特許第6380073号(P6380073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6380073
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】冷媒制御バルブ装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 5/06 20060101AFI20180820BHJP
   F16K 31/04 20060101ALI20180820BHJP
   F16K 11/087 20060101ALI20180820BHJP
   F16K 11/06 20060101ALI20180820BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   F16K5/06 C
   F16K5/06 B
   F16K31/04 Z
   F16K11/087 Z
   F16K11/06 Z
   F01P7/16 503
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-251990(P2014-251990)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-114125(P2016-114125A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】弓指 直人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 浩一
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−053415(JP,A)
【文献】 特開昭62−056671(JP,A)
【文献】 特開2013−044354(JP,A)
【文献】 特開平11−218240(JP,A)
【文献】 特開2013−124847(JP,A)
【文献】 特開2013−079705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 5/06
F01P 7/16
F16K 11/00−11/24
F16K 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの冷媒が供給される流入ポート、及び、冷媒を送り出す吐出ポートが形成されたバルブハウジングと、
前記バルブハウジングの内部で回転軸芯を中心に回転自在に備えられ、前記流入ポートから冷媒が供給される内部空間、及び、球状の外面となるバルブ面を有し、前記回転軸芯を中心にした回転により前記内部空間を前記吐出ポートに連通させる孔部が前記バルブ面に形成されたロータリ型の弁体と、を備え、
前記バルブハウジングに形成され、前記吐出ポートから前記バルブハウジングの内部に突出する筒状の内部スリーブと、
前記内部スリーブの外周に支持され前記弁体の前記バルブ面に接触するシール機構と、を備えると共に、
前記シール機構が、前記吐出ポートで冷媒が排出される方向に沿う方向視でリング状であり前記弁体の前記バルブ面に接触可能なシール体と、前記バルブ面の球心に向かう押圧方向に前記シール体に付勢力を作用させる付勢機構とを有し、
前記シール機構が、前記シール体又は前記シール体を含め当該シール体と一体的に移動する移動体に対して前記付勢機構の付勢方向と同方向に冷媒から作用する圧力を受ける第1受圧面と、前記シール体又は前記移動体に対して前記付勢方向と逆方向に冷媒から作用する圧力を受ける第2受圧面とを等しい面積で形成し、当該シール機構を、前記流入ポートに連通するシール収容空間に収容することにより、前記第1受圧面と前記第2受圧面とに対して、前記流入ポートからの冷媒の圧力を作用させる冷媒制御バルブ装置。
【請求項2】
前記内部スリーブは、前記回転軸芯に直交し、前記バルブ面の球心を通過するスリーブ軸芯と同軸芯上に形成されると共に、当該内部スリーブの外周面が前記スリーブ軸芯を中心とする円柱外面状に形成され、
前記付勢機構と前記シール体とが、前記スリーブ軸芯に沿って移動自在に前記内部スリーブの外周を取り囲む位置に配置され、
前記シール機構は、前記内部スリーブの外周に接触することにより、前記シール収容空間と前記シール体の内周位置の空間とを隔絶するパッキン体を更に備え、
