(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一側面に係る同軸金属体の製造方法について図を参照しつつ説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0012】
金属積層3Dプリント技術を使用した3Dプリンタよってシールデッドループアンテナを製造すると、桁違いに対称な構造を製造することができる。例えば、金属積層3Dプリント技術を使用する3Dプリンタでは、技術の進歩でさらに改善が期待できるが、現時点の技術においては、0.05mm厚のステップで金属粉を積層するため、±0.025mm程度の精度が確保される。このため、中心導体の直径が1mm程度の同軸構造であれば、公差は±2.5%程度になる。即ち、金属積層3Dプリント技術を使用した3Dプリンタでは、0.05mmの精度で造形物を製造できるので、全長10cmの造形物であれば、0.05%の精度で製造することができる。
【0013】
これに対して、セミリジッドケーブルを手曲げした場合は、精度は±1mm程度が限界である。また、プリント板製作技術では、絶縁体の厚さやパタン幅などの誤差が影響する特性インピーダンスの精度は±10%程度である。これに加えて、プリント板では基板のそりの問題があり、例えば、30mm以下の寸法のプリント板では、全長に対して1%程度の基板のそりがある。このように、金属積層3Dプリント技術を使用した3Dプリンタを利用することによって、シールデッドループアンテナを高精度に製造することができる。
【0014】
図1、
図2及び
図3は、金属積層3Dプリント技術を使用した3Dプリンタの基本動作を説明するための図である。なお、
図2及び
図3では、後述するシールデッドループアンテナ10を例としているが、他の同軸金属体の製造方法にも利用することが可能である。
【0015】
図1(a)は、3Dプリンタの造形用テーブルの上にリコータにより第1層目の金属粉が撒かれる工程を示す斜視図である。金属粉Mは図示しない供給装置によってリコータ2に供給され、リコータ2は造形用テーブル1の上方を僅かな隙間を隔てて移動し、造形用テーブル1の上に均一な厚さの1層目の金属粉層M1を形成する。この状態は、
図2(a)にも示される。
図2(a)に示すように、造形用テーブル1は昇降装置4によって造形タンク5の内部を上下するようになっており、リコータ2によって第1層目の金属粉層M1が形成される時は、造形用テーブル1の上面は造形タンク5の上端5Fに一致している。
【0016】
図1(b)は、
図1(a)の工程によって造形用テーブル1の上に形成された金属粉層M1に、レーザ光源3からレーザ光Lが照射されて金属粉Mが溶けて金属MTになる工程を示している。この状態は、
図2(b)にも示される。
図2(b)に示すように、レーザ光源3からのレーザ光Lは、金属粉層M1の中の金属MTにしたい部分にだけ照射される。
【0017】
図2(c)は、
図2(b)に示した第1層目の金属粉層M1の上に、リコータ2により第2層目の金属粉層M2が積層される工程を示すものである。リコータ2により第1層目の金属粉層M1が積層され、レーザ光源3によってレーザ光Lの照射が終了した後は、昇降装置4によって造形用テーブル1が第1層目の金属粉層M1の厚さだけ下降する。したがって、リコータ2が第2層目の金属粉層M2を形成する時は、第1層目の金属粉層M1の上面が、造形タンク5の上端5Fに一致している。
【0018】
図2(d)は、
図2(c)の工程によって造形用テーブル1の上に積層された2層目の金属粉層M2に、レーザ光源3からレーザ光Lが照射される工程を示すものである。レーザ光源3からのレーザ光Lは、金属粉層M1と同様に、金属粉層M2の中の金属MTにしたい部分にだけ照射される。レーザ光源3によって金属粉層M2へのレーザ光Lの照射が終了した後は、昇降装置4によって造形用テーブル1が第2層目の金属粉層M2の厚さだけ下降し、以後同様に金属粉層の形成とレーザ光Lの照射が行われる。
