特許第6381073号(P6381073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381073
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】電動伸縮装置の制御装置と方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20180820BHJP
   H02P 6/24 20060101ALI20180820BHJP
   B65G 63/00 20060101ALI20180820BHJP
   B65G 65/06 20060101ALI20180820BHJP
   B65G 65/20 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   H02P27/06
   H02P6/24
   B65G63/00 C
   B65G65/06
   B65G65/20
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-245995(P2014-245995)
(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-111786(P2016-111786A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】野町 政良
(72)【発明者】
【氏名】辻 直人
【審査官】 樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−84357(JP,A)
【文献】 特開平6−285926(JP,A)
【文献】 米国特許第5362222(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 6/24
B65G 63/00
B65G 65/06
B65G 65/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御装置であって、
前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部と、
前記モータが発生するトルクの値を検出するトルクセンサと、を有し、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御と荷重解放制御を実行可能であり、
ゼロ速度制御では、供給電力制御部は、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
ゼロ速度制御を実行している時に、トルクセンサが検出したトルクの値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部は、荷重解放制御を行い、
荷重解放制御では、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが前記トルク上限値以下になるように前記モータへ供給する電力を制御し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御装置。
【請求項2】
モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御装置であって、
前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を有し、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行可能であり、
ゼロ速度制御では、供給電力制御部は、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
ゼロ速度制御中にモータへ供給する最大電流値が予め設定されており、予め設定された最大電流値の電流が前記モータへ供給されることにより前記モータが発生するトルクを最大電流時トルクとして、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構に作用した過大荷重発生時には、供給電力制御部は、最大電流値の電流をモータへ供給し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御装置。
【請求項3】
供給電力制御部には、前記トルクセンサが組み込まれており、前記トルクセンサは、前記モータに発生させるトルクの制御値を、前記モータが発生するトルクの値として検出する、ことを特徴とする請求項1に記載の電動伸縮装置の制御装置。
【請求項4】
荷重解放制御では、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが、トルク上限値以下でありゼロより大きい荷重解放用トルク値となるように、供給電力制御部は、前記モータへ供給する電力を制御する、ことを特徴とする請求項1または3に記載の電動伸縮装置の制御装置。
【請求項5】
前記伸縮機構の伸縮位置もしくは伸縮速度、モータの出力シャフトの回転角もしくは回転速度、または、前記出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度を検出する検出器を有し、
荷重解放制御において、供給電力制御部は、前記検出器の検出値に基づいて、伸縮機構の伸縮方向が逆転したと判断したら、または、伸縮機構の伸縮が停止したと判断したら、ゼロ速度制御を再開する、ことを特徴とする請求項1、3または4に記載の電動伸縮装置の制御装置。
【請求項6】
前記伸縮機構の伸縮位置もしくは伸縮速度、モータの出力シャフトの回転角もしくは回転速度、または、前記出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度を検出する検出器を有し、
荷重解放制御では、供給電力制御部は、
伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが、一定の荷重解放用トルク値となるように、前記モータへ供給する電力を制御しながら、前記検出器の検出値に基づいて、伸縮機構の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったかどうかを判断し、
この判断の結果が肯定である場合には、ゼロ速度制御を再開する、ことを特徴とする請求項4に記載の電動伸縮装置の制御装置。
【請求項7】
前記伸縮機構は、バラ物を搬送するバラ物搬送装置に設けられており、
