(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンコイラーに載置された、長尺帯状の金属を巻き取ってなるフープ材(A)を、その巻き取りを解きながら連続的に表面処理槽内に貯留されている表面処理液に浸漬し、その後、リコイラーによって巻き取って、表面処理されたフープ材(B)を得る表面処理設備であって、
前記アンコイラーは、前記フープ材(A)を、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置することができ、その巻き取りを解くことで前記長尺帯状の金属を、その主面が鉛直方向と平行となる状態でワーク速度を9〜30m/minとして連続的に排出することができる構成を備え、
前記表面処理槽は、側壁に鉛直方向に形成された2つのスリット(a1、a2)を有し、さらに側壁の外側に、そのスリット(a1、a2)から表面処理液が外部へ漏洩することを防止する2つのパッキンを有し、それらのパッキンは板状の硬度が30〜90°の合成系ゴムからなり、各々、スリット(b1、b2)が形成されており、側壁のスリット(a1、a2)とパッキンのスリット(b1、b2)との位置が合うように、かつ、パッキンが側壁の外側に密着して内部の表面処理液が漏洩しないように構成されていて、前記アンコイラーから排出された長尺帯状の金属が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、一方のパッキンのスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、表面処理液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキンのスリット(b2)を通って内部から外部へ排出される構成を備え、
前記リコイラーは、前記表面処理槽から排出された後の表面処理された長尺帯状の金属を、その巻き取り軸を鉛直方向とした状態で巻き取って、表面処理されたフープ材(B)を得ることができる構成を備える、表面処理設備。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のi)に記載の油等の油脂を鋼板に塗付する方法は、多段式プレス等の幾回も成型を繰り返す事で鋼板表面の油分が無くなりキズ等が発生し易いという問題がある。この事から油を工程途中から塗付したり、成型率(減面率)を下げざるを得ず、生産性の低下が発生している。
【0004】
また、上記のii)に記載の銅等の潤滑性の有る金属をめっき等の被覆する方法は、多段プレスでめっき剥離する事は無く成型に問題は無いが、製品を成型した後に熱処理等を施す場合、残存するめっきが防炭剤として熱処理が入らなくなるので成型後にめっきを剥離する必要が有った。
【0005】
これに対して、上記のiii)に記載のりん酸塩+油脂石鹸等の処理は鋼板への密着性も良好で有り、製品にした後の浸炭等の熱処理に対して妨害する事が無い為に成型後皮膜を剥離する必要が無い。
【0006】
この様に優れた潤滑成型性を持つりん酸塩潤滑処理では有るが、鋼板を処理する場合、りん酸塩処理液と鋼板を反応させる為にフープ状の鋼板を解してりん酸塩処理液、油脂石鹸処理液に接触させる必要が有る。
【0007】
通常、フープ形状の鋼板を浸漬する場合、板状の製品の主面を水平面と平行にして下に曲げりん酸塩処理液等に浸漬、反応させ、反応を終了させた後、上に曲げ上げ乾燥させて巻き上げる方法が一般的で有る。
しかし、この方法では、鋼板上方向と下方向で化成性の違いから皮膜の形状が異なる事となり成型性にバラツキが発生し易い事や、巻き取り設備にフープ状鋼板を設置する時に立てかける時の作業の煩雑性、危険性が問題となっていた。その為にりん酸塩処理+油脂石鹸を付与する工程を行う為に、フープ材状鋼板を短冊状に切断、鋼板を立てて浸漬処理している事が一般的な工程で有り、非常に生産効率の悪い工程で有った。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、フープ材を切断することなく連続的に処理することができるため格段に生産効率が高く、さらに、均一な皮膜を形成でき、その結果、成型した場合の成型性も優れる表面処理されたフープ材が得られる表面処理設備およびそれを用いて行う、表面処理されたフープ材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決する為に本発明者は鋭意検討し、りん酸塩処理、油脂石鹸処理のような表面処理を行う際、フープ状鋼板を縦方向にセット(すなわち、巻き取り軸が鉛直方向となるように配置して)、そのまま巻き取り装置で巻き取り、さらに、この設備の中間部にりん酸塩処理槽他の表面処理槽を水平に設置し処理を行う装置を見出した。
【0010】
本発明は以下の(1)〜(3)である。
(1)アンコイラーに載置された、長尺帯状の金属を巻き取ってなるフープ材(A)を、その巻き取りを解きながら連続的に表面処理槽内に貯留されている表面処理液に浸漬し、その後、リコイラーによって巻き取って、表面処理されたフープ材(B)を得る表面処理設備であって、
前記アンコイラーは、前記フープ材(A)を、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置することができ、その巻き取りを解くことで前記長尺帯状の金属を、その主面が鉛直方向と平行となる状態で連続的に排出することができる構成を備え、
