト191とが一体に回転する場合には、左後輪側ドライブシャフト191とプロペラシャフト15とが、後輪側ギヤ機構16、リヤディファレンシャル17、サイドギヤシャフト175、及びトルクカップリング4を介してトルク伝達可能に連結されると共に、右後輪側ドライブシャフト192とプロペラシャフト15とが、後輪側ギヤ機構16及びリヤディファレンシャル17を介してトルク伝達可能に連結される。
【0043】
一方、電磁コイル421が非通電となり、サイドギヤシャフト175と左後輪側ドライブシャフト191との連結が解除されると、左後輪側ドライブシャフト191にプロペラシャフト15からのトルクが伝達されなくなり、これに伴って右後輪側ドライブシャフト192にもプロペラシャフト15からの駆動力が伝達されなくなる。なお、右後輪側ドライブシャフト192にも駆動力が伝達されなくなるのは、一方のサイドギヤが空転すると他方のサイドギヤにもトルクが伝達されないという一般的なディファレンシャル装置の特性によるものである。
【0044】
(ECUの構成)
ECU5は、
図1に示すように、CPU等を含む演算回路からなる制御部51と、ROMやRAM等の記憶素子からなる記憶部52と、噛み合いクラッチ3のアクチュエータ34及びトルクカップリング4の電磁コイル421に制御電流(励磁電流)を供給する電流出力回路53とを有している。また、ECU5は、第1乃至第5回転速センサ501〜505によって、左右前輪21L,21R、左右後輪22L,22R、及びプロペラシャフト15の回転速度を検知可能であり、アクセルペダルセンサ506によってアクセルペダル111の加速操作量を検知可能である。またさらに、ECU5は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内通信網を介して、操舵角やヨーレイト等の走行状態に関する各種情報を取得可能である。
【0045】
そして、ECU5は、四輪駆動状態では、取得した走行状態の情報に基づいて後輪22に伝達すべき目標トルクを演算し、この目標トルクに応じた駆動力が後輪22に伝達されるよう、トルクカップリング4を制御する。また、二輪駆動状態では、噛みあいクラッチ3及びトルクカップリング4の多板クラッチ41を解放状態とし、プロペラシャフト15の回転を停止させる。二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際には、トルクカップリング4の電磁コイル421に制御電流を供給して、後輪22の回転トルクを多板クラッチ41及びリヤディファレンシャル17を介してプロペラシャフト15に伝達し、プロペラシャフト15を回転させる。そして、噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32とを回転同期させた後、噛み合いクラッチ3のアクチュエータ34に制御電流を供給して第2回転部材32を軸方向移動させ、第2回転部材32のスプライン歯321を第1回転部材31の凹部310に噛み合わせる。以下、このECU5の機能構成及び制御方法について詳細に説明する。
【0046】
図4は、ECU5の機能構成を示すブロック図である。ECU5の制御部51は、CPUが記憶部52に記憶されたプログラム521に基づいて動作することにより、推定駆動力演算手段511、駆動力閾値演算手段512、及びクラッチ制御手段513として機能する。記憶部52には、プログラム521の他、後述するドライブライントルクマップ522が記憶されている。電流出力回路53は、例えばパワートランジスタ等のスイッチング素子を有し、制御部51からの電流指令信号に基づいて噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4に電流を出力する。
【0047】
推定駆動力演算手段511は、噛み合いクラッチ3及びトルクカップリング4の多板クラッチ41における駆動力伝達が遮断された二輪駆動時に、車速及び運転者によるアクセルペダル111の加速操作量に基づいて前輪21に伝達されると推定される推定駆動力を演算する。駆動力閾値演算手段512は、前輪21のスリップ限界トルクを演算し、このスリップ限界トルクに応じて駆動力閾値を演算する。クラッチ制御手段513は、二輪駆動時において推定駆動力演算手段511により演算された推定駆動力が、駆動力閾値演算手段512により演算された駆動力閾値よりも大きいとき、トルクカップリング4の多板クラッチ41を駆動力伝達可能な状態とする。
【0048】