前記内部スリーブの外周面を前記スリーブ軸芯に沿う方向に延長した仮想円筒面と、前記バルブ面とが交わる接触位置を、前記シール体が前記バルブ面に接触する接触領域の最外周位置に設定している請求項1記載の冷媒制御バルブ装置。
【請求項3】
前記流入ポートが、前記バルブハウジングにおいて前記回転軸芯に沿う方向に冷媒を供給し、前記弁体が前記流入ポートからの冷媒を前記内部空間において前記回転軸芯に沿う方向に送る請求項1又は2に記載の冷媒制御バルブ装置。
【請求項4】
前記バルブハウジングは、前記吐出ポートとして吐出筒を有し、
前記内部スリーブは、前記吐出筒から前記バルブハウジングの内部に突出して形成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷媒制御バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒制御バルブ装置において、バルブハウジングに回転自在に収容された弁体と吐出ポートとの間に配置されるシール体のシール性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒を対象とするものではないが、特許文献1には、バルブハウジングの内部に回転自在に弁体を収容し、流体流路を構成するガイド部材の筒状部分に外嵌するリング状のシール体(文献ではシート部材)を備え、シール体を弁体の外面に接する方向に付勢するバネ部材を備えた技術が示されている。
【0003】
特許文献1では、弁体が球状の外面を有しており、この外面に接触するようにシール体がリング状に形成されている。また、特許文献1では、シール体のうち弁体に対向する受圧面と、これの反対側の受圧面とに流体の圧力を作用させるためにシール体の外周面に連通部が形成されている。
【0004】
また、特許文献1では、各々の受圧面の面積を等しくしており、前述した連通部を形成することにより、バネ部材の付勢力に抗する方向に流体から受圧面に作用する圧力と、バネ部材の付勢力に沿う方向に流体から受圧面に作用する圧力とが相殺し、シール体に対して過剰な圧力が作用する不都合を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013‐29127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、弁体が開放姿勢にある場合に一対の受圧面に対して流体から決まった圧力が作用するものの、弁体が閉じ姿勢にある場合には弁体が収容された空間に対して流体が供給されないため、弁体の操作時には、流体から一対の受圧面に作用する圧力が一時的にアンバランスになることも考えられた。
【0007】
このようにシール機構の一対の受圧面に作用する圧力がアンバランスな状態に陥った場合には、シール体が弁体に接触する圧力も変動することになり、シール体の接触面に摩耗を招くことや、弁体の操作抵抗が増大する現象にも繋がり改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、弁体の操作に拘わらずシール体の接触圧を変動させずシール体を安定的に弁体に接触させる冷媒制御バルブ装置を構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、内燃機関からの冷媒が供給される流入ポート、及び、冷媒を送り出す吐出ポートが形成されたバルブハウジングと、
前記バルブハウジングの内部で回転軸芯を中心に回転自在に備えられ、前記流入ポートから冷媒が供給される内部空間、及び、球状の外面となるバルブ面を有し、前記回転軸芯を中心にした回転により前記内部空間を前記吐出ポートに連通させる孔部が前記バルブ面に形成されたロータリ型の弁体と、を備え、
前記バルブハウジングに形成され、前記吐出ポートから前記バルブハウジングの内部に突出する筒状の内部スリーブと、
前記内部スリーブの外周に支持され前記弁体の前記バルブ面に接触するシール機構と、を備えると共に、
前記シール機構が、前記吐出ポートで冷媒が排出される方向に沿う方向視でリング状であり前記弁体の前記バルブ面に接触可能なシール体と、前記バルブ面の球心に向かう押圧方向に前記シール体に付勢力を作用させる付勢機構とを有し、
