(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪の外周面並びに外輪若しくは外輪の径方向外側に配置された球面座の内周面との間に存在する空間の軸方向端部開口を塞ぐように、略円環形状に形成される転がり軸受用密封装置を備える転がり軸受であって、
前記転がり軸受用密封装置は、略円環形状の芯金と、前記芯金に固定される弾性体と、
を備え、
前記芯金は、前記外輪若しくは前記球面座の内周面に固定され、径方向内側に延びる第一芯金と、前記第一芯金の径方向内側端部よりも軸方向内側に配置され、径方向内側に延びる第二芯金と、に分割され、
前記弾性体は、前記第一芯金の径方向内側端部と前記第二芯金の径方向外側端部とを接続する接続部と、前記第二芯金に固定されるシールリップ部と、を有し、
前記シールリップ部は、前記第二芯金に固定されるリップ腰部と、前記リップ腰部から連続し、その径方向内側端部が前記内輪の外周面に摺接するリップ先端部と、を有し、
前記リップ先端部の外周面には、該リップ先端部を前記内輪の外周面に向けて付勢するスプリングが配置され、
前記リップ先端部の、径方向内側端部と前記スプリングの径方向内側端部との間の径方向厚さは、前記内輪の外周面の直径の1%以上であり、
前記第二芯金の内径は、前記リップ腰部の径方向厚さが最小となる箇所の外周面の径より小さく、
前記スプリングと前記第二芯金の間にある前記リップ腰部の径方向厚さは、最小となる箇所において、前記内輪の外周面の直径の1%以上であることを特徴とする転がり軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、連続鋳造設備は、水蒸気や酸化スケールのある環境内に使用される為、グリースが水やスケールにより汚染されやすく、汚染されたグリースが軸受内部へ供給されると、軸受の摩耗・破損に繋がる。更に、連続給脂用のグリースは、一台の連続鋳造機にあたり年間およそ30〜70トンの使用量が必要とれるので、グリース廃棄物の量が膨大であり、環境汚染の虞があり、グリース廃棄物の処理も煩雑でコストがかかる。このように、グリースの使用量を減らし、環境負荷の少ない軸受の開発が課題となっている。
【0006】
そこで、特許文献1のように、シール装置を有する密封タイプの軸受を用いることも考えられるが、このシール装置では、軸の偏心や傾きが発生した場合、接触面との接触状態が変化し、強く当たる部分と弱く当たる部分とが発生する。そして、接触面と強く当接している部分では、破損が生じ易くなってしまう。一方、接触面と弱く当接している部分では、接触面とのしめしろが弱くなることで、軸受内部の潤滑剤が漏れ易くなると共に、外部から異物が浸入し易くなり、軸受の早期損傷を招く虞がある。
【0007】
また、ゴム材からなるシールリップ部に疲労(塑性変形やへたり)が生じた場合や、
連続鋳造設備が高温運転(約700〜1500℃)されることにより、軸受の内部温度が約70℃〜80℃に上昇して軸受内の圧力上昇が発生した場合も、シールリップ部と接触面とが開き、軸受内の潤滑剤の漏れや、外部からの異物浸入が発生する虞がある。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、軸の偏心や傾きが発生した場合であっても軸受の密封性を良好に維持可能であり、且つ、シールリップ部の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)を向上可能であり、疲労の発生を抑制可能な転がり軸受
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内輪の外周面並びに外輪若しくは外輪の径方向外側に配置された球面座の内周面との間に存在する空間の軸方向端部開口を塞ぐように、略円環形状に形成される転がり軸受用密封装置
を備える転がり軸受であって、
前記転がり軸受用密封装置は、略円環形状の芯金と、前記芯金に固定される弾性体と、
を備え、
前記芯金は、前記外輪若しくは前記球面座の内周面に固定され、径方向内側に延びる第一芯金と、前記第一芯金の径方向内側端部よりも軸方向内側に配置され、径方向内側に延びる第二芯金と、に分割され、
前記弾性体は、前記第一芯金の径方向内側端部と前記第二芯金の径方向外側端部とを接続する接続部と、前記第二芯金に固定されるシールリップ部と、を有し、
前記シールリップ部は、前記第二芯金に固定されるリップ腰部と、前記リップ腰部から連続し、その径方向内側端部が前記内輪の外周面に摺接するリップ先端部と、を有し、
前記リップ先端部の外周面には、該リップ先端部を前記内輪の外周面に向けて付勢するスプリングが配置され、
前記リップ先端部の、径方向内側端部と前記スプリングの径方向内側端部との間の径方向厚さは、前記内輪の外周面の直径の1%以上であり、
前記第二芯金の内径は、前記リップ腰部の径方向厚さが最小となる箇所の外周面の径より小さ
く、
前記スプリングと前記第二芯金の間にある前記リップ腰部の径方向厚さは、最小となる箇所において、前記内輪の外周面の直径の1%以上であることを特徴とする