図5は、制御部51が推定駆動力演算手段511として参照するドライブライントルクマップ522の一例を示す説明図である。ドライブライントルクマップ522には、車速及び加速操作量と、トランスミッション12から駆動力伝達系10に出力される駆動力(トライブライントルク)との関係が定義されている。前輪21のみに駆動力が伝達される二輪駆動時には、このドライブライントルクマップ522を参照して得られた駆動力が、前輪21に伝達されると推定される推定駆動力となる。
【0049】
図5に示す例では、横軸に車速を、縦軸にドライブライントルクをそれぞれ示し、車速に対応するドライブライントルクを加速操作量ごとの折れ線で示している。また、
図5に示す例では、第1乃至第6の折れ線L1〜L6を示しており、このうち第1の折れ線L1が最も加速操作量が小さい場合(例えばアクセル開度10%)のドライブライントルクを示し、第6の折れ線L6が最も加速操作量が大きい場合(例えばアクセル開度100%)のドライブライントルクを示している。第2乃至第5の折れ線L2〜L5は、第1の折れ線L1と第6の折れ線L6の間の加速操作量におけるドライブライントルクを示している。
【0050】
制御部51は、推定駆動力演算手段511として、ドライブライントルクマップ522を参照して推定駆動力を求める。この際、第1乃至第6の折れ線L1〜L6のうち、アクセルペダルセンサ506によって検出された加速操作量に最も近い1つの折れ線を選択して参照してもよく、アクセルペダルセンサ506によって検出された加速操作量を挟む2つの折れ線を補間演算して推定駆動力を求めてもよい。求められた推定駆動力は、後述するフローチャートに沿ったクラッチ制御手段513としての処理において、駆動力閾値演算手段512の演算処理により求められる駆動力閾値と比較される。
【0051】
駆動力閾値演算手段512は、四輪駆動車1が走行する路面の路面摩擦係数の推定値、及び前輪21に作用する荷重の推定値に基づいて、二輪駆動状態における前輪21のスリップ限界トルクを演算し、このスリップ限界トルクに応じて駆動力閾値を定める。また、本実施の形態では、駆動力閾値演算手段512が、前輪21に作用する横力をさらに加味してスリップ限界トルクを演算する。ここで、スリップ限界トルクとは、タイヤの空転を発生させることなく前輪21に伝達することができる上限のトルク(駆動力)であり、それ以上のトルクを前輪21に伝達すると、前輪21のタイヤ接地面と路面との間の摩擦力に対して前輪21の推進力が過大となり、前輪21が空転し得ると推定されるトルクである。このスリップ限界トルクは、路面摩擦係数や前輪21に作用する荷重が大きいほど大きくなり、旋回時には横力によっても変化する。横力は、例えばヨーレイトセンサの検出値や、操舵角及び車速に基づいて推定することが可能である。
【0052】
路面摩擦係数は、公知又は公用されている種々の手法によって推定することが可能である。具体的には、例えば路面を撮像する撮像手段から取得した画像における光の反射強度分布に基づいて路面摩擦係数を推定してもよく、加減速時や旋回時における車両挙動に基づいて路面摩擦係数を推定してもよい。また、前輪21に作用する荷重は、例えば加速度に応じて変化する前後輪荷重比率に車両重量を乗じて推定してもよく、前輪21を回転可能に支持するハブユニットの軸受に組み込まれた荷重センサの検出値に基づいて推定してもよい。
【0053】
本実施の形態において、駆動力閾値演算手段512は、路面摩擦係数の推定値、前輪21に作用する荷重の推定値、及び前輪21に作用する横力に基づいてスリップ限界トルクを演算し、このスリップ限界トルクから余裕度を見込んで駆動力閾値を定める。つまり、駆動力閾値をスリップ限界トルクよりも所定量小さな値に設定する。この処理は、路面摩擦係数や前輪21に作用する荷重及び横力の推定値の精度は必ずしも高くはなく、誤差を含んだものであり、これらの推定値に基づいて演算したスリップ限界トルクも誤差を含み得ること、及び二輪駆動時における前輪21の空転を確実に防ぐためには、より早いタイミングで四輪駆動状態に移行すべきことを考慮したものである。
【0054】
(ECUの動作)
図6は、制御部51が実行する処理の一部を示すフローチャートである。制御部51は、このフローチャートに示す処理を所定の周期で実行する。制御部51は、推定駆動力が駆動力閾値よりも大きいとき、トルクカップリング4の多板クラッチ41を駆動力伝達可能な状態とし、多板クラッチ41によって後輪22からプロペラシャフト15に伝達される回転力によって噛み合いクラッチ3における第1回転部材31と第2回転部材32とを回転同期させ、第1回転部材31と第2回転部材32とを噛み合わせる。また、本実施の形態では、推定駆動力が駆動力閾値よりも所定値以上大きいとき、推定駆動力と駆動力閾値との差が当該所定値未満である場合に比較して、多板クラッチ41によって伝達される回転力を大きくする。
