特許第6381306号(P6381306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381306
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20180820BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180820BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20180820BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B32B5/18
   B32B27/30 B
   B32B27/18 D
   C08J9/14CET
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-120620(P2014-120620)
(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-471(P2016-471A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】森田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−094896(JP,A)
【文献】 特開2005−145047(JP,A)
【文献】 特開2014−079946(JP,A)
【文献】 実開昭54−025275(JP,U)
【文献】 特開昭56−156611(JP,A)
【文献】 特開2003−004176(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0021929(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C08J 9/00− 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡層を有するポリスチレン系樹脂発泡体であって、
該発泡層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂と帯電防止剤と着色剤とを含む筋状の帯電防止層が積層されており、
該帯電防止剤が高分子型帯電防止剤であり、
該発泡体の該帯電防止層積層面側の表面抵抗率(A)が1×10〜1×1013Ωであり、
該帯電防止層の各々の表面抵抗率(B)が1×1013Ω以下であり、
該表面抵抗率(B)に対する該表面抵抗率(A)の比(A/B)が60以下であり、
該帯電防止層間の間隔が20mm以下であり、
該帯電防止層の幅方向長さが2〜20mmであることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記帯電防止層による表面被覆率が50〜98%であることを特徴とする請求項1に記
載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項3】
前記帯電防止層に、相溶化剤が配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂発泡体が、前記発泡層と前記帯電防止層とを共押出により積層させて得られる、シート状発泡体又は板状発泡体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項5】
前記発泡体片面当たりの前記帯電防止層の積層量が1〜30g/mであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項6】
前記発泡体の密度が30〜300kg/mであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に複数の筋状模様を有し、且つ帯電防止性能を有する、新規なポリスチレン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に模様が施された発泡体は、意匠性に優れ、高級感も備えていることから、消費者のニーズが高く、食品容器や折箱容器などの食品包装材やサインボード等として現在大量に生産されている。
【0003】
従来、このような発泡体としては、例えば、(1)ポリスチレン系樹脂発泡体の表面に模様を直接印刷したもの(特許文献1)、(2)ポリスチレン系樹脂発泡体の表面に、模様が印刷されたフィルムを接着剤等によりラミネートしたもの(特許文献2)や、(3)ポリスチレン系樹脂発泡体Aの表面に着色された筋状又は帯状のポリスチレン系樹脂発泡層Bを積層したもの(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−7966号公報
【特許文献2】特開平5−38752号公報
【特許文献3】特開2003−94896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の発泡体においては、意匠性の高い筋状模様を有し、埃や塵等の汚れ防止性能、すなわち帯電防止性能にも優れる発泡体は得られておらず、更なる改善の余地があるものであった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、意匠性の高い美麗な筋状模様を維持するとともに優れた帯電防止性能が発現する、新規なポリスチレン系樹脂発泡体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、筋状模様を有するポリスチレン系樹脂発泡体の表面に帯電防止性能を付与する研究を鋭意積み重ねた。まず、発泡層の少なくとも片面に樹脂層を筋状に共押出することにより、意匠性の高い美麗な筋状模様を形成することを見出した。しかし、この発泡体の筋状の樹脂層に高分子型帯電防止剤を配合すると筋状の樹脂層と筋状の樹脂層との間、すなわち筋状の樹脂層が積層されていない非積層部については、帯電防止性能が付与できず、非積層部に埃等の汚れが付着する場合があった。さらに検討を進めたところ、筋状の樹脂層に帯電防止剤を配合させて帯電防止層とするとともに、筋状の帯電防止層間に存在する非積層部分の幅を特定の範囲とし、発泡体表面の表面抵抗率を特定の範囲とすることで、意外にも、筋状模様を有するポリスチレン系樹脂発泡体の表面全体において十分な帯電防止性能を付与できることを知見した。
本発明はこのような新規な知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の<1>〜<8>に記載の筋状の模様が付与されたポリスチレン系樹脂発泡体が提供される。
【0009】