バラ物搬送装置は、第1の水平軸まわりに起伏可能にフレームに連結されているブームとを備え、
前記ブームは、前記フレームとの連結位置から、その先端部まで延びており、
前記ブームには、バラ物を搬送するコンベアが前記ブームに沿って設けられ、前記ブームの先端部において、バラ物を採取し、または、バラ物を落とすようになっており、
伸縮機構の一端部は、第1の水平軸と平行な第2の水平軸まわりに回転自在にフレームに連結され、伸縮機構の他端部は、第1の水平軸と平行な第3の水平軸まわりに回転自在に前記ブームに連結されており、
前記伸縮機構の伸縮により、前記ブームが前記第1の水平軸まわりに起伏する、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動伸縮装置の制御装置。
【請求項8】
モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御方法であって、
(A)前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を設け、供給電力制御部は、前記モータに発生させるトルクの制御値を検出する機能を有し、供給電力制御部は、ゼロ速度制御と荷重解放制御を実行可能であり、
(B)ゼロ速度制御では、供給電力制御部により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
(C)供給電力制御部によりゼロ速度制御を実行している時に、供給電力制御部が検出したトルクの制御値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部により、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが前記トルク上限値以下になるように前記モータへ供給する電力を制御して、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御方法。
【請求項9】
モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御方法であって、
(A)前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を設け、供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行可能であり、
(B)ゼロ速度制御では、供給電力制御部により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
(C)供給電力制御部に予め設定された最大電流値の電流が前記モータへ供給されることにより前記モータが発生するトルクを最大電流時トルクとして、供給電力制御部によりゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構に作用した過大荷重発生時には、供給電力制御部は、最大電流値の電流を前記モータへ供給し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータのトルクにより伸縮する伸縮機構は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1では、伸縮機構は、モータの出力シャフトからトルクが伝達される入力シャフトと、入力シャフトの回転をロッド部の伸縮運動に変換するボールねじとを有する。
【0003】
図1に示すように、特許文献1の伸縮機構31は、リクレーマに設けられている。リクレーマは、土台2と、鉛直軸C0まわりに土台2に対して旋回するフレーム3と、第1の水平軸C1まわりに起伏自在にフレーム3に取り付けられたブーム5と、ブーム5の先端部に設けられたバケットホイール9とを備える。伸縮機構31の一端部は、第2の水平軸C2まわりに回転自在にフレーム3に連結され、伸縮機構31の他端部は、第3の水平軸C3まわりに回転自在にブーム5に連結されている。この構成で、伸縮機構31が伸縮することにより、ブーム5が起伏する。
【0004】
ブーム5の先端部に取り付けられたバケットホイール9は、鉄鉱石や石炭や砂利などのバラ物を積み上げた積山1からバラ物を採取する。バケットホイール9により採取されたバラ物は、ブーム5に設けられたコンベア7によりブーム5の基端側(第1の水平軸C1側)へ搬送される。バケットホイール9がバラ物を採取している時に、バラ物が崩壊したり、新たなバラ物が積山1に下ろされると、そのバラ物により、バケットホイール9に過大な荷重が作用することがある。この過大荷重は、伸縮機構31にも作用するので、許容最大値を超える過大荷重により伸縮機構31が損傷する可能性がある。
【0005】
このような過大荷重から伸縮機構を保護するために、特許文献1では、機械式ブレーキを設けている。機械式ブレーキは、伸縮機構を駆動するモータの出力シャフトと、モータの出力シャフトからのトルクをボールねじに伝達する入力シャフトとを摩擦力により接続している。過大な荷重が伸縮機構のロッド部に作用すると、過大な荷重によるトルクが機械式ブレーキによる摩擦力を超えて、機械式ブレーキによる出力シャフトと入力シャフトとの接続が解除される。その結果、過大荷重によりロッド部が収縮(後退)し始めて、過大荷重が解放される。これにより、過大荷重による伸縮機構の損傷を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−84357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、伸縮機構に作用する荷重が許容最大値を超えた時点で、機械式ブレーキによる出力シャフトと入力シャフトとの接続が解除されるように機械式ブレーキの摩擦力を正確に設定することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述した機械式ブレーキを用いることなく、電動伸縮装置の伸縮機構に作用する過大荷重から伸縮機構を保護でき、かつ、伸縮機構に作用している荷重あるいは該荷重に1対1で対応する力が、許容最大値を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、第1の本発明によると、モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御装置であって、
前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部と、
