(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗生物質抵抗性遺伝子がカナマイシン及びハイグロマイシン遺伝子から選択されるか、又は、前記除草剤抵抗性遺伝子がBASTA抵抗性遺伝子であるか、及び/又は、前記抗生物質抵抗性、代謝抵抗性又は除草剤抵抗性遺伝子がnos若しくは35SCaMVプロモーター又はエタノール誘導性35SCaMVプロモーターの制御下にある、請求項9に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、好適な実施態様及び実施例の観点から本発明を更に説明する。
【0025】
(ニコチアナ・タバカムからのFT同族体の同定及び系統発生的分類)
タバコにおけるFTの潜在的同族体を同定するため、cDNAクローン(DV999455.1)の同定に至るBLASTクエリーとしてシロイヌナズナFT(AtFT)のコード領域を用いて、公共の配列データベース(NCBI)をスクリーニングした。それは、全オープンリーディングフレームを含有し、AtFTでのアラインメントによって示される。このcDNAクローンに基づき、プライマーをデザインし、その後に、タバコ葉cDNA及びゲノムDNAを用いる幾つかのPCRアプローチに用いた。その際に、4つの潜在的FT同族体のオープンリーディングフレーム及びゲノム配列を同定でき、NtFT1−4として指定した;その核酸配列を配列番号1〜4に示す(
図1〜4参照)。ゲノム及びDNA配列のアラインメントは、
図9Aに示されるように、NtFT1−4のエクソン・イントロン構造を明らかにした。この図は、タバコFT同族体NtFT1−4の分類を示す。(A)パートから明らかなように、タバコNtFT1−4のエクソン・イントロン構造はAtFTの構造と似ている。エクソンはボックスとして示され、線がイントロンを表す。点線は、未知の大きさのイントロンを示す。(B)パートは、同定したタバコFT同族体NtFT1−4を含めたKarlgren et al.(2011)によって定義された植物PEBPファミリーの系統樹を表現する。略称の意味は次の通りである:ATC:A.thaliana Centroradialis;BFT:FT及びTFL1のA.thaliana Brother;FT:A.thaliana Flowering Locus T;MFT:FT及びTFL1のA.thaliana Mother;Nt CET1,2,4:タバコからのN.tabacum Centroradialis様遺伝子;Nt FT1−4:N.tabacum Flowering Locus T;TFL1:A.thaliana Terminal Flower 1;TSF:A.thaliana Twin Sister of Flowering Locus T。
【0026】
これらの配列から明らかなように、全ての潜在的NtFTは、それら自身の中で、また、3つのイントロンで遮断された4つのエクソンを持つ他の種からのFT遺伝子に対して(見本となるようにAtFTと比較すると)、類似のゲノム構造を有する。エクソンの長さは高度に保存されているが、イントロンの長さはNtFTの中で異なる。
【0027】
推定タバコFTの配列解析は、全タンパク質が特徴的なPEBPドメインを保有するため、それらがPEBP遺伝子ファミリーに属することを明らかにした。タバコからの同定FT同族体の系統発生関係を解明するため、4つの推定タバコFTのアラインメントから最尤系統樹を作り、3つのPEBPファミリークレードに対するタバコFT同族体のアラインメントを容易にした(
図9B及び例1参照)。シロイヌナズナタンパク質AtFT、AtTFL1及びAtMFTは、予期したように、3つの主要クレードを標的にする一方で、タバコFT同族体は、FT様クレードにはっきりと密集しており、それらの開花における促進機能を示す。
【0028】
NtFT1−4の系統発生分類を確認するため、これら推定タバコFTのアミノ酸配列アラインメントを開花促進シロイヌナズナFT並びに開花抑制シロイヌナズナTFL1及びそのタバコ同族体CET1、CET2及びCET4と共に作成した(
図10)。潜在的タバコFTは、相対的に高い全体配列同一性を示し、互いには約70%(NtFT3とNtFT4)から約89%(NtFT1とNtFT3)であり、AtFTとは約62%(NtFT2)から約73%(NtFT4)である。対照的に、それらは、タバコCET(約52%)及びシロイヌナズナTFL1(約52%)に対して低い配列同一性を示す。EMBOSSニードル(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)で得られた全配列同一性の詳細なリストを以下の表1に与える。系統樹及び配列類似性を考慮すると、推定タバコFT、即ちNtFT1−4はTFL1クレードよりもFTクレードに属することが明らかになる。
【0030】
(開花におけるタバコFT遺伝子の拮抗作用の検出)
開花時期の調節におけるNtFT1−4の機能を評価するため、タバコにおける強力な構成的カリフラワー・モザイク・ウイルス35Sプロモーター(35S:NtFT)の制御下で、対応する遺伝子を異所的に過剰発現させた。アグロバクテリウムが形質転換を媒介した後、各構築物について最大7つの独立した遺伝子組み換え系統を再生させた。
【0031】
タバコ組織培養において、本発明者は、35S:NtFT4構築物が開花を強く加速し、過剰発現が植物発育の非常に早い段階において花及び花様構造物をもたらすことが分かった。これは、
図11A及び11Bから導き出すことができる:写真(A)及び(B)は、植物の苗条を示し、ここで、NtFT4のコード領域は、カリフラワー・モザイク・ウイルス(35S)の構成的プロモーターの下流でクローン化され、アグロバクテリウム媒介形質転換によってタバコ中に導入された。花様構造物を持つ苗条だけが再生でき、苗条は発育を停止し、根を形成せず、それにより成熟植物の再生を終わらせた。それ故に、それらは成熟植物に再生できなかった。表現型は、この実験では対照としての役割を果たすシロイヌナズナFTの過剰発現によって生じるもの(35S:AtFT)とほぼ同一であった(
