(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6380541
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】情報通信システム、情報通信方法および装置
(51)【国際特許分類】
H04L 9/12 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
H04L9/00 631
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-544945(P2016-544945)
(86)(22)【出願日】2015年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2015004158
(87)【国際公開番号】WO2016031194
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-170087(P2014-170087)
(32)【優先日】2014年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構 「高度通信・放送研究開発委託研究/セキュアフォトニックネットワーク技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】越智 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】田島 章雄
【審査官】
金沢 史明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−238132(JP,A)
【文献】
特開2011−082832(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0056040(US,A1)
【文献】
特開2012−147078(JP,A)
【文献】
特開2000−332655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 9/12
H04L 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信装置から第2通信装置の方向に情報を伝送する第1伝送系と、
前記第1伝送系とは逆方向に情報を伝送する第2伝送系、とを有し、
前記第1伝送系および前記第2伝送系のいずれにおいても送信情報の一部が受信情報として受信され、
前記第1通信装置および前記第2通信装置の各々は、
他方の通信装置へ送信情報を送信する送信器と、
前記他方の通信装置から受信情報を受信する受信器と、
前記送信器のパラメータ調整時に、前記送信器から出力される送信信号を折り返して前記受信器へ入力させる切替手段と、
前記折り返された信号を受信した前記受信器の受信信号に基づいて前記送信器の送信パラメータを調整するパラメータ調整手段、とを有する
情報通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の情報通信システムにおいて、
前記第1通信装置および前記第2通信装置の各々は、自装置が送信した送信情報と他方の通信装置から受信した受信情報とを用いて情報処理を行う情報処理手段を有する
情報通信システム。
【請求項3】
他の通信装置へ第1伝送路を通して情報を送信する送信手段と、
前記他の通信装置から第2伝送路を通して情報を受信する受信手段、とを有し、
前記第1伝送路および前記第2伝送路のいずれも送信情報の一部が受信情報として受信され、
前記送信手段のパラメータ調整時に、前記送信手段から出力される送信信号を折り返して前記受信手段へ入力させる切替手段と、
前記折り返された信号を受信した前記受信手段の受信信号に基づいて前記送信手段の送信パラメータを調整するパラメータ調整手段、とを更に有する
通信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の通信装置において、
前記送信手段により送信した送信情報と前記他方の通信装置から受信した前記受信情報とを用いて情報処理を行う情報処理手段を更に有する
通信装置。
【請求項5】
第1通信装置および第2通信装置の各々が、伝送方向が逆の第1伝送系と第2伝送系とにより情報を送受信し、
前記第1伝送系および前記第2伝送系のいずれも送信情報の一部が受信情報として受信され、
前記第1通信装置および前記第2通信装置の各々において他方の通信装置へ送信情報を送信する送信器のパラメータ調整時に、前記送信器から出力される送信信号を折り返して前記他方の通信装置から受信情報を受信する受信器へ入力させ、
前記折り返された信号を受信した前記受信器の受信信号に基づいて前記送信器の送信パラメータを調整する
情報通信方法。
【請求項6】
請求項5に記載の情報通信方法において、
前記第1通信装置および前記第2通信装置の各々は、自装置が送信した送信情報と他方の通信装置から受信した受信情報とを用いて情報処理を行う