【0019】
図2(e)は、造形タンク内の造形用テーブルの上に金属粉層が複数層に渡って積層された状態を示す断面図である。リコータ2が第K層目の金属粉層MKを形成する時は、
図2(e)に示すように、第K−1層目の金属粉層M(K−1)の上面を、造形タンク5の上端5Fに一致させる。
【0020】
図2(f)は、造形タンク内の造形用テーブルの上に金属粉層が最終層まで積層され、金属粉層の中に芯線と外側金属を備えるシールデッドループアンテナ10が形成された状態を示す断面図である。
【0021】
図3(a)は、造形用テーブルの上に最後の層まで積層された金属粉層の内部に形成されたシールデッドループアンテナの一例を透視してみた透視斜視図である。実際には、金属粉層M1〜MNが積層された造形用テーブル1は、
図3(a)に示すように、造形タンク5から取り外すことができ、金属MTになっていない金属粉を取り除いてシールデッドループアンテナ10を取り出すことができる。造形用テーブル1の上から取り出したシールデッドループアンテナ10は、後述する様に、中空構造をしており、外側金属11の内部に内側金属12がある。
【0022】
図3(b)は、
図3(a)に示したシールデッドループアンテナを金属粉層から取り出し、中に詰まった金属粉を除去する工程を示す斜視図である。造形用テーブル1の上から取り出したシールデッドループアンテナ10の中空部分にはまだ金属粉が残留しているので、
図3(b)に示すように、内部の金属粉Mを除去する。このように、内部の金属粉Mを除去する工程の後に、外側金属11の内部に内側金属12が形成されたシールデッドループアンテナ10を作ることができる。
【0023】
図4(a)は、金属積層3Dプリンタによって製造されたシールデッドループアンテナ10に、絶縁部材40を挿通する工程を説明するための図である。
図4(b)は、
図4(a)に示したシールデッドループアンテナの一方の端部の構造を示す側面図である。
【0024】
図4(a)に示す様に、金属積層3Dプリンタによって製造されたシールデッドループアンテナ10は、外側金属11と内側金属12とを備える。内側金属12は外側金属11に対して同軸になっており、外側金属11と内側金属12の間にはスペース13がある。シールデッドループアンテナ10は、ループ状部10Lと、ループ状部10Lの両端部に形成された直線部10Sがある。直線部10Sの端部は開口しており、端部15から内側金属12が突出している。
【0025】
外側金属11の内側に内側金属12を仮保持するために、シールデッドループアンテナ10のループ状部10Lには不連続部14があり、不連続部14には内側金属12を仮支持する第1の接続金属部材20が設けられている。シールデッドループアンテナ10の直線部10Sの端部15には、端部15から突出する内側金属12を外側金属11に対して中心(同軸)になるように仮支持する第2の接続金属部材30が設けられている。
【0026】
シールデッドループアンテナ10のループ状部10Lには、内側金属12を外側金属11に対して同軸になるように本固定する絶縁部材40を挿通、或いは本図には図示を省略した溶融された樹脂を注入するための開口部である貫通孔16が設けられている。絶縁部材40或いは溶融された樹脂を用いて、内側金属12を外側金属11に対して同軸になるように本固定する工程については後述する。
【0027】
図4(b)に示す様に、第2の接続金属部材30は、2本のレッグ31,32と、2本のアーム33,34を備えている。2本のレッグ31,32は、その基部がシールデッドループアンテナ10の直線部10Sの外側金属11の外周部に対向する状態で取り付けられ、内側金属12に平行に延伸されている。2本のレッグ31,32の先端部には、レッグ31,32に直交して内側金属12に向かうアーム33,34の一端が接続されている。2本のアーム33,34の他端は、内側金属12の端部に接続されて内側金属12が外側金属11と同軸になるように内側金属12を仮保持している。