前記モータが発生するトルクの値を検出するトルクセンサと、を有し、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御と荷重解放制御を実行可能であり、
ゼロ速度制御では、供給電力制御部は、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
ゼロ速度制御を実行している時に、トルクセンサが検出したトルクの値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部は、荷重解放制御を行い、
荷重解放制御では、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが前記トルク上限値以下になるように前記モータへ供給する電力を制御し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御装置が提供される。
【0010】
第1の本発明の制御装置は、好ましくは、以下のように構成される。
【0011】
供給電力制御部には、前記トルクセンサが組み込まれており、前記トルクセンサは、前記モータに発生させるトルクの制御値を、前記モータが発生するトルクの値として検出する。
【0012】
荷重解放制御では、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが、トルク上限値以下でありゼロより大きい荷重解放用トルク値となるように、供給電力制御部は、前記モータへ供給する電力を制御する。
【0013】
このように、荷重解放制御において、伸縮機構に作用する過大な荷重に抗してモータがトルクを発生するので、該トルクにより該荷重の一部が支持される。したがって、過大な荷重により伸縮機構が伸長または収縮する速さを下げることができる。したがって、伸縮機構が伸長しきった時、または、伸縮機構が収縮しきった時に生じる衝撃を緩和できる。これにより、該衝撃から伸縮機構を保護できる。
【0014】
前記伸縮機構の伸縮位置もしくは伸縮速度、モータの出力シャフトの回転角もしくは回転速度、または、前記出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度を検出する検出器を有し、
荷重解放制御において、供給電力制御部は、前記検出器の検出値に基づいて、伸縮機構の伸縮方向が逆転したと判断したら、または、伸縮機構の伸縮が停止したと判断したら、ゼロ速度制御を再開する。
【0015】
このように、荷重解放制御において、伸縮機構の伸縮方向が逆転した場合、または、伸縮機構の伸縮が停止した場合には、荷重解放制御により発生している、トルク上限値以下のモータトルクは、伸縮機構に作用している荷重に勝っているか、この荷重と同等であることを意味する。したがって、この状態では、伸縮機構には、過大な荷重は作用していないと判断できるので、ゼロ速度制御を再開しても、モータのトルクはトルク上限値を超えない。そこで、伸縮機構の伸縮方向が逆転したと判断したら、ゼロ速度制御を再開することにより、伸縮機構を損傷させることなく伸縮機構の伸縮運動を停止できる。
【0016】
代わりに、荷重解放制御では、供給電力制御部は、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生するモータのトルクが、一定の荷重解放用トルク値となるように、前記モータへ供給する電力を制御しながら、前記検出器の検出値に基づいて、伸縮機構の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったかどうかを判断し、供給電力制御部は、この判断の結果が肯定である場合には、ゼロ速度制御を再開してもよい。
【0017】
荷重解放用トルク値を一定にして荷重解放制御を行っている場合には、伸縮機構の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったことは、モータのトルクが伸縮機構に作用する荷重に勝っていることを意味する。したがって、この状態では、伸縮機構には、過大荷重は作用していないので、ゼロ速度制御を再開しても、モータのトルクはトルク上限値を超えない。そこで、伸縮機構の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったと判断したら、ゼロ速度制御を再開することにより、伸縮機構を損傷させることなく伸縮機構の伸縮運動を停止させることができる。
【0018】
前記伸縮機構は、バラ物を搬送するバラ物搬送装置に設けられており、
バラ物搬送装置は、第1の水平軸まわりに起伏可能にフレームに連結されているブームとを備え、
前記ブームは、前記フレームとの連結位置から、その先端部まで延びており、
前記ブームには、バラ物を搬送するコンベアが前記ブームに沿って設けられ、前記ブームの先端部において、バラ物を採取し、または、バラ物を落とすようになっており、
伸縮機構の一端部は、第1の水平軸と平行な第2の水平軸まわりに回転自在にフレームに連結され、伸縮機構の他端部は、第1の水平軸と平行な第3の水平軸まわりに回転自在に前記ブームに連結されており、
前記伸縮機構の伸縮により、前記ブームが前記第1の水平軸まわりに起伏する。
【0019】
また、上述の目的を達成するため、第1の本発明によると、モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御方法であって、
(A)前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を設け、供給電力制御部は、前記モータに発生させるトルクの制御値を検出する機能を有し、供給電力制御部は、ゼロ速度制御と荷重解放制御を実行可能であり、
(B)ゼロ速度制御では、供給電力制御部により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
(C)供給電力制御部によりゼロ速度制御を実行している時に、供給電力制御部が検出したトルクの制御値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部により、伸縮機構に作用する荷重に抗して発生する前記モータのトルクが前記トルク上限値以下になるように前記モータへ供給する電力を制御して、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御方法が提供される。
【0020】