<1>ポリスチレン系樹脂発泡層を有するポリスチレン系樹脂発泡体であって、
該発泡層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂と帯電防止剤と着色剤とを含む筋状の帯電防止層が積層されており、該帯電防止剤が高分子型帯電防止剤であり、該発泡体の該帯電防止層積層面側の表面抵抗率(A)が1×10〜1×1013Ωであり、該帯電防止層の各々の表面抵抗率(B)が1×1013Ω以下であり、該表面抵抗率(B)に対する該表面抵抗率(A)の比(A/B)が60以下であり、該帯電防止層間の間隔が20mm以下であり、該帯電防止層の幅方向長さが2〜20mmであることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡体。
<2>前記帯電防止層による表面被覆率が50〜98%であることを特徴とする<1>に記載のポリスチレン系樹脂発泡体
<3>前記帯電防止層に、相溶化剤が配合されていることを特徴とする<1>または<2>に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
<4>前記ポリスチレン系樹脂発泡体が、前記発泡層と前記帯電防止層とを共押出により積層させて得られる、シート状発泡体又は板状発泡体であることを特徴とする<1>から<3>のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
<5>前記発泡体片面当たりの前記帯電防止層の積層量が1〜30g/mであることを特徴とする<1>から<4>のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
<6>前記発泡体の密度が30〜300kg/mであることを特徴とする<1>から<5>のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡体は、発泡層の少なくとも片面に帯電防止剤を含む帯電防止層が筋状に積層され、該発泡体表面の表面抵抗率(A)が1×1014Ω未満であり、かつ該筋状の帯電防止層の間隔が20mm以下であることから、意匠性の高い美麗な筋状模様を有するとともに、優れた帯電防止性能を有するものとなる。しかも、該筋状の帯電防止層に帯電防止剤を含有させただけであるにもかかわらず、非積層部を含む発泡体の表面全体にわたって、優れた帯電防止効果が発現するという、極めて特異的な作用効果を奏する。
【0011】
また、本発明のポリスチレン系樹脂発泡体は、筋状の帯電防止層に帯電防止剤を含有させるだけで発泡体表面全体に帯電防止効果が発揮されているため、ポリスチレン系樹脂発泡層には帯電防止剤を含有させる必要がないか、発泡層の帯電防止剤含有量を低減させることができる。したがって、発泡体製造の際に、帯電防止剤によって発泡層における発泡が阻害されることもなく、見かけ密度の小さく、表面性に優れた発泡体が得られる。
【0012】
また、本発明のポリスチレン系樹脂発泡体は、食品安全性、表面平滑性及び加工性も良好なものである。しかも、従来品と異なり、製造工程もわずか一工程ないしは二工程という極めて簡便なものであり、製造コストも大幅に下げることができる。
【0013】
従って、本発明のポリスチレン系樹脂発泡体は、トレイ容器、即席麺容器、弁当容器、納豆容器や丼等の食品物流包装材等(シート状発泡体)や、或いは弁当箱や菓子箱、折箱等の原反(板状発泡体)等における、埃や塵等のよごれを嫌う用途において、広くその需要が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の代表的なポリスチレン系樹脂発泡体の説明図である。
図2】本発明のポリスチレン系樹脂発泡体の概略断面図である。
図3】本発明の代表的なポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法の説明図である。
図4】本発明で用いる代表的な環状ダイの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ポリスチレン系樹脂発泡体]
図1、2は、本発明に係る代表的なポリスチレン系樹脂発泡体1(以下、単に発泡体1と略称する)の厚み方向の模式断面図である。
【0016】
発泡体1は、図1、2に示すように、ポリスチレン系樹脂発泡層2(以下、単に発泡層2と略称する)の片面に、帯電防止剤を含む帯電防止層3(以下、単に帯電防止層3と略称する)が共押出により筋状に複数積層され、該帯電防止層3間には帯電防止層3が積層されていない非積層部4(以下、単に非積層部4と略称する)が存在する。
【0017】
ここで、本発明において、筋状とは、例えば、図1に示すように、押出方向である長手方向に形成された、線状又は帯状の模様を意味する。例えば、複数の帯電防止層と発泡層の色の違いにより筋状模様として判別され、発泡体に木目模様、ストライプ模様、色調が段階的に変化していくぼかし模様が付与される。なお、色の違いは、色相、色調、明度や彩度が異なり、視覚的に認識できるものをいう。
【0018】
(発泡層2)
発泡層2は、ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤、気泡調整剤及びその他の添加剤を配合した発泡層形成用溶融物を共押出発泡させることにより形成されている。
本発明においては、帯電防止層に帯電防止剤が必須成分として配合されることから、発泡層に添加される帯電防止剤を低減することができる。発泡層に添加される帯電防止剤量を低減できれば、帯電防止剤による発泡への阻害が抑制されるので、より見かけ密度の低い発泡層を容易に得ることができる。上記観点から、発泡層の帯電防止剤含有量は、発泡層を構成する樹脂100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、2重量部以下であることがさらに好ましく、帯電防止剤が配合されていないことがもっとも好ましい。発泡層2を形成するための材料であるポリスチレン系樹脂としては、たとえば以下のものが挙げられる。
【0019】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物等が例示される。
【0020】
また、本発明では、これらのポリスチレン系樹脂に対し、所望の目的に応じて、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、スチレン−共役ジエンブロック共重合体やその水添物等の熱可塑性エラストマー、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム等のゴム等の重合体を含むものを使用することができる。その配合割合はポリスチレン系樹脂中に40重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