前記シール機構が、前記シール体又は前記シール体を含め当該シール体と一体的に移動する移動体に対して前記付勢機構の付勢方向と同方向に冷媒から作用する圧力を受ける第1受圧面と、前記シール体又は前記移動体に対して前記付勢方向と逆方向に冷媒から作用する圧力を受ける第2受圧面とを等しい面積で形成し、当該シール機構を、前記流入ポートに連通するシール収容空間に収容することにより、前記第1受圧面と前記第2受圧面とに対して、前記流入ポートからの冷媒の圧力を作用させる点にある。
【0010】
この構成によると、シール機構がシール収容空間に収容されているため、第1受圧面と第2受圧面とに対して流入ポートから供給される冷媒の圧力を作用させ、シール体に対して付勢機構の付勢方向と同方向に作用する圧力と、この反対方向に作用する圧力とを相殺することが可能となる。また、弁体の操作状態に拘わらずシール機構の第1受圧面と第2受圧面とに対して流入ポートからの冷媒の圧力を作用させることが可能となり、弁体が操作される毎にシール体に作用する圧力を変動させることがなく、弁体を安定させることが可能となる。
従って、弁体の操作に拘わらずシール体の接触圧を変動させず、シール体を安定的に弁体に接触させる冷媒制御バルブ装置が構成された。
【0011】
本発明は、前記内部スリーブは、前記回転軸芯に直交し、前記バルブ面の球心を通過するスリーブ軸芯と同軸芯上に形成されると共に、当該内部スリーブの外周面が前記スリーブ軸芯を中心とする円柱外面状に形成され、
前記付勢機構と前記シール体とが、前記スリーブ軸芯に沿って移動自在に前記内部スリーブの外周を取り囲む位置に配置され、
前記シール機構は、前記内部スリーブの外周に接触することにより、前記シール収容空間と前記シール体の内周位置の空間とを隔絶するパッキン体を更に備え、
前記内部スリーブの外周面を前記スリーブ軸芯に沿う方向に延長した仮想円筒面と、前記バルブ面とが交わる接触位置を、前記シール体が前記バルブ面に接触する接触領域の最外周位置に設定しても良い。
【0012】
これによると、シール収容空間と内部スリーブの内周の空間との間に冷媒が流動する現象をパッキン体が阻止することになる。また、仮想円筒面とバルブ面とが交わる接触位置より外方側に第1受圧面と第2受圧面とが形成されるため、第1受圧面と第2受圧面とが等しい面積で形成される。これにより、内部スリーブがシール機構を安定的に支持することになり、しかも、内部スリーブの外周面より外側に形成される第1受圧面と第2受圧面とに作用する冷媒の圧力を内部スリーブの内周の空間に逃がすことなく、第1受圧面と第2受圧面とに作用する流体の圧力を良好にバランスさせることが可能となる。
【0013】
本発明は、前記流入ポートが、前記バルブハウジングにおいて前記回転軸芯に沿う方向に冷媒を供給し、前記弁体が前記流入ポートからの冷媒を前記内部空間において前記回転軸芯に沿う方向に送っても良い。
【0014】
これによると、流入ポートから供給される冷媒を、弁体の内部空間において回転軸芯に沿う方向に送るため、例えば、弁体を回転軸芯に沿う方向に延びる形状に構成し、この延びた領域に開口を形成することにより吐出ポート以外のポートに対する冷媒の給排も可能となる。従って、吐出ポートの他にヒータや各種デバイス等に対する冷媒の給排も当該バルブ装置で実現可能となる。
【0015】
本発明は、前記バルブハウジングは、前記吐出ポートとして吐出筒を有し、前記内部スリーブは、前記吐出筒から前記バルブハウジングの内部に突出して形成されても良い。
【0016】
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】冷却システムの構成を示す図である。
図2】バルブ装置の全体構成を示す斜視図である。
図3】主制御弁を閉塞した状態でのバルブ装置の縦断面図である。
図4】主制御弁を閉塞した状態でのバルブ装置の横断面図である。
図5】主制御弁を開放した状態でのバルブ装置の縦断面図である。
図6】主制御弁を開放した状態でのバルブ装置の横断面図である
図7】シール機構の断面図である。
図8】バルブ装置の分解斜視図である。
図9】別実施形態(a)のシールリングを示す断面図である。
図10】別実施形態(b)のシールリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
〔基本構成〕