前記表面処理槽は、側壁に鉛直方向に形成された2つのスリット(a1、a2)を有し、さらに側壁の外側に、そのスリット(a1、a2)から表面処理液が外部へ漏洩することを防止する2つのパッキンを有し、それらのパッキンは板状の弾性体からなり、各々、スリット(b1、b2)が形成されており、側壁のスリット(a1、a2)とパッキンのスリット(b1、b2)との位置が合うように、かつ、パッキンが側壁の外側に密着して内部の表面処理液が漏洩しないように構成されていて、前記アンコイラーから排出された長尺帯状の金属が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、一方のパッキンのスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、表面処理液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキンのスリット(b2)を通って内部から外部へ排出される構成を備え、
前記リコイラーは、前記表面処理槽から排出された後の表面処理された長尺帯状の金属を、その巻き取り軸を鉛直方向とした状態で巻き取って、表面処理されたフープ材(B)を得ることができる構成を備える、表面処理設備。
(2)前記パッキンが、硬度が30〜90°の合成系ゴムからなる、上記(1)に記載の表面処理設備。
(3)上記(1)または(2)に記載の表面処理設備を用いて行う、表面処理されたフープ材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フープ材を切断することなく連続的に処理することができるため格段に生産効率が高く、さらに、均一な皮膜を形成でき、その結果、成型した場合の成型性も優れる表面処理されたフープ材が得られる表面処理設備およびそれを用いて行う、表面処理されたフープ材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について
図1および
図2を用いて説明する。
図1(a)は本発明の表面処理設備10(以下、単に「表面処理装置10」ともいう)を真上から見た概略図であり、
図1(b)は表面処理設備10を真横(水平方向)から見た概略図である。
【0014】
図1において表面処理装置10は、アンコイラー12に載置された、長尺帯状の金属22を巻き取ってなるフープ材(A)20を、その巻き取りを解きながら連続的に表面処理槽14内に貯留されている表面処理液3に浸漬し、その後、リコイラー16によって巻き取って、表面処理されたフープ材(B)28を得る表面処理設備であって、アンコイラー12は、フープ材(A)20を、その巻き取り軸24が鉛直方向となるように載置することができ、その巻き取りを解くことで長尺帯状の金属22を、その主面が鉛直方向と平行となる状態で連続的に排出することができる構成を備え、表面処理槽14は、側壁に鉛直方向に形成された2つのスリット(a1、a2)を有し、さらに側壁の外側に、そのスリット(a1、a2)から表面処理液3が外部へ漏洩することを防止する2つのパッキン141、143を有し、それらのパッキン141、143は板状の弾性体からなり、各々、スリット(b1、b2)が形成されており、側壁のスリット(a1、a2)とパッキンのスリット(b1、b2)との位置が合うように、かつ、パッキンが側壁の外側に密着して内部の表面処理液3が漏洩しないように構成されていて、アンコイラー12から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、一方のパッキンのスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、表面処理液3に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキンのスリット(b2)を通って内部から外部へ排出される構成を備え、リコイラー16は、表面処理槽14から排出された後の表面処理された長尺帯状の金属25を、その巻き取り軸26を鉛直方向とした状態で巻き取って、表面処理されたフープ材(B)28を得ることができる構成を備える、表面処理設備である。
【0015】
<フープ材(A)>
フープ材(A)20は長尺帯状の金属を巻き取ってなるものであり、コイル材ともいわれる。すなわち、本発明においてフープ材はコイル材を含むものとする。
【0016】
長尺帯状の金属の大きさは特に限定されず、例えば従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば幅300mm程度、厚さ1mm程度で、長手方向の長さが数mのものが挙げられる。
【0017】
長尺帯状の金属の材質も特に限定されず、例えば鋼板であってよい。
【0018】
<アンコイラー>
アンコイラー12は、フープ材(A)20を、その巻き取り軸24が鉛直方向となるように載置して用いることができる。また、その巻き取りを解くことで長尺帯状の金属22を、その主面が鉛直方向と平行となる状態で連続的に排出することができる構成を備える。
通常、フープ材は、保管の際、工場内等において、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置しておく。そして、それを利用する際は、フープ材をクレーン等で釣り上げて移動させ、その後、前述のように、短冊状に切断し、バッチ式で表面処理を行う。この場合、作業が多くなるので好ましくない。また、表面処理液内に浸漬した際に、槽内の上部と下部とでは、形成される皮膜の性状が異なり、その後の成型性等にバラツキが発生し易いため好ましくない。
また、連続式で表面処理を行う場合は、フープ材を、その巻き取り軸が水平方向となるように移動させる必要があった。長尺帯状の金属を、その主面が水平方向と平行となる状態で連続的に排出しなければ、長尺帯状の金属の移動方向を下に変化させて、表面処理液内に浸漬し、その後、上に変化させて排出することができないからである。ここで、フープ材を、その巻き取り軸が水平方向となるように移動させるためには、その巻き取り軸を90度回転させることが必要となる。フープ材は、工場内等において、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置され、その状態を保ったままクレーン等で釣り上げて移動させるためである。このような巻き取り軸を90度回転させる作業は、極めて煩雑で、危険が伴うため好ましくない。また、生産効率の悪化にもつながる。
