(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明を採用した積層型のリチウムイオン二次電池の構成の一例を模式的に示している。本発明のリチウムイオン二次電池100は、正極(正極シート)1と負極(負極シート)6とが、セパレータ20を介して交互に複数層積層された電極積層体(電池素子)を備えている。この電極積層体は電解液と共に、可撓性フィルム30からなる外装容器に収納されている。電極積層体の正極1には正極端子11の一端が、負極6には負極端子16の一端がそれぞれ接続されており、正極端子11の他端側および負極端子16の他端側は、それぞれ可撓性フィルム30の外部に引き出されている。
図1では、電極積層体を構成する各層の一部(厚さ方向の中間部に位置する層)を図示省略して、電解液を示している。
【0015】
正極1は、正極集電体3とその正極集電体3に塗布された正極活物質2とを含み、正極集電体3の表面と裏面には、正極活物質2が塗布された塗布部と正極活物質2が塗布されていない未塗布部とが、長手方向に沿って並んで位置する。同様に、負極6は、負極集電体8とその負極集電体8に塗布された負極活物質7とを含み、負極集電体8の表面と裏面には塗布部と未塗布部とが、長手方向に沿って並んで位置する。未塗布部との境界部分における塗布部(正極活物質2)の端部は、僅かに傾斜していてもよいが、正極集電体3に対して実質的に垂直に切り立っていてもよい。負極6においても同様に、塗布部(負極活物質8)の端部は、僅かに傾斜していても、負極集電体7に対して実質的に垂直に切り立っていてもよい。
【0016】
正極1と負極6のそれぞれの未塗布部は、電極端子(正極端子11または負極端子16)と接続するためのタブとして用いられる。正極1に接続される正極タブ同士は正極端子11上にまとめられ、正極端子11とともに超音波溶接等で互いに接続される。負極6に接続される負極タブ同士は負極端子16上にまとめられ、負極端子16とともに超音波溶接等で互いに接続される。そのうえで、正極端子11の他端部および負極端子16の他端部は外装容器の外部にそれぞれ引き出されている。
【0017】
図2に示すように、正極1の塗布部と未塗布部の間の境界部分4aを覆うように、負極端子16との短絡を防止するための絶縁部材40が形成されている。この絶縁部材40は境界部分4aを覆うように、正極タブ(正極集電体の正極活物質2が塗布されていない部分)と正極活物質2の双方にまたがって形成されることが好ましい。絶縁部材40の形成については後述する。
【0018】
負極6の塗布部(負極活物質7)の外形寸法は正極1の塗布部(正極活物質2)の外形寸法よりも大きく、セパレータ20の外形寸法よりも小さい。
【0019】
図1に示す電池において、正極活物質2としては、例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiNi
(1-x)CoO
2、LiNi
x(CoAl)
(1-x)O
2、Li
2MO
3−LiMO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2などの層状酸化物系材料や、LiMn
2O
4、LiMn
1.5Ni
0.5O
4、LiMn
(2-x)M
xO
4などのスピネル系材料、LiMPO
4などのオリビン系材料、Li
2MPO
4F、Li
2MSiO
4Fなどのフッ化オリビン系材料、V
2O
5などの酸化バナジウム系材料などが挙げられ、これらのうちの1種、または2種以上の混合物を使用することができる。
【0020】
負極活物質7としては、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素材料や、リチウム金属材料、シリコンやスズなどの合金系材料、Nb
2O
5やTiO
2などの酸化物系材料、あるいはこれらの複合物を用いることができる。
【0021】
正極活物質2および負極活物質7には結着剤や導電助剤等を適宜加えることができる。導電助剤としては、カーボンブラック、炭素繊維、または黒鉛などのうちの1種、または2種以上の組み合せを用いることができる。また、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、変性アクリロニトリルゴム粒子などを用いることができる。
【0022】
正極集電体3としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、またはこれらの合金等を用いることができ、特にアルミニウムが好ましい。負極集電体8としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、またはこれらの合金を用いることができる。