また、上述の目的を達成するため、第2の本発明によると、モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御装置であって、
前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を有し、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行可能であり、
ゼロ速度制御では、供給電力制御部は、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
ゼロ速度制御中にモータへ供給する最大電流値が予め設定されており、予め設定された最大電流値の電流が前記モータへ供給されることにより前記モータが発生するトルクを最大電流時トルクとして、
供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構に作用した過大荷重発生時には、供給電力制御部は、最大電流値の電流をモータへ供給し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御装置が提供される。
【0021】
さらに、上述の目的を達成するため、第2の本発明によると、モータと、モータが発生するトルクにより伸縮する伸縮機構とを備える電動伸縮装置の制御方法であって、
(A)前記モータへ供給する電力を制御する供給電力制御部を設け、供給電力制御部は、ゼロ速度制御を実行可能であり、
(B)ゼロ速度制御では、供給電力制御部により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するように、前記モータへ供給する電力を制御し、
(C)供給電力制御部に予め設定された最大電流値の電流が前記モータへ供給されることにより前記モータが発生するトルクを最大電流時トルクとして、供給電力制御部によりゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構に作用した過大荷重発生時には、供給電力制御部は、最大電流値の電流を前記モータへ供給し、これにより、前記荷重により伸縮機構が伸長または収縮するようにする、ことを特徴とする電動伸縮装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上述した第1の本発明によると、次のように、機械式ブレーキを用いることなく過大荷重から伸縮機構を保護できる。伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するゼロ速度制御の実行中に、伸縮機構に過大荷重が作用すると、モータのトルク値がトルク上限値を超える。したがって、モータのトルク値がトルク上限値を超えたことを検出したことは、伸縮機構に過大荷重が作用したことを検出したことに等しい。そこで、ゼロ速度制御においてモータのトルク値がトルク上限値を超えたことを検出した時に、供給電力制御部は荷重解放制御を行うことにより、過大荷重を解放して過大荷重から伸縮機構を保護できる。この方法では、荷重解放制御により過大荷重から伸縮機構を保護するので、機械式ブレーキは不要である。
【0023】
また、上述した第1の本発明によると、ゼロ速度制御により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するので、伸縮機構の伸縮を停止させるブレーキを用いることなく、伸縮機構の伸縮量を一定に維持できる。
【0024】
さらに、上述した第1の本発明によると、次のように、伸縮機構に作用する荷重が、伸縮機構の許容最大値を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できる。ゼロ速度制御している時のモータトルクは、伸縮機構に作用している荷重と1対1で対応する。ゼロ速度制御においては、伸縮機構の荷重が、モータトルクにより支持されるようになるからである。例えば、モータの出力シャフトの回転がボールねじにより伸縮機構の伸縮運動に変換される場合には、ボールねじの効率やリードと伸縮摩擦に基づいてモータトルクを伸縮機構の荷重に変換できる。したがって、伸縮機構に作用する荷重の許容最大値を定め、定めた許容最大値から、許容最大値に1対1で対応するトルク上限値を算出する。モータトルクが、このように算出したトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部が、荷重解放制御を行う。これにより、伸縮機構に作用する荷重が、その許容最大値に1対1で対応するトルク上限値を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できる。
【0025】
あるいは、上述した第1の本発明によると、次のように、伸縮機構に作用する荷重(以下、単に伸縮機構の荷重ともいう)に1対1で対応する力(モータトルク)が、その許容最大値を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できる。ゼロ速度制御している時のモータトルクは、伸縮機構の荷重に1対1で対応するようになる。そこで、ゼロ速度制御時において伸縮機構の荷重に1対1で対応するようになるモータトルクのトルク上限値(トルクの許容最大値)を定める。ゼロ速度制御時において、モータトルクが、定めたトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部が、荷重解放制御を行う。これにより、ゼロ速度制御において伸縮機構の荷重に1対1で対応ようになるモータトルクが、定めたトルク上限値(トルクの許容最大値)を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できる。
【0026】
上述した第2の本発明によると、次のように、機械式ブレーキを用いることなく過大荷重から伸縮機構を保護できる。ゼロ速度制御中にモータへ供給する最大電流値を予め設定しておく。ゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構に作用した場合には、供給電力制御部は、最大電流値の電流をモータへ供給する。これにより、最大電流時トルクに対応する力を超える分の荷重が解放されて、過大荷重から伸縮機構を保護できる。この方法では、最大電流値の設定により過大荷重から伸縮機構を保護するので、機械式ブレーキやトルクセンサが不要である。
【0027】
