特許第6381446号(P6381446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381446熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置
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  • 特許6381446-熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置 図000020
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381446
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/14 20060101AFI20180820BHJP
   C08G 59/26 20060101ALI20180820BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20180820BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20180820BHJP
【FI】
   C08G59/14
   C08G59/26
   C08G59/42
   H01L33/56
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-546996(P2014-546996)
(86)(22)【出願日】2013年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2013080617
(87)【国際公開番号】WO2014077260
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249925(P2012-249925)
(32)【優先日】2012年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-77191(P2013-77191)
(32)【優先日】2013年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】高松 広明
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭子
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02741607(US,A)
【文献】 特公昭47−008719(JP,B1)
【文献】 特開2006−199851(JP,A)
【文献】 特開2006−070266(JP,A)
【文献】 特公昭46−009425(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/14
C08G 59/26
H01L 33/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で示されるトリアジン系エポキシ化合物と、下記一般式(3)で示されるカルボン酸とを含む、熱硬化性組成物であって、
カルボニル基がエポキシ基1個あたり0.01〜0.50個の割合で含まれている、熱硬化性組成物
【化5】
(上記一般式(2)中、Q、Q及びQはそれぞれ独立に、下記一般式(B)で表される置換基を示す。)
【化6】
(上記一般式(B)中、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。mは1〜10の整数である。)
【化7】
(上記一般式(3)中、nは0以上の整数である。nが0の場合、Rは水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nが1以上の場合、Rは単結合、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性組成物で構成される光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱硬化性組成物又は請求項2に記載の光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を熱硬化して得られる樹脂硬化物。
【請求項4】
光半導体素子と、
前記光半導体素子を収納する光半導体素子パッケージとを備え、
前記光半導体素子パッケージの少なくとも一部が、請求項3に記載の樹脂硬化物で構成される、光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂などを含む熱硬化性組成物から得られる樹脂硬化物は、優れた耐熱性を示すため、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等の光半導体素子を収納するためのパッケージ材料に代表される様々な分野で用いられている。
【0003】
このような樹脂硬化物は、一般にエポキシ樹脂と、硬化剤及び必要に応じて硬化促進剤とを混合してなる熱硬化性組成物を加熱することで得ることができる。このような熱硬化性組成物として、例えば下記特許文献1には、エポキシ樹脂と、硬化剤としてのカルボン酸無水物とを含む熱硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている熱硬化性組成物は、以下に示す課題を有していた。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載の熱硬化性組成物は、25℃程度の室温で貯蔵すると、徐々に硬化反応が進行し、その結果、溶融粘度が上昇するという問題があった。すなわち、上記熱硬化性組成物は、貯蔵安定性の点で改善の余地があった。従って、上記特許文献1に記載の熱硬化性組成物には、優れた貯蔵安定性を有することが求められていた。
【0007】