【0023】
また、電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類や、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類や、脂肪族カルボン酸エステル類や、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類や、鎖状エーテル類、環状エーテル類、などの有機溶媒のうちの1種、または2種以上の混合物を使用することができる。さらに、これらの有機溶媒にリチウム塩を溶解させることができる。
【0024】
セパレータ20は主に樹脂製の多孔膜、織布、不織布等からなり、その樹脂成分として、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、またはナイロン樹脂等を用いることができる。特にポリオレフィン系の微多孔膜は、イオン透過性と、正極と負極とを物理的に隔離する性能に優れているため好ましい。また、必要に応じて、セパレータ20には無機物粒子を含む層を形成してもよく、無機物粒子としては、絶縁性の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物などを挙げることができ、なかでもTiO
2やAl
2O
3を含むことが好ましい。
【0025】
外装容器には可撓性フィルム30からなるケースや缶ケース等を用いることができ、電池の軽量化の観点からは可撓性フィルム30を用いることが好ましい。可撓性フィルム30には、基材となる金属層の表裏面に樹脂層が設けられたものを用いることができる。金属層には、電解液の漏出や外部からの水分の浸入を防止する等のバリア性を有するものを選択することができ、アルミニウム、ステンレス鋼などを用いることができる。金属層の少なくとも一方の面には、変性ポリオレフィンなどの熱融着性樹脂層が設けられる。可撓性フィルム30の熱融着性樹脂層同士を対向させ、電極積層体を収納する部分の周囲を熱融着することで外装容器が形成される。熱融着性の樹脂層が形成された面と反対側の面となる外装体表面にはナイロンフィルム、ポリエステルフィルムなどの樹脂層を設けることができる。
【0026】
正極端子11には、アルミニウムやアルミニウム合金で構成されたもの、負極端子16には銅や銅合金あるいはそれらにニッケルメッキを施したものなどを用いることができる。それぞれの端子11,16の他端部側は外装容器の外部に引き出される。それぞれの端子11,16の、外装容器の外周部分の熱溶着される部分に対応する箇所には、熱融着性の樹脂をあらかじめ設けることができる。
【0027】
正極活物質2の塗布部と未塗布部の境界部分4aを覆うように形成される絶縁部材40には、ポリイミド、ガラス繊維、ポリエステル、ポリプロピレン、あるいはこれらを含む材料を用いることができる。テープ状の樹脂部材に熱を加えて境界部分4aに溶着させたり、ゲル状の樹脂を境界部分4aに塗布してから乾燥させたりすることで絶縁部材40を形成することができる。
【0028】
図2は、本発明におけるリチウムイオン二次電池の一実施形態を説明するための概略断面図であり、電極積層体の一部分のみを拡大して模式的に記載している。
【0029】
図1では図示省略したが、正極集電体3の表裏両面において、正極活物質2の塗布部の外縁部(未塗布部に隣接する端部)は、正極活物質2の層の厚さが平坦部2bから連続的に徐々に薄くなる傾斜部2aになっている。そして、絶縁部材40の一方の端部(正極活物質2の層上に位置する端部)40aは、傾斜部2a上に位置している。
【0030】
図2に示すように、本実施形態においては、少なくとも正極1の活物質2の塗布部の一部が、正極活物質2を片面(
図2の下面)だけに塗布した片面塗布部となっている。換言すると、正極活物質2の塗布部と未塗布部の境界部分4aが、正極集電体3の表裏で異なる平面位置になるように形成されて、電極積層体の中央部分(
図2の左側)から外周部に向かって、両面塗布部、片面塗布部、両面未塗布部の順に並んでいる。
【0031】
