【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る光電変換素子は、
a)半導体基体自体又は該半導体基体内に形成された他の領域であり、第1の導電型である第1の領域と、
b)一つの受光信号を得るための一つの受光範囲内の前記第1の領域の表面にそれぞれ不純物を拡散することで相互に離間してドット状に形成された、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型である複数の領域であって、それぞれが、前記受光範囲に入射した光により前記第1の領域において発生したキャリアを周囲から収集するための複数の第2の領域と、
c)前記複数の第2の領域の上方に設けられ、それぞれ下方に位置する第2の領域と電気的に接続された複数のコンタクト部と、
d)前記第1の領域に対し前記一つの受光範囲内に存在する複数の第2の領域を並列に接続するように、前記複数のコンタクト部同士を接続する導電体である配線部と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る光電変換素子は、例えばフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトダーリントントランジスタ、フォトサイリスタ、フォトトライアックなどを含むものとする。また、本発明に係る光電変換素子は、その形態が素子単体であっても、他の機能が搭載されたICやLSIの一部であってもよい。
【0012】
また本発明に係る光電変換素子では、第1の導電型がN型で第2の導電型がP型であるか、逆に、第1の導電型がP型で第2の導電型がN型であるか、のいずれかである。
【0013】
特許文献2に記載の素子を含め従来の一般的な光電変換素子では、第1の領域のみならず、不純物の拡散によって受光範囲内に形成された第2の領域自体も、光を受けてキャリアを発生する機能を有する。これに対し、本発明に係る光電変換素子では、受光範囲内にドット状に形成された微小である第2の領域は、実質的には光電変換に寄与せず、専らその周囲つまりは第1の領域において光電変換によって生成されたキャリアを収集する作用を果たす。即ち、第1の領域に光が入射してキャリアが生成されると、該キャリアは第2の領域の周りに形成される空乏層ではドリフトによって移動し、またその空乏層よりも外側の第1の領域では拡散によって移動する。ドット状に形成された第2の領域はそれぞれ、その周囲で生成され、上述したように移動して来たキャリアを収集し、それによって、それらキャリアは光電流に反映される。このように、第2の領域は周囲からキャリアを収集できさえすればよいから、その一つ一つの面積はかなり小さくてよく、例えば受光範囲が上面視で30〜40μm□程度以上のサイズである場合に、一つの第2の領域は上面視で4μm□程度以下のサイズ、さらに一層小さい1μm□以下のサイズでもよい。これによって、一つの第2の領域における接合容量はかなり小さくなる。
【0014】
ただし、一つの第2の領域の面積は小さくても、一つの受光範囲当たりの第2の領域の総面積(個々の第2の領域の合計)は第2の領域の数に依存し、その総面積が大きいほど、実質的に光電変換に寄与する領域が狭くなるし、一つの受光範囲における接合容量も大きくなる。
【0015】
そこで、本発明に係る光電変換素子では、一つの目安として、一つの受光範囲内の前記複数の第2の領域の面積の和を該受光範囲の面積の5%程度以下に抑えるようにするとよい。
即ち、本発明に係る光電変換素子の好ましい態様としては、一つの受光範囲内の第1の領域の表面に、上述した程度のサイズの微小な第2の領域を適度な点在密度でドット状に多数配置し、且つ、その多数の第2の領域の面積の和を該受光範囲の面積の5%程度以下に抑えた構成とするとよい、
【0016】
この構成によれば、一つの受光範囲における第1の領域と第2の領域との接合部の接合容量を小さくすることで接合容量に依存するノイズを低減する一方、受光範囲に到達した光によって第1の領域で生成されたキャリアを効率良く収集し、十分な信号強度を得ることができる。それによって、信号のSN比を向上させることができる。
【0017】
また、上述したようなキャリアの移動の態様を考えたとき、拡散によるキャリアの移動の方向は様々であるのに対しドリフトによるキャリアの移動は第2の領域に向かうため、後者のほうがキャリアの収集効率は高い。そこで、受光光量に対応した信号強度をできるだけ大きくするには、第2の領域の周りに形成される空乏層の間隔を狭くすることが望ましく、そのためには、隣接する第2の領域の間隔を広げすぎないようにする必要がある。そこで、それを考慮して、受光面積に対する第2の領域の面積の和の割合のほかに、複数の第2の領域の点在の密度や単位面積当たりの第2の領域の個数を決めるとよい。
