特許第6381277号(P6381277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381277
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】リチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/18 20060101AFI20180820BHJP
   H01M 6/14 20060101ALI20180820BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   H01M6/18 A
   H01M6/14 A
   H01M6/14 Z
   H01M4/06 N
   H01M4/06 X
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-98062(P2014-98062)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-216016(P2015-216016A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高志
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−103635(JP,A)
【文献】 特開2013−131503(JP,A)
【文献】 特開2008−198454(JP,A)
【文献】 特開平09−245775(JP,A)
【文献】 特表2007−513464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/18
H01M 4/06
H01M 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属又はリチウム合金を負極活物質とし、
オキシハロゲン化物を正極活物質とし、
正極と負極が固体電解質層により隔離され、
該固体電解質層に含まれる固体電解質として酸化物固体電解質を用い、
該酸化物固体電解質が、オキシハロゲン化物と負極活物質中のリチウム金属又はリチウム合金を非接触とし、負極活物質層の表面上に正極活物質と負極活物質との反応による塩化リチウムの膜を生じさせにくい又は生じさせないために、Li1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有するガラスセラミックスを含む
ことを特徴とするリチウム電池。
【請求項2】
該固体電解質層は、スルーホールのない固体電解質層である、請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項3】
該固体電解質層の厚さは、0.02〜2mmの範囲内の厚さである、請求項1又は2のいずれかに記載のリチウム電池。
【請求項4】
該固体電解質層と負極活物質層との間に、更に有機電解質を含む層が設けられている、請求項1〜のいずれかに記載のリチウム電池。
【請求項5】
該有機電解質は、カーボネート系有機電解液、ポリマー電解質及びイオン液体電解質のうちの1つ以上を含む、請求項に記載のリチウム電池。
【請求項6】
該固体電解質層と負極活物質層との間に、更にリチウム成分を含む化合物を含有する層が設けられている、請求項1〜のいずれかに記載のリチウム電池。
【請求項7】
該リチウム成分を含む化合物は、リチウムを含むハロゲン化物及びリチウムを含むリン化合物のうち少なくとも1つである、請求項に記載のリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属又はリチウム合金を負極活物質として用い、オキシハロゲン化物を正極活物質として用いる、リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、円筒型のリチウム・塩化チオニル系の非水溶媒電池は、リチウム金属を負極活物質とする負極を設け、この負極内側に、ガラス繊維からなるセパレータを介して、正極部位を設けると共に、この正極部位に塩化チオニルを主成分とする正極活物質兼電解液を含浸させた構造である。なお、この非水溶媒電池の正極に含まれる正極集電体は、カーボンブラック、アセチレンブラックなど炭素を含有し、多孔質である。
【0003】
このような構造の電池では、電池内に塩化チオニルを注入した段階では、正極活物質である塩化チオニルと負極活物質であるリチウム金属とが直接接触しているが、その後、このリチウム金属の表面に塩化リチウム(LiCl)の膜が形成され、この塩化リチウムの膜が電解質として機能している。電池内には、正極集電体と負極の接触を防止するため、ガラス繊維からなるセパレータを配している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3701751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような電池では、この塩化リチウムの膜が厚くなりすぎると、この塩化リチウムの膜による電池内の内部抵抗の上昇により、図1に示すような現象が生じる。この現象は、長時間放電しないで放置しその放置後に放電開始すると(図1中のt0)、放電電圧の低下(図1中のV0)が生じやすくなる、という現象である。図1は、この放電電圧の低下を示した概念図である。縦軸は電圧(正極と負極間の電圧)、横軸は時間を示し、横軸の0〜t0は、放電しないで放置している時間を示し、t0はその放置後に放電開始する時点を示している。
