【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月3日発行の、日本金属学会 講演概要集 2013年(第153回)秋期講演大会,DVD−ROM,(公益社団法人日本金属学会)において(「めっき法による銅/ダイヤモンド複合材料の作製とその熱伝導性評価」について公開した。 平成25年9月17日、日本金属学会 2013年(第153回)秋季講演大会,(金沢大学角間キャンパス(石川県金沢市角間町))において、めっき法による銅/ダイヤモンド複合材料の作製とその熱伝導性評価」について公開した。 平成25年10月1日発行の、日本化学会秋季事業 第3回CSJ化学フェスタ2013 プログラム 講演予稿集(公益社団法人日本化学会)において「金属/ダイヤモンド複合材料の作製とその熱伝導性評価」について公開した。 平成25年10月23日、日本化学会秋季事業,第3回CSJ化学フェスタ2013,タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀四丁目1番1号)において「金属/ダイヤモンド複合材料の作製とその熱伝導性評価」について公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
動作により発熱する機器は、発生した熱を放散させるヒートシンクやヒートスプレッダのような放熱器を有している。この放熱器の放熱材として、銅マトリクス中に高熱伝導体であるダイヤモンド粒子を担持した銅−ダイヤモンド複合材が知られている。
【0003】
このような複合材の熱伝導率を示す理論式として、Hasselman-Johnson(ハッセルマン−ジョンソン)の式が非特許文献1に開示されている。Hasselman-Johnsonの式を数式1に示す。この式によれば、銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率の理論値を算出することができる。
【0004】
【数1】
【0005】
数式1中、k:銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率(W/mK)、k
m:銅の熱伝導率(W/mK)、k
d:ダイヤモンドの熱伝導率(W/mK)、V
d:ダイヤモンド粒子の体積分率、α:ダイヤモンド粒子の半径(m)、h
c:ダイヤモンドと銅との界面熱伝達率(W/m
2K)である。また、k
m=398、k
d=900であり(非特許文献2)、h
c=88577882.1(非特許文献3)である。
【0006】
図10は、数式1に従って算出された銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率の計算値を、10、25、100μmの平均粒径を有するダイヤモンド粒子毎にプロットしたグラフである。横軸は銅−ダイヤモンド複合材中のダイヤモンド含有率(vol%)を表し、縦軸は銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率(W/mK)を表している。同図のグラフによれば、平均粒径45μm以上の大粒径のダイヤモンド粒子は、その平均粒径が大きいほど、またその含有率が高いほど銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率を向上させることができる。一方、平均粒径10μmのような小粒径のダイヤモンド粒子は、その含有率が高いほど却って銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率を低下させてしまう。
【0007】
特許文献1に銅−ダイヤモンド複合材の製造方法が開示されている。この製造方法は、ダイヤモンド粒子同士が接触しつつ銅と共析するように、めっき液の撹拌速度を細かく変化させながら電気めっきを行うものである。それによってダイヤモンド粒子は、銅−ダイヤモンド複合材の厚さ方向で局所的に偏在する。ダイヤモンド粒子がそれの偏在箇所で互いに接触していることにより、ダイヤモンド粒子間で熱伝導を生じるので、この製造方法により得られる銅−ダイヤモンド複合材は、純銅よりも高い熱伝導率を有している。
【0008】
