(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の管腔に狭窄や閉塞などの異常が発生した場合に、例えば管腔内へステントを挿入して管腔を広げた状態に保持するステント治療が行われている。ステントは、全体として筒形状とされており、管腔へ挿入する際には小径とされるが、管腔内で拡径されて留置される。ステントの管腔内での拡径方法としては、バルーンによる拡張の他、形状記憶材料等による自己拡張や、機械的拡張などがある。
【0003】
ところで、ステントは、上述のように拡縮変形を可能にすると共に、生体への負担軽減や生体融合性の向上などを考慮して、周壁部分に多くの貫通孔が設けられた多孔構造や線状に繋がったストラット構造とされている。具体的には、例えば特開2007−267844号公報(特許文献1)等に記載されているように、ステンレスや白金等の金属製チューブを適切な長さに切断すると共に、その周壁に対してレーザー加工で貫通孔やストラットを形成することによって構成されている。
【0004】
しかしながら、このような従来構造のステントでは、素管である金属製チューブが単純なストレートの円筒形状とされていることから、血管等の管腔における留置部位に対応した形状とすることが難しかった。それ故、管腔において、例えばテーパ状に内径寸法が変化している部位や、バイファーケーション等の分岐部位では、管腔の形状に精度良く適合したステントを準備し難いという問題があった。
【0005】
しかも、素管にレーザー加工を施して貫通孔やストラットを形成する際に、切除される領域が多くなると歩留りも悪いという問題があった。なお、歩留りを向上させるために、小径の円筒形状の素管をレーザー加工して得たステントを、縮径させて管腔内に挿入してから、初期の素管径より大きく拡径して留置することも考えられるが、拡径状態で歪や残留応力が大きくなり安定した形状や耐久性を得難くなるおそれがあった。
【0006】
また、レーザー加工を施した部位には、バリ状の粗さが発生し易く、化学的または機械的な後処理が必要になることから、製造が複雑になると共に、後処理の精度管理なども難しいという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、血管等の管腔に対応した形状が、良好な歩留りをもって実現可能とされる、新規な構造のステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、径方向で拡縮可能とされて体内管腔に留置されるステントであって、
分岐部が設けられて筒部の数が長さ方向で変化した異形筒形状を有しており、且つ、電
鋳で形成された金属製の骨格を有し
、該分岐部が一体形成されていることを、特徴とする。
【0010】
本態様に従う構造とされたステントでは、従来構造の素管をレーザー加工して得られたものと異なり、電
鋳で形成された骨格によって、管腔の形状に当初から対応した形状を与えられる。従って、従来構造のレーザー加工によるステントに比べて切除される部分を少なくすることができて、良好な歩留りをもってステントが製造され得る。
【0011】
それ故、血管等の異形状の管腔へ留置される場合でも、管腔に精度良く対応した形状が実現されて、施術者にとって手技の労力負担が軽減されると共に、患者にとって生体への負担等が軽減される。また、管腔に対応した形状で留置されたステント自体においても、歪や残留応力が軽減されて、良好な形状安定性や耐久性が実現可能になる。
【0013】
また、本態様に従う構造とされたステントでは、血管等の管腔におけるバイファーケーションなどの分岐部分へ容易に適用することのできるステントが実現され得る。
【0014】
本発明の第
2の態様は、第
1の態様に係るステントにおいて、長さ方向で径寸法が変化した異形筒形状とされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたステントでは、血管等の管腔において内径が長さ方向で変化しているような部位へ良好に適用することのできるステントが実現され得る。なお、本態様のステントは、第
1の態様と組み合わされることにより、分岐部を有するステントにおいて少なくとも一つの筒部がテーパ筒形状等とされることも可能である。
【0016】
本発明の第
3の態様は、第1
又は第2の態様に係るステントにおいて、軸方向の少なくとも一方の端部における剛性が中央部分よりも大きいものである。
【0017】
本態様に従う構造とされたステントでは、例えば電鋳で形成されている場合には、長さ方向の特定部分の厚さ寸法を大きくしたり材質を異ならせることなどによって、剛性を調節することが可能となる。特に本態様のステントでは、構造上の理由から変形し易い軸方向端部の剛性が大きくされることで、例えば管腔に留置された状態で軸方向端部が管腔から離れるなどして再狭窄の原因となることも効果的に防止され得る。