【0028】
2本のレッグ32,32の外側金属11との取付部の近傍には肉薄部35が設けられていて、この部分の2本のレッグ31,32の肉厚が薄くなっている。同様に、2本のアーム33,34の内側金属12との接続部の近傍にも肉薄部35が設けられており、この部分の2本のアーム33,34の肉厚が薄くなっている。このため、内側金属12を後述する方法によって外側金属11に保持させた後は、第2の接続金属部材30をこの肉薄部35の位置で切断すれば、第2の接続金属部材30を容易に除去することができる。
【0029】
図5(a)は不連続部14を拡大した斜視図であり、
図5(b)は
図5(a)に示す不連続部14を矢印C方向から見た図である。
【0030】
図5(a)及び
図5(b)に示す様に、不連続部14は外側金属11だけが所定長さだけ切り欠かれて不連続になっており、内側金属12は連続している。不連続部14に設けられた第1の接続金属部材20は、内側金属12に平行に不連続部14を接続する2本の長尺ロッド21,22と、長尺ロッド21,22の中央部をそれぞれ内側金属12に接続する短尺ロッド23,24を備える。
【0031】
2本の長尺ロッド21,22は、内側金属12を挟んで対向する位置で不連続部14を接続しており、2本の長尺ロッド21,22の外側金属11に近い部分には肉薄部25が設けられており、この部分の2本の長尺ロッド21,22の肉厚が薄くなっている。長尺ロッド21,22の中央部をそれぞれ内側金属12に接続する短尺ロッド23,24の内側金属12に接続する部分は、細径部26になっている。このため、内側金属12を後述する方法によって外側金属11に保持させた後は、第1の接続金属部材20をこれらの肉薄部25の位置と、細径部26の位置で切断すれば、第1の接続金属部材20を容易に除去することができる。
【0032】
図6は、内側金属12を外側金属11に本固定するための工程を説明するための図である。
【0033】
3Dプリンタを用いて製造した外側金属11と内側金属12の間から、第1の接続金属部材20と第2の接続金属部材30を除去するためには、内側金属12を外側金属11に本固定する必要がある。そこで、
図4(a)に示した外側金属11のループ状部10Lに設けた複数の貫通孔16に絶縁部材40を挿入して内側金属12を外側金属11に固定する。
【0034】
図6(a)は
図4(a)に示したシールデッドループアンテナ10のB部の断面図である。絶縁部材40は、樹脂製の柱状部材であり、先端部がドーム状をしている。一方、絶縁部材40を挿入する貫通孔16に対向する内側金属12の外周面には、内側金属(同軸金属体)12の高周波特性を調整するための凹部17が形成されている。凹部17は、絶縁部材40の先端部のドーム形状に合せた球面状に形成されている。貫通孔16は、外側金属11の同じ位置の円周上に3つ設けられており、3つの絶縁部材40は全て同じ形状をしている。
【0035】
図6(b)は、
図6(a)に示した樹脂製の柱状部材が外側金属に設けられた貫通孔を挿通して内側金属を支持した状態を示す断面図である。3つの貫通孔16にそれぞれ絶縁部材40を差し込んでドーム状の先端部を凹部17に挿入し、絶縁部材40の後端部を貫通孔16に固定すると
図6(b)に示す状態となる。このように3本の絶縁部材40を固定することにより、内側金属12が外側金属11の内部に同軸状態で固定される。
【0036】
図6(c)は、外側金属11に設けられた貫通孔16を挿通させる樹脂製の絶縁部材40の変形例を示すものである。変形例の絶縁部材40´も樹脂製の柱状部材であり、先端部がドーム状をしているが、柱状部の側面にテーパ状の斜面41と段差面42を備えるストッパ43を備えている。
【0037】
図6(d)は
図6(c)に示した変形例の絶縁部材40´により内側金属が外側金属に支持された状態を示す断面図である。ストッパ43を備える絶縁部材40´は、
