特許第6381083号(P6381083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381083細胞密度測定方法及び細胞密度変化追跡方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381083
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】細胞密度測定方法及び細胞密度変化追跡方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20180820BHJP
   C12N 13/00 20060101ALI20180820BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20180820BHJP
   C12M 1/42 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   C12Q1/06
   C12N13/00
   !C12M1/34 D
   !C12M1/42
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-22095(P2017-22095)
(22)【出願日】2017年2月9日
(65)【公開番号】特開2018-126104(P2018-126104A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】592086112
【氏名又は名称】株式会社ティ・アンド・シー・テクニカル
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】辻 元
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−502660(JP,A)
【文献】 米国特許第04965206(US,A)
【文献】 特開2008−022705(JP,A)
【文献】 特開平07−203945(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128233(WO,A1)
【文献】 特開昭64−67200(JP,A)
【文献】 米澤岳志,誘電計測による酵母のオンラインモニタリング,バイオサイエンスとインダストリー,1997年 7月,Vol.55, No.7,Pages 479-481
【文献】 酵母、細胞の成長傾向を見る ハミルトン社 セルデンシティー専用ソフト セルクオリティレーダー,[online],2016年10月,[Retrieved on 13.07.2017] url<http://www.tactec.jp/cell_quality_radar.htm>
【文献】 Biosensors and Bioelectronics (2014) Vol.61, pp.417-421
【文献】 Biochimica et Biophysica Acta (1995) Vol.1245, pp.317-324
【文献】 Biophysical Journal (1996) Vol.71, pp.2192-2200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12N 13/00
C12M 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の距離を有して対向配置した2枚の金属板から成る電極を、細胞を培養する培地内に浸漬し、前記電極に交流信号を印可して、細胞培養中の細胞の細胞密度測定方法であって、
前記細胞に周期TからT(T>T)間のN個の周期を印可周期T(J=1、・・・、N)とする交流信号を、長い印可周期の交流信号から順次与える信号印可手段、
前記信号印可手段の実施により細胞内で生じる配向分極による印可周期Tに応答する細胞の誘電率εを測定する計測手段、
前記計測手段で得られた印可周期Tと細胞の誘電率εから、周期毎の細胞個数比率PJを求める計算手段を含み、
前記計算手段が、J番目に測定した印可周期Tにおける細胞の誘電率εと、J+1番目に測定した印可周期TJ+1における細胞の誘電率εJ+1の差分Δε=ε−εJ+1(J=1、2,・・・、N)を、測定したN個の印可周期において順に求める差分操作と、
印可周期Tの交流信号において誘電率が測定された細胞の大きさの比率である細胞体積比V(J=1、2、・・・、N)を、下記(1)式により求める細胞比率操作と、