図11C及び11D)。
【0032】
対照的に、構築物35S:NtFT1、35S:NtFT2及び35S:NtFT3の形質転換体は、組織培養においてほぼ正常の苗条を発生させた。これらすべての構築物の小植物は、異なる発現レベルであるが、(各系統の2つのクローンを同一発現レベルで得るために)挿し木により繁殖され、小植物が根を発生するまで組織培養において培養された。その後、各系統の遺伝子組み換えクローンをファイトトロンに移したが、一方のクローンはLD(長日)条件下で培養され、他方はSD(短日)条件下で培養され、開花時間を測定した。これらの条件下で、共培養された野生型対照植物は、4週(LD)及び5週(SD)後に花をつけ始め、開花がSD下で遅れたことを示した。同じLD/SD培養実験において、NtFT1、NtFT2又はNtFT3−遺伝子組み換え植物は異なって発育し、両方の培養条件下での開花時間及び生長に対して、軽度、中程度及び重度の表現型を示した。これは
図12Aから12Fに示されるように観察できた:NtFT1(A、D)、NtFT2(B、E)又はNtFT3(C、F)を過剰発現させる代表的な遺伝子組み換えタバコ系統を長日(AからC)又は短日(DからF)条件下で生長させた。野生型(WT)植物が開花を始めた時点で、遺伝子組み換え系統は、その生長挙動及び開花時間によって、3つの表現型グループに分類された:軽度表現型の遺伝子組み換え系統は、WT植物よりわずか数日だけ遅れて開花し始め、中程度の表現型系統では、約1週間開花が遅れた。ただ35S:NtFT3構築物では、中程度の表現型が観察できなかった。WTの開花時に、軽度に影響を受けたすべての植物は、WT植物と同程度の表現型を見せ、開花時間はわずかに遅れただけであったが(約3d)、中程度に影響を受けた植物は、1〜1.5週間遅れて最初の花を発生し、わずかに減少した節間長を示した。対照的に、重度に影響を受けた植物は同じ時間枠で少しも花をつけず、節間の著しい短縮が原因で起きた生長の長さの大きな減少が明らかになった。この生長期間中、葉の枚数は、植物が軽度、中程度又は重度表現型であるかどうかにかからわず、WTと同程度であった。葉のRNA全体を用いた包括的定量的(q)RT−PCT実験によれば、表現型とトランス遺伝子発現レベルの間に直接的相関関係があることが示され、最も重度に影響を受けた植物で見られた所定のNtFT遺伝子が最も高い転写レベルであった。これは、
図12G〜12Iから分かる。ここで、生長挙動及び開花時間について重度の表現型は、対応するトランス遺伝子の発現レベルとの間に正の相関が認められることを示す。
図12J〜Lのグラフは、qRT−PCRの結果を示し、ここで、WT発現レベルを1として、3つの表現型クラスのそれぞれを表す全系統の平均値を示す。棒は平均の標準偏差を表す;n=1の場合、棒は、対応するqRT−PCRの三重反復試験の標準偏差を表す。図(J)から(L)は、長日(LD)及び短日(SD)条件下でのWTとNtFT1(J)、NtFT2(K)又はNtFT3(L)を過剰発現する遺伝子組み換え植物の開花までの週数(ファイトトロンへの移行後)を示す。符号「>」は、示された週数以後も植物が依然として開花していないことを示す。
【0033】
次に、重度に影響を受けた植物における花の発生が本当に抑制されたのか又はまだ遅れているのかを決定しようと試みた。それ故に、重度に影響を受けたすべての35S:NtFT1−3植物をLD条件下で温室において更に栽培した。
図13は、NtFT1−3を過剰発現する重度表現型の遺伝子組み換えタバコ系統の生長挙動を示す。写真(A)から(J)は、模範となるように選ばれたNtFT1、NtFT2又はNtFT3を過剰発現する系統を長日条件下で生長させたものの時系列を示す。ファイトトロンに移してから8、11.5及び29週後(wat)に写真を撮った。I及びJの野生型(WT)植物は8週である。重度表現型系統の薹立ち時点は過剰発現レベルと相関する(表3)。なぜなら、8.5watにて既に薹立ちしている植物(35S:NtFT1
L1及び35S:NtFT2
L1)は、重度表現型植物の中で最も低い発現レベルを見せるからである。8.5watで圧縮した表現型の植物はおよそ11.5watで薹が立ち始めたが、それらはまさに栄養生長を続けており、LD条件下で花をつけ始めようとする試みが全くない。左側の棒は50cmを示し、右側の棒は1mを示す。
図13(K)は、開花WT植物と重度の過剰発現タバコ系統の間で28watでの葉数、高さ、茎直径及び葉サイズの比較を示す。明らかに、重度の過剰発現系統においては全パラメータが著しく増大している。
図13(L)は、28週の35S:NtFT2
L2、35S:NtFT3
L1と8週の開花WT植物の間における尖端(トップ)、中間(ミドル)及び基底(ボトム)の葉の比較を示す。棒=10cmである。
【0034】
35S:NtFT1遺伝子組み換え系統のすべてと、35S:NtFT2遺伝子組み換え系統の1つは、6〜8週後に薹が立ち始め、その結果、11週後に高さ約2mで花を発生させたが(
図13A及びB、E及びFには一個体の系統が模範となるように示される)、残りの35S:NtFT2遺伝子組み換え系統と、すべての35S:NtFT3遺伝子組み換え系統は、花のない圧縮された表現型を取り続けた(
図13C及び13D、13G及び13H)。定量的qRT−PCR実験によれば、圧縮表現型を保つ植物においてはNtFT転写レベルが概して高いことが示された(表3)。花のない圧縮された35S:NtFT2遺伝子組み換え系統とすべての35S:NtFT3遺伝子組み換え系統は、生殖相へ移行せずに9ヶ月以上に亘って生長を続けた(
