(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381246
(24)【登録日】2018年8月10日
    
      
        (45)【発行日】2018年8月29日
      
    (54)【発明の名称】圧電素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L  41/187       20060101AFI20180820BHJP        
   H01L  41/39        20130101ALI20180820BHJP        
   H01L  41/083       20060101ALI20180820BHJP        
   G05D   3/00        20060101ALI20180820BHJP        
【FI】
   H01L41/187
   H01L41/39
   H01L41/083
   G05D3/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】8
      (21)【出願番号】特願2014-61394(P2014-61394)
(22)【出願日】2014年3月25日
    
      (65)【公開番号】特開2015-185711(P2015-185711A)
(43)【公開日】2015年10月22日
    【審査請求日】2017年2月15日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
          (74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地  武雄
          (74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川  洋一
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】森  喜彦
              
            
        
      
    
      【審査官】
        加藤  俊哉
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2005−191049(JP,A)      
        
        【文献】
          国際公開第2006/038389(WO,A1)    
        
        【文献】
          国際公開第2008/096761(WO,A1)    
        
        【文献】
          国際公開第2010/024277(WO,A1)    
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L    41/187      
G05D      3/00        
H01L    41/083      
H01L    41/39        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  PZT系の圧電セラミックスおよびAgを含む電極材料が用いられた圧電素子であって、
  電圧が印加される内部電極と、
  前記内部電極と交互に積層された圧電セラミックス層と、を備え、
  前記圧電セラミックス層は、中央領域のAサイト/Bサイト比に対して、前記内部電極に近い端部領域のAサイト/Bサイト比が、1%以上3%以下の割合で小さい組成で形成されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
  前記中央領域のAサイト/Bサイト比に対して、前記端部領域のAサイト/Bサイト比は、2%の割合で小さいことを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【請求項3】
  前記端部領域は、前記内部電極から20μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電素子。
【請求項4】
  PZT系の圧電セラミックスが用いられた圧電素子の製造方法であって、
  所定の配合の圧電セラミックスを含む中央領域用のグリーンシートを作製する工程と、
  前記所定の配合に対してAサイト/Bサイト比が小さい配合の圧電セラミックスを含む端部領域用のグリーンシートを作製する工程と、
  前記端部領域用のグリーンシートにAgを含む電極ペーストを印刷する工程と、
  前記各グリーンシートを積層、圧着し、成形体を作製する工程と、
  前記成形体を焼成する工程と、を含み、
  前記中央領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比に対して、前記端部領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比は、1%以上3%以下の割合で小さいことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項5】
  前記中央領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比に対して、前記端部領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比は、2%の割合で小さいことを特徴とする請求項4記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
