特許第6381412号(P6381412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水ing株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381412
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】海水淡水化装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20180820BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 1/40 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 9/08 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 9/00 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 1/24 20060101ALI20180820BHJP
   C02F 9/02 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   C02F1/52 Z
   B01D61/02 500
   B01D61/04
   B01D61/58
   B01D61/14 500
   B01D61/16
   C02F1/40 B
   C02F1/40 C
   C02F1/28 D
   C02F9/08
   C02F9/00
   C02F1/24 C
   C02F9/02
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-226673(P2014-226673)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87564(P2016-87564A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】秦 良介
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】林 益啓
(72)【発明者】
【氏名】千田 祐司
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−223723(JP,A)
【文献】 特開昭52−049645(JP,A)
【文献】 特開昭51−048757(JP,A)
【文献】 特開2008−173534(JP,A)
【文献】 特開2009−165915(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/181583(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/016410(WO,A1)
【文献】 特開2011−240237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
B01D 21/01
C02F 1/52 − 1/56
C02F 1/20 − 1/26
C02F 1/30 − 1/38
C02F 9/00 − 9/14
C02F 1/40
C02F 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水した海水に無機凝集剤を添加して、海水中の懸濁物を凝集してフロックを形成させる凝集剤添加手段と、
前記フロック表面にTEP成分を吸着させてフロック表面を疎水化すると共に、前記凝集剤添加により海水中懸濁物が凝集して形成されたフロックを含む海水中に泡径が50μmより大きく2mm以下の気泡を発生させ、前記TEP成分と前記フロックとを前記気泡に吸着させることでTEP含有気泡を形成させ、前記TEP含有気泡を水面に浮上させて集めてTEP含有泡沫とする気泡発生部と、
断面積が上方に向かって縮減する壁面に沿って前記TEP含有泡沫を上昇させて水分を落下させ泡沫成分を高密度化して濃縮する泡沫濃縮部と、
前記濃縮されたTEP含有泡沫を除去し、前記TEP成分と前記懸濁物とが除去された海水を得る泡沫除去部と、
を具備する、泡沫分離によるTEP成分除去槽と、
TEP成分と前記懸濁物とが除去された海水を脱塩処理して淡水化する逆浸透膜処理装置と、
を具備することを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項2】
前記無機凝集剤は、鉄塩またはアルミニウム塩である、請求項1に記載の海水淡水化装置。
【請求項3】
前記泡沫除去部は、水面に対して平行となる底面と、
当該底面から斜めに立ち上がり頂部に開口を形成する複数の逆漏斗形状の立ち上がり部と、
を具備することを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化装置。
【請求項4】
前記TEP成分除去槽は、TEP成分除去後の海水の排水量を制御して前記泡沫除去部における泡沫除去量を一定にする越流水位制御部をさらに具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の海水淡水化装置。
【請求項5】
前記気泡発生部は、散気装置、曝気装置、撹拌式エアレータ、エジェクタ、極微細気泡発生装置、又は取水した海水を衝突させる衝突部材の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の海水淡水化装置。
【請求項6】
前記TEP成分と前記濁質物とが除去された海水から、濁質分を除去する除濁装置をさらに具備し、
前記除濁装置は、前記TEP成分除去槽と、前記逆浸透膜処理装置との間に設けられ、
前記除濁装置は、MF膜、UF膜、砂、アンスラサイト、ガラス、ガーネット、活性炭、及び繊維部材から選択される少なくとも1種を濾材として充填してなる濾過装置であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の海水淡水化装置。
【請求項7】
取水した海水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
凝集剤により海水中懸濁物が凝集して形成されたフロックを含む海水中に気泡を発生させ、当該気泡にTEP成分が吸着してなるTEP含有気泡を水面に集めてTEP含有泡沫として除去する泡沫除去部を具備するTEP成分除去槽と、
TEP成分が除去された海水を脱塩処理して淡水化する逆浸透膜処理装置と、を具備し、
前記TEP成分除去槽の前段に、前記海水又は前記フロックを含む海水に酸を添加する酸添加手段と、前記海水又は前記フロックを含む海水のpHを測定して酸の添加量を制御する酸添加量制御手段と、をさらに具備することを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項8】
取水した海水に無機凝集剤を添加して、海水中の懸濁物を凝集させてフロックを形成させる凝集剤添加工程と、
前記フロック表面にTEP成分を吸着させてフロック表面を疎水化すると共に、前記凝集剤添加により海水中懸濁物が凝集して形成されたフロックを含む海水中に泡径が50μmより大きく2mm以下の気泡を生成させ、前記TEP成分と前記フロックとを前記気泡に吸着させることでTEP含有気泡を形成させ、前記TEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した前記TEP含有気泡を集めてTEP含有泡沫とし、断面積が上方に向かって縮減する壁面に沿って前記TEP含有泡沫を上昇させて水分を落下させ泡沫成分を高密度化して濃縮した後に除去する、泡沫分離によるTEP成分除去工程と、
前記取水した海水、又は前記TEP含有泡沫を除去した後の海水から濁質分を除去する除濁工程と、
前記凝集剤添加工程、前記TEP成分除去工程、及び前記除濁工程を経た後の海水を逆浸透膜により脱塩処理して淡水化する脱塩処理工程と、
を具備することを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項9】
取水した海水に酸を添加する酸添加工程と、
酸添加後の海水のpHを測定し、該pHが5〜7の範囲となる様に前記酸添加量を制御する酸添加制御工程と、
前記海水中に気泡を生成させ、該気泡に海水中のTEP成分を付着させてTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めてTEP含有泡沫とし、該TEP含有泡沫を高密度化して濃縮した後に除去する泡沫分離によるTEP成分除去工程と、