また、上述した第2の本発明によると、ゼロ速度制御により、伸縮機構に作用している荷重に抗して伸縮機構の伸縮速度をゼロに維持するので、伸縮機構の伸縮を停止させるブレーキを用いることなく、伸縮機構の伸縮量を一定に維持できる。
【0028】
さらに、上述した第2の本発明によると、伸縮機構に作用している荷重が、最大電流時トルクに対応する力を超えた時点で、正確に、その荷重を解放できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】伸縮機構が設けられたリクレーマを示す。
図2】本発明の対象となり得るバラ物搬送装置を示す。
図3】本発明の第1実施形態による電動伸縮装置の制御装置のブロック図である。
図4】複数の電動伸縮装置を制御するための構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態による電動伸縮装置の制御装置の他の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0031】
図2は、本発明の対象となり得るバラ物搬送装置20を示す。図2(A)は、側面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線矢視図である。
【0032】
バラ物搬送装置20は、土台2と、土台2に対して鉛直軸C0まわりに旋回可能なフレーム3と、第1の水平軸C1まわりに起伏(回転)可能にフレーム3に連結されているブーム5とを備える。ブーム5は、フレーム3との連結位置(すなわち、第1の水平軸C1)から、その先端部まで延びている。ブーム5には、鉄鉱石や石炭や砂利などのバラ物を搬送するコンベア7がブーム5に沿って設けられている。ブーム5の先端部において、バラ物を採取し、または、バラ物を落とすようになっている。図2では、バラ物搬送装置20は、リクレーマであり、ブーム5の先端部には、バケットホイール9が設けられている。バケットホイール9は、バラ物が積まれてなる積山1からバラ物を採取する。バケットホイール9に採取されたバラ物は、コンベア7により、ブーム5とフレーム3との連結位置側へ搬送される。なお、ブーム5の他端部には、カウンターウェイト6が設けられている。
【0033】
また、バラ物搬送装置20は、第1の水平軸C1まわりにブーム5を起伏させる電動伸縮装置10を備える。電動伸縮装置10は、モータ11と、モータ11が発生するトルクにより伸縮する伸縮機構13とを備える。伸縮機構13の一端部は、第1の水平軸C1と平行な第2の水平軸C2まわりに回転自在にフレーム3に連結され、伸縮機構13の他端部は、第1の水平軸C1と平行な第3の水平軸C3まわりに回転自在にブーム5に連結されている。伸縮機構13の伸縮により、ブーム5が第1の水平軸C1まわりに起伏する。好ましくは、図2(B)に示すように、複数の(例えば、2つの)電動伸縮装置10が設けられる。この場合、複数の伸縮機構13は、互いに同軸の第2の水平軸C2まわりに回転自在に一端部がフレーム3に連結され、互いに同軸の第3の水平軸C3まわりに回転自在に他端部がブーム5に連結されている。図2(A)では、伸縮機構13は、第1の水平軸C1よりもカウンターウェイト6側に設けられているが、図1の場合のように、伸縮機構13は、第1の水平軸C1よりもバケットホイール9側に設けられていてもよい。
【0034】
伸縮機構13は、本実施形態では、図示しないボールねじにより、モータ11の出力シャフトの回転を伸縮機構13のロッド部13aの伸縮運動に変換するように構成されている。ただし、伸縮機構13は、モータ11の出力シャフトの回転を直線運動(すなわち、伸縮機構13の伸縮運動)に変換するように構成されていれば、他の構成を有していてもよい。
【0035】
図2のバラ物搬送装置20において、ブーム5に過大な荷重が作用することにより、この荷重が伸縮機構13にも作用する。例えば、バケットホイール9により、積山1からバラ物を採取している時に、積山1がバケットホイール9上に崩れた場合には、バケットホイール9上に崩れてきたバラ物による過大な荷重が、バケットホイール9とブーム5を介して伸縮機構13に作用する。別の例では、ブーム5(特に、ブーム5の先端部)と他の構造物との衝突により、過大な荷重が伸縮機構13に作用する。
【0036】
[第1実施形態]
このような過大荷重から伸縮機構13を保護するために、本発明の第1実施形態による電動伸縮装置10の制御装置30は、以下で説明するように構成されている。図3は、制御装置30の構成を示すブロック図である。
【0037】
制御装置30は、供給電力制御部15と検出器17とトルクセンサ19とを有する。
【0038】
供給電力制御部15は、モータ11へ供給する電力を制御する。第1実施形態では、供給電力制御部15は、直流電力供給部14からの直流電力を交流電力に変換してモータ11へ供給するインバータ15aと、インバータ15aを制御することによりインバータ15aがモータ11に供給する交流電力を制御するインバータ制御部15bとを有する。なお、インバータ制御部15bは、インバータ15aがモータ11に供給する交流電力の電圧と周波数の一方(例えば、電圧)または両方を制御する。直流電力供給部14は、第1実施形態では、コンバータである。このコンバータは、図3では、インバータ15aと別に配置されているが、インバータ15aに一体化されていてもよい。
【0039】
検出器17は、第1実施形態では、伸縮機構13の伸縮位置もしくは伸縮速度を検出する。検出器17は、例えば、モータ11の回転角または回転速度を検出するロータリーエンコーダと、検出した回転角または回転速度から伸縮機構13の伸縮位置もしくは伸縮速度を算出する演算部とを有する。ただし、検出器17は、他の方法で伸縮機構13の伸縮位置もしくは伸縮速度を検出するように構成されていてもよい。
【0040】
トルクセンサ19は、モータ11が発生するトルクの値を検出する。第1実施形態では、トルクセンサ19は、図3のように、供給電力制御部15(例えば、インバータ15a)に組み込まれている。第1実施形態では、トルクセンサ19は、モータ11に発生させるトルクの値(すなわち、トルクの制御値)を、モータ11が発生するトルクの値として検出する。言い換えると、供給電力制御部15は、モータ11に発生させるトルクの制御値を検出する機能(トルクセンサ19による機能)を有する。したがって、トルクセンサ19を別途設けることが不要となる。なお、一例では、トルクセンサ19は、インバータ制御部15bからインバータ15aへ出力する制御信号(モータ11への交流電力の周波数や電圧を指令するための信号)に基づいて、上述したトルクの制御値を検出する。この制御信号は、例えば、インバータ15aを構成する各トランジスタへのPWM信号であってよい。なお、トルクセンサ19は、他の方法で、上述したトルクの制御値を検出してもよい。