めっき液中のダイヤモンド粒子の挙動は、ダイヤモンド粒子の粒径及び形状、めっき液の比重、銅との共析の速度、並びにめっき液の電気分解により生成する気体等の要因の影響を受ける。そのため特許文献1に開示された銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、ダイヤモンド粒子同士が接触する撹拌条件を設定するのに、これらの要因に応じ、実験を繰り返さなければならなかった。このことは、銅−ダイヤモンド複合材の製造条件を決定する時間を長引かせ、製造コストの高騰を招来していた。さらにめっき液の撹拌速度の条件を設定したとしても、これらの要因は、めっき工程毎に異なるものであるので、撹拌だけでダイヤモンド粒子同士が必ず接触するように、一様に制御することができなかった。
【0009】
またダイヤモンド粒子は互いに結合しないので、ダイヤモンド粒子が局所的に偏在した銅−ダイヤモンド複合材は、曲げ強さに乏しい。このような銅−ダイヤモンド複合材は、曲げられるとダイヤモンド粒子同士の接触が寸断されてしまうので、熱伝導率の低下を生じていた。そのため、曲げのような変形を伴う放熱器に使用できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、純銅よりも格段に高い熱伝導率を有し、曲げによって変形しても熱伝導率が低下しない銅−ダイヤモンド複合材、及びこの銅−ダイヤモンド複合材を簡便に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた本発明の銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子の少なくとも一部が、立方最密及び/又は六方最密に積み重ねられて銅
からなるマトリクスに担持されて
おり、前記ダイヤモンド粒子の形状が、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形、及び/又は十角形の多角形を組み合わせた六面体、八面体、十二面体、及び/又は二十面体の多面体であるものである。
【0014】
銅−ダイヤモンド複合材は、
前記六面体が前記三角形の8面と前記八角形の6面とを組み合わせた切頂六面体であり、前記八面体が前記六角形の8面と前記四角形の6面とを組み合わせた切頂八面体、前記三角形の8面と前記四角形の6面とを組み合わせた立方八面体、及び/又は前記四角形の12面と前記六角形の8面と前記八角形の6面とを組み合わせた斜方切頂立方八面体であり、前記十二面体が正十二面体、及び/又は前記三角形の20面と前記十角形の8面とを組み合わせた切頂十二面体であり、前記二十面体が正二十面体、及び/又は前記五角形の12面と前記六角形の20面とを組み合わせた切頂二十面体であることが好ましい。
【0015】
銅−ダイヤモンド複合材は、前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が、少なくとも45μmであることが好ましい。
【0016】
銅−ダイヤモンド複合材は、前記ダイヤモンド粒子が、少なくとも30vol%含まれていることが好ましい。
【0017】
銅−ダイヤモンド複合材は、前記ダイヤモンド粒子と前記銅マトリクスとの少なくとも一部が、密着していてもよい。
【0018】
銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子を含有するめっき液に、陰極板と前記陰極板の上方に配置された陽極板とが水平に対向して浸かっており、前記めっき液の撹拌を行って前記ダイヤモンド粒子を分散させ、前記撹拌を止め、沈降する前記ダイヤモンド粒子の少なくとも一部を立方最密及び/又は六方最密に堆積させつつ、前記陰極板と前記陽極板との間に電流を通じて、前記陰極板上に銅マトリクスと前記ダイヤモンド粒子とを共析させたものであることが好ましい。
【0019】
銅−ダイヤモンド複合材は、前記電流の密度が、陰極板において最大20A/dm
2であってもよい。
【0020】
銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、
三角形、四角形、五角形、六角形、八角形、及び/又は十角形の多角形を組み合わせた六面体、八面体、十二面体、及び/又は二十面体の多面体形状を有するダイヤモンド粒子を含有するめっき液に、陰極板と前記陰極板の上方に配置された陽極板とが水平に対向して浸かっており、前記めっき液の撹拌を行って前記ダイヤモンド粒子を分散させ、前記撹拌を止め、沈降する前記ダイヤモンド粒子の少なくとも一部を立方最密及び/又は六方最密に堆積させつつ、前記陰極板と前記陽極板との間に電流を通じて、前記陰極板上に銅