情報通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信装置間で情報の送受信を行う情報通信システム、その情報通信方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信装置間のデータ伝送では、送信側から送信された情報のすべてが受信側で受信されるとは限らない。たとえばネットワークの負荷状態等によりパケット損失が発生する場合が知られているが、その他に、送信器、受信器およびそれらを接続する通信路からなる伝送系の特性として送信されたデータの一部しか受信器に届かない通信システムも存在する。このような通信システムの一例として量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)システムについて簡単に説明する。
【0003】
情報の暗号化および復号化に必要な共有鍵は秘密情報として送信側と受信側との間で共有する必要があり、このような秘密情報を生成し共有する技術としてQKD技術が有力視されている。QKD技術は、通常の光通信とは異なり、1ビットあたりの光子数を1個以下として乱数を伝送することにより、送信装置と受信装置との間で共通鍵を生成し共有することができる。このQKD技術は、従来のように計算量に基づく安全性ではなく、一度観測されてしまった光子を完全に観測前の量子状態に戻すことができないという量子力学の原理に基づく安全性を有している。
【0004】
QKD技術では、暗号通信に用いるための暗号鍵を生成するまでに、いくつかのステップを実行しなければならない。以下、
図1を参照しながら、代表的な暗号鍵の生成過程を説明する。
【0005】
図1に示すように、単一光子伝送では、前述したとおり、1ビットあたりの光子数を1個以下とした微弱光パルス列により乱数を量子チャネルを通して伝送する。QKD方式としては、たとえば4つの量子状態を用いたBB84方式が広く知られている(非特許文献1)。送信器が原乱数を単一光子伝送により送信すると、その大部分は伝送路の損失等によって失われ、受信器で受信できたビットは送信ビットの極僅かとなり、これを生鍵と言う。たとえば、受信器で受信できるデータ量は送信データ量の1/1000程度である。
【0006】
続いて、量子チャネル伝送で送信乱数の大部分が失われて受信された生鍵に対して、通常光強度の通信チャネル(古典チャネル)を用いて、基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理が行われる。基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理の各ステップにおいて、相手側に開示されたビットおよび盗聴可能性を排除するためのビットの除去が行われる。このように、伝送路により大部分の送信データが失われ、さらにその後の処理によりデータ除去が行われるような伝送系では最終的に得られる受信データ量は送信データ量に比べて非常に少なくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“QUANTUM CRYPTOGRAPHY, PUBLIC KEY DISTRIBUTION AND COIN TOSSING”IEEE Int. Conf. on Computers, Systems, and Signal Processing, Bangalore, India December 10-12, 1984, pp.175-179, Bennett, Brassard
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、大部分の送信データが失われる伝送系では、送信データを処理する送信側と受信データを処理する受信側との間で、処理すべきデータ量に大きな偏りが発生し、送信側の処理負荷がより大きくなり、処理効率が低下するという問題が新たに生ずる。
【0009】
本発明の目的は、情報伝送を行う通信装置間で処理負荷の分散を達成できる情報通信システム、情報通信方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による情報通信システムは、通信装置間で情報の送受信を行う情報通信システムであって、第1通信装置から第2通信装置の方向に情報を伝送する第1伝送系と、前記第1伝送系とは逆方向に情報を伝送する第2伝送系と、を有し、前記第1伝送系および前記第2伝送系のいずれも送信情報の一部が受信情報として受信されることを特徴とする。
【0011】
本発明による通信装置は、他の通信装置との間で情報の送受信を行う通信装置であって、前記他の通信装置へ第1伝送路を通して情報を送信する送信手段と、前記他の通信装置から第2伝送路を通して情報を受信する受信手段と、を有し、前記第1伝送路および前記第2伝送路のいずれも送信情報の一部が受信情報として受信されることを特徴とする。
【0012】
本発明による情報通信方法は、通信装置間で情報の送受信を行う情報通信方法であって、第1通信装置および第2通信装置の各々が、伝送方向が逆の第1伝送系と第2伝送系とにより情報を送受信し、前記第1伝送系および前記第2伝送系のいずれも送信情報の一部が受信情報として受信される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通信装置間で処理負荷を分散することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は量子鍵配送(QKD)システムにおける情報処理ステップを説明するための模式図である。
【
図2】