図13I及びJ)。それは観察の最長期間であった。上記遺伝子組み換え系統は最大5mの大きさに達し、それによりバイオマスの大幅な増加を示した:実験の終わりで、それらは、約120枚の葉を保有し、成熟葉の長さの最大サイズが65cmであり、8週のWT植物と比較してサイズが約1.5倍増加した(
図13K及びL)。茎についても約3.5倍というバイオマスの同じような増加が認められる(
図13K)。注目すべきことには、重度に過剰発現する植物のSD条件下での培養は、6月後に終了せざるを得なかったことである。その時、植物は、高さが2mあり、ファイトトロンの天井に達していたからである。その時まで、植物は、LD条件下で育てられたそれらの対応物と同じように発達した。このことは、
図14から導くことができる。
図14は、NtFT1−3を過剰発現する重度発現型の遺伝子組み換えタバコ系統のSD条件下での生長挙動を示す。写真(A)から(J)は、模範となるように選ばれたNtFT1、NtFT2又はNtFT3を過剰発現する系統をSD条件下で生長させたものの時系列を示す。写真は、各画像について以下に示されるように撮影された(wat:ファイトトロンに移してからの週数)。I及びJの野生型植物は8週である。重度表現型系統の薹立ち時点は過剰発現レベルと相関する(表3)。なぜなら、4〜6watにて既に薹立ちしている植物(35S:NtFT1
L1及び35S:NtFT2
L1)は、重度表現型植物の中で最も低い発現レベルを見せるからである。4〜6watで圧縮表現型の植物はおよそ14〜16watで薹が立ち始めたが、それらはまさに栄養生長を続けており、SD条件下で花をつけ始めようとする試みが全くない。ファイトトロン内の高さ制限のため、ファイトトロンの上端レベルにまで植物が達したという理由で、SD条件下での培養を停止せざるを得なかった。
【0035】
(葉における全NtFTの基底発現パターンの検出)
開花抑制NtFT1−3及び開花促進NtFT4の空間的及び時間的発現プロファイルを解析した。このため、LD及びSD条件下で培養された4週のタバコ植物の葉、尖部、茎及び根の組織から全RNAを抽出し、qRT−PCRを受けた。
図15には、個別のNtFTの発現レベルが、参照遺伝子としたNtEF1αとの関連で示される。NtFT1、NtFT2及びNtFT4は、両方の光条件下で、葉組織においてのみ発現したが、すべての遺伝子の転写レベルは低く、LD条件下での検出限界に近いものであった。このことは、
図15A及びBから分かる。
図15A及びBにおいて、NtFT1、2及び4は、LD下での発現レベルが検出限界に近いものの、SD(A)条件下とLD(B)条件下で葉においてのみ発現されることが示される。値は、参照遺伝子EF1aの転写レベルに正規化された。NtFT3ではcDNAが得られるが、発現レベルが低すぎ、そのqRT−PCRによる時空的発現を確実に解析できなかった。
【0036】
抑制NtFT遺伝子の発現部位に関する追加の洞察を得るため、NtFT3の1−kbプロモーターフラグメント(P
NtFT3)の制御下で、ER標識付きバージョンの緑色蛍光タンパク質(GFP
ER)を模範となるように発現させることによって、空間的発現を研究した。独立した5つの遺伝子組み換えタバコ系統を、アグロバクテリウムで媒介した植物の形質転換によって得、P
NtFT3:GFP
ERと指定した。GFP発現細胞を正確に同定するため、師部によるGFPの拡散が防げるようにER標識付きバージョンのGFPを選んだ。
図15(C)及び(D)は、共焦点レーザー走査顕微鏡法CLSMによるNtFT3発現の局在を示す。1kbのNtFT3プロモーターをレポーター遺伝子GFP−ERの上流でクローン化し、アグロバクテリウム媒介形質転換によってタバコ植物に安定に転換させた。CLSMによれば、
図15(C)の葉柄の断面図によって示されるように、GFP発現が葉の維管束に限定されていることを示した。最も強い信号を根出葉の葉脈で観察できたが、それにもかかわらず、発現ひいては蛍光が弱く、検出に要する高レーザー強度による木質部の強い自己蛍光によって示された。それ故に、NtFT3の発現は、維管束に、より正確には伴細胞に局在できる(D、葉柄の縦断面図)。木質部の自己蛍光(X)は、NtFT3の低い発現レベルを反映する。(C)の矢印は、維管束を示す。(D)の矢じりは、アニリンブルーで染色した篩板を指し示す。CC:伴細胞;SE:篩要素;棒=50μmである。葉柄の縦断面図から明らかなように、P
NtFT3は、師部伴細胞(CC)で活性がある細胞レベルで示され、典型的には篩要素(SE)に隣接して局在しており、その篩板をカロース染色染料アニリンブルーで染色した(
図15D)。それ故に、P
NtFT3活性は、NtFT1、NtFT2及びNtFT4の葉特異的発現を映し、それによって、活性化機能と抑制機能を持つ両FTの共通する空間的発現パターンが示される。
【0037】
次に、様々な発達段階での発現レベルを比較することによって、NtFTの時間的発現パターンをより詳細に解析した。このため、タバコの実生と、LD及びSD条件下で培養されたタバコ植物から開花まで毎週収集された根出葉の全RNAを用いて、qRT−PCRによるNtFT1−4の発現が推定された。
図15(E)〜15(G)から分かるように、NtFT1(E)、NtFT2(F)及びNtFT4(G)の発現レベルは、SD条件下での発達の間徐々に増加し、実生において最も低い発現レベルを示し(時点1)、開花植物の葉において最も高い発現レベルを示す(時点6)。実生(時点1)と、最初の花が開くまで毎週収集された根出葉(時点2〜6)において、転写レベルを決定した。値は、参照遺伝子EF1aの転写レベルに正規化された。
【0038】