【0041】
ただし、本発明によると、トルクセンサ19は、モータ11が発生するトルクの値を検出できれば、上記に限定されない。例えば、トルクセンサ19は、供給電力制御部15に組み込まれていなくてもよい。
【0042】
次に、制御装置30による電動伸縮装置10の制御方法を説明する。供給電力制御部15は、ゼロ速度制御と荷重解放制御を実行可能である。
【0043】
ゼロ速度制御では、供給電力制御部15は、検出器17の検出値(検出した伸縮位置もしくは伸縮速度。以下同様)に基づいて、伸縮機構13に作用している荷重に抗して伸縮機構13の伸縮速度をゼロに維持するように、モータ11へ供給する電力を制御する。供給電力制御部15は、ゼロ速度制御を行うことにより、第1の水平軸C1まわりのブーム5の起伏が停止した状態を維持する。したがって、伸縮機構13の伸縮を停止させるブレーキを用いることなく、ブーム5の起伏位置を一定に維持できる。
なお、供給電力制御部15は、ブーム5の起伏を停止する旨の停止指令を受けることにより、ゼロ速度制御を開始する。この停止指令は、例えば、人が図示しない操作装置を操作することによりインバータ制御部15bへ入力され、または、図示しない上位制御器からインバータ制御部15bへ入力される。この時、伸縮機構13のストローク(伸縮長さ)の指定値が定められてインバータ制御部15bに設定されている場合、または、伸縮機構13のストロークの指定値が、上述の操作装置を人が操作することによりインバータ制御部15bへ入力される場合には、インバータ制御部15bは、検出器17の検出値に基づいて、伸縮機構13のストローク(伸縮長さ)が、上述の一定の指定値となるように、インバータ15aを制御してインバータ15aからモータ11へ供給される電力を制御する。一方、上述の指定値が、予め定められておらず、かつ、インバータ制御部15bへ入力されない場合には、インバータ制御部15bは、できるだけ速やかに、かつ、円滑に、伸縮運動(伸長または収縮)している伸縮機構13の伸縮速度をゼロにするようにインバータ15aを制御する。
【0044】
なお、ゼロ速度制御において、トルクセンサ19が検出したトルクの値がトルク上限値となったことは、伸縮機構13に作用する荷重が、伸縮機構13にとっての許容最大値になったことを意味する。
【0045】
供給電力制御部15は、ゼロ速度制御においてトルクセンサ19が検出したトルクの値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部15は、荷重解放制御を行う(開始する)。第1実施形態では、次のように、荷重解放制御を開始する。供給電力制御部15がゼロ速度制御を実行している時に、トルクセンサ19は、モータ11のトルクの値を検出し、検出したトルクの値(以下、トルク検出値という)を供給電力制御部15へ出力する。供給電力制御部15は、トルクセンサ19からのトルク検出値と、記憶しているトルク上限値とを比較する。この比較により、供給電力制御部15は、トルク検出値がトルク上限値を超えたと判断した時に、荷重解放制御を開始する。なお、トルク検出値とトルク上限値は、トルクの大きさである。
【0046】
この荷重解放制御では、供給電力制御部15は、伸縮機構13に作用する荷重に抗して発生するモータ11のトルクがトルク上限値以下になるようにモータ11へ供給する電力を制御する。これにより、伸縮機構13に作用する荷重により、この荷重の方向に伸縮機構13が伸長または収縮するようにする、荷重解放制御において、供給電力制御部15がモータ11に発生させるトルクはゼロであってもよいが、好ましくは、次のようにする。すなわち、荷重解放制御において、伸縮機構13に作用する荷重に抗して発生するモータ11のトルクが、トルク上限値以下でありゼロより大きい荷重解放用トルク値となるように、供給電力制御部15は、モータ11へ供給する電力を制御する。この制御は、トルクセンサ19のトルク検出値に基づいて実行される。なお、荷重解放用トルクは、トルクの大きさである。
【0047】
好ましくは、トルク上限値は、モータ11の定格トルクの140%以上の値(例えば、150%)であり、荷重解放用トルク値は、トルク上限値以下であって、かつ、モータ11の定格トルクの100%より大きい。この場合、荷重解放用トルク値は、モータ11の定格トルクの100%以上140%以下の値(例えば、130%)であってよい。荷重解放用トルク値は、トルク上限値と同じであってもよい。
【0048】
荷重解放用トルク値は、トルク上限値以下でありゼロより大きければ、荷重解放制御の間、変化してもよい。例えば、荷重解放用トルクは、荷重解放制御の開始時には、トルク上限値であり、荷重解放制御の開始後、次第に減少するように供給電力制御部15に予め設定されていてもよい。
【0049】
荷重解放制御において、伸縮機構13に作用する過大な荷重に抗してモータ11がトルク上限値以下でゼロより大きいトルクを発生するので、このトルクにより該荷重の一部が支持される。したがって、過大な荷重により伸縮機構13が伸長または収縮する速さを下げることができる。よって、伸縮機構13が伸長しきった時、または、伸縮機構13が収縮しきった時に生じる衝撃を緩和できる。これにより、この衝撃から伸縮機構13を保護できる。
【0050】
また、上述の荷重解放用トルク値が一定であるかどうかにかかわらず、供給電力制御部15は、次のように荷重解放制御を行うことができる。
すなわち、荷重解放制御において、供給電力制御部15は、検出器17の検出値に基づいて、伸縮機構13の伸縮方向が逆転したと判断したら、または、伸縮機構13の伸縮が停止したと判断したら、ゼロ速度制御を再開する。検出器17の検出値が伸縮機構13の伸縮位置である場合には、この検出値の時間変化率(経過時間に対する変化率)の符号(正負)が変化したら、供給電力制御部15は、伸縮機構13の伸縮方向が逆転したと判断する。また、検出器17の検出値が伸縮機構13の伸縮位置である場合に、この検出値が一定になったら、供給電力制御部15は、伸縮機構13の伸縮が停止したと判断する。検出器17の検出値が伸縮機構13の伸縮速度である場合には、この検出値の符号(正負)が変化したら、供給電力制御部15は、伸縮機構13の伸縮方向が逆転したと判断する。また、検出器17の検出値が伸縮機構13の伸縮速度である場合に、この検出値がゼロになったら、伸縮機構13の伸縮が停止したと判断する。
【0051】
