(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381053
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】内燃機関のピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20180820BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20180820BHJP
F16J 1/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
F02F3/00 R
F02F3/00 301
F02F3/26 C
F16J1/00
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-517266(P2016-517266)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公表番号】特表2016-520759(P2016-520759A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】EP2014061441
(87)【国際公開番号】WO2014195288
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2016年1月20日
(31)【優先権主張番号】102013009415.1
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タラット・シェール
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト・ペルツェル
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−132536(JP,A)
【文献】
特開2007−177749(JP,A)
【文献】
米国特許第04083292(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00−3/28
F01M 1/00−9/12
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶内燃機関のシリンダのためのピストンであって、定義された外径を有するピストン本体(21)を有し、該ピストン本体は、燃焼室を部分的に画定する、軸方向において前に位置するピストンヘッド(22)、および軸方向において後ろに位置するピストン下部分を有する、ピストンにおいて、前記ピストンヘッド(22)が、前記ピストン本体(21)の半径方向外側の縁において、前記ピストン本体の壁厚の減少とともに、つまり、ピストン下部分への方向において、周方向において取り囲む材料リセス(30)が形成されるとともに軸方向において後ろに向かって減少されていること、かつ軸方向に見て一番前に位置するピストンリング収容溝(25)よりも軸方向において前の部分は、壁厚が減少されていないこと、及び、前記ピストンの外径が少なくとも160mmであることを特徴とする、ピストン。
【請求項2】
前記材料リセス(30)が、前記ピストン本体(21)の半径方向外側の縁から、第1の寸法(Y)だけ半径方向内側に延在していることを特徴とする、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記第1の寸法(Y)が、前記ピストン本体(21)の外径の少なくとも2%であることを特徴とする、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記第1の寸法(Y)が、前記ピストン本体(21)の外径の2%から10%であることを特徴とする、請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
前記材料リセス(30)が、前記ピストン本体(21)の、前記軸方向において前に位置するピストンヘッド(22)の、減少されていない部分から、第2の寸法(X)だけ軸方向において、後ろのピストン下部分に向かって延在していることを特徴とする、請求項2に記載のピストン。
【請求項6】
前記第2の寸法(X)が、前記ピストン本体(21)の外径の少なくとも2%であることを特徴とする、請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記第2の寸法(X)が、前記ピストン本体(21)の外径の2%から6%であることを特徴とする、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
ピストンが、ピストン上部分及びピストン下部分を持つ組立ピストンとして構成されており、前記ピストンヘッド(22)を有する前記ピストン本体(21)は、ピストン上部分であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項9】
ピストンが、モノブロックピストンとして構成されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項10】