【0019】
これに対して、本発明では、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置されて保管され、その状態を保ったままクレーン等で釣り上げて移動させて、そのままアンコイラー12に載置して用いることができる。そして、後述するように、リコイラー16によって、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置した状態で、表面処理後の長尺帯状の金属を巻き取ることができる。
よって、作業が極めて簡単、安全であり、また、生産効率の向上につながる。
【0020】
このようなアンコイラー12に載置されたフープ材(A)20から、その巻き取りを解きながら、長尺帯状の金属22を排出し、連続的に表面処理槽14へ供給する。
【0021】
<表面処理槽>
表面処理槽14について
図1および
図2を用いて説明する。
図2は表面処理槽14の概略斜視図である。ただし、パッキン141を側壁と密着させない状態で示している。また、表面処理液3については記載を省略している。
【0022】
図1および
図2に示すように、表面処理槽14は、側壁に鉛直方向に形成された2つのスリット(a1、a2)を有している。このスリット(a1、a2)を、アンコイラー12から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となる状態で連続的に通過する。
なお、本発明において「鉛直方向」は「略鉛直方向」を意味する。すなわち、完全な鉛直方向でなくてもよい。具体的には「鉛直方向」を90度の方向とするならば、その±15度程度の範囲内であれば「略鉛直方向」を意味する。「平行」および「水平」の文言についても同様であり、「略平行」および「略水平」を意味し、具体的には同様の範囲内を意味する。
【0023】
スリット(a1、a2)の幅W1は、長尺帯状の金属22の厚さと略同じか、0.5mm程度大きくすることが好ましい。具体的には、W1は1.5〜2.5mmとすることが好ましい。
スリット(a1、a2)の長さH1は、長尺帯状の金属22の幅と略同じか、20mm程度大きくすることが好ましい。具体的には、H1は270〜320mmとすることが好ましい。
【0024】
表面処理槽14は、このような2つのスリット(a1、a2)を有し、さらに側壁の外側に、そのスリット(a1、a2)から内部の表面処理液3が外部へ漏洩することを防止する2つのパッキン141、143を有する。また、それらのパッキン141、143は板状の弾性体からなり、各々、スリット(b1、b2)が形成されている。
【0025】
パッキン141、143は、板状の弾性体からなり、ゴムであることが好ましい。また、弾性体(好ましくはゴム)の材質および硬度は、硬質の金属(好ましくは鋼板)が移動して磨耗するため、耐磨耗性が優れていることが必要である。また、りん酸塩、油脂石鹸等の酸、アルカリ性の薬品を100℃程度の温度で用いて表面処理する場合には、100℃の酸やアルカリと接触する条件下において膨潤しないことが要求される。したがって、パッキン141、143は、硬度が30〜90°の合成系ゴムからなるものであることが好ましく、シリコンまたはEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)からなるものであることがより好ましい。
なお、ここで硬度は、JIS K 6253に準拠したタイプAによって測定して得られるショア硬度を意味するものとする。
【0026】
パッキン141、143の厚さTは特に限定されないが、例えば1.5〜3.0mmであることが好ましい。
また、パッキン141、143は、複数枚(例えば2〜4枚)を重ねて用いることが好ましい。表面処理槽14の内部の表面処理液3が漏洩し難くなるからである。なお、パッキン141、143の複数枚を重ねて用いた場合、パッキン141、143の厚さは、複数枚の合計の厚さを意味するものとする。
【0027】
スリット(b1、b2)の幅W2は、長尺帯状の金属22の厚さと略同じか、0.5mm程度大きくすることが好ましい。具体的には、W2は1.5〜3.0mmとすることが好ましい。
スリット(b1、b2)の長さH2は、長尺帯状の金属22の幅と略同じか、20mm程度大きくすることが好ましい。具体的には、H2は270〜320mmとすることが好ましい。
【0028】
図2において、パッキン141は表面処理槽14の側壁と密着させてない状態で示しているが、
図2の矢印の方向へ移動させて、パッキン141を側壁と密着させて用いる。パッキン143についても同様である。
また、側壁のスリット(a1、a2)とパッキンのスリット(b1、b2)との位置が合うように配置する。そして、アンコイラー12から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、一方のパッキンのスリット(b1)を通過し、その後、一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、表面処理液3に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)を通過し、その後、他方のパッキンのスリット(b2)を通って表面処理槽14の内部から外部(アンコイラー16側)へ排出される。
【0029】