【0018】
また上述した特許文献2では、PN接合の接合容量がN型領域内のP型拡散領域の面積に依存するとして論じられているが、第1の領域中に島状に形成された第2の領域と該第1の領域との接合部(典型的にはPN接合)の静電容量は、その第2の領域の面積のみならず、第2の領域の周辺長や空乏層の深さなどの関数となる。ただし、空乏層の深さは第1、第2の領域における不純物濃度やそれら領域間に印加されるバイアス電圧に依存するから、不純物濃度やバイアス電圧が同一であるとの条件の下では、接合容量は、第2の領域の面積と第2の領域の周辺長とに依存するものとみなし得る(特許文献3など参照)。
【0019】
そこで、本発明に係る光電変換素子の一態様として、前記第1の領域と前記複数の第2の領域との接合部の接合容量の和が前記受光範囲の全面に第2の領域を形成したと仮定した場合における第1の領域と第2の領域との接合部の接合容量よりも小さくなるように、前記第2の領域の数、並びに、各第2の領域の面積及び周辺長が定められてなる構成とするとよい。特に、第2の領域の数を多くすると、接合容量における第2の領域一つ当たりの周辺長の影響が大きくなるので注意を要する。
【0020】
この構成によれば、PN接合の接合容量を従来の一般的な光電変換素子の接合容量よりも確実に小さくすることができる。それにより、接合容量に依存するノイズを低減して受光信号のSN比を改善することができる。
【0021】
また、本発明に係る光電変換素子の一態様として、一つの受光範囲内の全ての前記第2の領域が前記コンタクト部及び/又は前記配線部の直下に配置され、該コンタクト部及び/又は該配線部によって実質的に遮光されている構成としてもよい。
【0022】
周知のように、波長の長い光ほど第1の領域内の深い部位まで侵入してキャリアを生成する。一方、波長の短い光は第1の領域内の表面付近でキャリアを生成する。このように表面付近で生成されたキャリアは自己拡散により移動する際に表面まで達すると表面再結合し易く、光電流の損失が大きい。そのため、相対的に長波長の光により生成されたキャリアは第2の領域に到達し易く、相対的に短波長の光により生成されたキャリアは第2の領域に到達しにくい。こうしたことから、第2の領域をコンタクト部や配線部で遮光し、第2の領域中でのキャリアの発生をほぼ無くした上記構成では、比較的長い波長の光に対する受光感度を低下させることなく、短波長の光、具体的には400〜450nm以下の波長の光、に対する受光感度を低くすることができる。
【0023】
なお、一般的な半導体プロセスでは、第2の領域は不純物の拡散によって形成されるため、不純物の打ち込まれた範囲よりも外側に若干拡がる。一方、コンタクト部は第1の領域との短絡を避けるため、接合境界よりも若干内側に形成される。したがって、設計上、第2の領域の直上を被覆するようにコンタクト部や配線部が形成された場合であっても、そのコンタクト部の外縁部よりも第2の領域の外縁部が僅かに外側に位置することになるが、上記態様はこうした状態も包含するものとする。
【0024】
また本発明に係る光電変換素子において、好ましくは、第2の領域の周囲の第1の領域に形成される空乏層広がり領域の上に配置される配線部は、第2の領域の上に配置されるコンタクト部及び配線部よりも線幅が狭い構成とするとよい。又は、第2の領域の周囲の第1の領域に形成される空乏層広がり領域の上に配置される配線部はポリシリコン等の光透過性導電体又は光半透過性導電体からなるものとしてもよい。もちろん、コンタクト部も同様に、光透過性導電体又は光半透過性導電体からなるものとしてもよい。
【0025】
コンタクト部同士を繋ぐ配線部は少なくともその一部が第1の領域の上を通過することは避けられない。それに対し上記いずれかの構成によれば、アルミニウム等の一般的な導電体材料を配線部として用いた場合に比べて、配線部による遮光の度合いが小さい又は殆どないので、得られる光電流を増加させることができる。
【0026】
また基本的には、第2の領域の上面視形状は任意であるものの、同じ面積であれば周辺長が小さいほうが接合容量を小さくするうえで有利である。そのため、第2の領域の上面視形状は長方形よりは正方形に近い矩形状が好ましく、さらには多角形状が好ましく、理想的には円形状とするのがよい。
【0027】
また、上述したようにドット状に複数の第2の領域を配置する場合、十字の格子の交点位置に各第2の領域を配置するようにしてもよいが、1行おき又は1列おきに隣接する第2の領域の間隔の1/2だけ第2の領域の位置をその行又は列の延伸方向にずらした配置としてもよい。