前記差分操作と細胞比率操作から求めたΔεと細胞体積比Vから下記(2)式により細胞個数比率P(J=1、2、・・・、N)を求める個数比率操作とを、
含むことを特徴とする細胞密度測定方法。
【数1】
【請求項2】
細胞の培養開始からの経過時間毎に、請求項1に記載の細胞密度測定方法を用いて培養中の細胞における細胞密度の変化データを計測し、得られた前記変化データにより前記細胞の成長状態を可視化することを特徴とする細胞密度変化追跡方法。
【請求項3】
前記細胞の培養開始からの経過時間が、一定時間Δt毎に実施されるt=IΔt(I=0、1、2、・・・、M)で示される経過時間であることを特徴とする請求項に記載の細胞密度変化追跡方法。
【請求項4】
前記細胞の培養開始からの経過時間が、予め定めたt(I=0、1、2、・・・、M)で示される経過時間であることを特徴とする請求項に記載の細胞密度変化追跡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養における細胞の成長状態を把握する計測技術において、その細胞密度の測定方法と成長状態の追跡方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞密度は生物製剤、特定細胞の生産、醸造、バイオ燃料など、細胞あるいは酵母を用いる産業において、その関連製品の製造、開発にきわめて有効な特性であり、その製造過程における変化を知ることも必要であり、その測定方法に関心が持たれている。
【0003】
一般に普及している方式は光学式で、細胞あるいは酵母に色をつけ光学センサーで検知しやすくすることで、大きさ、数量を数えています。この方式では培養されている細胞を培養器からサンプリングし、測定器に入れる必要があり、培養器に直接センサーを取り付けての常時監視は難しく、そのため、実際に細胞がどのように増え、またどのような調節を行うかは人の手による分析結果に左右されてしまうことになる。
【0004】
それに代わる方法として、細胞密度を、その遮光率で計測するオンライン濁度センサーを用いた方法が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、この方法も細胞の状態によっては正確に測ることは難しく、また死んだ細胞も測定してしまう問題が生じるため、精度良く細胞密度を知ることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−22705号公報
【特許文献2】特開平7−203945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、このような状況に鑑み、本発明は死んでいる細胞には影響を受けずに、生きている生細胞のみに感度があり、その密度、細胞数を誘電率から換算することで求めるもので、サンプリングの必要がなく、プロセスに直接組み入れて測定、評価できる細胞培養中の細胞の細胞密度測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、一定の距離を有して対向配置した2枚の金属板から成る電極を、細胞を培養する培地内に浸漬し、前記電極に交流信号を印可して、細胞培養中の細胞の細胞密度測定方法であって、前記細胞に周期TからT(T>T)間のN個の周期を印可周期T(J=1、・・・、N)とする交流信号を、長い印可周期の交流信号から順次与える信号印可手段、その信号印可手段の実施により細胞内で生じる配向分極による印可周期Tに応答する細胞の誘電率εを測定する計測手段、前記計測手段で得られた印可周期Tと細胞の誘電率εから、周期毎の細胞個数比率Pを求める計算手段を含むことを特徴とする細胞密度測定方法である。
【0008】
さらに、第1の発明における計算手段が、J番目に測定した印可周期Tにおける誘電率εと、J+1番目に測定した印可周期TJ+1における誘電率εJ+1の差分Δε=ε−εJ+1(J=1、2,・・・、N)を、測定したN個の印可周期において順に求める差分操作と、印可周期Tの交流信号において誘電率が測定された細胞の大きさの比率である細胞体積比Vを求める細胞比率操作と、その差分操作と細胞比率操作から求めたΔεと細胞体積比Vから細胞個数比率Pを求める個数比率操作とを含む細胞密度測定方法である。
【0009】
また、その細胞比率操作が、下記(1)式により細胞体積比V(J=1、2、・・・、N)を求める操作であることを特徴とする細胞密度測定方法である。
【0010】
【数1】
【0011】
また、その個数比率操作が、下記(2)式により細胞個数比率P(J=1、2、・・・、N)を求める操作であることを特徴とする細胞密度測定方法である。
