特許第6381528号(P6381528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381528
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】親水性添加物を有する微細孔層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20180820BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180820BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180820BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20180820BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180820BHJP
【FI】
   H01M4/96 B
   H01M4/96 H
   H01M4/96 M
   H01M4/86 B
   H01M4/86 H
   H01M4/88 C
   H01M8/02
   H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-523055(P2015-523055)
(86)(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公表番号】特表2015-527706(P2015-527706A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】US2012047386
(87)【国際公開番号】WO2014014463
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2015年6月17日
【審判番号】不服2017-13746(P2017-13746/J1)
【審判請求日】2017年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ラザック,シッディーク アリ カティーブ
(72)【発明者】
【氏名】ダーリング,ロバート,メイソン
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−179317(JP,A)
【文献】 特表2007−511876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/02, 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、
疎水性添加物と、
親水性添加物と、
を備える微細孔層であって
前記第1のカーボンブラックが、25nmを超える平均粒径および300m2/g未満の平均表面積を有し、
前記親水性添加物が、カーボン1g当たり0.2mmolを超える濃度のカルボキシル基を有する第2のカーボンブラックを含み、前記第2のカーボンブラックの酸性官能基の40%〜80%が、カルボキシル基であり、
前記第2のカーボンブラックが、20nm未満の平均粒径および400m2/gを超える平均表面積を有し、
前記疎水性添加物が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記微細孔層内に存在する前記親水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で1パーセントから重量で25パーセントであり、
前記微細孔層内に存在する前記疎水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で10パーセントから重量で30パーセントであり、
前記微細孔層は、1μm〜50μmの厚みを有し、前記微細孔層は、5μm未満の平均細孔径を有することを特徴とする、燃料電池に使用するための微細孔層。
【請求項2】
電極触媒層と、
前記電極触媒層に近い第1の面および第1の面の反対側にある第2の面を有する多孔質気体拡散層と、
前記電極触媒層と前記気体拡散層の第の面の間に配置された微細孔層と、
を備え、前記微細孔層は、
カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、
疎水性添加物と、
親水性添加物と、
を備え、
前記第1のカーボンブラックが、25nmを超える平均粒径および300m2/g未満の平均表面積を有し、