空間的発現パターンの解析により既に言及されたように、NtFT3のSD及びLD下での発現レベル並びに残りのNtFTのLD下での発現レベルは、検出限界に近いものであった。NtFT1、NtFT2及びNtFT4では、SD条件下で同じような発現パターンが観察された:すべての遺伝子は、かなり低い発現を実生で見せたが、発達段階中での連続増加が明らかになり、すべてのNtFTの発現レベルは、開花時点で最大に達した。この事実はNtFT3についても認められるように見える。NtFT4は、一般にNtFT1及びNtFT2より低い発現レベルを示すように見えるが、NtFT4発現の増加(4400倍)は、開花の時点で、NtFT1発現の増加(164倍)とNtFT2発現の増加(936倍)を大きく超えるものであった。
図15(H)は、発現レベルの増加を視覚化する。各遺伝子の時点2〜6の値を時点1(各遺伝子で1と設定した)に当てはめた。一見したところ、NtFT4(花成活性化因子をコードする)の発現レベルは、NtFT1又はNtFT4(花成抑制因子をコードする)の発現レベルよりもずっと高い倍率まで増加する。シロイヌナズナ又はイネのような幾つかの種では既に説明したように、FT発現が、光周期に依存して調節される。タバコFTの発現がLD条件下ではほとんど検出できなかったがSD条件下では徐々に増加したという事実によって、タバコのFT発現も光周期に依存しており、SD条件下での開花はFT依存的に調節されると結論を出すことができる。しかしながら、LD条件下での花成誘導の分子基盤は依然として分かりにくい。欠損した配列データのため、LD条件下での花成誘導がFT非依存的に起こるのか又は更なるFTオルソログが関わっているのか最終的に明らかにすることは未だできていない。
【0039】
(他の植物種に関するNtFT1−3の開花抑制機能の移動可能性)
NtFTの開花抑制機能が原則として他の種に対しても適用できるかどうか解明するため、模範となるように、35S:NtFT2が、モデル植物シロイヌナズナ、アブラナ科のメンバー、及び花成抑制機能を持つFTを保有しない植物において過剰発現された。35S:NtFT2遺伝子組み換えシロイヌナズナ植物が、アグロバクテリウム媒介形質転換によって得られ、表現型が解析された。異なる形質転換体の開花時間の分析により、タバコの35S:NtFT1−3の過剰発現から得られるものと似た結果であることが明らかになった。35S:NtFT2の発現レベルが高い植物は、誘導的LD条件下で開花の遅い表現型を示す。これは、
図16Aから16Cに示される。WTシロイヌナズナ植物は、発芽して約8週間後に正常に開花したが(
図16A)、重度表現型を示す形質転換体は、約1〜2週間遅れて開花した(
図16BにはNtFT2
L2が模範となるように示される)。それ故に、シロイヌナズナにおけるNtFT2の過剰発現もまた開花を遅らせる。更に、それは、バイオマスの増加をもたらす(C):誘導的長日条件下で植物を生長させ、野生型対照植物が開花し始めた時点(A及びB)及び一週間後(B)に写真を撮った。タバコほど目覚ましいものではないが、NtFT2を強く過剰発現するシロイヌナズナ植物もまたバイオマスの増加を示すことが認められ、葉の大きさ、葉の枚数及び茎直径の増加を特徴とする(
図16B及び16C)。
【0040】
更に、ジャガイモ種ソラナム・ツベロサムにおいて35S:NtFT11−3を過剰発現させた。その遺伝子組み換えジャガイモ植物は、アグロバクテリウム媒介形質転換によって得られ、表現型が解析された。異なる形質転換体の開花時間の分析により、タバコの35S:NtFT1−3の過剰発現から得られるものと似た結果であることが明らかになった。35S:NtFT1、35S:NtFT2又は35S:NtFT3の発現レベルが高い植物は、LD条件下で開花の遅い表現型を示す(
図17)。WTジャガイモ植物は、温室に移して約8週間後に正常に開花したが(
図17A)、形質転換体は、5ヶ月以上に亘って温室で生長し続けたが、生殖相への移行を経験しなかった(
図17B、35S:NtFT1が模範となるように示される)。それは観察の最長期間であった。遺伝子組み換え系統は、最大で約3mの大きさに達し、それによって、バイオマスの増加が示された。
【0041】
それ故に、抑制NtFTによって媒介された花成抑制は、種にまたがって機能することが明らかになり、本発明は、同様に、タバコ以外の植物、例えばソラナム属(一例としてはジャガイモがある)のような、ナス科ファミリーの他の属の植物、又はアブラナ科ファミリーのような他の植物ファミリーの植物の形質転換に使用できる。
【0042】
最も注目されるNtFT1−3の特徴は、系統発生学的に明らかにFT様クレードに関係するにもかかわらず、3つすべてのタンパク質が開花抑制機能を有することであり、それ故、機能的にTFL1に匹敵する。シロイヌナズナからのTFL1及びFTのX線解析によれば、これらPEBPファミリータンパク質の典型的な構造的特徴が2つ明らかになった:一つは推定リガンド結合ポケットであり、他方では外部ループである(Benfield及びBrady,2000;Hanzawa et al.,2005;Ahn et al.,2006)。これら構造的特徴の主要アミノ酸が、シロイヌナズナにおけるFT機能対TFL1機能にとって重要であると示唆されている(Hanzawa et al.,2005;Ahn et al.,2006)。ここで、Tyr85は、結合ポケットの入り口に位置し、FT機能にとって不可欠であり、一方、His88(TFL1の対応位置)はTFL1機能を媒介する。2番目の重要なアミノ酸は、4番目のエクソンによってコードされる外部ループを構成する14のアミノ酸の一部である(セグメントB)。それは、TFL1オルソログにおいてかなり急速に進化したが、FTオルソログのほぼ不変異体である(Ahn et al.,2006)。TFL1では、Asp144がHis88と共に水素結合を形成し、一方、FTはグルタミンを対応する位置(Gln140)に保有し、Tyr85と相互作用しない。表2は、部分的な配列アラインメントを示し、ここに記載される抑制及び活性化タバコFT双方の重要アミノ酸は、シロイヌナズナからのFT/TFL1、開花促進BvFT2及び開花抑制因子BvFT1、並びに開花抑制因子であるソラナム・リコペルシカムからのSISP5G及びソラナム・ツベロサムからのStSP5Gと比較して示される。