(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図4には、従来の空気入りタイヤ2の断面が示されている。この
図4には、タイヤ2のサイド部4が示されている。このタイヤ2は、リムRに組み込まれている。このタイヤ2は、二輪自動車用である。サイド部4には、サイドウォール6及びビード8が含まれている。
【0003】
サイドウォール6は、架橋ゴムからなる。サイドウォール6は、トレッド10から半径方向略内向きに延びている。サイドウォール6は、軟質である。サイドウォール6は、サイド部4の撓みに寄与する。
【0004】
ビード8は、コア12とエイペックス14とを備えている。エイペックス14は、コア12から半径方向外向きに延びている。エイペックス14は、高硬度な架橋ゴムからなる。エイペックス14は、サイド部4の変形を抑える。
【0005】
サイド部4は車体の支持に寄与する。サイド部4の剛性が過小であれば、タイヤ2は安定性に欠ける。サイド部4の剛性が過大であれば、吸収性が低下する。
【0006】
二輪自動車用のタイヤ2では、トレッド面16の曲率半径は、乗用車用タイヤのそれに比して小さい。二輪自動車では、直進時及び旋回時においてタイヤ2の接地状態が大きく変わる。このため、サイド部4の剛性は極めて重要である。安定性及び吸収性の両立のために、サイド部4の剛性に関し様々な検討がなされている。この検討の一例が、特開平10−109507公報に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4に示されているように、タイヤ2の一部はリムRと接触する。この
図4おいて、符号PTは、トレッド面16の端である。符号PRは、リムRとの接触面の半径方向外縁である。符号L1で示された直線は、端PTと外縁PRとを通る基準線である。
【0009】
このタイヤ2では、端PTと外縁PRとの間のゾーンでは、サイド部4の外面、すなわちサイド面18は基準線L1に沿っている。サイド面18は、このゾーンにおいて、直線状を呈している。基準線L1がビードベースラインに対してなす角度θは、80〜90°の範囲にある。このサイド面18は、このゾーンにおいて、略半径方向に延在している。
【0010】
荷重の作用により、タイヤ2は撓む。このとき、サイド部4には圧縮方向の力が作用する。
図4に示されているように、基準線L1はリムRと交差している。言い換えれば、サイド面18は外縁PRにおいてリムRに載せられている。このサイド面18は、この圧縮方向の力に、抗するように作用する。このサイド面18は、略半径方向に延在しているので、サイド部4を効果的に補強する。しかしこのサイド面18を有するサイド部4は撓みにくい。このタイヤ2は、安定性に優れるが吸収性に劣る。
【0011】
サイド部4の補強の観点から、より硬質なエイペックス14を採用することがある。このエイペックス14は安定性に寄与する。しかしこのエイペックス14は吸収性を阻害する。エイペックス14の軸方向幅を小さくすれば吸収性はある程度改善されるが、十分な吸収性は得られない。硬質でしかも小さな軸方向幅を有するエイペックス14の採用だけでは、安定性及び吸収性の両立を達成することは難しい。
【0012】
サイド部4の補強の観点から、大きな半径方向高さを有するエイペックス14を採用することがある。このエイペックス14は安定性に寄与する。しかしこのエイペックス14は吸収性を阻害する。エイペックス14の軸方向幅を小さくすれば吸収性はある程度改善されるが、十分な吸収性は得られない。大きな半径方向高さ及び小さな軸方向幅を有するエイペックス14の採用だけでは、安定性及び吸収性の両立を達成することは難しい。
【0013】
本発明の目的は、安定性及び吸収性の両立が達成された二輪自動車用空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る二輪自動車用空気入りタイヤは、トレッド、一対のサイドウォール及び一対のビードを備えている。上記トレッドはトレッド面を備えている。それぞれのサイドウォールは上記トレッドから半径方向略内向きに延びている。それぞれのビードは上記サイドウォールの軸方向内側に位置している。上記ビードはコアとエイペックスとを備えている。上記エイペックスは上記コアから半径方向外向きに延びている。このタイヤの外面は、上記トレッド面と、一対のサイド面とを備えている。それぞれのサイド面は上記トレッド面の端から半径方向略内向きに延びている。このタイヤを正規リムに組み込み、正規内圧となるようにこのタイヤに空気を充填した状態において、上記サイド面の一部が上記正規リムと接触しており、この接触面の半径方向外縁に対応するこのサイド面上の位置を基準位置とし、この基準位置と上記トレッド面の端とを通る直線を基準線としたとき、上記基準線は、上記基準位置において、上記正規リムと接している。上記トレッド面の端と上記基準位置との間のゾーンにおいて、上記サイド面は上記基準線に沿って延在している。上記基準線がビードベースラインに対してなす角度の絶対値は45°以上75°以下である。上記基準位置から上記エイペックスの外端までの半径方向高さの、この基準位置から上記トレッド面の端までの半径方向高さに対する比は、0.5以上である。