前記発泡層の密度は、発泡体が剛性、軽量性を併せ持つ観点から、30〜300kg/mであることが好ましく、40〜200kg/mであることがより好ましく、50〜100kg/mであることがさらに好ましい。
【0022】
また、前記発泡層の坪量については、発泡体が剛性、軽量性を併せ持つ観点から、100〜1000g/mが好ましい。更に好ましくは130〜800g/m、最も好ましくは150〜600g/mである。
【0023】
[帯電防止層3]
帯電防止層3は、上記発泡層2の少なくとも片面に、押出方向に筋状に、複数積層されており、帯電防止剤が配合されている。また、帯電防止層3は、帯電防止剤が配合されている熱可塑性樹脂を共押出により発泡層に積層することが好ましい。さらに、意匠性の高い発泡体を形成するためには、帯電防止層3には着色剤が配合されていることが好ましい。なお、帯電防止層3は、発泡状態であっても、非発泡状態であってもよいが、意匠性の観点からは非発泡状態であることが好ましい。なお、非発泡状態の帯電防止層には、局部的には一部気泡が形成されていてもよい。
【0024】
帯電防止層3は、表面平滑性の観点から、図2に示すように、帯電防止層3が発泡層2に埋め込まれるような形で形成されることが望ましい。なお、このような積層構造は、発泡層と帯電防止層とを共押出することによって得ることができ、特に、表面平滑性に優れる発泡体を得ることができる。以下に、帯電防止層2を成形するために用いる材料の各成分について詳述する。
【0025】
(熱可塑性樹脂)
帯電防止層を構成する熱可塑性樹脂としては、発泡層を構成する樹脂と同種のポリスチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などが例示される。これらの樹脂に所望の目的に応じて、その他の樹脂を含有させることもでき、その含有量は10重量%以下の割合であることが好ましい。
【0026】
この中でも熱可塑性樹脂としてはポリスチレン系樹脂を50重量%以上含有するものが好ましく、さらには70重量%以上含有するものがより好ましく、90重量%以上含有するものがさらに好ましく使用される。ポリスチレン系樹脂としては、発泡層を構成するポリスチレン系樹脂と同様のものを使用することができる。なお、発泡層の少なくとも片面に、幅が狭く均等な帯電防止層として複数積層させるようにするには、例えば、溶融粘度η1(測定条件200℃、せん断速度100s−1)を600〜1400Pa・sとすることが好ましく、より好ましくは700〜1300Pa・s、更に好ましくは800〜1200Pa・sのものを用いることが望ましい。
【0027】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、従来公知の界面活性剤型帯電防止剤や高分子型帯電防止剤などが用いられる。帯電防止剤が筋状に形成される帯電防止層に配合されるが、発泡体の表面全体に帯電防止性能が付与されるという特異的な効果が得られる。
【0028】
界面活性剤型帯電防止剤としては、例えば,ヒドロキシアルキルアミン,ヒドロキシアルキルモノエーテルアミン,グリセリン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤;アルキルスルホン酸塩,アルキルベンゼンスルホン酸塩,アルキルホスフェート等のアニオン系界面活性剤;テトラアルキルアンモニウム塩,トリアルキルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
高分子型帯電防止剤としては、表面抵抗率が1×1012Ω未満を示す樹脂が挙げられ、具体的には、金属イオンとしてカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれたアルカリ金属を含むアイオノマー樹脂、あるいはポリエーテルエステルアミドやポリエーテル等の親水性樹脂を主成分とするものが挙げられる。なお、汚染防止性や帯電防止効果の持続性等の観点から、帯電防止剤としては高分子型帯電防止剤を用いることが好ましい。
【0030】
前記親水性樹脂としては、体積抵抗率が1×10〜1×1011Ω・cmの親水性ポリマー(以下、単に親水性ポリマーともいう。)や、親水性ポリマーブロックと疎水性ポリマーブロックとのブロックポリマーなどが例示できる。なお、これらの中でも、親水性ポリマーとしてポリエーテルブロックを有し、疎水性ポリマーブロックとしてポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体が好ましい。具体的には、三洋化成工業(株)製「ポリエーテル−ポリプロピレンオレフィンブロック共重合体:ペレクトロンHS(融点134℃、表面抵抗率2.0×10Ω)(略称PAA1)高分子型帯電防止剤VL300、三洋化成工業(株)製「ポリエーテル−ポリプロピレンオレフィンブロック共重合体:商品名:ぺレスタットVL300」(融点133℃、表面抵抗率1.2×10Ω)(略称PAA2)等の市販品が挙げられる。
【0031】
前記アイオノマー樹脂としては、具体的には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の一部または全部をアルカリ金属で中和することで得られる、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーなどが挙げられる。なお、アイオノマー樹脂は、優れた帯電防止効果を有すると共に、アルカリ金属を介した擬似架橋構造をとることから、低分子量成分が溶出し難いという特性を有するので、食品容器等に用いるという観点から、好ましく用いられる
具体的には、三井デュポンポリケミカル(株)製MK400(融点93℃、表面抵抗率4.3×10Ω)等の市販品が挙げられる。
【0032】
前記帯電防止剤の配合量は、帯電防止層を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、4〜50重量部であることが好ましい。上記範囲内であれば、帯電防止層の間隔を特定範囲とすることによって、発泡体表面全体に帯電防止性能を発現させることが可能となる。本発明においては、筋状に形成された帯電防止層に帯電防止剤が配合されることによって、発泡体表面の全体に帯電防止性能が発現される。なお、帯電防止剤の配合量は、共押出によって発泡層に複数の帯電防止層を筋状に積層させる観点からは、5〜30重量部であることが好ましい。
【0033】
(相溶化剤)