【0055】
以下、これらの処理の具体例を、
図6のフローチャートに沿って順を追って説明する。このフローチャートにおいて、ステップS1の処理は制御部51が推定駆動力演算手段511として実行する処理であり、ステップS2及びS3の処理は、制御部51が駆動力閾値演算手段512として実行する処理である。また、ステップS4〜S11の処理は、制御部51がクラッチ制御手段513として実行する処理である。
【0056】
制御部51は、四輪駆動車1の駆動状態が二輪駆動状態か否かを判定し(ステップS1)、二輪駆動状態でなければ(S1:No)、以下のステップS2〜S11の処理を実行することなく、
図6に示すフローチャートの処理を終了する。一方、制御部51は、四輪駆動車1の駆動状態が二輪駆動状態であれば(S1:Yes)、車速及びアクセルペダル111の加速操作量に基づいてドライブライントルクマップ522を参照し、推定駆動力を演算する(ステップS2)。
【0057】
次に、制御部51は、路面摩擦係数ならびに前輪21に作用する荷重及び横力の推定値に基づいて、スリップ限界トルクを演算し(ステップS3)、さらにスリップ限界トルクに応じた駆動力閾値を演算する(ステップS4)。
【0058】
次に、制御部51は、ステップS2で演算した推定駆動力と、ステップS4で演算した駆動力閾値との大小関係を比較し(ステップS5)、推定駆動力が駆動力閾値よりも大きければ(S5:Yes)、さらに推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS6)。この判定の結果、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値以上であれば(S6:Yes)、制御部51は、トルクカップリング4の電磁コイル421に第1所定電流値の電流を供給するよう、電流出力回路53に指令信号を出力する(ステップS7)。また、ステップS6の判定処理において、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値未満であれば(S6:No)、制御部51は、トルクカップリング4の電磁コイル421に第2所定電流値の電流を供給するよう、電流出力回路53に指令信号を出力する(ステップS8)。
【0059】
ステップS7の処理によって電磁コイル421に供給される電流は、ステップS8の処理によって電磁コイル421に供給される電流よりも大きい。すなわち、第1所定電流値は、第2所定電流値よりも大きな値である。これにより、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値以上である場合には、この差が所定値未満である場合に比較して、トルクカップリング4の多板クラッチ41によって伝達される回転力が大きくなる。このため、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値以上であれば、より速やかにプロペラシャフト15の回転速度が上昇し、噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32とが回転同期するまでの時間が短縮される。ただし、プロペラシャフト15の回転速度が急速に上昇するため、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値未満である場合に比較すると、振動や騒音が発生しやすくなる。
【0060】
一方、ステップS5の判定処理において、推定駆動力が駆動力閾値よりも大きくなければ(S5:No)、制御部51は、第1乃至第4回転速センサ501〜504の検出値に基づいて演算される前輪21と後輪22との回転速度差(前後輪回転速度差)等に基づいて、四輪駆動状態に移行すべきか否かを判定する(ステップS9)。つまり、推定駆動力が駆動力閾値より小さくても、例えば左前輪21L又は右前輪21Rにスリップが発生し、前後輪回転速度差が大きくなった場合には、走行安定性を確保すべく、後輪22側にも駆動力を配分する四輪駆動状態に移行する。
【0061】
ステップS9の判定の結果、四輪駆動状態に移行すべきであれば(S9:Yes)、ステップS8の処理を実行する。また、この判定の結果が否であれば(S9:No)、制御部51は、