  前記端部領域用のグリーンシートは、厚み25μm以上に作製することを特徴とする請求項4または請求項5記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、PZT系の圧電セラミックスおよびAgを含む電極材料が用いられた圧電素子およびその製造方法に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  積層型の圧電素子として、圧電セラミックスの厚み縦変位(d33モード)を利用した電気/機械変換素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような圧電素子は、ミクロンオーダーでの変位量制御が可能であり、発生力が大きい等の特徴を有することから、精密加工装置や光学装置等の位置決め機構に使用されている。
【0003】
  図4(a)は、従来の圧電素子200の側断面図である。圧電素子200は、積層コンデンサ型構造を有している。圧電素子200は、圧電セラミックス層201と内部電極202a、202bとが交互に積層されて形成されている。内部電極202a、202bは、圧電素子200の対向する側面に一層おきに露出している。
【0004】
  内部電極202aが露出している側面において、内部電極202aは外部電極203aによって接続されている。また、内部電極202bが露出している側面において、内部電極202bは外部電極203bによって接続されている。圧電素子200の端面部分には、電圧の印加に対して不活性な保護層204が形成されている。なお、一般的な積層型の圧電素子は、積層方向の端面には電極を有していない。
【0005】
  図4(b)、(c)は、内部電極202a、202bの位置での圧電素子200の平断面図である。圧電素子200では、内部電極202aと内部電極202bとが重なる。このように、内部電極202aと内部電極202bに挟まれた圧電セラミックス層201は、圧電活性層である。圧電活性層に電界が印加されることで、圧電素子200は変位して駆動する。
【0006】
  一般的に、内部電極202a、202bにはAgとPdからなる合金が用いられている。このうちAgは液相を形成するため、圧電素子200の焼成時に内部電極202a、202b付近の圧電セラミックス層201の焼結が促進される。そして、内部電極202a、202b間の中央部分と比較して電極付近の圧電セラミックス粒子は粗大となり、圧電セラミックス層201のセラミックス粒径が不均質となる。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−300430号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
  しかし、圧電セラミックス層201が不均質になると、電圧印加時の電界分布が不均一となり絶縁破壊電圧が低下する。また、圧電素子の機械的強度が低下するなど初期特性や耐久性を悪化させることもある。
【0009】
  本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、端部領域の焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子全体での焼結性のバランスをとることができる圧電素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0010】
  (1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、PZT系の圧電セラミックスおよびAgを含む電極材料が用いられた圧電素子であって、電圧が印加される内部電極と、前記内部電極と交互に積層された圧電セラミックス層と、を備え、前記圧電セラミックス層のうち、中央領域に対して前記内部電極に近い端部領域は、Aサイト/Bサイト比が小さい組成で形成されていることを特徴としている。
【0011】
  これにより、端部領域の焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子全体での焼結性のバランスをとることができる。その結果、電圧印加時の電界分布が均一となり、圧電素子の絶縁破壊電圧を低下させることができる。また、圧電素子の機械的強度を高め耐久性を向上できる。
【0012】
  (2)また、本発明の圧電素子は、前記中央領域のAサイト/Bサイト比に対して、前記端部領域のAサイト/Bサイト比は、
1%以上
3%以下の割合で小さいことを特徴としている。これにより、圧電素子全体の焼結性のバランスを耐久性が向上する適切な範囲にすることができる。
【0013】
  (3)また、本発明の圧電素子は、前記端部領域が、前記内部電極から20μmの範囲内であることを特徴としている。これにより、焼結時に液相化したAgが浸透する範囲について焼結性を低下させ、Agが浸透しない範囲とのバランスをとることができる。
【0014】
  (4)また、本発明の圧電素子の製造方法は、PZT系の圧電セラミックスが用いられた圧電素子の製造方法であって、所定の配合の圧電セラミックスを含む中央領域用のグリーンシートを作製する工程と、前記所定の配合に対してAサイト/Bサイト比が小さい配合の圧電セラミックスを含む端部領域用のグリーンシートを作製する工程と、前記端部領域用のグリーンシートに電極ペーストを印刷する工程と、前記各グリーンシートを積層、圧着し、成形体を作製する工程と、前記成形体を焼成する工程と、を含むことを特徴としている。これにより、端部領域の焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子全体での焼結性のバランスをとることができる。
【0015】
  (5)また、本発明の圧電素子の製造方法は、前記中央領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比に対して、前記端部領域用のグリーンシートのAサイト/Bサイト比が、
1%以上
3%以下の割合で小さいことを特徴としている。これにより、圧電素子全体の焼結性のバランスを耐久性が向上する適切な範囲にすることができる。
【0016】
  (6)また、本発明の圧電素子の製造方法は、前記端部領域用のグリーンシートが、厚み25μm以上に作製することを特徴としている。これにより、焼結時に液相化したAgが浸透する範囲について焼結性を低下させ、Agが浸透しない範囲とのバランスをとることができる。
 