なお、図1に示すように、t0以降の時間の電圧が、V0と比べ上昇しているが、これは
放電電流が大きくなることによる塩化リチウムの膜の破裂にともない、電池内の内部抵抗が低下することによる。
このような電池では、この放電電圧の低下を抑制することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、リチウムイオン伝導性の固体電解質を含む固体電解質層を用いることにより、この固体電解質層が、本発明の電池において固体電解質層として機能し、また上記の放電電圧の低下を抑制できることを見出した。この放電電圧の低下を抑制できるのは、この固体電解質層により、正極活物質(塩化チオニルなど)と負極活物質(リチウム金属又はリチウム合金)とが直接接触しない構成となり、負極活物質の表面上に上記塩化リチウムの膜が生じにくく又は生じないためである。
【0007】
本発明の具体的な構成は、以下の通りである。
【0008】
(構成1)
リチウム金属又はリチウム合金を負極活物質とし、オキシハロゲン化物を正極活物質とし、
正極と負極が固体電解質層により隔離され、該固体電解質層に含まれる固体電解質として酸化物固体電解質を用いる、リチウム電池。
(構成2)
該酸化物固体電解質は、ぺロブスカイト型の結晶、ガーネット型の結晶及びナシコン型の結晶のうち少なくとも1つを含む、構成1に記載のリチウム電池。
(構成3)
該酸化物固体電解質は、該ナシコン型のLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有するガラスセラミックスを含む、構成2に記載のリチウム電池。
(構成4)
該固体電解質層は、スルーホールのない固体電解質層である、構成1〜3のいずれかに記載のリチウム電池。
(構成5)
該固体電解質層の厚さは、0.02〜2mmの範囲内の厚さである、構成1〜4のいずれかにに記載のリチウム電池。
(構成6)
該固体電解質層と負極活物質層との間に、更に有機電解質を含む層が設けられている、構成1〜5のいずれかに記載のリチウム電池。
(構成7)
該有機電解質は、カーボネート系有機電解液、ポリマー電解質及びイオン液体電解質のうちの1つである、構成6に記載のリチウム電池。
(構成8)
該固体電解質層と負極活物質層との間に、更にリチウム成分を含む化合物を含有する層が設けられている、構成1〜5のいずれかに記載のリチウム電池。
(構成9)
該リチウム成分を含む化合物は、リチウムを含むハロゲン化物及びリチウムを含むリン化合物のうち少なくとも1つである、構成8に記載のリチウム電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池は、リチウムイオン伝導性の固体電解質を含む層を用いることにより、本発明の電池において負極活物質の表面上に上記塩化リチウムの膜が生じにくい又は生じないことにより上記放電電圧の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が解決しようとする課題である「放電電圧の低下」の現象を示した概念図である。縦軸は電圧(正極と負極間の電圧)、横軸は時間を示している。
図2】本発明の電池の一例を示す断面概念図である。
図3】本発明の電池の一例を示す断面概念図である。
図4】比較例の電池の一例を示す断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の「発明を実施するための形態」の説明において、「厚さ」は径方向の長さを表す。
【0012】
(電池の構成)
本発明の電池は、例えば、図2図3に示す構成とすることができる。
図2図3では、円筒形の電池の構造の断面図を示している。なお、本発明の電池は、円筒形の形態(例えば、単一形、単二形、単三形、単四形、単五形)だけでなく、角型の形態でも適用できる。
図2図3中の符号1はステンレス鋼製などの有底円筒状の缶体で、電池容器と負極端子とを兼ねるものである。この電池容器1の内周面に、負極活物質であるリチウム金属又はリチウム合金が貼り付けられることにより、負極活物質層2が設けられる。本発明の電池において、負極の機能を発揮する部位は、この符号1と負極活物質層2とを含む部位である。
【0013】
負極活物質層2の内側には、固体電解質層3を介して正極構成部位を設ける。正極構成部位は、下記正極集電体4と空間7と正極端子6(封口体8も含む)とを含む部位であり、本発明の電池において正極の機能を発揮する部位である。下記で示すように、正極集電体4と空間7に、正極活物質として用いるオキシハロゲン化物が注入される。
なお、後述するが、負極活物質層2と固体電解質層3との間には、必要に応じて、下記保護層10を設ける。
【0014】
なお、図2記載の電池に設けられる固体電解質層3は円筒状の形状であり、図3記載の電池に設けられる固体電解質層3は上面に開口部を有する有底円筒状の形状である。
【0015】
前記電池容器1の上面開口部には、電池蓋5が、レーザー溶接等により、接合される。
この電池蓋5の中心の穴には、正極端子6が電池蓋5と電気的に絶縁され固定されている。
この正極端子6は、金属などの導電性を有する部材からなるパイプ状の形態である。
【0016】
前記正極端子6は、正極活物質である液体のオキシハロゲン化物を、正極構成部位4に注入するための注液口を兼ねている。正極活物質である液体のオキシハロゲン化物を注入した後、例えば導電性を有するステンレス鋼製の封口体8を正極端子6の上面に挿入し、レーザー溶接等により、正極端子6の上面を封止して、電池容器1を完全密閉とする。