前記親水性添加物が、カーボン1g当たり0.2mmolを超える濃度のカルボキシル基を有する第2のカーボンブラックを含み、前記第2のカーボンブラックの酸性官能基の40%〜80%が、カルボキシル基であり、
前記第2のカーボンブラックは、20nm未満の平均粒径および400m2/gを超える平均表面積を有し、
前記疎水性添加物が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記微細孔層内に存在する前記親水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で1パーセントから重量で25パーセントであり、
前記微細孔層内に存在する前記疎水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で10パーセントから重量で30パーセントであり、
前記微細孔層は、1μm〜50μmの厚みを有し、前記微細孔層は、5μm未満の平均細孔径を有することを特徴とする、気体拡散電極。
【請求項3】
前記微細孔層は、前記気体拡散層の細孔内に配置されることを特徴とする請求項記載の気体拡散電極。
【請求項4】
第1の膜面および反対側の第2の膜面を有する膜と、
前記第1の膜面に沿って配置されたアノード触媒層と、
前記第2の膜面に沿って配置されたカソード触媒層と、
前記カソード触媒層に近い第1の面および前記第1の面の反対側にある第2の面を有するカソード気体拡散層と、
前記カソード触媒層と前記カソード気体拡散層の第の面の間に配置された微細孔層と、
を備え、前記微細孔層は、
カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、
疎水性添加物と、
親水性添加物と、
を備え、
前記第1のカーボンブラックが、25nmを超える平均粒径および300m2/g未満の平均表面積を有し、
前記親水性添加物が、カーボン1g当たり0.2mmolを超える濃度のカルボキシル基を有する第2のカーボンブラックを含み、前記第2のカーボンブラックの酸性官能基の40%〜80%が、カルボキシル基であり、
前記第2のカーボンブラックが、20nm未満の平均粒径および400m2/gを超える平均表面積を有し、
前記疎水性添加物が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記微細孔層内に存在する前記親水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で1パーセントから重量で25パーセントであり、
前記微細孔層内に存在する前記疎水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で10パーセントから重量で30パーセントであり、
前記微細孔層は、1μm〜50μmの厚みを有し、前記微細孔層は、5μm未満の平均細孔径を有することを特徴とする、燃料電池。
【請求項5】
微細孔層インクを調製し、
前記微細孔層インクを気体拡散基材の第1の面に施し、
前記気体拡散基材を焼結させて微細孔層を備える第1の面を有する気体拡散層を形成し、
前記気体拡散層の第1の面を電極触媒層に熱的に結合する、
ことを含み、前記微細孔層インクは、
懸濁媒質と、
カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、
疎水性添加物と、
親水性添加物と、
を備え、
前記第1のカーボンブラックが、25nmを超える平均粒径および300m2/g未満の平均表面積を有し、
前記親水性添加物が、カーボン1g当たり0.2mmolを超える濃度のカルボキシル基を有する第2のカーボンブラックを含み、前記第2のカーボンブラックの酸性官能基の40%〜80%が、カルボキシル基であり、
前記第2のカーボンブラックが、20nm未満の平均粒径および400m2/gを超える平均表面積を有し、
前記疎水性添加物が、ポリテトラフルオロエチレンを含み、
前記微細孔層内に存在する前記親水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で1パーセントから重量で25パーセントであり、
前記微細孔層内に存在する前記疎水性添加物は、前記第1のカーボンブラックに対して重量で10パーセントから重量で30パーセントであり、