前記TEP成分が除去された海水を逆浸透膜により脱塩処理して淡水化する脱塩処理工程と、
を具備することを特徴とする海水淡水化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水淡水化装置及び方法に関し、特に、汽水や海水中のTEP(Transparent Exopolymer Particles)成分及びその前駆体を除去するTEP成分除去装置を具備する海水淡水化装置及びTEP成分除去を含む海水淡水化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水あるいは汽水を脱塩して淡水化する装置及び方法として、逆浸透(RO)膜を用いる膜処理方法が用いられている。逆浸透(RO)膜は数ナノメートルの孔径を有するため閉塞(ファウリング)しやすく、凝集法、砂濾過法、加圧浮上法、MF膜(精密濾過膜)/UF膜(限外濾過膜)法などを単独あるいは組み合わせて、海水あるいは汽水に含まれている濁質を除去する前処理が必要である。従来の海水淡水化装置の代表例を図15に示す。
【0003】
図15に示す海水淡水化装置は、海水を取水する取水管101、取水管101に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などの殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段102、取水管101に海水を汲み上げる取水ポンプ103、取水ポンプ103の閉塞を防止するために取水ポンプ103の前段に設けられ貝類や大型のゴミなどを取り除くストレーナ104、取水した海水を貯留する原水槽105、原水槽105から原水を前処理するための濾過装置(図15では重力式二層砂ろ過装置)109に送水するための濾過原水送水管106及び濾過原水ポンプ107、濾過原水送水管106に塩化鉄(FeCl)などの凝集剤を添加する凝集剤添加手段108、濾過装置109にて濾過された処理水を逆浸透膜装置115に送水する処理水送水管110及び供給ポンプ114並びに保安フィルタ112及び保安フィルタポンプ111、処理水送水管110に重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)などの残留塩素除去剤を添加する残留塩素除去剤添加手段113を具備する。このような従来の海水淡水化装置では、前処理の濾過装置109及び逆浸透膜装置115の閉塞を防止するため、頻繁な定期メンテナンスが必要であり、逆浸透膜の寿命も短かった。
【0004】
濾過膜及び逆浸透膜の閉塞(ファウリング)を起こす物質(ファウラント)として、海水に含まれる透明で粘着性の高いゼリー状の有機物であるTEP(Transparent Exopolymer Particles:生体外分泌高分子粒子)の存在が認識されるようになってきた(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。TEPは、植物プランクトンや浮遊性バクテリアの代謝によって発生するFibril(繊維状物質)やHydrogel(ハイドロゲル)に由来する多糖類からなるゼリー状物質で、0.4μm〜200μm程度の大きさを有すること、海水中では膨潤して重量濃度の100倍以上の体積濃度を有すること、加圧によって変形して粒子寸法よりも小さな孔径の膜を通過することが確認されている。なお、TEPの分析手法として、アルシアンブルーを用いる酸性ムコ多糖類の着色を利用する方法が用いられている(非特許文献2)。
本明細書及び特許請求の範囲において、「TEP」とは主として多糖類である透明で粘着性の高いゼリー状物質を意味し、「TEP前駆体」とはFibril(繊維状物質)やHydrogel(ハイドロゲル)などの0.4μm以下の微細粒子を意味するものとして扱う。尚、海水中に含まれる全ての有機物がファウラントという訳ではないことから、有機物の中で、特に、このTEPとTEP前駆体を含むTEP成分を除去対象とする。
【0005】
海水からTEPを除去する方法として、海水に磁性粒子を添加し、TEPに磁性粒子を付着させ、磁気分離によって磁性粒子に付着したTEPを海水から除去する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、前処理用の濾過装置に、孔径1μm以上のポリテトラフルオロエチレン膜を用い、所定流束で原水を通過させ、TEPを除去する方法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
更に、前処理として、逆浸透膜装置に供給する膜供給水に、特殊なノボラック型フェノール系樹脂のアルカリ溶液を凝集剤として添加し、多糖類を凝集させて除去する方法が提案されている(特許文献3)。
【0008】
また、非イオン界面活性剤の処理方法として、50μm以下のマイクロバブルを用いて、その微細な気泡に非イオン界面活性剤を吸着させて気泡塔からオーバーフローさせる非泡沫分離と称する方法が提案されている(特許文献4)。
【0009】
従来における海水の淡水化の前処理技術として、凝集砂ろ過法、生物膜ろ過法、加圧浮上法、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外濾過膜)を用いる方法などがある。また、海洋生物の飼育や養殖を目的にした海水浄化方法としてプロテインスキマーを用いる方法がある。以下に、これらの概要を説明する。
【0010】
凝集砂ろ過法は、塩化鉄(FeCl)などの凝集剤を海水に添加し、懸濁物質や一部の荷電を有する溶解性物質をフロックに吸着させ、砂やアンスラサイトを充填したろ過塔で除去する方法である。生物膜ろ過法は、生物膜を付着させた砂やアンスラサイトなどのろ材を充填したろ過塔に海水を供給し、生物膜による有機物の吸着や生物分解性有機物の分解、ろ材による捕捉作用でろ過を行う方法である。加圧浮上法は、海水中に含まれる藻類、油分など比較的比重の小さい非溶解性の懸濁物質を除去するために使用され、海水中に凝集剤を添加し、固形物や藻類、油分などの非溶解性物質を取り込んだフロックを作り、空気を加圧して水に溶解させ、その水を水中に放出することで微細な気泡を発生させ、フロックにその微細な気泡を多く吸着させて、気泡の浮力によりフロックを液面に浮上させて水中から除去する方法である(特許文献5、特許文献6)。MF膜やUF膜を用いる膜ろ過法は、数μmから0.01μm以下の非常に小さい孔径を有している除濁膜を用いる、微細な孔径によるろ過である。なお、水族館における海水浄化において、水槽内の水質管理を目的に泡沫分離装置の一種であるプロテインスキマーが実用化されている。しかしながら、プロテインスキマーは、魚類の出す粘液や糞、食べ残しのえさなどのたんぱく質を泡沫として分離し系外に排出して除去する方法であり、海水淡水化の前処理としては適用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010- 58080号公報
【特許文献2】特許第5019276号公報
【特許文献3】特開2012-166118号公報
【特許文献4】特許第4379147号公報
【特許文献5】特開2012-223723号公報
【特許文献6】特開2008-173534号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Transparent exopolymer particles: Potential agents for organic fouling and biofilm formation in desalination and water treatment plants, Edo Bar-Zeev et al., Desalination and Water Treatment 3 (2009) 136-142
【非特許文献2】A dye-binding assay for the spectrophotometric measurement oftransparent exopolymer particles (TEP), U. Passow, A. L. Alldredge, Limnol. Oceanogr., 40(7), 1995, 1326-1335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまで提案されているTEP除去方法は、特殊な濾過膜や特殊な薬剤を使用するため、濾過膜のメンテナンスや薬剤の後処理などの副次的な問題が生じる。特殊な添加物や濾過膜を使用せずに、TEPの付着による前処理用の濾過膜及び逆浸透膜の閉塞を防止することが求められている。
【0014】