図6に示すフローチャートの処理を終了する。
【0062】
また、制御部51は、ステップS7又はステップS8の処理の実行後、噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32とが回転同期したか否かを判定する(ステップS10)。この判定は、例えば左右前輪21L,21Rの平均回転速度によって得られる第1回転部材31の回転速度と、第5回転速センサ505によって検出されるプロペラシャフト15の回転速度に前輪側ギヤ機構14のギヤ比を乗じて得られる第2回転部材32の回転速度との差が、第1回転部材31と第2回転部材32とを噛み合わせることができる程度に小さくなったか否かによって行うことができる。
【0063】
第1回転部材31の回転速度と第2回転部材32の回転速度との差が小さく、第1回転部材31と第2回転部材32とが回転同期したと判定した場合(ステップS10:Yes)、制御部51は、アクチュエータ34に電流を供給して第2回転部材32を第1回転部材31側に軸方向移動させ、第1回転部材31と第2回転部材32とを噛み合わせる。これにより、噛み合いクラッチ3が駆動力伝達可能な状態となり、四輪駆動状態への移行が完了する。
【0064】
図7は、四輪駆動車1の二輪駆動状態での走行中に、アクセルペダル111が運転者によって踏み込み操作された際の動作例を示し、(a)は加速操作量の時間的変化、(b)推定駆動力の時間的変化、(c)はトランスミッション12から駆動力伝達系10に実際に伝達される駆動力(実ドライブライントルク)の時間的変化、(d)はトルクカップリング4の電磁コイル421に供給される電流の時間的変化をそれぞれ示すグラフである。また、
図7(b)には、スリップ限界トルクTa、駆動力閾値Tb、及び駆動力閾値Tbよりも所定値(
図6のフローチャートにおけるステップS6の所定値)だけ大きい値(以下、この値を第2駆動力閾値Tcとする)を推定駆動力と合わせて図示している。なお、
図7(a)〜(d)のグラフにおける時間軸は共通である。
【0065】
図7(a)に示すように、時刻t1から時刻t4にかけて加速操作量が増大した場合、この加速操作量に基づいて演算される推定駆動力は、
図7(b)に示すように、加速操作量と同様、時刻t1から時刻t4にかけて増大する。一方、実際に駆動力伝達系10に伝達される駆動力は、
図7(c)に示すように、加速操作量の増大に対して時間的な遅れを伴って、時刻t5にかけて徐々に増大する。
【0066】
図7(b)に示すように、時刻t2において推定駆動力が駆動力閾値Tbよりも大きくなると、
図7(d)に示すように、電磁コイル421に第2電流値I2の電流が供給される。また、時刻t3において推定駆動力が第2駆動力閾値Tc以上となると、電磁コイル421に第1電流値I1の電流が供給される。そして、電磁コイル421への電流供給により、噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32との回転同期がなされると、時刻t5において第1回転部材31と第2回転部材32とが連結され、四輪駆動車1の駆動状態が二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する。
【0067】
これにより、前輪21のみに伝達されていたエンジン11の駆動力が後輪22にも伝達され、前輪21の負担が軽減されるため、前輪21のスリップ(空転)が抑制される。
図7(c)では、トランスミッション12から駆動力伝達系10に伝達される駆動力を実線で示し、このうち時刻t5以降における前輪21に伝達される駆動力の時間的変化を破線で図示している。
【0068】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、以下に示す作用及び効果が得られる。
【0069】
(1)ECU5の制御部51は、車速及び加速操作量に基づいて演算した推定駆動力と、スリップ限界トルクに応じて定められた駆動力閾値との比較によってトルクカップリング4の多板クラッチ41を駆動力伝達可能な状態とし、後輪22から多板クラッチ41を介してプロペラシャフト15に伝達される回転力によって噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32とを回転同期させる。これにより、例えば前輪21にスリップが発生してから四輪駆動状態への移行を開始する場合や、駆動力伝達系10に実際に伝達される駆動力の変化によって四輪駆動状態への移行を開始する場合に比較して、早期に四輪駆動状態への移行を完了させることができ、前輪21におけるスリップの発生を抑制することにより、四輪駆動車1の走行安定性を高めることができる。