【0012】
【数2】
【0013】
本発明の第の発明は、細胞の培養開始からの経過時間毎に、第1の明に記載の細胞密度測定方法を用いて培養中の細胞における細胞密度の変化データを計測し、得られた前記変化データにより前記細胞の成長状態を可視化することを特徴とする細胞密度変化追跡方法である。
【0014】
本発明の第の発明は、第の発明における細胞の培養開始からの経過時間が、一定時間Δt毎に実施されるt=IΔt(I=0、1、2、・・・、M)で示される経過時間であることを特徴とする細胞密度変化追跡方法である。
【0015】
本発明の第の発明は、第の発明における細胞の培養開始からの経過時間が、予め定めたt(I=0、1、2、・・・、M)で示される経過時間であることを特徴とする細胞密度変化追跡方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞培養の培地内において、細胞の誘電率を測定することで、生細胞のみによる影響を評価可能であり、そのために細胞自体のサンプリングを必要とせずに、より正確な測定を可能とするものである。
さらに、製造開発のプロセス内に組み入れいて測定することも可能であり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】細胞密度の誘電率測定装置の構成図で、(a)培地内に挿入され、誘電率測定を実施中の測定器の模式図、(b)は、細胞の誘電率測定部の拡大模式図である。
図2】印可交流信号と細胞の大きさとの関係を示す模式図である。
図3】印可交流信号の周期と細胞の誘電率の関係を示す図である。
図4】誘電率測定により求められる交流信号の周期と、細胞の誘電率の測定値と、周期Tのみに応答する誘電率との関係を示す図である。
図5】交流信号の各印可周期と誘電率の測定値、各印可周期のみに応答した細胞の誘電率分布、及び測定から得られた細胞個数比率を示す図である。
図6】培養開始からの細胞成長による細胞状態の変化の追跡図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、細胞に周期TからT(T>T)間のN個の周期を印可周期T(j=1、・・・、N)とする交流信号を、長い印可周期の交流信号から順次与える信号印可手段と、その信号印可手段の実施により細胞内で生じる配向分極による印可周期Tに応答する細胞の誘電率εを測定する計測手段と、その計測手段で得られた印可周期Tと細胞の誘電率εから、周期毎の細胞個数比率Pを求める計算手段を含み、これら3手段を主構成手段とするものである。
【0019】
1.細胞密度の測定方法
各手段の説明前に、先ず交流信号を用いた細胞密度の誘電率測定について概略を説明し、その後に各手段の詳細を説明する。
ところで細胞密度の誘電率とは、図1の誘電率測定装置の構成図に示すような電極の間にある細胞が持つ静電容量の比率である。図1において、1は誘電率計、2、2は交流信号が掛かる電極、10は培地、12は誘電率を測定する電極、20は生細胞、30は死細胞(細胞膜が破れている状態)、ACは交流信号源で交流電源を使用している。なお、電極2、2は、通常、細い棒状のもので、その下部を樹脂に埋め込まれている、
【0020】
培地10は細胞が生きる環境を与えるもので、図1の場合は、液体の中の細胞の誘電率を測定するために培地10は液体となっている。
誘電率計1は、図1(b)に示すような電極部12の構成、即ち平行配置となるように設置された電極12a、12aと、その電極に電圧を掛ける配線12bを有し、電源12cに接続されて使用するものである。
【0021】
誘電率の測定において、先ず交流信号には交流電流を選択し、印可するが、交流電流は輪を描きながら、且つ電流の流れる方向を入れ替えながら培地10内を流れている。そこで、細胞の誘電率の測定前に、培地の誘電率を測定し、以降の細胞を含む培地における誘電率である細胞の誘電率の測定値から減ずることで誘電率のゼロ点校正を実施する。
次に、交流電流の輪がある所に細胞がくると、その細胞に交流信号がかかり、そこで、交流信号を受けた細胞は、その内部に電荷を貯め込むようになる。しかし、継続して電池やコンデンサーのように特定電位の電荷が貯まるようには電流は流れず、一定間隔で逆位の電位の電気が流れる状態が生じ、細胞内に貯められていた電荷が抜けていくような状態になる。
この細胞に電荷が貯まる・抜ける状態は、交流電流における電流方向の切り替えに合わせ交互に起こることから、貯まる時の電荷、抜ける時の電荷の量を、時間当たりの電流の変化として計測し、その値にセル定数Cを掛けて誘電率εが求められる。
【0022】