前述した特許文献1に開示されている方法では、磁性粒子の添加と磁気分離設備が必要であり、膜分離装置のみならず磁気分離設備のメンテナンスが必要となり、コストが増大し、0.4μm以下のFibril(繊維状物質)やHydrogel(ハイドロゲル)などのTEP前駆体を除去することができない。
【0015】
そして、特許文献2に開示されている方法では、特定の膜の使用及び流束の制御、並びに前処理膜表面に捕捉されたTEPの洗浄除去が必要となり、この方法で使用する前処理膜の孔径は1μm以上であり、1μm未満のFibrilやHydrogelなどのTEP前駆体を除去することができない。
【0016】
また、特許文献3に開示されている方法では、特殊な凝集剤を使用することが必要で一般的に海水淡水化の前処理で用いられる鉄塩などの凝集剤と併用して用いるものであるため,汚泥発生量が増加しそれを処分しなければならないという問題がある。
【0017】
前述した特許文献4に示す非泡沫分離と称する方法は、粒径50μm以下のマイクロバブルを用いて非イオン界面活性剤を除去する。気泡の上昇速度は0.001m/s以下と極めて低速であり、装置内における水の滞留時間が10分〜60分と長時間を必要とする。したがって、大量の水を処理するには装置が大型になり、設置面積(フットプリント)の小さな装置の提供が課題であった。またマイクロバブルは、気泡が微細すぎるため、粒径が0.4μm〜200μmのTEPに対しては十分な吸着能を有していない。
【0018】
更に、凝集砂ろ過法、生物膜ろ過法、加圧浮上法、MF膜やUF膜を用いる膜ろ過方法では、効果的にTEPを除去することが困難であった。
即ち、凝集砂ろ過により前述のTEPも一部除去されるものの、凝集フロックに取り込まれるTEPは少ないため、凝集砂ろ過では効果的なTEP除去はできない(後述の比較例4参照)。TEPは、生物分解性が低い物質であり、生物膜ろ過では効果的なTEP除去はできない。
【0019】
加圧浮上法は、元来、非溶解性の懸濁物質の除去を目的としており、凝集剤の作用によりフロック状の固形物と、空気を加圧して水に溶解させてその水を水中に放出することで発生させた10〜100μm程度の微細な気泡とを接触させ、固形物の周囲もしくは内部に包含された微細気泡の浮力を利用してフロス(浮上物)として水面に浮上させ、水面に積層されたフロスを系外に排出する。この場合、微細気泡の浮上速度が遅く、非常に大きな分離面積が必要で、装置の小型化が課題であった。また、浮上した気泡を含む浮上物の粒子をスキマーで掻き寄せて排出するまでに、ある程度浮上物を溜めて積層させるため、掻き寄せるまでの時間間隔が長く、その間に気泡の破泡によって粒子が再度分散し沈降する場合もあった。
【0020】
MF膜やUF膜による膜ろ過法は、微細な孔径を有する除濁膜によるろ過であるため、TEPによりMF膜やUF膜にファウリングが生じ、頻繁な薬品洗浄が必要になる(後述の比較例5参照)。
【0021】
以上、単に、凝集砂ろ過法、生物膜ろ過法、加圧浮上法、MF膜やUF膜による膜ろ過法のいずれを適用したとしても、TEPを効率良く、安定的に除去することは困難であった。
即ち、特殊な薬剤や凝集剤、添加物を用いることなく、逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理技術において汎用されている例えば、鉄塩やアルミニウム塩、又は酸などの添加物を用いて、効率よく安定してTEPを除去することが切望されていた。
【0022】
本発明の目的は、TEP、多糖類、及びFibril(繊維状物質)やHydrogel(ハイドロゲル)、TEP前駆体などを、気泡に吸着させることで除去して、逆浸透膜の閉塞を防止し、長期にわたり、効率よく安定稼働が可能な海水淡水化装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によれば、下記構成を有する海水淡水化装置及びその方法が提供される。
第1の側面として、本発明に係る海水淡水化装置は、取水した海水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、凝集剤添加による形成されたフロックを含む海水中に気泡を発生させ、当該気泡にTEP成分やTEP成分が吸着して疎水化した凝集フロックを吸着させ、TEP含有気泡を水面に浮上させて水分を除去して泡沫として水面から除去する泡沫除去部を具備するTEP成分除去装置と、TEP成分が除去された海水を脱塩処理して淡水化する逆浸透膜処理装置と、を具備することを特徴とする。
【0024】
第2の側面として、本発明に係る海水淡水化方法は、取水した海水に凝集剤を添加してフロックを形成させ、当該フロックを含む海水に気泡を発生させ、当該気泡に海水中のTEP成分やTEP成分が吸着して疎水化した凝集フロックが付着してなるTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めて泡沫とした後に当該TEP含有泡沫を除去するTEP成分除去工程、TEP含有気泡を除去した後の海水から濁質分を除去する除濁工程、TEP成分を除去した後の海水を脱塩処理する脱塩処理工程を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る海水淡水化方法は、取水した海水に酸を添加する酸添加工程と、酸添加後の海水のpHを測定し、該pHが5〜7の範囲となる様に前記酸添加量を制御する酸添加制御工程と、前記海水中に気泡を生成させ、該気泡に海水中のTEP成分を付着させてTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めてTEP含有泡沫とした後に該TEP含有泡沫を除去するTEP成分除去工程と、前記TEP成分が除去された海水を脱塩処理する脱塩処理工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る海水淡水化装置及びその方法によれば、逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理技術において汎用性のある添加物を用い、TEP、多糖類、及び繊維状物質やハイドロゲル、TEP前駆体などを、気泡に吸着させることで除去して、逆浸透膜の閉塞を防止し、長期にわたり、効率よく安定稼働が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の海水淡水化装置の一実施態様を示す概略フローである。
図2】本発明の海水淡水化装置の実施態様を示す模式図である。
図3】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図4】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図5】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図6】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図7】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図8】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図9】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図10】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図11】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図12】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図13】本発明の海水淡水化装置の気泡発生及び浮上気泡除去部の別の一実施形態を示す模式図である。
図14】参考例1と比較例1における逆浸透膜の圧力の変動を示すグラフである。
図15】従来技術における海水淡水化装置の代表例を示す概略フローである。
図16】本発明に係る海水淡水化装置の別の実施態様を示す模式図である。
図17図16に示す実施態様の泡沫分離部及び越流水位制御部(テレスコープ弁)の構成を示した説明図である。
図18】参考例2と比較例2における逆浸透膜の圧力の変動を示すグラフである。
図19】実施例1における海水淡水化処理フローを示す説明図である。
図20】実施例2及び比較例3における海水淡水化処理フローを示す説明図である。
図21】実施例3及び比較例4における海水淡水化処理フローを示す説明図である。
図22】実施例4における海水淡水化処理フローを示す説明図である。