上部の星印は、AtFT(Tyr85/Gln140)対AtTFL1(His88/Asp144)機能に不可欠なアミノ酸を示す(Ahn et al.,2006)。セグメントBは、エクソン4の一部であり、TFL1同族体においてかなり急速に進化したがFT同族体のほぼ不変異体である外部ループをコードする。イタリック体の文字は、BvFT1及びBvFT2の拮抗作用に重要なアミノ酸を示す(Pin et al.,2010)。アミノ酸配列に関し、NtFT1−3及びBvFT1は2つの重要なアミノ酸残基(又はそれらの保存された置換)を含有し、対応する位置でそれらはシロイヌナズナのFT機能にとって不可欠である(Tyr85及びGln140)ことが明らかになる。従って、これらのアミノ酸は、サトウダイコンFTについて既に説明された事実であるが、タバコにおけるFT機能の決定に必須ではない(Pin et.2010)。
【0044】
記載されている別の重要な配列三連構造(LYN、セグメントCに位置する)は、FT同族体において保存され、それ故にFT機能にとって潜在的に不可欠であり、NtFT1−3において明らかに変化するが、花成抑制因子BvFT1に存在する(表2)。後者は、セグメントBの3つのアミノ酸残基がその開花誘導オルソログBvFT2と異なり(表2のイタリック体)、これら残基の置換が活性化因子を抑制因子に変え、その逆もまたしかりである(Pin et al.,2010)。既に知られているナス科特異的活性化FT(NtFT4)は、この位置に、開花誘導AtFT及びBvFT2と同一のアミノ酸を保有しており、一方、抑制NtFT1−3、抑制StSP5G及び抑制因子SISP5Gのアミノ酸配列は、抑制BvFT1と大きく異なるが、代わりに3つのアミノ酸IIDの保存された挿入を示す。それ故に、発明者は、FTの抑制対促進機能についての種特異的アミノ酸パターンを想定した。
【0045】
この仮説を検証するため、ドメイン交換試験を行った。抑制機能を持つタバコFTのモチーフNAPDIIDS(NtFT1)は、部位特異的変異誘発によって、活性化機能を持つタバコFTのYAPGW(NtFT4)に置換された(
図18)。それ故に、35S:NtFT1swapをタバコにおいて過剰発現し、アグロバクテリウム媒介形質転換によって遺伝子組み換えタバコ植物を得、表現型を解析した。遺伝子組み換え植物が温室に移して4週間後に開花したため、花成抑制機能はNAPDIIDSモチーフの置換によって除去されたことが明らかになった。
【実施例】
【0046】
(例1:タバコFT同族体のクローニング及びその進化的関係の分析)
タバコの潜在的なFTの同族体を同定するため、シロイヌナズナFT(AtFT;GenBank:AB027504.1)のコード領域をBLASTクエリーとして用いて、公共の配列データベース(NCBI)をスクリーニングした。タバコESTクローン(GenBank:DV999455.1)が同定され、それを用いて、エクソン1(アミノ酸1〜8)及びエクソン4(アミノ酸173〜177)に位置する初期プライマー対を設計した。潜在的タバコFTをcDNAレベルで単離するため、NucleoSpin(登録商標)RNAプラントキット(Macherey−Nagel)を用いてタバコ葉から全RNAを抽出し、製造業者の指示を受けてSuperSriptII(Invitrogen)を用いてcDNAに転換した。cDNA端の急速増幅等のcDNA又はPCR技術でPCRを行い(SMARTer RACE cDNA増幅キット;Clontech)、対応するゲノム配列を同定するためにゲノムウォーキングを行い(GenomeWalker(登録商標)Universalキット;Clontech)、幾つかのPCR産物を得ることができた。当業者に知られる常法を適用して、これらPCR産物を切断、精製、クローン化及び配列決定した。配列解析によって、AtFTとの高い配列類似性を共有する異なる配列を持つ4つの同族体(NtFT1−4)が明らかになった。ゲノム及びcDNA配列のアラインメントは、NtFT1−4のエクソン・イントロン構造を明らかにした。
図9Aにおいて図式的に示す。この図から明らかなように、すべての潜在的NtFTは、それら自身の中で類似のゲノム構造を有し、また、3つのイントロンで遮断された4つのエクソンを持つ他の種からのFT遺伝子に対して(模範となるようにAtFTと比較して)類似のゲノム構造を有する。エクソンの長さは高度に保存されているが、イントロンの長さはNtFTの中で異なる。
【0047】
推定タバコFTタンパク質のInterproscan(http://www.ebi.ac.uk/Tools/pfa/iprscan)を用いた配列解析は、すべてのタンパク質が特徴的なPEBPドメインを保有するため、それらがPEBP遺伝子ファミリーに属することを明らかにした。植物PEBP遺伝子の最近の系統発生解析は、3つの主要クレードの存在を明かした:FT様、TFL1様及びMFT様(Chardon及びDamerval,2005)。PEBP遺伝子ファミリーの全メンバーは、栄養相から生殖相への移行に関与する重要な調節因子をコードしており、FT/MFTクレードの遺伝子が開花を促進し、TFLクレードの遺伝子がそれを抑制する。同定されたタバコからのFT同族体の系統発生関係を解明するため、4つの潜在的タバコFT、シロイヌナズナからの主要制御因子FT、TFL1及びMFT、並びに既に記載されているタバコからのTFL1同族体CET1、CET2及びCET4(Amaya et al.,1999)のアラインメントから、最尤系統樹を作った。加えて、我々は、3つのPEBPファミリークレードへのタバコFT同族体のアラインメントを容易にするため、Kargren及び共同研究者(Karlgren et al.,2011)によって特徴付けられたPEBPタンパク質と、ジャガイモPEBP StSP3D、StSP6A、StSP5G、StSP5G様、StSP9D、StMFT、StCEN1a及びStCEN1bを系統樹に含めた(