【0017】
本発明の電池では、前記固体電解質層3により、正極活物質である液体のオキシハロゲン化物と、負極活物質層2であるリチウム金属又はリチウム合金とが非接触となり、負極活物質層2の表面上に、正極活物質と負極活物質との反応による塩化リチウム(LiCl)の膜が生じにくい又は生じない。
【0018】
また、図2記載の電池では、前記電池容器1の底部には絶縁体9を設けて、正極構成部位と負極の機能を発揮する部位とが、直接接触しないようにしている。図3記載の電池では、絶縁体9の代わりに、上面に開口部を有する有底円筒状の形状の固体電解質層3により、正極構成部位と負極の機能を発揮する部位とが、直接接触しないようにしている。
なお、絶縁体9は、電気を通しにくい物質であればよく、例えばポリテトラフルオロエチレンやポリプロピレンなどの樹脂やガラスなどが挙げられる。
【0019】
(負極活物質層)
本発明の電池では、単位体積当たりのエネルギー密度を大きくするために、負極活物質層に用いる負極活物質として、リチウム金属又はリチウム合金を用いる。
負極活物質層2の厚さは、エネルギー密度の観点で、0.2mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、もっとも好ましくは0.6mm以上である。また、同様の観点で、3mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下、もっとも好ましくは1.5mm以下である。
【0020】
(正極活物質)
本発明の電池では、正極活物質として、液体のオキシハロゲン化物を用いる。本発明で正極活物質として用いるオキシハロゲン化物として、例えば、塩化チオニル(SOCl)、塩化スルフリル(SOCl)、塩化ホスホリル(POCl)が挙げられる。電池にした場合の放電特性などを考慮して、本発明で正極活物質として用いるオキシハロゲン化物は、塩化チオニルであるのが好ましい。
【0021】
(正極集電体)
本発明で用いる正極活物質が塩化チオニルなどの液体のオキシハロゲン化物であることから、この液体の含浸と正極反応場の提供のため、本発明の電池内に設けられる正極集電体4は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂のバインダなどにより成形された、炭素を含有する多孔質体である。この炭素としては、カーボンブラック、アセチレンブラックなどが用いられる。
【0022】
(固体電解質)
本発明の電池にて、固体電解質層3に含有される固体電解質として、機械的強度を高めるために、酸化物系固体電解質を選択するのが好ましい。なお、硫化物系固体電解質を用いた場合は、この硫化物系固体電解質が上記塩化チオニルなどのオキシハロゲン化物に溶けることにより電解質が消失する恐れがある。
酸化物固体電解質は、例えばLLT:La0.55Li0.35TiOなどのペロブスカイト型の結晶、LLZ:LiLaZr12などのガーネット型の結晶、Li1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)などのナシコン型の結晶、を含むものが挙げられる。本発明で用いる酸化物固体電解質は、化学的耐久性の観点で、ナシコン型のLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有するガラスセラミックスを用いるのが好ましい。
【0023】
この結晶、すなわちLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有するガラスセラミックスは、
酸化物基準のmol%で、
LiO 10〜25%、および
Alおよび/またはGa 0.5〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25〜50%、および
SiO 0〜15%、および
26〜50%
の各成分を含有するガラスを溶融、急冷することでガラスを得たのち、このガラスを熱処理し、結晶を析出させることによって得ることができる。
【0024】
ここで、「酸化物基準のmol%」とは、本発明の無機組成物構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、この生成酸化物の物質量の総和を100mol%として、ガラスセラミックス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0025】
なお、本発明の電池にて用いられる固体電解質は、上述のガラスセラミックスを含有するが、上述のガラスセラミックスのみからなる形態であることがより好ましい。
【0026】
(固体電解質層)
本発明の電池にて、固体電解質層3は、スルーホールの有無は問わないが、出力特性の観点で、スルーホールのない固体電解質層を用いるのが好ましい。
また、本発明の電池にて、固体電解質層3は、上述の固体電解質のみからなる形態もあり、また上述の固体電解質以外の物質を含有する形態もある。上述の固体電解質以外の物質を含有する形態は、上述の固体電解質だけでなく、例えば、固体電解質層の柔軟性を高めるために、樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂)を含有する形態や、電解質層の緻密化のためにアルミナ(Al)やLiPOやTiOなどの無機物を含有する形態など挙げられる。