転がり軸受。
(
2) 前記リップ先端部の径方向内側端部は、前記内輪の外周面に対して、しめしろを持って摺接しており、
前記しめしろの2倍の値は、前記内輪の外周面の直径の1%以上であることを特徴とする(1)
に記載の
転がり軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受
によれば、芯金は、外輪若しくは球面座の内周面に固定され径方向内側に延びる第一芯金と、第一芯金の径方向内側端部よりも軸方向内側に配置され径方向内側に延びる第二芯金と、を有しており、弾性体は、第一芯金の径方向内側端部と第二芯金の径方向外側端部とを接続する接続部と、第二芯金に固定され、リップ先端部の径方向内側端部が内輪の外周面に摺接するシールリップ部と、を有する。したがって、軸の偏心や傾きが発生した場合であっても、弾性体の接続部が軸の偏心や傾きに追従することによって、シールリップ部と内輪の外周面との接触を維持することが可能である。また、シールリップ部は、第二芯金に固定されるので、内輪の外周面とのしめしろ及び緊迫力を一定に保つことができ、良好なシール性能を発揮することが可能である。
また、リップ先端部の、径方向内側端部とスプリングの径方向内側端部との間の径方向厚さが、内輪の外周面の直径の1%以上となるよう、リップ先端部の肉厚を適切に設定したので、シールリップ部の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)が向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪の外周面に対する緊迫力を維持することが可能であると共に、疲労の発生を抑制することが可能である。
【0011】
また、リップ腰部の径方向厚さを、最小となる箇所において、内輪の外周面の直径の1%以上となるよう、リップ腰部の肉厚を適切に設定した場合、シールリップ部の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)がさらに向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪の外周面に対する緊迫力をさらに維持することが可能であると共に、疲労の発生をさらに抑制することが可能である。
【0012】
また、リップ先端部の径方向内側端部を、内輪の外周面に対して、しめしろを持って摺接させ、当該しめしろの2倍の値が、内輪の外周面の直径の1%以上となるように設定した場合、シールリップ部の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)がさらに向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪の外周面に対する緊迫力をさらに維持することが可能であると共に、疲労の発生をさらに抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る転がり軸受用密封装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る自動調心ころ軸受10は、
図1に示すように、内周面に球面状の外輪軌道溝11aが形成された外輪11と、外周面に球面状の内輪軌道溝12aが二列形成された内輪12と、保持器13によって回動自在に保持され、外輪軌道溝11aと内輪軌道溝12aとの間に二列に整列して転動自在に配設された複数の転動体である樽形のころ14と、外輪11の内周面と内輪12の外周面との間に存在する空間の軸方向両端部開口を塞ぐようにそれぞれ配設され、軸受内部を密封する一対の転がり軸受用密封装置としてのオイルシール20と、を備える。
【0016】
外輪11の軸方向中間部には、外周面から内周面に貫通し、軸受空間に潤滑剤を供給可能且つ空気抜きが可能な貫通孔15が形成されている。なお、貫通孔15に雌ねじ部(不図示)を設け、当該雌ねじ部に軸受空間を密封するための栓を螺合してもよい。また、軸受空間内に潤滑剤が封入される構成である限り、貫通孔15を設けなくても構わない。ここで、軸受空間内に封入される潤滑剤は、粘度が40℃で300mm
2/s〜500mm
2/sである高粘度の潤滑油、又は動粘度が40℃で70mm
2/s〜500mm
2/sである基油とウレア化合物を増ちょう剤とする耐熱性及び耐摩耗性に優れたグリースが用いられる。
【0017】
図2も参照し、オイルシール20は、全体として略円環形状に形成されており、外輪11の内周面に固定される芯金30と、芯金30の軸方向外側面に固定され、ゴム等の弾性材料から形成された弾性体40と、を有する。
【0018】
芯金30は、外輪11の内周面の軸方向外側端部に形成された溝部11bに圧入されて固定され、径方向内側に延びる断面略L字形状(以降、断面とは周方向断面を意味する。)の第一芯金32と、第一芯金32の径方向内側端部32aよりも軸方向内側に配置され、径方向内側に延びる断面略直線形状の第二芯金34と、に分割されている。