からなるマトリクスと前記ダイヤモンド粒子とを共析させるものである。
【0021】
銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、前記電流を通じる際及び/又はその直前に、前記めっき液及び/又は前記陰極板に振動を付与することが好ましい。
【0022】
銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、
前記六面体が前記三角形の8面と前記八角形の6面とを組み合わせた切頂六面体であり、前記八面体が前記六角形の8面と前記四角形の6面とを組み合わせた切頂八面体、前記三角形の8面と前記四角形の6面とを組み合わせた立方八面体、及び/又は前記四角形の12面と前記六角形の8面と前記八角形の6面とを組み合わせた斜方切頂立方八面体であり、前記十二面体が正十二面体、及び/又は前記三角形の20面と前記十角形の8面とを組み合わせた切頂十二面体であり、前記二十面体が正二十面体、及び/又は前記五角形の12面と前記六角形の20面とを組み合わせた切頂二十面体であることが好ましい。
【0023】
銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、前記めっき液が硫酸銅と硫酸とからなるものであってもよい。
【0024】
銅−ダイヤモンド複合材の製造方法は、前記陰極板における前記電流の密度が、最大で20A/dm
2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子の少なくとも一部が立方最密及び/又は六方最密に積み重ねられて銅マトリクスに担持されているので極めて高い熱伝導率を有している。またダイヤモンド粒子の表面の大部分が、銅マトリクスに囲まれているので、この銅−ダイヤモンド複合材は、曲げられても熱伝導率が低下しないものである。
【0026】
この銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子が多角形を組み合わせた多面体の形状を有していたり、平均粒径45μm以上の大粒径であったりすると、従来の銅−ダイヤモンド複合材に比べて、高い熱伝導率を有する。
【0027】
この銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子が30vol%以上含まれていると、熱伝導率をより向上させることができる。
【0028】
この銅−ダイヤモンド複合材料の製造方法は、陰極板とこれの上方の陽極板とが水平に対向してダイヤモンド粒子を含有するめっき液に浸かっており、このめっき液を撹拌した後、撹拌を止めることによってダイヤモンド粒子を陰極板上に堆積させつつ、電流を流して銅マトリクスを電気めっきするものであるので、大粒径のダイヤモンド粒子を銅−ダイヤモンド複合材に含有させることができる。それにより高熱伝導率を有する銅−ダイヤモンド複合材を、簡便に製造することができる。
【0029】
この銅−ダイヤモンド複合材料の製造方法は、電流を通じる際及び/又はその直前に、めっき液及び/又は陰極板に振動を付与するものであると、大粒径のダイヤモンド粒子が最密に積み重なり易い。その結果、曲げられても高い熱伝導率を保持する銅−ダイヤモンド複合材を、簡易にかつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0032】
本発明の銅−ダイヤモンド複合材は、ダイヤモンド粒子が銅マトリクスに担持されているものであり、以下の一形態で製造される。
【0033】
図1に、本発明の銅−ダイヤモンド複合材1を製造するためのめっき装置100の模式図を示す。
【0034】
まず、陰極板40をめっき槽10の内壁の底面に水平に敷く。陽極板50を、陰極板40と平行に対向させてクランプ(不図示)で固定する。陰極板40及び陽極板50を、電線で電源60につなげる。このとき、陰極板40と電源60とを繋ぐ電線を樹脂製の被覆材70で確りと覆う。それによってこの電線が電気めっきによって溶解することを防止する。
【0035】
硫酸銅と硫酸との混合溶液に、ダイヤモンド粒子2を投入し、ダイヤモンド粒子2を含有するめっき液20を調製する。陰極板40に対向している陽極板50の面が完全に浸漬する量のめっき液20をめっき槽10に注いでめっき浴30を準備する。