このように、荷重解放制御において、伸縮機構13の伸縮方向が逆転した場合には、荷重解放制御により発生している、トルク上限値以下のモータ11のトルクは、伸縮機構13に作用している荷重に勝っているか、または、この荷重と同等であることを意味する。したがって、この状態では、伸縮機構13には、過大荷重は作用していないので、ゼロ速度制御を再開しても、モータ11のトルクはトルク上限値を超えない。そこで、供給電力制御部15は、伸縮機構13の伸縮方向が逆転したと判断したら、または、伸縮機構13の伸縮が停止したと判断したら、ゼロ速度制御を再開することにより、伸縮機構13を損傷させることなく伸縮機構13の伸縮運動を停止させることができる。
【0052】
一方、上述の荷重解放用トルク値が一定である場合には、好ましくは、供給電力制御部15は、次のように荷重解放制御を行う。
すなわち、荷重解放制御では、供給電力制御部15は、伸縮機構13に作用する荷重に抗して発生するモータ11のトルクが、一定の荷重解放用トルク値となるように、モータ11へ供給する電力を制御しながら、検出器17の検出値に基づいて、伸縮機構13の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったかどうかを判断する。この判断の結果が肯定である場合には、供給電力制御部15は、ゼロ速度制御を再開する。この判断は、より具体的には、次のように行う。供給電力制御部15は、荷重解放制御を開始した時点より後であって現時点よりも前において、伸縮機構13の伸縮速度(ゼロではない大きさを持つ伸縮速度)、または、この伸縮速度を示す値(例えば、モータ11の回転速度)を、過去の速度として検出器17の検出値から取得し、その後、現時点において、伸縮機構13の伸縮速度、または、この伸縮速度を示す値を、現在の速度として検出器17の検出値から取得する。次いで、供給電力制御部15は、現在の速度の大きさが過去の速度の大きさよりも、設定量または設定量に相当する量だけ小さいと判断した場合には、伸縮機構13の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったと判断する。
【0053】
荷重解放用トルク値を一定にして荷重解放制御を行っている場合には、伸縮機構13の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったことは、モータ11のトルクが伸縮機構13に作用する荷重に勝っていることを意味する。したがって、この状態では、伸縮機構13には、過大荷重は作用していないので、ゼロ速度制御を再開しても、モータ11のトルクはトルク上限値を超えない。そこで、伸縮機構13の伸縮速度の大きさが、設定量だけ下がったと判断したら、ゼロ速度制御を再開することにより、伸縮機構13を損傷させることなく伸縮機構13の伸縮運動を停止させることができる。ただし、ゼロ速度制御を再開する時に、供給電力制御部15は、モータ11のトルクの値がトルク上限値を超えないようにすることが好ましい。
【0054】
供給電力制御部15は、上述したゼロ速度制御および荷重解放制御の他に、指令値追従制御を行う。指令値追従制御では、供給電力制御部15は、入力される伸縮位置もしくは伸縮速度に関する指令値に従って伸縮機構13が動作するように、検出器17の検出値に基づいてモータ11へ供給する電力を制御する。なお、伸縮位置もしくは伸縮速度の指令値は、例えば、図示しない上位制御器により生成されて供給電力制御部15へ入力され、または、人が図示しない操作装置を操作することにより生成されて供給電力制御部15へ入力される。
【0055】
複数(図2(B)では、2つ)の電動伸縮装置10が設けられている場合には、図4に示すように、電動伸縮装置10のモータ11毎に、制御装置30が設けられる。この場合、1つの直流電力供給部14が、複数の制御装置30のインバータ15aに直流電力を供給してよい。また、この場合、図4の上位制御器40は、複数の制御装置30の供給電力制御部15が、同期して、上述のゼロ速度制御、荷重解放制御、または指令値追従制御を実行するように、これらの供給電力制御部15を制御する。各供給電力制御部15による荷重解放制御または指令値追従制御において、上位制御器40が、複数の伸縮機構13が同期して伸縮するように、複数の制御装置30の供給電力制御部15を制御する。この制御に従って、各供給電力制御部15は、対応するモータ11へ供給する電力を制御する。各供給電力制御部15による荷重解放制御または指令値追従制御において、上位制御器40は、各制御装置30の検出器17の検出値を受け、これらの検出値に基づいて、複数の伸縮機構13のストローク(伸縮長さ)の間で規定値以上の差が生じたと判断したら、この差が規定値より小さくなるように、少なくとも1つの制御装置30の供給電力制御部15を制御する。この制御に従って、この供給電力制御部15は、制御対象のモータ11へ供給する電力を制御することにより、対応する伸縮機構13のストロークを調整する。なお、図4において、複数の制御装置30と上位制御器40は、複数の電動伸縮装置10の制御システムを構成する。
【0056】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態による制御装置30を説明する。なお、第2実施形態において、以下で述べない点は、上述の第1実施形態の場合と同じである。
【0057】
上述の第1実施形態では、ゼロ速度制御を実行している時に、トルクセンサ19が検出したトルクの値がトルク上限値を超えた時に、供給電力制御部15は、荷重解放制御を行った。これに対し、第2実施形態によると、トルクセンサ19が設けられず、供給電力制御部15は、荷重解放制御を行わない。このような第2実施形態を以下で説明する。
【0058】
供給電力制御部15において、ゼロ速度制御中にモータ11へ供給する最大電流値が予め設定されている。予め設定された最大電流値(例えば、モータ11の定格電流値の120%)の電流がモータ11へ供給されることによりモータ11が発生するトルクを最大電流時トルクとする。供給電力制御部15は、ゼロ速度制御を実行している時に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重(すなわち、最大電流時トルクによる伸縮機構13の伸長力または収縮力では支えきれない過大荷重)が伸縮機構13に作用した過大荷重発生時には、供給電力制御部15は、最大電流値の電流をモータ11へ供給する。これにより、過大荷重のうち、最大電流時トルクによる伸縮機構13の伸長力または収縮力を超える分の荷重が解放されて、この荷重により伸縮機構13が伸長または収縮する。