本発明の電池にて、固体電解質層3の厚さは、機械的強度を高める観点で、0.02mm以上が好ましく、より好ましくは0.05mm以上、もっとも好ましくは0.08mm以上である。他方で、出力電圧の観点で、2mm以下が好ましく、より好ましくは1.5mm以下、もっとも好ましくは1mm以下である。
【0027】
(固体電解質層の作製方法)
固体電解質層3の作製方法としては、上述した固体電解質層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、次の方法が挙げられる。
一例として、下記実施例2のように、ガラスの結晶化処理等により、上記Li1+x+z(Ge1−y、Ti2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる1種以上)などの結晶が析出したガラスセラミックスのブロック体を作製し、そのブロック体について、切削加工や研削加工等を行い、筒状や有底筒状等の任意の形状のガラスセラミックスのブロック体を作製する方法が挙げられる。また、切断加工を行わないように、例えばガラス融液を任意の形状の金型に流し、急冷させることにより、筒状や有底筒状等の任意の形状のガラスセラミックスのブロック体を作製する方法も挙げられる。この任意の形状のガラスセラミックスのブロック体を本発明の電池の固体電解質層として用いる。
別の一例は、下記実施例1に示すように、公知の溶媒、バインダ等を用いて、ガラス粉末や上記のような結晶が析出したガラスセラミックス粉末を含むスラリーを作製し、そのスラリーをポリスチレン等のロッドにコートし、焼結等することで、筒状や有底筒状等の任意の固体電解質層を作製する方法である。
別の一例は、圧粉による成形や焼結により、ガラス粉末や上記のような結晶が析出したガラスセラミックス粉末を含む固体電解質層を作製する方法である。例えば、この粉末と必要に応じて公知のバインダ等を混合して混合体を作製し、その混合体を任意の形状の金型(例えば筒状の金型など)に入れて加圧して、筒状や有底筒状等の任意の形状の成形体を作製し、その成形体を焼結する方法が挙げられる。また、この混合体を任意の形状の金型(例えば筒状の金型など)に入れて加圧して、任意の形状の予備成形体を作製し、更にその予備成形体から等方圧プレスなどにより筒状や有底筒状等の任意の圧粉体を作製して、その圧粉体を焼結する方法も挙げられる。
別の一例は、ガラス粉末や上記のような結晶が析出したガラスセラミックス粉末を含むグリーンシートを、ポリスチレン等のロッドに巻き付けることやグリーンシートを筒状に丸めること等により、筒状や有底筒状等の任意の固体電解質層前駆体を作成し、その前駆体を焼成することにより、筒状や有底筒状等の任意の固体電解質層を作製する方法である。なお、このグリーンシートは、例えば、ガラス粉末や上記のような結晶が析出したガラスセラミックス粉末と、公知のバインダ、公知の可塑剤、公知の溶剤等との混合スラリーを作製し、そのスラリーをドクターブレード法やカレンダ法等の公知の方法を用いて、作製することができる。
【0028】
(電池反応)
本発明の電池は、負極活物質をリチウム金属とし、正極活物質を塩化チオニルとした場合は次に示す電池反応(放電反応)が生じると考えられる。
(1)8Li+4SOCl→Li+6LiCl+SCl
(2)8Li+3SOCl→LiSO+6LiCl+2S、
(3)4Li+2SOCl→4LiCl+SO+S
一般的には(3)の式に従うと考えられている。このとき、生成する塩化リチウム(LiC
l)は正極集電体に蓄積され、SOとSはオキシハロゲン化物を含む液体に溶解していると
考えられている。
なお、負極側、正極側それぞれについては、以下の反応が生じる。
負極:Li→Li+e
正極:2SOCl+4Li+4e→4LiCl+SO+S
【0029】
(その他)
固体電解質層3と負極活物質層2の間には、必要に応じて、リチウム金属やリチウム合金に対して耐性を有する化合物を含む層(保護層10)が設けられる。この保護層10は固体電解質層3に含まれる固体電解質と負極活物質層2の反応を防ぐことなどを目的として設けられる。この保護層10には、例えば、有機電解質やリチウム成分を含む化合物が用いられる。なお、この保護層10を設ける方法は、例えば、負極活物質層2と固体電解質層3との間の隙間を予め設け、その隙間に、保護層10に用いられる液体やゲル状の電解質を注入することや保護層10に用いられる物質を挿入することにより設ける方法や、保護層10に用いられる物質等を予め固体電解質層3にコーティングする方法が挙げられる。
【0030】
この有機電解質は、例えば、有機電解液、この有機電解液を含むゲル状の有機電解質、ポリマー電解質、イオン液体電解質などが挙げられる。有機電解液は、例えば、電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。本発明にて用いる有機電解液は、電解質塩の溶解度や粘度の観点で、カーボネート系有機電解液が好ましい。
この有機溶媒は、例えば、エステル系、エーテル系、カーボネート系、又はケトン系溶媒などが挙げられ、より具体的には、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)やジメチルカーボネート(DMC)あるいはメチルエチルカーボネート(MEC)などの鎖状カーボネート、ジメトキシエタン(DME)やジエトエタン(DEE)などの鎖状エーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(DOX)などの環状エーテル、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。この電解質塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、又はLiC(SOCFなどが挙げられる。
このポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide、略称PEO)やポリプロピレンオキシド(polypropylene oxide、略称PPO)に代表されるポリマーと、リチウム塩との複合材料などが挙げられる。
【0031】
このイオン液体電解質としては、例えば、イオン伝導性を有する常温溶融塩が挙げられる。例えば、イオン伝導性を有する常温溶融塩としてはEMI−TFSI( 1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、EMI−BF4(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート)、TMPA−TFSI(トリメチルプロピルアンモニウム−ビストリフルオロメチルスルフォニルイミド)、PP13(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)、等の溶融塩とLiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、LiN(SOCF(リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド)、LiN(SO(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)又はLiSOCF(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiPF(6フッ化リン酸リチウム)等のリチウム塩を混合したもの用いることができるが、これらに限らず種々の溶融塩やリチウム塩を用いる事ができる。
【0032】
このリチウムを含む化合物は、例えば、塩化リチウム(LiCl)やフッ化リチウム(LiF)などのリチウムを含むハロゲン化物、LiPONやLiPFなどのリチウムを含むリン化合物が挙げられる。
【0033】
固体電解質層3に含まれる固体電解質と負極活物質2の反応を防ぐためには保護層10の厚みの下限は0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが最も好ましい。他方で、この層は過度に厚いとリチウムイオン伝導性が低下するので、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が最も好ましい。
【0034】
(本発明の電池の製造方法)
本発明の電池は、例えば以下のような方法で製造することができる。
先ず、上述の電池容器1を準備し、この電池容器1の内面に、負極活物質であるリチウム金属又はリチウム合金を圧着などにより貼り付け、負極活物質層2を設ける。なお、この製造方法にて用いられる圧着は、例えば、所定の圧力によるプレスや加熱圧着などが挙げられる。加熱圧着は、例えば、所定の加熱と圧力によるプレスをすることや、予め加熱圧着により貼り付ける部材(例えば、固体電解質層3など)の一部の部位にシーラントフィルムなどの熱圧着フィルム等を設けそのフィルム(樹脂)を溶かして圧着することが挙げられる。
なお、所定の圧力によるプレスにより、電池容器1に負極活物質層2を貼り付けることができる。
そして、負極活物質層2の内側に、保護層10や固体電解質層3や絶縁体9を圧着等により設ける。図2記載の電池では、筒状の固体電解質層3を用いているが、前記電池容器1の底部には絶縁体9を設けて、正極構成部位と負極の機能を発揮する部位とが、直接接触しないようにしている。図3記載の電池では、絶縁体9の代わりに、固体電解質層3を上面に開口部を有する有底筒状の形状とすることにより、正極構成部位と負極の機能を発揮する部位とが、直接接触しないようにしている。なお、保護層10を設ける場合は、負極活物質層2と固体電解質層3の間に、この保護層10を設ける。
そして、固体電解質層3の内側に、正極集電体4を挿入する。正極集電体4を挿入後、固
体電解質層3の内側に更に、電池蓋5に固定された正極端子6を挿入する。正極端子6は、
例えば、図2や3に示すように正極集電体4と接触するように挿入される。この挿入のため
に、予め正極集電体4に正極端子が挿入される部位を設けてもよく、またこのような部位を
設けなくてもよい。また、電池蓋5により、電池容器1の上面開口部を封止する。この封止
は、レーザー溶接等により行う。なお、正極端子6は、電池蓋5の中心の穴に電池蓋5と電
気的に絶縁して固定されている。また、この封止により、空間7ができる。
更に、電池容器1の中に、正極端子6から、塩化チオニルなどの液体のオキシハロゲン化物を、正極集電体4へ注入する。液体のオキシハロゲン化物は、正極集電体4や空間7に保持される。
その後、ステンレス鋼製の封口体8を用いて、レーザー溶接等により、パイプ状正極端子6の上面開口部を封止して、電池容器1を完全密閉する。完全密閉としているのは、例えば塩化チオニルが外部に漏れるのを防ぐのと、電池容器内に水分が入り込むのを防ぐためである。この完全密閉により、本発明の電池が完成する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について、具体的な実施例を挙げて説明する。なお、この実施例の記載において、下記記載の「外径」及び「筒部肉厚」は径方向の長さを表し、そのうち「筒部肉厚」は固体電解質層3の径方向の長さ(厚さ)である。