【0018】
本発明の第
4の態様は、第
3の態様に係るステントであって、前記中央部分に比べて剛性が大きくされた前記端部が、軸方向外側の末端部分において、剛性を小さくされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされたステントでは、ステントの端部における末端部分の剛性が小さくされていることから、ステントの末端部分が管腔に及ぼす負荷を抑えることができる。なお、かかる末端部分における剛性の調節は、ステントの末端部分のみを柔らかい金属で形成したり、肉厚寸法や幅寸法を小さくしたりすることで実現され得る。また、好適には、末端部分の剛性が中央部分と略同じか、またはそれより小さく設定される。
【0020】
本発明の第
5の態様は、第1〜第
4の何れかの態様に係るステントにおいて、前記骨格が、複数種類の金属の積層構造とされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされたステントでは、例えば電鋳で形成されている場合には、複数種類の金属の積層構造で形成することが可能となる。例えば、コア層よりも表層の方が延性の大きい金属材を採用することで、コア層でステント強度を確保しつつステントの拡縮や変形に際しての表面の応力を緩和してクラック等の発生を防止することも可能となる。また、コア層よりも表層の方がイオン化傾向が小さい金属材を採用することで、コア層で要求強度特性を確保しつつ、表層によって生体親和性やX線不透過性等を実現することも可能となる。なお、本態様では、骨格の少なくとも一部が積層構造とされていれば良く、骨格の全体が積層構造とされている必要はない。
【0022】
本発明の第
6の態様は、第1〜第
5の何れかの態様に係るステントにおいて、前記骨格が、内周面から外周面に向かって幅寸法が変化する断面形状とされているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされたステントでは、例えば生体に押し付けられるステント周壁の外周面や血流などに晒されるステント周壁の内周面等の形状の設計自由度が向上される。
【0024】
本発明の第
7の態様は、第1〜第
6の何れかの態様に係るステントにおいて、前記骨格には、部分的に強度が小さくされた脆弱部が電鋳とエッチングの少なくとも一方によって形成されているものである。
【0025】
本態様に従う構造とされたステントでは、脆弱部を骨格と同時に電鋳やエッチングによって形成することで、脆弱部を後加工の必要なくして高度な寸法精度で設けることが可能になる。即ち、このような脆弱部は、例えば留置後に分断されて血管形状に沿ったステント形状を得る場合や、留置処置に際して切ったり変形させたりして分岐用開口部を手技で形成する場合などに好適に採用され得る。
【0026】
本発明の第
8の態様は、第
7の態様に係るステントにおいて、前記脆弱部が前記骨格における他の部分よりも小さな断面積で変形容易とされているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされたステントでは、脆弱部を骨格における他の部分よりも、例えば薄く形成してステントの屈曲を更に容易にすることで、脆弱部が安定して切断される。特に、脆弱部が電鋳により形成される場合には、例えば脆弱部のみの厚さ方向における薄肉化や材質の変更等が可能となる。
【0028】
本発明の第
9の態様は、第1〜第
8の何れかの態様に係るステントにおいて、骨格には、表面に凹所が設けられているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされたステントでは、例えば電鋳で形成されている場合には、骨格の表面に対して凹所を成形と同時に設けたり、凸所を成形と同時に設けて相対的に凹所を設けることが可能となる。そして、表面の凹凸構造によって、例えば管腔の表面に対する位置決め性能を向上させたり、凹所に薬剤を保持させて管腔内へ留置することも可能となる。なお、本態様における凹所は、筒形状とされた周壁の内周面と外周面の何れの表面にも形成され得る。また、本態様における凹所は、有底形状だけでなく、電鋳やエッチングにより形成される貫通孔であってもよい。
【0030】
また、本態様における凹所のサイズは、開口寸法が10〜30μm程度とされることが望ましく、それによって、患者の異物感が一層低減されると共に、ステントの強度等への悪影響も可及的に回避される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、電