図9B)。シロイヌナズナタンパク質AtFT、AtTFL1及びAtMFTは、期待したように、3つの主要クレードを対象とするが(系統樹において赤で示した)、タバコFT同族体(系統樹において緑で示した)は明らかにFT様クレードに集まっており、それらの開花促進機能を示す。
【0048】
NtFT1−4の系統発生的分類を確認するため、これら潜在的タバコFTのアミノ酸配列アラインメントを、開花促進シロイヌナズナFT並びに開花抑制シロイヌナズナTFL1及びタバコ同族体CET1、CET2及びCET4と共に、T−Coffee(EMBL−EBI)を用いて、作った(
図10)。潜在的タバコFTは、お互いに約70%(NtFT3とNtFT4)から約89%(NtFT1とNtFT3)までの比較的高い全配列同一性を示し、AtFTとは約62%(NtFT2)から約73%(NtFT4)である。対照的に、それらは、タバコCET(約52%)及びシロイヌナズナTFL1(約52%)に対して低い配列同一性を示す。EMBOSSニードル(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)で得られたすべての配列同一性の詳細なリストを表1に与える。系統樹及び配列類似性を考慮すると、推定タバコFT、即ちNtFT1−4はTFL1クレードよりむしろFTクレードに属することが明らかになる。
【0049】
(例2:タバコにおける過剰発現研究によるNtFT1−4の分子機能の特徴付け)
開花時期の調節におけるNtFT1−4の機能を評価するため、我々は、次に、強力な構成的カリフラワー・モザイク・ウイルス35Sプロモーター(35S:NtFT)の制御下で、タバコにおいて対応する遺伝子を異所的に過剰発現させることを試みた。それ故に、以下に示すクローニング戦略を行った。
【0050】
nosプロモーターの制御下でハイグロマイシン耐性遺伝子を保有するバイナリーベクターを得るため、NheI及びAflIIでpCambia1300を消化し、ハイグロマイシンのコード領域を、NheI及びAflIIで消化したpBin19(Bevan,1984)に挿入し、バイナリーベクターpBin19Hygを生じさせた。
【0051】
NtFT1−4の過剰発現構築物のクローニングのため、それらのコード領域を、表4に示されるような制限部位を含有するプライマーを用いたベクターpCRII(登録商標)Topo(登録商標)(invitrogen)内でcDNAからのPCRにより増幅させた。PCR産物を対応する制限部位に消化させ、構成的カリフラワー・モザイク・ウイルスプロモーター(35S)の下流でpRT104ベクターにクローニングした(Toepfer et al.,1987)。次いで、35S:NtFT1−4構築物を切断し、HindIIIで消化したバイナリーベクターpCambia1300又はpBin19Hygに挿入し、pCambia1300 35S:NtFT1及びpBin19Hyg 35S:NtFT2−4を生じさせた。正の対照として、シロイヌナズナ葉cDNAからAtFTのコード領域を増幅し、pCRII(登録商標)Topo(登録商標)(Invitrogen)にクローニングし、配列決定した。次いで、以下の表4に示されるような制限部位を含有するプライマーを用いたベクターpCRII(登録商標)Topo(登録商標)(invitrogen)内でcDNAからのPCRにより、AtFTのコード領域を増幅させた。PCR産物を対応する制限部位に消化させ、構成的35Sプロモーターの下流でpRT104ベクターにクローニングした。次いで、35S:AtFT構築物を切断し、HindIIIで消化したバイナリーベクターpCambia1300に挿入した。すべてのバイナリーベクターを配列決定により確認し、その後、電気穿孔法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404に導入した(Hoekema et al.,1983)。形質転換実験では、滅菌条件下(LD;23℃、100μmolm
−2sec
−1)、MS培地で(Murashige及びSkoog,1962)、ニコチアナ・タバカムcv.SR1植物を生長させ、Horsch et al.(1986)に記載されるようにアグロバクテリウム媒介形質転換を行った。
【0052】
組織培養において、35S:NtFT4構築物は開花を強く加速し、過剰発現は、植物の発達の非常に早い段階で花及び花様構造物を生じさせることが分かった(
図11A及びB);苗条は発達を停止し、根を形成せず、それによって成熟植物の再生を消失する。表現型は、この実験の対照であるシロイヌナズナFTの過剰発現によって生じるもの(35S:AtFT)とほとんど同じであった(
図11C及びD)。
【0053】
対照的に、構築物35S:NtFT1、35S:NtFT2及び35S:NtFT3の形質転換体は、組織培養においてほぼ正常の苗条を発達させた。各構築物について独立した遺伝子組み換え系統を再生し(35S:NtFT1では7つ、35S:NtFT2では5つ、35S:NtFT3では3つ)、すべての遺伝子組み換えタバコ植物とWTタバコ植物の同一クローンを滅菌条件下での挿し木により作り、発根後に土壌中に移し、長日(LD;16h/明及び8h/暗)又は短日(SD;8h/明及び16h/暗)条件(明るいとき25℃、暗いとき22℃、220μmolm
−2sec
−1)下、ファイトトロン中で生長させた。開花時間及び生長挙動に関する表現型(軽度、中程度、重度)をWT植物が開花した時に分類した。ファイトトロンの制限された高さのため、LD条件下で培養した植物を温室に移し(明るいとき22〜25℃、暗いとき20〜25℃、自然光の状態が700μmolm
−2sec
−1以下になったら人工照明のスイッチを入れた)、一方、SD条件下での培養は、ファイトトロンの上部レベルに植物が達した時に停止させた。
【0054】
