(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
切削加工を行なわずに最終形状またはそれに近い形状の製品を得る方法として、粉末冶金法が知られている。粉末冶金法は、一般に、鉄系の粉末材料を金型で圧縮することにより粉末成形体を成形し、その後、粉末成形体を加熱することで鉄系焼結体を得る方法である。この方法によれば、製品形状を金型で成形するので、複雑な形状の製品を経済的に量産することができる。
【0003】
また、高い寸法精度をもつ焼結体を得るために、上記のようにして得られた焼結体を金型で再圧縮して寸法矯正を行なう技術(いわゆるサイジング)が知られている。このサイジングを行なうと、圧粉成形体を焼結するときの加熱によって生じる寸法低下の影響を排除し、高い寸法精度をもつ焼結体を得ることが可能となる。
【0004】
また、焼結体の硬度を高めるために、焼入れや焼戻し等の熱処理を焼結体に施す方法が知られている。
【0005】
ところで、高精度かつ高硬度の焼結体を得る方法として、焼結体にサイジングを行ない、その後、焼結体に熱処理を施す方法が考えられる。しかし、このようにすると、サイジングした際に焼結体の内部に生じる残留応力が、その後の熱処理によって解放され、焼結体の寸法精度が低下してしまう。そのため、高い寸法精度を得るためには、サイジングと熱処理を経た後の焼結品に切削加工を行なわなければならないという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、本願の出願人は、特許文献1に記載の技術(いわゆる温間サイジング)を提案している。この温間サイジングは、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が50〜350℃の温度域にある鉄系焼結体をオーステナイト化温度(Ael点)よりも高い温度に加熱してオーステナイト化した後、その焼結体をAe1点よりも低くかつMs点よりも高い温度まで急冷して取り出し、その焼結体を金型で圧縮し、この金型での圧縮によって焼結体の寸法矯正と焼結体のマルテンサイト変態とを同時に行なう方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本願の発明者は、上記の温間サイジングで多数の焼結体を製造したときに、金型の温度や圧力などの条件が同一であるにもかかわらず、得られる焼結体の寸法に微小なばらつき(プラスマイナス10μm程度のばらつき)が存在することが分かった。
【0009】
そして、この焼結体の寸法のばらつきの原因を発明者が調査したところ、温間サイジングのプレス装置から排出された焼結体をスタッキング装置で積み上げたときに、その焼結体が一番下の位置にあるか、下から2段目以上の位置にあるかによって冷却速度の違いが生じ、それが原因で焼結体の寸法のばらつきが生じていることを見出した。
【0010】
すなわち、温間サイジングのプレス装置から焼結体が排出されるとき、焼結体の温度は常温よりも高い温度(例えば90℃程度)である。一方、プレス装置から排出された焼結体を積み上げるスタッキング装置では、焼結体を所定の複数段(例えば7段)積み上げるごとに、位置をずらして再び1段目から積み上げるという方法で、スタッキング部に対する焼結体の積み上げが行なわれるが、このスタッキング部の温度は常温である。
【0011】
ここで、スタッキング部に積み上げられた焼結体のうち、1番下の位置にある焼結体は、常温のスタッキング部に直接接触するため、温間サイジングのプレス装置から排出されてから比較的急速に常温まで冷却されることとなる。
【0012】
一方、スタッキング部に積み上げられた焼結体のうち、下から2段目以上の位置にある焼結体は、その下の焼結体の上に乗っているので、スタッキング部に直接接触しない。そのため、温間サイジングのプレス装置から排出されてから比較的ゆっくりと常温まで冷却されることになる。
【0013】
このように、温間サイジングのプレス装置から排出された焼結体をスタッキング部に順に積み上げたときに、1番下の位置にある焼結体と、下から2段目以上の位置にある焼結体とで、常温に至るまでの冷却速度が異なる。そして、このスタッキング部での冷却速度の違いによって、焼結体の寸法のばらつきが生じていることが分かった。