図2は本発明の第1実施形態による情報通信システムの概略的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は本発明の第2実施形態による情報通信システムの一構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は本発明の第3実施形態による情報通信システムの一構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態の概要>
本発明の実施形態によれば、通信装置間に設けられた伝送系で送信情報の一部が受信情報として受信される場合、伝送方向が互いに逆である一対の伝送系を設けることにより、通信装置間で処理負荷を分散することが可能となる。各通信装置において、送信情報を用いた所定の処理と受信情報を用いた所定の処理とを行う場合、通信装置間で処理負荷の均等化を達成でき、さらに十分な情報生成効率を得ることができる。また、各通信装置内に送信器と受信器の両方が設けられるので、送信データを自装置内の受信器で受信することができ、各通信装置内で送信器のパラメータ調整が可能となる。以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、図面中の矢印の向きは、一例を示すものであり、ブロック間の信号の向きを限定するものではない。
【0016】
1.第1実施形態
図2に示すように、本発明の第1実施形態による情報通信システムは、第1通信装置10と第2通信装置20とが第1伝送系31および第2伝送系32により互いに逆方向に情報伝送を行うものとする。第1伝送系31は第1通信装置10から第2通信装置20への一方向伝送を行い、第1通信装置10の送信器101と、第2通信装置20の受信器201と、送信器101と受信器201とを接続した第1伝送路33とからなる。第2伝送系32は、第1伝送系31とは逆方向の一方向伝送を行い、第1通信装置10の受信器102と、第2通信装置20の送信器202と、送信器202と受信器102とを接続した第2伝送路34とからなる。
【0017】
第1通信装置10は送信器101、受信器102およびデータ処理部103を有する。
データ処理部103は、送信器101の送信情報TD1と受信器102により受信された第2通信装置20からの受信情報RD2とを入力し、それぞれに対して所定のデータ処理を実行する。第2通信装置20は受信器201、送信器202およびデータ処理部203を有する。データ処理部203は、送信器202の送信情報TD2と受信器201により受信された第1通信装置10からの受信情報RD1とを入力し、それぞれに対して所定のデータ処理を実行する。第1通信装置10のデータ処理部103と第2通信装置20のデータ処理部203とは、たとえば、同一の情報処理を実行して同種類の情報を生成することができる。
【0018】
第1伝送系31は第1通信装置10から第2通信装置20へ情報を伝送する方向を有し、その際、送信情報量よりも受信情報量のほうが少なくなる特性を有する。すなわち、送信器101から送信された送信情報TD1は第1伝送路33および/または受信器201において部分的に失われ、送信情報TD1の一部のみが受信器201により受信情報RD1として受信される。
【0019】
第2伝送系32は、第1伝送系31とは逆に、第2通信装置20から第1通信装置10へ情報を伝送する方向を有するが、第1伝送系31と同様に、送信情報量よりも受信情報量のほうが少なくなる特性を有する。すなわち、送信器202から送信された送信情報TD2は第2伝送路34を通して伝送され受信器102により受信される。その際、送信情報TD2は第2伝送路34および/または受信器102において部分的に失われ、送信情報TD2の一部のみが受信器102により受信情報RD2として受信される。
【0020】
したがって、データ処理部103はデータ量の大きい送信情報TD1とデータ量の比較的小さい受信情報RD2とを入力して処理を実行し、データ処理部203も同様に、データ量の大きい送信情報TD2とデータ量の比較的小さい受信情報RD1とを入力して処理を実行する。第1伝送系31および32が同様の伝送特性を有し、データ処理部103および203が同一の情報処理を実行するとすれば、第1通信装置10と第2通信装置20との間でデータ処理に関する負荷の偏りを小さくすることが可能となる。
【0021】
上述したように、本実施形態によれば、互いに逆方向の伝送を行う一対の伝送系31および32を設けることにより、通信装置間での処理負荷の分散が可能となる。すなわち、通信装置間で処理負荷を均等化することができるので、処理能力を効率的に利用できる。
また各通信装置において送信情報と受信情報の両方を処理することで情報を生成できるので、所望の情報を効率的に生成可能となる。
【0022】
2.第2実施形態
図3に示すように、本発明の第2実施形態による情報通信システムは、上述した第1実施形態をQKDシステムに適用したものである。
【0023】
図3において、通信装置Aおよび通信装置Bは、量子チャネル伝送系Q1および量子チャネル伝送系Q2を用いて、乱数情報により変調された単一光子パルス列を互いに逆方向に伝送するものとする。量子チャネル伝送系Q1は、通信装置Aの送信器301と、通信装置Bの受信器401と、送信器301と受信器401とを接続する伝送路(量子チャネル)とからなる。量子チャネル伝送系Q2は、通信装置Bの送信器402と、通信装置Aの受信器302と、送信器402と受信器302とを接続する伝送路(量子チャネル)とからなる。なお、本実施形態では、量子チャネル伝送系Q1およびQ2の各伝送路は物理的に異なる光ファイバであってもよいし、同一の光ファイバに波長多重されてもよい。
