(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態を
図1乃至
図4に沿って説明する。なお、本発明に係る自動変速機は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプ等の車輌に搭載されて好適な自動変速機であり、
図1、
図3中における左右方向が実際の車輌搭載状態における左右方向(或いは左右逆方向)に対応するが、説明の便宜上、エンジン等の駆動源側である図中右方側を「前方側」、図中左方側を「後方側」というものとする。
【0013】
まず、本発明を適用し得る自動変速機1の概略構成について
図1に沿って説明する。
図1に示すように、例えばFFタイプの車輌に用いて好適な自動変速機1は、前方側に、ロックアップクラッチ2aを有するトルクコンバータ2が配置されており、後方側に、変速機構3、カウンタシャフト部4及びディファレンシャル部5が配置されている。
【0014】
トルクコンバータ2は、例えばエンジン(不図示)の出力軸10と同軸上である変速機構3の入力軸7Aを中心とした軸上に配置されており、変速機構3は、入力軸7Aと同軸上で接続された中心軸7B(
図3参照)を中心とした軸上に配置されている。また、カウンタシャフト部4は、入力軸7A及び中心軸7Bと平行な軸上であるカウンタシャフト12上に配置されており、ディファレンシャル部5は、カウンタシャフト12と平行な軸上に左右ドライブシャフト15a,15bを有する形で配置されている。
【0015】
なお、
図1に示すスケルトン図は、自動変速機1を平面的に展開して示しているものであって、入力軸7A及び中心軸7Bと、カウンタシャフト12と、左右ドライブシャフト15a,15bとは、側面視で三角形状の位置関係である。
【0016】
変速機構3には、トルクコンバータ2を介してエンジンからの回転が伝達される入力軸7Aが備えられており、入力軸7Aの後方側に接続配置された中心軸7Bが備えられている。すなわち、自動変速機1においては、入力軸7Aと中心軸7Bとによって広義としての入力軸7が構成されている。そして、変速機構3には、入力軸7A上において、プラネタリギヤDPが備えられ、中心軸7B上において、プラネタリギヤユニットPUが備えられている。
【0017】
プラネタリギヤDPは、第1のサンギヤS1、第1のキャリヤCR1及び第1のリングギヤR1を備えており、第1のキャリヤCR1に、第1のサンギヤS1に噛合するピニオンギヤP2及び第1のリングギヤR1に噛合するピニオンギヤP1を互いに噛合する形で有している、いわゆるダブルピニオンプラネタリギヤである。
【0018】
一方、プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素として第2のサンギヤS2、第3のサンギヤS3、第2のキャリヤCR2及び第2のリングギヤR2を有し、第2のキャリヤCR2に、第3のサンギヤS3及び第2のリングギヤR2に噛合するロングピニオンギヤP3と、第2のサンギヤS2に噛合するショートピニオンギヤP4とを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0019】
プラネタリギヤDPの第1のサンギヤS1は、ケース6に対して回転が固定されている。また、第1のキャリヤCR1は、入力軸7Aに接続されて、入力軸7Aの回転と同回転(以下、「入力回転」という。)になっているとともに、第4のクラッチC−4に接続されている。更に、第1のリングギヤR1は、固定された第1のサンギヤS1と入力回転する第1のキャリヤCR1とにより、入力回転が減速された減速回転になるとともに、第1のクラッチC−1及び第3のクラッチC−3に接続されている。
【0020】
プラネタリギヤユニットPUの第3のサンギヤS3は、第1のブレーキB−1に接続されてケース6に対して固定自在となっているとともに、第4のクラッチC−4及び第3のクラッチC−3に接続されて、第4のクラッチC−4を介して第1のキャリヤCR1の入力回転が、第3のクラッチC−3を介して第1のリングギヤR1の減速回転が、それぞれ入力自在となっている。また、第2のサンギヤS2は、第1のクラッチC−1に接続されており、第1のリングギヤR1の減速回転が入力自在となっている。
【0021】