鋳で形成された骨格によって異形状が与えられていることから、例えば血管の分岐部分などに対しても当初から対応した形状でステントを得ることができる。そして、血管等の管腔に精度良く対応したステント形状とされることで、施術も容易になると共に、生体への適合性も向上し、留置されたステント自体の歪や残留応力も軽減され得る。また、従来のレーザー加工によるステントに比べて、切除される部分が少なくされることから、良好な歩留りをもってステントが形成され得る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
先ず、
図1には、本発明の第1の実施形態としてのステント10が、収縮や拡張される前の成形状態で示されている。
【0035】
本実施形態のステント10は、それぞれ略円筒形状で直線的に延びる基幹筒部12と分岐筒部14を備えており、基幹筒部12の長さ方向の中間部分から側方に傾斜して分岐筒部14が延び出すことで全体として略Y字状の分岐形状とされている。換言すれば、本実施形態のステント10では、分岐部により長さ方向(
図1中の上下方向)で筒部の数が異ならされており、即ち、ステント10は、長さ方向で断面形状が変化する異形の筒形状とされている。
【0036】
基幹筒部12と分岐筒部14には、何れも、波状に湾曲又は屈曲を繰り返して周方向に連続して延びる環状部16が、軸方向で互いに所定距離を隔てて複数設けられている。これにより、基幹筒部12を構成する一連のストラット19aと分岐筒部14を構成する一連のストラット19bがそれぞれ形成されている。そして、ストラット19a,19bにおける軸方向で隣り合う環状部16,16が、略軸方向に延びるリンク部18でそれぞれ連結されることによって、所定長さの筒形状とされている。
【0037】
特に本実施形態では、分岐部分において、基幹部分12を構成する環状部16と分岐筒部14を構成する環状部16とが、それら基幹筒部12と分岐筒部14の周上に連続して延びている。これにより、基幹筒部12と分岐筒部14の分岐部分において、それぞれのストラット19a,19bの一体構造が実現されて、一つながりのストラット19が構成されている。そして、かかるストラット19において、軸方向で隣り合う環状部16,16がリンク部18により連結されることで、本実施形態のステント10の骨格が構成されている。この結果、ステント10における強度や変形の自由度の向上が図られていると共に、変形に際してのストラット19の座屈等の局所的な変形の防止が図られている。
【0038】
なお、環状部16やリンク部18の具体的形状は、本発明において限定されるものでなく、ステント10に要求される特性を考慮して、環状部16の波形状や、リンク部18による連結部位、環状部16の周上でのリンク部18の数などが適宜に設定され得る。
【0039】
また、環状部16やリンク部18の幅寸法や厚さ寸法も、特に限定されるものでないが、環状部16を構成するストラット19としては、強度を確保する等の趣旨から30〜150μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましく、リンク部18は、10〜100μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましい。
【0040】
そして、このような分岐形状のステント10は、ストラット19を構成する各複数の環状部16とリンク部18が電鋳により一体形成されることによって作製されている。
【0041】
具体的には、目的とする基幹筒部12と分岐筒部14の形状および大きさを有する成形ベースを、ステンレス等の導体で作製して準備する。そして、この成形ベースの表面において、各複数の環状部16およびリンク部18に対応する形状で露出面を形成すると共に、それ以外の領域には不導体のマスクを施す。その後、所定の金属をイオン化した電解浴槽中に浸漬して、成形ベースの露出面に金属イオンを電着させて電気鋳造を行う。所定厚さの金属を得た後、マスクを除去すると共に、成形ベースを抜き取る、或いは溶解することにより、上述の如き目的とする構造のステント10を得ることができる。
【0042】
上記の如き構造とされた本実施形態のステント10は、基幹筒部12および分岐筒部14においてそれぞれの径方向で拡縮可能とされており、
図1に示された収縮前の状態から所定の寸法まで機械的に縮径される。そして、使用時には、ステント10がデリバリ用のカテーテル等により、例えば血管の狭窄部位までデリバリされる。その後、ステント10は、バルーンカテーテルにより拡張されたり、ステント10が形状記憶材料で形成されている場合には、デリバリ用のカテーテルから解放することで自動的に拡張されて、
図1の状態で血管等の体内管腔に留置される。
【0043】