【発明の効果】
【0017】
  本発明によれば、端部領域の焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子全体での焼結性のバランスをとることができる。その結果、電圧印加時の電界分布が均一となり、圧電素子の絶縁破壊電圧を低下させることができる。また、圧電素子の機械的強度を高め耐久性を向上できる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)〜(c)本発明の圧電素子の側断面図および2つの平断面図である。
 
【
図2】積層工程における各グリーンシートを示す断面図である。
 
【
図3】各条件で耐久試験を行った結果を示すグラフである
 
【
図4】(a)〜(c)従来の圧電素子の側断面図および2つの平断面図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0019】
  次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
 
【0020】
  (圧電素子の構成)
  
図1(a)は、圧電素子100の側断面図である。
図1(b)、(c)は、圧電素子100の平断面図である。
図1(b)、(c)は、
図1(a)における断面1b、1cによる断面図となっている。圧電素子100は、内部電極102a、102bと圧電セラミックス層101とが交互に積層されて形成されている。圧電素子100の対向する側面には、内部電極102a、102bが一層おきに露出している。
 
【0021】
  そして、内部電極102aが露出している側面において、内部電極102aは外部電極103aによって接続されている。また、内部電極102bが露出している側面において、内部電極102bは外部電極103bによって接続されている。圧電素子100の端面部分には、電圧の印加に対して不活性な保護層104が形成されている。
 
【0022】
  内部電極102a、102bは、Agを含む電極材料が用いられており、電圧が印加される。Agには、液相を形成し焼結性を高める効果がある。ある程度の高温にも耐えられるようにAg−Pdの合金材料を用いるのが好ましい。
 
【0023】
  圧電セラミックス層101は、PZT系の圧電材料が用いられており、その中央領域101aに対して内部電極に近い端部領域101bは、Aサイト/Bサイト比が小さい組成で形成されている。PZT系材料はPb量が過剰である場合、焼結性が高く粒成長が促進され、Pb量が不足する場合は焼結性が低くなる。
 
【0024】
  Pb量一定のシートでは中央領域が焼結、緻密化する温度で焼成すると、電極付近の粒子が粗大になる。しかし、圧電素子100では、中央領域101aに対して内部電極に近い端部領域101bは、Aサイト/Bサイト比が小さいため、中央領域101aと端部領域101bとで焼結性が同程度となり、適切な温度で焼成すれば全体で焼結性を均一にすることができる。
 
【0025】
  このようにして、Pb量の少ない端部領域101bの焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子100全体での焼結性のバランスをとることができる。その結果、電圧印加時の電界分布が均一となり、圧電素子100の絶縁破壊電圧を低下させることができる。また、圧電素子100の機械的強度を高め耐久性を向上できる。
 
【0026】
  中央領域101aのAサイト/Bサイト比に対して、端部領域のAサイト/Bサイト比は、
1%以上
3%以下の割合で小さいことが好ましい。これにより、圧電素子100全体の焼結性のバランスを耐久性が向上する適切な範囲にすることができる。
 
【0027】
  端部領域101bは、内部電極102a、102bから20μmの範囲内であることが好ましい。これにより、焼結時に液相化したAgが浸透する範囲について焼結性を低下させ、Agが浸透しない中央領域とのバランスをとることができる。
 
【0028】
  (圧電素子の製造方法)
  上記のように構成された圧電素子100の製造方法を説明する。まず、中央領域用の配合と、その配合に対してAサイト/Bサイト比が小さい端部領域用の配合を算出し、それぞれ秤量する。中央領域用の配合より端部領域用の配合の方が
1%以上
3%以下の割合で小さいことが好ましい。
 
【0029】
  次に、秤量された配合で中央領域用のグリーンシート111aおよび端部領域用のグリーンシート111bを作製する。端部領域用のグリーンシート111bは、厚み25μm以上に作製することが好ましい。これにより、焼結時に液相化したAgが浸透する範囲について焼結性を低下させ、Agが浸透しない範囲とのバランスをとることができる。
 