【0036】
めっき浴30に撹拌棒80を入れる。撹拌棒80は、長尺の棒部と、めっき液20に浸された下端部に平板状の羽根部とを有する。棒部の基端は、モーター等の動力源(不図示)に接続されている。この動力源を動作させることにより、撹拌棒80を回転させて、めっき液20を撹拌する。それにより、ダイヤモンド粒子2をめっき液20中に分散させる。撹拌速度や撹拌時間のような撹拌条件は、めっき槽10の容量や形状、めっき液20の量、陰極板40及び陽極板50の位置によって適宜設定されるが、めっき液20中にダイヤモンド粒子2が分散される条件であれば、特に制限されない。
【0037】
撹拌棒80の回転を止める。ダイヤモンド粒子2は、化学的にも電気的にも安定であるので、ダイヤモンド粒子2同士で凝集したり、めっき液20と反応したりしない。このため撹拌棒80の回転を止めると、めっき液20に分散していたダイヤモンド粒子2は、重力に応じてゆっくりと沈降し、陰極板40上に徐々に堆積する。ダイヤモンド粒子2は、それが有する自由エネルギーを減少させる方向へと自然に進むため、最も自由エネルギーが低い状態である最密構造を形成するように陰極板40上に積み重なる。
【0038】
なお、ダイヤモンド粒子2がすべて同径の真球であると仮定した場合、立方最密又は六方最密に積み重ねられたダイヤモンド粒子2の単位空間格子当たりの占有率は、74vol%である。また体心立方に積み重ねられた場合、この占有率は68vol%である。
【0039】
続いて電源60を動作させて、陰極板40と陽極板50との間に電流を通じる。このとき、陰極板40における電流密度が0.01〜20dm
2の一定電流とした電流規制法で行うことが好ましい。この電流密度の範囲は、25℃条件下、陰極板40における銅の還元電位を、飽和カロメル電極を基準して示すと0.07〜−0.7Vに相当する。この電位は、めっき浴30に浸漬している陰極板40の近傍に飽和カロメル電極を配置することによって測定される。
【0040】
めっき液20が電気分解されることによって、最密に積み重ねられたダイヤモンド粒子2により形成された空隙を埋めるように、銅マトリクス3が陰極板40上に電気めっきされる。それによって、銅マトリクス3とダイヤモンド粒子2とが共析した銅−ダイヤモンド複合材1が製造される。
【0041】
このように、銅−ダイヤモンド複合材1の製造方法は、撹拌によって、ダイヤモンド粒子2をめっき液20に分散させるだけの簡便な操作で足り、撹拌速度や撹拌時間を細かく変化させる必要がないので銅−ダイヤモンド複合材の製造工程を簡略化することができる。しかも撹拌を止めると、ダイヤモンド粒子2は陰極板40上に堆積して最密構造を形成するように自然に積み重なるので、平均粒径45μm以上の大粒径であるダイヤモンド粒子2を、銅マトリクス3と共析させることができる。それによって、純銅よりも格段に高い熱伝導率を有する銅−ダイヤモンド複合材1を、簡易に製造することができる。
【0042】
めっき液20は、硫酸銅及び硫酸を含んでおり、光沢剤やレベリング剤のような添加剤を実質的に含んでいないことが好ましい。具体的に例えば0.85M硫酸銅五水和物と0.55M硫酸とを混合しためっき液を挙げることができる。それによって、高純度で、粗大な結晶子からなる銅マトリクス3が得られる。添加剤を含むめっき液で電気めっきされることにより微細な結晶子からなる銅マトリクスに比べて、この銅マトリクス3は、熱伝達損失を生じる結晶粒界が少ないので、高い導電性を有し、かつ延性に富んでいる。
【0043】
めっき槽10の材料及び形状は、電気めっきで行われる操作によって、変質や変形を生じないものであれば、特に限定されない。めっき槽10の材料として例えば、ステンレス、ガラス、及び樹脂を挙げることができる。
【0044】
陰極板40の材料は、銅、金、白金、銀、ステンレス、カーボンのような電気化学的に安定で、電気の良導体であることが好ましい。陰極板40の材料が、銅−ダイヤモンド複合材1との密着性が良好な銅であると、陰極板40を銅−ダイヤモンド複合材1の基板として放熱器に用いることができる。また、陰極板40の材料が、銅−ダイヤモンド複合材1との密着性に乏しいステンレスであると、銅−ダイヤモンド複合材1をわずかな力で陰極板40から剥離することができる。陽極板50の材料は、陰極板40と同様であるが、金属単体の場合、銅又は銅よりも貴な金属でなければならない。