【0024】
また、通信装置Aおよび通信装置Bは、古典チャネル伝送系Cを用いて、通常レベルの光パワーで光通信を行う。古典チャネル伝送系Cは、通信装置Aの光通信部304と、通信装置Bの光通信部404と、光通信部304と光通信部404とを接続する伝送路(古典チャネル)とからなる。通信装置Aおよび通信装置Bは、古典チャネル伝送系Cを用いて、同期処理のほかに、すでに述べたように他方の通信装置との間で基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理を実行する。古典チャネル伝送系Cの古典チャネルは、量子チャネル伝送系Q1およびQ2と同じ光ファイバに波長多重により設けてもよい。また、同期処理のための同期チャネルを別の光ファイバに設けることもできる。
【0025】
なお、古典チャネル伝送系Cの古典チャネルは、光通信ではなく、電気信号による電気通信路であってもよい。この場合、光通信部304および404は電気信号を送受信する通信部に置き換えればよい。
【0026】
通信装置Aは送信器301、受信器302、暗号鍵生成部303、光通信部304および制御部305を有する。暗号鍵生成部303は、第1実施形態におけるデータ処理部103に対応する。暗号鍵生成部303は、送信器301の送信情報(原乱数)TD1と受信器302により受信された通信装置Bからの受信情報RD2とを入力する。そして暗号鍵生成部303は、すでに述べたように光通信部304を通した通信装置Bとの基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理により暗号鍵を生成する。制御部305は通信装置Aの全体的な動作を制御する。
【0027】
通信装置Bも基本的な構成は通信装置Aと同様である。すなわち、通信装置Bは受信器401、送信器402、暗号鍵生成部403、光通信部404および制御部405を有する。暗号鍵生成部403は、第1実施形態におけるデータ処理部203に対応する。暗号鍵生成部403は、送信器402の送信情報(原乱数)TD2と受信器401により受信された通信装置Aからの受信情報RD1とを入力する。そして暗号鍵生成部403は、すでに述べたように光通信部404を通した通信装置Aとの基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理により暗号鍵を生成する。制御部405は通信装置Bの全体的な動作を制御する。
【0028】
量子チャネル伝送系Q1では、通信装置Aの送信器301が1ビット当たりの光子数が1フォトン以下の非常に微弱な光パルス列に送信情報(原乱数ビット情報)TD1を乗せ、量子チャネルを通して、通信装置Bの受信器401へ送信する。送信時の微弱な光パルス列は伝送路の途中で失われ、その一部のみが受信器401に到達する。受信器401は検出されたデータを受信情報RD1として暗号鍵生成部403へ出力する。上述したように、受信情報RD1の情報量は送信情報TD1の情報量よりたとえば1/1000程度に減少する。
【0029】
量子チャネル伝送系Q2においても、通信装置Bの送信器402が1ビット当たりの光子数が1フォトン以下の非常に微弱な光パルス列に送信情報(原乱数ビット情報)TD2を乗せ、量子チャネルを通して、通信装置Aの受信器302へ送信する。この場合、量子チャネル伝送系Q1と伝送方向は逆である。送信時の微弱な光パルス列は伝送路の途中で失われ、その一部のみが受信器302に到達する。受信器302は検出されたデータを受信情報RD2として暗号鍵生成部303へ出力する。量子チャネル伝送系Q1と同様に、受信情報RD2の情報量も送信情報TD2の情報量より同程度(1/1000程度)に減少するものとする。
【0030】
暗号鍵生成部303はデータ量の大きい送信情報TD1とデータ量のかなり小さい受信情報RD2とを入力する。暗号鍵生成部303は、送信情報TD1と相手側通信装置Bでの受信情報RD1とに対して古典チャネル伝送系Cを通して基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理を実行することで、第1の暗号鍵を生成することができる。暗号鍵生成部403も同様に、データ量の大きい送信情報TD2とデータ量のかなり小さい受信情報RD1とを入力する。そして暗号鍵生成部403は、送信情報TD2と相手側通信装置Aでの受信情報RD2とに対して古典チャネル伝送系Cを通して基底照合、エラー訂正および秘匿増強処理を実行することで、第2の暗号鍵を生成することができる。ここでは、伝送方向が逆の一対の量子チャネル伝送系Q1およびQ2において同程度の情報量減衰が生じているので、同程度の情報量を処理することとなり、暗号鍵生成部303および403の間で処理負荷の均等化を実現できる。
【0031】
3.第3実施形態
本発明の第3実施形態による情報通信システムは、上述した第2実施形態による各通信装置に自己診断機能を追加したものである。具体的には、送信パラメータの調整機能とパラメータ調整モード時に送信光の経路を自装置内の受信器に入射するように変更する光経路切替機能とが追加される。
【0032】