【0015】
好ましくは、この二輪自動車用空気入りタイヤでは、上記エイペックスは底から外端に向かって先細りである。上記エイペックスの底の軸方向幅に対する、このエイペックスの外端から半径方向内側に3mm離れた位置における、このエイペックスの軸方向幅の比は、0.1以上0.25以下である。
【0016】
好ましくは、この二輪自動車用空気入りタイヤでは、上記エイペックスの複素弾性率E*は12MPa以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二輪自動車用空気入りタイヤでは、トレッド面の端と基準位置との間のゾーンにおいて、ビードベースラインと斜めに交差し正規リムと接する基準線に沿って、サイド面は延在している。このサイド面は撓みに寄与する。このタイヤは吸収性に優れる。しかもこのタイヤでは、エイペックスは適度な高さを有している。このエイペックスは安定性に寄与する。このタイヤでは、安定性及び吸収性の両立が達成される。本発明によれば、安定性及び吸収性の両立が達成された二輪自動車用空気入りタイヤが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1には、空気入りタイヤ20が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ20の半径方向であり、左右方向がタイヤ20の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ20の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ20の赤道面を表わす。このタイヤ20の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0021】
図1において、実線BBLはビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインは、軸方向に延びる。
【0022】
図1において、タイヤ20はリムRに組み込まれている。このリムRは、正規リムである。このタイヤ20には、空気が充填されている。これにより、タイヤ20の内圧が正規内圧に調整されている。
【0023】
本発明では、特に言及がない限り、タイヤ20の各部材の寸法及び角度は、タイヤ20が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ20に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ20には荷重がかけられない。
【0024】
本明細書において正規リムとは、タイヤ20が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0025】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ20が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0026】
このタイヤ20は、トレッド22、一対のサイドウォール24、一対のビード26、カーカス28、バンド30及びインナーライナー32を備えている。このタイヤ20は、チューブレスタイプである。このタイヤ20は、二輪自動車に装着される。特にこのタイヤ20は、二輪自動車の後輪用である。
【0027】
トレッド22は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド22は、路面と接地するトレッド面34を備えている。トレッド面34は、タイヤ20の外面36の一部である。このトレッド22は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。このトレッド22には、溝は刻まれていない。このトレッド22に溝を刻んで、トレッドパターンが形成されてもよい。
【0028】
二輪自動車は、その車体を傾斜して旋回する。旋回容易の観点から、トレッド22は小さな曲率半径を有する。
【0029】