また、負極集電体8の表裏両面においても同様に、負極活物質7の塗布部の外縁部(未塗布部に隣接する端部)は、負極活物質7の層の厚さが平坦部7bから連続的に徐々に薄くなる傾斜部7aになっている。そして、正極活物質2の上に位置する絶縁部材40の一方の端部40aは、前記したように正極活物質2の傾斜部2a上に位置するとともに、負極活物質7の傾斜部7aに対向している。すなわち、絶縁部材40の一方の端部40aは正極活物質2の傾斜部2aおよび負極活物質7の傾斜部7aに平面的に重なる位置にある。このことは、絶縁部材40の端部40aは、正極活物質2と負極活物質7の厚さが薄くなった個所に位置していることを意味する。そして、絶縁部材40の他方の端部40bに向かって、正極活物質2と負極活物質7の厚さはより薄くなり、最終的には正極活物質2および負極活物質7が存在しない部分に至る。従って、絶縁部材40は正極活物質2や負極活物質7の厚さが最も厚い部分に重なることはなく、絶縁部材40によって電極積層体の厚さが厚くなることが抑えられる。特に、
図2に示すように、絶縁部材40の端部40aが、正極活物質2および負極活物質7の傾斜面2a,7aのうち、正極活物質2および負極活物質7の厚さの減少量が絶縁部材40の厚さ以上になっている部分に配置されている場合には、絶縁部材40による厚さの増加分は、正極活物質2および負極活物質7の厚さの低減によって吸収(相殺)されるため、厚さ上昇を抑える効果が大きい。
【0032】
なお、
図2に示すようななだらかな傾斜面2aに代えて、
図3に示すように段階的に厚さが薄くなる段部2cが正極活物質2に設けられている構成であっても、絶縁部材40が、段部2cによって正極活物質2の厚さが薄くなった部分に配置されていれば、前記したのと同様な効果が得られる。同様に負極活物質7に段部が設けられていてもよい。なお、
図3に示す例では、なだらかな傾斜面2aと段部2cとがともに設けられているが、段部2cのみが設けられていてもよく、複数の段部2cが階段状に形成されていてもよい。
【0033】
図2,3に示されている傾斜部2aおよび
図3に示されている段部2cは、平坦部2bに比べて低密度である。
【0034】
図4および
図5は、
図1〜2に示す積層型電池(ラミネート電池)の正極1、負極6、セパレータ20、および絶縁部材40の位置関係を分かりやすく説明するための、電極作製途中の状態を示す概略図である。
【0035】
図4には、複数の正極(正極シート)1を製造するための大面積の正極集電体3の表面に、間欠的に正極活物質2が塗布された状態を示している。各正極活物質2の外縁部の少なくとも一部(具体的には、後で正極端子11が接続される側の外縁部)には、外側に向かって徐々に厚さが薄くなる傾斜部2a(
図2参照)が形成されている。そして、
図5に示すように、各正極活物質2の表面に、一端40aが傾斜部2a上にそれぞれ位置し、他端40bが正極活物質2が塗布されていない未塗布部上にそれぞれ位置するように、絶縁部材40がそれぞれ形成される。同様にして、正極集電体3の裏面にも、間欠的に正極活物質2が塗布され、各正極活物質2の外縁部の少なくとも一部(正極端子11が接続される側の外縁部)に、外側に向かって徐々に厚さが薄くなる傾斜部2aが形成されている。そして、各正極活物質2の裏面に、一端40aが傾斜部2a上にそれぞれ位置し他端40bが未塗布部上にそれぞれ位置するように、絶縁部材40がそれぞれ形成される。
図2に示すように、正極活物質2の表面における塗布部と未塗布部との境界部分4aと、正極活物質2の裏面における塗布部と未塗布部との境界部分4aとは、平面的に見て異なる位置にある。すなわち、塗布部と未塗布部との境界部分4aは、正極活物質2の表面と裏面とで位置がずれている。
【0036】
絶縁部材40の厚さが小さいと、絶縁性を十分に確保できないおそれがあるので、厚さは10μm以上であることが好ましい。また、絶縁部材40の厚さが大き過ぎると、本発明による電極積層体の厚さの増大を抑制する効果が十分に発揮されないため、絶縁部材40は正極活物質2の平坦部2bの厚さよりも小さい方が良い。好ましくは、絶縁部材40の厚さは正極活物質2の平坦部2bの厚さの90%以下、より好ましくは平坦部2bの厚さの60%以下である。
【0037】
その後、個々の積層型電池に使用する正極1を得るために、
図6aに破線で示す切断線90に沿って正極集電体3を裁断して分割し、
図6bに示す所望の大きさの正極1を得る。切断線90は仮想的な線であって実際には形成されない。
【0038】
図7には、複数の負極(負極シート)6を製造するための大面積の正極集電体8の表面に、間欠的に負極活物質7が塗布された状態を示している。各負極活物質7の外縁部の少なくとも一部(具体的には、後で負極端子16が接続される側の外縁部)には、外側に向かって徐々に厚さが薄くなる傾斜部7aが形成されている。傾斜部7aと反対側の外縁部に傾斜部7cが設けられていてもよいが、傾斜部7cは設けられなくてもよい。負極集電体8および負極活物質7には絶縁部材40は設けられていない。そして、