図23】実施例5における海水淡水化処理フローを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明者らは、多糖類、特に溶解性多糖類を含むTEP成分を気泡表面に吸着させて、水面に浮上させ、泡状にして集合させ又は濃縮させて泡沫とすることで、水分と分離してTEP成分を容易に除去することができること、及び泡沫分離の前に凝集剤を添加することで、形成されるフロック表面にもTEP成分が吸着され、フロック表面を疎水化するため、TEP成分とフロックとがさらに気泡に吸着されやすくなり、TEP成分のみならず海水中懸濁物も効率的に除去されることを知見し、本発明を完成するに至った。TEP成分は分子構造として親水基と疎水基を有しており、疎水基を気泡の表面に向けることで気泡表面に吸着させることができる。水中に於いて気泡に吸着したTEP成分は水面に浮上して水分を分離することで泡沫となり、除去される。また凝集フロック表面には親水基を向けて吸着することで、逆に凝集フロックの外側に疎水基が向くことになりフロック表面が疎水化する。
【0029】
尚、本願明細書及び特許請求の範囲において、「TEP成分」とは、TEP及びTEP前駆体や多糖類を意味する。また、多糖類のうち、1μm以下の大きさのものを「溶解性多糖類」、1μmを越える大きさのものを「非溶解性多糖類」という。本発明の方法によれば、1μm以下のTEP成分を除去することができるため、多糖類のうち、除去が困難であった溶解性多糖類も良好に除去することができる。
【0030】
本発明の海水淡水化方法は、(1)取水した海水に凝集剤を添加してフロックを形成させる凝集剤添加工程と、(2)当該フロックを含む海水に気泡を発生させ、当該気泡に海水中のTEP成分が付着してなるTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めて泡沫とした後に当該TEP含有泡沫を除去する、TEP成分除去工程と、(3)TEP含有気泡を除去した後の海水から濁質分を除去する、除濁工程と、(4)濁質分を除去した後の海水を脱塩処理する、脱塩処理工程と、を含む。
【0031】
凝集剤としては、鉄塩、アルミニウム塩などの無機凝集剤を好ましく用いることができ、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)を好適例として挙げることができる。
【0032】
また、本発明に係る海水淡水化方法は、取水した海水に酸を添加する酸添加工程と、酸添加後の海水のpHを測定し、該pHが5〜7の範囲となる様に前記酸添加量を制御する酸添加制御工程と、前記海水中に気泡を生成させ、該気泡に海水中のTEP成分を付着させてTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めてTEP含有泡沫とした後に該TEP含有泡沫を除去するTEP成分除去工程と、前記TEP成分が除去された海水を脱塩処理する脱塩処理工程と、を具備する。
【0033】
即ち、TEP成分除去工程の前段に、海水若しくはフロックを含む海水に酸を添加して、pHを5.0〜7.0の範囲、好ましくは6.0〜7.0の範囲、最も好ましくは6.8に調節することが望ましい。pHを調節することで、泡沫の形成しやすさ及び安定性が向上してTEP除去率を向上させることができると共に、後段のRO膜分離における無機スケール付着を防止することができる。添加する酸としては、硫酸、塩酸などを挙げることができるが、コストの安く一般に広く利用されている硫酸が好ましい。
【0034】
前記TEP成分除去工程は、TEP含有泡沫を高密度化して濃縮する濃縮工程及び/又はTEP含有泡沫を水面上の所定領域に集める集中工程をさらに含む。TEP含有泡沫の濃縮工程と集中工程とは、同一工程で行うこともできる。
【0035】
TEP成分を吸着させる気泡の気泡径は50μm〜2mmが望ましく、50μm以下のマイクロバブルではTEP成分に対して微細すぎて吸着能が小さいことと、浮上速度が遅いことから、泡沫分離の目的を果たせない。また、2mmを上回る粗大な気泡では浮上速度が速く、気泡表面積が小さくなるため、TEP成分に対する吸着能の低下や水面で破泡しやすい傾向もあり適切ではない。
【0036】
TEP成分除去工程において、取水した海水をTEP成分除去槽に落下させること、又は取水した海水を衝突部材に衝突させること、により、あるいは散気装置、曝気装置、撹拌式エアレータ、エジェクタを用いて、海水中に気泡を発生させることができる。また、散気装置、曝気装置、撹拌式エアレータ、エジェクタをTEP成分除去槽の底部に配置することによって、気泡を発生させると共に当該気泡にTEP成分が吸着されたTEP含有気泡を所定領域に集めることもできる。
【0037】
TEP成分除去工程におけるTEP含有泡沫の除去は、断面積が上方に向かって縮減する壁面に沿ってTEP含有泡沫を上昇させて水分を落下(脱水)させ泡沫成分を濃縮する泡沫分離部における分離除去、水面よりも下方に堰口を位置づけることができる可動堰による海水と泡沫との分離除去、スキマーによる泡沫の掻き取り、ポンプによる泡沫の吸引の少なくとも1種によりなされる。TEP含有気泡を所定領域に集めて濃縮した後、TEP含有泡沫除去を行うことでTEP含有気泡の分離除去がより容易になる。
【0038】
図1は、本発明の海水淡水化装置及びその方法のフローを示し、図2は本発明の海水淡水化装置の実施態様を示す概略図である。
【0039】
本発明の海水淡水化装置は、海水を取水する海水取水部としての海水取水設備10、取水した海水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段15、凝集剤添加による形成されたフロックを含む海水からTEP成分を除去する気泡発生及びTEP含有気泡除去部としての発泡・泡除去設備20、TEP成分を除去した海水(「濾過原水」ともいう)から濁質分を除去する除濁部としての前処理設備30、及び濁質分を除去した海水(「RO原水」ともいう)を脱塩処理して淡水化する逆浸透膜処理部としてのRO設備40を具備する。
【0040】
また、図22に示す様に、TEP成分除去槽としての発泡・泡除去設備20の前段に、前記海水又は前記フロックを含む海水に酸を添加する酸添加手段、及び前記海水又は前記フロックを含む海水のpHを測定して酸の添加量を制御する酸添加量制御手段をさらに具備する。
【0041】
また図23に示す様に、酸添加手段及び酸添加制御手段の後に凝集剤添加手段を設けても良い。この場合、酸添加と、FeCl添加との相乗効果により、TEP除去率をより向上させることが可能となる。
【0042】
尚、図1において、発泡・泡除去設備20は、取水海水に気泡を発生させる気泡発生部と、気泡に吸着又は付着したTEP成分を含むTEP含有気泡を除去するTEP含有気泡除去部とに別々に分けても良い。
【0043】
図2において、海水取水部は、海水又は汽水(以下、説明を簡潔にするために、海水と汽水を区別せずにまとめて「海水」と称す。)を取水する取水管11、取水管11に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などの殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段12、取水管11に海水を汲み上げる取水ポンプ13、及び取水ポンプ13の閉塞を防止するために取水ポンプ13の前段に設けられ貝類や大型のゴミなどを取り除くストレーナ14、逆浸透膜装置41に無機系のスケールの付着を防止するために海水のpHを下げる目的で硫酸(HSO)を添加する硫酸添加手段、気泡導入及び浮上気泡除去部20の前で塩化第二鉄(FeCl)などの凝集剤を添加する凝集剤添加手段を含む。
【0044】
気泡導入及び浮上気泡除去部20は、取水した海水を貯留して海水からTEP成分を除去するTEP成分除去槽21、TEP成分除去槽21内で海水に気泡を発生させ、気泡に海水中のTEP成分や凝集フロックを付着させてなるTEP含有気泡として水面に浮上させる気泡発生手段22、及び浮上したTEP含有気泡を水面から除去する泡沫除去手段23を含む。更に、水面に浮上したTEP含有気泡の気泡密度を高めて濃縮し、且つ水面に浮上したTEP含有気泡を所定領域に集合させる気泡指向手段25、水面に浮上した泡沫が後段の除濁部30の濾過原水に流入することを防止する泡沫流出防止手段26を含むことが好ましい。
【0045】
除濁装置30は、気泡発生及び浮上気泡除去部20にてTEPおよびTEP前駆体が除去された原水(濾過原水)を前処理するための濾過装置31、濾過原水を濾過装置31に送水するための濾過原水送水管32及び濾過原水ポンプ33を含む。濾過装置31としては、一般的な前処理用濾過装置を制限なく使用することができ、砂、アンスラサイト、ガラス、ガーネット、活性炭、繊維部材、カートリッジフィルタなどの多孔性物質を充填してなる濾過装置でよい。除濁装置30として、UF膜又はMF膜などの有機膜を具備した膜分離を適用しても良い。また、除濁装置30として、ろ過に限らず、当業者に周知の加圧浮上法や沈殿法を適用することもできる。