【0028】
この構成によれば、十字の格子の交点位置に第2の領域を配置する場合と比べて、受光領域内の任意の点から直近の第2の領域までの距離が一定以内になるという条件の下で第2の領域を配置したときに、配置すべき第2の領域の数が少なくて済む。その結果、同程度の受光感度を保ちつつ、接合部の接合容量を一層低減することができる。
【0029】
さらにまた、上述したようにドット状に多数の第2の領域を形成する場合に、複数の第2の領域が直線上に位置するようにし、その直線上の複数の第2の領域を直線的な配線部で結線し、その配線部の延伸方向における第2の領域の間隔を該配線部の延伸方向に直行する方向における第2の領域の間隔よりも小さくするとよい。これにより、受光領域内の任意の点から直近の第2の領域までの距離が一定以内になるという条件の下で、配線部の並びの間隔を大きくすることができるので、配線部による遮光の度合いを小さくすることができる。その結果、より多くの光を受光することができ、信号強度を大きくすることができる。
【0030】
また、本発明に係る光電変換素子では、前記第1の領域内に分散配置された前記複数の第2の領域の間の空乏層領域の外側に、その周囲の第1の領域よりも第1の導電型の不純物濃度が濃い、上面視でドット状又は線状の高濃度領域が形成されてなる構成としてもよい。この高濃度領域の拡散は、表面からの拡散のみならず埋め込み型の拡散でもよい。
この構成によれば、第1の領域内において高濃度領域の位置から第2の領域に向かって不純物濃度勾配が形成され、それによってキャリアの移動を促進するポテンシャル勾配が形成されることになる。その結果、第2の領域へのキャリアの移動効率が向上し、受光感度の向上や動作速度の改善を図ることができる。
【0031】
また本発明に係る光電変換素子では、接合容量の観点からみて、上述したように、一つの第2の領域の面積はコンタクト部との電気的接続が確実に確保できる等の条件を満たしたうえで、できるだけ小さいほうが好ましい。一方、隣接する第2の領域の間隔は、光入射によって第1の領域内で生成されたキャリアがドリフト可能であるドリフト領域の幅以内であって且つ第2の領域に到達する効率が十分に高い(つまりは受光感度の低下が十分に小さい)距離以内であることが望ましい。
【0032】
なお、ドリフト領域の幅は不純物濃度勾配等に依存するものの、本発明者の実験の結果等から推測すると、第1の領域の不純物濃度が約1×10
15atoms/cm
3で且つ第2の領域の拡散深さが2μm程度である場合に、第2の領域を例えば1辺が1μm以下の上面視矩形状とし、隣接する第2の領域の間隔を40μm程度以下、より好ましくは30μm程度以下とするとよい。
【0033】
ただし、空乏層よりも外側の第1の領域におけるキャリアの拡散による移動速度を空乏層におけるキャリアのドリフトによる移動速度並みに上げることは難しいから、特に高速性を重視する場合には、第2の領域の周囲に形成される空乏層広がり領域の隙間がないように第2の領域を配置することが好ましい。それによって、入射光に応じて生成されたキャリアのほぼ全てがドリフトによって第2の領域に到達するので、応答を高速化することができる。また、キャリアの収集効率も高くなる。もちろん、その場合でも、受光範囲全体の接合容量を低減するには、第2の領域の間隔をできるだけ広くすることが望ましい。そこで、本発明に係る光電変換素子の一態様として、空乏層広がり領域の隙間がないように且つ空乏層広がり領域の重なりができるだけ小さくなるように第2の領域を配置するために、複数の第2の領域が上面視でハニカム形状の交点の位置に配置されるようにするとよい。
【0034】
また、応答の高速化と受光範囲の大面積化とを両立させるには、複数の第2の領域は、その各第2の領域の周囲の第1の領域に形成される空乏層広がり領域が重ならないように互いに離して配置され、受光面の中で、各第2の領域の周囲の空乏層広がり領域よりも外側の領域の全体又はその一部に光の入射を遮る遮光部を備える構成とするとよい。
この構成によれば、受光面の面積を広くした場合でも、入射光に応じたキャリアのほぼ全てが各第2の領域の周囲の空乏量広がり領域で生成されるので、キャリアは迅速に第2の領域に到達し高速応答が実現できる。また、受光面の面積を広くした場合でも第2の領域の総数を抑えることができるので、接合容量も抑えることができる。一方、受光面の面積が大きいことで、広い範囲に到達する入射光を効率良く受けることができるし、また広い範囲内の様々な位置に到達する入射光を確実に受けることができ、入射光の光軸調整の許容度を広げることができる。