【0019】
弾性体40は、第一芯金32の軸方向外側面に固定される断面略L字形状の第一延出部41と、第二芯金34の軸方向外側面に固定される断面略直線形状の第二延出部42と、第一延出部41及び第二延出部42に連続すると共に、第一芯金32の径方向内側端部32a及び第二芯金34の径方向外側端部34aを接続する接続部43と、を有する。ここで、第一芯金32の径方向内側端部32aが、第二芯金34の径方向外側端部34aよりも径方向外側に位置しているので、弾性体40の接続部43は、軸方向内側に向かうにしたがって径方向内側に若干傾斜する断面略直線形状とされている。
【0020】
また、弾性体40は、第二延出部42の径方向内側端部から連続して軸方向外側に延びると共に、第二芯金34の径方向内側端部34bに軸方向外側で固定されるリップ腰部44aと、リップ腰部44aから連続し、その径方向内側端部44cが内輪12の外周面の軸方向外側端部に形成された溝部12bに対してしめしろGを持って弾性的に摺接するリップ先端部44bと、を有するシールリップ部44を備える。ここで、しめしろGとは、シールリップ部44が摺動する面である内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)と、リップ先端部44bの径方向内側端部44cの直径(内径)と、の差を意味する。なお、シールリップ部44を内輪12の溝部12bに摺接させて外輪11と内輪12との間を確実にシールする必要があることから、シールリップ部44の外周面44dにスプリング50を装着し、そのスプリング50の弾性力によりシールリップ部44を内輪12の溝部12b側へ付勢するようにしている。
【0021】
さらに、弾性体40は、第二芯金34の径方向内側端部34bに固定されると共に、シールリップ部44よりも軸方向内側に位置するバンパーリップ部45を有する。バンパーリップ部45は、その径方向内側端部45aがリップ先端部44bの径方向内側端部44cよりも径方向外側に位置するように形成されており、内輪12の溝部12bとの間で非接触のシールを形成する補助リップ部として働く。
【0022】
ここで、本実施形態のオイルシール20においては、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)を向上させ、且つ、疲労の発生を抑制するために、リップ腰部44a及びリップ先端部44bの径方向厚さが適切な値に設定されている。より詳細には、リップ腰部44aの径方向厚さは、最小となる箇所(
図2中、Fで示している。)において、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上となるように設定される。また、リップ先端部44bの、径方向内側端部44cとスプリング50の径方向内側端部50aとの間の径方向厚さEは、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上となるように設定される。さらに、リップ先端部44bは、内輪12の溝部12bに対するしめしろGの2倍の値が、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上となるように設定される。
【0023】
以上のように構成されたオイルシール20を備える自動調心ころ軸受10は、例えば、連続鋳造設備等の回転速度が非常に遅い箇所(1分間に数回転)に使用され、良好なシール性能が発揮されて、封入された潤滑剤が長寿命に保たれる。より具体的には、
図3に示すように、自動調心ころ軸受10は、内輪12がロール70のロールネック部70aに外嵌し、外輪11がハウジング71に外嵌するように、連続鋳造機に組み込まれる。
【0024】
ハウジング71の軸側端部(
図3中、左側端部)とロールネック部70aの軸側端部との径方向における間には軸側チョックシール72が配置され、ハウジング71のロール側端部(
図3中、右側端部)とロールネック部70aのロール側端部との径方向における間には一対のロール側チョックシール73が配置されており、これらのチョックシール72、73によってハウジング71とロールネック部70aとの間の空間がシールされる。
【0025】
ハウジング71の内部には、軸側端面から軸方向に向かってグリース供給孔74が設けられ、当該グリース供給孔74は、一対のロール側チョックシール73の軸方向における間に形成された空間75に接続されて、断面略L字形状とされている。また、ハウジング71には、空間75からハウジング71の外周面に貫通するグリース排出孔76が設けられている。
【0026】
ここで、
図3中、矢印で示すように、グリースは、グリース供給孔74を介して、空間75に供給され、ロール70のロールネック部70a等の回転部材の潤滑に供され、その後、グリース排出孔76を通過してハウジング71の外部に排出される。
【0027】