また、上記熱硬化性組成物は、加熱により効率よく硬化すること、すなわち、優れた熱応答性の点でも改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱応答性及び貯蔵安定性に優れる熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、熱硬化性組成物に含まれる硬化剤に着目した。
【0010】
具体的に、本発明者らは、硬化剤として、カルボン酸無水物の代わりにカルボン酸を用いることを検討した。ここで、カルボン酸を用いたのは、カルボン酸がカルボン酸無水物に比べて、水分と反応しにくいためである。もっとも、カルボン酸は、熱硬化性組成物の硬化速度を十分に向上させることができないものであるとして一般には使用されてこなかったものである。このため、本発明者らは、カルボン酸無水物に代えてカルボン酸を用いても、上記課題を解決しえないのではないかと予測していた。
【0011】
そして、本発明者らが予測していた通り、エポキシ樹脂として一般的なエポキシ樹脂を使用した場合には、上記課題を解決し得なかった。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂として、トリアジン骨格を有する特定のエポキシ化合物を用いると、意外なことに、硬化剤がカルボン酸であっても、熱硬化性組成物を加熱した場合に熱硬化性組成物が効率よく硬化すること、すなわち、優れた熱応答性を有することを見出した。さらに、本発明者らは、硬化剤が、エポキシ基に対し極少量のカルボン酸であっても熱硬化性組成物が効率よく硬化することも見出した。
【0012】
また、トリアジン骨格を有するエポキシ化合物とカルボン酸との反応物からなる熱硬化性化合物も、優れた貯蔵安定性を有するとともに、優れた熱応答性をも有することがわかった。
【0013】
こうして本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0028】
発明は、下記一般式(2)で示されるトリアジン系エポキシ化合物と、下記一般式(3)で示されるカルボン酸とを含む、熱硬化性組成物であって、カルボニル基がエポキシ基1個あたり0.01〜0.50個の割合で含まれている熱硬化性組成物である。
【化5】
(上記一般式(2)中、Q、Q及びQはそれぞれ独立に、下記一般式(B)で表される置換基を示す。)
【化6】
(上記一般式(B)中、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。mは1〜10の整数である。)
【化7】
(上記一般式(3)中、nは0以上の整数である。nが0の場合、Rは水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nが1以上の場合、Rは単結合、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。)
【0029】
本発明の熱硬化性組成物によれば、優れた熱応答性及び優れた貯蔵安定性を有することが可能となる。
【0032】
また本発明は、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物であって、上述した熱硬化性組成物で構成される光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物である。
【0033】
本発明の光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物によれば、耐光性の低下を十分に抑制できる光半導体素子パッケージを形成することが可能となる。
【0034】
また、本発明は、上述した熱硬化性組成物又は光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を熱硬化して得られる樹脂硬化物である。
【0035】
本発明の樹脂硬化物は、熱硬化性組成物に硬化促進剤や硬化剤を含む必要が無い為、熱硬化性組成物を硬化して得られる樹脂硬化物は、硬化促進剤のブリードアウトが起こらず、樹脂硬化物の特性の時間経過に伴う変化が十分に抑制できる。また、本発明の樹脂硬化物は、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子のパッケージ材料として特に有用である。
【0036】
また本発明は、光半導体素子と、前記光半導体素子を収納する光半導体素子パッケージとを備え、前記光半導体素子パッケージの少なくとも一部が、上述した樹脂硬化物で構成される、光半導体装置である。
【0037】
この光半導体装置によれば、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物が硬化促進剤や硬化剤を含む必要が無いため、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージの少なくとも一部においては、硬化促進剤や硬化剤のブリードアウトが起こらない。また、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージの少なくとも一部は、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子から出射される紫外線を十分に吸収することができる。このため、光半導体素子パッケージの劣化が十分に抑制される。従って、上記光半導体素子パッケージによれば、耐光性の低下を十分に抑制できる。このため、この光半導体素子パッケージを有する本発明の光半導体装置によれば、長寿命化が可能となる。
【0038】
なお、本発明において、「カルボニル基の含有量」は、13C‐NMR(核磁気共鳴)測定法の内、直接炭素を測定して定量する方法によって測定される値を言うものとする。
【0039】
また本発明において、「樹脂硬化物」とは、熱硬化性化合物の溶融粘度よりも大きい溶融粘度を有するものを言うものとする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、熱応答性及び貯蔵安定性に優れる熱硬化性化合物、熱硬化性組成物、光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物、樹脂硬化物および光半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の光半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0043】