前記微細孔層は、1μm〜50μmの厚みを有し、前記微細孔層は、5μm未満の平均細孔径を有することを特徴とする、膜電極アッセンブリを作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細孔層に関し、より詳細には燃料電池に使用するための微細孔層に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜型燃料電池(proton exchange membrane fuel cell)(PEMFC)は通常、アノード、カソード、およびアノードとカソードの間のプロトン交換膜(PEM)を備える。一例では、水素ガスがアノードに供給され、空気または純酸素がカソードに供給される。しかしながら、他の種類の燃料および酸化剤が使用可能であることは認識されている。アノードでは、アノード触媒が水素分子をプロトン(H+)と電子(e-)に分裂させる。プロトンはPEMを通ってカソードに至り、一方、電子は、外部回路を通ってカソードに至り、その結果電気が生成される。カソードでは、カソード触媒が酸素分子をアノードからのプロトンおよび電子と反応させて水を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
燃料電池を適切に作動させるためには、カソードの近くに存在する水の量を管理する必要がある。一方では、カソードの近くに存在する水が多すぎると、溢水(flooding)が生じ、それによって、カソードへの反応物(空気または酸素)の供給が阻害され、場合によっては燃料電池反応が妨げられる。他方では、燃料電池からの水蒸気の損失が多すぎると、PEMが乾燥してしまい、膜を横断する抵抗が増大することがある。最終的には、膜に亀裂が入ってしまい、1つまたは複数の経路が形成され、そこで水素と酸素が直接化合し、燃料電池に損傷を与えてしまう熱を生成することがある。いくつかの燃料電池は、高温および低温両方で作動できる。作動温度に依存して、水管理要求は、非常に異なることがある。例えば、低い作動温度においては通常、溢水の心配が大きくなり、一方、高い作動温度においては通常、水蒸気の損失の心配が大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
燃料電池に使用するための微細孔層は、カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、疎水性添加物と、親水性添加物と、を備える。
【0005】
気体拡散電極は、電極触媒層と、多孔質気体拡散層と、微細孔層と、を備える。気体拡散層は、電極触媒層に近い第1の面と、第1の面の反対側にある第2の面と、を有する。微細孔層は、電極触媒層と気体拡散層の第2の面の間に配置される。微細孔層は、カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、疎水性添加物と、親水性添加物と、を備える。
【0006】
燃料電池は、第1の膜面および反対側の第2の膜面を有する膜と、第1の膜面に沿って配置されたアノード触媒層と、第2の膜面に沿って配置されたカソード触媒層と、カソード触媒層に近い第1の面および第1の面の反対側にある第2の面を有するカソード気体拡散層と、カソード触媒層とカソード気体拡散層の第2の面の間に配置された微細孔層と、を備える。微細孔層は、カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、疎水性添加物と、親水性添加物と、を備える。
【0007】
膜電極アッセンブリを作製する方法は、微細孔層インクを調製し、微細孔層インクを気体拡散基材の第1の面に施し、気体拡散基材を焼結させて微細孔層を備える第1の面を有する気体拡散層を形成し、基体拡散層の第1の面を電極層に熱的に結合する、ことを含む。微細孔層インクは、懸濁媒質と、カーボン1g当たり0.1mmol未満の濃度のカルボキシル基を有する第1のカーボンブラックと、疎水性添加物と、親水性添加物と、を備える。親水性添加物は、酸化スズ、二酸化チタン、および第1のカーボンブラックより高い濃度のカルボキシル基を有する第2のカーボンブラックから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】燃料電池繰り返し単位の斜視図。
図2図1の燃料電池繰り返し単位の電極、気体拡散層および微細孔層の拡大図。
図3】一体化電極アッセンブリを作製する方法を示す簡略流れ図。
図4】親水性添加物の有無による微細孔層の試験結果を示すグラフ。
図5】親水性添加物の有無による微細孔層の試験結果を示す別のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
燃料電池は1つまたは複数の燃料電池繰り返し単位を用いて化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。本願の明細書で記載される燃料電池繰り返し単位は、水管理を援助するためにカソード電極および/またはアノード電極の近くに微細孔層を備える。微細孔層は、低温および高温両方の作動中の水管理を容易にして低温および高温両方で作動できる燃料電池を提供する、親水性添加物を備える。