このタイヤ20では、直進走行時、トレッド22の赤道面の部分(センターゾーン)が接地する。旋回走行においては、このセンターゾーンよりも軸方向外側のゾーンが接地する。ライダーは、たびたび二輪自動車を極限まで傾斜させて旋回させる。この状態は、「フルバンク」と称されている。フルバンクにおいては、トレッド22の端の部分(ショルダーゾーン)が接地する。センターゾーンとショルダーゾーンとの間は、ミドルゾーンと称される。
【0030】
図1において、符号PTはトレッド面34の端である。両矢印Wは、一方の端PTから他方の端PTまでの軸方向長さを表している。この長さWは、トレッド22の軸方向幅であり、このタイヤ20の最大幅である。このタイヤ20は、トレッド面34の端PTにおいて軸方向幅が最大となるように構成されている。
【0031】
図1において、符号PEはトレッド面34と赤道面との交点である。この交点PEは、タイヤ20の赤道と称される。両矢印Hは、このタイヤ20の断面高さである。この高さHは、ビードベースラインから赤道PEまでの半径方向高さで表される。両矢印HTは、ビードベースラインからトレッド面34の端PTまでの半径方向高さである。
【0032】
このタイヤ20では、最大幅Wに対する断面高さHの比、すなわち、アスペクト比は、0.5以上である。これにより、トレッド22の小さな曲率半径が達成される。小さな曲率半径は、キャンバースラストに寄与する。このタイヤ20は、旋回性能に優れる。このアスペクト比は、0.8以下である。これにより、過小な曲率半径が防止される。このタイヤ20では、直進走行において、センターゾーンが十分に接地する。このタイヤ20は、トラクション性能に優れる。
【0033】
このタイヤ20では、断面高さHに対する高さHTの比は、0.4以上である。これにより、過小な曲率半径が防止される。このタイヤ20では、直進走行において、センターゾーンが十分に接地する。このタイヤ20は、トラクション性能に優れる。この比は、0.6以下である。これにより、トレッド22の小さな曲率半径が達成される。小さな曲率半径は、キャンバースラストに寄与する。このタイヤ20は、旋回性能に優れる。
【0034】
それぞれのサイドウォール24は、トレッド22から半径方向略内向きに延びている。サイドウォール24は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。サイドウォール24は、カーカス28よりも軸方向外側に位置している。このサイドウォール24は、カーカス28の損傷を防止する。
【0035】
それぞれのビード26は、サイドウォール24の軸方向内側に位置している。図示されているように、タイヤ20がリムRに組み込まれたとき、ビード26はリムRの近くに位置する。ビード26は、コア38とエイペックス40とを備えている。
【0036】
コア38は、リング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。
【0037】
エイペックス40は、コア38から半径方向外向きに延びている。図示されているように、エイペックス40は底42から外端44に向かって先細りである。エイペックス40は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0038】
カーカス28は、カーカスプライ46からなる。カーカスプライ46は、両側のビード26の間に架け渡されている。カーカスプライ46は、トレッド22及びサイドウォール24に沿っている。カーカスプライ46は、コア38の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ46には、主部48と折り返し部50とが形成されている。このタイヤ20の折り返し部50の端は、半径方向において、トレッド面34の端PTの近くに位置している。
【0039】
カーカスプライ46は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス28はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。カーカス28が、2枚以上のカーカスプライ46から形成されてもよい。
【0040】
バンド30は、トレッド22の半径方向内側に位置している。バンド30は、カーカス28と積層されている。バンド30は、カーカス28を補強する。図示されていないが、このバンド30は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド30は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このバンド30は、タイヤ20の半径方向の剛性に寄与する。このバンド30は、走行時に作用する遠心力の影響を抑制する。このタイヤ20は、高速安定性に優れる。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0041】