<光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性化合物>
(第1形態)
本発明は、下記一般式(1)で表される熱硬化性化合物を含む光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物(以下、単に「熱硬化性組成物」という)である。
【0044】
【化8】
上記一般式(1)中、X、X及びXはそれぞれ独立に、下記一般式(A)又は(B)で表される置換基を示し、X、X及びXのうち少なくとも1つは下記一般式(A)で表される置換基である。
【化9】
【化10】
上記一般式(A)及び(B)中、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。mは1〜10の整数であり、nは0以上の整数である。nが0の場合、Rは水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nが1以上の場合、Rは単結合、置換若しくは無置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の分岐鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。Zは下記一般式(C)で表される置換基を示す。
【化11】
上記一般式(C)中、XおよびXは上記一般式(B)で表される置換基を示す。
【0045】
本発明の熱硬化性組成物によれば、熱硬化性化合物が、熱硬化性を有するエポキシ基を含むとともに、カルボニル基、及び、トリアジン骨格を含む。ここで、一定温度、たとえば80℃以上に加熱することで、初めてカルボニル基とトリアジン骨格からエポキシ基との硬化点が生じて硬化する。このため、熱硬化性化合物は、無水カルボン酸などの、水に対して不安定な硬化剤や、25℃程度の室温においても硬化反応を促進するような硬化促進剤を添加しなくても、単独で十分に優れた熱応答性を有する。従って、本発明の光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物は、硬化促進剤や硬化剤を含む必要がない。このため、本発明の光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージにおいては、硬化促進剤や硬化剤のブリードアウトが起こらない。また、本発明の光半導体素子パッケージは、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子から出射される紫外線を十分に吸収することができる。このため、光半導体素子パッケージの劣化が十分に抑制される。以上より、本発明の熱硬化性組成物によれば、耐光性の低下を十分に抑制できる光半導体素子パッケージを形成することが可能となる。
【0046】
上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示すハロゲン基としては、−F基、−Cl基、−Br基、−I基などが挙げられる。
【0047】
また、上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示す直鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられる。
【0048】
また、上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示す分岐鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、イソヘプチル基、s−ヘプチル基、t−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、s−オクチル基、t−オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、イソノニル基、s−ノニル基、t−ノニル基、ネオノニル基、イソデシル基、s−デシル基、t−デシル基、ネオデシル基などが挙げられる
【0049】
また、上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示す脂環式脂肪族炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、デカリル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0050】
また、上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示す芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラシル基などが挙げられる。
【0051】
また、上記一般式(A)、(B)及び(C)のY、Y、Y及びYが示す直鎖状脂肪族炭化水素基、分岐鎖状脂肪族炭化水素基、脂環式脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の置換基としては、例えば−F基、−Cl基、−Br基、−I基などのハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルチオ基などが挙げられる。
【0052】
上記一般式(A)、(B)及び(C)において、Y、Y、Y及びYは、水素原子であることが好ましい。
【0053】
この場合、上記一般式(A)、(B)及び(C)において、Y、Y、Y及びYが水素原子以外である場合に比べて、粘度が低く容易に取扱うことができる。
【0054】
上述したように、上記一般式(A)、(B)及び(C)において、mは1〜10の整数である。mが10より大きい整数である場合、熱硬化性化合物の熱応答性が不十分なものとなる。
【0055】
