特許第6381035号(P6381035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381035リン回収材の中間体の製造方法、およびリン回収材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381035
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】リン回収材の中間体の製造方法、およびリン回収材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20180820BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20180820BHJP
   C01B 33/24 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C02F1/28 P
   C02F1/58 R
   B01J20/10 C
   B01J20/30
   C01B33/24 101
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-1624(P2015-1624)
(22)【出願日】2015年1月7日
(65)【公開番号】特開2016-123950(P2016-123950A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−027865(JP,A)
【文献】 特開2012−192397(JP,A)
【文献】 特開2013−244466(JP,A)
【文献】 特開2007−238412(JP,A)
【文献】 特開平07−031984(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0110627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/10
C02F 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水ガラスおよび酸化カルシウムを、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ水ガラス/酸化カルシウムの質量比が0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する、リン回収材の中間体の製造方法。
【請求項2】
水ガラス、酸化カルシウム、および水を、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比が、0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する、リン回収材の中間体の製造方法。
【請求項3】
水と、請求項1または請求項2に記載のリン回収材の中間体とを、水/(リン回収材の中間体)の質量比が10以上になるように混合して、リン回収材を製造する、リン回収材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のリン回収材の中間体を、リンを回収する場所まで輸送した後、該リンを回収する場所において、請求項3に記載のリン回収材の製造方法によりリン回収材を製造する、リン回収材の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のリン回収材が、非晶質珪酸カルシウム水和物単体、非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムとの複合物、または非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムと酸化カルシウムとの複合物である、リン回収材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストおよび輸送コストが低減した、リン回収材の中間体の製造方法、該中間体を用いたリン回収材の製造方法、および該製造方法により製造したリン回収材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、珪酸カルシウムを主成分とするリン回収材(以下、「脱リン材」または「リンの回収剤」ともいう。)を用いて、水中のリンを回収する方法が知られている。該方法は、珪酸カルシウムとリンが反応して生成したリン酸カルシウムを固液分離して、水中のリンを回収できる。そして、回収したリン酸カルシウムは肥料等のリン原料として再利用できるとともに、リンを除去した後の水は富栄養化のおそれのない排水として扱うことができる。
【0003】
以前から、前記リン回収材の製造方法として、以下の方法が提案されている。