図6(d)に示すように、貫通孔16に差し込み、ストッパ43の斜面41を貫通孔16を通過させて段差面42を外側金属11の内周面に保持させれば、内側金属12が外側金属11の内部に同軸状態で固定される。
【0038】
図6(b)又は
図6(d)に示すように、内側金属12を外側金属11に本固定するための工程を終了した後に、
図5を利用して説明したように、不連続部14において第1の接続金属部材20を切り離し、端部において第2の接続金属部材30を切り離して、シールデッドループアンテナ10の製造工程を終了する。
【0039】
なお、シールデッドループアンテナ10において、外側金属11の形状は、
図4(a)に示す形状に限定されるものではなく、他の形状とすることもできる(例えば、
図13参照)。シールデッドループアンテナ10において、内側金属12を外側金属11に本固定する貫通孔16の配置箇所は、
図4(a)に示すように、4か所に限定されるものではなく、3か所以下であっても、5か所以上であっても良い。シールデッドループアンテナ10において、不連続部14の配置箇所は、
図4(a)に示すように、1か所に限定されるものではなく、2か所以上であっても良い。
図6では、3本の絶縁部材を挿入して内側金属12を外側金属11に本固定したが、2本以下又は4本以上の絶縁部材を挿入して内側金属12を外側金属11に本固定しても良い。
【0040】
図7は、内側金属12を外側金属11に本固定するための他の工程を説明するための図である。
【0041】
図4及び
図6に示したシールデッドループアンテナ10では、外側金属11に設けられた貫通孔16から絶縁部材40を挿入して内側金属12を外側金属11に本固定した。これに対して、外側金属11に設けられた貫通孔16から溶融状態の樹脂(以後単に「溶融樹脂」と記す)を注入し且つ硬化させることによって、内側金属12を外側金属11に本固定するようにしても良い。
【0042】
図7(a)は、
図4(a)に示したシールデッドループアンテナの外側金属に設けられた貫通孔から溶融樹脂を注入する工程を示す説明図である。
図7(a)に示すように、外側金属11のループ状部10Lに設けた複数の貫通孔16にノズル44を差し込み、溶融樹脂供給源45から溶融樹脂を外側金属11と内側金属12の間のスペース13に注入して充填する。
【0043】
図7(b)は(a)に示したシールデッドループアンテナの外側金属に設けられた貫通孔に対向する部分に位置する内側金属が環状溝によって縮径されている状態を示す一部切欠き部分斜視図である。
図7(b)に示すように、外側金属11に設けられた貫通孔16に対向する内側金属12の対向部の外周面には、内側金属(同軸金属体)12の高周波特性を調整するための凹部17が形成されている。内側金属12の外周面に設けられた凹部17の断面形状は、湾曲面である。
図4に示したシールデッドループアンテナ10において、
図7(a)に示す他の工程を採用する場合には、
図7(b)に示すように内側金属12の凹部17を形成することが好ましい。
【0044】
図7(c)は(b)に示した貫通孔から樹脂が外側金属の内部に充填される工程を示す部分断面図である。貫通孔16から溶融樹脂を注入すると、溶融樹脂は
図7(c)に示すように外側金属11と内側金属12の間のスペース13に充填される。
図7(c)には、1つの貫通孔16から注入された溶融樹脂が外側金属11と内側金属12の間のスペース13に次第に充填されてゆく様子が示されている。
【0045】
溶融樹脂は、内側金属12の周囲に回り込むまで十分な量を注入し、内側金属12が外側金属11の内部に配置されるようにする。波紋状の曲線は、1つの貫通孔16から注入された溶融樹脂が、スペース13内に徐々に広がってゆく様子を時間の経過と共に示すものである。スペース13に充填された溶融樹脂が冷えて固まると、内側金属12が外側金属11の内部に同軸状態で固定される。
【0046】