【0046】
逆浸透膜処理装置40は、除濁装置30にて濾過されて濁質分が除去された海水(RO原水)を逆浸透膜装置41に送水するRO原水送水管42及び供給ポンプ43並びに保安フィルタ44及び保安フィルタポンプ45、RO原水送水管42に重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)などの残留塩素除去剤を添加する残留塩素除去剤添加手段46を含む。
【0047】
次に、図3図14を参照しながら、気泡発生及びTEP含有気泡除去部20の好適な態様を説明する。尚、前出の図面に示されている同じ構成要素には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0048】
図3は、水面に浮上したTEP含有泡沫が除濁部30に流入することを防止する泡沫流出防止手段として、TEP成分除去槽21の底面から水面レベルの下まで立設仕切26aを立設させ、気泡導入域21aと、濾過原水流出域21bと、に区分し、更に、気泡導入域21a内に気泡発生手段として曝気装置22aを配置した例である。曝気装置22aは、TEP成分除去槽21の気泡導入域21aの底部に位置づけられ、海水に気泡を発生させ、気泡にTEP成分を吸着させTEP含有気泡として浮上させて集めて水面上にて泡沫とする。立設仕切26aで区分された濾過原水流出域21bの下部に、図2に示す濾過原水送水管32が接続される。
【0049】
図4は、TEP成分除去槽21の気泡導入域21aへの気泡発生手段として、取水管11の先端部にエジェクタ22bを取り付けて、TEP成分除去槽21に上方から海水を供給する例である。エジェクタ22bにおいて、ベンチュリー管の原理で流下する海水に外気が取り込まれ、気泡を含んだ原水がTEP成分除去槽21に流入する。原水は、TEP成分除去槽21に上方から落下するため、TEP成分除去槽21の底面及びTEP成分除去槽21に貯留されている海水の水面との衝撃によって、TEP成分除去槽21内で海水にさらに気泡が発生する。また、衝撃によって生じる乱流によって、海水中のTEP成分が気泡に吸着され、TEP含有気泡が上昇する。
【0050】
図5は、TEP成分除去槽21の気泡導入域21aへの気泡発生手段として、取水管11の先端部にエジェクタ22bを取り付けて、TEP成分除去槽21の側壁下方から気泡を含んだ海水を導入する例である。
【0051】
図6は、TEP成分除去槽21の気泡導入域21aへの気泡発生手段として、取水管11の流出口の直下に衝突材22cを位置づけて、TEP成分除去槽21に上方から海水を供給する例である。海水は、衝突材22cと衝突することによって、飛沫となり、気泡を取り込む。衝突材としては、石などの天然の固形物や人工のバイオボールなどを用いることができる。
【0052】
図7は、TEP成分除去槽21の気泡導入域21aへの気泡発生手段として、TEP成分除去槽21の底部に撹拌式エアレータ22dを設けた例である。撹拌式エアレータ22dは、モータ駆動により取り込んだ外気を海水中に放出する。
【0053】
図8は、図3に示す態様に加えて、水面に浮上するTEP含有気泡を所定領域に集める気泡指向手段25として、TEP成分除去槽21の気泡導入域21a内に、傾斜仕切25aを設けた例である。傾斜仕切25aは、TEP成分除去槽21の海水流入側の壁と、流出側の壁とによって区画された領域内の水断面積が上方に向かって縮減するように傾斜して設けられている。曝気装置22aによって海水中に導入された気泡は、TEP成分を吸着してTEP含有気泡として上昇する際に、傾斜仕切25aの傾斜面に沿って所定領域を指向することになる。また、TEP含有気泡が傾斜仕切25aによって仕切られた狭い領域に集中するため、TEP成分との接触頻度が高まり、TEP含有気泡の気泡密度も高くなり濃縮される。傾斜仕切25aは、TEP含有気泡が濾過原水流出域21bに流出することを阻止することができる程度に傾斜していればよい。
【0054】
図9は、図3に示す態様に加えて、水面に浮上したTEP含有泡沫の密度を高めて濃縮する泡沫濃縮手段として、TEP成分除去槽1の対向壁間に架設されている複数の立設壁24aを設けた例である。水面に浮上して集められたTEP含有泡沫は、複数の立設壁24aの壁面に沿って這い上がり濃縮される。また、立設壁24aの壁面に付着したTEP含有泡沫を掻き取ることで、TEP含有泡沫の除去も容易に行うことができる。
【0055】
図3図9には、気泡発生手段22の各種態様を示したが、各気泡発生手段22及び各TEP含有泡沫除去手段23を任意に組み合わせることができる。
【0056】
図10は、図3に示す態様に加えて、気泡にTEP成分前駆体が吸着してなるTEP含有気泡を水面から除去する泡沫除去手段として、掻き寄せ機23aとパイプスキマー23bとを設けた例である。水面に浮上したTEP含有泡沫は、掻き寄せ機23によってパイプスキマー23bの周辺に掻き寄せられ、パイプスキマー23bを通って排出される。
【0057】
図11は、図3に示す態様に加えて、気泡にTEP成分前駆体が吸着してなるTEP含有気泡を水面から除去する泡沫除去手段として、スカムポンプ23cを設けた例である。スカムポンプ23cは、浮き23dによって水面に浮いており、水面に浮上したTEP含有泡沫を吸い込んで排出する。
【0058】
図12は、図3に示す態様に加えて、気泡にTEP成分前駆体が吸着してなるTEP含有気泡を水面から除去する泡沫除去手段として、水面よりも下方に堰口を位置づけることができる可動堰23eをTEP成分除去槽21の一壁面に取り付けた例である。可動堰23eの堰口を水面よりも下方に位置づけることによって、表層水と共にTEP含有泡沫は排出される。
【0059】
図10図12には、泡沫除去手段23の各種態様を示したが、各気泡発生手段22及び各泡沫除去手段23を任意に組み合わせることができる。
【0060】
図13は、気泡発生及び泡沫除去部20と除濁部30とをTEP成分除去槽21内に組み込み、一体とした例である。気泡発生及び泡沫除去部20を原水槽21の上部に設け、除濁部30をTEP成分除去槽21の下部に設けている。気泡発生及び泡沫除去部20の底部には曝気装置22aを設け、海水中に導入された気泡を上昇させ、TEP含有気泡を水面上に浮上せて集めて泡沫として除去する。TEP成分除去槽21の下部に設けられている除濁部30は、濾材が充填されてなる濾過装置31を含む。TEP成分が除去された海水は、気泡導入及び泡沫除去部20の底部から除濁部30の濾過装置31に流入し、濾材と接触して濾過されながら下降する。
【0061】
図16は、本発明の海水淡水化装置の他の実施態様を示す概略図である。尚、前述した図2と共通する構成には同一符号を付し説明は省略する。図16において、特徴的なことは、気泡発生及び泡沫除去部20に、泡沫分離部200と越流水位制御部(テレスコープ弁)210とを組合せたことにある。
【0062】
図17に気泡発生及び泡沫除去部20の詳細の一例を示す。気泡発生及び泡沫除去部20には、TEP成分除去槽の上部から海水を供給する海水供給部201と、TEP成分除去槽の底部に気泡を発生させる散気装置202と、散気装置202にて発生した気泡の浮上方向を制御する整流板203と、浮上した気泡を破壊せずに濃縮して海水と分離する泡沫分離部204と、泡沫分離部204にて分離された海水を越流させる水位を制御するテレスコープ弁210と、が設けられている。散気装置202としては、気泡を噴出する孔径が1mm以下程度のメンブレン式散気装置又はセラミック製散気装置やエジェクタが好適である。
【0063】
泡沫分離部204は、水面に対して平行となる底面204aと、当該底面204aから斜めに立ち上がり頂部に開口204cを形成する複数の逆漏斗形状の立ち上がり部204bとを具備する。整流板203により浮上したTEP成分含有気泡を集めたTEP含有泡沫は、泡沫分離部204の底面204aに接触して濃縮されると共に、立ち上がり部204bに向けて移動し、立ち上がり部204bの壁面に沿って開口204cに到達し、開口204cから排出され、底面204aの上面側に分離される。立ち上がり部204bは逆漏斗形状であるため、泡沫を破壊せずに速やかに移動させることができる。TEP含有気泡が分離除去された海水は、越流水として排水される。
【0064】