【0036】
[実施例1]
1.固体電解質層の作製
原料として、日本化学工業株式会社製HPO、Al(PO、LiCO、株式会社ニッチツ製SiO、及び堺化学工業株式会社製TiOを用い、これらの原料を、酸化物基準のmol%で、P33.8%、Al7.6%、LiO14.5%、SiO2.8%、TiO41.3%の組成になるように秤量し、均一に混合した。混合物を白金ポット内に入れ、電気炉中1450℃で3時間に亘り、撹拌を行いながら加熱溶解を行った。得られたガラス融液を流水中に滴下することで、フレーク状のガラスを得た。このガラスをジェットミルで粉砕することで、平均粒子径1.9μmのガラス粒子を得て、このガラス粒子をエタノールによる湿式ボールミルで微粉砕し、得たスラリーを噴霧乾燥することで、平均粒子径0.3μmのガラス微粒子を得た。
ガラス微粒子に、水に分散させたアクリル樹脂に分散剤を添加し、ボールミルで48時間に亘り撹拌することでスラリーを調製した。このスラリーにおけるガラス微粒子の含有量は65.5質量%であり、アクリル樹脂の含有量は13.5質量%であった。かかるスラリーを、ポリスチレンロッド上にコートし、95℃で乾燥を行った。
ポリスチレンロッドにこのスラリーをコートしたものを、480℃で2時間に亘り加熱した(脱脂)後、980℃まで急激に昇温し、980℃にて30分間保持した(焼結)後、室温まで自然冷却した。得られた焼成処理物(固体電解質)は、底部を有した円筒形状(有底円筒状の形状)であり、外径13mm、筒部肉厚0.3mm、軸方向の長さ60mmであった。そして、焼成処理物をX線回折法で調べたところ、Li1+x+yAlTi2−xSi3−y12(式中、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)の結晶が含有されていることが確認された。また、インピーダンス測定を行って求めたイオン伝導度は2.7×10−4Scm−1であった。
実施例1の電池において、固体電解質層3として、この固体電解質を用いた。また、この固体電解質層3はスルーホールがない。
更に、この固体電解質層3の外周上に、厚さ20μmポリプロピレン製多孔質フィルムを巻いた。なお、この多孔質フィルムには、下記有機電解液が滲みこむ。
【0037】
2.電池の作製
以下記載のようにして、図3記載のような形状の電池を作製した。
先ず、上述の電池容器1を準備し、この電池容器1の内面に、負極活物質であるリチウム金属を所定の圧力によるプレスにより貼り付け、負極活物質層2を設けた。
そして、負極活物質層2の内側に、保護層10のための隙間をあけて、負極活物質層2の内側に上述の有底円筒状の形状の固体電解質層3をより設けた。固体電解質層3は、その外側底面1と電池容器1の内側底面をフィルムによる加熱圧着により固定した。上述のように、この固体電解質層3には、更に外周上に、厚さ20μmポリプロピレン製多孔質フィルムが巻かれている。
このフィルムによる加熱圧着の方法は、予め加熱圧着により貼り付ける部材(例えば固体電解質層3)の一部の部位に、ポリプロピレン製のシーラントフィルムを貼り付け、そのフィルム(樹脂)を溶かして、これらの層を圧着する方法である。以下、実施例1〜4や比較例の説明にて挙げるフィルムによる加熱圧着も同様である。
なお、本実施例において、保護層10の構成部位は、下記有機電解液を注液する前は、負極活物質層2と固体電解質層3の隙間である。その後、この構成部位に、有機電解液を負極活物質層2と固体電解質層3の隙間に注液して、保護層10を設けた。
そして、固体電解質層3の内側に、正極集電体4を挿入した。正極集電体4を挿入後、固体電解質層3の内側に更に、電池蓋5に固定された正極端子6を正極集電体4と接触するように挿入した。また、電池蓋5により、電池容器1の上面開口部をレーザー溶接により封止した。正極端子6は、電池蓋5の中心の穴に電池蓋5と電気的に絶縁して固定した。また、この封止により、空間7ができた。
更に、電池容器1の中に、正極端子6から、液体の塩化チオニルを、正極集電体4へ注入した。液体の塩化チオニルは、正極集電体4や空間7に保持された。
その後、ステンレス鋼製の封口体8を用いて、レーザー溶接により、パイプ状正極端子6の上面開口部を封止して、電池容器1を完全密閉して、実施例1の電池が完成した。
【0038】
[実施例2]
1.固体電解質層の作製
原料として日本化学工業株式会社製のHPO、Al(PO、LiCO、株式会社ニッチツ製のSiO、堺化学工業株式会社製のTiO、住友金属鉱山製のGeO、日本電工製のZrOを使用した。これらを酸化物基準のmol%で、LiO成分を14.2%、Al成分を8.0%、SiO成分を1.0%、P成分を42.3%、GeO成分を18.1%、TiO成分を15.2%、ZrO成分を1.2%になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポットに入れ、電気炉中1350℃の温度で撹拌しながら3時間加熱・熔解してガラス融液を得た。その後、ガラス融液をポットに取り付けた白金製のパイプから加熱しながら、300℃に加熱したINCONEL600製(INCONELは登録商標)の金属の型に流し込んだ。その後ガラスの表面温度が600℃以下になるまで放冷し、その後550℃に加熱した電気炉中に入れ、室温まで徐冷することにより、熱的な歪を取り除いたガラスブロックを作製した。