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン1の冷却水(冷媒の一例)をラジエータ2に供給するバルブ装置V(冷媒制御バルブ装置の具体例)を備えると共に、ラジエータ2からの冷却水をエンジン1に戻すウォータポンプ3(同図ではW/Pと略記)を備えてエンジンの冷却システムが構成されている。
【0020】
この冷却システムは、エンジン1の内部の冷却水の温度(水温)を計測する水温センサの計測結果に基づいてバルブ装置Vを制御し、この制御によりエンジン1とラジエータ2との間に循環する冷却水の水量を設定するように機能する。つまり、エンジン1の始動直後のように暖機を必要とする場合にはエンジン1からラジエータ2への冷却水の供給を停止し、暖機の後にはエンジン1の温度を適正に維持するように冷却水(冷媒)の流量を設定する制御が行われる。
【0021】
〔バルブ装置〕
図2〜4及び図8に示すように、バルブ装置Vは、樹脂製のバルブハウジング10と、ロータリ型となる樹脂製の弁体20と、弁体20の回転姿勢を設定する姿勢設定ユニット30と、冷却水の温度が設定値を超えた場合に開放するフェイルセーフ機構40とを備えて構成されている。更に、このバルブ装置Vは、弁体20と吐出ポートDとしての吐出筒12の内端との間にシール機構50を備えている。
【0022】
バルブハウジング10は、フランジ部11Fを有するハウジング本体11と、吐出筒12と、感温室B(図4を参照)を閉じる感温室カバー13と、感温室Bの冷却水を吐出筒12に送るバイパス流路14と、姿勢設定ユニット30を収容するユニット収容部15とを備えている。図面では、ユニット収容部15の蓋体を省略しているが、このユニット収容部15は蓋体で覆われることにより密封構造となる。
【0023】
このバルブ装置Vでは、弁体20を収容するバルブ室Aが、ハウジング本体11の内部に形成され、フェイルセーフ機構40を収容する感温室Bがバルブ室Aと連通する位置に形成されている。また、フランジ部11Fのフランジ面には流入ポートCが形成されている。この構成から、フランジ部11Fをエンジン1の外壁に連結固定することにより、ウォータジャケットの冷却水が流入ポートCに直接的に供給することが可能となる。また、吐出筒12は、吐出ポートDとして機能するものであり、この吐出筒12にはラジエータ2に冷却水を送るラジエータホースが接続する。
【0024】
ハウジング本体11には吐出ポートDに連通する主筒状部11Aと、感温室Bを形成する副筒状部11Bとが樹脂材により一体形成されている。また、吐出筒12と感温室カバー13とバイパス流路14とは一体物として構成され、吐出筒12に連なる位置に内部スリーブ12Aが形成され、吐出筒12と内部スリーブ12Aと境界位置にフランジ状の連結部12Bが形成されている。
【0025】
この構成から、吐出筒12の内部スリーブ12Aを主筒状部11Aに内挿し、連結部12Bを主筒状部11Aの外端部に接触させ、この接触部位を溶着する。また、感温室カバー13を、副筒状部11Bを閉塞する位置に配置して溶着する。これにより、吐出筒12が突設状態で形成され、感温室Bと吐出筒12とがバイパス流路14を介して連通する。
【0026】
弁体20は、全体的に回転軸芯Xを中心とする筒状であり、回転軸芯Xに沿う方向での一方側に主制御弁21が形成され、他方側に感温制御弁22が形成されている。主制御弁21は、外周にバルブ面として球状面21Aに成形され、この球状面21A(バルブ面の一例)と弁体20の内部空間21Sとを連通させる主孔部21Bが穿設されている。感温制御弁22は、外周が円柱状面22Aに成形され、この円柱状面22Aと弁体20の内部空間21Sとを連通させる感温孔部22Bが穿設されている。
【0027】
つまり、弁体20の内部空間21Sはバルブ室Aと連通する状態にあり、この内部空間21Sに対して流入ポートCからの冷却水が流入可能な状態にある。また、主制御弁21は、吐出ポートDへの冷却水の給排を制御し、感温制御弁22は感温室Bへの冷却水の給排を制御するように機能し、この主制御弁21と感温制御弁22は弁体20と一体的に回転する。
【0028】
また、弁体20の内部にはサポート部23が一体形成されている。このサポート部23は、冷却水の流動を可能にする開口が形成されると共に、中央位置に連結部を形成しており、サポート部23に対して回転軸24の中間部分が連結する。これにより回転軸24が回転軸芯Xと同軸芯上に配置される。
【0029】