特許文献1に記載の脱リン材の製造方法は、珪酸質原料の粉体および石灰質原料の粉体を用いて転動造粒する工程と、該造粒後にこれを高温高圧養生する工程とを含む方法である。また、特許文献2に記載のアンモニア性窒素およびリンの回収剤の製造方法は、マグネシウム源およびカルシウム源の少なくとも一方と、ケイ素源およびカリウム源を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を焼成する工程とを含む製造方法である。
また、特許文献3に記載のリン回収材の製造方法は、ケイ酸塩のアルカリ性水溶液に、カルシウムを添加するカルシウム添加工程と、前記カルシウムが添加された前記アルカリ性水溶液のpHを調整することにより前記リン回収材を析出沈殿させる析出沈殿工程とを含む方法である。
【0004】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の製造方法は、高温高圧養生工程や焼成工程を含むため、熱エネルギーを消費して、その分、コスト高である。また、特許文献3に記載の製造方法は、熱エネルギーを消費しないものの、pHの調整が必要であり、その分、製造工程が煩雑である。
ところで、本出願人は、すでに、珪酸ナトリウム水溶液と石灰を非加熱下で混合して、リン回収材として、特定のCa/Siのモル比を有する非晶質珪酸カルシウム水和物単体、または該水和物とCa(OH)との複合物を生成させて製造する方法を提案している(特許文献4)。該製造方法は、原料である珪酸ナトリウム水溶液と石灰を非加熱下で混合するため、熱エネルギーを消費せず、またpHの調整が不要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−235344号公報
【特許文献2】特開2013−188726号公報
【特許文献3】特開2014−000487号公報
【特許文献4】特開2013−244466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記特許文献4に記載の製造方法の利点を保持しつつ、さらに発展させたものであり、製造コストがさらに低減したリン回収材の製造方法、および輸送コストがさらに低減したリン回収材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特許文献4に記載の製造方法において、種々の製造条件を検討した結果、水ガラスと酸化カルシウムを特定の比率で混合してリン回収材の中間体を一旦製造し、さらに該中間体からリン回収材を製造する方法に依れば、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有するリン回収材の中間体の製造方法等である。
[1]少なくとも水ガラスおよび酸化カルシウムを、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ水ガラス/酸化カルシウムの質量比が0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する、リン回収材の中間体の製造方法。
[2]水ガラス、酸化カルシウム、および水を、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比が、0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する、リン回収材の中間体の製造方法。
[3]水と、前記[1]または[2]に記載のリン回収材の中間体とを、水/(リン回収材の中間体)の質量比が10以上になるように混合して、リン回収材を製造する、リン回収材の製造方法。
[4]前記[1]または[2]に記載のリン回収材の中間体を、リンを回収する場所まで輸送した後、該リンを回収する場所において、前記[3]に記載のリン回収材の製造方法によりリン回収材を製造する、リン回収材の製造方法。
[5]前記[3]または[4]に記載のリン回収材が、非晶質珪酸カルシウム水和物単体、非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムとの複合物、または非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムと酸化カルシウムとの複合物である、リン回収材の製造方法
以下、非晶質珪酸カルシウム水和物単体を「CSH」、非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムとの複合物、および非晶質珪酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムと酸化カルシウムとの複合物を「CSH複合物」という。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリン回収材の中間体およびリン回収材の製造方法は、製造コストを低減できる。また、本発明のリン回収材の中間体およびリン回収材は、輸送コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】撹拌に伴う(水和)生成物の性状の変化を示す写真である。