本実施形態のステント10は、電鋳によって作製されていることから、基幹筒部12と分岐筒部14を有する分岐形状を一体形成することができる。それ故、従来構造のようにストレートな円筒金具をレーザー加工して得られた2本のステントをつなぎ合わせて分岐形状とする場合に比して、切除される部分を少なくすることができて、歩留まりを改善することができると共に、複雑な分岐形状を精度良く得ることが可能になる。従って、生体の血管などの複雑な形状部位に対して精度良く対応したステント10が良好な歩留りをもって実現可能になる。
【0044】
そして、このように電鋳によって作製されることでステント10の一体成形性を確保しつつ、形状の設計自由度が大幅に向上されることから、従来構造のストレートな円筒金具をレーザー加工して得られたステントに比して、各種の異形の初期形状をもってステントを得ることが可能になる。
【0045】
例えば、
図2に示されているように、内外径寸法が軸方向で変化するテーパ筒形状を有する本発明の第2の実施形態としてのステント20も、目的とするテーパ角度の初期形状をもって電鋳で一体形成することができる。本実施形態のステント20は、かかるテーパ形状をもって、断面形状が長さ方向で変化する異形筒形状とされている。なお、以下の説明において、前記第1の実施形態と同一の部材および部位には、図中に、前記第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0046】
このようなステント20は、径寸法が変化する血管等へ留置するに際して、初期形状でテーパが与えられていることから、留置状態での歪や残留応力を抑えることが可能になる。
【0047】
また、上述の如きステント10,20の骨格、即ちストラット19およびリンク部18は電鋳によって作製されていることから、異なる材質の積層構造とすることも可能となる。具体的には、上述のように成形ベースの表面に不導体のマスクを形成して第1回目の電鋳を行ったあと、別の金属イオンの電解浴槽中で電鋳を第2回目の電鋳を実施することで、第1回目の電鋳で形成された金属の表面に第2回目の電鋳により別の材質の金属層を形成することができる。
【0048】
このような金属の積層構造は、任意の回数行うことも可能であり、例えば、特定金属で形成されたコア部分を覆うように別金属を被覆して表層部分を設けた構造とすることも可能である。その際には、例えばコア部分の金属よりも表層部分の金属の方が延性が大きい方が好ましい。これにより、ステントが屈曲する際の追従性が向上されて、表層部分の歪や応力の集中が回避される。
【0049】
また、コア部分の金属よりも表層部分の金属の方がイオン化傾向が小さい方が好ましい。具体的には、例えばコア部分をステンレス鋼(SUS316L)やCrCo合金、タンタル、NiTiなどで形成する一方、表層部分をNi,NiCo,Cu,NiW,Pt,Au,Ag,Cr,Znなど、特に好適にはAu,Ptで形成することも可能である。これにより、コア部材を構成する金属で強度や剛性を効率的に確保しつつ、表層部分の金属により生体との電位差を抑えて生体適合性を向上させることも可能となる。また、Au,Ptなどはイオン化傾向が非常に低いことから、金属溶出を抑えることもできる。更にまた、コア材となる合金に使用されているNiなど金属アレルギーの原因となる金属イオンの溶出も抑制できる。しかも、Au,Ptなどは比重が大きく、X線不透過性が良好であるため、X線を用いたステントの視認性も向上され得る。
【0050】
なお、第1回目の電鋳を行ったあと、マスクを形成しなおして第2回目の電鋳を行うことも可能である。これにより、例えば環状部16とリンク部18を異なる金属材で形成することも可能になるし、ステント10の長さ方向や周方向において、環状部16の材質を部分的に異ならせることも可能になる。
【0051】
具体的には、本発明の第3の実施形態として、
図3に示されているように、ストレートな円筒形状のステント30において、その軸方向の端部に位置する一つ又は複数の環状部16だけを、軸方向の中央部分に位置する他の環状部16よりも電鋳の回数を多くすることで、厚肉にすることができる。即ち、本実施形態のステント30では、長さ方向で厚さ寸法が変化する形状をもって、断面形状が長さ方向で変化している。
【0052】
このように軸方向の端部が中央部分に比して厚肉とされた異形筒形状のステント30においては、軸方向端部の剛性が中央部分よりも大きくされることにより、中央部分における変形自由度を確保しつつ、軸方向端部の血管からの浮き上がりを抑えて、再狭窄を防止することも可能になる。
【0053】
また、第1回目の電鋳を行ったあと、マスクを形成しなおして第2回目の電鋳により、軸方向の端部に位置して互いに隣り合う環状部16,16の上に跨がって外周を覆うように、軸方向に半ピッチ分だけずれた環状部16を形成することも可能である。このような複雑な構造をもって軸方向端部の剛性を補強することも可能であることから、大きな設計自由度が実現される。