【0010】
図1は、一実施例の燃料電池繰り返し単位10の斜視図を示しており、燃料電池繰り返し単位10は、膜電極アッセンブリ(membrane electrode assembly)(MEA)12(アノード触媒層(catalyst layer)(CL)14、膜16およびカソード触媒層(CL)18を有する)、アノード気体拡散層(gas diffusion layer)(GDL)20、カソード気体拡散層(GDL)22、アノード流れ場24、およびカソード流れ場26を備える。燃料電池繰り返し単位10は、アノード流れ場24およびカソード流れ場26に隣接して冷却材流れ場を有することができる。冷却材流れ場は図1には示されていない。
【0011】
アノードGDL20は、アノード流れ場24に面し、カソードGDL22は、カソード流れ場26に面する。アノードCL14は、アノードGDL20と膜16の間に配置され、カソードCL18は、カソードGDL22と膜16の間に配置される。一実施例では、燃料電池繰り返し単位10は、水素燃料(例えば、水素ガス)および酸素酸化剤(例えば、酸素ガスまたは空気)を使用するプロトン交換膜(PEM)型燃料電池とすることができる。燃料電池繰り返し単位10が代替の燃料および/または酸化剤を使用できることは認識されている。
【0012】
作動時にアノードGDL20は、アノード流れ場24を経由して水素ガス(H2)を受け取る。水素ガスは、GDL20を通ってアノードCL14へと移動する。アノードCL14は、白金などの触媒を有しており、水素分子をプロトン(H+)と電子(e-)に分裂させる。プロトンと電子は、カソードCL18に移動するが、プロトンは膜16を通ってカソードCL18に至り、一方、電子は、外部回路28を通り、その結果電力が生成される。空気または純酸素(O2)がカソード流れ場26を通ってカソードGDL22に供給される。酸素は、GDL22を通ってカソードCL18へと移動する。カソードCL18では、酸素分子は、アノードCL14からのプロトンおよび電子と反応して水(H2O)を生成する。最終的に、生成水の一部は、過剰の熱と共に燃料電池10から排出される。
【0013】
膜16は、アノードCL14とカソードCL18の間に配置された半透膜である。膜16は、プロトンおよび水を移動させるが、電子は伝導させない。アノードCL14からのプロトンおよび水は、膜16を通ってカソードCL18に至ることができる。膜16は、イオノマーから形成されることができる。イオノマーは、イオン性を有するポリマーである。一実施例では、膜16は、米国のE.I.DuPont社によるNafion(登録商標)などのペルフルオロスルホン酸(perfluorosulfonic acid)(PFSA)含有イオノマーから形成される。PFSAポリマーは、フルオロカーボン主鎖から構成され、スルホナート基が短いフルオロカーボン側鎖に結合している。
【0014】
別の実施例では、膜16は、炭化水素イオノマーから形成される。一般に、炭化水素イオノマーの主鎖は、高度にフッ素化された主鎖を有するPFSAイオノマーとは異なり、大量のフッ素を含有していない。炭化水素イオノマーは、水素および炭素を含有する主鎖を有し、この主鎖は、少量のモル分率の、酸素、窒素、硫黄および/またはリンなどのヘテロ原子を含有することもできる。これらの炭化水素イオノマーは主に芳香族および脂肪族イオノマーを含む。適切な芳香族イオノマーの例としては、限定される訳ではないが、スルホン化ポリイミド、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホフェノキシベンジル基で置換されたポリ(β−フェニレン)、およびポリベンゾイミダゾールイオノマーが挙げられる。適切な脂肪族イオノマーの非限定的な例には、架橋ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、およびこれらのコポリマーなどのビニルポリマーに基づくイオノマーがある。
【0015】
膜16の組成は、燃料電池繰り返し単位10の作動温度に影響を及ぼす。例えば、炭化水素イオノマーは通常、PFSAイオノマーより高いガラス転移温度を有しており、それによって、炭化水素イオノマー膜16は、PFSAイオノマー膜16より高い温度で作動することができる。
【0016】
カソードCL18は、膜16のカソード側に隣接する。カソードCL18は、イオノマーおよび触媒を備える。カソードCL18の触媒は、酸化剤(すなわち酸素)の電気化学還元を促進する。カソードCL18用の例示的な触媒としては、炭素支持白金粒子、炭素支持白金合金、および炭素支持白金金属間化合物が挙げられる。