なお、帯電防止層に帯電防止剤として前記アイオノマー樹脂や前記親水性樹脂を添加する際、特に前記アイオノマー樹脂を添加する際には、相溶化剤を配合することが好ましい。前記相溶化剤としては、ポリスチレン系樹脂と、親水性樹脂やアイオノマー樹脂とを相溶化する機能を有するものであればよい。具体的には、スチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体や、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体などを挙げることができる。このような相溶化剤を配合することにより、顔料などの着色剤を帯電防止剤と共に帯電防止層に配合しても、着色剤をより均一に分散させることができ、異物の発生を防止することができる。さらに、帯電防止層において、帯電防止剤が分離して脱離することを防止することもできる。上記観点から、相溶化剤の配合量は、帯電防止層を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましく、2〜10重量部であることがさらに好ましい。
【0034】
(着色剤)
帯電防止層3は上記熱可塑性樹脂と帯電防止剤を必須成分とするが、着色剤を配合しておくと、意匠性に優れた発泡体が得られることからさらに好ましい。
着色剤としては、無機系又は有機系の顔料や染料を用いることができる。有機顔料としては、例えば、モノアゾ系、クロモフタールレッド等の縮合アゾ系、アンスラキノン系、イソインドリノン系、複素環系、ペリノン系、キナクリドン系、ペリレン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、ニトロソ系、フタロシアニン顔料、有機蛍光顔料等を挙げることができる。
【0035】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、メタリック顔料、マイカ、パール顔料、亜鉛華、沈降性シリカ、カドミウム赤等を挙げることができる。
【0036】
また、有機染料としては、例えば、アンスラキノン系、複素環系、ペリノン系、塩基性染料、酸性染料、媒染染料等を挙げることができる。これらの中で、無機顔料を用いることで安価に製造できるため好ましい。また、着色剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。なお、発泡体1に筋状模様を付与できるのであれば、着色剤は帯電防止層に配合されても発泡層に配合されても構わない。また、意匠性の高い発泡体を得るためには、少なくとも、帯電防止層には着色剤を配合することが好ましい。
【0037】
なお、着色剤として酸化鉄、又は酸化鉄を含有する茶系の着色剤、例えば酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタンの混合物からなる着色剤を用いることにより、帯電防止層3が茶系の色を呈し、木目調又は柾目調の模様が形成され、より意匠性の高い高級感を有する容器を成形できる発泡体1を得ることができる。
【0038】
また、食品容器に用いる場合には、上記の着色剤や帯電防止剤の中からポリオレフィン等衛生協議会登録品を選択して用いることが好ましい。
【0039】
(帯電防止層3の表面抵抗率(B))
本発明においては、上記帯電防止層3の各々の表面抵抗率(B)は1×1013Ω以下であることが好ましい。
帯電防止層3の表面抵抗率(B)が上記範囲であれば、発泡層の表面に、非積層部分が存在することによる帯電防止性能の低下を補って、発泡体表面全体に帯電防止性能を発現させることができる。なお、帯電防止性能を効果的に高めるためには帯電防止層3の表面抵抗率(B)を好ましくは5×1012Ω以下、更に好ましくは1×1012Ω以下、最も好ましくは8×1011とすることが好ましい。また、帯電防止層3の表面抵抗率(B)は可能な限り小さいことが望ましいが、通常の帯電防止剤の性能からみて10Ω以上であることが好ましい。なお、帯電防止層3の表面抵抗率(B)は、前記した帯電防止剤の種類や配合量、帯電防止層の積層量を変えることにより適宜調節される。
【0040】
なお、帯電防止層の表面抵抗率(B)は、シシド静電気社製表面抵抗計メガレスタH0709を用い、測定端子を2探針型端子として、測定する帯電防止層の筋の中心部に該端子を接触させることにより計測される。上記の測定方法では、発泡層に積層された帯電防止層部分のみの表面抵抗率を測定することができる。
【0041】
(帯電防止層3による被覆率)
本発明においては、発泡体表面における、帯電防止層3による被覆率が50〜98%であることが好ましい。なお、帯電防止層3による被覆率は、下式(1)で定義される値である。
表面被覆率(%)=[(発泡体表面の面積−非積層部の面積)/発泡体表面の面積]
×100 ・・・・・・(1)
【0042】
前記被覆率が上記範囲内であれば、発泡体の全面において帯電防止性能を発現させることが可能であり、発泡体に意匠性の高い外観を形成させることができることから好ましい。上記観点から、帯電防止層3の被覆率は65〜94%であることが好ましく、75〜93%であることがより好ましい。
【0043】
なお、積層部と非積層部の境界は、前述のシシド静電気製の表面抵抗計及び2探針測定端子を用いて端子の一方を筋中心部に接触させ、もう一方を同じ筋の中央部に接触後、測定しながら筋の外側に向け移動し、移動中に急激に測定値が大きくなったときの端子の筋側の境界を帯電防止層積層部と非積層部の境界とすることができる。
【0044】
(帯電防止帯電防止層3の幅)
帯電防止帯電防止層の幅は、10mm以下の範囲とすることが好ましい。
さらに、帯電防止帯電防止層の幅は2mm以上であることがより好ましい。帯電防止層の幅を2mm以上とすることで、筋状の模様を目立たせて外観を向上させることができるほか、ダイ内部の帯電防止層の流路が細くなり過ぎず設計が容易になる。同様の観点から5mm以上が更に好ましい。一方で帯電防止層の幅を10mm以下とすることで、筋が細くなり、より木目に近い外観となることから好ましい。さらに好ましくは8mm以下である。
【0045】
帯電防止層3の幅は、帯電防止層と発泡層とを合流させる環状ダイ内部に設けられた帯電防止層の流路、例えば多数個の溝(流路孔)などの設計により調整することができ、溝の幅を大きくすることで、帯電防止層の幅を大きくすることが出来る。また帯電防止層の粘度低下や、揮発性可塑剤の増量によっても積層部の幅を小さくするような調整が可能である。
【0046】
なお、帯電防止層3の幅は、例えば、以下のようにして測定することができる。まず、前述のシシド静電気製の表面抵抗計及び2探針測定端子を用いて端子の一方(a)を筋状部分の中心部に接触させ、もう一方の端子(b)を同じ筋の中央部に接触させた後、逐次測定しながら筋状部分の外側に向けて端子(b)を移動させる。このとき、移動中に急激に測定値が大きくなったときの、端子(b)の位置を帯電防止層部と非積層部の境界とすることができる。