インナーライナー32は、カーカス28の内側に位置している。インナーライナー32は、カーカス28の内面に接合されている。インナーライナー32は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー32の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー32は、タイヤ20の内圧を保持する。
【0042】
このタイヤ20の外面36は、トレッド面34以外に、サイド面52を備えている。換言すれば、外面36はトレッド面34と一対のサイド面52とを備えている。このタイヤ20では、外面36のうち、トレッド面34の端PTからこのタイヤ20のトゥ54までのゾーンがサイド面52と称される。それぞれのサイド面52は、トレッド面34の端PTから半径方向略内向きに延びている。
【0043】
図2には、
図1のタイヤ20のサイドウォール24の部分(以下、サイド部56)が示されている。
図2に示されているように、サイド面52の一部はリムRと接触する。この
図2において、符号PRはサイド面52上の特定の位置を表している。この位置PRは、サイド面52とリムRとの接触面の半径方向外縁に対応している。本願において、この位置PRは基準位置と称される。この基準位置PRは、タイヤ20に荷重が掛けられていない状態で特定される。
【0044】
図2において、実線L1は基準位置PRとトレッド面34の端PTとを通る直線である。本願においては、この直線L1は基準線と称される。
図2に示されているように、基準線L1は基準位置PRにおいてリムRと接している。基準線L1は、半径方向外向きに軸方向外側へ拡がるように延在している。基準線L1は、ビードベースラインと斜めに交差している。
【0045】
このタイヤ20では、トレッド面34の端PTと基準位置PRとの間のゾーン(以下、基準ゾーン)において、サイド面52は基準線L1に沿って延在している。言い換えれば、この基準ゾーンにおいて、サイド面52は直線状を呈している。
【0046】
図3には、サイド面52の輪郭が基準線L1とともに模式的に表されている。この
図3に示されているように、サイド面52が基準線L1からずれることがある。
【0047】
図3において、両矢印Xは基準線L1からサイド面52までの距離を表している。この距離Xは、サイド面52の基準線L1からのずれ量である。両矢印LBは、トレッド面34の端PTから基準位置PRまでの基準線L1の長さを表している。
【0048】
本願において、前述の「直線状」とは、ずれ量Xの最大値が長さLBの0.05倍以下であることを意味する。言い換えれば、基準ゾーンにおいて、ずれ量Xの最大値が長さLBの0.05倍以下であれば、サイド面52は直線状を呈している。
【0049】
このタイヤ20では、基準ゾーンにおいて、ビードベースラインと斜めに交差しリムRと接する基準線L1に沿って、サイド面52は延在している。このサイド面52を有するサイド部56では、圧縮方向の力に抗する作用は、従来タイヤ2のサイド部4のそれよりも小さい。このサイド部56は、従来タイヤ2のサイド部4よりも撓みやすい。しかもサイド面52が直線状を呈しているので、基準ゾーンにおいて、軸方向外向き又は内向きに湾曲したサイド面を有するタイヤのサイド部に比べて、このタイヤ20のサイド部56は全体としてしなやかに撓む。このタイヤ20のサイド面52は、サイド部56の剛性を適切に維持しつつ、撓みに寄与する。このサイド面52を有するタイヤ20では、適度な安定性を保持しつつ、吸収性の向上が達成される。
【0050】
図2において、角度θは基準線L1がビードベースラインに対してなす交差角度を表している。この交差角度θは、吸収性及び安定性に影響する。
【0051】
このタイヤ20では、交差角度θの絶対値は75°以下である。これにより、サイド面52がサイド部56の撓みに効果的に寄与する。このタイヤ20は、吸収性に優れる。この観点から、この交差角度θの絶対値は70°以下が好ましく、65°以下がより好ましい。
【0052】
このタイヤ20では、傾斜角度θの絶対値は45°以上である。これにより、サイド面52がサイド部56の補強に効果的に寄与する。このタイヤ20では、安定性が適正に維持される。この観点から、この傾斜角度θの絶対値は50°以上が好ましく、55°以上がより好ましい。
【0053】
図2において、両矢印HSは基準位置PRからトレッド面34の端PTまでの半径方向高さである。この高さHSは、基準ゾーンの半径方向長さでもある。両矢印HAは、基準位置PRからエイペックス40の外端44までの半径方向高さである。直線L2は、軸方向に延びる。この直線L2は、基準ゾーンの半径方向中心を通過する。