更に、第2のキャリヤCR2は、中心軸7Bを介して入力軸7Aの回転が入力される第2のクラッチC−2に接続されて、第2のクラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ワンウェイクラッチF−1及び第2のブレーキB−2に接続されて、ワンウェイクラッチF−1を介してケース6に対して一方向の回転が規制されるとともに、第2のブレーキB−2を介して回転が固定自在(係止自在)となっている。そして、第2のリングギヤR2は、詳しくは後述するミッションケース6Bに固定されたセンタサポート部材19(
図3参照)に対して回転自在に支持されたカウンタギヤ8に接続されている。また、第2のリングギヤR2は、はすば内歯車形状のリングギヤであり、ロングピニオンギヤP3と噛合し回転する場合に、軸方向にスラスト力が発生する。
【0022】
また、カウンタギヤ8には、カウンタシャフト部4のカウンタシャフト12上に固定されているカウンタドリブンギヤ11が噛合しており、カウンタシャフト12には、外周面上に形成されている出力ギヤ12aを介してディファレンシャル部5のギヤ14が噛合している。そして、ギヤ14は、ディファレンシャルギヤ13に固定されており、ディファレンシャルギヤ13を介して左右ドライブシャフト15a,15bに接続されている。
【0023】
以上のように構成された自動変速機1は、
図1のスケルトンに示す各第1〜第4のクラッチC−1〜C−4、第1及び第2ブレーキB−1,B−2、ワンウェイクラッチF−1が、
図2の係合表に示す組み合わせで係脱されることにより、前進1速段(1st)〜前進8速段(8th)及び後進1速段(Rev1)〜後進2速段(Rev2)が達成される。
【0024】
続いて、自動変速機1(変速機構3)の後方側部分の詳細構造を
図3に沿って説明する。変速機構3は、その中心部分に、入力軸7Aにスプライン係合された中心軸7Bを備えており、中心軸7Bの前方側は、入力軸7Aを介してケース6に回転自在に支持されているとともに、中心軸7Bの後方側は、ケース6に形成されたボス部にニードルベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0025】
中心軸7Bの外周側には、中心軸7Bを中心として、上述したプラネタリギヤユニットPUがカウンタギヤ8に対してセンタサポート部材19とは軸方向反対側に配設されている。詳示には、中心軸7Bの外周側には、ブッシュb2及びブッシュb3を介してスリーブ状に形成された第2のサンギヤS2が中心軸7Bに対して相対回転自在に配置されている。なお、第2のサンギヤS2の前方側は、上述した第3のクラッチC−3や第4のクラッチC−4に連結される連結部材88にスプライン係合されている。
【0026】
第2のサンギヤS2の外周側には、ブッシュb4を介してスリーブ状に形成された第3のサンギヤS3が中心軸7Bに対して相対回転自在に配置されている。また、第3のサンギヤS3は、スラストベアリングb12を介して第2のサンギヤS2に対して軸方向に位置決め規制されているとともに、スラストベアリングb13を介して連結部材88に対して軸方向に位置決め規制されている。
【0027】
第2のサンギヤS2及び第3のサンギヤS3の外周側には、第2のキャリヤCR2が配置されている。第2のキャリヤCR2は、大まかに、第1の側板51と不図示の第2の側板とにより複数のロングピニオンギヤP3及び複数のショートピニオンギヤP4を回転自在に支持する枠体(構造体)を構成している。第1の側板51は、ロングピニオンギヤP3のピニオンシャフト53の前端部に対応する部分が薄肉の円板状に形成されているとともに、ショートピニオンギヤP4のピニオンシャフト54の前端部に対応する部分が薄肉状の円板状に対して肉厚の厚肉部51aとなるように形成されており、厚肉部51aからは、第1の側板51の外縁部分まで延設されたブリッジ部(ブリッジ)51bが形成されている。すなわち、厚肉部51a及びブリッジ部51bは、ロングピニオンギヤP3が存在しない部分に、複数のロングピニオンギヤP3と周方向に対して交互に配置されており、言い換えると、複数のブリッジ部51bは、周方向に繋がらず、複数のロングピニオンギヤP3に対応する部分が切欠き部分となるように構成されている。そして、ブリッジ部51bの外周側には、第2のクラッチC−2の内摩擦板21bがスプライン係合するスプライン部51sが形成されており、スプライン部51sは、複数のロングピニオンギヤP3に対応する部分が欠歯となるように構成されている。
【0028】