【0054】
なお、本実施形態のステント30では、中央部分に比べて剛性が大きくされた軸方向端部において、軸方向外側の末端部分の剛性が中央部分と略同じか、それより小さくされることが好ましい。これにより、血管壁に食込むように留置されるステントの軸方向末端部分が血管壁へ及ぼす負荷を小さく抑えることができる。かかる剛性の小さい末端部分は、例えば末端部分のみを柔らかい金属で形成したり、電鋳の回数やマスク等を調節して末端部分の肉厚寸法や幅寸法を小さくすることで実現され得る。
【0055】
さらに、上述の如きステント10,20,30は、電鋳によって作製されていることから、その骨格を構成するストラット19の断面形状の設計自由度も、従来構造のレーザー加工では、単純な矩形断面でしかなかったのに対して、大きな自由度が確保され得る。例えば、
図4(a),(b)には、内周面から外周面に向かって幅寸法が変化するストラット19の断面形状が示されている。なお、
図4(a),(b)中においては、上側が血管壁に当接する側であり、下側が血管内腔に位置する側である。
【0056】
具体的には、
図4(a)に示されているように、断面が三角形状とされたストラット19も採用可能である。かかる形状のストラット19では、血管壁に当接する側が次第に細くされていることから、ステントの拡張時において、ステントの血管壁への押付力をストラット19の先細部分に集中することができる。これにより、より小さいステントの押付圧、換言すればステントの拡張圧で血管を拡張させることができる。また、血管の石灰化病変など、血管壁が硬い場合であっても、ストラット19の先細部分が食い込み、石灰化病変部に対して割るという作用が働くため、従来の矩形断面では拡張が困難とされた血管も拡張することができる。
【0057】
また、
図4(b)に示されているように、断面が逆三角形状とされたストラット19も採用可能である。かかる形状のストラット19では、血管内腔に位置する側が次第に細くされていることから、血流に接する面積が小さくされて、異物反応を可及的に抑制することができる。また、血液の流れに淀みが生じにくいことから、血栓等が発生するおそれを低減させることができる。更に、血管内腔に露出している面積が小さいことから、血管内皮細胞に覆われるまでの期間を短くすることができて、ストラット19が早期に血管に埋没することとなる。このことから、血管内皮の肥大化を抑制することができて、ステント留置部が比較的短期間で治癒され得る。
【0058】
なお、かかる形状のストラット19は、電鋳の際のマスクの形状をエッチング等で所望の形状に整えることにより形成され得て、断面形状の設定自由度を大きく向上させることができる。尤も、ストラット19の断面形状は、
図4(a),(b)に示されている三角形状や逆三角形状に限定されるものではなく、例えば半円形状や両テーパ形状等も採用され得る。
【0059】
さらに、上述の如きステント10,20,30は、電鋳によって作製されていることから、その環状部16,16を連結するリンク部18の断面形状ひいては強度や脆弱性の設計自由度も、大きく確保され得る。このように、ステントの骨格に、部分的に強度の低い部位を設けることにより、拡張されたステントの屈曲時にかかる脆弱部位が容易に変形したり切断されたりして、ステントが体内管腔の形状に追従しやすくされる。また、分岐した血管等に対応して、ステントに開口部を形成する場合にも、かかる脆弱部位を切断したり押し広げたりする操作を施術者が容易に行うことができる。
【0060】
ここにおいて、ステント10,20,30では、その骨格において、リンク部18により、環状部16よりも強度が小さくされた脆弱部が構成されている。かかるリンク部18を電鋳によって作製することにより、従来構造のレーザー加工ではストラット19の幅方向に対して細い形状しか形成し得なかったのに対して、かかる細い形状だけでなくストラット19の厚さ方向において薄い形状も形成することができる。また、リンク部18の断面形状も、従来のレーザー加工では単純な矩形断面でしかなかったのに対して、矩形以外の形状も形成し得る。
【0061】
具体的には、例えば、
図5(a)〜(c)に示されているように、環状部16,16に対して、厚さ方向におけるリンク部18の位置を適宜設計変更可能である。なお、
図5中において、上方が血管壁側を示しており、下方が血管内腔側を示している。即ち、
図5(a)では、環状部16,16が血管壁側でリンク部18により連結されている一方、
図5(b)では、環状部16,16が厚さ方向中央部分でリンク部18により連結されている。また、