【0070】
(2)ECU5の制御部51は、トルクカップリング4の電磁コイル421に通電して摩擦クラッチである多板クラッチ41を駆動力伝達可能な状態とし、プロペラシャフト15を回転させる。また、多板クラッチ41は、電磁コイル421に供給される電流に応じて伝達される回転力を調節可能であるので、プロペラシャフト15を回転させる際の振動や騒音を抑制することができる。
【0071】
(3)ECU5の制御部51は、推定駆動力と駆動力閾値との差に応じて複数段階(本実施の形態では2段階)でトルクカップリング4の電磁コイル421に供給する電流を切り替えるので、プロペラシャフト15を回転させる際の振動や騒音を抑制しながら、必要に応じて早期に噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32とを回転同期させることができる。
【0072】
(4)ECU5の制御部51は、路面摩擦係数及び前輪21に作用する荷重の推定値に基づいてスリップ限界トルクを演算し、このスリップ限界トルクに応じて駆動力閾値を設定するので、駆動力伝達系10に伝達される駆動力が増大する際の前輪21におけるスリップを適切に抑制することができる。
【0073】
(5)ECU5の制御部51は、前輪21に作用する横力を加味してスリップ限界トルクを演算するので、四輪駆動車1の旋回時にも、前輪21におけるスリップを適切に抑制することができる。
【0074】
(第2の実施の形態)
次に、
図8を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0075】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る四輪駆動車1Aの概略構成図である。この四輪駆動車1Aは、第1の実施の形態に係る四輪駆動車1に比較して、フロントデフケース134から前輪側ギヤ機構14のリングギヤ142に摩擦クラッチを介して駆動力を伝達する構成が異なる。
図8において、第1の実施の形態に係る四輪駆動車1と共通する構成要素については、
図1と同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0076】
本実施の形態に係る四輪駆動車1Aは、第1の実施の形態に係る噛み合いクラッチ3に替えて、トルクカップリング3Aを有している。トルクカップリング3Aは、フロントデフケース134に相対回転不能に連結された軸状の第1回転部材36と、前輪側ギヤ機構14のリングギヤ142に相対回転不能に連結された有底円筒状の第2回転部材37と、第1回転部材36と第2回転部材37との間に配置された摩擦クラッチとしての多板クラッチ38と、多板クラッチ38を押圧する押圧機構39とを有している。
【0077】
多板クラッチ38は、第1回転部材36に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された複数のインナクラッチプレート381と、第2回転部材37に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された複数のアウタクラッチプレート382とを有して構成されている。押圧機構39は、例えば
図3を参照して説明した後輪22側のトルクカップリング4と同様に、電磁クラッチ及びカム機構によって構成することができる。
【0078】
本実施の形態では、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際、第1の実施の形態と同様に後輪22側のトルクカップリング4の多板クラッチ41を介して伝達される回転力によってプロペラシャフト15を回転させてもよく、前輪21側のトルクカップリング3Aの多板クラッチ38を介して伝達される回転力によってプロペラシャフト15を回転させてもよい。すなわち、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際には、エンジン11からプロペラシャフト15への駆動力伝達を遮断可能な前輪21側のトルクカップリング3Aの多板クラッチ38、及びプロペラシャフト15から後輪22への駆動力伝達を遮断可能な後輪22側のトルクカップリング4の多板クラッチ41のうち、何れか一方の多板クラッチを駆動力伝達可能な状態とすればよい。前輪21側のトルクカップリング3Aの多板クラッチ38を介して伝達される回転力によってプロペラシャフト15を回転させる場合、後輪22側のトルクカップリング4を噛み合いクラッチとしてもよい。