また、複数のロングピニオンギヤP3に対応する部分が切欠き部分となっているブリッジ部51bは、前端部の外周側に詳しくは後述するワンウェイクラッチF−1のドラム状のインナーレース71が例えば溶接等で固着されている。インナーレース71は、円筒状のインナーレース本体71aと、環状の接続部71bとを有しており、環状の接続部71bにより周方向に分散された複数のブリッジ部51bが連結され、第2のキャリヤCR2の枠体としての剛性が強くなるように構成されている。なお、環状の接続部71bの外周側には、第2のブレーキB−2のハブ部材38が例えば溶接等で固着されている。そして、インナーレース71の内周側には、詳しくは後述するプラネタリギヤユニットPUの第2のリングギヤR2(第2回転部材)がロングピニオンギヤP3に噛合して支持される形で配置されている。
【0029】
一方、プラネタリギヤユニットPUの後方側から後方部分の外周側にかけて、第2のクラッチC−2が配置されている。第2のクラッチC−2は、複数の外摩擦板21a及び複数の内摩擦板21bからなる摩擦板21と、摩擦板21を押圧駆動して係合自在にする不図示の油圧サーボと、を有して構成されている。
【0030】
一方、第2のクラッチC−2の外周側には、第2のクラッチC−2を覆う形で、第2のブレーキB−2が配置されている。第2のブレーキB−2は、複数の外摩擦板31a及び複数の内摩擦板31bからなる摩擦板31と、摩擦板31を係止させる不図示の油圧サーボとを備えている。
【0031】
内摩擦板31bは、上述したハブ部材38にスプライン係合し、インナーレース71を介して第2のキャリヤCR2に駆動連結されている。また、外摩擦板31aは、ケース6の内周面に形成されたスプライン部6sにスプライン係合されている。
【0032】
一方、第2のクラッチC−2の摩擦板21及び第2のブレーキB−2の摩擦板31の前方側にあって、プラネタリギヤユニットPUの外周側には、ワンウェイクラッチF−1が配置されている。ワンウェイクラッチF−1は、大まかに、上述したインナーレース71と、アウターレース72と、それらの間に介在してインナーレース71の回転方向を一方向に規制する一方向規制機構(例えばローラカム機構やスプラグ機構など)73と、を有して構成されている。
【0033】
アウターレース72は、その外周面がケース6のスプライン部6sにスプライン係合しており、両側面がスナップリング39,79によって規制されることによって、ケース6に対して位置決め固定されている。一方のインナーレース71は、上述したように、円筒状のインナーレース本体71aと、インナーレース本体71aの後端側から内周側に延びる環状の接続部71bとを有して構成されている。接続部71bの外周側には、第2のブレーキB−2の内摩擦板31bにスプライン係合するハブ部材38が例えば溶接により固着されている。そして、接続部71bの内周側端部は、上述した第2のキャリヤCR2の第1の側板51における複数のブリッジ部51bのそれぞれに例えば溶接されて固着されており、インナーレース71の特に環状の接続部71bは、第2のキャリヤCR2の枠体としての剛性を高めている。
【0034】
インナーレース71の内周側には、ロングピニオンギヤP3に噛合する第2のリングギヤR2が収納される形で配置されている。第2のリングギヤR2の前方部分は、内周部分にスプライン(第2スプライン)R2sが形成されている。第2のリングギヤR2は、スプラインR2sがカウンタギヤ8の後方部分に形成されたスプライン(第1スプライン)8sの外周側とスプライン係合し、カウンタギヤ8と駆動連結されている。
【0035】
また、第2のリングギヤR2の前方部分には、スナップリング43が取り付けられるリング溝40が形成されている。第2のリングギヤR2は、リング溝40に取り付けられたスナップリング43によって、軸方向への移動が規制される。スナップリング43は、端部に形成された外径方向に突出した一対の爪部43a,43b(
図4参照)を挟むことで縮径可能に構成されており、爪部43a,43bがリング溝40の壁部41に設けられた収納溝41aに収納されることで、第2のリングギヤR2に取り付けられる。
【0036】
カウンタギヤ8は、外周側に歯面8aが形成されており、カウンタドリブンギヤ11の歯面11aに噛合している。カウンタギヤ8の内周面には、アンギュラボールベアリングb20(軸受部材)が嵌合されており、アンギュラボールベアリングb20を介してカウンタギヤ8は、センタサポート部材19のスリーブ部19bに回転自在に支持されている。なお、アンギュラボールベアリングb20は、センタサポート部材19のスリーブ部19bの外周面上にあって、フランジ状部19aとの間にナット18によって挟まれて締結されている。センタサポート部材19のフランジ状部19aの外周側には、複数の突起部が形成されており、複数のボルト91によって複数の突起部がケース6に締結されることで、センタサポート部材19はケース6に固定されている。また、センタサポート部材19の外周側の前方側には、第1のブレーキB−1(