図5(c)では、環状部16,16が血管内腔側でリンク部18により連結されている。更に、これら血管壁側、中央部分、血管内腔側に位置するリンク部18をそれぞれ組み合わせることも可能である。なお、
図5ではストラット19およびリンク部18が矩形断面として示されているが、
図5は単に環状部16,16とリンク部18の相対位置を示すものであって、ストラット19およびリンク部18の形状を何等限定するものではない。
【0062】
このように、従来のレーザー加工では1本のパイプを厚さ方向に貫通して形成することから、環状部とリンク部を同じ厚さで形成することしかできなかったのに対して、ステント10,20,30を電鋳で製造することによりリンク部18の厚さ寸法を薄くすることができる。これにより、リンク部18を薄く且つ細く形成することができて、リンク部18が切断される際には、従来より更に容易に切断され易くされている。また、従来では、環状部16とリンク部18を別体で形成して、後固着する方法も採用されていたが、ステント10,20,30を電鋳で製造することにより、環状部16とリンク部18が一体で形成されて、高度な寸法精度を確保しつつ、製造が容易とされ得る。更に、リンク部18の切断面が小さくされることから、切断面が血管壁に接触すること等による刺激をできるだけ抑制することができる。
【0063】
さらに、リンク部18の位置は、ストラット19の幅方向に対しても適宜設計変更可能であり、ストラット19に対して幅方向端部に形成することも可能であるが、
図6に示されているように、リンク部18はストラット19の幅方向中央部分に形成されることが好ましい。特に、リンク部18は、
図6に示されているように、厚さ方向においても、ストラット19の中央部分に位置していることが好ましい。これにより、更にリンク部18の切断面が血管壁に接触するおそれが一層低減されて、患者に与える不快感が更に軽減され得る。
【0064】
なお、
図6においても、ストラット19およびリンク部18が矩形断面として示されているが、
図6は単に環状部16とリンク部18の相対位置を示すものであり、ストラット19およびリンク部18の形状を何等限定するものではない。
【0065】
更にまた、上述の如きステント10,20,30は、電鋳によって作製されていることから、電鋳に用いられる成形ベースやマスクの形状等を適切に設定することで、表面にエンボス等の適宜の形状を転写することも可能である。
【0066】
具体的には、例えば成形ベースの表面にエッチング等の処理を施してエンボス等の適宜の形状を与えておくことで、成形ベースの表面への電着で形成されるステントの外周面にエンボス等の形状を転写して容易に形成することが可能である。
【0067】
このように、ステントの外周面に凹凸を付すことにより、例えば薬剤溶出性ステントとして効果的に利用可能である。即ち、例えば、凹凸が付されたステントの外周面に細胞増殖を抑制する薬剤や、かかる薬剤を含有した樹脂層を塗布または被着することで、この薬剤を血管壁に対して溶出させることができる。その際、かかる凹凸により濡れ性が向上されて、塗布または被着される薬剤や樹脂層がステント外周面に付着され易くされると共に、剥がれにくくすることができる。
【0068】
さらに、上述の如きステント10,20,30は、電鋳によって作製されていることから、電鋳に用いられる成形ベースやマスクの形状等を適切に設定することで、表面に任意の大きさの凹所を形成することも可能である。
【0069】
具体的には、例えば成形ベースの表面に突部等の処理を施しておくことで、その表面への電着で形成されるステント10,20,30の内周面に対応する大きさの凹所を転写して形成することができる。また、予め電鋳で形成されたリンク部18の表面の中央部分に島状のマスクを形成して電鋳を実施することにより、島状のマスクの部分を囲む周壁
が電鋳
により形成されて、中央のマスクの部分においてステント10,20,30の外周面に開口する凹所を形成することも可能である。なお、かかる凹所は、任意の形状や大きさで形成することが可能であり、例えば円形等の穴の他、
図7に示されているように、ストラット19やリンク部18の長さ方向に延びる溝形状等をもって凹所32を形成することも可能であり、その設計自由度も大きく確保され得る。
【0070】
また、上述の如きステント10,20,30は、電鋳によって作製されていることから、例えば不導体粉体を分散させた電解液を利用した共析メッキ技術などを利用して、共析した微粒子に対応したポーラス構造やマイクロポーラス構造をストラット19や連結部18に与えることも可能である。
【0071】