図2】加水しないで製造した実施例1〜4および比較例1のリン回収材の中間体のXRDチャートである。
図3】加水して製造した実施例5〜8および比較例2のリン回収材の中間体のXRDチャートである。
図4】リン回収材の中間体(実施例8)、リン回収材(実施例10)、およびリン回収物のXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をリン回収材の中間体の製造方法、リン回収材の製造方法、およびリン回収材に分けて説明する。
1.リン回収材の中間体の製造方法
該リン回収材の中間体の製造方法は、少なくとも水ガラスおよび酸化カルシウムを、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ水ガラス/酸化カルシウムの質量比が0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する方法である。
前記水ガラスは、好ましくはJIS K 1408に規定するけい酸ナトリウムである。また、前記酸化カルシウムには生石灰も含まれる。
また、前記混合は、水ガラスに対して酸化カルシウムを添加して混合するか、またはその反対に、酸化カルシウムに対して水ガラスを添加して混合する行為のいずれも含む。通常、水和は常温で進むため、原則として前記混合時における加熱は不要であるが、リン回収材の中間体の製造を加速するために加熱してもよい。また、混合装置は、特に制限されず、ホバートミキサ、二軸バッチ式混練機、およびヘンシェル型ミキサ等が挙げられる。また、水ガラスと酸化カルシウムとの混合時間は、好ましくは1〜40分であり、より好ましくは2〜30分である。混合時間が1分未満では、水ガラスと酸化カルシウムは十分に反応せず、40分を超えると反応は終了する。
【0011】
また、前記リン回収材の中間体の製造方法において、前記混合を容易にするために水を添加してもよい。水を添加する場合は、水ガラス、酸化カルシウム、および水を、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比が、0.8〜2.0となるように混合して、リン回収材の中間体を製造する。
前記の水を添加しない場合、および水を添加する場合のいずれにおいても、CaO/SiOのモル比が1.5以上、かつ、水ガラス/酸化カルシウムの質量比、または(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比が0.8〜2.0であれば、後掲の表1に示すように、生成物(混合物)は粉体化する。なお、好ましくは、CaO/SiOのモル比は1.9〜3.5、かつ、水ガラス/酸化カルシウムの質量比、または(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比は1.0〜1.8である。
なお、後掲の表1において、水ガラス/酸化カルシウムの質量比、および(水ガラス+水)/酸化カルシウムの質量比のいずれも、L/Sと略記する。
【0012】
2.リン回収材の製造方法
該リン回収材の製造方法は、水および前記リン回収材の中間体を、水/(リン回収材の中間体)の質量比が10以上となるように混合して、リン回収材を製造する方法である。該質量比が10以上であれば混合が容易で、かつリン回収材の中間体の水和が十分に進行する。なお、該質量比は、好ましくは10〜30、より好ましくは15〜25である。混合時間(撹拌時間)は、特に制限されず、後掲の表2に示すように、例えば0〜135分間である。ここで、撹拌時間が0(ゼロ)分間とは、リン回収材の中間体と水を撹拌しないで、リン回収材の中間体を水に浸しておくこと意味する。
前記混合は、水に対してリン回収材の中間体を添加して混合するか、またはその反対に、リン回収材の中間体に対して水を添加して混合する行為のいずれも含む。前記混合は、通常、非加熱条件下で行うが、リン回収材の中間体の水和を加速するため、加熱条件下で行ってもよい。また、混合装置は、特に制限されず、ホバートミキサ、二軸バッチ式混練機、およびヘンシェル型ミキサ等が挙げられる。
【0013】
さらに、本発明のリン回収材の製造方法は、前記リン回収材の中間体を、リンを回収する場所まで輸送した後、該リンを回収する場所において、前記リン回収材の製造方法によりリン回収材を製造する方法である。該製造方法は、例えば、工場でリン回収材の中間体の粉体を製造した後、該粉体を下水処理場等のリン含有水が発生する場所まで運搬し、該場所で該粉体を用いてリン回収材を製造し、さらにリン回収材を用いて該リン含有水からリンを回収すれば、製造コストおよび輸送コストを削減できる。
【0014】
3.リン回収材