図1参照)が配置されている。第1のブレーキB−1は、複数の外摩擦板及び複数の内摩擦板からなる摩擦板と、この摩擦板を接断させる油圧サーボとを備えており、内摩擦板が上述した第3のサンギヤS3にスプライン係合されたドラム部材68に接続されている。なお、第3のサンギヤS3にスプライン係合されるドラム部材68は、第3のクラッチC−3(
図1参照)の外摩擦板と、第4のクラッチC−4(
図1参照)の外摩擦板と、とも接続されている。
【0037】
一方、上述したカウンタドリブンギヤ11は、テーパードローラベアリングb21によってケース6に回転自在に支持されたカウンタシャフト12にスプライン係合して、かつテーパードローラベアリングb21によって締結される形で、カウンタシャフト12に対して一体的に固定されている。カウンタドリブンギヤ11は、上述したようにカウンタギヤ8に噛合する歯面11aを有しているとともに、その歯面11aの前方側にパーキングギヤ11bが一体的に形成されている。なお、パーキングギヤ11bは、不図示のパーキング機構によって駆動されるパーキングポールに噛合することで、パーキングレンジにおいてカウンタシャフト12、ディファレンシャル部5、ドライブシャフト15a,15bを介して車輪(不図示)の回転を固定する。
【0038】
ついで、本発明の要部となる第2のリングギヤR2について、
図3を参照しつつ
図4に沿って詳細に説明する。第2のリングギヤR2は、上述したように、スプラインR2sによってカウンタギヤ8に形成されているスプライン8sとスプライン係合するとともに、ロングピニオンギヤP3に噛合している。つまり、第2のリングギヤR2は、カウンタギヤ8と軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0039】
第2のリングギヤR2は、上述したように、はすば内歯車形状であり、ロングピニオンギヤP3と噛合し回転することに伴い、前進時の駆動力伝達状態や後進時のコースト(エンジンブレーキ)状態では軸方向後方側へのスラスト力が発生し、反対に前進時のコースト状態や後進時の駆動力伝達状態では軸方向前方側へのスラスト力が発生する。また、カウンタギヤ8は、上述したように、アンギュラボールベアリングb20を介してセンタサポート部材19のスリーブ部19bに回転自在に支持されているため、アンギュラボールベアリングb20により軸方向への移動が略規制されている。このため、自動変速機1では、第2のリングギヤR2の回転により発生したスラスト力によるカウンタギヤ8と第2のリングギヤR2との軸方向の相対移動方向への力が生じても第2のリングギヤR2が軸方向に移動することを、スナップリング43をリング溝40に当接させることによって規制している。
【0040】
第2のリングギヤR2に形成されているリング溝40の詳細について、
図4(a)、(b)を参照して説明する。
図4(a)、(b)は、スナップリング43を装着した第2のリングギヤR2の正面図であり、
図4(b)は、
図4(a)中収納溝41a付近の領域Aを拡大した正面図である。
【0041】
図4(a)、(b)に示すように、第2のリングギヤR2は、リング溝40のうち軸方向前方側の側面を構成し、スナップリング43の面43cと対面する壁部41を有している。壁部41は、半径方向の高さが主に高さa2で形成され、周方向の一部にスナップリング43の爪部43a,43bを収納する収納溝41aが形成されている。収納溝41aは、第2のリングギヤR2が回転した際の重量バランスによる偏心を防止するため、点対称となるように半径方向に向けて2ヶ所形成されている。なお、収納溝41aは、必ずしも2ヶ所である必要はなく、少なくとも1ヶ所形成されていればよい。収納溝41aを1ヶ所に形成する場合には、他の部位で重量バランスを取るようにしてもよいし、第2のリングギヤR2を軸受等で精度良く支持するようにしてもよい。
【0042】
また、壁部41は、収納溝41aから周方向にむけて延びるとともに、リング溝40の底部40aからの半径方向の高さがa1からa2へと徐々に高くなるテーパ部(傾斜部)41bを有している。ここで、テーパ部41bは、軸方向から見て半径方向外側に向かってへこむ円弧状に形成されている。
【0043】