【0045】
なお、陽極板50の材料が銅である場合、電流を通じることによって陽極板50が溶解する。溶解した銅は、銅マトリクス3として陰極板40にめっきされる。
【0046】
また撹拌棒80は、めっき液20を撹拌でき、ダイヤモンド粒子2が陰極板40に堆積して積み重なることを妨げないものであればよい。撹拌棒の他に例えば、撹拌子及び撹拌板を挙げることができる。
【0047】
上記の製造方法によって得られた本発明の銅−ダイヤモンド複合材1の一形態の模式断面図を
図2に示す。
【0048】
銅−ダイヤモンド複合材1は、ダイヤモンド粒子2と銅マトリクス3とを有している。ダイヤモンド粒子2は、水平な陰極板40上に最密に積み重なっている。銅マトリクス3は、ダイヤモンド粒子2に囲まれた空隙を充填している。それによってダイヤモンド粒子2は銅マトリクス3に担持されている。
【0049】
ダイヤモンド粒子2は、最密に積み重ねられていることにより、互いに接触しつつ略均等に銅−ダイヤモンド複合材1中に存在している。そのため銅マトリクス3も同様に銅−ダイヤモンド複合材1中に略均等に存在している。
【0050】
図3にダイヤモンド粒子2の電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM;日本電子株式会社製、製品名7000F)にて観察した画像を示す。ダイヤモンド粒子2の平均粒径は、同図(a)が45μmであり、同図(b)が195μmであり、同図(c)が230μmである。ダイヤモンド粒子2の平均粒径の測定方法は、沈降法、動的散乱法、レーザー回折法、及び画像解析法を挙げることができる。また平均粒径としてモード径、メディアン径及び算術平均径を用いることができる。具体的にダイヤモンド粒子2の平均粒径として、レーザー回折式粒径分布測定装置(CILAS社製、1064型)にて測定された粒径分布に基いて算出されたモード径を用いることができる。なおこの場合粒径分布は、分散媒に純水、分散剤にリン酸ナトリウムを用いて測定されたものであることが好ましい。これらのダイヤモンド粒子2は、夫々略均一な粒径を有している。また、同図(b)及び(c)に示すダイヤモンド粒子2は、六角形8面と四角形6面とが組み合わされた多面体である略切頂八面体をなしている。
【0051】
ダイヤモンドは、四方向に劈開し易く、八面体又は球状の晶癖を有するので、多角形を組み合わせた多面体形状を形成し易い。特に
図3(b)及び(c)に示すように大きな平均粒径を有するダイヤモンド粒子は、一定の多面体形状に凡そ揃えることができる。そのため、ダイヤモンド粒子2の平均粒径は、45μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることが一層好ましく、200μm以上であることがより一層好ましい。
【0052】
ダイヤモンド粒子2の形状及び粒径が凡そ揃っていることによって、ダイヤモンド粒子2は、銅−ダイヤモンド複合材1中で、単位体積当たりの充填率が高く、エネルギー的に安定する最密構造を形成する。この最密構造として、立方最密又は六方最密のいずれの構造も形成することができる。銅−ダイヤモンド複合材1中でダイヤモンド粒子2が占める体積を高めることにより、銅−ダイヤモンド複合材1の熱伝導率を高めることができる。なお、銅−ダイヤモンド複合材1中に立方最密及び六方最密が混在していてもよい。
【0053】
銅−ダイヤモンド複合材1中、ダイヤモンド粒子の含有率が一定である場合、略球状の多面体であるダイヤモンド粒子2と銅マトリクス3との接触面積は、不揃いな形状のダイヤモンド粒子に比べて小さい。このようなダイヤモンド粒子2は、これと銅マトリクス3との間で生じる熱伝達損失を小さくすることができるので、銅−ダイヤモンド複合材1の熱伝導率をより向上させることができる。
【0054】
ダイヤモンド粒子2の含有率が高いほど、またそれの平均粒径が大きいほど、銅−ダイヤモンド複合材1の熱伝導率は高くなる。そのため、ダイヤモンド粒子2の含有率は、銅−ダイヤモンド複合材1中、30vol%以上であることが好ましく、50vol%以上であることがより好ましく、60vol%以上であることが一層好ましい。
【0055】