前記ピストンヘッド(22)が、半径方向内側の部分において燃焼室凹部を画定することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のおいて書きに記載の内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンは、ピストン上部分及びピストン下部分が組み合わされたいわゆる組立ピストンとして、もしくは、いわゆるモノブロックピストンとして実施することができる。特許文献1及び特許文献2より、ピストン上部分及びピストン下部分が組み合わされた組立ピストンが知られており、ピストン上部分は、軸方向において前に位置するピストンヘッド及び円筒状の外壁を有している。ピストンヘッドには、ピストンヘッドの半径方向内側の領域内にいわゆる燃焼室凹部を形成することができる。円筒状の外壁は、ピストンリングを収容するための溝を有している。内燃機関のそのようなピストンは、内燃機関のシリンダのシリンダライナ内に案内されており、特許文献3には、いわゆるフレームリングが割り当てられた、そのようなシリンダライナの基本的な構成が示されている。ピストンヘッドとピストンリング収容溝との間に延在するピストンの部分は、シリンダライナのフレームリングの領域内に案内されている。
【0003】
図1には、従来技術より知られた内燃機関のピストン10、及び、シリンダライナ11に割り当てられたフレームリング12が図示されており、ピストン10は軸方向において前に位置するピストンヘッド13を有しており、このピストンヘッド13はそれぞれのシリンダの燃焼室14を部分的に画定しており、また、ピストン10の円筒状外壁15には、図示されないピストンリングを収容するための溝16が形成されている。
図1に図示されたピストン10はピストン10を冷却するための冷却室17を有している。
【0004】
図1から理解できるように、ピストン10の、軸方向において前に位置する部分18は、ピストンヘッド13と、軸方向において一番前にあるピストンリング収容溝16と、の間に延在しており、この部分18は、シリンダライナ11のフレームリング12内に案内されており、ピストンヘッド13と一番前の溝16との間の距離Zは、トップランド高さと呼ばれる。
【0005】
従来技術においては、フレームリング12に案内された、ピストン10の前の部分18とフレームリング12との間にいわゆる空所19が形成され、この中に、燃焼室14内での燃焼において燃焼されなかった、又は、完全に燃焼されなかった燃料がたまるという問題がある。それにより内燃機関の効率が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許第3518721号明細書
【特許文献2】独国特許第102005013087号明細書
【特許文献3】独国特許第10121852号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに鑑みて、本発明には、内燃機関の新規のピストンを提供するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載のピストンにより解決される。本発明によると、ピストンヘッドは、ピストン本体の半径方向外側の縁においてピストンヘッド壁厚の減少とともに軸方向において後ろに向かって延びている。
【0009】
半径方向外側の縁においてピストンヘッドが軸方向において後ろに向かって延びていることにより、多くの長所を実現することができる。それによりフレームリングとピストンとの間に広がる空所を減少させることができる。それにより内燃機関の効率を高めることができる。また、半径方向外側の縁の領域においてピストンヘッドが軸方向において後ろに向かって延びていることにより、この領域におけるピストン本体の壁厚が減少し、それにより、この領域においてピストンを効率的に冷却することができる。ここでホットスポットとも呼ばれるピストンの局所的な過熱を回避することができる。
【0010】
本発明の好適な発展形によると、ピストンヘッドはピストン本体の半径方向外側の縁において、周方向において取り囲む材料リセスを形成しながら、軸方向において後ろに向かって延びている。ピストンヘッドが半径方向外側の縁において、周方向において取り囲む材料リセスを形成しながら軸方向において後ろに向かって延びている場合、上記の長所は特に顕著となる。その場合、ピストンヘッドの外側縁からの熱を効率的に取り除き、また、ピストンとフレームリングとの間の空所を、特に効率的に減少させることができる。
【0011】
本発明のさらなる好適な発展形によると、材料リセスは、ピストン本体の半径方向外側の縁から第1寸法Yだけ半径方向内側に延在する。材料リセスはまた、ピストン本体の前のピストンヘッドから、軸方向において第2寸法Xだけ後方に延在する。材料リセスがこのように構成されていることにより、ピストンが特に効率的に冷却され、また、空所も特に効率的に減少する。
【0012】
本発明の望ましい発展形は、従属請求項及び以下の詳細な説明から理解できる。本発明の実施例について図を用いて詳述するが、これに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】シリンダライナに割り当てられたフレームリングを備える、従来技術より知られるピストンの断面図である。
【
図2】シリンダライナに割り当てられたフレームリングを備える、本発明の第1のピストンの断面図である。
【
図4】シリンダライナに割り当てられたフレームリングを備える、本発明の第2のピストンの断面図である。
【
図5】シリンダライナに割り当てられたフレームリングを備える、本発明の第3のピストンの断面図である。