上記一般式(A)、(B)及び(C)において、mは1〜3の整数であることが好ましく、1〜2の整数であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0056】
mが1である場合、mが1より大きい整数である場合に比べ、より十分な熱応答性を得ることができるので、光半導体素子パッケージを短時間で効率よく形成できる。
【0057】
また、上述したように、上記一般式(A)において、nは0以上の整数であればよいが、nは0〜1の整数であることが好ましい。
【0058】
この場合、nが1より大きい整数である場合に比べ、粘度が低く容易に取扱うことができる。
【0059】
上記一般式(A)のRが示す直鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、n−ヘキシレン基などが挙げられる。
【0060】
また、上記一般式(A)のRが示す分岐鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、イソヘプチル基、s−ヘプチル基、t−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、s−オクチル基、t−オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、イソノニル基、s−ノニル基、t−ノニル基、ネオノニル基、イソデシル基、s−デシル基、t−デシル基、ネオデシル基などが挙げられる。
【0061】
また、上記一般式(A)のRが示す脂環式脂肪族炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、デカリニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、デカリニレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基などが挙げられる。
【0062】
また、上記一般式(A)のRが示す芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラシル基、フェニレン基、ナフチレン基、アントラシレン基などが挙げられる。
【0063】
また、上記一般式(A)のRが示す直鎖状脂肪族炭化水素基、分岐鎖状脂肪族炭化水素基、脂環式脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の置換基としては、例えば−F基、−Cl基、−Br基、−I基などのハロゲン基、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルチオ基などが挙げられる。
【0064】
上記一般式(A)において、Rが置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を示すことが好ましい。
【0065】
この場合、Rが置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基でない場合と比べて、熱硬化性化合物を含む熱硬化性組成物、及び、これを用いて得られる光半導体素子パッケージの熱安定性がより高いという利点が得られる。
【0066】
上記熱硬化性組成物は、上述した熱硬化性化合物を1種類単独で含むものであっても、2種類以上を含むものであってもよい。
【0067】
また上記熱硬化性組成物は、上述した熱硬化性化合物とは異なるエポキシ化合物をさらに含んでもよい。
【0068】
上記エポキシ化合物は、特に制限されるものではなく、エポキシ化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、ヒダントイン型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ジシクロ環型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることが可能である。
【0069】
(第2形態)
また本発明の熱硬化性組成物の第2形態は、下記一般式(2)で示されるトリアジン系エポキシ化合物と、下記一般式(3)で示されるカルボン酸とを含むものである。
【化12】
上記一般式(2)中、Q、Q及びQはそれぞれ独立に、上記一般式(B)で表される置換基を示す。
【化13】
【0070】
上記一般式(3)中、nは0以上の整数である。Rは、上記一般式(A)におけるRと同様である。
【0071】
本発明の熱硬化性組成物によれば、加熱により、上述した熱硬化性化合物が生成される。そして、この熱硬化性化合物は、上述したように、熱硬化性を有するエポキシ基を含むとともに、カルボニル基、及び、トリアジン骨格を含む。ここで、一定温度、たとえば80℃以上に加熱することで、初めてカルボニル基とトリアジン骨格からエポキシ基との硬化点が生じて硬化する。このため、熱硬化性化合物は、無水カルボン酸などの、水に対して不安定な硬化剤や、25℃程度の室温においても硬化反応を促進するような硬化促進剤を添加しなくても、単独で十分に優れた熱応答性を有する。従って、本発明の熱硬化性組成物は、硬化促進剤や硬化剤を含む必要がない。このため、本発明の光半導体素子パッケージ形成用熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージにおいては、硬化促進剤や硬化剤のブリードアウトが起こらない。また、上記光半導体素子パッケージは、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子から出射される紫外線を十分に吸収することができる。このため、光半導体素子パッケージの劣化が十分に抑制される。以上より、本発明の熱硬化性組成物によれば、耐光性の低下を十分に抑制できる光半導体素子パッケージを形成することが可能となる。
【0072】
上記一般式(2)で示されるトリアジン系エポキシ化合物の具体例としては、例えば2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリグリシジル-1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオンなどが挙げられる。