外側金属11に設けた貫通孔16から溶融樹脂を外側金属11と内側金属12の間のスペース13に充填し、樹脂が冷えて固まれば内側金属12が外側金属11の内部に同軸状態で固定される。従って、溶融樹脂を用いて内側金属12を外側金属11に本固定する場合、
図4(a)に示したように貫通孔16は必ずしも3つ必要ではない。
【0047】
図8は、外側金属11の所定箇所に設ける貫通孔16の配置数を変更した場合を説明するための図である。
【0048】
図8(a)は外側金属11の所定箇所に設ける貫通孔16の設置数が1である実施例を示すものである。
図8(b)は外側金属11の所定箇所に設ける貫通孔16の設置数が2である実施例を示すものである。
図8(c)は外側金属11の所定箇所に設ける貫通孔16の設置数が4である実施例を示すものである。
図8(a)〜
図8(c)に示すように、シールデッドループアンテナの外側金属に設けられた貫通孔の個数は、
図4(a)に示すように、3個に限定されない。
図8(a)〜
図8(c)の何れの場合においても、貫通孔16に対向する内側金属12の外周面には、高周波特性を調整するための、湾曲面を備えた凹部17が形成されている。なお、
図6に示すように、絶縁部材40を用いて、内側金属12を外側金属11に本固定する場合も、同様である。
【0049】
図9は、内側金属12を外側金属11に本固定するための更に他の工程を説明するための図である。
【0050】
図7(a)に示す内側金属12を外側金属11に本固定するための他の方式では、溶融樹脂を3つの貫通孔16から注入し、
図7(b)に示す湾曲面を備えた凹部17を内側金属12に設けた。これに対して、
図9に示す更に他の工程では、4か所の貫通孔16から溶融樹脂を注入し、内側金属12及び外側金属11の内側の形状をさらに変形させている。
【0051】
図9(a)は外側金属の所定箇所に設ける貫通孔が対向位置にあり、外側金属の内周面に段階的な拡径部、対応する内側金属の外周面に段階的な縮径部が設けられ、貫通孔を通じて外側金属と内側金属の間に樹脂が充填された状態を示す部分断面図である。
図9(a)に示すように、内側金属12の外周面に設けられた凹部17に加えて、外側金属11の内周面にも凹部18が設けられている。貫通孔16の対向部の内側金属12の外周面に設けられる凹部17は、内側金属12を縮径して設けられ、縮径の程度は、貫通孔16と対向した部位が最も大きく、貫通孔16の対向部からの距離が大きいほど縮径の程度が小さい。内側金属12の縮径は、
図9(a)に示すような段階的なものに限定されるものではなく、連続的に行うこともできる。
【0052】
図9(a)に示すように、貫通孔16の周辺部の外側金属11の内周面が拡径されて凹部18が設けられている。凹部18の拡径の程度は、貫通孔16と周辺部が最も大きく、貫通孔16からの距離が大きいほど拡径の程度が小さい。外側金属11の縮径は、
図9(a)に示すような凹部17の縮径に合わせた段階的なものに限定されるものではなく、連続的に行うこともできる。
図4に示したシールデッドループアンテナ10において、
図9に示す更に他の工程を採用する場合には、
図9(a)に示すように内側金属12の凹部17及び外側金属11の凹部18を形成することが好ましい。
【0053】
図9(b)には、外側金属11の所定箇所に設けられた4か所の貫通孔16から溶融樹脂が注入され、溶融樹脂が外側金属11と内側金属12の間のスペース13に次第に充填されてゆく様子が示されている。
図9(b)に示す波紋状の曲線は、4つの貫通孔16から溶融樹脂が同時に注入された場合に、樹脂がスペース13内に徐々に広がってゆく様子を時間の経過と共に示すものである。スペース13に充填された溶融樹脂が冷えて固まると、内側金属12が外側金属11の内部に同軸状態で固定される。
【0054】
以下に、内側金属12の外周面に形成する凹部17及び外側金属11の内周面に形成する凹部18の効用について説明する。凹部17及び凹部18は、スペース13に充填する樹脂の誘電率と空間占有率から計算される特性インピーダンスを、外側金属11と内側金属12を備える同軸構造の設計値と一致させることによって、高周波特性の悪化を抑えるための構成である。