銅マトリクス3は、電気めっきによって形成されているので、ダイヤモンド粒子2の表面に密着して、これを担持している。それにより、銅−ダイヤモンド複合材1は、ダイヤモンド粒子2と銅マトリクス3との界面の熱伝達損失を低減させている。また、銅マトリクス3は延性を有するので、外力によって銅−ダイヤモンド複合材1が曲げられたとしても、銅マトリクス3はダイヤモンド粒子2を担持した状態を維持できる。その結果、銅−ダイヤモンド複合材1は熱伝導率の低下を生じない。
【0056】
銅マトリクス3はダイヤモンド粒子2の表面に直接電気めっきされないので、銅マトリクス3が電気めっきされる面積は、最密に積み重ねられたダイヤモンド粒子2に囲まれた空隙の形状に応じて変化する。そのため一定電流条件の電気めっき中、陰極板40の電位が変化する。陰極板40における電流密度を最大で20A/dm
2とすることにより、過電圧の過度な上昇を抑制できる。それにより、めっき液20に含まれる水の電気分解によって陰極板40で気体の水素が発生することを防止し、銅マトリクス3内に熱伝導を妨げる空隙であるピットやピンホールを生じさせない。さらに、銅の結晶成長を促し、個々の結晶径を大きくさせて、結晶粒界の生成を可及的に少なくできる。その結果、結晶粒界で生じる熱伝達損失を減じることができる。
【0057】
このように、硫酸銅と硫酸とを含有するめっき液に、一定の電流を通じて電気めっきされた銅マトリクス3は、高純度と粗大な結晶とを有するので、高い熱伝導率と実用上の曲げに耐えうる延性とを兼ね備える。
【0058】
陰極板40と陽極板50との間に電流を通じる際、及び/又はその直前に、めっき液20又は陰極板40に振動を付与してもよい。それによって、陰極板40上に堆積して積み重なるダイヤモンド粒子2を均すことができるので、理想的な最密構造を形成することができる。振動は、例えば、めっき液20又は陰極板40に超音波振動器のような発振装置を接触させることによって付与することができる。なお振動は、めっき液20及び陰極板40の双方に付与してもよい。
【0059】
ダイヤモンド粒子2の形状として、略切頂八面体を挙げたが、略球形をなす多面体であればよい。ダイヤモンド粒子2の形状が略球形であると、最密に積み重なり易い。ダイヤモンド粒子2の形状は、
図4(a)に示す三角形8面と八角形6面とを組み合わせた切頂六面体、同図(b)に示す三角形20面と十角形8面とを組み合わせた切頂十二面体、同図(c)に示す五角形12面と六角形20面とを組み合わせた切頂二十面体、同図(d)に示す三角形8面と四角形6面とを組み合わせた立方八面体、同図(e)に示す四角形12面と六角形8面と八角形6面とを組み合わせた斜方切頂立方八面体を挙げることができる。これらの多面体を構成する多角形は、正多角形であってもよい。このような多面体は、半正多面体又はアルキメデスの立体と呼ばれる。またこれらの他に、正十二面体、正二十面体を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の銅−ダイヤモンド複合材を作製した実施例、本発明を適用外の銅−ダイヤモンド複合材を作製した比較例、及び純銅をめっきした参考例を示す。
【0061】
なお、銅−ダイヤモンド複合材中のダイヤモンド粒子の含有率を、次のように求めた。銅−ダイヤモンド複合材の重量を測定した後、硝酸で銅マトリクスを溶解し、残ったダイヤモンド粒子の重量を測定した。これらの測定値から銅−ダイヤモンド複合材に対するダイヤモンド粒子の重量比を算出し、さらに銅及びダイヤモンドの夫々のかさ密度に基いてダイヤモンド粒子の含有率(vol%)を算出した。なお、銅のかさ密度Ρ
Cuを8.96g/cm
3、ダイヤモンドのかさ密度Ρ
dを3.51g/cm
3とした(公益社団法人日本化学会、「化学便覧基礎編I」、丸善株式会社、平成3年2月28日、改訂3版、p.24−26)。
【0062】
(実施例1)
本発明を適用する銅−ダイヤモンド複合材を作製した。縦3.5cm、横7cm、高さ6.5cmの略直方体で天面が開口したアクリル樹脂製めっき槽の内壁の底面に、ステンレス製で、厚さ0.3mmの陰極板を敷いた。めっき槽に、0.85M硫酸銅五水和物と0.55M硫酸とからなる硫酸銅めっき液100mLを注ぎ入れてめっき浴を調製した。めっき液の温度を、室温(25℃)とした。
【0063】
純銅製で厚さ2mmの陽極板をL字形に折り曲げ、その一部をクランプ(不図示)で挟んだ。クランプがめっき液に浸らないように、めっき液中で陽極板を陰極板に対向させて固定した。陰極板と陽極板との間隔を2.5cmとした。陰極板と電源(菊水電子工業株式会社製、製品名PMC35−3)の負極とを被覆材で被覆された電線でつなぎ、陽極板と電源の正極とを電線でつないだ。