【0047】
(帯電防止層3の積層量)
発泡体の片面当たりの帯電防止層の積層量は1g/m以上、30g/m以下であることが好ましい。
帯電防止層の積層量が上記範囲内であることによって、表面平滑性、意匠性が向上する点から好ましい。上記観点から、3〜25g/mであることがより好ましく、4〜20g/mであることがさらに好ましい。なお、帯電防止層の帯電防止剤の配合量が同じである場合には、帯電防止層の積層量が大きいほど、帯電防止層部の表面抵抗率(B)は低くなる傾向にある。
【0048】
なお、帯電防止層の積層量は、帯電防止層押出機吐出量をL(kg/hr)、 発泡板引取速度M(m/min)、発泡板全幅N(m)として、以下の式(2)、(3)により求めることができる。帯電防止層が片面に積層されている場合には、下式(2)により求めることができる。
帯電防止層の積層量(g/m)=L×10/(M×N×60)・・・(2)
また、帯電防止層が両面に積層されている場合には、下式(3)により求めることができる。
帯電防止層の積層量(g/m)=L×10/(M×2N×60)・・・(3)
【0049】
(単位長さあたりの帯電防止層数)
前記帯電防止層3は、複数の帯電防止層、押出方向に向けて筋状に形成される。なお、意匠性の観点からは、発泡体の幅方向100mmに対して、帯電防止層は3〜25本であることが好ましく、5〜20本であることがより好ましい。
【0050】
(帯電防止層3の間隔の幅)
帯電防止層の間隔、すなわち非積層部4の幅は20mm以下であることを要する。
非積層部の幅が20mmより大きい場合は、発泡体の表面抵抗率が良好であっても、埃などが非積層部に選択的に付着することになる。非積層部の幅は、より帯電防止性能を高める観点から15mm以下が好ましく、10mm以下が更に好ましい。なお、非積層部の幅は0.1mm以上であることが好ましく、肉眼で筋として認識できなくなるため、外観に劣る場合がある。より明確な筋状模様を形成し外観を良化する観点から、好ましくは0.3mm以上、さらに0.5mm以上が好ましい。
なお、非積層部4の幅は、上述の積層部3の測定方法と同様にして測定することができる。
【0051】
帯電防止層の間隔は、帯電防止層と発泡層とを合流させる環状ダイ内部に設けられた帯電防止層の流路、例えば多数個の溝(スリット)などの設計により調整することが出来、溝と溝の距離を大きくすることで、非積層部の幅を大きくすることができる。また帯電防止層の粘度低下や、揮発性可塑剤の増量によっても非積層部の幅を小さくするような調整が可能である。
【0052】
以下に、共押出により上記発泡層2に帯電防止層3を筋状に積層して成形した発泡体1について詳述する。
【0053】
(発泡体1の表面抵抗率(A))
本発明の発泡体1は、前記発泡体表面の表面抵抗率(A)が1×1014Ω未満であることを要する。本発明においては、前記発泡層に帯電防止剤を含む帯電防止層を筋状に積層するとともに、筋状の帯電防止層の間隔を20mm以下とし、上記の発泡体表面の表面抵抗率(A)を満足することによって、筋状の帯電防止層が積層された面の発泡体全面において、帯電防止性能が発揮されることとなる。前記表面抵抗率(A)が1×10〜1×1013(Ω)であることがより好ましく、1×10〜1×1012(Ω)であることがさらに好ましい。
【0054】
発泡体1の表面抵抗率(A)は、JIS−K6911-1995 5.13に準拠して、押出発泡体の流れ方向に垂直に、流れ方向100mm、発泡体全幅のサンプルを切り出し、該サンプルそれぞれに対して、リングプローブを用いて表面抵抗率の測定を行うことにより求めることができる。なお、発泡体の片面にのみ帯電防止層が積層されている場合には、帯電防止層が積層される面における表面抵抗率を測定する。なお、上記の測定によれば、発泡体表面において、リングプローブが帯電防止層部と非積層部とを含んだ測定箇所として表面抵抗率が測定されるので、発泡体表面の平均として表面抵抗率(A)が測定される。
【0055】
本発明において、発泡体表面の全面で帯電防止性能が発揮される理由は、現時点では明らかではないが、以下のようなことが考えられる。
すなわち、発泡層に帯電防止層が積層され、帯電防止層の間隔が一定の距離以下にあることで、非積層部に帯電した際に生じる電場が帯電防止層部に架かり、帯電防止層部がアンテナのように電子を搬送し電位を中和するように働くことによって、発泡体の全表面において帯電防止性能が発揮されるようになったのではないかと考えられる。
【0056】
なお、帯電防止層部の表面抵抗率(B)に対する発泡体表面の表面抵抗率(A)の比(A/B)は、60以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、発泡体の外観と帯電防止性能とのバランスに優れた発泡体となる。上記観点から、該比は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0057】
[発泡体1の密度(見掛け密度)]
発泡体1の密度(見掛け密度)は30〜300kg/mであることが好ましい。該密度が上記の範囲内であれば、軽量に優れるとともに、実用に耐えうる強度を有する発泡体となる。上記観点から、該密度は40〜250kg/mであることがより好ましく、50〜150kg/mであることがさらに好ましい。
【0058】
[発泡体1厚み]
発泡体1の厚みは特に制約されないが、実用上、0.5〜10mmであることが好ましい。厚みを0.5〜3mmとした発泡体(シート状発泡体)は、熱成形されて筋状模様が付与された高級感溢れる意匠性の高いトレイ容器、即席麺容器、弁当容器、納豆容器、冷凍容器や丼等の食品容器等として好適に用いることができる。
【0059】
また、厚みを3〜10mmとした発泡体(板状発泡体)は、折箱、ディスプレイ芯材等として好適に用いることができる。
【0060】
ポリスチレン系樹脂発泡体の厚みは下記方法により求めることができる。発泡体の厚み(mm)を等間隔に幅方向に10点測定し、測定した各点における発泡体の厚み(mm)の算術平均値を発泡体の厚み(mm)とする。
【0061】
(本発明の発泡体の製造方法)
次に、本発明の発泡体の製造方法の一実施形態を図3に示す。
本発明の発泡体の製造方法は、図3に示すように、まず、先に説明した発泡層2を成形するための材料である、ポリスチレン系樹脂9、その他必要に応じて添加される気泡調整剤等の添加剤を第1押出機12に供給して加熱溶融し混練し、物理発泡剤10を圧入して更に混練し、第1押出機12内で発泡層形成用樹脂溶融物11とする。
【0062】
(物理発泡剤)