【0014】
本発明は、高精度かつ高硬度の焼結体を安定して製造可能な温間サイジング設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様に係る温間サイジング設備は、
鉄系焼結体をオーステナイト化温度(Ae1点)よりも高い温度に加熱してオーステナイト化する加熱炉と、
その加熱炉から焼結体を受け入れ、その焼結体をAe1点よりも高い温度からAe1点よりも低くかつマルテンサイト変態開始温度(Ms点)よりも高い温度までパーライトが析出しない冷却速度で急冷する急冷装置と、
その急冷装置から焼結体を受け入れ、Ms点よりも高温の前記焼結体をMs点よりも低温の金型で圧縮することで前記焼結体の寸法矯正と前記焼結体のマルテンサイト変態とを同時に行なうプレス装置と、
前記プレス装置から排出された焼結体を常温のスタッキング部に順に積み上げるスタッキング装置と、
前記プレス装置の下流側、かつ、前記スタッキング部の上流側に配置され、前記プレス装置から排出された焼結体に常温かそれよりも低温の冷却ガスを吹き付けながらその焼結体を前記スタッキング部に向けて搬送する冷却搬送装置と、
を有する温間サイジング設備である。
【発明の効果】
【0016】
上記によれば、高精度かつ高硬度の焼結体を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本発明の実施形態の説明]
(1)本発明の一態様に係る温間サイジング設備は、
鉄系焼結体をオーステナイト化温度(Ae1点)よりも高い温度に加熱してオーステナイト化する加熱炉と、
その加熱炉から焼結体を受け入れ、その焼結体をAe1点よりも高い温度からAe1点よりも低くかつマルテンサイト変態開始温度(Ms点)よりも高い温度までパーライトが析出しない冷却速度で急冷する急冷装置と、
その急冷装置から焼結体を受け入れ、Ms点よりも高温の前記焼結体をMs点よりも低温の金型で圧縮することで前記焼結体の寸法矯正と前記焼結体のマルテンサイト変態とを同時に行なうプレス装置と、
前記プレス装置から排出された焼結体を常温のスタッキング部に順に積み上げるスタッキング装置と、
前記プレス装置の下流側、かつ、前記スタッキング部の上流側に配置され、前記プレス装置から排出された焼結体に常温かそれよりも低温の冷却ガスを吹き付けながらその焼結体を前記スタッキング部に向けて搬送する冷却搬送装置と、
を有する温間サイジング設備である。
このようにすると、焼結体がプレス装置から排出されてからスタッキング部に到達するまでの間に、冷却搬送装置によって焼結体が冷却されるので、スタッキング部に到達したときの焼結体の温度が十分に低い温度となる。そのため、焼結体をスタッキング部に順に積み上げたときに、1番下の位置にある焼結体と、下から2段目以上の位置にある焼結体とで、焼結体の寸法のばらつきが生じにくい。したがって、高精度かつ高硬度の焼結体を安定して製造することができる。
(2)前記冷却搬送装置として、以下の構成のものを採用することができる。
前記焼結体を前記スタッキング部に向けて搬送するコンベヤと、
そのコンベヤによる焼結体の搬送経路を覆うように設けられたコンベヤカバーと、
そのコンベヤカバー内に前記冷却ガスを送り込む冷却ガス供給装置とを有する。
(3)また、本発明の一態様に係る温間サイジング方法として、以下の構成のものを提供する。
鉄系焼結体をオーステナイト化温度(Ae1点)よりも高い温度に加熱してオーステナイト化するオーステナイト化工程と、
そのオーステナイト化工程の後、前記焼結体をAe1点よりも高い温度からAe1点よりも低くかつマルテンサイト変態開始温度(Ms点)よりも高い温度までパーライトが析出しない冷却速度で急冷する急冷工程と、
その急冷工程の後、Ms点よりも高温の前記焼結体をMs点よりも低温の金型で圧縮することで前記焼結体の寸法矯正と前記焼結体のマルテンサイト変態とを同時に行なう温間サイジング工程と、
その温間サイジング工程の後、前記焼結体を常温のスタッキング部に順に積み上げるスタッキング工程と、
前記温間サイジング工程の後、前記スタッキング工程の前に、前記プレス装置から排出された焼結体に常温かそれよりも低温の冷却ガスを吹き付けながらその焼結体を前記スタッキング部に向けて搬送する冷却搬送工程と、