図2に示すように、負極活物質7は負極集電体8の表裏両面に同様に形成されている。負極6の、傾斜部7aと反対側の外縁部に、負極活物質7が形成されていない未塗布部が設けられている。この未塗布部は負極端子16が接続される負極タブとなるが、
図2,3等には図示されていない。
【0039】
その後、個々の積層型電池に使用する負極6を得るために、
図8aに破線で示す切断線91に沿って負極集電体8を裁断して分割し、
図8bに示す所望の大きさの負極6を得る。切断線90は仮想的な線であって実際には形成されない。
【0040】
このようにして形成された、
図6bに示す正極1と
図8bに示す負極6とを、セパレータ20を介して交互に積層し、正極端子11および負極端子16を接続することにより、
図2に示す電極積層体が形成される。なお、傾斜部2aに段部2cを設けるように正極活物質2を形成し、それ以外は前記したのと同様な工程で、
図3に示す電極積層体を形成することもできる。
【0041】
この電極積層体を電解液とともに、可撓性フィルム30からなる外装容器に収容し、封止することによって、
図1に示す二次電池100が形成される。このようにして形成した本発明の二次電池100では、絶縁部材40の一方の端部40aが正極活物質2の斜面部2a(段部2cの場合もある)の上に位置するとともに、負極活物質7の傾斜部7aに対向する。
【0042】
この二次電池100によると、正極1の塗布部と未塗布部の境界部分4aを覆うように形成された絶縁部材40による厚さの増加分が、正極活物質2の傾斜部2a(段部2cの場合もある)による厚さの減少と負極活物質7の傾斜部7aによる厚さの減少とによって吸収(相殺)され、電極積層体を部分的に厚くすることがないため、電極積層体を均等に押さえて保持することができ、電気特性のばらつきやサイクル特性の低下などの品質低下を抑えることができる。
【0043】
なお、絶縁部材40の一方の端部40aが、その端部40aが位置する部分における正極活物質2の厚さと絶縁部材40の厚さとの合計が正極活物質2の傾斜部2a以外の部分(平坦部2b)の厚さ以下となる部分に位置することが好ましい。これにより、1つの正極1にて、絶縁部材40のおよそ2つ分の厚さだけ、従来の構成よりも薄型化できる。
【0044】
また、効率的な薄型化のために、絶縁部材40の厚さと、絶縁部材40の端部40aが位置する部分における正極活物質2の厚さと、絶縁部材40の端部40aと対向する部分における負極活物質7の厚さとの合計が、正極活物質2の平坦部2bの厚さと負極活物質7の平坦部7bの厚さとの合計以下であることが好ましい。
【0045】
負極6にも傾斜部7aを設けることで、正極1に設けられた絶縁部材40に起因する電池の歪みが生じる可能性をより低減することができる。一方の端部40aが正極活物質2の傾斜部2a上に位置する絶縁部材40は、絶縁部材40の厚さと、その端部40aが位置する部分の正極活物質2の厚さとの合計が、正極活物質2の平坦部2bの厚さよりも大きくならないように形成するのが好ましいが、製造のばらつきによって、平坦部2bの厚さよりも大きくなっている場合であっても、負極活物質7の傾斜部7aによる厚さの減少が、正極1の製造のばらつきによる厚さの増加分を吸収(相殺)できるからである。
【0046】
また、
図2に示すように、正極1の片面塗布部において正極活物質2が緩やかに湾曲することにより、絶縁部材40による厚さの増加を抑制してなだらかにするため、裏面の境界部分4aは、表面の境界部分4aよりも片面塗布部側にずれて位置することが好ましい。好ましくは、そのずれ量は絶縁部材40の厚さの5倍以上であり、より好ましくは、ずれ量は絶縁部材40の厚さの10倍以上である。
【0047】
図2に示すように、負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、正極集電体3の表面の正極活物質2の傾斜部2a上に位置する絶縁部材40の端部40aよりも中央部側(
図2の左側)、すなわち正極活物質2の平坦部2b側に位置するように構成されている。そして、表面側の正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bと、負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、平面的に見てセパレータ20を介してほぼ一致するように配置されている部分が存在する。
【0048】
なお、
図8bに示す例では、正極1の両面未塗布部(正極タブ)に対向する位置において、負極6の両面塗布部が切断されて終端しており(終端部7e)、
図2に示すように負極集電体8の表裏には負極活物質8が存在し、片面塗布部および両面未塗布部が存在しない構成になっている。