越流水位制御部210は、TEP成分除去槽底部に設けた排水口210aと、当該排水口210aから上方向に流通させる立ち上がり管210bと、立ち上がり管210bからの越流水位を制御するテレスコープ弁210cと、を具備する。テレスコープ弁としては特に限定されず、一般的に水位調節に用いられているテレスコープ弁を用いることができる。越流水位制御部210は、海水水質に応じて越流水位を変えて、泡沫分離量を調整可能とする。即ち、越流水位を低くすると、越流水量が増え、泡沫分離部200の底面200aと水面との距離が大きくなり、水面上での泡沫の滞留量が増えて濃縮が進行し、立ち上がり部200b及び開口200cから排出される泡沫量が減少する。逆に、処理水の越流水位を高くすると、越流水量が減り、泡沫分離部200の底面200aと水面との距離が小さくなり、水面上での泡沫の滞留量が減って濃縮が進行せず、立ち上がり部200b及び開口200cから排出される泡沫量が増加する。なお、本実施態様では、越流水位を制御するためにテレスコープ弁を用いているが、同一の機能を有するものであればどのようなものでも適用可能であり、たとえば制御弁などを用いることもできる。
【0065】
本実施例の海水淡水化装置及びその方法によれば、従来のTEP除去方法では除去できなかった微細なTEP、及びその前駆体や、溶解性の多糖類の除去が可能となり、逆浸透膜の長期使用が可能となるため、洗浄及びメンテナンスの頻度を減少させ、長期にわたり、効率よく安定稼働が可能となる。また先に泡沫を除去する過程で凝集フロックとして海水中懸濁物も併せて除去することにより、後段の除濁工程における固形物負荷量が低減することで例えば砂ろ過であれば逆洗頻度が減少し、MF膜やUF膜であれば逆洗頻度の減少によって洗浄薬品使用量も低減する。
【0066】
更に海水淡水化の前処理として除濁工程が最初にある施設の場合、赤潮や砂などの自然現象による急激な取水海水の水質の悪化によって例えば砂ろ過装置の場合、ろ過層が閉塞して急激にろ過抵抗が上昇したり、例えばMF膜やUF膜の場合も同様に膜の差圧が急上昇して逆洗頻度が増加することで事実上処理できなくなり、水質悪化時には海水淡水化施設を停止せざるを得なくなる場合があるが、本発明の海水淡水化装置及びその方法によれば除濁工程の前に泡沫分離工程を設けることで急激な水質悪化を和らげる役割を果たし,除濁工程での装置への水質変化の衝撃を抑制して施設の運転を継続することができる。
【0067】
また、特殊な濾過膜、特殊な凝集剤、及び磁性粒子などを使用する必要がなく、ランニングコストを削減することができる。
【0068】
TEP成分除去の前に凝集剤を添加することによって、除去対象であるTEP成分やタンパク質などの界面活性機能を利用して、海水中の懸濁物が凝集して形成されるフロック表面を疎水化して気泡に吸着され易くして、TEP成分ばかりでなく懸濁物の除去率を高めることができ、後段のRO膜の閉塞を抑制できると共に,その前の除濁工程における砂ろ過やろ過膜などの固形物負荷が低減されることで、逆洗頻度や洗浄薬剤添加量を大幅に削減することができることで,洗浄動力の削減や逆洗に除濁工程の処理水を用いる場合には水回収率を向上させることができる。
【0069】
さらに、TEP成分除去の前に酸を添加してpHを5.0〜7.5に調節することによって、TEP成分が気泡により吸着しやすくなり、TEP成分の除去率が向上する。また、TEP含有泡沫の安定性も向上するため、TEP成分の除去率がさらに向上する。さらに、pHを5.0〜7.5に調節することによって、海水中の無機物がスケールとなって析出することも抑制される。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
[参考例1]
図2に示す本発明の海水淡水化装置において、凝集剤添加位置を気泡発生及び泡沫除去部20の前段ではなく、後段である濾過原水送水管32に設けた場合(参考例1)と、図15に示す従来技術の海水淡水化装置(比較例1)と、を海に面した同一敷地内に並列して設置し、同一条件の下、6月〜翌年3月までの9ヶ月間にわたり、連続で運転した。
【0072】
本発明の海水淡水化装置における気泡発生及び泡沫除去部20は、TEP成分除去槽21に、TEP含有泡沫流出防止手段として立設仕切26aをTEP成分除去槽21の底面から水面レベルの下まで立設し、気泡発生手段として取水管11の先端部にエジェクタ22b及びTEP成分除去槽21の底部に曝気装置22aを設け、TEP含有泡沫濃縮手段(及びTEP含有気泡指向手段)として対向壁面間に傾斜仕切25aを架設し、TEP含有気泡沫去手段として掻き寄せ機23a及びパイプスキマー23bを設けた構成とした。取水管11からの海水は、TEP成分除去槽21の上方から供給した。気泡発生及び泡沫除去部20の仕様を表1に示す。
【表1】
【0073】
図15に示す従来技術の海水淡水化装置における原水槽105には、取水管101からの海水を原水槽105の底部近傍に供給した。
【0074】
参考例1の海水淡水化装置における除濁部30(従来技術における重力式二層砂濾過装置)の仕様を表2に示す。
【表2】
【0075】
参考例1の海水淡水化装置における脱塩処理装置40(従来の装置における逆浸透膜脱塩装置)のRO膜は、4インチのスパイラル式RO膜とした。取水部10(101)に設けたストレーナ14(104)は5mm目幅であり、海水中のゴミを取り除いてから、TEP成分除去槽21(105)に送水した。取水管11(101)中の海水に殺菌剤として1mg/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を添加し、濾過原水送水管32中の海水に凝集剤として3mg/L濃度の塩化鉄(FeCl)を添加し、RO原水送水管42中の海水に残留塩素除去剤として重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)を添加した。取水量は10m/日とした。
【0076】
参考例1の海水淡水化装置においては、エジェクタ22bにより気泡が混入した海水をTEP成分除去槽21に噴出させる。海水はTEP成分除去槽21内で滞留し、曝気装置22aにより曝気されて、さらに気泡と混合され、海水中のTEP成分が気泡に吸着してTEP含有気泡として浮上する。TEP成分除去槽21内に設けられている傾斜仕切25aにより、上昇するTEP含有気泡は気泡導入域21aの一部に集められ、水面に浮上したTEP含有泡沫は濃縮される。浮上したTEP含有泡沫は、TEP成分除去槽21の水面に滞留し、掻き寄せ機23aによってパイプスキマー23bの吸引口に集められ、取り込まれて排出される。一方、海水は、傾斜仕切25aの下方を通って、立設仕切26aの上方を横切り、濾過原水排出域21bから濾過原水送水管にて除濁部(重力式二層砂濾過装置)30に送られる。
【0077】
図15に示す従来の装置においては、海水は取水管101から原水槽105に供給され、一定時間滞留した後、重力式二層砂濾過装置109に送られる。除濁部(重力式二層砂濾過装置)109にて濾過された海水は、逆浸透膜脱塩装置115の逆浸透膜(RO膜)を保護するための保安フィルタを通して、RO膜に通水される。RO膜の水回収率を30%に設定し、3m/日のRO透過水(淡水)が流れるようにRO供給ポンプ114の流量を自動制御した。RO膜の圧力はRO膜のファウリング(閉塞)の状況に伴い上昇していくため、RO供給ポンプ114の吐出圧力が6.5MPaまで増加した場合にRO膜の薬液洗浄を行なった。
【0078】
TEPの量やその種類は、特に植物プランクトンなど季節性の影響を強く受けることから、特にTEP濃度が上昇する9月と比較的TEP濃度の低い低温期の1月に2回、各プロセスの定点においてTEP濃度を測定した。TEPの測定は、海水試料を孔径0.4μmのポリカーボネート製の濾紙で濾過し、濾紙表面に捕捉された試料をアルシアンブルーにて染色し、分光光度計によりキサンタンガム(XG)を標準として測定し、単位はμg−XG/Lで示した。本分析方法によって定量できるTEPは、酸性ムコ多糖類である。TEP測定結果を表3に示す。
【表3】
【0079】
9月は赤潮が収まりつつあるものの、TEP濃度は翌年の1月と比較しても2.5倍程度高かった。
【0080】
参考例1では、気泡発生及び泡沫除去部20により処理した海水を除濁装置30(重力式二層砂濾過装置31)の入口で取水して、TEP濃度を測定した。取水した海水中のTEP濃度が1,620μg−XG/Lであり、処理後の海水中のTEP濃度が502μg−XG/Lまで低下していることから、TEP除去率は69%であった。一方、比較例1では原水槽を介してもTEP濃度は1,540μg−XG/Lと1,550μg−XG/Lであり、殆ど変わらなかった。
【0081】
除濁装置(砂ろ過装置)30では、9月のTEP除去率は実施例1で31%、比較例1で34%、1月は参考例1で33%、比較例1で31%であり、参考例1と比較例1共に、TEP濃度の低下が見られた。FeClの凝集効果と濾過効果によるものと考えられる。