ハウジング本体11の流入ポートCに嵌め込む形態で軸受体25を備えている。この軸受体25は冷却水の流入を可能にする開口が形成されると共に、中央位置に軸受部が形成され、この軸受部に対して回転軸24の一端が回転自在に支持されている。また、ハウジング本体11のうち流入ポートCと反対側に軸受部26を備え、この軸受部26に対して回転軸の他端が回転自在に支持されている。
【0030】
姿勢設定ユニット30は、密封空間のユニット収容部15に収容される。この姿勢設定ユニット30は、電動アクチュエータとしての電動モータ31の駆動力を、減速ギヤ32で減速してウォームギヤ33に伝え、このウォームギヤ33で駆動されるホイールギヤ34を備えている。このホイールギヤ34が回転軸24の端部に連結する。
【0031】
姿勢設定ユニット30は、ホイールギヤ34の回転姿勢から弁体20の姿勢を検出する回転角センサ35を備えている。この回転角センサ35は、ホイールギヤ34に備えた永久磁石の磁束から回転角度を検出する非接触型であるが、例えば、ポテンショメータのように接触型のものを用いても良い。
【0032】
この構成から、外部からの駆動信号で電動モータ31(電動アクチュエータ)が作動すると共に、回転角センサ35の信号をフィードバックすることにより、回転軸24を回転させ、主制御弁21の開度を目標とする値に設定することが可能となる。
【0033】
〔フェイルセーフ機構〕
図4図6に示すように、フェイルセーフ機構40は、ワックス等の熱感知体41と、この熱感知体41の端部に支持された開閉弁42と、開閉弁42を閉じ方向に付勢するバルブスプリング43とを備えて構成されている。
【0034】
このバルブ装置Vでは、弁体20が図3に示す閉塞姿勢に設定された場合には、主制御弁21が、バルブ室Aと吐出筒12との間での冷却水の流れを遮断すると共に、図4に示すように、感温制御弁22が、バルブ室Aと感温室Bとを連通させる。これとは逆に、弁体20が図5に示す開放姿勢に設定された場合には、主制御弁21が、バルブ室Aと吐出筒12とを連通させると共に、図6に示すように、感温制御弁22が、バルブ室Aと感温室Bとの間での冷却水の流れを遮断する。
【0035】
前述したように、フェイルセーフ機構40は感温室Bに収容されている。また、主制御弁21が閉塞姿勢にある場合にのみ、感温制御弁22の感温孔部22Bを介してバルブ室Aから冷却水がフェイルセーフ機構40に供給される。つまり、感温室Bは感温制御弁22が開放する状態で、この感温制御弁22の感温孔部22Bと、感温室Bとが直線的に結ぶ位置関係となるように各々が対向する位置に配置されている。
【0036】
そして、冷却水の温度が設定値を超えることで図4に示す如く、熱感知体41が膨張し、バルブスプリング43の付勢力に抗して開閉弁42が開放する。これにより、流入ポートCからの冷却水をバルブ室Aと感温室Bとを介してバイパス流路14に送り、吐出ポートDから排出できる。フェイルセーフ機構40の作動形態は後述する。
【0037】
〔シール機構〕
図7に示すように、シール機構50は、シール体としてのシールリング51と、パッキン体52と、支持リング53と、付勢機構としてのスプリング54とで構成され、これらは、吐出筒12のうち主筒状部11Aの内部に配置される内部スリーブ12Aの外周に配置されている。
【0038】
内部スリーブ12Aは、回転軸芯Xと直交し、且つ、バルブ面としての球状面21Aの球心を通過するスリーブ軸芯Tと同軸芯に形成されている。また、内部スリーブ12Aの外周面はスリーブ軸芯Tを中心とする円柱外周面状に形成されている。
【0039】
シールリング51(シール体)は、その内径が主孔部21Bの孔径より僅かに大きく形成された樹脂材料で形成され、主制御弁21の球状面21Aに接触することによりシール性を現出する。パッキン体52は、内部スリーブ12Aの外面に接触するリップ部を有する樹脂製のリング状に形成され、内部スリーブ12Aの外周との水密性を維持し、シール機構50を収容する収容空間と内部スリーブ12Aの内部空間とを隔絶する。支持リング53は、スプリング54(付勢機構)の付勢力をシールリング51に作用させるステンレス等の金属材料で構成されている。スプリング54は支持リング53を介してシールリング51に付勢力を作用させる。
【0040】