【0030】
  例えば、Pb
0.95Sr
0.05(Zr
0.53Ti
0.47)O
3からなる圧電セラミックス粉末にバインダ等の有機物成分や溶媒を混合してスラリー化する。このようにして得られた混合物をドクターブレード法や押出成形法等の方法によって、シート状に成形する。続いて、得られた帯状のグリーンシートからパンチング等の方法によって所定形状のグリーンシートを得る。このようにして圧電セラミックスの粉末やバインダ等の有機物を含む中央領域用のグリーンシート111aを成形する。
 
【0031】
  一方、Pb
0.93Sr
0.05(Zr
0.53Ti
0.47)O
3からなる圧電セラミックス粉末にバインダ等の有機物成分や溶媒を混合してスラリー化する。そして、得られた混合物をドクターブレード法や押出成形法等の方法によって、シート状に成形する。続いて、得られた帯状のグリーンシートからパンチング等の方法によって所定形状のグリーンシートを得る。このようにして圧電セラミックスの粉末やバインダ等の有機物を含む端部領域用のグリーンシート111bを成形することができる。
 
【0032】
  次に、成形された端部領域用のグリーンシート111bに、所定のパターンでAg−Pdの電極ペースト112を所定のパターンで印刷する。すなわち、例えばスクリーン印刷法等を用いて、ペーストを塗布する。グリーンシート111bに、塗布された電極ペースト103は、焼成後に内部電極102a、102bとなる。
 
【0033】
  各グリーンシートを積層、圧着し、成形体を作製する。
図2は、積層工程における各グリーンシートを示す断面図である。
図2に示すように、組み合わせ所定枚数積層し、圧着する。電極ペースト112に隣接するのは端部領域用のグリーンシート111bであり、中央領域用のグリーンシート111aには電極ペースト112が接しないように積層される。
 
【0034】
  このようにして得られた成形体を焼成する。有機成分が分解するまで脱脂を行ない、脱脂体を作製する。脱脂体を900〜1300℃で焼成する。このとき、Aサイト/Bサイト比が多く圧電セラミックスとして焼結性が良い中央領域のグリーンシート111aからなる圧電セラミックスと、内部電極により焼結が促進されるAサイト/Bサイト比が少ないグリーンシート111bからなる圧電セラミックスが焼成され、焼結性の均質な圧電セラミックス層101が得られる。
 
【0035】
  焼成では、中央領域と端部領域とで配合が異なることにより、端部領域の焼結性を低くし粒成長を抑制でき、圧電素子全体での焼結性のバランスをとることができる。その結果、電圧印加時の電界分布が均一となり絶縁破壊電圧が向上する、圧電型圧電素子の機械的強度が増加するなど初期特性が向上することや、Agのマイグレーションが抑制されるなどの耐久性を改善する効果が期待できる。
 
【0036】
  (実施例)
  上記の製造方法で圧電素子を作製した。得られた圧電素子をSUS金属ケースに封止し、温度120℃、DC150Vの条件で耐久性試験を行なった。各圧電素子は、中央領域用にAサイト/Bサイト比1.00の30μmシートを用い、端部領域用にAサイト/Bサイト比を振った30μmシートを積層し、1100℃で焼成した。
図3は、各条件で耐久試験を行った結果を示すグラフである。
 
【0037】
  図3に示すように、端部領域のAサイト/Bサイト比を0.98にした圧電素子では、耐久性が改善した。一方、端部領域のAサイト/Bサイト比を0.96にした圧電素子では電極付近の焼結性が低くなり、端部領域のAサイト/Bサイト比を1.00にした圧電素子と同程度まで耐久性が低下した。
 
 
【符号の説明】
【0038】
100  圧電素子
101  圧電セラミックス層
101a  中央領域
101b  端部領域
102a  内部電極
103  電極ペースト
103a  外部電極
104  保護層
111a  中央領域用のグリーンシート
111b  端部領域用のグリーンシート
112  電極ペースト