表面処理槽14は、内部に表面処理液3を貯留できる構造を備えるものであればよく、例えば従来公知のタンクにスリット(a1、a2)を形成したものであってよい。
【0030】
表面処理液3は特に限定されず、例えば脱脂処理液、化成処理液(りん酸塩処理液等)、潤滑処理液(油脂石鹸処理等)を利用できる。また、各処理を行った後に水洗を行うための水であってもよい。
【0031】
表面処理液3として、例えばりん酸塩処理を用いてフープ形状の鋼板を浸漬して処理する場合、通常、フープ材は、保管の際、工場内等において、その巻き取り軸が鉛直方向となるように載置しておく。そして、それを利用する際は、フープ材をクレーン等で釣り上げて移動させ、その後、前述のように、短冊状に切断し、バッチ式で表面処理を行う。この場合、作業が多くなるので好ましくない。また、表面処理液内に浸漬した際に、槽内の上部と下部とでは、形成される皮膜の性状が異なり、その後の成型性等にバラツキが発生し易いため好ましくない。
これに対してフープ材を切断することなく連続的に処理することができるため格段に生産効率が高く、さらに、均一な皮膜を形成でき、その結果、成型した場合の成型性も均一にすることができる。
【0032】
図1に示す態様の本発明の表面処理設備10はアンコイラー12と、表面処理槽14と、リコイラー16とを備えるのみであるが、表面処理槽14を複数有していてもよい。その場合であっても、本発明の範囲内である。このような態様については、後述する。
【0033】
<リコイラー>
リコイラー16は、表面処理槽14から排出された後の表面処理された長尺帯状の金属25を、その巻き取り軸26を鉛直方向とした状態で巻き取って、表面処理されたフープ材(B)28を得ることができる構成を備える。
【0034】
リコイラー16は、前述のアンコイラー12と同様の態様であってよい。
【0035】
リコイラー16は、表面処理槽14から排出された後の表面処理された長尺帯状の金属25を、その巻き取り軸26を鉛直方向とした状態で巻き取るため、表面処理が完了したフープ材(B)28を、その巻き取り軸が鉛直方向とした状態のままクレーン等で釣り上げて移動させて、そのまま保管場所に載置することができる。よって、作業が極めて簡単、安全であり、また、生産効率の向上につながる。
【0036】
このような本発明の表面処理設備を用いて行う製造方法によれば、均一な皮膜を形成されたフープ材(B)を得ることができる。このフープ材(B)は、成型した場合の成型性にも優れる。
【0037】
ここで、長尺帯状の金属22はアンコイラー12からリコイラー16まで移動するが、その移動速度(以下、ワーク速度ともいう。)は、例えば9〜30m/minとすることが好ましい。
【0038】
次に、本発明の好ましい態様について、
図3を用いて説明する。
図3に示す態様は、上記の
図1および
図2を用いて説明した態様における表面処理槽14に相当するものを、複数備える態様である。
図3(a)は本発明の好ましい態様の表面処理設備50(以下、単に「表面処理設備50」ともいう)を真上から見た概略図であり、
図3(b)は表面処理設備50を真横(水平方向)から見た概略図である。
【0039】
図3に示す表面処理設備50は、アンコイラー12、脱脂槽54、水槽56、表面調整処理槽58、化成処理槽60、水槽62、潤滑処理槽64およびリコイラー16を有する。
【0040】
表面処理設備50においてアンコイラー12、リコイラー16は、前述の
図1および
図2に示した態様と同じである。フープ材(A)20、フープ材(B)28等についても同様である。なお、前述の
図1および
図2に示した態様と同じ部位については、同じ符号を付している。
【0041】
また、脱脂槽54、水槽56、表面調整処理槽58、化成処理槽60、水槽62および潤滑処理槽64の構造は、各々、前述の
図1および
図2に示した態様における表面処理槽14と同様である。
【0042】
図3に示す態様では、アンコイラー12から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、脱脂槽54における一方のパッキン541のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、脱脂処理液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン543のスリット(b2)を通って内部から外部(水槽56側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の表面は脱脂される。
脱脂槽54内の脱脂処理液は、例えば従来公知のものを用いることができる。
【0043】
脱脂槽54から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、水槽56における一方のパッキン561のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、水に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン563のスリット(b2)を通って内部から外部(表面調整処理槽58側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の表面は水洗される。
【0044】
水槽56から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、表面調整槽58における一方のパッキン581のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、表面調整液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン583のスリット(b2)を通って内部から外部(化成処理槽60側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の表面は調整される。