【0049】
ただし、正極1の両面未塗布部(正極タブ)に対向する位置において、負極6に両面未塗布部が存在する構成にすることもできる。その場合、負極集電体7の表裏で塗布部と未塗布部の境界部分の平面的な位置はずらさなくてもよい。ただし、必要に応じて、正極1と同様に、負極集電体7の表裏で境界部分の平面的な位置をずらし、絶縁部材40を設けてもよい。その場合、絶縁部材40の一方の端部40aは、傾斜面7a上に位置することが好ましい。すなわち、塗布部と未塗布部の境界部分を負極集電体8の表面と裏面で平面的に離れさせること、言い換えると、両面塗布部と片面塗布部と両面未塗布部とを、長手方向に並べて配置させる構成と、境界部分に絶縁部材を設ける構成は、正極1のみに採用しても、負極6のみに採用しても、正極1と負極6の両方に採用してもよい。
【0050】
本発明での各部材の厚さや距離などは、特に断りが無い限りは、任意の場所で測定した場合の3点以上の平均値を意味する。
【0051】
正極活物質2および負極活物質7の平坦部2b,7bと傾斜部2a,7aの位置等については、
図2,3に示す構成に限られず様々な変更が可能である。そのような変更例のいくつかを、後述する各実施例において列挙する。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
図4〜8bを参照して説明した製造方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造した 。
【0053】
<正極>
まず、正極活物質としてLiMn
2O
4とLiNi
0.8Co
0.1Al
0.1O
2との混合活物質を用い、導電剤としてカーボンブラック、バインダーとしてPVdFを用い、これらの合剤を有機溶媒中に分散したスラリーを準備した。このスラリーを、
図4に示すように厚さ20μmのアルミニウムを主成分とする正極集電体3の一方の面に間欠的に塗布して乾燥し、厚さ80μmの正極活物質2を形成した。正極活物質2を間欠的に塗布することで、正極活物質2の塗布部と未塗布部が、正極集電体2の長手方向に沿って交互に存在する状態にした。正極集電体3の他方の面には、正極活物質2の塗布部と未塗布部の境界部分4aが、一方の面の境界部分4aから2mm内側にずれるように、厚さ80μmの正極活物質2を形成した。正極活物質2の塗布部は平坦部2bと傾斜部2aを有し、傾斜部2aは、平坦部2bから未塗布部に向かって厚さが減少するように塗布することによって形成された。
【0054】
集電体上への活物質の塗布方法について説明する。活物質を塗布する装置としては、ドクターブレードや、ダイコータや、グラビアコータや、転写方式や蒸着方式などの様々な塗布方法を実施する装置を用いることが可能である。本発明において活物質の塗布端部の位置を制御するためには、ダイコータを用いることが特に好ましい。ダイコータによる活物質の塗布方式としては、大別して、長尺の集電体の長手方向に沿って連続的に活物質を形成する連続塗布方式と、集電体の長手方向に沿って活物質の塗布部と未塗布部が交互に繰り返して形成される間欠塗布方式の2種類がある。
【0055】
図9は、間欠塗布を行うダイコータの構成の一例を示す図である。
図9に示すように、間欠塗布を行うダイコータのスラリー流路には、ダイヘッド12と、ダイヘッド12に連結された塗布弁13と、ポンプ14と、スラリー10を溜めるタンク15を有している。また、タンク15と塗布弁13との間にはリターン弁17を有している。この構成において、少なくとも塗布弁13にはモーター弁を使用するのが好ましい。モーター弁は、スラリーの塗布中でも弁の開閉状態を精度良く変化させることができる。従って、モーター弁からなる塗布弁13をリターン弁17の動作と組み合わせてスラリーの流路等を制御することで、活物質の塗布部と未塗布部の境界部分を所望の形状に形成することが可能である。
【0056】
また、
図10a,10bに模式的に示すダイコータを用いて、連続塗布を行って活物質を形成することもできる。このダイコータのダイヘッド18の吐出口18aの両端部には、吐出口18aの中央部に向かって厚さが減少するテーパー部または段差部18cを有するシム18bが設けられている。このシム18bにより、塗布部の端部に段部または傾斜部が生じるように活物質を形成することができる。
【0057】
このようにして正極集電体3上に正極活物質2を塗布した後に、