【0073】
上記カルボン酸は、特に制限されるものではないが、上記一般式(A)におけるnの値に応じて使用するカルボン酸が異なる。すなわち、nが0である場合、モノカルボン酸であるRCOOHが用いられ、nが1である場合、ジカルボン酸であるR(COOH)が用いられ、nが2である場合、トリカルボン酸であるR(COOH)が用いられ、nが3である場合、テトラカルボン酸であるR(COOH)が用いられる。
【0074】
上記モノカルボン酸としては、例えばギ酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ステアリン酸などの直鎖状の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式脂肪族モノカルボン酸、安息香酸などの芳香族モノカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることが可能である。
【0075】
上記ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸など直鎖状の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式脂肪族ジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることが可能である。
【0076】
上記トリカルボン酸としては、例えばクエン酸などの直鎖状脂肪族トリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸などの脂環式脂肪族トリカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることが可能である。
【0077】
上記テトラカルボン酸としては、例えばブタンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることが可能である。
【0078】
上記第1及び第2形態に係る熱硬化性組成物中のカルボニル基の含有量は、特に制限されるものではないが、カルボニル基は、上記熱硬化性組成物中のエポキシ基1個あたり0.01〜0.95個の割合で含まれることが好ましい。この場合、上記熱硬化性組成物中のカルボニル基の個数が0.01〜0.95個の範囲を外れる場合に比べて、より良好な樹脂硬化物からなる光半導体素子パッケージを得ることができる。
【0079】
上記熱硬化性組成物中のエポキシ基1個あたりの上記熱硬化性組成物中のカルボニル基の個数は、より好ましくは0.015〜0.5個であり、特に好ましくは0.05〜0.2個である。
【0080】
また、上記熱硬化性組成物は、必要に応じて酸化チタン、アルミナ、シリカなどの無機充填剤、シランカップリング剤などの表面調整剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤などの添加剤をさらに含んでもよい。
【0081】
さらに、本発明の第1形態に係る熱硬化性組成物は、上記一般式(2)で表されるトリアジン系エポキシ化合物、および、上記カルボン酸をさらに含んでいてもよい。
【0082】
<熱硬化性化合物の製造方法>
上記熱硬化性化合物は、上述した第2形態の熱硬化性組成物を、例えば60〜70℃の温度で1〜3時間加熱した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離することによって得ることができる。
【0083】
<熱硬化性組成物の製造方法>
上記第1形態の熱硬化性組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、上記第1形態の熱硬化性組成物は、例えば上記熱硬化性化合物、及び、必要に応じて上記エポキシ化合物を有機溶媒に溶解させ、必要に応じて上記添加剤を加えて混合することにより得ることができる。
【0084】
また、上記第1形態の熱硬化性組成物は、上記熱硬化性化合物と、必要に応じて上記エポキシ化合物及び上記添加剤とをミキサーなどによって均一になるように十分混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダーなどによって溶融混練し、次いで冷却固化させ、粉砕することによっても得ることができる。
【0085】
上記第2形態の熱硬化性組成物の製造方法も特に限定されるものではないが、第2形態の熱硬化性組成物は、例えば、上記一般式(2)で表されるトリアジン系エポキシ化合物と、上記一般式(3)で示されるカルボン酸とを混合することにより得ることができる。
【0086】
<樹脂硬化物>
本発明の樹脂硬化物は、上記の第1形態又は第2形態の熱硬化性組成物を熱硬化して得られるものである。
【0087】
本発明の樹脂硬化物は、熱硬化性組成物に硬化促進剤や硬化剤を含む必要が無い為、熱硬化性組成物を硬化して得られる樹脂硬化物は、硬化促進剤のブリードアウトが起こらず、樹脂硬化物の特性の時間経過に伴う変化が十分に抑制できる。また、本発明の樹脂硬化物は、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子のパッケージ材料として特に有用である。
【0088】
<樹脂硬化物の製造方法>
本発明の樹脂硬化物の製造方法は特に限定されるものではないが、樹脂硬化物は、例えば上述した熱硬化性組成物を成形した後に、加熱して硬化させることにより得ることができる。ここで、熱硬化性組成物は、第1形態の熱硬化性組成物であっても、第2形態の熱硬化性組成物であってもよい。加熱の条件は熱硬化性組成物の構成に応じて適宜選択することができる。加熱温度は、例えば130℃以上の温度であればよい。加熱時間は、例えば30〜300秒とすればよい。また加熱の際には、加圧処理を行ってもよい。この場合の圧力は、例えば0.1〜10MPaの圧力とすればよい。
【0089】
<光半導体装置>
本発明の光半導体装置は、光半導体素子と、光半導体素子を収納する光半導体素子パッケージとを備え、光半導体素子パッケージの少なくとも一部が、上述した熱硬化性組成物を熱硬化して得られる樹脂硬化物で構成される。