【0059】
ここで、ゼロ速度制御を停止する旨の信号が供給電力制御部15に入力されない限り、上述の過大荷重が伸縮機構13に作用している期間において、供給電力制御部15は、継続して、最大電流値の電流をモータ11へ供給する。
【0060】
この後、ゼロ速度制御を停止する旨の信号が供給電力制御部15に入力されない限り、伸縮機構13に作用する荷重が、上述の過大荷重より小さくなったら、すなわち、伸縮機構13に作用する荷重が、最大電流時トルク以下のトルクで支えられる大きさになったら、供給電力制御部15のゼロ速度制御により、伸縮機構13の伸縮が停止する。
【0061】
このように第2実施形態では、ゼロ速度制御において、上述の過大荷重が伸縮機構13に作用している時のみ、モータ11への供給電流値が最大電流値となり、上述の過大荷重が伸縮機構13に作用していない場合には、伸縮機構13の伸縮が停止する。
【0062】
図5は、このような第2実施形態による制御装置30の構成例を示すブロック図である。以下、図5に基づいて第2実施形態による制御装置30の構成例を説明する。
【0063】
インバータ制御部15bは、インバータ15aを構成する各トランジスタへ制御信号(一例では、PWM信号)を出力する。制御信号がPWM信号の場合、PWM信号のパルス幅によって、インバータ15aからモータ11へ供給される電流の大きさが変化する。図5では、インバータ制御部15bは、制御信号の値(PWM信号のパルス幅)を制限する制限回路21を有する。
【0064】
ゼロ速度制御時に、インバータ制御部15bは、検出器17の検出値に基づいた制御信号(この検出値に基づいたパルス幅のPWM信号)を、インバータ15aを構成する各トランジスタへ出力する。このようなゼロ速度制御の実行中に、最大電流時トルクでは支えきれない過大荷重が伸縮機構13に作用した過大荷重発生時には、制限回路21により、インバータ制御部15bから上述の各トランジスタへの制御信号の値(PWM信号のパルス幅)が、上述の最大電流値の電流をモータ11へ供給するための上限値にされる。すなわち、上述の過大荷重発生時には、制限回路21が機能し始めて、インバータ制御部15bから上述の各トランジスタへの制御信号の値(PWM信号のパルス幅)が、上述の最大電流値に対応する上述の上限値となる。このように、ゼロ速度制御の実行中に、過大荷重が伸縮機構13に作用した過大荷重発生時には、インバータ制御部15bが上述の各トランジスタへ出力する制御信号の値が上述の上限値を超えようとするが、この制御信号の値が、上述の上限値に制限される。
【0065】
ここで、ゼロ速度制御を停止する旨の信号がインバータ制御部15bに入力されない限り、上述の過大荷重が伸縮機構13に作用している期間において、インバータ制御部15bは、継続して、上述の上限値の制御信号を上述の各トランジスタへ出力する。
【0066】
その後、伸縮機構13に作用する荷重が、上述の過大荷重より小さくなったら、すなわち、伸縮機構13に作用する荷重が、最大電流時トルク以下のトルクで支えられる大きさになったら、制限回路21が機能しなくなることにより、供給電力制御部15のゼロ速度制御により、伸縮機構13の伸縮が停止する。
【0067】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述の第1実施形態または第2実施形態において、以下の変更例1、2の一方または両方を採用してもよい。この場合、以下で述べない点は上述と同じである。
【0068】
(変更例1)
検出器17は、上述では、伸縮機構13の伸縮位置もしくは伸縮速度を検出したが、他の値を検出してもよい。すなわち、検出器17は、モータ11の出力シャフトの回転角もしくは回転速度、または、モータ11の出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度を検出してもよい。この場合、上述において、検出器17の検出値は、モータ11の出力シャフトの回転角もしくは回転速度、または、モータ11の出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度となる。また、この場合、上述において、伸縮位置もしくは伸縮速度の指令値は、モータ11の出力シャフトの回転角もしくは回転速度の指令値、または、モータ11の出力シャフトにより回転駆動される回転部の回転角もしくは回転速度の指令値に読み替えられる。なお、回転部は、モータ11の出力シャフトと、伸縮機構13において伸縮運動する部分(例えばロッド部13a)との間における動力伝達経路に配置される。
【0069】
(変更例2)
上述では、バラ物搬送装置20は、リクレーマであったが、他の装置であってもよい。すなわち、バラ物搬送装置20は、スタッカ(例えば、特開2012−218848号公報に記載のスタッカ)または連続式アンローダ(例えば、特開平06−100176号公報に記載の連続式アンローダ)である。
【0070】
バラ物搬送装置20がスタッカである場合には、図2において、コンベア7により、バラ物がブーム5の先端部へ搬送される。ブーム5の先端部へ搬送されたバラ物は、ブーム5の先端部から落とされる。この場合、例えば、ブーム5(特に、ブーム5の先端部)と他の構造物との衝突により、過大な荷重が伸縮機構13に作用する。
【0071】
バラ物搬送装置20が連続式アンローダである場合には、図2において、ブーム5の先端部には、船倉内のバラ物を採取して船倉外へ搬出するバケットエレベータが設けられる。バケットエレベータにより船倉外へ搬出されたバラ物は、コンベア7により、ブーム5とフレーム3との連結位置側へ搬送される。この場合、例えば、積山1がバケットエレベータ上に崩れた場合には、バケットエレベータ上に崩れてきたバラ物による過大な荷重が、バケットエレベータとブーム5を介して伸縮機構13に作用する。別の例では、ブーム5(特に、ブーム5の先端部)と他の構造物との衝突により、過大な荷重が伸縮機構13に作用する。
【符号の説明】
【0072】
1 積山、2 土台、3 フレーム、5 ブーム、6 カウンターウェイト、7 コンベア、9 バケットホイール、10 電動伸縮装置、11 モータ、13 伸縮機構、13a ロッド部、14 直流電力供給部、15 供給電力制御部、15a インバータ、15b インバータ制御部、17 検出器、19 トルクセンサ、20 バラ物搬送装置、21 制限回路、30 制御装置、31 伸縮機構、40 上位制御器、C0 鉛直軸、C1 第1の水平軸、C2 第2の水平軸、C3 第3の水平軸
図1
図2
図3
図4
図5