このバルブ装置Vでは、ハウジング本体11の内壁面と主制御弁21の球状面21Aの外周との間に隙間が形成されているため、内部スリーブ12Aの外周に対して流入ポートCからの冷却水がバルブ室Aを介して流入する。この内部スリーブ12Aの外周の空間をシール収容空間としており、このシール収容空間にシール機構50が収容されている。このシール収容空間では、冷却水を介して流入ポートCと等しい圧力が作用する。
【0041】
このシール機構50では、スプリング54の付勢力が作用する方向に沿って一体的に移動する移動体(シールリング51とパッキン体52と支持リング53とスプリング54の一部)が冷却水に取り囲まれる位置に配置されるため、この移動体に対して冷却水の圧力が作用する。つまり、スプリング54の付勢力の作用方向と同方向に冷却水から移動体に作用する圧力を受ける面を第1受圧面S1とし、この逆方向に冷却水から移動体に作用する圧力を受ける面を第2受圧面S2とすると、第1受圧面S1の面積と第2受圧面S2の面積が等しく設定されている。尚、第1受圧面S1の面積と第2受圧面S2の面積は厳密に一致する必要はなく、冷却水から作用する圧力を相殺することが目的であるため多少の誤差が含まれても良い。
【0042】
この構成から、各々の圧力が相殺し、シールリング51に対してスプリング54の付勢力だけが作用することになり、シールに必要な圧力だけを作用させ、良好なシール性を実現する。また、この構成では、スプリング54の付勢力を高めずとも良好なシール性を得るため、弁体20の回転操作時の抵抗を増大させずに済み、シールリング51の摩耗の抑制も可能となる。
【0043】
具体的には、内部スリーブ12Aの外周面をスリーブ軸芯Tに沿う方向に延長した仮想円筒面Pを想定し、この仮想円筒面Pと球状面21Aとが交わる接触位置Q(スリーブ軸芯Tを中心とする環状となる)を、シールリング51が球状面21Aに接触する接触領域の最外周位置に設定している。このように、シール機構50では、移動体のうち、仮想円筒面Pより外方の領域で、スプリング54の一部とパッキン体52の一部で第1受圧面S1が構成される。これと同様に仮想円筒面Pより外方の領域でシールリング51の一部と、支持リング53の一部とで第2受圧面S2が構成される。尚、第1受圧面S1と第2受圧面S2とは、スリーブ軸芯Tに直交する姿勢の仮想投影面に投影した場合にリング状で等しい面積となる。
【0044】
図7に示すシール機構50では、シールリング51において接触位置Qより内周側を弁体20の球状面21Aに接触させており、前述したように仮想円筒面Pより外側に第2受圧面S2が形成される。従って、シールリング51と球状面21Aとが接触する領域が、接触位置Qを基準にしてスリーブ軸芯Tに近い領域に設定されるものであれば、シールリング51と球状面21Aとの接触面積を任意に設定することも可能となる。
【0045】
〔バルブ装置の制御形態〕
このバルブ装置Vでは、弁体20が図3図4に示す閉塞姿勢に設定された場合には、主制御弁21が、バルブ室Aと吐出筒12との間での冷却水の流れを遮断し、感温制御弁22が、バルブ室Aと感温室Bとを連通させ、これらの間での冷却水の流れを許容する。
【0046】
この構成のバルブ装置Vでは、主制御弁21の主孔部21Bが吐出筒12に冷却水を供給できない何れの姿勢でも閉塞姿勢となる。しかしながら、本発明のバルブ装置Vでは、吐出筒12に冷却水が供給されない閉塞姿勢でもフェイルセーフ機構40に冷却水を供給することが必要となる。従って、本発明のバルブ装置Vで弁体20の閉塞姿勢では、図3図4に示す如く、主制御弁21が閉塞状態にあり、感温制御弁22の感温孔部22Bが全開となる姿勢に設定される。
【0047】
また、弁体20が、図5図6に示す開放姿勢に設定された場合には、主制御弁21が、バルブ室Aと吐出筒12とを連通させ、感温制御弁22が、バルブ室Aと感温室Bとの間での冷却水の流れを遮断する。この開放姿勢は、全開状態に限らず、主孔部21Bの一部から冷却水が流れる姿勢も含むものであり、このように主制御弁21が全開状態に達しない姿勢でも感温制御弁22は閉塞姿勢に維持される。
【0048】
従って、エンジン1の暖機時には、姿勢設定ユニット30が弁体20を閉塞姿勢に設定する。これにより、流入ポートCからバルブ室Aに流入した冷却水のラジエータ2への供給が遮断され、感温室Bにはバルブ室Aの冷却水の流入が可能となる。
【0049】