ここで、グリース供給孔74を介して供給されるグリースは、ロール側チョックシール73によって空間75内に密封されることが望ましいが、ロール側チョックシール73のシールが不完全である場合、自動調心ころ軸受10側の空隙77に浸入することがある。このとき、空隙77内のグリースは、自動調心ころ軸受10に対して外圧を付与するので、当該外圧が軸受内の内圧に比べて大きくなった場合、オイルシール20に対して、内輪12の外周面との間に隙間が生じる方向に力が作用する。
【0028】
しかしながら、本実施形態のオイルシール20によれば、上記径方向厚さE、F及びしめしろGが、内輪12の外周面の直径の1%以上となるよう、肉厚を適切に設定したので、シールリップ部44の耐圧性(耐外圧性)が向上し、軸受外部の圧力が上昇した場合でも、内輪12の外周面に対する緊迫力を維持することが可能であると共に、疲労の発生を抑制することが可能である。したがって、軸受外部からのグリース、水、異物等の浸入を防止することが可能である。
【0029】
なお、軸受の温度上昇等によって軸受内部の圧力が上昇し、当該内圧が外圧に比べて大きくなった場合も、オイルシール20に対して、内輪12の外周面との間に隙間が生じる方向に力が作用する。しかしながら、上述したように、本実施形態のオイルシール20によれば上記径方向厚さE、F及びしめしろGが、内輪12の外周面の直径の1%以上となるよう、肉厚を適切に設定したので、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性)が向上し、軸受内部の圧力が上昇した場合でも、内輪12の外周面に対する緊迫力を維持することが可能であると共に、疲労の発生を抑制することが可能である。したがって、軸受内部空間に封入された潤滑剤が軸受外部に漏洩することを防止することが可能であり、潤滑剤を長寿命に保つことが可能となる。
【0030】
(実施例)
ここで、軸受温度が回転等によって0℃(最低温度T0)から80℃(最高温度T1)に上昇した場合の軸受内圧を計算する。空気の温度がT0=273.15[K]のときの圧力をp0とし、T1=273.15+80=353.15[K]のときの圧力をp1とすれば、シャルルボイルの法則よりp0/T0=p1/T1、すなわちp1/p0=T1/T0=1.3となる。つまり、T1=80[℃]での圧力p1はT0=0[℃]のときの圧力p0の1.3倍になる。p0を大気圧とすると、圧力差p1−p0が温度T1のときの相対圧力となり、Pa単位の圧力に換算すれば、p1−p0=1.01325×10
5×(1.3−1)=3.04×10
4[Pa]=30.4[kPa]となる。したがって、軸受温度が0℃から80℃に上昇した場合の軸受内圧は30.4kPaとなる。
【0031】
このように、オイルシール20のシールリップ部44の耐圧性(耐内圧性)としては、軸受内圧が30kPaよりも大きい場合であっても、内輪12の外周面に対する緊迫力が維持されることが望ましい。
【0032】
そこで、本実施形態のオイルシール20のシールリップ部44の耐圧性(耐内圧性)について、耐圧試験装置を用いて試験を行った結果を以下に示す。
【0033】
図4に示すように、耐圧試験装置60は外輪相当部材11A及び内輪相当部材12Aを備えており、オイルシール20は、外輪相当部材11Aの内周面に固定され、シールリップ部44のリップ先端部44bの径方向内側端部44cは、内輪相当部材12Aの外周面に当接する。
【0034】
また、耐圧試験装置60は、オイルシール20の軸方向内側(
図4中、左側)及び軸方向外側(
図4中、右側)に、それぞれ内部圧力を変更可能な第一圧力室62及び第二圧力室64を備えている。第一圧力室62は、軸受内部空間に相当し、その圧力が内圧P1として表される。また、第二圧力室64は、軸受の外部に相当し、その圧力が外圧P2として表される。
【0035】
なお、本試験において、オイルシール20は、リップ径(シールリップ部44の径方向内側端部44cの直径)がφ185(mm)であり、上述した径方向厚さE及びF(
図2参照)が、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上であるものと、1%未満であるものを使用した。
【0036】
そして、第二圧力室64の外圧P2を大気圧に維持するとともに、第一圧力室62の内圧P1を、シールリップ部44及び内輪相当部材12Aの外周面の間からエアー漏れが発生するまで、各10kPa毎(上昇後各30分維持)に上昇させ、エアー漏れするまでの圧力を試験した。当該試験の結果を表1に示す。
【0038】
このように、径方向厚さE及びFが共に1%未満である場合は、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性)に乏しく、内圧P1が30kPaよりも大きい場合、すなわち内圧P1が40kPaである場合、エアー漏れが発生してしまう。一方、上述の実施形態のように径方向厚さE及びFが共に1%以上である場合は、内圧P1が40kPaである場合でもエアー漏れが発生せず、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性)が良好であることがわかる。