【0082】
脱塩処理装置(RO膜装置)40入口における海水中のTEP濃度は、9月には参考例1で340μg−XG/L、比較例1においては1018μg−XG/L、1月には参考例1においては150μg−XG/L、比較例1においては469μg−XG/Lと、実施例1は、比較例1に対して著しく低いTEP濃度となった。
【0083】
ゼリー状のTEPはRO膜表面に付着してRO膜のファウリングに繋がるものであることから、RO膜の圧力上昇や洗浄頻度の増加に繋がる。参考例1における実験期間中のRO膜の圧力変化を図14に示す。図14において、RO膜の圧力は、運転開始時は5MPa程度であり、運転の継続と共に上昇した。比較例1では6月から約4ヶ月(120日目)で設定圧の6.5MPaに達したことからRO膜の薬液洗浄を実施した。一方、参考例1では6月から約7.5ヶ月(230日目)で6.5MPaに達し、RO膜の薬液洗浄を実施した。
【0084】
参考例1においては、比較例1と比べて約1.9倍長くRO膜を連続運転することができ、6月から翌年3月までの10ヶ月の連続運転において比較例1はRO膜の洗浄を2回要したのに対して、参考例1では1回の洗浄で済んだ。
【0085】
参考例1の海水淡水化装置及び方法によれば、特殊な濾過膜や特殊な凝集剤や磁性粒子などを添加せずに、TEP成分(多糖類及びTEP、前駆体)を海水から分離することができ、逆浸透膜の閉塞を防止し、長期にわたり効率よく安定稼働が可能である。
【0086】
[参考例2]
図16に示す泡沫分離部200と越流水位制御部(テレスコープ弁)210とを具備する海水淡水化装置(参考例2)を用いて、図15に示す従来の装置(比較例2)と同一条件の下、6月〜翌年3月までの9ヶ月間にわたり、並行して連続で運転した。泡沫分離部200の仕様を表4に示す。
【表4】
【0087】
泡沫分離部200は、運転条件を固定して連続運転した場合、取水海水の水質変動により泡沫分離が安定しなくなる現象が確認されたため、水質変動に応じた制御方法を組み込んだ。
【0088】
参考例2では、泡沫分離部200に流入する海水の5%である0.347L/分の泡沫分離量となるように越流水位制御部(テレスコープ弁)210で泡沫を含む水の越流水位を自動調節した。比較例2は、比較例1と同じ仕様にて運転した。TEP濃度が上昇する9月と比較的TEP濃度の低い低温期の12月に2回、各プロセスの定点においてTEP濃度を測定した結果を表5に示す。
【表5】
【0089】
参考例2において、9月に取水した海水中のTEP濃度が2,020μg−XG/Lであり、処理後の海水中のTEP濃度が632μg−XG/Lまで低下していることから、TEP除去率は69%であった。一方、比較例2では原水槽を介してもTEP濃度は1,980μg−XG/Lであり変わらなかった。
【0090】
除濁装置(重力式二層砂ろ過装置31)30では、9月のTEP除去率は参考例2で38%、比較例2で32%、12月は参考例2で36%、比較例2で33%であり、参考例2と比較例2共に、TEP濃度の低下が見られた。
【0091】
脱塩処理装置(RO膜装置)40入口における海水中のTEP濃度は、9月には参考例2で330μg−XG/L、比較例2は1,333μg−XG/L、12月には参考例2は130μg−XG/L、比較例2は330μg−XG/Lと、参考例2は比較例2に対して著しく低いTEP濃度となった。
【0092】
また、参考例1と参考例2とを比較すると、越流水水位制御部(テレスコープ弁)210により、越流水位を制御することで、安定した泡沫分離が可能となった。実験期間中のRO膜41の圧力変化を図18に示す。図18において、RO膜の圧力は、運転開始時は4.8MPaであり、運転の継続と共に上昇した。比較例2では6月から急激に上昇し7月(110日目)に設定圧の6.5MPaに達したことからRO膜の薬液洗浄を実施した。一方、参考例2では11月(230日目)で6.5MPaに達し、RO膜の薬液洗浄を実施した。参考例2では、比較例2と比べて約2.1倍長くRO膜を連続運転することができ、4月から12月までの9ヶ月の連続運転において、比較例2はRO膜の洗浄を2回要したのに対して、参考例2では1回の洗浄で済んだ。
【0093】
なお、参考例2で用いた泡沫分離部200と同様の構造を持つものであれば、海水魚飼育/養殖用の市販のプロテインスキマーを用いても良い。
【0094】
[実施例1]
図19に示す海水淡水化処理フローを用いて1週間運転し、泡沫分離部の出口排水中TEP成分濃度を測定し、取水した海水に凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を添加した場合(実施例1)と添加しない場合(比較例3)とにおけるTEP成分の除去性能を確認した。塩化第二鉄の添加量は取水海水に対して5mg/L(as FeCl3)とした。泡沫分離装置は水族館向けに製作販売されているプロテインスキマーを用いた。
【0095】
TEPの測定は、海水試料を孔径0.4μmのポリカーボネート製の濾紙で濾過し、濾紙表面に捕捉された試料をアルシアンブルーにて染色し、分光光度計によりキサンタンガム(XG)を標準として測定し、単位はμg−XG/Lで示した。本分析方法によって定量できるTEPは、酸性ムコ多糖類である。
本実施例および比較例で用いた泡沫分離装置の仕様を表6に示す。
【表6】
【0096】
実施例1及び比較例3のTEP成分測定結果を表7に示す。
【表7】
【0097】
実施例1では、TEP除去率が78.2%、比較例3ではTEP除去率が53.0%であり、25.2ポイント向上したことがわかる。
TEP成分除去の前に凝集剤を添加しなかった参考例1及び2(56〜69%)との対比においても、本発明の方法によるTEP成分除去率は、9〜22ポイント向上していることがわかる。
【0098】
[実施例2]
図20に示す海水淡水化処理フローを用いて1週間運転し、取水した海水に凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を添加した後にTEP成分除去分離を行い、砂ろ過装置の出口排水中TEP成分濃度を測定した場合(実施例2)と、取水した海水に凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を添加した後にTEP成分除去分離を行わずに砂ろ過を行い、砂ろ過装置の出口排水中TEP成分濃度を測定した場合(比較例4)とにおけるTEP成分の除去性能を確認した。塩化第二鉄の添加量は取水海水に対して5mg/L(as FeCl3)とした。泡沫分離装置は実施例1で用いたものと同じである。砂ろ過装置は、ろ過層の目詰まりによるろ過抵抗を検知し、一定のろ過抵抗(10kPa)となった時点で自動的に逆洗を行う構造とした。表8に砂ろ過装置の仕様を示す。
【表8】
【0099】
実施例2及び比較例4のTEP成分測定結果を表9に示す。
【表9】
【0100】
実施例2では、TEP除去率が89.2%、比較例4ではTEP除去率が43.4%であり、45.8ポイントも向上したことがわかる。
TEP成分除去の前に凝集剤を添加しなかった参考例1及び2(56〜69%)との対比においても、実施例2によるTEP成分除去率は、20〜33ポイントも向上していることがわかる。
また、砂ろ過槽の逆洗頻度は比較例3の16回/週から2回/週と1/8に大幅に低減できた。逆洗頻度が大幅に低下することによって、逆洗用水としての処理水の使用量も大幅に低下するため、海水淡水化処理で得られる処理水量、すなわち水回収率が大幅に向上する。
【0101】
[実施例3]
図21に示す海水淡水化処理フローを用いて1週間運転し、取水した海水に凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を添加した後にTEP成分除去分離を行い、UF膜分離装置の出口排水中TEP成分濃度を測定した場合(実施例3)と、取水した海水に凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を添加した後にTEP成分除去分離を行わずにUF膜分離を行い、UF膜分離装置の出口排水中TEP成分濃度を測定した場合(比較例5)とにおけるTEP成分の除去性能を確認した。泡沫分離装置は実施例1、実施例2で用いたものと同じである。塩化第二鉄の添加量は取水海水に対して5mg/L(as FeCl3)とした。UF膜分離装置は、入口側と出口側との差圧を検知し、一定の差圧(55kPa)となった時点で自動的に逆洗を行う構造とした。表10にUF膜分離装置の仕様を示す。
【表10】
【0102】
実施例3及び比較例5のTEP成分測定結果を表11に示す。