【0017】
アノードCL14は、カソードCL18とは反対側の膜16のアノード側に隣接する。アノードCL14は触媒を備える。アノードCL14の触媒は、燃料(すなわち水素)の電気化学酸化を促進する。アノードCL14用の例示的な触媒としては、炭素支持白金粒子が挙げられる。アノードCL14は、イオノマーを備えることもできる。アノードCL14は、カソードCL18について上述した構造と類似の構造を有することができるとはいえ、アノードCL14とカソードCL18とは、異なる組成を有することができる。
【0018】
図2は、図1のMEA12の膜16、カソードCL18およびカソードGDL22の拡大図である。カソードGDL22は、気体拡散基材28および微細孔層30を備える。図2に示すように、微細孔層30は、カソードCL18と気体拡散基材28の間でカソードCL18に最も近いカソードGDL22の面上に配置された膜層である。代替として、微細孔層30は、気体拡散基材28の細孔内に配置されることができる。以下によりいっそう詳細に説明するように、微細孔層30は、懸濁媒質、第1のカーボンブラック、疎水性添加物および親水性添加物を備える。
【0019】
上述したように、アノードCL14からのプロトンと電子は、カソードCL18において酸素分子と反応して水を生成する。低い作動温度(通常、約50℃より低い)では、カソードCL18において生成した水は、カソードCL18における水の蓄積を防止するように管理する必要がある。燃料電池のこの領域における水の蓄積は、カソードCL18への酸素の供給を阻害することがある。従って、カソードCL18において生成した水の一部は、水が蓄積して溢水を生じないように、カソードCL18からそらす必要がある。微細孔層30内の疎水性部分(すなわち官能基)は、溢水を防止するように、カソードCL18の近くの水がカソードGDL22内へ流入してカソードCL18から移動し去るのを促進する。
【0020】
高い作動温度(通常、約75℃〜約105℃)では、カソードCL18の近くの水蒸気の損失は、電極16が乾燥し切るのを防止するように管理する必要がある。高温では、燃料電池を効率的に作動させ続けるためには、水保持を増加させることが必要である。カソードCL18の近くに配置された疎水性部分は、溢水を防止することができるとはいえ、カソードCL18の近くで水を保持する燃料電池の能力を増大させることはない。従って、疎水性部分だけを含有する気体拡散層(微細孔層を有するものまたは有しないもの)は、高い作動温度では理想的ではない。本願発明は、これらの障害を克服する微細孔層であって、低温および高温両方(すなわち約0℃〜約110℃の温度)における燃料電池の作動を可能にする微細孔層を提供する。
【0021】
微細孔層30は、カソードCL18と気体拡散基材28の間、または気体拡散基材28の細孔内に配置された膜層である。微細孔層30は、単一の層として形成され、その組成は概略均一である(例えば、微細孔層30は、疎水性面および独立した親水性面を含まない)。微細孔層30がカソードCL18と気体拡散基材28の間の別個の層である実施例では、微細孔層30は、約1μm〜約50μmの厚みを有する。微細孔層30は細孔を含有する。微細孔層30の細孔は、微細孔層30の一方の面から他方の面へ相互接続された細孔のネットワークを形成する。いくつかの実施例では、微細孔層の細孔の平均細孔径は、約5μm未満である。微細孔層の細孔の平均細孔径は、約1μm未満とすることもできる。
【0022】
上述したように、微細孔層30は、第1のカーボンブラック、疎水性添加物および親水性添加物を備える。微細孔層30において使用される懸濁媒質は、第1のカーボンブラック、疎水性添加物および親水性添加物を互いに均一に混合させて微細孔層インクを生成することを可能にする。いくつかの実施例では、懸濁媒質は水である。懸濁媒質の全てまたは一部は、微細孔層インクの調製中またはMEA12の形成中に蒸発することができる。
【0023】
微細孔層30は第1のカーボンブラックを備える。カーボンブラックは、その導電性と、反応物流れ場および生成物流れ場に多孔質ネットワークを提供するその能力のために、微細孔層30および気体拡散層において使用される。触媒層では、カーボンブラックは触媒粒子の支持体としても使用される。微細孔層30において使用される第1のカーボンブラックは、導電体として機能するとともに、小さな細孔のネットワークを提供する(すなわち、微細孔層の細孔は通常、気体拡散基材28内の細孔より小さい)。
【0024】