【0064】
平均粒径45μmのダイヤモンド粒子(Changsha Xinye社製、製品名Micron Powder MMP)を、FE−SEMを用いて観察し、
図3(a)に示す画像を得た。この画像により、ダイヤモンド粒子の形状が凡そ揃っていることを目視にて確認した。このダイヤモンド粒子をめっき浴に加えて0.4953gのダイヤモンド粒子を含有しためっき液を調製した。
【0065】
次いでめっき液中に、下端部で平板状の羽根部が出っ張った撹拌棒をめっき液に入れ、1000rpmで、5分間回転させてダイヤモンド粒子をめっき液中に十分に拡散させた後、撹拌棒の回転を止めた。それにより、拡散していたダイヤモンド粒子が重力に従ってゆっくりと沈降を始めた。
【0066】
すべてのダイヤモンド粒子が沈降した後、電源を動作させて、陰極板の電流密度が0.5A/dm
2となるようにめっき液に電流を13.5時間通じた。このときの電位は、飽和カロメル電極基準で最大−0.1Vであった。それにより、陰極板上に最密に積み重なったダイヤモンド粒子と、それの空隙を充填している銅マトリクスとが共析した。これを、めっき槽から取り出した陰極板から剥がして、ダイヤモンド粒子の平均粒径45μm、含有率32vol%で、165μm厚の実施例1の銅−ダイヤモンド複合材を作製した。
【0067】
(実施例2)
平均粒径195μmのダイヤモンド粒子(Changsha Xinye社製、製品名SXD 70 70/80)を、FE−SEMを用いて観察し、
図3(b)に示す画像を得た。この画像により、ダイヤモンド粒子が凡そ揃った略切頂八面体形状を有するものであること、及び粒径が凡そ揃っていることを目視にて確認した。このダイヤモンド粒子を硫酸銅めっき液に加えて、2.1464gのダイヤモンド粒子を含有しためっき液としたこと、及び電流を58.5時間通じたこと以外は、実施例1と同様に操作した。それによりダイヤモンド粒子を53vol%含有し、275μm厚の実施例2の銅−ダイヤモンド複合材を作製した。
【0068】
(実施例3)
平均粒径230μmのダイヤモンド粒子(Changsha Xinye社製、製品名SXD 70 60/70)を、FE−SEMを用いて観察し、
図3(c)に示す画像を得て、実施例2と同様に粒径及び形状を目視にて確認した。このダイヤモンド粒子を硫酸銅めっき液に加えて、2.5317gのダイヤモンド粒子を含有しためっき液としたこと、及び電流を69時間通じたこと以外は、実施例1と同様に操作した。それによりダイヤモンド粒子を61vol%含有し、335μm厚の実施例3の銅−ダイヤモンド複合材を作製した。
【0069】
(比較例)
本発明を適用外の銅−ダイヤモンド複合材を作製した。
図5に比較例に用いた平均粒径10μmのダイヤモンド粒子のFE−SEM画像を示す。平均粒径10μmのダイヤモンド粒子は、いずれの粒子も多角形を組み合わせた多面体でなく、また粒子径も不揃いであった。このダイヤモンド粒子を硫酸銅めっき液に加えて、0.1101gのダイヤモンド粒子を含有しためっき液としたこと、及び電流を3時間通じたこと以外は、実施例1と同様に操作した。それによりダイヤモンド粒子を24vol%含有し、34μm厚の比較例の銅−ダイヤモンド複合材を作製した。
【0070】
(参考例)
電気めっきによって、銅マトリクスのみを陰極板に析出させた。実施例1と異なる点は、ダイヤモンド粒子を含んでいない点のみである。参考例の銅マトリクスの厚さは91μmであった。
【0071】
(熱伝導率の測定)
JIS R 1611に記載されたフラッシュ法に準拠し、キセノンフラッシュ熱特性評価装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、製品名LFA 447 Nanoflash)を用いて、陰極板から剥離した銅−ダイヤモンド複合材の熱拡散率を測定した。熱伝導率を、λ=α×c×ρに従って求めた。ただし、λ:銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率(W/mK)、α:銅−ダイヤモンド複合材の熱拡散率(m
2/s)、c:銅−ダイヤモンド複合材の比熱容量(J/kg・K)、ρ:銅−ダイヤモンド複合材のかさ密度(kg/m