ここで、細胞に電荷が貯まる・抜ける時間は交流信号の向きが変わる時間の長さである交流信号の「周期」に依存している。
さらに、電荷が貯まる・抜ける時間は細胞の大きさに依存し、細胞が大きくなれば、電荷が貯まる時間は、それに比例して長くなっていく、また細胞が大きいほど長い周期に応答するため、印可した交流信号の周期が細胞の大きさに対して短い場合、その細胞の誘電率が測定されることはない。
【0023】
即ち、印可した交流信号の周期より大きい細胞の誘電率は測定できないことになり、長周期の交流信号側から短周期の交流信号側へと印可周期を段階的に変えた交流信号を印可することによって、印可交流信号と細胞の大きさとの関係が把握可能となる。その関係を模式的に示すと図2のような関係を得る。
【0024】
以下、3つの主要手段を説明する。
先ず、「信号印可手段」と「計測手段」を説明する。この両者は、本測定方法においては対を成すものであることから併せて説明する。
細胞を含む培地が入った容器に、最も長い周期Tの交流信号から最も短い周期Tの交流信号まで、段階的に周期を短くしていったT(J=1、・・・、N)で表される周期の交流信号(一般に「交流電流」が用いられる)を長周期側から周期を減じながら順番に印可する。
なお、実際の測定において、T及びTは、予め予備測定を実施し、培地内の細胞の状態に即して決定すると良い。また、誘電率を測定する測定器の印可周期の範囲がT〜Tの場合、その範囲を以てT〜Tの範囲としても良い。
【0025】
その結果、最も長周期の時は大きな細胞から小さな細胞まで、くまなく電荷が貯まる・抜ける状態が生じて誘電率は最も高い値を示すようになる。一方、周期を短くしていくとそれに比例して応答可能な細胞の大きさの限界は小さくなり、その限界の大きさを上限として、それより小さな細胞の誘電率を含め測定する。その測定を順次、最も短い周期Tの交流信号まで実施して誘電率を測定していくことになる。
【0026】
次に、上記のように交流信号を印可して先に説明した手法で細胞の誘電率を測定する。
その結果、図3に示すような「印可交流信号の周期と細胞の誘電率:β分散」の関係が得られる。
図3に示す測定結果では、最も長い印可周期Tの印可交流信号の所では、最も高い細胞の誘電率εが記録されるが、周期が短くなるに連れて大きな細胞の誘電率が順に測定不能となり、その誘電率は下がり続けている。
【0027】
ところで、この最も長い印可周期Tの交流信号に応答した細胞の誘電率εから、次に長い周期Tで測定された誘電率を減じると、最も長い印可周期Tの交流信号にのみ応答した細胞の誘電率が求められる。この細胞は、測定した最も大きな細胞となる。
このように順番に隣り合う周期の交流信号の差分を求めることを順番に繰り返すことで、大きな細胞の応答から順に誘電率を求めて行くことができ、測定の最後の印可周期Tによる誘電率は、これより短い周期の応答する細胞を含むものとなる。
【0028】
[計算手段]
次に、上記計測手段で求めた印可した交流信号の印可周期と細胞の誘電率の関係から細胞個数比を求める計算手段を説明する。
測定器の測定可能周期範囲TからT間において、印可する周期の数をN種類、最も長い印可周期をT、最も短い印可周期をT、その間の印可周期を含む、それらの印可周期に応答して測定される細胞の誘電率をε〜εとする。
最も長い印可周期Tの交流信号のみに応答する細胞の誘電率Δεは、Δε=ε−εとなる。
【0029】
以下、同様に印可周期T〜Tの交流信号の各信号のみに応答する細胞の誘電率Δε〜Δεを求め、纏めたものが表1、及び図4に示される。
なお、印可周期T、Tはそれぞれ測定可能範囲であるT、Tを用いても良く、又は周期T〜T間でもっと長い周期をT、最も短い周期をTと設定しても良い。
【0030】
【表1】
【0031】
<細胞の大きさ>
次に細胞の大きさの評価を行う。
隣接する印可周期(例えば、T、TJ+1)の交流信号により計測された細胞の誘電率の差分Δεは、その印可周期T(一義的に対応する周波数も同等)にのみ応答する細胞の大きさにより測定されることから、細胞の大きさは印可周期に比例することになる。
ところで、この誘電率から細胞の正確な大きさを求めることは難しいが、印可された交流信号の周期(又周波数)毎の細胞の大きさの比率を求めることは可能であり、最も長い印可周期Tを基準として各印可周期から求められる細胞の大きさの比(体積比と称す)は、下記式(3)で求められ、表2のように関係付けられる。
【0032】
【数3】
【0033】
【表2】
【0034】
<細胞個数への換算>