【0055】
まず、
図6(a)に示した凹部17について説明する。内側金属12の直径をa、外側金属11の内径をb、外側金属11の内径bを内側金属12の直径aで割った値(b/a)をkとする。絶縁部材40の直径をv、本数をn、比誘電率をεsとする。
図6(a)に示した内側金属12に凹部17がない場合の等価比誘電率εrは以下の式1で求めることができる。
εr=(s0+ss(εs−1))÷s0・・・(1)
ここで、s0はスペース13の断面積(=π(b
2+a
2))、ssは絶縁部材40の断面積(=v(b−a)n)である。
すると、比率k=b/aを以下の式2で計算することができる。
k=10
[(50×√εr)/138]・・・(2)
【0056】
等価誘電率εrの条件では、式2からk2=b/aの比率を計算する。
このk2から凹部17の深さδは以下の式3で決まる。
δ=[a
2×(1−[k
2/k2
2])×π]/3v・・・(3)
ここで、kは式2で求められる同軸構造のb/aの比率、k2は絶縁部材40の影響を考慮した時のb/a2比率、a2は絶縁部材40の影響を考慮した等価中心導体半径である。
【0057】
計算例を挙げると、例えば、a=1、εr=1とした時に、式2を用いてk=2.3が決まる。
次に、絶縁部材40の比誘電率εsを2.0とし、絶縁部材40の直径をv=0.5mmとし、
図6(a)に示したように絶縁部材40の本数を3とすると、
式1からεr=1.44、式3からδ=0.23mmと計算される。
ここで、k=2.3、k2=2.44は、式2を用いて計算される。
【0058】
図10は、凹部17の有無による高周波特性(特性インピーダンス)の改善具合を示す、TDRのシミュレーションによるグラフである。
【0059】
図10(a)は、外側金属に設けられた貫通孔に対向する内側金属の外周面に環状の凹部が無い場合の高周波特性を示すグラフである。
図10(b)は、外側金属に設けられた貫通孔に対向する内側金属の外周面に環状の凹部がある場合の高周波特性を示すグラフである(
図6(b)に示す状態)。
図10(a)及び(b)において、縦軸は特性インピーダンスを表し(500mWが50Ωに相当する)、横軸は水平距離(0.1nsが7mmに相当する)を表している。
【0060】
図10(a)では、0.2ns近傍に窪んだ波形が現れているのに対して、
図10(b)では、
図10(a)に見られるような窪んだ波形が現れていない。すなわち、内側金属12に凹部17を設けたことにより、特性インピーダンスが安定していることが分かる。
【0061】
次に、
図9(a)に示した凹部17及び凹部18について説明する。
図9(a)に示すように、凹部17及び凹部18は3段階のステップ構造をしている。すなわち、内側金属12と外側金属11の間に、空気しか存在しないA領域、樹脂と空気が混在するB領域、及び樹脂が充填されているC領域がある。
図9(a)に示す構造では、下記の式4により3つの領域A,B,Cにおける同軸構造の高周波特性を代表する特性インピーダンスZ
0を全て一致させるようにして、高周波特性の劣化を抑えるものである。
Z
0=(138/√εn)log(b/a)・・・(4)
【0062】
具体的な計算例を示すと、3つの領域A,B,Cにおける特性インピーダンスを、全て50Ωに一致させる場合の手順は以下の通りである。
(1)同軸構造の寸法を、内側金属12の直径をa、外側金属11の内径をbとする。
(2)固定用の樹脂の比誘電率をεsとする。
(3)領域Aの寸法は基本の通りとする。
(4)領域Bにおける等価比誘電率εr=εs/2とする。
(5)領域Bの同軸構造の寸法は式2で求められるk=b/aの比率を計算する。
(6)b/aがkとなるように領域Bにおける寸法を決定する。
(7)領域Cにおける等価比誘電率εr=εsとする。
(8)式2を用いて比率kを求める。
(9)b/aがkとなるように領域Cにおける寸法を決定する。