図5に示すように境界部分4aを覆うように厚さ30μmのポリプロピレン製の絶縁テープ(絶縁部材)40を貼り付けた。このとき、正極活物質2の一方の面の塗布部(両面塗布部)と未塗布部(片面塗布部)の境界部分4aを覆うように設けられた絶縁テープ40は、端部40aが正極活物質2の傾斜部2a上に位置するように形成した。正極活物質2の他方の面の境界部分4aを覆うように設けられた絶縁テープ40は、端部40aが他方の面の正極活物質2の傾斜部2a上に位置し、一方の面の境界部分4aから内側または外側に1mmずれている他方の面の境界部分4aと正極集電体3の一部を覆うように貼り付けた。そして、
図6a,6bに示すように、切断線90に沿って裁断して個々の正極1を得た。
【0058】
<負極>
負極活物質7として表面を非晶質で被覆した黒鉛を用い、バインダーとしてPVdFを用い、これらの合剤を有機溶媒中に分散したスラリーを準備した。
図7に示すように、スラリーを、負極集電体8である厚さ15μmの銅箔に間欠的に塗布して乾燥し、正極1と同様に負極活物質7の塗布部と、塗布しない未塗布部とを備える負極ロールを作成した。負極活物質7の具体的な塗布方法は、前記した正極活物質2の塗布方法と同様であり、
図9に示すダイコータを用いる間欠塗布であっても、
図10a,10bに示すダイコータを用いる連続塗布であってもよい。
【0059】
負極活物質7は平坦部7bと傾斜部7aとを有し、傾斜部7aは、平坦部7bから外縁部に向かって厚さが小さくなるように塗布することによって形成された。そして、
図8a,8bに示すように、切断線91に沿って裁断して個々の負極6を得た。負極6は、正極タブに対向しない位置に、負極活物質7の未塗布部である負極タブを有し、かつ、正極タブに対向する位置であって両面に負極活物質7が存在する部分7eにおいて負極集電体8が裁断されている。負極活物質7の平坦部7bの厚さは片側55μmであり、負極6の塗布部と未塗布部の境界部分には絶縁部材は設けられていない。
【0060】
<積層型電池の作製>
得られた正極20と負極21とを、厚さ25μmのポリプロピレンからなるセパレータ20を介して積層し、これに負極端子16と正極端子11を取り付け、可撓性フィルム30からなる外装容器に収容することで、厚さ8mmの積層型電池を得た。
【0061】
負極6は、正極タブ(正極1の両面未塗布部)に対向する位置の負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、正極1の一方の面の正極活物質2の傾斜部2aに設けられた絶縁テープ40の端部40aよりも正極活物質2の平坦部2b側に位置するように形成された。ここでは、正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bと、負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、平面的に見て、セパレータ20を介してほぼ一致する部分が生じるように配置した。
【0062】
(実施例2)
活物質であるLiMn
2O
4と、導電剤であるカーボンブラックと、バインダーであるPVdFとを含む合剤を用いて、正極集電体3の片側ごとに厚さ35μmの正極活物質2を形成した。また、負極集電体8の片側ごとに、難黒鉛化炭素からなる厚さ35μmの負極活物質7を形成した。活物質2,7や絶縁部材40の形成位置など、その他の条件は実施例1と同様にし、厚さ3mmの積層型電池を得た。
【0063】
(実施例3)
正極集電体3の正極活物質2上の絶縁部材40の端部40aを、正極集電体3を介して反対側の面に位置する正極活物質2の端部4aから内側または外側に0.3mmずらして配置し、それ以外は実施例1と同様にして積層型電池を得た。得られた積層型電池の厚さは8.1mmであった。
【0064】
(実施例4)
正極集電体3の他方の面の正極活物質2の塗布部と未塗布部の境界部分4aが、一方の面の境界部分4aから1mm内側にずれるように配置し、それ以外は実施例3と同様にして積層型電池を得た。得られた積層型電池の厚さは8.1mmであった。
【0065】
(実施例5)
本実施例では、
図11に示すように、負極6の傾斜部7aの位置が、
図2に示す例とは異なっている。すなわち、負極6における、正極タブ(正極1の両面未塗布部)に対向する位置の負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、正極1の他方の面における正極活物質2の傾斜部2a上の絶縁テープ40の端部40aよりも平坦部2b側であって、かつ正極1の一方の面における正極活物質2の傾斜部2a上の絶縁テープ40の端部40aよりも傾斜部2a側に位置している。それ以外は、実施例1と同様にして積層型電池を得た。
【0066】
(実施例6)
本実施例では、