【0035】
また、第2の領域をドット状に形成する場合には、第2の領域同士を接続する配線部が受光領域内に配設されることが避けられないが、配線部に電磁ノイズが飛び込むと受光信号のノイズレベルを増加させる大きな要因となる。
【0036】
そこで、本発明に係る光電変換素子において、好ましくは、
前記コンタクト部及び前記配線部を被覆するように形成された絶縁膜と、
該絶縁膜の上であって前記コンタクト部及び前記配線部の直上に配設された導電体部と、をさらに備え、
該導電体部に所定の固定電位を与えることにより該導電体部を電気的なシールドとして機能させるようにした構成とするとよい。
【0037】
この構成によれば、導電体部は、外来ノイズが下層の配線部に飛び込むのを防止する電磁遮蔽効果を有するので、受光信号への外来ノイズの影響を軽減することができる。
【0038】
本発明に係る光電変換素子において、より好ましくは、
前記配線部の直上に絶縁膜を間に挟んで設けられた前記導電体部から該絶縁膜中に延出して前記配線部の側方を囲むように複数の導電性の柱状部を形成し、前記導電体部と共に前記柱状部を電気的なシールドとして機能させるようにした構成とするとよい。
【0039】
この構成によれば、導電体部が電磁遮蔽効果を有するのみならず、配線部の側方に配置された複数の柱状部も電磁遮蔽効果を有するので、斜め方向から配線部に飛び込もうとするノイズも遮蔽することができ、電磁遮蔽性が一層向上する。
また、それぞれ絶縁膜を間に挟んで前記配線部の少なくとも一部の直上と直下とに導電体部を設け、その上側の導電体部と下側の導電体部とを接続するビアを前記柱状部とする構成としてもよい。
【0040】
ところで、用途が決められている光電変換素子では、使用される光の波長帯域が限られるものがある。具体的には、光電スイッチでは、通常、830〜850nmと620〜660nmの波長帯域の光が併用されるし、ファイバ方式の光電スイッチでは、620〜660nmの波長帯域の光が単独で使用される。こうした用途に対応した光電変換素子では、その波長帯域以外の光は考慮する必要がなく、受光感度やSN比などの点や動作速度の点などにおいて、その波長帯域の光を受光するのに最適な構造を提供できることが望ましい。そこで、特定の波長帯域の光に対応する光電変換素子において、応答時間が要求仕様を満たしたうえで、接合容量をできるだけ抑えることで受光信号のSN比を改善することを考える。
【0041】
本発明に係る光電変換素子では、上述したように、接合容量は第2の領域の面積と周辺長とに依存するから、一つの第2の領域の面積が同じであれば、受光領域内に配設される第2の領域の数が少ないほど接合容量は小さくなる。一方、第2の領域の数を減らすには隣接する第2の領域の間隔を広げる必要があるが、これを広げるほどキャリアが第2の領域に到達するまでに要する時間が長くなるため、応答時間が遅くなる。特に空乏層内で発生したキャリアは電界の作用によるドリフトで移動するため移動速度が速いのに対し、空乏層の外側の第1の領域中で発生したキャリアは拡散によって移動するので移動速度が遅い。光は波長が長いほど第1の領域の深い位置まで侵入するため、同じ第1の領域内でもキャリアが多く発生する深さが受光する光の波長帯域によって異なり、深い位置でキャリアが発生するほど第2の領域に到達するまでに時間が掛かることになる。
【0042】
そこで、光の波長帯域が長波長側である場合でも必要な応答速度を達成するためには、光の波長帯域が長波長側であるほど隣接する第2の領域の間隔を狭くすることで、キャリアが第2の領域に到達するまでの最長経路を相対的に短くする必要がある。
【0043】
そこで本発明に係る光電変換素子の一態様として、前記複数の第2の領域の間隔が少なくとも、使用される光の波長、及び、要求される応答時間又は応答速度に応じて定められている構成とするとよい。
【0044】
具体的には、要求される応答時間又は応答速度が同一であれば、使用される光の波長が長波長帯域であるほど、第2の領域の間隔は狭くなる。それによって、使用される光の波長が長波長であっても必要な応答速度を確保することが可能となる。もちろん、第2の領域の間隔を狭めると、受光面積が同じであれば、第2の領域の数は多くなり、その分だけ、接合容量は大きくなる。そのため、受光信号のSN比の点では不利であるものの、受光領域全体に拡散層である第2の領域を形成した従来の一般的な光電変換素子に比べれば、高いSN比を実現することができる。
なお、実際には、第2の領域の間隔はシミュレーション又は実験により求めることができる。