【0090】
本発明の光半導体装置によれば、熱硬化性組成物が硬化促進剤や硬化剤を含む必要が無いため、熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージの少なくとも一部においては、硬化促進剤や硬化剤のブリードアウトが起こらない。また、熱硬化性組成物を硬化して得られる光半導体素子パッケージの少なくとも一部は、その構造中に、紫外線吸収能を有するトリアジン骨格を有するため、光半導体素子から出射される紫外線を十分に吸収することができる。このため、光半導体素子パッケージの劣化が十分に抑制される。従って、上記光半導体素子パッケージによれば、耐光性の低下を十分に抑制できる。このため、この光半導体素子パッケージを有する本発明の光半導体装置によれば、長寿命化が可能となる。
【0091】
(光半導体素子)
光半導体素子とは、同一面又は異なる面に正負電極が形成された、半導体層の積層体によって構成される素子のことである。光半導体素子としては、例えば発光素子、発光ダイオード、レーザーダイオード、フォトトランジスタ、フォトダイオードなどが挙げられる。
【0092】
(光半導体素子パッケージ)
光半導体素子パッケージとは、光半導体素子を収納するものである。光半導体素子パッケージは、少なくとも光半導体素子を支持し固定するための部材を有する。光半導体素子パッケージは、光半導体素子を保護するための部材、光半導体素子から出射された光を反射させるための部材をさらに含んでいてもよい。
【0093】
光半導体素子パッケージの形状は特に制限されず、光半導体素子を搭載するための凹部を有する形状であっても、平板状であっても、リング状であってもよい。
【0094】
ここで、本発明の光半導体装置の一実施形態について図1を用いて具体的に説明する。図1は、本発明の光半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【0095】
図1に示すように、光半導体装置100は、光半導体素子10と、光半導体素子10を収納する光半導体素子パッケージ20とを備えている。
【0096】
本実施形態では、光半導体素子パッケージ20は、凹部30aを有し光半導体素子10を搭載する素子搭載部30と、素子搭載部30の凹部30aに充填される封止部40とを有する。素子搭載部30は、光半導体素子10を支持固定するための素子固定部31と、素子固定部31上に設けられ、光半導体素子10を包囲し光半導体素子10から出射される光を反射する光反射部32とで構成されている。素子固定部31は、光半導体素子10に含まれる2つの電極のうち一方の電極に接続される第1リード31aと、光半導体素子10に含まれる2つの電極のうち他方の電極に、ボンディングワイヤなどの導電部材50を介して接続される第2リード31bと、第1リード31aと第2リード31bとを絶縁する絶縁部31cとを有する。凹部30aは、素子固定部31と、光反射部32の内周面とによって形成されている。
【0097】
光半導体装置100においては、光半導体素子パッケージ20のうち、光反射部32、絶縁部31c及び封止部40の少なくとも1つが、上記熱硬化性組成物を熱硬化して得られる硬化物で構成される。ここで、少なくとも光反射部32が、熱硬化性組成物を熱硬化して得られる硬化物で構成されていることが好ましい。これは以下の理由による。すなわち、光反射部32の内周面は、光半導体素子10から出射される光を反射するものであり、この内周面における光の反射率が光半導体装置100の輝度に影響を与える。その点、光反射部32が、熱硬化性組成物を熱硬化して得られる硬化物で構成されていると、光反射部32は耐光性の低下を十分に抑制できるため、内周面において高い光反射率を維持することができる。そのため、光半導体装置100の輝度の低下を十分に抑制することができ、長寿命化が可能となる。
【0098】
<光半導体装置の製造方法>
光半導体装置は、光半導体素子を光半導体素子パッケージ内に収納することにより得ることができる。
【0099】
光半導体素子パッケージは、例えば上述した熱硬化性組成物を成形した後に、加熱して硬化させることにより得ることができる。ここで、熱硬化性組成物は、第1形態の熱硬化性組成物であっても、第2形態の熱硬化性組成物であってもよい。加熱の条件は熱硬化性組成物の構成に応じて適宜選択することができる。加熱温度は、例えば130℃以上の温度であればよい。加熱時間は、例えば30〜300秒とすればよい。また加熱の際には、加圧処理を行ってもよい。この場合の圧力は、例えば0.1〜10MPaの圧力とすればよい。
【0100】
なお、本発明の熱硬化性組成物は、光半導体パッケージの形成用の熱硬化性組成物に限定されるものではなく、接着剤、シーラント、塗料、インク、コーティング剤、光拡散剤、成形材料(シート、フィルム、FRP等を含む)、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、封止材、レジスト材料、光学用部材(レンズ、プリズム、導光板等を含む)、車両用部材、医療用部材、他樹脂等への添加剤など、種々の用途に適用可能である。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1A)
トリグリシジルシアヌレート(2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、日本カーバイド工業社製)480g(1.6mol)を1Lのビーカーに入れ、内温が70℃になるように調整したオイルバスでビーカーを加熱しながらトリグリシジルシアヌレートを撹拌し融解させた。続いて1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(和光純薬社製)20g(0.12mol)を1時間30分かけてビーカーへ投入した。続いて、ビーカーの内容物の温度を70℃に保った状態でさらに30分間撹拌しながら加熱した。こうして組成物を得た。そして、この組成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーで化合物を分離精製し、得られた化合物についてNMRを測定した。NMRの結果は以下の通りであった。