カーボンブラック粒子はしばしば、その外側表面にさまざまな官能基を有する。これらの官能基は、カーボンブラック粒子の性質を変えることができる。これらの官能基のいくつかは、酸性であり、限定される訳ではないが、カルボキシル基、ラクトン基およびフェノール基を含む。第1のカーボンブラック粒子は、比較的低濃度のカルボキシル基を有する。平均して、第1のカーボンブラック粒子は、カーボン1g当たり0.1ミリモル(mmol)未満の濃度のカルボキシル基を含有する。いくつかの実施例では、第1のカーボンブラックは、カーボン1g当たり約0.2mmol未満の酸性官能基を含有する。さらに、いくつかの実施例では、第1のカーボンブラックは、約25nmを超える平均粒径および約300m2/g未満の平均表面積を有する。いくつかの実施例では、第1のカーボンブラックは、キャボット社(Cabot Corporation)から入手できるVulcan XC−72R、シェブロンフィリップス社(Chevron Phillips)から入手できるシャウィニガンアセチレンブラック(Shawinigan acetylene black)(SAB)またはアクゾノーベル社(Akzo Nobel)から入手できるケッチェンブラック(Ketjen Black)である。
【0025】
微細孔層30は疎水性添加物も備える。疎水性添加物は、カソードCL18の近くで溢水を防止するように微細孔層30において使用される。疎水性添加物は、カソードCL18と微細孔層30の界面の近くで水をはじき、カソードCL18から離れるように気体拡散基材28内へと水の流れを導く。いくつかの実施例では、疎水性添加物は、デュポン社(DuPont)から入手できるテフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)を含む。いくつかの実施例では、微細孔層30内に存在する疎水性添加物の量は、第1のカーボンブラックの量の重量で約5パーセントから重量で約50パーセントである。一実施例では、第1のカーボンブラックの量に対する微細孔層30内に存在する疎水性添加物の量は、重量で約15パーセントから重量で約25パーセントである。
【0026】
微細孔層30はさらに親水性添加物を備える。親水性添加物は、低温でカソードCL18の近くで溢水を防止し、また一方、高温でカソードCL18の近くで水を保持する。適切な親水性添加物の例としては、限定される訳ではないが、酸化スズ(SnO2)、二酸化チタン(TiO2)および第2のカーボンブラックが挙げられる。Black Pearls(登録商標)2000およびBlack Pearls(登録商標)1000(両方ともキャボット社(Cabot Corporation)から入手できる)が第2のカーボンブラックとして適切なカーボンブラックの2つの例である。Black Pearls(登録商標)2000(または1000)などの第2のカーボンブラックは、Vulcan XC−72Rなどの第1のカーボンブラックとは異なる。特に、第2のカーボンブラックは、以下の、粒子表面に存在する官能基、粒径および表面積のうちの1つまたは複数に関して、第1のカーボンブラックとは異なる。例えば、いくつかの実施例では、第2のカーボンブラックは、カーボン1g当たり0.2mmolを超える濃度のカルボキシル官能基を含有する。いくつかの実施例では、第2のカーボンブラックは、カーボン1g当たり約0.5mmolを超える酸性官能基を含有する。さらに他の実施例では、第2のカーボンブラックに存在する酸性官能基の40%〜80%がカルボキシル基である。例えば、平均して、Black Pearls(登録商標)1000は、カーボン1g当たり約0.5mmolのカルボキシル基を含有し、カーボンブラック粒子の表面の酸性官能基の約65%がカルボキシル基である。粒径および表面積を見ると、Black Pearls(登録商標)2000は、約15nmの平均粒径および約1475m2/gと同じほど高い平均表面積を有し、一方、Vulcan XC−72は、約30nmの平均粒径および約254m2/gの平均表面積を有する。いくつかの実施例では、第2のカーボンブラックは、約20nm未満の平均粒径および約400m2/gを超える平均表面積を有する。より高い濃度のカルボキシル基、低減した粒径および/または増加した表面積を有する第2のカーボンブラックを使用することで、微細孔層30は以下によりいっそう詳細に説明するように、カソードCL18の近くで水管理を援助する親水性添加物を備える。
【0027】