ついで、第2のリングギヤR2を製造する工程について説明する。第2のリングギヤR2は、まず、円筒形状の金属材料から内周面が切削され、はすば内歯車形状の歯面が形成される歯面形成工程が実行される。次に、第2のリングギヤR2は、歯面が形成された状態において、内周面が切削され、カウンタギヤ8のスプライン8sとスプライン係合するスプラインR2sを形成されるスプライン形成工程が実行される。次に、第2のリングギヤR2は、両端面のうちスプラインR2sが形成されている端面の近傍に、リング溝40が旋盤加工によって形成されるリング溝形成工程が実行される。次に、第2のリングギヤR2は、歯面、スプラインR2s及びリング溝40が形成された状態で焼入され、硬度が向上される焼入工程が実行される。次に、第2のリングギヤR2は、スナップリング43の爪部43a,43bが収納される収納溝41aがフライス加工により形成される収納溝形成工程が実行される。
【0044】
そして、第2のリングギヤR2は、収納溝41aが形成されたことによって壁部41に形成された収納溝41aの各角部を径の比較的大きいドリル工具によって切削することで、軸方向から見て半径方向外側に向かってへこむ円弧状、つまり、底部40aに向かってへこむ円弧状のテーパ部41bが形成されるテーパ部形成工程が実行され、自動変速機1を構成する第2のリングギヤR2の形状となる。このように、自動変速機1は、テーパ部41bを第2のリングギヤR2に形成する際に、径の比較的大きいドリル工具によって、壁部41の収納溝41aを形成する角を切削することで形成できるため、容易にテーパ部41bを第2のリングギヤR2に形成できる。なお、テーパ部形成工程において、第2のリングギヤR2は、ドリル以外の円形状の工具や回転する研削砥石等によって収納溝41aの角部が除去されることで形成されていてもよい。また、テーパ部形成工程においては、2ヶ所形成されている収納溝41aの角部計4ヶ所のすべてにテーパ部41bが形成されるため、第2のリングギヤR2をカウンタギヤ8に取り付ける際に、取り付ける方向を限定することなく取り付け可能となっている。
【0045】
ついで、第2のリングギヤR2のリング溝40にスナップリング43を取り付けた状態で第2のリングギヤR2の回転により発生したスラスト力によるカウンタギヤ8と第2のリングギヤR2との軸方向の相対移動方向への力が生じた場合の詳細について説明する。
【0046】
スナップリング43は、上述したように、端部が外径方向に突出した爪部43a,43bとなっており、爪部43aと爪部43bとが繋がっていないC字形状に形成されているため、爪部43a,43bを操作することで縮径可能となっている。爪部43a,43bを作業者が掴んで縮径することで、スナップリング43は、第2のリングギヤR2に挿入される。
【0047】
爪部43a,43bが繋がっていないことから、スナップリング43は、第2のリングギヤR2の回転により発生したスラスト力によるカウンタギヤ8と第2のリングギヤR2との軸方向の相対移動方向への力が生じ、スナップリング43を壁部41に当接させることで第2のリングギヤR2が軸方向に移動することを規制する場合、爪部43a,43bを壁部41に押し付ける方向に曲げ応力が作用するため、爪部43a,43bと当接する壁部41に応力が集中しやすくなっている。また、第2のリングギヤR2がカウンタギヤ8に対して相対的に傾斜した場合においても、リング溝40内においてスナップリング43が傾くことで、爪部43a,43bが壁部41に押し付けられることで、壁部41に応力が集中しやすくなっている。
【0048】
そのため、本第2のリングギヤR2は、壁部41の収納溝41a近傍にテーパ部41bを有している。これにより、第2のリングギヤR2は、カウンタギヤ8と第2のリングギヤR2との軸方向の相対移動方向への力が生じ、第2のリングギヤR2が軸方向に移動することをスナップリング43で規制する場合に、スナップリング43の爪部43a,43bがテーパ部41bと接触し、テーパ部41bにより軸方向の力が分散されるため、壁部41に応力が集中することを防ぐことができる。
【0049】
(本実施形態のまとめ)
以上説明したように、本実施形態の自動変速機(1)は、第1スプライン(8s)を有する第1回転部材(8)と、
第2スプライン(R2s)及びリング溝(40)を有し、第2スプライン(R2s)が第1スプライン(8s)とスプライン係合する第2回転部材(R2)と、
リング溝(40)に取り付けられ、第1回転部材(8)と第2回転部材(R2)との軸方向の移動を規制するスナップリング(43)と、を備え、
第2回転部材(R2)は、リング溝(40)の一方の側面を構成し、かつ周方向の一部に半径方向に向けて形成されてスナップリング(43)の端部に形成された爪部(43a,43b)を収納する収納溝(41a)が形成された壁部(41)を有し、