このように凹所32やポーラス構造をもってストラット19やリンク部18を形成することにより、ステントを構成する金属量を減少させることができる。また、かかる凹所32やポーラス構造に薬剤を担持させることにより、例えば上述の如き薬剤溶出性ステントを構成することができて、薬剤を効果的に血管壁に溶出させることができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されることなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施され得るものであり、また、そのような実施態様も、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも本発明の範囲内に含まれる。
【0073】
例えば、前記実施形態に記載のステント10,20,30は、何れも初期形状で、管腔に留置された際の拡張状態の形状が与えられていた。即ち、血管等の管腔に挿し入れる際には、縮径変形されてカテーテルでデリバリされ、これらのステント10,20,30がバルーン拡張型とされる場合には、バルーンを用いて拡張されることで、血管の内周面に押し付けられた状態で留置される。また、金属材として自己拡張型であれば、デリバリ用のカテーテルから解放されることで自動的に拡張される。かかる拡張状態で、略初期形状となることから、拡張状態の形状が安定して発現されると共に、拡張された留置状態での歪や残留応力も効果的に抑えられる。しかし、本発明では、そのような態様に限定されるものでなく、留置時の形状とは異なる径寸法の初期形状をもって形成することも可能である。
【0074】
また、例示の如き単純なY字形の分岐形状やテーパ形状、端部厚肉形状の他、基幹筒部と分岐筒部の径寸法が異なるステントや、それら基幹筒部と分岐筒部の少なくとも一方がテーパ筒形状とされたステント、長さ方向で部分的にテーパが付されたステントや、長さ方向の端部や中央部分に厚肉部分が設けられたステントなど、本発明は各種の異形状のステントに対して適用可能である。
【0075】
さらに、本発明のステントにおいては、リンク部は必須ではなく、ステントの軸方向で隣り合う環状部が螺旋構造で連続して繋がっていてもよい。このように、リンク部を設けない場合には、ストラットのみによりステントの骨格が構成される。
【0076】
更にまた、ストラットの厚さ寸法も全長に亘って均一とされる必要はない。例えば、ストラットの長さ方向において、部分的に厚肉としたり薄肉としてもよい。また、上記のようにリンク部を設けない場合には、ストラットの薄肉とされた部分により脆弱部が形成されてもよい。
【0077】
さらに、ステントに形成される凹所は有底形状だけでなく、貫通孔であってもよい。このようにステントに貫通孔を形成することにより、薬剤の担持が更に容易とされ得ると共に、薬剤の担持量を増加させることができる。また、薬剤等が溶出した後は貫通孔が空洞となることから、かかる貫通孔内を血液が通過することができて、例えば凹所が有底とされる場合に比べて血流が阻害されない。尤も、ステントに形成される凹所は電鋳により形成される必要はなく、例えば電鋳によるステントの形成後、レーザー加工等により凹所としての貫通孔が形成されてもよい。
【0078】
また、凹所内には、薬剤を直接入れてもよいし、例えば薬剤が含浸された生分解性樹脂綿や、薬剤が封入されたカプセル剤を凹所内にいれてもよい。
【0079】
更にまた、ステントに形成される凹凸はステントの表面に直接形成されてもよいが、例えばステントの表面に凸状の部分を形成することにより、相対的に凹状となる部分が形成されるようにしてもよい。
【0080】
また、本発明は、前述の電鋳に代えて、エッチング技術を用いてステントを製造してもよい。エッチング技術とは、例えば次の技術が挙げられる。目的とするステントの形状および大きさを有する金属製の成形ベースを準備する。そして、この成形ベースの表面において、各複数の環状部およびリンク部に対応する形状で耐食性のマスクを施し、マスクされていない部分は成形ベースを露出させる。その後、強酸、強アルカリ、強酸化剤などで構成される研磨液中に浸漬して、成形ベースのマスクされていない部分を腐食溶解することにより、上述の如き目的とする構造のステントを得ることができる。
【0081】
エッチング技術は、成形ベースのマスクされていない部分を腐食溶解してステントを製造するため、成形ベースの肉厚が仕上がり品の肉厚とほぼ同等であって、仕上がり品の肉厚を時間をかけず大きく設定できる。また、エッチング技術は、電鋳専用の液体試料が不要なため、材料の選択性が増える。更に、エッチング技術は、電流を流す必要がないので、電流密度や電圧等の電気的な調整の必要がなく製造条件の設定及び管理が容易である。なお、本発明は、電鋳とエッチングを組み合わせて骨格を形成することも可能であり、例えば電鋳で形成した骨格に部分的なエッチング処理を施すこと等も可能である。