他の実施例では、親水性添加物は、微細孔層30内の第1のカーボンブラックを加熱することで形成された濡れ可能なカーボンブラックとすることができる。微細孔層30を約300℃〜約500℃の温度に加熱することで、第1のカーボンブラック上に存在する疎水性官能基の一部が取り除かれる。これらの疎水性官能基を取り除くことで、第1のカーボンブラックの一部は、より親水性かつ濡れ可能となる。第1のカーボンブラックのみを含有し(その他に第2のカーボンブラックのない)微細孔層30を加熱することで、第1のカーボンブラックの一部は、濡れ可能なカーボンブラック、すなわち親水性添加物に変換される。
【0028】
いくつかの実施例では、微細孔層30内に存在する親水性添加物の量は、第1のカーボンブラックの量の重量で約1パーセントから重量で約25パーセントである。一実施例では、第1のカーボンブラックの量に対する微細孔層30内に存在する疎水性添加物の量は、重量で約5パーセントから重量で約15パーセントである。
【0029】
親水性添加物は、微細孔層30に低温および高温の作動における異なる水管理特性を与える。低温では、親水性添加物は、カソードCL18およびカソードGDL22の間の界面における水の蓄積を防止するのを助ける。上述したように、微細孔層30は、小さな細孔を有する。これらの小さな細孔は、毛管作用によりカソードCL18から微細孔層30を通ってカソードCL18への水の移動を促進する。毛管作用は、水が重力や他の外部手段の助けなしで微細孔層30の細孔を通って流れるのを可能にする。微細孔層30の小さな細孔は、「ウィッキング(wicking)」により水がカソードCL18から移動し去るのを促進する。親水性添加物は、水分子を微細孔層30へと引き付ける。いったん水分子が微細孔層30へと「引き付け」られると、水分子は、小さな細孔の毛管作用力によりカソードCL18から運び去られる。微細孔層30内に存在する疎水性添加物も低温での水の除去過程に寄与する。疎水性添加物は、水分子を親水性添加物の方へとそらす。
【0030】
高温では、微細孔層30内の親水性添加物は、カソードCL18とカソードGDL22の界面における水蒸気の損失を防止するのを助ける。高温では、MEA12内の水はより容易に蒸発し、カソードGDL22および電極16からより容易に除去される。微細孔層30の小さな細孔および親水性添加物の高表面積は、微細孔層30内で水蒸気を保持するのを助け、カソードCL18の近くの領域が乾燥し切るのを防止する。微細孔層30の小さな細孔は、水蒸気分子を捕まえる。水蒸気分子は、小さな細孔より容易に大きな細孔から排出される。なお、Black Pearls(登録商標)2000などの親水性添加物の高表面積は、微細孔層30内に曲がりくねった細孔のネットワークを生成する。この曲がりくねったネットワークは、水蒸気が細孔から逃れるのをよりいっそう困難にし、微細孔層30の細孔が気体拡散基材28のより大きな細孔より容易に水蒸気を保持するのを可能にする。反応物(空気/酸素)が気体拡散基材28のより大きな細孔を通ってより容易に流れるので、捕まえた水蒸気を収容する微細孔層30の小さな細孔は、カソードCL18への酸素の流れを妨げない。
【0031】
微細孔層30は、Triton X−100などの界面活性剤を備えることもできる。微細孔層30は、カソードCL18およびカソードGDL22に関して上で論じたとはいえ、微細孔層30は、アノードCL14およびアノードGDL20に関して同様に配置することも、同様に機能することもできる。
【0032】
上述した微細孔層30は、さまざまな仕方でMEA12内へ組み込むことができる。図3は、MEA12の一部を作製する方法の一実施例を示す簡略流れ図を例示する。方法40では、ステップ42において、微細孔層インクを調製する。微細孔層インクは、上述したように、懸濁媒質、カーボンブラック、疎水性添加物および親水性添加物を備える。微細孔層インクは、インク成分を一緒に混合することで調製する。いったん調製すると、微細孔層インクは、ステップ44において、気体拡散基材28の第1の面に施す。微細孔層インクは、噴霧、ロッド被覆、および当業技術内で知られる他の堆積技術によって気体拡散層基材28に施すことができる。いったん微細孔層インクを気体拡散基材28に施すと、組み合わせインク−気体拡散基材は、表面の亀裂を防止または低減するように低温で乾燥して水を除去することができる。乾燥は、大きな表面割れを生じさせることなく徐々に水を除去するように、真空炉内で真空下、約30℃〜約50℃で少なくとも約30分間実施することができる。組み合わせインク−気体拡散基材は次いで、ステップ46において、微細孔層30および気体拡散基材28内のテフロン(登録商標)を焼結させるとともに微細孔層30を気体拡散基材28上に融合もさせるように、加熱して、気体拡散層(例えば、カソードGDL22)を形成する。ステップ46において、組み合わせインク−気体拡散基材は約250℃〜約350℃の温度に加熱する。焼結ステップ46において使用される温度は、微細孔層インク内に使用される疎水性添加物に依存することになる。例えばテフロン(登録商標)では、適切な温度は約310℃〜約350℃である。テフロン(登録商標)FEPなどのフッ素化エチレンプロピレンでは、適切な温度は約250℃〜約275℃である。いったん気体拡散層を形成すると、ステップ48において、気体拡散層の微細孔層30を含有する面を電極層(例えばカソードCL18)に熱的に結合する。ステップ48は、ホットプレスおよび/または当業技術内で知られる他の熱的結合技術を含むことができる。ステップ48の後に、通常のやり方に従ってMEA12を調製することができる。