【0079】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を得ることができる。つまり、本発明の「第1のクラッチ」に相当する前輪21側のトルクカップリング3Aの多板クラッチ38、及び本発明の「第2のクラッチ」に相当する後輪22側のトルクカップリング4の多板クラッチ41のうち、推定駆動力が駆動力閾値よりも大きくなったときに何れか一方の多板クラッチを駆動力伝達可能な状態とすれば、他方の多板クラッチを駆動力伝達可能な状態とする際にプロペラシャフト15が回転しているので、四輪駆動状態への移行を速やかに行うことができる。
【0080】
(第3の実施の形態)
次に、
図9を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0081】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る四輪駆動車1Bの概略構成図である。この四輪駆動車1Bは、第1の実施の形態に係る四輪駆動車1に比較して、駆動力伝達系10におけるトルクカップリング4の配置位置が異なり、左後輪側ドライブシャフト191は、リヤディファレンシャル17の左側のサイドギヤ171に相対回転不能に連結されている。また、後輪側ギヤ機構16Aは、リヤデフケース174に固定されたリングギヤ162、及びリングギヤ162に噛み合うピニオンギヤシャフト163によって構成されている。
【0082】
本実施の形態では、トルクカップリング4のハウジング45がプロペラシャフト15と図略の十字継手を介して連結され、インナシャフト44が後輪側ギヤ機構16Aのピニオンギヤシャフト163に相対回転不能に連結されている。四輪駆動時には、エンジン11の駆動力がプロペラシャフト15及びトルクカップリング4を介してリヤディファレンシャル17のリヤデフケース174に伝達され、左右後輪22L,22Rに配分される。
【0083】
ECU5の制御部51は、第1の実施の形態と同様に、推定駆動力が駆動力閾値よりも大きくなったとき、トルクカップリング4の多板クラッチ41を駆動力伝達可能な状態とし、リヤディファレンシャル17及びトルクカップリング4を介して後輪22から伝達される回転力により、プロペラシャフト15を回転させる。そして、プロペラシャフト15の回転によって噛み合いクラッチ3の第1回転部材31と第2回転部材32との回転同期がなされた後、第1回転部材31と第2回転部材32とを連結する。
【0084】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0085】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0086】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、前輪21が主駆動輪であり、後輪22が補助駆動輪である場合について説明したが、前輪を主駆動輪とし、後輪を補助駆動輪とする四輪駆動車にも本発明を適用することが可能である。
【0087】
また、上記実施の形態では、駆動力閾値をスリップ限界トルクよりも小さな値に設定する場合について説明したが、これに限らず、駆動力閾値をスリップ限界トルクと等しくしてもよく、駆動力閾値をスリップ限界トルクよりも大きな値としてもよい。すなわち、駆動力閾値は、スリップ限界トルクに応じて増減する値であればよい。ただし、駆動力閾値をスリップ限界トルクよりも小さな値に設定すれば、運転者が急加速を意図した場合に、より迅速に四輪駆動状態への移行が可能となる。
【0088】
また、上記実施の形態では、推定駆動力と駆動力閾値との差に応じて、この差が大きいほど複数段階でトルクカップリング4の電磁コイル421に供給する電流を大きくする場合について説明したが、これに限らず、推定駆動力と駆動力閾値との差が所定値以上である場合に、一定の電流をトルクカップリング4の電磁コイル421に供給するようにしてもよい。
【0089】
また、トルクカップリング4としては、電磁クラッチ42により作動するカム機構43のカム推力によって多板クラッチ41を押圧する構成に限らず、電動モータの回転力をカム機構等によって軸方向の押圧力に変換して多板クラッチ41を押圧するように構成してもよく、あるいは油圧発生源から供給される作動油の圧力を受けるピストンによって多板クラッチ41を押圧するように構成してもよい。