その後、得られたガラスブロックを890℃にて12時間熱処理を行ない、結晶化処理を行なった。この結晶化処理を行ったこのブロック体(ガラスセラミックス)を、切削加工や研削加工により、外径12mm、筒部肉厚0.7mm、軸方向の長さ45mmの貫通円筒形(有底ではない円筒状の形状)の固体電解質に仕上げた。
そして、この固体電解質をX線回折法で調べたところ、Li1+x+zAl(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1、0≦z≦0.6)の結晶が含有されていることが確認された。また、インピーダンス測定を行って求めたイオン伝導度は1.1×10−4Scm−1であった。実施例2の電池において、固体電解質層3として、この固体電解質を用いた。
なお、この固体電解質層3は、スルーホールがない。
【0039】
2.電池の作製
以下記載のようにして、図2記載のような形状の電池を作製した。
先ず、上述の電池容器1を準備し、この電池容器1の内面に、負極活物質であるリチウム金属を所定の圧力によるプレスにより貼り付け、負極活物質層2を設けた。
そして、フィルムによる加熱圧着より、上述の有底ではない円筒状の形状の固体電解質層3とポリテトラフルオロエチレンからなる絶縁体9とを接合した接合体を作製した。この接合体を、図2に示すように、電池容器1の底部内側に、所定の加熱と圧力によるプレスにより、貼り付けた。また、この貼り付けにより、保護層10の構成部位である負極活物質層2と固体電解質層3の隙間も設けた。その後、この構成部位(隙間)に、有機電解液を注液して、保護層10を設けた。
そして、固体電解質層3の内側に、正極集電体4を挿入した。正極集電体4を挿入後、固体電解質層3の内側に更に、電池蓋5に固定された正極端子6を正極集電体4と接触するように挿入した。また、電池蓋5により、電池容器1の上面開口部をレーザー溶接により封止した。正極端子6は、電池蓋5の中心の穴に電池蓋5と電気的に絶縁して固定した。また、この封止により、空間7ができた。
更に、電池容器1の中に、正極端子6から、液体の塩化チオニルを、正極集電体4へ注入した。液体の塩化チオニルは、正極集電体4や空間7に含有された。
その後、ステンレス鋼製の封口体8を用いて、レーザー溶接により、パイプ状正極端子6の上面開口部を封止して、電池容器1を完全密閉して、実施例2の電池が完成した。
【0040】
[実施例3]
1.固体電解質層の作製
実施例1にて作製したガラス微粒子と、アルミナ(Al)の微粒子(粒子径1μm)とを用いて、実施例1のような底部を有する円筒状の形状の固体電解質層を作製した。
先ず、粒子の混合体を準備した。実施例1にて作成したガラス微粒子とアルミナ(Al)の微粒子との体積比が95:5となるように、すなわち「ガラス微粒子:アルミナの微粒子=95:5」となるように、この混合体を調製した。
次にこの粒子の混合体に、水に分散させたアクリル樹脂に分散剤を添加し、ボールミルで48時間に亘り撹拌することでスラリーを調製した。このスラリーにおけるガラス微粒子の含有量は65.5質量%であり、アクリル樹脂の含有量は13.5質量%であった。かかるスラリーを、ポリスチレンロッド上にコートし、95℃で乾燥を行った。
ポリスチレンロッドにガラス微粒子をコートしたものを、480℃で2時間に亘り加熱した(脱脂)後、980℃まで急激に昇温し、980℃にて30分間保持した(焼結)後、室温まで自然冷却した。得られた焼成処理物は、実施例1と同様に固体電解質を含有し、底部を有した円筒形状(有底円筒状の形状)であり、外径14mm、筒部肉厚0.4mm、軸方向の長さ60mmであった。
この焼成処理物をX線回折法で調べたところ、Li1+x+yAlTi2−xSi3−y12(式中、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)の結晶が含有されていることが確認された。また、インピーダンス測定を行って求めたイオン伝導度は2.3×10−4Scm−1であった。
実施例3の電池において、固体電解質層3として、この焼成処理物を用いた。
なお、この固体電解質層3は、スルーホールがない。
【0041】
2.電池の作製
固体電解質層3に上記の固体電解質を用いたこと及び固体電解質層3の外周上に多孔質フィルムを設けなかったこと以外は、本実施例においては、実施例1と同様の方法にて、図3記載のような形状の電池を作製した。
【0042】
[実施例4]
1.固体電解質層の作製
実施例2に記載の方法にて、ガラスセラミックスのブロック体(1mm×1mm×軸方向の長さ45mm)を複数作製した。次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いて、長方形の面(このブロック体の1mm×45mmの面)を接合面として、複数のブロック体を加熱圧着により接合して、帯状のブロック体の集合体を作製した。更に、この帯状の形態(集合体)を筒状に丸めることにより、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いてこの帯状の形態の両端の面(共に1mm×45mmの長方形の面)を加熱圧着により接合して、貫通円筒型(有底ではない円筒状の形状)のガラスセラミックスとPTFEとの複合体(複合固体電解質)を作製した。この複合体の大きさは、外径13mm、筒部肉厚1mm、長さ45mmである。なお、ガラスセラミックスとPTFEとの体積比が65:35となった。
この複合体の外周面上に、スパッタリング法で厚さ60μmのLIPONを形成して、保護層10を設けた。