一般に、上述した微弱光パルスを送信する送信器の送信光強度などのパラメータを調整するには、当該微弱光パルスを受信する受信器が必要である。微弱光は1ビット当たり1フォトン以下の非常に微弱な光であるから、単一光子を検出できる検出器が必要であり、通常、アバランシェ・フォトダイオード(Avalanche Photo Diode)が用いられる。したがって、パラメータ調整は他方の通信装置の受信器を利用して行われる。
【0033】
しかしながら、伝送路上に盗聴者がいる可能性があり、パラメータ調整の際に介入されるとQKDの安全性を損なう虞がある。また、単一光子検出器は非常に高価であるから、パラメータ調整のためだけに受信器を装備することは合理的ではない。
【0034】
本実施形態によれば、逆方向に伝送する一対の量子チャネル伝送系Q1およびQ2が設けられているために、各通信装置には量子チャネルの送信器と受信器が揃っている。したがって、この受信器をパラメータ調整用の単一光子受信器として利用することができる。
以下、
図4を参照しながら、本実施形態について説明する。ただし、
図4では、上述した第2実施形態による通信装置の暗号鍵生成部および光通信部が図示されていない。
【0035】
図4に示すように、本実施形態による通信装置Aには、送信器301の出力側に光スイッチ311が、受信器302の受信側に光スイッチ312がそれぞれ設けられている。さらに、受信器302の検出データを用いて送信器301の送信光強度等のパラメータを調整するパラメータ調整部313が設けられている。光スイッチ311および312の切替動作と、パラメータ調整部313の調整動作は制御部305により制御される。本実施形態による通信装置Bも同様に、送信器402の出力側に光スイッチ412が、受信器401の受信側に光スイッチ411がそれぞれ設けられている。さらに、受信器401の検出データを用いて送信器402の送信光強度等のパラメータを調整するパラメータ調整部413が設けられている。光スイッチ411および412の切替動作と、パラメータ調整部413の調整動作は制御部405により制御される。
【0036】
通信装置Aの光スイッチ311は入力ポートPiと出力ポートPo1、Po2とを有し、光スイッチ312は入力ポートPi1、Pi2と出力ポートPoとを有する。光スイッチ311の入力ポートPiは送信器301の出力に、出力ポートPo1は上述した量子チャネル伝送系Q1に、出力ポートPo2は光スイッチ312の入力ポートPi2に、それぞれ光学的に接続されている。光スイッチ312の出力ポートPoは受信器302の入力に、入力ポートPi1は上述した量子チャネル伝送系Q2に、入力ポートPi2は光スイッチ311の出力ポートPo2に、それぞれ光学的に接続されている。
【0037】
通常の動作状態であれば、制御部305は、光スイッチ311の入力ポートPiと出力ポートPo1とが接続され、光スイッチ312の入力ポートPi1と出力ポートPoとが接続されるように設定する。したがって、既に述べたように、量子チャネル伝送系Q1およびQ2を通して暗号鍵生成動作が実行される。
【0038】
パラメータ調整時には、制御部305は、光スイッチ311の入力ポートPiと出力ポートPo2とが接続され、光スイッチ312の入力ポートPi2と出力ポートPoとが接続されるように設定する。したがって、送信器301から出力される微弱光信号は、光スイッチ311の出力ポートPo2、光スイッチ312の入力ポートPi2および出力ポートPoを通して受信器302に入射する。これによって、パラメータ調整部313は、受信器302による検出データを用いて、送信器301の送信光強度等のパラメータを調整することができる。なお、通信装置Bの光スイッチ411および412も同様に構成され動作するので説明は省略する。
【0039】
上述したように、本実施形態によれば、各通信装置内に送信器からの送信光を自装置内の受信器へ折り返す光経路切替手段としての光スイッチを設ける。パラメータ調整モード時に、制御部は、光スイッチを送信光が自装置内の受信器に入射するように切り替えることで、自装置内でパラメータ調整を完結させることができ、QKDの安全性を損なうことなく送信器のパラメータ調整を行うことができる。
【0040】
なお、上述した第1〜第3実施形態では、伝送方向が逆の一対の伝送系を例示したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、複数対の伝送系を有する通信システムであってもよい。
【0041】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0042】
この出願は、2014年8月25日に出願された日本出願特願2014−170087を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、各々所定の伝送方向を有する複数の伝送系により情報伝送が行われる情報通信システム一般に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 第1通信装置
20 第2通信装置
31 第1伝送系
32 第2伝送系
33 第1伝送路
34 第2伝送路
101 送信器
102 受信器
103 データ処理部
201 受信器
202 送信器
203 データ処理部
301 送信器
302 受信器
303 暗号鍵生成部
304 光通信部
305 制御部
311、312 光スイッチ
313 パラメータ調整部
401 受信器
402 送信器
403 暗号鍵生成部
404 光通信部
405 制御部
411、412 光スイッチ
413 パラメータ調整部