H−NMR(CDCl、400MHz):σ ppm 4.665(dd、J=3.2、12.0Hz、4H)、4.350−4.305(m、4H)、4.232(m、2H)、3.967(dd、J=1.2、12.8Hz、2H)、3.613(dd、J=4.0、12.8Hz、2H)、3.373(m、4H)、3.160(m、2H)、2.897(m、4H)、2.815(m、2H)、2.748(m、4H)、2.309(m、2H)、1.903−1.228(m、8H)
【0103】
上記結果より、得られた組成物は、下記構造を示す化合物(エポキシ樹脂)を含むことが分かった。なお、上記組成物において、カルボニル基は、エポキシ基1個あたり0.053個の割合で含まれていた。
【化14】
【0104】
(実施例2A)
ビーカーに投入した1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の量を6g(35mmol)としたこと以外は実施例1Aと同様の方法で組成物を得た。そして、この組成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーで化合物を分離精製し、得られた化合物についてNMRを測定した。この結果は、実施例1Aと同様の結果を示した。このことから、得られた組成物は、上記構造式で示される構造を示す化合物(エポキシ樹脂)を含むことが分かった。なお、得られた組成物において、カルボニル基は、エポキシ基1個あたり0.015個の割合で含まれていた。
【0105】
(実施例3A)
ビーカーに投入した1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の量を80g(0.48mol)としたこと以外は実施例1Aと同様の方法で組成物を得た。そして、この組成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーで化合物を分離精製し、得られた化合物についてNMRを測定した。この結果は、実施例1Aと同様の結果を示した。このことから、得られた組成物は、上記構造式で示される構造を示す化合物(エポキシ樹脂)を含むことが分かった。なお、得られた組成物において、カルボニル基は、エポキシ基1個あたり0.200個の割合で含まれていた。
【0106】
(実施例4A)
トリグリシジルシアヌレート(2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、日本カーバイド工業社製)15g(50mmol)を50mlのビーカーに入れ、内温が70℃になるように調整したオイルバスでビーカーを加熱しながらトリグリシジルシアヌレートを撹拌し融解させた。続いてシクロヘキサンカルボン酸(和光純薬社製)6.4g(50mmol)を15分かけてビーカーへ投入した。こうして組成物を得た。そして、この組成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーで化合物を分離精製し、得られた化合物についてNMRを測定した。NMRの結果は以下の通りであった。

H−NMR(CDCl、400MHz):σ ppm 4.667(dd、J=3.2、12.0Hz、2H)、4.353−4.306(m、2H)、4.232(m、1H)、3.967(dd、J=1.2、12.8Hz、1H)、3.613(dd、J=4.0、12.8Hz、1H)、3.376(m、1H)、3.167(m、1H)、2.897(m、2H)、2.815(m、1H)、2.748(m、2H)、2.312(m、1H)、1.892−1.234(m、10H)
【0107】
上記結果より、得られた組成物は、下記構造を示す化合物(エポキシ樹脂)を含むことが分かった。なお、上記組成物において、カルボニル基は、エポキシ基1個あたり0.500個の割合で含まれていた。
【化15】
【0108】
参考例5A)
トリグリシジルシアヌレート(2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、日本カーバイド工業社製)15g(50mmol)を50mlのビーカーに入れ、内温が70℃になるように調整したオイルバスでビーカーを加熱しながらトリグリシジルシアヌレートを撹拌し融解させた。続いてシクロヘキサンカルボン酸(和光純薬社製)18.2g(142mmol)を30分かけてビーカーへ投入した。こうして組成物を得た。そして、この組成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーで化合物を分離精製し、得られた化合物についてNMRを測定した。NMRの結果は、実施例4Aと同様であった。なお、上記組成物において、カルボニル基は、エポキシ基1個あたり0.950個の割合で含まれていた。
【0109】
(比較例1A)
トリグリシジルシアヌレート(2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、日本カーバイド工業社製)50g(168mmol)及びメチルシクロヘキサ無水フタル酸(商品名:リカシッドMH−700 新日本理化社製)70g(417mmol)を均一に混合することにより組成物を得た。
【0110】
[特性評価]
<熱応答性>
実施例1A〜4A、参考例5A及び比較例1Aの組成物について熱応答性を評価した。熱応答性は、以下のようにして評価した。すなわち、実施例1A〜4A、参考例5A及び比較例1Aの組成物について、JIS6901に準じてゲル化時間を測定した。更にここではゲル化時間の3倍の時間を硬化時間と定義した。そしてホットプレートを160℃に設定した場合の硬化時間を「160℃硬化時間」とし、ホットプレートを180℃に設定した場合の硬化時間を「180℃硬化時間」として、熱応答性の評価に用いた。結果を表1に示す。
【0111】
<貯蔵安定性>
実施例1A〜4A、参考例5A及び比較例1Aの組成物について貯蔵安定性を評価した。貯蔵安定性は、実施例1A〜4A、参考例5A及び比較例1Aの組成物を25℃で24、72、168時間放置した場合の70℃における溶融粘度の増加率を指標とした。ここで、溶融粘度の増加率は以下のように定義した。結果を表1に示す。