本発明のリン回収材は、後掲の図4に示すように、CSHまたはCSH複合物からなるものである。ここで、CSHとは、結晶性とされるトバモライト(tobermorite)およびゾノライト(xonotlite)を除いた珪酸カルシウム水和物をいい、例えば、後掲の図2〜4に示すような、2θ=29.5°付近に最大ピークを有し、かつ結晶性が良好でない珪酸カルシウム水和物が挙げられる。
該CSHおよびCSH複合物のCa/Siのモル比は0.8〜20であり、好ましくは1.0〜10である。該モル比が0.8〜20であれば、リン回収材のリンの吸着性能および沈降性のいずれも高い。
CSHを生成する酸化カルシウムの当量を超えて、酸化カルシウムを過剰に水ガラスと混合すると、余剰の酸化カルシウムから生じる水酸化カルシウムや未反応の酸化カルシウムをCSHが取り込むため、CSHの内部に水酸化カルシウムや酸化カルシウムが分散した状態で存在する複合物が生成する。該複合物は、水酸化カルシウムや酸化カルシウムを単にCSHに混合した混合物とは異なり、沈降性がより高く、したがって、上澄み液は清澄でリン回収物の固液分離が容易である。
【0015】
また、本発明のリン回収材は、リン回収材中のカルシウム濃度とリン含有水中のリン濃度がCa/Pのモル比で2になるように混合した場合に、リン回収率が65%以上になるものが好ましく、70%以上になるものがより好ましい。該値が65%以上であれば、リンを吸着した後のリン回収材中のりん酸濃度は十分に高いため、肥料効果の高いリン酸質肥料またはその原料として利用することができる。なお、リン回収率は下記(1)式により算出する。
リン回収率(%)=100×(P−P)/P ・・・(1)
式中、Pはリン回収材を添加する前のリン含有水中のリン濃度を表し、Pはリン回収材を添加してリンを吸着した後にリン含有水を濾過して得た濾液中のリン濃度を表す。
【0016】
前記リン含有水は、特に限定されず、下水処理場において発生した余剰汚泥の脱水濾液、嫌気性消化を行った汚泥の離脱水、し尿処理場において発生した汚泥の脱水濾液、家畜糞尿の廃水、およびリンを含む工場廃液等が挙げられる。
本発明のリン回収材は、スラリー、脱水ケーキ、または乾燥物(粉体を含む)の形態でリン回収に用いることができるが、リン回収材の製造工程の簡略化のため、スラリー(ペーストを含む)の形態で用いるのが好ましい。このように、リン回収材をスラリーの形態で用いれば、脱水機または乾燥機や、乾燥工程が不要となる。したがって、現地(例えば、下水処理場や工場等)に簡易なリン回収材の製造設備を設置して、リン回収材を製造しながらリン回収を行うことができ、さらに、リン回収材の保管が不要なため、リン回収材が劣化(炭酸化等)するおそれもない。
リン含有水とリン回収材を混合する時間は、混合量にもよるが、好ましくは5分以上であり、より好ましくは15分以上である。また、混合する液の温度は特に限定されず、一般に常温でよい。
リンを吸着した後のリン回収材(リン回収物)は、濾過、沈降分離、または遠心分離等により分離する。分離したリン回収物はリンの含有量が高いため、リン酸質肥料またはその原料として用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.リン回収材の中間体の製造
(1)加水しないで製造した例(実施例1〜4、比較例1)
表1に示す配合に従い、3号水ガラス(含有率はSiOが30質量%、NaOが10質量%、水が60質量%)に生石灰(北上石灰社製の90粉末生石灰)を添加し、ホバートミキサを用いて表1に示す時間、非加熱下で撹拌した。実施例1〜4は、該撹拌に伴い酸化カルシウムの水和熱が発生し、この水和熱により(水和)生成物が乾燥して粉体化したが、比較例1は粉体化せず塊になった。
次に、実施例1〜4の粉体は篩分けして、粒径が1mm以下のリン回収材の中間体を製造した。また、比較例1の塊は粉砕した後に篩分けして、粒径が1mm以下のリン回収材の中間体を製造した。
前記撹拌(発熱)に伴う生成物(一例として実施例1)の性状の変化を図1に示す。図1に示すように、撹拌に伴い、生成物はペースト状からケーキ状を経て粉体に変化した。また、実施例1と同様にして、実施例2〜4の生成物も粉体になった(表1参照)。
また、実施例1〜4および比較例1のリン回収材の中間体のXRDチャートを図2に示す。図2に示すように、リン回収材の中間体中の主要成分は、珪酸カルシウム水和物、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムであった。
【0018】
【表1】
【0019】
(2)加水して製造した例(実施例5〜8、比較例2)
表1に示す配合に従い、前記水ガラスに加水して希釈した後、該希釈液に前記酸化カルシウムを添加し、ホバートミキサを用いて表1に示す時間、非加熱下で撹拌した。実施例5〜8は、該撹拌に伴い酸化カルシウムの水和熱が発生し、この水和熱により生成物が乾燥して粉体化したが、比較例2は、撹拌2時間でも乾燥せずケーキ状のままだった。