前記物理発泡剤としては、例えば、エタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの炭素数2以上7以下の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタンなどの炭素数1以上3以下のハロゲン化脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどの炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、又はジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどの炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等の有機物理発泡剤、窒素、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤が挙げられる。
【0063】
これらの物理発泡剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、ポリスチレン系樹脂との相溶性、発泡効率の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、さらに、中でもノルマルブタン、イソブタン又はこれらの混合物を主成分とするものを好適に用いることができる。
【0064】
物理発泡剤の添加量は、発泡体の見掛け密度などに応じて適宜調整することができるが、通常、発泡層を構成するポリスチレン系樹脂に対して0.15〜1.8mol/kgであることが好ましく、0.3〜1.5mol/kgであることがより好ましく、0.4〜1.2mol/kgであることがさらに好ましい。なお、発泡剤として、物理発泡剤以外の発泡剤を併用して用いることもできる。
【0065】
(気泡調整剤)
気泡調整剤としては、有機系又は無機系のいずれのものを用いることができる。無機系の気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0066】
また、有機系の気泡調整剤としては、リン酸−2,2−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等を挙げることができる。また、クエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も用いることができる。これらの気泡調整剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
気泡調整剤の添加量は、発泡層2を構成するポリスチレン系樹脂100重量部あたり、0.05重量部以上10重量部以下、好ましくは0.2重量部以上5重量部以下の範囲である。
【0068】
(その他の添加剤)
発泡層2を成形するための材料成分としては、上記成分の他、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。なお、着色剤を配合する場合には、積層発泡シートの質感を向上させる観点から、帯電防止層よりも淡色となるように着色剤の種類、配合量を調整することが望ましい。
【0069】
また、先に説明した帯電防止層3を形成するための材料である、ポリスチレン系樹脂5及び帯電防止剤6、その他必要に応じて添加される着色剤、添加剤等を第2押出機13に供給して混練し、可塑剤7を供給して更に混練し、第2押出機13内で帯電防止層形成用樹脂溶融物8とする。
【0070】
(可塑剤)
帯電防止層3を成形するには可塑剤を添加するのが好ましい。可塑剤を添加することにより、帯電防止層形成用溶融物と発泡層形成用溶融物とを共押出する際に、適正発泡温度での帯電防止層形成用溶融物の溶融伸びを著しく向上させることができ、帯電防止層形成用溶融物の伸びをポリスチレン系樹脂発泡層形成用樹脂溶融物の伸びに対応させることができる。
【0071】
上記の可塑剤としては、発泡シート製造後に、速やかに揮発する揮発性可塑剤を使用することが好ましい。揮発性可塑剤は、帯電防止層形成用樹脂溶融物中に存在している状態ではポリスチレン系樹脂の溶融粘度を低下させて、共押出による発泡に適する樹脂溶融物を形成することが可能となるとともに、押出発泡後には帯電防止層から揮散して、帯電防止層から容易に除去することが可能となる。従って、揮発性可塑剤を用いることにより、帯電防止層に配合した可塑剤が、食品などと接触することがなく食品衛生の観点からも好ましい。
【0072】
また、共押出後に可塑剤が残存して、帯電防止層3の剛性を低下させるおそれもないことからも、揮発性可塑剤が好ましく用いられる。
【0073】
なお、帯電防止層3を構成する熱可塑性樹脂の物性低下を生じない程度の添加量であれば、通常の可塑剤を用いることもでき、その添加量は、好ましくは3質量%未満、より好ましくは2%未満である。
【0074】
揮発性可塑剤としては、エタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンなどの炭素数2以上7以下の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタンなどの炭素数1以上4以下のハロゲン化脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、又はジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどの炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等から選択される1種、又は2種以上で構成されるものが好ましく用いられる。
【0075】
揮発性可塑剤の沸点は、帯電防止層からの揮発性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは80℃以下である。揮発性可塑剤の沸点がこの範囲であれば、共押出した後、得られた発泡シートを放置した状態で、共押出し直後の熱により、また、室温下でのガス透過により、揮発性可塑剤は帯電防止層から自然に揮散して自然に除去される。沸点の下限値は概ね−50℃である。
【0076】
そして、上記発泡層形成用樹脂溶融物11と帯電防止層形成用樹脂溶融物8を環状ダイ14に導入して共押出することにより発泡体1を得る。なお、帯電防止層形成用樹脂溶融物8と発泡層形成用樹脂溶融物11との吐出比(帯電防止層/発泡層)は、0.02〜0.2であることが好ましく、0.03〜0.18であることがより好ましい。
【0077】