表面調整槽58内の表面調整液は、例えば従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えばプレパレンZ(日本パーカライジング製)を用いることができる。
【0045】
表面調整処理槽58から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、化成処理槽60における一方のパッキン601のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、化成処理液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン603のスリット(b2)を通って内部から外部(水槽62側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の表面は化成処理される。
化成処理槽60内の化成処理液は、例えば従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えばりん酸塩処理液(例えばりん酸亜鉛系)を用いることができる。
【0046】
化成処理槽60から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、水槽62における一方のパッキン621のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、水に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン623のスリット(b2)を通って内部から外部(潤滑処理槽64側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の表面は水洗される。
【0047】
水槽62から排出された長尺帯状の金属22が、その主面が鉛直方向と平行となった状態を保ったまま、連続的に、潤滑処理槽64における一方のパッキン641のスリット(b1)および一方の側壁のスリット(a1)を通って内部へ供給され、潤滑処理液に浸漬された後、他方の側壁のスリット(a2)および他方のパッキン643のスリット(b2)を通って内部から外部(リコイラー16側)へ排出される。これによって長尺帯状の金属22の潤滑処理は水洗される。
潤滑処理槽64内の潤滑処理液は、例えば従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば油脂石鹸、パルーブ235(日本パーカライジング製)を用いることができる。
【0048】
このような好適態様の表面処理設備50を用いると、化成処理および潤滑処理されたフープ材(B)を得ることができる。
【実施例】
【0049】
図3に示す構成の設備を用いて、鋼板(幅:115mm、厚さ:1.13mm)からなるフープ材を処理した。
【0050】
脱脂槽54、水槽56、表面調整処理槽58、化成処理槽60、水槽62および潤滑処理槽64は、各々、略直方体のタンクにスリット(a1、a2)を形成したものである。各槽内の液体は以下の通りである。
・脱脂槽54:ファインクリーナーE6406(日本パーカライジング製)
・水槽56:水道水
・表面調整処理槽58:プレパレンZ(日本パーカライジング製)
・化成処理槽60:りん酸亜鉛系処理液
・水槽62:水道水
・潤滑処理槽64:パルーブ235(日本パーカライジング製)
【0051】
シリコンパッキン(90mm×365mm×厚さ5mm)は硬度:70°であり、パッキンに形成されたスリット(b1、b2)の長さH2は305mm、幅W2は2mmとした。
EPDMパッキン(90mm×365mm×厚さ5mm)は硬度65°であり、パッキンに形成されたスリット(b1、b2)の長さH2は305mm、幅W2は2mmとした。
【0052】
このような表面処理装置50を用い、ワーク速度を25m/minとして処理した。
【0053】
そして、フープ材(B)として得られた鋼板について、多段プレス加工を施して、皮膜(潤滑皮膜)の残存率を求めた。結果を
図4に示す。
図4に示すように、多段プレス鍛造において、潤滑皮膜の残存率は非常に高く、2段目以降の残存率の低下も少なく安定することがわかった。よって、多段プレスやトランスファー加工の工数削減が可能と考えられる。
【0054】
次に、フープ材(B)として得られた鋼板について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
SEM像(1000倍および5000倍)を
図5に示す。
その結果、表面の皮膜(潤滑皮膜)は微細なエッチング根が多く存在することがわかった。そのため、投錨効果(足掛り効果)によって、プレス性に対する潤滑性能が高いと考えられる。
【0055】
次に、フープ材(A)として2種類を用意した。冷間圧延ロールのはだを一様に粗くし、鋼板の表面を梨地状の光沢のない状態に仕上たもの(ダル仕上げ)と、研磨した冷間圧延ロールで圧延し、鋼板の表面を平滑で光沢のある状態に仕上たもの(ブライト仕上げ)との2種類である。
これらの各々について、表面処理設備50を用いて処理し、フープ材(B)として得られた鋼板について深絞り加工を行った。そして、絞り深さ比、絞り深さ、破断荷重を測定した。また、比較のため、上記の2種類のフープ材(A)について、通常のプレス油を用いた場合についても、同様の測定を行った。
結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
第1表より、通常のプレス油を用いた場合と比べ、深絞り性が格段に向上していることがわかる。