を有する温間サイジング方法。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる温間サイジング設備および温間サイジング方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
図1、
図2に、本発明の実施形態にかかる温間サイジング設備および温間サイジング方法で温間サイジングを行なう焼結体1を示す。この焼結体1は、鉄系の粉末材料を金型で圧縮することにより粉末成形体を成形し、その後、粉末成形体を加熱することで得られる鉄系焼結体である。粉末成形体を構成する粉末材料としては、3.5〜4.5質量%のニッケルと、1.2〜1.8質量%の銅と、0.3〜0.7質量%のモリブデンと、0.5〜0.9質量%の炭素と、残部の鉄とを含有する組成のものを用いることができる。
【0021】
焼結体1は、720〜780℃の温度域にオーステナイト化温度(Ae1点)を有し、このAe1点よりも低温の50〜350℃(例えば150〜200℃)の温度域にマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有する。
【0022】
焼結体1は、外径よりも小さい厚みをもつ扁平な形状とされている。この焼結体1に後述の温間サイジングを行なうと、高精度かつ高硬度の焼結体として、
図5に示す内接歯車式ポンプのインナーロータ2を得ることができる。また、
図1、
図2に示す焼結体1にかえて、
図3、
図4に示す焼結体1に温間サイジングを行なってもよい。
図3、
図4に示す焼結体1に温間サイジングを行なうと、高精度かつ高硬度の焼結体として、
図5に示す内接歯車式ポンプのアウターロータ3を得ることができる。
【0023】
図5に示す内接歯車式ポンプは、環状のアウターロータ3と、アウターロータ3の内側に配置されるインナーロータ2とからなる。アウターロータ3の内周には、径方向内方に突出する内歯4が周方向に等ピッチに形成されている。インナーロータ2の外周には、径方向外方に突出する外歯5が周方向に等ピッチに形成されている。アウターロータ3の内歯4の歯数は、インナーロータ2の外歯5の歯数よりも1つ多い。インナーロータ2の軸方向の両側面6は平坦面とされている。アウターロータ3の軸方向の両側面7も平坦面とされている。
【0024】
このインナーロータ2およびアウターロータ3は、インナーロータ2の外歯5とアウターロータ3の内歯4の間に形成されるチップクリアランスtが数十μm(例えば20〜30μm程度)となるようにきわめて高い寸法精度が要求される。また、インナーロータ2の軸方向側面6およびアウターロータ3の軸方向側面7は摺動支持されるため、インナーロータ2およびアウターロータ3はきわめて高い耐摩耗性が要求される。
【0025】
図6に本発明の実施形態にかかる温間サイジング設備を示す。この温間サイジング設備は、上流側から下流側に向かって順に、加熱炉10、急冷装置11、中間搬送装置12、プレス装置13、冷却搬送装置14、スタッキング装置15を有する。
【0026】
加熱炉10は、焼結体1のAe1点よりも高い温度(例えば800〜900℃の範囲の温度)に保持された加熱室16と、その加熱室16を貫通するように設けられた金属製のメッシュベルトコンベヤ17とを有する。メッシュベルトコンベヤ17は、上流側から順次供給される焼結体1を加熱室16の入口16aから加熱室16の内部を通って加熱室16の出口16bに搬送する。メッシュベルトコンベヤ17は、焼結体1の移動と停止を交互に行なうピッチ送りで駆動される。
【0027】
急冷装置11は、油槽18と、加熱炉10から油槽18に焼結体1を投入する投入装置19と、油槽18から焼結体1を取り出す取り出し装置20とを有する。油槽18には、焼結体1を冷却するための油が溜められている。油槽18内の油の温度は、焼結体1のAe1点よりも低くかつMs点よりも低い温度に保持されている。
【0028】
中間搬送装置12は、急冷装置11から取り出された焼結体1をプレス装置13に搬送する搬送機構である。中間搬送装置12は、焼結体1の搬送経路を覆うカバー21と、そのカバー21内に熱風を送り込む熱風発生器22とを有する。この熱風発生器22で発生する熱風により、焼結体1の搬送経路の雰囲気を常温よりも高い温度に保ち、搬送途中の焼結体1の温度低下を抑えることが可能となっている。