細胞の誘電率が細胞の大きさ(体積)に比例することから、測定された周期毎の細胞の誘電率を表2の体積比で除することで、大まかな細胞の大きさ毎の個数の比率、細胞個数比率Pを知ることができる。下記式(4)を用いて求めることができる。
表3は印可周期毎の細胞個数比率の換算表である。
【0035】
【数4】
【0036】
【表3】
【0037】
以上、計算手段において求めてきた、印可した交流信号の周期毎に得られた細胞の誘電率の差分である印可周期Tの交流信号にのみ応答した細胞の誘電率ΔεJ及び細胞個数比率Pを纏めて示すと図5のようになる。
図5で示すように、測定時点における培養中の細胞成長状態を細胞個数比率で知ることが可能となっている。
【0038】
2.細胞密度変化の追跡
これまで述べてきた特定測定時における細胞個数比率で表現された細胞密度を用い、培養開始からの細胞成長による細胞状態の変化を追跡する方法を以下に説明する。
【0039】
培養開始時の時間をt=0[min]とし、一定時間毎(Δt、t=t+IΔt:I=0、1、・・・、M)又は、決めた経過時間t(I=0、1、・・・、M)毎に、先に説明した細胞密度測定方法を実施することにより、各測定時間tにおける細胞密度(細胞個数比率)PIJ(I=0、1、・・・、M:J=1、2、・・・・、N))が求められる。
ここで、添字Iは、培養開始からの時間経過の指標であり、添字Jは、測定時の細胞の大きさの指標である。
【0040】
得られた細胞密度(細胞個数比率)PIJを、培養開始からの経過時間毎に、同じ大きさの細胞毎、即ちPIJにおける同じ添字Jを持つ細胞密度(細胞個数比率)をプロットすることで、大きさの同じ細胞の培養中における発生頻度が得られ、培養中の細胞成長の一端を伺いことができる。
さらに、累積表示することで、培地内での細胞の成長度合いが、細胞の大きさの変化によって伺うことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明を詳細する。
【実施例1】
【0042】
イースト菌を供試材の細胞に用い、その1.2gを煮沸水250mlにグラニュー糖0.85g、食塩1.7gを溶解して作成した溶液の培地と共に容器に装入後、容器全体が30℃を維持するように温度管理しながら、誘電率計を培地内に設置して、誘電率測定を行い、得られた誘電率の測定値から印可周期のみに応答する細胞から得られた誘電率ΔεJを求めた。その求め方の概要を表4に示す。
使用した交流信号には交流電流を採用し、その周波数を表5に示すような「300[KHz]から10000[KHz]」間で、17に分割し、その周波数に対応した周期の交流電流を用いた。
表5に印可周期T、印可周波数f、細胞体積比(体積比)V、及び、応答する最大大きさの細胞の比較図を示す。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
次に、細胞密度として評価する「細胞個数比率」を、測定から求めたΔεと上記細胞体積比Vとから表6に示す式を用いて求め、その求めた「細胞個数比率P」を併せて表6に示すと共に、使用した交流信号の印可周期、測定された細胞の誘電率、単一の周期にのみ応答する細胞による誘電率分布Δε、及び細胞個数比率P図5に示す。
【0046】
【表6】
【0047】
図5からもわかるように、細胞培養におけるある経過時間における細胞の成長状態を映し出している様子がわかる。
本発明の測定方法は、その測定原理上、生細胞のみの影響を受ける点、測定する経過時間を設定可能な点などから、細胞培養の初期から時間が経過した段階までの細胞の成長状態の移り変わりを捉えることが可能である。
【実施例2】
【0048】
実施例1と同様の手法で細胞の誘電率を細胞培養開始からの経過時間ごとに測定を実施して培養開始からの細胞成長による細胞状態の変化を追跡した。
【0049】
培養開始時の時間をt=0[min]とし、一定時間Δt=1[min]毎に、細胞密度測定試験を実施し、各測定時間tにおける細胞密度(細胞個数比率)PIJ(I=0、1、・・・、M:J=1、2、・・・・、N))が求められる。
ここで、添字Iは、培養開始からの時間経過の指標であり、添字Jは、測定時の細胞の大きさの指標である。
【0050】
追跡結果を図6に示す。
横軸は経過時間[min]表示、縦軸は細胞個数比の累積を個数密度としている。
図6からは、細胞がある程度の大きさに成長すると核分裂などによって、サイズダウンした細胞になり、また成長が始まる過程を捉えている。
【符号の説明】
【0051】
1 誘電率計
2 電極
10 培地
12 電極部
12a 電極
12b 配線
12c 電源
20 生細胞
30 死細胞
AC 交流信号(交流電流)
図1
図2
図3
図4
図5
図6