次に、実施例5〜8の粉体は篩分けして、粒径が1mm以下のリン回収材の中間体を製造した。
該撹拌に伴う実施例5〜8の生成物の性状を表1に示す。また、実施例5〜8および比較例2のリン回収材の中間体のXRDチャートを図3に示す。実施例5〜8のリン回収材の中間体中の主要成分は、図3に示すように、珪酸カルシウム水和物、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムであった。
【0020】
2.リン回収材の製造
次に、実施例8および比較例1のリン回収材の中間体(粉体)のそれぞれに、リン回収材の中間体:水=1:20(質量比)になるように水を添加し、スターラーを用いて表2に示す時間、非加熱条件下で撹拌した。該撹拌した後、該スラリーをろ過して固体を得た。さらに、該固体を60℃で1日乾燥して粉砕し、ふるい分けして粒径が1mm以下の実施例9〜13および比較例3〜7のリン回収材を製造した。図4に、実施例11のリン回収材のXRDチャートと、参考として実施例11のリン回収材の原料である、実施例8のリン回収材の中間体のXRDチャートを示す。リン回収材の主要成分は、図4に示すように、珪酸カルシウム水和物、および水酸化カルシウムであった。
【0021】
【表2】
【0022】
3.リン回収材の中間体、およびリン回収材を用いたリン回収試験
リン回収材の中間体およびリン回収材のリン回収効果を確認するため、実施例1〜8および比較例1〜2のリン回収材の中間体と、実施例9〜13および比較例3〜7のリン回収材を用いてリン回収試験を行った。具体的には以下のとおりである。
【0023】
(1)リン含有模擬排水の作製
リン酸態リン(PO−P)の濃度(以下「リン濃度」という。)が10000ppmのリン酸水溶液100mLに水を加えて全量を5000mLとして、実測したリン濃度が197ppmのリン含有模擬排水(a)を作製した。また、リン濃度が10000ppmのリン酸水溶液75mLに水を加えて全量を5000mLとして、実測したリン濃度が153ppmのリン含有模擬排水(b)を作製した。
そして、前記リン含有模擬排水(a)は、実施例1〜8および比較例1のリン回収材の中間体を用いたリン回収試験に、また、前記リン含有模擬排水(b)は、実施例9〜13および比較例3〜7のリン回収材を用いたリン回収試験に使用した。なお、本願明細書において、前記ppmはmg/Lと同じ意味である。
【0024】
(2)リン回収材の中間体およびリン回収材を用いたリン回収試験
前記リン含有模擬排水(a)200mLを、それぞれコニカルビーカーに量り取り、前記模擬排水中のリン(P)に対する、実施例1〜8および比較例1のリン回収材の中間体中のカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が2となるように、前記リン回収材の中間体をそれぞれのビーカー内に添加して、マグネティックスターラーで1時間撹拌してリン回収を行った。
また、前記リン回収材の中間体およびリン含有模擬排水(a)に代えて、実施例9〜13および比較例3〜7のリン回収材とリン含有模擬排水(b)を用いて、前記リン回収材の中間体の場合と同様にしてリン回収を行った。
前記撹拌を停止して10分間静置した後、前記模擬排水の上澄みの清澄度を目視で観察した。また、上澄み液をろ過して得た濾液中のリン濃度を、迅速水質分析計(品番:DR/850 colorimeter、HACH社製)を用いて、アメリカ合衆国環境保護庁の排水についての分析方法365.2に準拠して測定し、前記(1)式を用いてリン回収率を算出した。その結果を表3および表4に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
4.リン回収試験の結果について
(1)リン回収材の中間体を用いた場合
リン回収率は、比較例1では38%に対し、実施例1〜8では65〜81%と高い。しかし、実施例1〜8を添加したリン含有模擬排水(中間体添加液)は撹拌停止30分後においても懸濁状態にあった。リン回収材とリンが結合したリン回収物を通常の固液分離手段により分離して回収するためには、その懸濁物が沈殿する必要があるが、この沈殿には2時間以上もの長時間を要した。
(2)リン回収材を用いた場合
リン回収率は、比較例3〜7では13〜45%に対し、実施例9〜13では76〜97%と高い。また、実施例9〜13を添加したリン含有模擬排水(リン回収材添加液)は、上澄みとリン回収物の沈殿物が明確に分離しているため、濾過等の通常の固液分離手段により、リン回収物の分離・回収は容易であった。さらに、実施例9〜13のリン回収材のリン回収効果および清澄度(すなわち固液分離の容易性)は、表2に示すように、中間体からリン回収材を製造する際の撹拌時間に依らず、いずれも高いことが分かる。
なお、図4にリン回収物のXRDチャートを示す。リン回収物の主要成分は、図4に示すように、ハイドロキシアパタイト、珪酸カルシウム水和物、および炭酸カルシウムであった。
図1
図2
図3
図4