【0029】
プレス装置13は、焼結体1に対応した形状をもつ金型23と、金型23を強制冷却する金型冷却機構24とを有する。金型冷却機構24は、金型23の内部に形成された冷却水路に冷却水を送り込む装置である。この金型冷却機構24から金型23に送り込まれる冷却水で金型23を冷却することにより、上流側から順に送り込まれる焼結体1を金型23によって連続して圧縮したときの金型23の温度上昇を防止し、焼結体1を圧縮する直前の金型23の温度を焼結体1のMs点よりも低い温度に保持することが可能となっている。
【0030】
冷却搬送装置14は、プレス装置13から排出された焼結体1を、スタッキング装置15のスタッキング部25に向けて搬送するコンベヤ26と、そのコンベヤ26による焼結体1の搬送経路を覆うように設けられたコンベヤカバー27と、そのコンベヤカバー27内に冷却ガスを送り込む冷却ガス供給装置28とを有する。冷却搬送装置14は、冷却ガス供給装置28で焼結体1に冷却ガスを吹き付けながら、その焼結体1をコンベヤ26でスタッキング部25に向けて搬送する。
【0031】
図7、
図8に示すように、コンベヤ26は、プレス装置13の側に配置されたテールプーリ30と、スタッキング装置15の側に配置されたヘッドプーリ31と、テールプーリ30とヘッドプーリ31の間に掛け渡されたコンベヤベルト32と、テールプーリ30およびヘッドプーリ31を支持するコンベヤフレーム33とを有する。コンベヤフレーム33には、テールプーリ30を回転駆動する電動モータ34(
図7参照)が取り付けられている。コンベヤベルト32は、焼結体1との接触面が樹脂で形成された樹脂ベルトを用いると焼結体1に傷が付くのを防止することができる。このような樹脂ベルトとしては、樹脂製の平板状の多数のリンクを継手ピンを介して回動可能に連結したチェーンタイプのものが挙げられる。チェーンタイプのベルトを用いる場合、テールプーリ30とヘッドプーリ31は、外周に歯をもつスプロケットタイプのものを使用する。
【0032】
コンベヤカバー27は、コンベヤ26の入口側と出口側とに焼結体1の通過を許容する開口35を有し、それ以外の箇所を覆う形状とされている。冷却ガス供給装置28は、コンベヤ26で搬送中の焼結体1よりも低温(具体的には常温かそれよりも低温)の冷却ガスを発生する冷却ガス発生器36(
図6参照)と、冷却ガス発生器36で発生した冷却ガスをコンベヤカバー27内に導入する冷却ガス導入路37とを有する。冷却ガスは例えば空気である。常温とは15〜25℃である。
【0033】
スタッキング装置15は、水平円板状のスタッキング部25と、焼結体1を持ち上げてスタッキング部25に積み上げる持ち上げ搬送装置38とを有する。
【0034】
図8に示すように、持ち上げ搬送装置38は、焼結体1の外周を把持するチャック部40と、チャック部40を上下に移動させる昇降駆動装置41と、チャック部40を水平に移動させる水平駆動装置42とを有する。スタッキング部25の下側には、スタッキング部25を回転駆動する回転駆動装置43が設けられている。回転駆動装置43は、スタッキング部25を間欠的に回転させる(ピッチ送り)。
【0035】
スタッキング装置15は、スタッキング部25の外周に沿って周壁44を有し、この周壁44でスタッキング部25に積み上げられた焼結体1の崩れを防止するようになっている。周壁44は、スタッキング装置15のベースフレーム45に固定して取り付けられている。また、周壁44には、スタッキング部25の回転に伴って周方向に移動する焼結体1の山をスタッキング部25の内径側に案内するガイド板46(
図7参照)が連設されている。
【0036】
次に、上述の温間サイジング設備を用いた温間サイジング方法の一例を説明する。
【0037】
<オーステナイト化工程>
上流側から加熱炉10のメッシュベルトコンベヤ17に焼結体1が順次供給される。メッシュベルトコンベヤ17上の焼結体1は、加熱室16を通過することによりAe1点よりも高い温度に加熱してオーステナイト化される。
【0038】
<急冷工程>