上記発泡層形成用樹脂溶融物11及び帯電防止層形成樹脂溶融物8を、それぞれ適正温度に調整してから、環状ダイ14に導入する。環状ダイ14内で帯電防止層形成用樹脂溶融物8を発泡層形成用樹脂溶融物11の外周面上に、押出方向に、複数の筋状となるように積層させて、共押出を行うとともに、発泡層形成用樹脂溶融物を発泡させることにより、発泡層2の表面に帯電防止層3が筋状に形成された筒状積層発泡体を製造する。なお、共押出法では、発泡層形成用樹脂溶融物11及び帯電防止層形成用樹脂溶融物8との温度をできるだけ近づけることにより、独立気泡率の高い発泡体が得られ望ましい。
【0078】
ついで、この筒状積層発泡体を切り開くことによりシート状の発泡体1を得ることができる。また、この筒状積層発泡体をピンチロールにて挟み込んで発泡層2の内面同士を接合させることにより板状の発泡体1を得ることができる。
【0079】
環状ダイ14としては、帯電防止層形成用樹脂溶融物は、円周上に配された多数の帯電防止層形成用孔の流路を介して、帯電防止層形成用樹脂溶融物が帯電防止層形成用の流路孔から発泡層形成用樹脂溶融物の外周面に筋状に積層できる構造のものを用いることが好ましい。
【0080】
環状ダイ14内に加工される、帯電防止層3形成用流路孔については、発泡層2の外周面に帯電防止層3の筋状模様が形成されるのであれば、形状等は特に限定されるものではないが、流路孔の幅は0.4〜6.0mmとすることが好ましく、0.5〜5.0mmとすることがより好ましく、0.6〜4.0mmとすることがさらに好ましい。上記の流路孔であれば、概ね、0.5〜20mm、好ましくは0.8〜15mmの幅の帯電防止層3が発泡層2上に形成され易くなる。
【0081】
また、帯電防止層形成用樹脂溶融物11と発泡層形成用樹脂溶融物8の積層部分における、隣り合う流路孔間の平均中心間長さは、1〜12mmとすることが好ましく、2〜11mmとすることが、隣り合う帯電防止層同士が重ならず、良好な帯電防止層が形成される観点からより好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂発泡体を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0083】
製造装置として、第1押出機として、バレル内径90mmの押出機と、該押出機に接続されたバレル内径120mmの押出機とからなるタンデム型の発泡層形成用押出機を用い、該第1押出機の出口に共押出用環状ダイ(リップ径100mm)を取付け、さらに該共押出用環状ダイに帯電防止層形成用第2押出機(内径50mm)を連結させた共押出装置を用いた。
【0084】
なお、発泡層、帯電防止層に用いた原料ポリスチレン系樹脂、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤としては以下のものを用いた。
【0085】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂(PS1):
PSジャパン株式会社製GX251:溶融粘度1234Pa・s
ポリスチレン系樹脂(PS2):
PSジャパン株式会社製680:溶融粘度930Pa・s
ポリスチレン系樹脂(PS3):
PSジャバン株式会社GX154:溶融粘度1429Pa・s
【0086】
なお、ポリスチレン系樹脂の溶融粘度は、JIS K 7199に準拠し、キャピログラフ1D((株)東洋精機製作所製)の流動特性測定機を用いて、温度200℃、せん断速度100秒−1の条件で測定した値である。
【0087】
(着色剤)
着色剤(1):レジノカラー工業株式会社製SBF−T−3775 ベージュ顔料マスターバッチ
着色剤(2):大日精化工業株式会社製PS−M−SSCA11N7470BR 茶色顔料マスターバッチ
【0088】
(帯電防止剤)
高分子型帯電防止剤(1):三井デュポンポリケミカル株式会社製MK400
高分子型帯電防止剤(2):三洋化成工業株式会社製ぺレクトロンHS
【0089】
(相溶化剤)
相溶化剤:旭化成ケミカルズ株式会社製SBBS樹脂タフテックP2000
【0090】
(実施例1)
ポリスチレン系樹脂(1)と、気泡調整剤としてのタルクを1重量部(発泡層形成用ポリスチレン系樹脂100部に対する重量部)、着色剤(1)を1重量部(上記と同じ)の混合物を第1押出機に供給して加熱、溶融、混練し、この溶融混練物に対し物理発泡剤を表に示す量注入し、第2押出機中で樹脂温度を135℃に調整して、発泡層形成用樹脂溶融物とし、共押出用環状ダイ中に導入した。
同時に、ポリスチレン系樹脂(2)と、高分子型帯電防止剤(1)を7重量部(帯電防止層形成用熱可塑性樹脂100部に対する重量部)、相溶化剤として旭化成ケミカルズ株式会社製SBBS樹脂タフテックP2000を3重量部(帯電防止層形成用熱可塑性樹脂100部に対する重量部)、着色剤(2)を3重量部(帯電防止層形成用熱可塑性樹脂100部に対する重量部)加えて第2押出機に供給して、加熱、溶融、混練した後、揮発性可塑剤をこの樹脂溶融物に対して表に示す量注入し、160℃に調整後、帯電防止層形成用樹脂溶融物として共押出用環状ダイに導入した。なお、帯電防止層形成用樹脂溶融物には気泡調整剤を添加しなかった。
共押出環状ダイは、発泡層形成用樹脂溶融物の流路外周、直径88mmの円周に対し、周に沿って幅0.8mm、高さ1.2mmの矩形の断面形状を有する流路孔を180ケ均等に配置された帯電防止層形成用樹脂溶融物の流路を有するものを用いた。
共押出用環状ダイ中で、発泡層形成用樹脂溶融物と、流路から筋状に押出された帯電防止層形成用樹脂溶融物とを合流させて、発泡層形成用樹脂溶融物に帯電防止層形成用樹脂溶融物を積層した後、口径100mmの環状ダイから筒状に共押出し、筒状積層発泡体を形成した。該筒状発泡体の内面同士を融着することにより、本発明の筋状の帯電防止層を両面に有する板状の、幅410mm、厚み3.8mmポリスチレン系樹脂発泡体を得た。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
得られた発泡体は、発泡体表面に十分な帯電防止性能が付与され、優れた埃付着防止性能を示すものであった。また、表面に幅方向に筋状の帯電防止層が形成され、木目調の外観に優れ、発泡体表面には異物のないものであった。
【0091】
(実施例2〜8)
表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして発泡体を作成した。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
【0092】
(実施例9)
表1に示す条件とした以外は、実施例2と同様にして、共押出用環状ダイ中で、発泡層形成用樹脂溶融物と、流路孔から筋状に射出した帯電防止層形成用樹脂溶融物とを合流させて、発泡層形成用樹脂溶融物に帯電防止層形成用樹脂溶融物を積層・接着した後、口径67mmの環状ダイから筒状に共押出し、筒状積層発泡体を形成した。該筒状発泡体をφ270mmの冷却管に沿わせ、冷却後切り開き、筋状の帯電防止層を有する幅842mm、厚み1.7mmポリスチレン系樹脂発泡体(シート状発泡体)を得た。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