【表11】
【0103】
実施例3では、TEP除去率が94.2%、比較例5ではTEP除去率が84.2%であり、10ポイント向上したことがわかる。
TEP成分除去の前に凝集剤を添加しなかった参考例1及び2(56〜69%)との対比においても、実施例3によるTEP成分除去率は、25〜38ポイントも向上していることがわかる。
また、UF膜分離装置の逆洗頻度は比較例5の252回/週から35回/週と14%以下に大幅に低減できた。逆洗頻度が大幅に低下することによって、逆洗用水としての処理水の使用量も大幅に低下するため、海水淡水化処理で得られる処理水量、すなわち水回収率が大幅に向上する。また、UF膜分離装置の逆洗には、次亜塩素酸ナトリウムを使用するため、薬剤使用量も大幅に減少し、維持管理費用の削減にも資する。
【0104】
[実施例4]
図22に示す処理フローにて海水に酸を添加しpH調整を行って泡沫分離処理した場合の実施例を説明する。 尚、酸には硫酸を用いた。
取水した海水に硫酸を添加してpHを4.0〜7.0に調節し、泡沫分離装置で処理を行い、泡沫分離部の出口排水中TEP成分濃度を測定した。結果を表12に示す。
【表12】
【0105】
pH調整を行わなかった比較例6と比べて、pH調節を行った実施例4のTEP除去率はいずれも向上していることがわかる。特に、pH5.0〜7.0の範囲において約10ポイント以上の向上が確認できた。一般には海水中のRO膜への無機スケール付着防止のために,RO膜直前で硫酸を添加してpHを6.8程度まで下げる方法が一般的である。よって本発明方法に準じて泡沫分離の前で硫酸を添加してpHを6.8まで下げることで、硫酸添加量を増やすことなく泡沫分離でのTEP除去率を向上させると共にRO膜への無機スケールの付着も防止することができる。
【0106】
[実施例5]
図23に示す処理フローにて海水に硫酸を添加しpHを6.0に調整した後に塩化第二鉄を取水海水に対して5mg/L(as FeCl3)として添加して泡沫分離処理した場合の実施例を説明する。泡沫分離部の出口排水中TEP成分濃度を測定した。結果を表13に示す。
【表13】
【0107】
pH調整を行なわず凝集剤も添加しなかった比較例7と比べて、pH調整のみを行った比較例8ではTEP除去率は10.3ポイント向上した。更にpH調整をして凝集剤を添加した場合、比較例6と比べて21.4ポイント、比較例7と比べて11.1ポイント向上していることがわかる。処理対象となる取水海水の水質状況に応じて,泡沫分離の前において酸添加のみとするか、より高いTEP除去率を目標とする場合には酸を添加して更に凝集剤を添加することができる。
本発明の実施態様は以下のとおりである。
[1]取水した海水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
凝集剤により海水中懸濁物が凝集して形成されたフロックを含む海水中に気泡を発生させ、当該気泡にTEP成分が吸着してなるTEP含有気泡を水面に集めてTEP含有泡沫として除去する泡沫除去部を具備するTEP成分除去槽と、
TEP成分が除去された海水を脱塩処理して淡水化する逆浸透膜処理装置と、
を具備することを特徴とする海水淡水化装置。
[2]前記泡沫除去部は、水面に浮上したTEP含有泡沫を高密度化して濃縮する泡沫濃縮部を具備することを特徴とする[1]に記載の海水淡水化装置。
[3]前記泡沫濃縮部は、前記TEP成分除去槽の対向壁間に架設されている1又は複数の仕切り壁であることを特徴とする[2]に記載の海水淡水化装置。
[4]前記泡沫除去部は、水面に浮上するTEP含有気泡を所定領域に集める気泡指向手段を具備することを特徴とする[1]又は[2]に記載の海水淡水化装置。
[5]前記気泡指向手段は、前記TEP成分除去槽に設けられている傾斜仕切であり、当該傾斜仕切によって区画された一の領域内の水断面積が上方に向かって縮減するように傾斜していることを特徴とする[4]に記載の海水淡水化装置。
[6]前記泡沫除去部は、パイプスキマー、又はスカムポンプの少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[5]の何れか1に記載の海水淡水化装置。
[7]前記TEP成分除去槽は、底面から水面レベルの下まで立設されている立設仕切、又は水面よりも下方に堰口を位置づけることができる可動堰を具備し、水面に浮上したTEP含有泡沫の流出を防止することを特徴とする[1]〜[6]の何れか1に記載の海水淡水化装置。
[8]前記泡沫除去部は、水面に対して平行となる底面と、当該底面から斜めに立ち上がり頂部に開口を形成する複数の逆漏斗形状の立ち上がり部とを具備することを特徴とする[1]に記載の海水淡水化装置。
[9]前記TEP成分除去槽は、TEP成分除去後の海水の排水量を制御して前記泡沫除去部における泡沫除去量を一定にする越流水位制御部をさらに具備することを特徴とする[1]〜[7]の何れか1に記載の海水淡水化装置。
[10]前記TEP成分除去槽は、散気装置、曝気装置、撹拌式エアレータ、エジェクタ、極微細気泡発生装置、又は取水した海水を衝突させる衝突部材の少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[9]の何れか1に記載の海水淡水化装置。
[11]前記TEP成分を除去した海水、又は前記取水した海水から濁質分を除去する除濁装置をさらに具備することを特徴とする[1]〜[10]の何れかに記載の海水淡水化装置。
[12]前記除濁装置は、MF膜、UF膜、砂、アンスラサイト、ガラス、ガーネット、活性炭、及び繊維部材から選択される少なくとも1種を濾材として充填してなる濾過装置であることを特徴とする[11]に記載の海水淡水化装置。
[13]前記TEP成分除去槽の前段に、前記海水又は前記フロックを含む海水に酸を添加する酸添加手段と、前記海水又は前記フロックを含む海水のpHを測定して酸の添加量を制御する酸添加量制御手段と、をさらに具備することを特徴とする[1]〜[12]の何れか1に記載の海水淡水化装置。
[14]取水した海水に凝集剤を添加して、海水中懸濁物を凝集させてフロックを形成させる凝集剤添加工程と、
当該フロックを含む海水中に気泡を生成させ、当該気泡に海水中のTEP成分を付着させてTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めてTEP含有泡沫とした後に当該TEP含有泡沫を除去するTEP成分除去工程と、
取水した海水、又はTEP含有気泡を除去した後の海水から濁質分を除去する除濁工程と、
前記TEP成分を除去した後の海水を脱塩処理する脱塩処理工程と、
を具備することを特徴とする海水淡水化方法。
[15]取水した海水に酸を添加する酸添加工程と、
酸添加後の海水のpHを測定し、該pHが5〜7の範囲となる様に前記酸添加量を制御する酸添加制御工程と、
前記海水中に気泡を生成させ、該気泡に海水中のTEP成分を付着させてTEP含有気泡を水面に浮上させ、浮上した気泡を集めてTEP含有泡沫とした後に該TEP含有泡沫を除去するTEP成分除去工程と、
前記TEP成分が除去された海水を脱塩処理する脱塩処理工程と、
を具備することを特徴とする海水淡水化方法。
[16]前記TEP成分除去工程は、前記TEP含有泡沫を高密度化して濃縮する濃縮工程を含むことを特徴とする[14]又は[15]に記載の海水淡水化方法。
[17]前記TEP成分除去工程は、前記TEP含有気泡を水面上の所定領域に集めるTEP含有気泡指向工程を含むことを特徴とする[14]又は[15]に記載の海水淡水化方法。
[18]前記気泡は、取水した海水を水槽に落下させること、又は取水した海水を衝突部材に衝突させること、あるいは散気装置、曝気装置、撹拌式エアレータ、エジェクタ、極微細気泡発生装置を用いて形成されることを特徴とする[14]又は[15]に記載の海水淡水化方法。
[19]前記TEP成分除去工程における水面に浮上したTEP含有泡沫の除去は、水面上方に設けた逆漏斗形状の泡沫分離部による分離除去、水面に浮かぶ可動堰による海水との分離除去、水面上でのスキマーによる掻き取り、ポンプによる吸引の少なくとも1種によりなされることを特徴とする[14]〜[18]の何れか1に記載の海水淡水化方法。
【符号の説明】
【0108】
10:海水取水部
15:凝集剤添加手段
20:気泡発生及び泡沫除去部
21:TEP成分除去槽
22:気泡発生手段
23:泡沫除去手段
24:泡沫濃縮手段
25:気泡指向手段
26:泡沫流出防止手段
30:除濁装置(部)
31:濾過装置
40:逆浸透膜処理装置
200:泡沫分離部
210:越流水水位制御部(テレスコープ弁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23