【0054】
このタイヤ20のサイド面52は、吸収性に寄与する一方で、安定性に影響する。リムRの近くにはビード26が配置されているため、基準ゾーンの半径方向内側部分では十分な剛性が確保される。一方、この基準ゾーンの半径方向外側部分では、剛性が不足する恐れがある。特に、このタイヤ20では、基準ゾーンにおいて、サイド面52は直線状を呈している。このため、基準ゾーンの半径方向外側部分における剛性が安定性に与える影響は意外に大きい。
【0055】
このタイヤ20では、エイペックス40の外端44の位置は半径方向において直線L2の位置と一致する、又は、このエイペックス40の外端44は直線L2よりも半径方向外側に位置している。言い換えれば、高さHSに対する高さHAの比は0.5以上である。このエイペックス40は、適度な高さを有している。前述したように、エイペックス40は高硬度な架橋ゴムからなる。このタイヤ20のエイペックス40は、サイド部56の剛性、特に、基準ゾーンの半径方向外側部分における剛性に効果的に寄与する。このタイヤ20では、ビードベースラインと斜めに交差しリムRと接する基準線L1に沿って延在するサイド面52を採用しているにもかかわらず、良好な安定性が得られる。この観点から、この比は0.6以上が好ましく、0.70以上がより好ましい。吸収性への影響が抑えられるとの観点から、この比は1.25以下が好ましく、1.00以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましい。
【0056】
このように、このタイヤ20では、基準ゾーンにおいて、軸方向に対して傾斜しリムRと接する基準線に沿って延在するサイド面52の採用により、安定性を適切に保持しつつ、吸収性の向上が達成されている。適度な高さを有するエイペックス40の採用により、安定性の一層の向上が図られている。そして、このサイド面52及びエイペックス40は、安定性及び吸収性の両方を相乗的に向上させる。このタイヤ20では、安定性及び吸収性の両立が達成される。本発明によれば、安定性及び吸収性の両立が達成された二輪自動車用空気入りタイヤ20が得られる。
【0057】
図2において、両矢印WCはエイペックス40の底42の軸方向幅である。実線L3は、軸方向に延びる直線である。両矢印H3は、エイペックス40の外端44から直線L3までの半径方向距離を表している。本願においては、この距離H3は3mmである。両矢印WSは、直線L3に沿って計測されるエイペックス40の軸方向幅を表している。この幅WSは、エイペックス40の外端44から半径方向内側に3mm離れた位置における、このエイペックス40の軸方向幅である。
【0058】
このタイヤ20では、エイペックス40はその外端44が基準ゾーンの半径方向外側部分に位置するように構成されている。前述したように、このタイヤ20のサイド部56は、軸方向に対して傾斜しリムRと接する基準線に沿って延在するサイド面52を有している。このサイド部56では、エイペックス40の外端44の部分の軸方向幅を、従来のタイヤ2のそれと同様に構成した場合、このエイペックス40が基準ゾーンの半径方向外側部分の剛性に与える影響は意外に大きい。
【0059】
このタイヤ20では、幅WCに対する幅WSの比は0.25以下が好ましい。これにより、小さな軸方向幅WSを有するエイペックス40が得られる。このタイヤ20では、エイペックス40による、基準ゾーンの半径方向外側部分の剛性への影響が十分に抑えられる。このタイヤ20では、良好な吸収性が維持される。この観点から、この比は0.20以下がより好ましい。
【0060】
このタイヤ20では、幅WCに対する幅WSの比は0.1以上が好ましい。これにより、エイペックス40の外端44の部分が基準ゾーンの半径方向外側部分の剛性に効果的に寄与する。このタイヤ20では、良好な安定性が維持される。この観点から、この比は0.15以上がより好ましい。
【0061】
前述したように、エイペックス40は高硬度な架橋ゴムからなる。このエイペックス40は、サイド部56の剛性に寄与する。
【0062】
このタイヤ20では、70℃の温度下で計測された、エイペックス40の複素弾性率E*は12MPa以上が好ましい。このエイペックス40は、サイド部56を効果的に補強する。このタイヤ20は、安定性に一層優れる。この複素弾性率E*は、30MPa以下が好ましい。これにより、エイペックス40による剛性への影響が抑えられる。このタイヤ20では、良好な吸収性が維持される。70℃の温度下で計測された複素弾性率E*が12MPa以上30MPa以下にあるエイペックス40は、安定性及び吸収性の両立に一層寄与する。