【0093】
(実施例10)
表1に示す条件とした以外は、実施例9と同様にして、筋状の帯電防止層を有する幅842mm、厚み1.9mmポリスチレン系樹脂発泡体(シート)を得た。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
【0094】
実施例2〜10で得られた発泡体は、実施例1と同様に、発泡体表面に十分な帯電防止性能が付与され、優れた埃付着防止性能を示すものであった。また、表面に幅方向に筋状の帯電防止層が形成され、木目調の外観に優れるものであった。さらに、着色剤の分散が良好で、異物のないものであった。
【0095】
(比較例1)
共押出環状ダイとして、発泡層形成用樹脂溶融物の流路外周、直径88mmの円周に対し、周に沿って高さ1.2mmの連続した流路孔を有する帯電防止層形成用樹脂溶融物の流路を有するものを用い、表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして発泡体を得た。
非積層部の幅が27mmであり、得られた発泡体表面の表面抵抗率(A)は1013Ω超であるので、本発明の発泡体の構成要件を満足するものはなかった。このため、帯電防止性能が十分でなく、埃付着防止効果が発現しなかった。また、木目調の外観を呈するものではなかった。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
【0096】
(比較例2)
高分子型帯電防止剤(1)の配合量を3重量%とし、表1に示す条件とした以外は実施例3と同様にして発泡体を得た。
得られた発泡体の非積層部の幅は7.4mmであるが、表面抵抗率(A)が1013Ω超であり、本発明の発泡体の要件を満足するものでなかった。このため、発泡体表面の表面抵抗率が大きくなり、帯電防止性能が得られず、埃付着防止効果が発現しなかった。
【0097】
(比較例3)
高分子型帯電防止剤(1)の配合量を3重量%とし、表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして発泡体を得た。
得られた発泡体の非積層部の幅は0.5mmであるが、表面抵抗率(A)が1013Ω超であり、本発明の発泡体の要件を満足するものでなかった。このため、発泡体表面の表面抵抗率(A)が大きくなり、帯電防止性能が得られず、埃付着防止効果が発現しなかった。
【0098】
(比較例4)
高分子型帯電防止剤と相溶化剤を配合しなで、表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして発泡体を得た。得られた発泡体の特性等を表2に示す。
得られた発泡体の非積層部の幅は7.4mmであるが、表面抵抗率(A)は1013Ω超であり、本発明の発泡体の要件を満足するものでなかった。このため、発泡体表面の表面抵抗率(A)が極めて大きく、帯電防止性能が得られず、埃付着防止効果が発現しなかった。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
なお、帯電防止層の表面抵抗率B、帯電防止層の被覆率、発泡体の見掛け密度、厚み、発泡体の表面抵抗率A、発泡体の帯電防止性、埃付着防止性及び外観についての測定・評価については、次の通り行った。
【0102】
(帯電防止層の表面抵抗率B)
帯電防止層の表面抵抗率(B)は、シシド静電気製表面抵抗測定器メガレスタH0709を用い、2探針プローブ(探針間隔20mm)を用い、印加電圧を500Vとして、帯電防止層の筋状部分の中心部に沿って、測定端子を配置し計測する。発泡体表面に存在する筋それぞれについて測定を行い、その測定値の平均をBとした。
【0103】
(帯電防止層による被覆率)
被覆率は、帯電防止層が形成されている発泡体表面において、押出方向に100mm、発泡体幅に切り出したサンプルにおける表面積と非積層部の面積から求めた。なお、積層部と非積層部の境界は、前述の方法により計測した。
【0104】
(発泡体の厚み)
発泡体の厚みは、発泡体を幅方向に沿って、一方の端部から他方の端部に至るまで等間隔に複数箇所(5点以上)の地点について測定される厚み(mm)の算術平均値として求めた。
【0105】
(発泡体の見掛け密度)
発泡体の見掛け密度は、発泡体の全幅にわたり、無作為に複数箇所(5箇所以上が望ましい)切り出した、試験片の重量(g)を、該試験片の外形寸法から求められる体積(cm)で除した値を単位換算(kg/m)して各サンプルの見掛け密度を求め、得られた値の平均値を見掛け密度とした。
【0106】
(発泡体の表面抵抗率A)
発泡体の表面抵抗率Aは、まず、押出発泡体の押出方向に垂直に、押出方向100mmの長さに発泡体全幅のサンプルを切り出し、更に該サンプルを幅方向に100mmずつ、切り出し、該100mm角のサンプルそれぞれに対し、リングプローブを用いて平均表面抵抗率の測定を行った。測定はJIS−K6911-1995 5.13に準拠して行った。得られた測定値の平均値を表面抵抗率Aとした。
【0107】
(埃付着防止性)
発泡体の埃付着防止性の評価は、まず、押出発泡体の押出方向に垂直に、押出方向200mmの長さに発泡体全幅のサンプルを切り出し、該サンプルを23℃、湿度50%の恒温恒湿度下に24時間静置した後、内寸400mm×500mm×300mmの密閉容器に評価面が容器内の空間に接するよう治具等にて固定した。該容器内部には空気還流用のファンを備え、該ファンによりコピーに用いられる黒色トナー0.2gを浮遊させることが出来る構造とした。サンプルを容器内に設置した後、密閉し、ファンを稼動して5分間トナーを浮遊させ、サンプルに暴露させた。得られたサンプルの、トナーの付着状況を目視にて観察し以下の通り評価した。
◎:積層部分と非積層部分は、何れも極めて付着が少ない。
○:積層部分は極めて付着が少ないが、非積層部分は積層部分より若干付着が見られる。
×:積層部分は極めて付着が少ないが、非積層部分には積層部分に対して著しい付着が見られる。
【0108】
(外観)
○:木目模様の外観を有する
×:木目模様の外観を呈しない
【符号の説明】
【0109】
1 ポリスチレン系樹脂発泡体(発泡体)
2 ポリスチレン系樹脂発泡層(発泡層)
3 帯電防止層(帯電防止層)
4 非積層部
5 帯電防止層を構成する熱可塑性樹脂
6 帯電防止剤
7 可塑剤
8 帯電防止層形成用樹脂溶融物
9 発泡層を構成するポリスチレン系樹脂
10 物理発泡剤
11 発泡層形成用樹脂溶融物
12 第1押出機
13 第2押出機
14 環状ダイ
図1
図2
図3
図4