そして、この複合体をX線回折法で調べたところ、Li1+x+zAl(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1、0≦z≦0.6)の結晶が含有されていることが確認された。また、この複合体を、実施例2と同様に、負極活物質層2の内側へ、挿入した。インピーダンス測定を行って求めたイオン伝導度は0.5×10−4Scm−1であった。
実施例4の電池において、固体電解質層3に、この複合体を用いた。
なお、この固体電解質層3は、スルーホールがない。
【0043】
2.電池の作製
以下記載のようにして、図2記載のような形状の電池を作製した。
先ず、上述の電池容器1を準備し、この電池容器1の内面に、負極活物質であるリチウム金属を所定の圧力によるプレスにより貼り付け、負極活物質層2を設けた。
そして、フィルムによる加熱圧着より、上述の外周面上に保護層10が設けられている有底ではない円筒状の形状の固体電解質層3とポリテトラフルオロエチレンからなる絶縁体9とを接合した接合体を作製した。この接合体(保護層10も含む)を、図2に示すように、電池容器1の底部内側に、所定の加熱と圧力によるプレスにより、貼り付けた。なお、保護層10(LIPON)は、負極活物質層2と接触するように構成される。
そして、固体電解質層3の内側に、正極集電体4を挿入した。正極集電体4を挿入後、固体電解質層3の内側に更に、電池蓋5に固定された正極端子6を正極集電体4と接触するように挿入した。また、電池蓋5により、電池容器1の上面開口部をレーザー溶接により封止した。正極端子6は、電池蓋5の中心の穴に電池蓋5と電気的に絶縁して固定した。また、この封止により、空間7ができた。
更に、電池容器1の中に、正極端子6から、液体の塩化チオニルを、正極集電体4へ注入した。液体の塩化チオニルは、正極集電体4や空間7に含有された。
その後、ステンレス鋼製の封口体8を用いて、レーザー溶接により、パイプ状正極端子6の上面開口部を封止して、電池容器1を完全密閉して、実施例4の電池が完成した。
【0044】
[比較例]
実施例1〜4で挙げた固体電解質層3等に代え、厚さ0.5mmのガラスウールからなる底部を有した円筒形状(有底円筒状の形状)のセパレータ11を用いて、図4記載のような電池を作製した。図4では、この比較例の円筒形の電池の構造の断面図を示している。以下のようにして、この比較例の電池を作製した。
先ず、上述の電池容器1を準備し、電池容器1の底部内側に、所定の加熱と圧力によるプレスにより、ポリテトラフルオロエチレンからなる絶縁体9を貼り付けた。
そして、この電池容器1の内面に、負極活物質であるリチウム金属を所定の圧力によるプレスにより貼り付け、負極活物質層2を設けた。
そして、上述のセパレータ11と正極集電体4と組立体を作製した。この組立体は、セパレータ11の内部に、正極集電体4が、セパレータ11の内部底面に載置するように挿入することで作製した。
そして、図4に示すように、この正極集電体4とセパレータ11との組立体を、絶縁体9上に載置した。
そして、この組立体を挿入後、更に、この組立体の内側に、電池蓋5に固定された正極端子6を正極集電体4と接触するように挿入した。また、電池蓋5により、電池容器1の上面開口部をレーザー溶接により封止した。正極端子6は、電池蓋5の中心の穴に電池蓋5と電気的に絶縁して固定した。また、この封止により、空間7ができた。
更に、電池容器1の中に、正極端子6から、液体の塩化チオニルを、正極集電体4へ注入した。液体の塩化チオニルは、正極集電体4や空間7に含有された。
その後、ステンレス鋼製の封口体8を用いて、レーザー溶接により、パイプ状正極端子6の上面開口部を封止して、電池容器1を完全密閉して、比較例の電池が完成した。
【0045】
[その他]
なお、下記実施例1〜4や比較例では、正極集電体の作製等において、アセチレンブラックとテフロン(登録商標)のバインダを用いた。
【0046】
[電圧降下の確認]
実施例1〜4と比較例の電池について、40℃で30日間保存した後に、25℃で1時間保存し、1mA放電したときの電圧降下の程度を調べた。放電初期の電圧と放電2時間後の電圧の電圧差を電圧降下とした。ここでの放電初期の電圧とは、図1でいう放電後(t0)の放電電圧(V0)をいい、またここでの放電2時間後の電圧とは、図1でいうt1時点の放電電圧(V1)をいう。V1とV0の差が小さければ、長時間放電しないで放置しその放置後に放電開始する際の放電電圧の低下が抑制されたことになる。
実施例1の電圧降下は0.01V、実施例2の電圧降下は0.02V、実施例3の電圧降下は実施例1と同様に0.01V、実施例4の電圧降下は実施例2と同様に0.02V、比較例の電圧降下は0.56Vであった。この確認試験により、比較例に比べ、所定の固体電解質層を用いた実施例1〜4では、この電圧降下が抑制され、上述の放電電圧の低下が抑制されたことが示された。所定の固体電解質層の存在により、実施例1〜4では、正極活物質(塩化チオニル)と負極活物質(リチウム金属又はリチウム合金)とが直接接触しないことにより負極活物質の表面上に上記塩化リチウムの膜が生じにくく又は生じず、この放電電圧の低下が抑制されたと考えられる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1:電池容器
2:負極活物質層
3:固体電解質層
4:正極集電体
5:電池蓋
6:正極端子
7:空間
8:封口体
9:絶縁体
10:保護層
11:セパレータ
図1
図2
図3
図4