【0063】
本発明では、前述の複素弾性率E*は、「JIS K 6394」の規定に準拠して、下記の測定条件により、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製の商品名「VESF−3」)を用いて計測される。この計測では、エイペックス40のゴム組成物から板状の試験片(長さ=45mm、幅=4mm、厚み=2mm)が形成される。この試験片が、計測に用いられる。
初期歪み:10%
振幅:±2.0%
周波数:10Hz
変形モード:引張
計測温度:70℃
【0064】
図2において、両矢印HFは基準位置PRから折り返し部の端までの半径方向高さである。
【0065】
前述したように、このタイヤ20では、折り返し部50の端は、半径方向において、トレッド面34の端PTの近くに位置している。この折り返し部50は、サイド部56の剛性に寄与する。この折り返し部がサイド部のしなやかな撓みに寄与し、安定性及び吸収性の一層の向上が図れるとの観点から、高さHFの高さHSに対する比は、0.6以上が好ましく、1.3以下が好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0067】
[実施例1]
図1−3に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、180/55ZR17である。この実施例1では、基準線L1の交差角度θは60°である。基準位置PRからエイペックスの外端までの半径方向高さHAの、この基準位置PRからトレッド面の端PTまでの半径方向高さHSに対する比(HA/HS)は、0.75である。エイペックスの底の軸方向幅WCに対する、このエイペックスの外端から半径方向内側に3mm離れた位置における、このエイペックスの軸方向幅WSの比(WS/WC)は、0.17である。70℃の温度下で計測されたエイペックスの複素弾性率E*は、12MPaである。
【0068】
[実施例3及び比較例1−2]
角度θ及び比(HA/HS)を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3及び比較例1−2のタイヤを得た。
【0069】
[実施例2及び4−6並びに比較例3]
比(HA/HS)を下記の表1及び2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び4−6並びに比較例3のタイヤを得た。
【0070】
[実施例7−10比較例4−5]
角度θを下記の表3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例7−10及び比較例4−5のタイヤを得た。
【0071】
[実施例11−14]
比(WS/WC)を下記の表4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例11−14のタイヤを得た。
【0072】
[実施例15−17]
弾性率E*を下記の表5に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例15−17のタイヤを得た。
【0073】
[安定性]
試作タイヤを排気量が1300ccである二輪自動車(4サイクル)の後輪(リムサイズ=17M/C×MT5.50)に装着し、その内圧が290kPaとなるように空気を充填した。前輪(リムサイズ=17M/C×MT3.50)には、市販のタイヤ(サイズ=120/70ZR17)を装着し、その内圧が250kPaとなるように空気を充填した。この二輪自動車を、その路面がアスファルトであるサーキットコースで走行させて、ライダーによる官能評価を行った。評価項目は、安定性である。この結果が、5.0点を満点とした指数値で下記の表1−5に示されている。数値が大きいほど安定性に優れる。比較例2を基準とし、効果の有無を判定した。
【0074】
[吸収性]
試作タイヤを正規リム(リムサイズ=17M/C×MT5.50)に装着し、その内圧が290kPaとなるように空気を充填した。このタイヤをフラットベルト式タイヤ6分力測定装置に装着し、1.3kNの縦荷重をタイヤに負荷し、突起(サイズ=高さ5mm×幅5mm)が設けられた路面上を、時速15km/hの速度で走行させた。突起を乗り越す際に生じる反力を観測し、この反力が発生してから収束するまでの時間を計測した。この結果が、比較例2を100とした指数値で下記の表1−5に示されている。数値が大きいほど吸収性に優れる。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
表1−5に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。