上述したこれらの条件下で、共培養した野生型対照植物は、4週間後(LD)及び5週間後(SD)に花をつけ始め、SD下で開花が遅れたことを示す。同じLD(
図12AからC)/SD(
図12DからF)培養実験では、NtFT1、NtFT2又はNtFT3遺伝子組み換え植物が違った形で発達し、両方の培養条件下での開花時間及び生長に対して軽度、中程度及び重度の表現型を見せた。ただ35S:NtFT3構築物では、中程度の表現型を観察できなかった。WT開花時に、軽度に影響を受けたすべての植物は、WT植物と同程度の表現型を見せ、開花時期はほんのわずかに遅れただけであったが(約3d)、中程度に影響を受けた植物は、最初の花の発生が1〜1.5週間遅れ、わずかに減少した節間長さを示した。対照的に、重度に影響を受けた植物は、同じ時間枠で全く花をつけず、節間の著しい短縮によって引き起こされる生長長さの大きな減少が明らかになった。この生長期間中、植物が軽度、中程度又は重度の表現型を見せるかどうかにかかわらず、葉の数は、WTと同程度であった。NucleoSpin(登録商標)RNAプラントキット(Macherey−Nagel)を用いて抽出された葉の全RNAを用いて、包括的定量的(q)RT−PCR実験を行い、DNAseI(NEB)の使用とその後のフェノール・クロロホルム抽出によりゲノムDNAの除去を行った。製造業者の指示を受けてSuperScriptII(Invitrogen)により全RNA1μgを逆転写し、それぞれの定量的リアルタイムPCR反応(qRT)において1μlのcDNAを用いた。iQ SYBRグリーン・スーパーミックス(Biorad)を用いるCFX96サイクラー(Biorad)において45サイクル実施し、次いで融点曲線を実施した。NtFT1−4の各RTサンプルを三重反復試験でアッセイし、一方、参照遺伝子、NRT対照(逆転写しなかった)及びNTC対照(非鋳型対照)を二重反復試験でアッセイした。2つの潜在的参照遺伝子EF1α及びL25(Schmidt及びDelaney,2010)の転写レベルを各RTサンプルで調べた。これら遺伝子の中で、EF1αが最も安定に発現していることが分かり、それ故に、この遺伝子を用いてNtFT1−4の転写レベルを正規化した。REST−MCSソフトウェア(Pfaffl et al.,2002)を用いて相対的発現レベルを算出した。qRT−PCRに用いたプライマーを表4に示す。
【0055】
qRT−PCRは、表現型とトランス遺伝子発現レベルの間に直接相関関係があることを示し、最も重度に影響を受けた植物においては所定のNtFT遺伝子の転写レベルが最も高いことが分かった(
図12GからI)。
【0056】
次に、我々は、重度に影響を受けた植物における花の発生が本当に抑制されたのか又はまだ遅れているのかを決定しようと試みた。それ故に、重度に影響を受けた全ての35S:NtFT1−3植物をLD条件下で温室にて更に培養した(
図13)。35S:NtFT1遺伝子組み換え系統のすべてと、35S:NtFT2遺伝子組み換え系統の一つは、6〜8週間後に薹が立ち始め、その結果、11週間後には高さ約2メートルにて花を発生させた(
図5A及びB、E及びFには個別の系統が模範となるように示される)。一方、残りの35S:NtFT2遺伝子組み換え系統とすべての35S:NtFT3遺伝子組み換え系統は、花のない圧縮された表現型を取り続けた(
図13C及びD、G及びH)。定量的qRT−PCR実験は、圧縮表現型を保つ植物においてNtFT転写レベルが概して高かったことを示した(表3)。
【0057】
【表3】
【0058】
圧縮された開花のない35S:NtFT2遺伝子組み換え系統とすべての35S:NtFT3遺伝子組み換え系統は、生殖相への移行を通過せず、温室にて少なくとも9ヵ月間(実験終了)生長し続けた(
図5I及びJ)。遺伝子組み換え系統は最大で5mの大きさに達し、それによって、バイオマスの著しい増加を見せた:実験の終わりで、それらは、約120枚の葉を保有し、成熟葉の長さは最大サイズが65cmであり、8週のWT植物と比較して約1.5倍のサイズ増加であった(
図13K及びL)。茎でも、約3.5倍という同様なバイオマスの増加が認められる(
図13K)。
【0059】
【表4】
【0060】
(例3:NtFT1−4の遺伝子発現解析)
次に、我々は、開花抑制NtFT1−3及び開花促進NtFT4の空間的及び時間的発現プロファイルを解析した。それ故に、タバコ種子を土壌に蒔き、ファイトトロン中、LD又はSD条件下で生長させた。空間的発現パターンについては、約4週の3体の植物の葉、尖部、茎及び根をプールし、全RNA抽出に用いた。NtFT1−4の時間的発現レベルを調べるため、実生を収集して時点1を決定し、次いで、3体の植物の根出葉を最初の花が開くまで毎週収集し、LD及びSD条件でそれぞれ合計5回及び6回の回収時期があった。NucleoSpin(登録商標)RNAプラントキット(Macherey−Nagel)を用いて全RNAを抽出し、DNAseI(NEB)の使用とその後のフェノール・クロロホルム抽出によりゲノムDNAの除去を行った。製造業者の指示を受けてSuperScriptII(Invitrogen)により全RNA1μgを逆転写し、1μlのcDNAがqRT−PCRを受けた。iQ SYBRグリーン・スーパーミックス(Biorad)を用いるCFX96サイクラー(Biorad)において45サイクル実施し、次いで融点曲線を実施した。NtFT1−4の各RTサンプルを三重反復試験でアッセイし、一方、参照遺伝子、NRT対照(逆転写しなかった)及びNTC対照(非鋳型対照)を二重反復試験でアッセイした。2つの潜在的参照遺伝子EF1α及びL25(Schmidt及びDelaney,2010)の転写レベルを各RTサンプルで調べた。これら遺伝子の中で、EF1αが最も安定に発現していることが分かり、それ故に、この遺伝子を用いてNtFT1−4の転写レベルを正規化した。REST−MCSソフトウェア(Pfaffl et al.,2002)を用いて相対的発現レベルを算出した。qRT−PCRに用いたプライマーを表4に示す。