【0063】
なお、3段階のステップ構造における凹部17の段差dの寸法は、下式5を用いて、なるべく小さくすることができる。
d=(−b+ak)/(1+k)・・・(5)
例えば、a=1.5、b=3.4、k=4.2の時、d=0.56となり、新たなa2、b2は以下のようになる。
a2=a−d=0.94
b2=b+d=3.96
【0064】
図11は、凹部17及び凹部18の有無による高周波特性(特性インピーダンス)の改善具合を示す、TDRのシミュレーションによるグラフである。
【0065】
図11(a)は、外側金属11に設けられた貫通孔16に対向する内側金属12の外周面に環状の凹部17が無く且つ外側金属11の内周面に環状の凹部18が無い場合の高周波特性を示すグラフである。
図11(b)は、外側金属11に設けられた貫通孔16に対向する内側金属12の外周面に環状の凹部17が設けられ且つ外側金属11の内周面の環状の凹部18が設けられた場合の高周波特性を示すグラフである。
図11(a)及び(b)において、縦軸は特性インピーダンスを表し(500mWが50Ωに相当する)、横軸は水平距離(0.1nsが7mmに相当する)を表している。
【0066】
図11(a)では、0.1〜0.3ns近傍に、複数段階で窪んだ波形が現れているのに対して、
図11(b)では、
図11(a)に見られるような窪んだ波形が現れていない。すなわち、内側金属12に凹部17を設け且つ外側金属11に凹部18を設けたことにより、特性インピーダンスが安定していることが分かる。
【0067】
図12は、内側金属12及び/又は外側金属11に形成される凹部の他の例を示す図である。
【0068】
図12(a)は、外側金属11に設けた貫通孔16の周囲だけに凹部18を設けた例である。
図12(b)は、外側金属11に設けた貫通孔16の周囲だけに凹部18を設けた別の実施例である。
図12(c)は、外側金属11に設けた貫通孔16の周囲は平坦であり、内側金属12の貫通孔16に対向する部分だけにステップ形状の凹部17を設けた例である。
図4(a)に示すシールデッドループアンテナ10において、
図12(a)〜
図12(c)に示すような内側金属12及び/又は外側金属11に形成される凹部の形状を採用することができる。なお、凹部17,18の形状はこれらの形状に限定されるものではない。
【0069】
図13は、他の形状の3Dシールデッドループアンテナ50を示す図である。
図13(a)は3Dシールデッドループアンテナ50の平面図、
図13(b)は
図13(a)に示し3Dシールデッドループアンテナ50の側面図である。
【0070】
図13に示す3Dシールデッドループアンテナ50は、3次元方向の磁界を測定するためのアンテナであって、前述したシールデッドループアンテナ10と同様の同軸金属体の製造方法によって製造することができる。具体的には、金属積層3Dプリント技術を使用した3Dプリンタによって、不連続部に設けられた第1の接続金属接続部材及び端部に設けられた第2の接続金属接続部材によって外側金属11に対して内側金属12が仮保持された3Dシールデッドループアンテナ50の外形骨格を形成し。その後、不図示の貫通孔から絶縁部材を挿入等して内側金属12を外側金属に対して本固定し、第1の接続金属接続部材及び第2の接続金属接続部材を切り離すことにより、3Dシールデッドループアンテナ50の製造を終了する。
【0071】
3Dシールデッドループアンテナ50は、3つのシールデッドループアンテナ51,52,53が合体して形成されたものである。3つのシールデッドループアンテナ51,52,53は120度間隔で放射状に合体され、その直線部51S,52S,53Sに対してループ状部51L,52L,53Lが35度程度折り曲げられている。3Dシールデッドループアンテナ50はX方向、Y方向及びZ方向の磁界を1つのアンテナ素子で測定することができる。このように、本出願の同軸金属体の製造方法によれば、各種のシールデッドループアンテナを製造することができる。