3)である。なお、銅−ダイヤモンド複合材の比熱容量cは、銅の比熱容量C
Cuを0.386kJ/kg・K、ダイヤモンドの比熱容量C
dを0.53kJ/kg・Kとし(公益社団法人日本化学会、「化学便覧基礎編II」、丸善株式会社、平成3年2月28日、改訂3版、p.239)、数式2に従って算出された値であり、銅−ダイヤモンド複合材のかさ密度ρは、数式3に従って算出された値である。数式2及び3中、V
Cuは銅−ダイヤモンド複合材における銅の体積分率であり、V
dは銅−ダイヤモンド複合材におけるダイヤモンドの体積分率である。
【0072】
【数2】
【0073】
【数3】
【0074】
実施例1〜3、比較例のダイヤモンド粒子の平均粒径から数式1に従って算出された計算値、並びにそれらの熱伝導率の実測値をプロットしたグラフを
図6に示す。横軸は銅−ダイヤモンド複合材中のダイヤモンド含有率(vol%)を表し、縦軸は銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率(W/mK)を表している。同図中、右上がりの実線、短破線、長破線及び二点鎖線は、夫々平均粒径230μm、195μm、45μm及び10μmのダイヤモンド粒子を含有する銅−ダイヤモンド複合材が有する熱伝導率の計算値である。丸、四角及び三角の点は、夫々実施例、比較例及び参考例の熱伝導率の実測値を示している。
【0075】
図6から明らかな通り、プロットされた実施例1〜3の銅−ダイヤモンド複合材は、数式1によって算出された計算値に従っており、ダイヤモンド粒子の平均粒径が大きいほど、またダイヤモンド粒子の含有率が高いほど、参考例1の純銅を大きく上回る熱伝導率を示した。しかも、実施例1〜3の銅−ダイヤモンド複合材の熱伝導率は、数式1に従って算出された熱伝導率の計算値を超えるものであった。これは、ダイヤモンド粒子が、銅−ダイヤモンド複合材中で最密に積み重なって、ダイヤモンド粒子同士が接触しているため、数式1中で仮定されていないダイヤモンド粒子間での熱伝達が生じたためと考えられる。
【0076】
一方、比較例の銅−ダイヤモンド複合材は、参考例の純銅よりも熱伝導率が低下した。これは、ダイヤモンド粒子が小粒径かつ不揃いな粒形であるため、ダイヤモンド粒子の表面積が大きく、銅マトリクスとダイヤモンド粒子との接触面積が増大し、両者の間で熱伝達損失が増大したためと考えられる。
【0077】
(銅−ダイヤモンド複合材の表面及び断面の観察)
実施例1〜3、比較例及び参考例の表面を観察したFE−SEM画像を、夫々
図7(a)〜(e)に示す。同図(a)〜(c)に示す実施例1〜3の銅−ダイヤモンド複合材中のダイヤモンド粒子2は、いずれも凡そ最密構造を形成して均等に積み重なっている。一方、同図(d)に示す比較例の銅−ダイヤモンド複合材に含まれるダイヤモンド粒子は、均等に積み重なっておらず、偏って存在している。その結果、実施例1〜3の銅−ダイヤモンド複合材は、比較例の銅−ダイヤモンド複合材のように銅マトリクスとの濡れ性に乏しいダイヤモンド粒子が偏在していないので、全体として均一な強度を有している。
【0078】
図8に実施例1の断面を観察したFE−SEM画像を示す。左下のダイヤモンド粒子と右上の銅マトリクスとの間は、隙間なく密着している。
【0079】
(銅マトリクスの結晶構造)
X線回折装置(株式会社島津製作所製、製品名XRD−6000)を用い、X線波長λ:1.54056nm、管電圧:30kV、管電流:20mA、走査範囲(2θ):20〜100deg、サンプリング間隔:0.02deg、走査速度:4deg/分、発散スリット・散乱スリット:1.00deg、受光スリット:0.3mmとして銅−ダイヤモンド複合材のX線回折パターンを得た。
【0080】
図9に実施例1〜3及び比較例の銅−ダイヤモンド複合材、並びに参考例の純銅のX線回折パターンを夫々示す。同図中、横軸は回折角を示し、縦軸はX線の強度を示している。いずれのX線回折パターンも回折角43.25deg付近、50.4deg付近及び74.1deg付近に強いピークを有している(同図中、白抜き矢印で示されたピーク)。このことから電気めっきによって形成された銅マトリクスは、粗大な結晶径を有するものであることが分かる。なお、回折角43.8deg付近及び75.2deg付近の小さなピークは(同図中、塗りつぶし矢印で示されたピーク)、ダイヤモンド粒子によるものである。