【
図6】シリンダライナに割り当てられたフレームリングを備える、本発明のさらなるピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は内燃機関、とりわけディーゼルエンジン、ガスエンジン、又はデュアルフューエル・エンジンとして実施された、たとえば船舶ディーゼル内燃機関などの内燃機関のピストンに関する。そのようなピストンはプランジャピストンとも呼ばれる。
【0015】
図2及び
図3には、本発明の第1の実施例による本発明のピストン20の部分図が図示されている。ピストン20は、ピストン上部分とピストン下部分とが組み合わされた、もしくは組立てられたピストン、又は代替的にいわゆるモノブロックピストンとすることができる。
【0016】
組立ピストンである場合、
図2及び
図3に図示されたピストン本体21は、組立ピストン20のピストン上部分である。
【0017】
ピストン20のピストン本体21は、組立ピストンにおいてはそのピストンのピストン上部分であり、軸方向に見て前にピストンヘッド22を有しており、これは、内燃機関のシリンダの燃焼室23を部分的に画定している。
【0018】
ピストン本体21の円筒状外壁24には、図示されないピストンリング収容溝25が形成されている。ピストン20は、ピストンを油冷却するための冷却室26を有している。
【0019】
ピストン20のピストン本体21、組立ピストンにおいてはそのピストンのピストン上部分は、ピストンヘッド22と、軸方向に見て一番前に位置するピストンリング収容溝25との間に延在する、軸方向において前の部分27と、を有しており、これは、シリンダライナ29のフレームリング28内に案内されている。
【0020】
本発明において、ピストンヘッド22は、ピストン本体21の半径方向外側の縁もしくは円筒状外壁24において、ピストン本体21の壁厚が減少するとともに、望ましくは周方向において取り囲む材料リセス30が形成されるとともに、軸方向において後ろに向かって延びている。
【0021】
それにより、
図1と
図2との比較からわかるように、ピストン本体21の壁厚がピストンヘッド22の外側縁において減少し、それにより一方では、ピストン20がこの部分において効率的に冷却でき、また、他方では、ピストン20とフレームリング28との間の空所31が減少する。それにより、ピストンの局所的な過熱を回避して、内燃機関の効率を高めることができる。
【0022】
図3に図示されるように、材料リセス30は、ピストン本体21の外側縁もしくは円筒状外壁24から始まって、第1の寸法Yだけ半径方向内側に延在しており、この材料リセス30はさらに、ピストンヘッド22の軸方向において前にある、軸方向において後ろに向かって延びていない部分から始まって、軸方向において後ろに第2の寸法Xだけ延在している。これら2つの寸法X及びYは同一とすることもできるが、これらの寸法X及びYは互いに異なることが望ましい。
【0023】
半径方向に延びる第1の寸法Yは、望ましくは、ピストン20もしくはピストン本体21の外径の少なくとも2%であり、望ましくは、この寸法Yはこの外径の2%から10%である。
【0024】
軸方向に延びる第2の寸法Xも同様に、ピストン20もしくはピストン本体21の外径の少なくとも2%であり、望ましくはこの第2の寸法Xは、この外径の2%から6%である。
【0025】
ピストンヘッド22の外側縁における材料リセス30は、ピストンヘッド22の半径方向内側の部分に追加的に形成できる燃焼室凹部とは異なる。
【0026】
本発明は望ましくは大型エンジン、例えば、ディーゼルエンジン又はガスエンジン又はデュアルフューエル・エンジンとして実施される船舶エンジンで、そのピストン20の外径が少なくとも160mmであるものに用いられる。
【0027】
図2から
図6には、ピストンヘッドの外側縁における材料リセス30では、ピストンヘッド22の輪郭はさまざまであることが示されている。
図3においてピストンヘッド22は材料リセス30の領域において湾曲した輪郭になっており、この湾曲は変曲点32において変化している。
図6においてもピストンヘッド22は材料リセス30の領域において湾曲した輪郭になっているが、湾曲度は異なる。
図4では、ピストンヘッド22は、材料リセス30の領域においてランプ状の輪郭をしている。
図5では、ランプ状の輪郭が半径方向内側において丸みを形成しながら、軸方向において後ろに向かって延びていないピストンヘッド22の部分に移行している。
【0028】
したがって、本発明においては、内燃機関のピストンのピストン本体の軸方向において前に位置するピストンヘッドが、半径方向外側の縁において、ピストン本体の壁厚が減少して材料リセスが形成されるとともに、この領域において軸方向において後ろに向かって延びており、それにより、ピストンがこの領域において効率的に冷却され、それにより、内燃機関の効率を高めながら、いわゆる空所を減少させることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 ピストン
11 シリンダライナ
12 フレームリング
13 ピストンヘッド
14 燃焼室
15 外壁
16 溝
17 冷却室
18 部分
19 空所
20 ピストン
21 ピストン本体/ピストン上部分
22 ピストンヘッド
23 燃焼室
24 外壁
25 溝
26 冷却室
27 部分
28 フレームリング
29 シリンダライナ
30 材料リセス
31 空所
32 変曲点