図12に示すように、負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、負極集電体8の表裏で異なる位置になるように配置し、表裏のそれぞれの変移位置7dが、平面的に見て、その面に直接対向する正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bとそれぞれ一致するように配置した。すなわち、負極集電体8の表面における負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、正極集電体3の裏面における正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bと、平面的に見て一致する位置にあり、負極集電体8の裏面における負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、正極集電体3の表面における正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bと、平面的に見て一致する位置にある。それ以外は、実施例1と同様にして積層型電池を得た。
【0067】
(実施例7)
本実施例は、
図13に示すように、負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dが、負極集電体8の表裏で同じ位置になるように配置し、その変移位置7dが、平面的に見て正極集電体8の表裏両面の正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bと一致するように配置した。すなわち、負極集電体8の表裏両面における負極活物質7の平坦部7bと傾斜部7aとの変移位置7dと、正極集電体3の表裏両面における正極活物質2の平坦部2bと傾斜部2aとの変移位置4bが、平面的に見て全て一致する位置にある。従って、正極集電体3の表裏で正極活物質3の塗布部と未塗布部との境界部分4aがずれていない。それ以外は、実施例1と同様にして積層型電池を得た。
【0068】
(比較例1)
正極活物質2と負極活物質7をそれぞれ厚さが均一な層として形成し、平坦部のみで傾斜部のない構成とした。さらに、正極活物質2の塗布部の端部4aおよび絶縁シート40の端部40aを、正極集電体3の表裏でずらさずに配置した。それ以外は実施例1と同様にして積層型電池を得た。この積層型電池の厚さは8.5mmであった。
【0069】
(比較例2)
正極活物質2と負極活物質7をそれぞれ厚さが均一な層として形成し、平坦部のみで傾斜部のない構成とした。さらに、正極活物質2の塗布部の端部4aおよび絶縁シート40の端部40aを、正極集電体3の表裏でずらさずに配置した。それ以外は実施例2と同様にして積層型電池を得た。この積層型電池の厚さは3.4mmであった。
【0070】
<評価>
このようにして得た積層型電池の放電容量やサイクル特性を、各水準ともに10pずつ評価したところ、実施例1〜7の積層型電池は非常に安定した放電容量とサイクル特性を得られることが確認され、比較例1〜2の電池は実施例1〜7の電池に比べて放電容量やサイクル特性が不安定であった。これは、積層型電池において、絶縁部材40が位置する部分の厚さがそれ以外の部分に比べて大きくなることを抑制したことで、積層型電池を均等に加圧しながら保持することが可能になり、電池特性が安定したと考えられる。
【0071】
なお、本発明において、負極活物質7の傾斜部7aの傾き角は必ずしも一定である必要はなく、対向する正極1との容量バランスを考慮して負極6の容量が正極1よりも小さくならないようにすれば、任意に設定することができる。
【0072】
以上の各実施例では、正極活物質2および負極活物質7は間欠的な塗布(間欠塗布)により形成しているが、
図14〜16bに示すように、複数の電極形成部分に亘って隙間のない活物質層を形成するような連続的な塗布(連続塗布)によって形成してもよい。活物質を連続塗布で形成する場合には、
図16aの切断線90に沿って裁断する前に
図17に示すように電極ロールとして保管でき、その場合には、絶縁部材40が配置された部分で極端に歪むことを抑制できるため、電極としての品質を向上させることができる。
【0073】
本発明はリチウムイオン二次電池の電極の製造および当該電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造に有用であるが、リチウムイオン電池以外の二次電池に適用しても有効である。
【0074】
本出願は、2013年7月31日に出願された日本特許出願2013−159372号を基礎とする優先権を主張し、日本特許出願2013−159372号の開示の全てをここに取り込む。