【0039】
以上、説明したように本実施形態のオイルシール20によれば、芯金30は、外輪11の内周面に固定され径方向内側に延びる第一芯金32と、第一芯金32の径方向内側端部32aよりも軸方向内側に配置され径方向内側に延びる第二芯金34と、を有しており、弾性体40は、第一芯金32の径方向内側端部32aと第二芯金34の径方向外側端部34aとを接続する接続部43と、第二芯金34に固定され、リップ先端部44bの径方向内側端部44cが内輪12の外周面に摺接するシールリップ部44と、を有する。したがって、軸の偏心や傾きが発生した場合であっても、弾性体40の接続部43が軸の偏心や傾きに追従することによって、シールリップ部44と内輪12の外周面との接触を維持することが可能である。また、シールリップ部44は、第二芯金34に固定されるので、内輪12の外周面とのしめしろ及び緊迫力を一定に保つことができ、良好なシール性能を発揮することが可能である。
また、リップ先端部44bの、径方向内側端部44cとスプリング50の径方向内側端部50aとの間の径方向厚さEが、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上となるよう、リップ先端部44bの肉厚を適切に設定したので、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)が向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪12の外周面に対する緊迫力を維持することが可能であると共に、疲労の発生を抑制することが可能である。
【0040】
また、リップ腰部44aの最小となる箇所における径方向厚さFを、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上となるよう、リップ腰部44aの肉厚を適切に設定したので、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)がさらに向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪12の外周面に対する緊迫力をさらに維持することが可能であると共に、疲労の発生をさらに抑制することが可能である。
【0041】
また、リップ先端部44bの径方向内側端部44cは、内輪12の外周面(溝部12b)に対して、しめしろGを持って摺接しており、当該しめしろGの2倍の値が、内輪12の外周面(溝部12b)の直径(外径)の1%以上であるので、シールリップ部44の耐圧性(耐内圧性、耐外圧性)がさらに向上し、軸受の温度上昇によって内部圧力が上昇した場合や、軸受の外部圧力が上昇した場合でも、内輪の外周面に対する緊迫力をさらに維持することが可能であると共に、疲労の発生をさらに抑制することが可能である。
【0042】
また、第一芯金32の径方向内側端部32aが第二芯金34の径方向外側端部34aよりも径方向外側に位置し、弾性体40の接続部43が軸方向内側に向かうにしたがって径方向内側に傾斜する断面略直線形状であるので、軸の偏心や傾きが発生した場合、接続部43が曲がり易く、軸の偏心や傾きに対する追従性を高めることが可能である。
【0043】
また、弾性体40はバンパーリップ部45を有するので、軸の傾きや偏心が起こった場合であっても、当該バンパーリップ部45が内輪12の外周面と緩衝し、シールリップ部44の異常摩耗及び変形を防止することが可能である。
【0044】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0045】
例えば、オイルシール20が適用される転がり軸受としては、上述した自動調心ころ軸受10に限定されず、
図5に示すような球面座付き複列円錐ころ軸受や、
図6に示すような球面座付き円筒ころ軸受、不図示の球面座付き複列円筒ころ軸受であってもよい。
図5及び
図6には、球面座80の内周面に外輪11が配置された状態が示されている。
【0046】
また、本発明のオイルシール20は、
図7に示すような球面座付き複列円錐ころ軸受や、
図8に示すような球面座付き円筒ころ軸受に適用しても構わない。これらの軸受では、内輪12の外周面と外輪11の径方向外側に配置された球面座80の内周面との間に存在する空間の軸方向端部開口を塞ぐように、オイルシール20が形成されており、オイルシール20の芯金30が、球面座80の内周面の軸方向外側端部に形成された溝部80aに圧入されて固定される。
【0047】
また、上述の実施形態においては、補助リップ部としてバンパーリップ部45を設けるとしたが、外部からのダスト侵入を防止するダストリップ部としてもよい。また、補助リップ部は、必ずしも内輪12の外周面に接触する構成に限られず、内輪12の外周面との間でシールを形成する限り非接触であってもよい。また、補助リップ部を設けない構成としても構わない。