焼結体1は加熱炉10から排出され、急冷装置11に受け入れられる。急冷装置11に受け入れられた焼結体1は、油槽18に浸漬することで、Ae1点よりも高い温度から、Ae1点よりも低くかつMs点よりも高い温度まで急冷される。このときの焼結体1の冷却速度は、パーライトが析出しない速度(すなわち同速度を維持してMs点よりも低い温度まで冷却した場合に、焼結体1の組織がパーライトにならずにマルテンサイトになる冷却速度)である。
【0039】
<温間サイジング工程>
急冷工程の後、焼結体1は中間搬送装置12で急冷装置11からプレス装置13に搬送される。プレス装置13が焼結体1を受け入れるとき、焼結体1の温度は、Ae1点よりも低くかつMs点よりも高い温度(例えばMs点が150〜200℃の範囲にある焼結体1の場合、220〜280℃程度)である。プレス装置13は、焼結体1を金型23で圧縮することで焼結体1を塑性変形させ、焼結体1の寸法矯正を行なう。このとき、金型23で焼結体1を圧縮するときの加圧力によって焼結体1のMs点が一時的に上昇するとともに、金型23と焼結体1の接触面間の熱伝導によって焼結体1が急冷されるため、焼結体1の組織がマルテンサイト変態する。
【0040】
<冷却搬送工程>
プレス装置13から排出された焼結体1は、冷却搬送装置14で冷却ガスを吹き付けながらスタッキング部25に向けて搬送される。プレス装置13から排出された直後の焼結体1の温度は、例えばMs点が150〜200℃の範囲にある焼結体1の場合、80〜120℃程度である。そして、この焼結体1が冷却搬送装置14で冷却しながら搬送されることで、スタッキング部25に到達する直前の焼結体1の温度が60℃以下(好ましくは40℃以下)となる。
【0041】
<スタッキング工程>
図8に示すように、持ち上げ搬送装置38は、冷却搬送装置14の出口にある焼結体1を持ち上げて、スタッキング部25の上に降ろす動作を繰り返し、スタッキング部25の上に焼結体1を積み上げる。そして、焼結体1が所定の複数段(例えば7段)積み上がるごとに、スタッキング部25が一定の角度だけ回転する。このようにして、スタッキング装置15は、プレス装置13から排出された焼結体1をスタッキング部25に順に積み上げ、焼結体1の山をスタッキング部25の上に形成する。このとき、スタッキング部25の温度は、加熱または冷却などの温度調整が行なわれておらず常温である。
【0042】
上述の温間サイジング設備および温間サイジング方法を採用すると、高精度かつ高硬度の焼結体1を安定して製造することが可能である。
【0043】
すなわち、プレス装置13から焼結体1が排出されるとき、焼結体1の温度は常温よりも高い温度(例えば、80〜120℃程度)である。一方、プレス装置13から排出された焼結体1が積み上げられるスタッキング部25は常温である。
【0044】
ここで、もし仮に、冷却搬送装置14による冷風の吹き付けを行なわずにそのまま焼結体1を搬送すると、スタッキング部25に積み上げられた焼結体1のうち、1番下の位置にある焼結体1は、常温のスタッキング部25に直接接触するため、温間サイジングのプレス装置13から排出されてから比較的急速に常温まで冷却されることとなる。一方、スタッキング部25に積み上げられた焼結体1のうち、下から2段目以上の位置にある焼結体1は、その下の焼結体1の上に乗っているので、スタッキング部25に直接接触しない。そのため、温間サイジングのプレス装置13から排出されてから比較的ゆっくりと常温まで冷却されることになる。このように、プレス装置13から排出された焼結体1を順にスタッキング部25に積み上げたときに、1番下の位置にある焼結体1と、下から2段目以上の位置にある焼結体1とで、常温に至るまでの冷却速度が異なると、金型23の温度や圧力などの条件が同一であるにもかかわらず、得られる焼結体1の寸法に微小なばらつき(例えばプラスマイナス10μm程度のばらつき)が発生するおそれがある。
【0045】
これに対し、上記実施形態のように、冷却搬送装置14で冷風を吹き付けながら焼結体1を搬送すると、焼結体1がプレス装置13から排出されてからスタッキング部25に到達するまでの間に、冷却搬送装置14によって焼結体1が冷却されるので、スタッキング部25に到達したときの焼結体1の温度が十分に低い温度となる。そのため、焼結体1をスタッキング部25に順に積み上げたときに、1番下の位置にある焼結体1と、下から2段目以上の位置にある焼結体1とで、焼結体1の寸法のばらつきが生じにくい。したがって、高精度かつ高硬度の焼結体1を安定して製造することができる。