【0061】
図15では、個別のNtFTの発現レベルを参照遺伝子であるNtEF1αとの関連で示す。NtFT1、NtFT2及びNtFT4は、両方の光条件下、葉組織のみで発現したが、すべての遺伝子の転写レベルは弱く、LD条件下で検出限界に近かった(
図15A及びB)。NtFT3についてはcDNAを得ることができたが、その発現レベルは低すぎて、そのqRT−PCRによる時空的発現を確実に分析することができなかった。
【0062】
抑制NtFT遺伝子の発現部位に関する追加の洞察を得るため、我々は、NtFT3の1−kbプロモーターフラグメント(P
NtFT3)の制御下で、ER標識付きバージョンの緑色蛍光タンパク質(GFP
ER)を模範となるように発現させることによって、空間的発現をも研究した。この構築物のクローニングのため、表4に示されるような制限部位を含有するプライマーを用いて、1kbのP
NtFT3を増幅させた。PCR産物を対応する制限部位に消化し、GFP
ERレポーター遺伝子の上流でpBsGFP
ERにクローニングした(Noll et al.,2007)。GFP発現細胞を正確に同定するため、師部によるGFPの拡散が防げるようにER標識付きバージョンのGFPを選んだ。配列決定による確認後、P
NtFT3:GFP
ERからなるカセットと、カリフラワー・モザイク・ウイルスのターミネーターとを、SalI制限部位を含有するプライマーを用いて、増幅させた。PCR産物をSalIで消化し、SalIで消化されたバイナリーベクターpBin19Hygに挿入し、配列決定によって検証され、その後、電気穿孔法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404に導入した(Hoekema et al.,1983)。
【0063】
独立した5つの遺伝子組み換えタバコ系統をアグロバクテリウム媒介植物形質転換によって得、P
NtFT3:GFP
ERと指定した。発根後にその遺伝子組み換え植物を土壌中に移し、温室で生長させ、励起/放射波長が488/500〜600nmでLeica TCS SP5X顕微鏡(Leica Microsystems,ドイツ)を用いた共焦点レーザー走査顕微鏡法(CLSM)によって4〜6週の植物を解析した。
【0064】
CLSM解析は、
図15Cの葉柄の断面図によって示されるように、GFP発現が葉の維管束に制限されたことを示した。最も強い信号を根出葉の葉脈において観察することができたが、それにもかからわず、発現ひいては蛍光が弱く、検出に要する高レーザー強度による木質部の強い自己蛍光によって示された。葉柄の縦断面図から明らかなように、P
NtFT3は、師部伴細胞(CC)で活性がある細胞レベルで示され、典型的には篩要素(SE)に隣接して局在しており、その篩板をカロース染色染料アニリンブルーで染色した(
図15D)。それ故に、P
NtFT3活性は、NtFT1、NtFT2及びNtFT4の葉特異的発現を映し、それによって、活性化機能と抑制機能を持つ両FTの共通する空間的発現パターンが示される。
【0065】
次に、我々は、様々な発達段階での発現レベルを比較することによって、NtFTの時間的発現パターンをより詳細に解析しようと試みた。このため、タバコの実生と、LD及びSD条件下で培養されたタバコ植物から開花まで毎週収集された根出葉の全RNAを用いて、qRT−PCRによるNtFT1−4の発現を推定した(
図15EからG)。NtFT4は概してNtFT1及びNtFT2よりも低い発現レベルを見せるように見えたが、NtFT4発現の増加(4400倍)は、開花時点でのNtFT1(164倍)及びNtFT2(936倍)の発現の増加(
図15H)を大きく超えた。
【0066】
(例4:NtFT2はシロイヌナズナにおいても開花を抑制する)
NtFTの開花抑制機能が原則として他の種に対しても適用できるかどうか解明するため、我々は、模範となるように、35S:NtFT2を、モデル植物シロイヌナズナ、アブラナ科のメンバー、及び花成抑制機能を持つFTを保有しない植物において過剰発現させた。シロイヌナズナにおけるNtFT2の過剰発現では、35S:NtFT2構築物を、マンノピンシンターゼプロモーターの制御下で、BASTA耐性遺伝子を保有するHindIIIで消化したバイナリーベクター中に挿入した(Post et al.,2012)。すべてのバイナリーベクターを配列決定により検証し、その後、電気穿孔法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404に導入した(Hoekema et al.,1983)。シロイヌナズナにおける過剰発現の研究では、A.タリアナColの種を土壌に蒔き、LD条件下ファイトトロン中で培養した(明るいとき23℃、夜は17℃、100μmolm
−2sec
−1)。遺伝子組み換えシロイヌナズナ植物をfloral dip法によって産生した(Clough及びBent,1998)。遺伝子組み換えシロイヌナズナ植物の種を土壌に蒔き、正の遺伝子組み換え植物を選択するため、発芽後にBASTAによって噴霧した。
【0067】
異なる形質転換体の開花時間の分析により、タバコの35S:NtFT1−3の過剰発現から得られるものと似た結果であることが明らかになった。35S:NtFT2の発現レベルが高い植物は、誘導的LD条件下で開花の遅い表現型を示す(
図16AからC)。WTシロイヌナズナ植物は、発芽して約8週間後に正常に開花したが(
図16A)、重度表現型を示す形質転換体は、約1〜2週間遅れて開花した(
図16BにはNtFT2
L2が模範となるように示される)。タバコほど目覚ましいものではないが、NtFT2を強く過剰発現するシロイヌナズナもまたバイオマスの増加を示し、葉の大きさ、葉の枚数及び茎直径の増加を特徴とした(
図16B及びC)。