【0033】
実施例
表1に示す試薬および量を使用して試験用に微細孔層を調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
第1のカーボンブラックとして、Vulcan XC−72Rを使用し、疎水性添加物として、テフロン(登録商標)分散物を使用し、親水性添加物(第2のカーボンブラック)として、Black Pearls(登録商標)1000を使用した。
【0036】
上述した微細孔層を用いて気体拡散層を形成し、これを燃料電池内に配置した。微細孔層からBlack Pearls(登録商標)1000を省いたということを除き上述した微細孔層を有する気体拡散層を用いて別の燃料電池を調製した。両方の燃料電池の試験は、表2に示す条件に従って行った。
【0037】
【表2】
【0038】
試験1は、低温および乾燥条件を記載する。図4は、親水性添加物を含む微細孔層を有する燃料電池(曲線50)および親水性添加物を含まない微細孔層を有する燃料電池(曲線52)の試験1の性能を示すグラフである。図4に示すように、親水性添加物を含む微細孔層を有する燃料電池は、特に高電流密度において、親水性添加物のない燃料電池より高い電池電圧を示した。低温では、カソードにおいて生成される水の大部分は、液体状態で存在する。カソード触媒層からの迅速な水の除去は、酸素を触媒部位に輸送するために非常に重要である。適切な水の除去がないと、気体輸送の損失が支配的となり、電池性能が低下する。図4におけるより高い電池電圧が示すように、微細孔層内への親水性添加物の添加は、電池性能を向上させ、電池が高電流密度で作動するのを可能にする。
【0039】
試験2は、高温条件を記載する。図5は、親水性添加物を含む微細孔層を有する燃料電池(曲線54)および親水性添加物を含まない微細孔層を有する燃料電池(曲線56)の試験2の性能を示すグラフである。再び、親水性添加物を含む微細孔層を有する燃料電池は、親水性添加物を含まない燃料電池より高い電池電圧を示した。低湿度条件では、プロトン伝導性が下がり、乾燥イオノマーフィルムを通る気体輸送が乏しく、かつ膜抵抗が高いので、イオノマーおよび膜に関連する損失が支配的になる。図5は、親水性添加物が微細孔層内に存在する場合に電池性能が大幅に向上するのを示す。大幅な電圧増加がオーム性領域(0.6A/cm2〜1.4A/cm2)において観察された。これは、微細孔層内の親水性添加物によって触媒層イオノマーの水和が良好となり、それによって、イオノマーフィルムを通るプロトン伝導性および酸素輸送が向上することを示す。なお、Black Pearls(登録商標)1000の存在に起因して、質量輸送に関連する損失は生じない。
【0040】
図4図5に示す電池試験の結果は、微細孔層内の親水性添加物が、高い作動温度および低い作動温度における電池の性能を向上させることを示す。高温では、親水性添加物は触媒層イオノマーの水の水和レベルを増加させ、それによって、イオノマーフィルムを通る伝導性および酸素輸送を向上させる。これが生じる理由は、親水性添加物がその顕微鏡的細孔内へ水を保持するのを助け、流入気体の湿度を増加させるからである。低温では、親水性添加物は、触媒細孔から水を迅速に除去するのを助け、それによって、触媒層内の酸素輸送速度を向上させる。これが生じる理由は、微細孔層内の親水性添加物の微細な細孔を介して触媒層から生成水がより速く移動するからである。
【0041】
本発明は例示的な実施例に関して説明したとはいえ、当業者ならば、本発明の範囲から逸脱せずにさまざまな変更が可能であり、均等物をその構成要素に置換することが可能であることを理解するであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱せずに多くの修正を行って特定の状況または材料を本発明の教示に適合させることができる。従って、本発明が開示の特定の実施例に限定されずに添付の請求項の範囲に含まれる全ての実施例を含むことを意図するものである。
図1
図2
図3
図4
図5