特に、姿勢設定ユニット30等が故障し、主制御弁21が閉塞姿勢に固定された状況で冷却水の温度が設定値を超えた場合には、熱感知体41の膨張により開閉弁42が開放する(図4を参照)。このように開放することでエンジン1の冷却水をバルブ室Aから感温室Bに送り、更に、感温室Bからの冷却水をバイパス流路14から吐出筒12から供給することが可能となり、エンジン1のオーバーヒートが抑制される。
【0050】
また、暖機運転を終えた後には、姿勢設定ユニット30が弁体20を回転させ主制御弁21を開放姿勢に設定する。具体的には、冷却水の温度が低い状態では主制御弁21の開度が低く設定され、温度上昇に従って、開度が大きく設定される。これにより、流入ポートCからバルブ室Aに流入した冷却水が吐出筒12からラジエータ2に供給される。
【0051】
この開放姿勢では主制御弁21が僅かに開いた状態から全開に至る状態まで、感温制御弁22が、バルブ室Aと感温室Bとの間での冷却水の流れを阻止する。従って、冷却水の温度が上昇してもフェイルセーフ機構40が開放する現象を抑制できる。更に、冷却水の温度が一時的に上昇し、この温度上昇により熱感知体41が膨張して開閉弁42が開放した場合でも、バルブ室Aから感温室Bに冷却水が流れることはない。これにより、ラジエータ2へ供給される冷却水の水量を増大させることがなく、エンジン1の熱管理を適正に行える。
【0052】
特に、このバルブ装置Vでは、前述したようにシール機構50が流入ポートCからの冷却水が流入する収容空間に収容されている。例えば、弁体20の回転操作に連動して収容空間の圧力が変動するものでは、弁体20の操作時に収容空間において冷却水の流れを生じ第1受圧面S1と第2受圧面S2との間に圧力差を生ずることもある。これに対して、本発明のバルブ装置Vでは、収容空間に対して流入ポートCから供給される冷却水の圧力が常に作用する構成であるため、第1受圧面S1と第2受圧面S2とには流入ポートCに作用する圧力と等しい圧力が常時作用する。これにより、弁体20が回転操作されても収容空間のシールリング51に対して決まった圧力を作用させ良好なシール状態の維持が可能となる。
【0053】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0054】
(a)図9に示すように、シールリング51として、単純な筒状材を用い、シールリング51の内周縁に弁体20の球状面21Aを接触させるように構成する。この構成では、シールリングとして単純な形状の筒状材の使用が可能となりシールリング51の低廉化が可能となる。
【0055】
(b)図10に示すように、シールリング51として、弁体20に接触する方向の端部にシールリング51の外径より少し小径となる筒状部51Aを形成し、この筒状部51Aの外周側を弁体20の球状面21Aに接触させるように、筒状部51Aの内周側を傾斜面に成形する。この構成では、シールリング51の筒状部51Aが摩耗しても接触位置を仮想円筒面Pと一致させることが可能となり、シール性能を高く維持できる。
【0056】
(c)吐出ポートDを基準に、流入ポートCと反対側に、EGRクーラや、ヒータコア等に供給するためのポートを、バルブハウジング10に形成する。このように構成する場合には弁体20の主制御弁21を基準にして回転軸芯Xに沿う方向で流入ポートCと反対側にバルブ面を形成し、これに対応するポートをバルブハウジング10に形成することになる。
【0057】
本発明の弁体20は、内部空間21Sを有し、流入ポートCから流入する冷却水を回転軸芯Xに沿って送ることが可能であるため、この別実施形態(c)のように構成した場合でも各ポートに対して冷却水を無理なく供給することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、内燃機関の冷媒を給排する冷媒制御バルブ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 バルブハウジング
12A 内部スリーブ
20 弁体
21A バルブ面(球状面)
21B 孔部(主孔部)
21S 内部空間
31 電動アクチュエータ(電動モータ)
50 シール機構
51 シール体(シールリング)
52 パッキン体
54 付勢機構(スプリング)
C 流入ポート
D 吐出ポート
E 内燃機関(エンジン)
P 仮想円筒面
Q 接触位置
S1 第1受圧面
S2 第2受圧面
T スリーブ軸芯
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10