壁部(41)は、収納溝(41a)から周方向に延びるとともに半径方向の高さが徐々に高くなる傾斜部(41b)を有している。
【0050】
このため、スプライン係合する第1回転部材(8)と第2回転部材(R2)とに軸方向の力が作用した場合に、第1回転部材(8)と第2回転部材(R2)とが軸方向に移動することを規制するスナップリング(43)が、傾斜部(41b)と接触する際、傾斜部により軸方向の力が分散されるため、壁部(41)に応力集中による高い負荷がかかることを防ぐことができ、壁部(41)の耐久性を向上することができる。
【0051】
また、傾斜部(41b)は、軸方向から見て底部(40a)に向かってへこむ円弧状に形成されている。
【0052】
これにより、傾斜部(41b)を第2回転部材(R2)に形成する際に、径の比較的大きいドリル工具によって切削することで形成できるため、容易に傾斜部(41b)を第2回転部材(R2)に形成できる。
【0053】
また、第2スプライン(R2s)は、第1スプライン(8s)の外周側に係合し、
リング溝(40)は、第2回転部材(R2)の内周面に形成され、
傾斜部(41b)は、軸方向から見て半径方向外側に向かってへこむ円弧状に形成されている。
【0054】
これにより、第2スプライン(R2s)が形成された内周面にリング溝(40)を有する第2回転部材(R2)に傾斜部(41b)を形成する際に、径の比較的大きいドリル工具によって切削することで形成できるため、容易に傾斜部(41b)を第2回転部材(R2)に形成できる。
【0055】
また、第2回転部材(R2)は、はすば内歯車形状のリングギヤ(R2)である。
【0056】
これにより、リングギヤ(R2)は、自動変速機(1)内においてケース(6)や入力軸(7A)に支持させるようにすると、自動変速機(1)の大型化に繋がってしまうことからケース(6)や入力軸(7A)に支持されておらず、軸方向に移動しやすいので、スナップリング(43)が押し付けられる壁部(41)に負荷がかかりやすいが、このリングギヤ(R2)に設けられたリング溝(40)に傾斜部(41b)を設けることで軸方向の移動に伴う負荷を分散できるので、壁部(41)の耐久性を向上させることができる。
【0057】
また、第1回転部材(8)は、センタサポート部材(19)に軸受部材(b20)を介してケース(6)に対して回転自在に支持されるカウンタギヤ(8)である。
【0058】
これにより、センタサポート部材(19)に軸受部材(b20)を介して支持されることで軸方向の移動が略規制されたカウンタギヤ(8)と、カウンタギヤ(8)とスプライン係合し軸方向に移動自在な第2回転部材(R2)と、の軸方向の移動を規制するためにスナップリング(43)を取り付けることで、第2回転部材(R2)をカウンタギヤ(8)に対して相対回転不能かつ軸方向移動不能に支持させることができる。そのため、第2回転部材(R2)を直接的にケース(6)や入力軸(7A)に支持させる部材を設けることを不要とすることができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、カウンタギヤ8とスプライン係合する第2のリングギヤR2に形成され、カウンタギヤ8と第2のリングギヤR2との軸方向の移動を規制するスナップリング43が取り付けられるリング溝40の壁部41にテーパ部41bを形成するものを一例として説明したが、これに限らず、スプライン係合する回転部材同士の軸方向の移動を規制するスナップリングが取り付けられるリング溝であれば、いずれの回転部材であっても、本発明を適用し得る。
【0060】
また、本実施形態において、テーパ部41bは、軸方向から見て底部40aに向かってへこむ円弧状に形成されているが、これに限らず、半径方向の高さが徐々に高くなるように構成されていればよく、例えば、直線形状の面取り構造であってもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、自動変速機1を例えば前進8速段及び後進2速段を達成するものを一例として説明したが、これに限らず、例えば前進6速段及び後進段を達成するものであってもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、自動変速機1をエンジンだけに接続したものを説明したが、例えばトルクコンバータ2の代わりにモータ・ジェネレータを搭載した、ハイブリッド車両用の自動変速機であってもよい。