【0046】
本発明の実施形態の効果を確認するため、冷却搬送装置14で冷風を吹き付けながら搬送してスタッキング部25に積み上げた焼結体1(実施例)と、冷却搬送装置14による冷風の吹き付けを行なわずにそのまま搬送してスタッキング部25に積み上げた焼結体1(比較例)とで焼結体1の寸法精度を比較する試験を行なった。以下の各実施例および各比較例の焼結体1は、いずれも
図1および
図2に示す形状のインナーロータ2である。インナーロータ2の歯底径は29mm、歯先径は34mm、軸方向厚さは10mmである。
【0047】
<実施例>
冷却搬送装置14で冷風を吹き付けながら焼結体1を搬送し、その焼結体1をスタッキング部25に積み上げて7段の焼結体1の山を形成する動作を3セット行なった。そして、各セットの焼結体1を、
図5に示すようにアウターロータ3の内側に挿入し、インナーロータ2の外歯5とアウターロータ3の内歯4の間に形成されるチップクリアランスtの大きさ(単位μm)を測定した。このとき、アウターロータ3は同一物(マスター品)を用いた。また、チップクリアランスtの測定は、
図5に示すインナーロータ2を60度ずつ回転して測定を繰り返すことで、1個のインナーロータ2あたり6箇所測定した。その測定結果を表1および
図9に示す。
【表1】
【0048】
実施例H1、M1、L1は、それぞれ1セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。実施例H2、M2、L2は、それぞれ2セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。実施例H3、M3、L3は、それぞれ3セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。
【0049】
<比較例>
冷却搬送装置14による冷風の吹き付けを行なわずにそのまま焼結体1を搬送し、その焼結体1をスタッキング部25に積み上げて7段の焼結体1の山を形成する動作を3セット行なった。そして、実施例と同様に、各セットの焼結体1を、
図5に示すようにアウターロータ3の内側に挿入し、インナーロータ2の外歯5とアウターロータ3の内歯4の間に形成されるチップクリアランスtの大きさ(単位μm)を測定した。このとき、アウターロータ3は同一物(マスター品)を用いた。また、チップクリアランスtの測定は、
図5に示すインナーロータ2を60度ずつ回転して測定を繰り返すことで、1個のインナーロータ2あたり6箇所測定した。その測定結果を表2および
図10に示す。
【表2】
【0050】
比較例H1、M1、L1は、それぞれ1セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。比較例H2、M2、L2は、それぞれ2セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。比較例H3、M3、L3は、それぞれ3セット目の7段に積み上げられた焼結体1のうち、最上段の焼結体1、中央の焼結体1、最下段の焼結体1である。
【0051】
図9と
図10を比較すると、
図9では、実施例H1〜H3、M1〜M3、L1〜L3の寸法がほぼ横に揃っている。また、実施例H1〜H3、M1〜M3、L1〜L3について、その最大値と最小値の差を示すレンジRを計算すると、その値は14である。また、寸法のばらつきの度合いを示す標準偏差σを計算すると、その値は2.9であった。
【0052】
これに対し、
図10では、比較例H1〜H3、M1〜M3の寸法が、比較例L1〜L3の寸法よりも大きい傾向にあり、寸法が揃っていない。また、比較例H1〜H3、M1〜M3、L1〜L3について、その最大値と最小値の差を示すレンジRを計算すると、その値は19である。また、寸法のばらつきの度合いを示す標準偏差σを計算すると、その値は5.2であった。
【0053】
上記のとおり、実施例は比較例よりもレンジR(データの最大値と最小値の差)が小さく、標準偏差σ(データのばらつきの度合い)も小さく抑えられている。すなわち、実施例の温間サイジング方法で製造した焼結品は、比較例の温間サイジング方法で製造した焼結品よりも寸法が安定していることが分かる。