溶融粘度の増加率(%)=100×(放置後の溶融粘度−放置前の溶融粘度)/放置前の溶融粘度
【表1】
【0112】
表1に示すように、実施例1A〜4A、参考例5Aの組成物の160℃硬化時間はいずれも、比較例1Aの組成物の160℃硬化時間よりも極めて小さいことが分かった。また実施例1A〜4A、参考例5Aの組成物の180℃硬化時間はいずれも、比較例1Aの組成物の180℃硬化時間よりも極めて小さいことが分かった。
【0113】
また実施例1A〜4A、参考例5Aの組成物の溶融粘度増加率は、168時間経過してもいずれも50%以下であり、比較例1Aの組成物の溶融粘度増加率に比べて、極めて小さいことが分かった。なお、比較例1Aの組成物は、72時間後には硬化しており粘度の測定ができなかった。
【0114】
(実施例6A)
実施例4Aで得られた化合物と、下記エポキシ化合物Aとを75:25の質量比で70℃加熱混合し、エポキシ樹脂を得た。
(エポキシ化合物A)
2,3−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2021P ダイセル化学社製)
【0115】
(実施例7A)
実施例4Aで得られた化合物と、実施例6Aで用いたエポキシ化合物Aとを50:50の質量比で70℃加熱混合し、配合してエポキシ樹脂を得た。
【0116】
(実施例8A)
実施例4Aで得られた化合物と、下記エポキシ化合物Bとを75:25の質量比で70℃加熱混合し、エポキシ樹脂を得た。
(エポキシ化合物B)
1,3,5−トリグリシジル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(商品名:TEPIC−S 日産化学社製)
【0117】
(実施例9A)
実施例4Aで得られた化合物と、実施例8Aで用いたエポキシ化合物Bとを50:50の質量比で70℃加熱混合し、エポキシ樹脂を得た。
【0118】
(実施例10A)
実施例4Aで得られた化合物と、実施例6Aで用いたエポキシ化合物Aと、実施例8Aで用いたエポキシ化合物Bとを50:25:25の質量比で70℃加熱混合し、エポキシ樹脂を得た。
【0119】
そして、得られたエポキシ樹脂(熱硬化性組成物)について、上記と同様にして熱応答性及び貯蔵安定性の評価を行った。結果を表2に示す。表2において、エポキシ樹脂(組成物)を構成する成分の配合量の単位は質量部を示し、「−」はエポキシ化合物A又はエポキシ化合物Bを使用しなかったことを示す。
【表2】
【0120】
表1の結果より、本発明の熱硬化性組成物は、優れた熱応答性及び貯蔵安定性を有することが確認された。また表2の結果より、熱硬化性化合物を1種以上のエポキシ化合物と混合した熱硬化性組成物についても熱応答性に優れ、特に優れた貯蔵安定性を示すことが確認された。
【0121】
(実施例1B〜4B、参考例5B、実施例6B〜10B及び比較例1B)
次に、実施例1A〜4A、参考例5A、実施例6A〜10Aで得られたエポキシ樹脂又は下記エポキシ樹脂Cを用いて、下記表3に示す処方で、エポキシ樹脂、無機充填剤、必要に応じて硬化剤、硬化促進剤とを配合し、50℃〜60℃で10分間ロール混練を行い、実施例1B〜4B、参考例5B、実施例6B〜10B及び比較例1Bの熱硬化性組成物を得た。
<エポキシ樹脂C>
:TGC[2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、上記合成品]
<硬化剤>
:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸[リカシッドMH、新日本理化社製]
<硬化促進剤>
:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7[ヒシコーリンPX−4ET、日本化学工業社製]
<無機充填材>
:シリカA[FB−304、電気化学工業社製、平均粒径6μm]
:シリカB[HS−202、マイクロン社製、平均粒径16μm]
:酸化チタン[CR−90−2、石原産業社製、平均粒径0.3μm]
:ほう珪酸ガラス[グラスバブルスS60HS、住友3M社製、平均粒径30μm]
【0122】

【表3】
【0123】
<耐光性>
実施例1B〜4B、参考例5B、実施例6B〜10B及び比較例1Bで得られた熱硬化性組成物を金型温度180℃、圧力0.16MPa、硬化時間2分で加熱、加圧成形した後、150℃で2時間の後処理をして、厚さ1mmの板状試験片からなるサンプルを作製した。尚、実施例1B〜4B、参考例5B、実施例6B〜10B及び比較例1Bのサンプルの溶融粘度は、その原料として用いた熱硬化性組成物の溶融粘度の100〜100,000倍であった。
【0124】
そして、各サンプルについて、分光光度計(U4000型、日立製作所社製)を用いて、各サンプルの波長460nmにおける光反射率を測定した。
【0125】
次いで、各サンプルについて、耐光性試験機(メタルウエザーKW−R5TP−A、ダイプラ・ウィンテス社製)を用いて照射強度850W/cm、温度83℃、湿度20%RHで結露なしの条件にて100、250時間試験した。その後、各サンプルについて、上記と同様にして波長460nmにおける光反射率を測定した。結果を表4に示す。尚、各サンプルの光反射率は、ポリテトラフルオロエチレンの光反射率を100%とした相対値である。
【0126】
また、下記式に基づいて光反射率の低下率を算出した。結果を表4に示す。

光反射率の低下率(%)=100×(耐光性試験前サンプルの光反射率−100時間試験後又は250時間試験後の光反射率)/耐光性試験前サンプルの光反射率
【0127】
【表4】
【0128】
表4に示す結果から、実施例1B〜4B、参考例5B、実施例6B〜10Bの熱硬化性組成物は、比較例1Bの熱硬化性組成物よりも、光反射率の低下率がかなり小さくなっていることが分かった。
【0129】
このことから、本発明の熱硬化性組成物は、耐光性の低下を十分に抑制できる光半導体素子パッケージを形成することができることが分かった。
【符号の説明】
【0130】
10…光半導体素子
20…光半導体素子パッケージ
100…光半導体装置
図1