【文献】
Yu. V. PLESKOV et al,Radiation-electrochemical oxidation of water on semiconductor (TiO2, SrTiO3) electrodes in aqueous electrolyte solutions,Radiation physics and chemistry,1985年,volume 26, issue 1,pp.17-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体部は、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、焼結ナノ粒子、ナノシート、ナノメートル厚の膜、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される構造を含み、且つ前記半導体のナノ孔は前記構造の間の分離に相応する、請求項2に記載の放射線分解電気化学的システム。
前記電離放射線は、電解質水溶液と接触していない放射線源からのものであり、前記カソード、前記アノードおよび前記電解質水溶液が、少なくとも実質的に封止された容器内にあり、その容器を放射線源からの電離放射線が通過する、請求項1に記載の放射線分解電気化学的システム。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ガラス基板上に堆積された薄いTi膜を陽極酸化および熱酸化することによって製造されたナノ多孔質TiO
2半導体と、前記TiO
2ナノ孔の上にRFスパッタリング装置を使用して堆積された薄い白金膜(ショットキー部)とを含む本発明のアノードの実施態様の断面の模式図である。
【
図2】表面プラズモンを利用した放射線分解水分裂装置のエネルギー準位図である(CB: 伝導帯、VB: 価電子帯、E
F: フェルミエネルギー、e
aq-: 水の電子、
・OH: ヒドロキシルフリーラジカル、β: ベータ線)。
【
図3】ガラス上のナノ多孔質TiO
2の断面SEM像である。
【
図4】Pt被覆されたナノ多孔質TiO
2を上から見たSEM像であり、挿入図はナノ孔のSEM像である。
【
図5】アズデポのTi、陽極酸化されたTiおよびルチルTiO
2のXRDのデータである。
【
図6】放射線下でのPt/ナノ多孔質TiO
2用の試験の設定の模式図である。
【
図7】Pt/ナノ多孔質TiO
2電極の模式図および写真である。
【
図8】Pt/ナノ多孔質TiO
2放射線分解電極を有する、照射された素子のJ−V特性(電圧の関数としての電流密度における実質的な変化でプロット)、およびナノ多孔質TiO
2放射線分解電極を有する、照射された素子のJ−V特性(−1.5Vの電位周辺で電流密度における顕著な変化を有する一番下のプロット)、およびPt/ナノ多孔質TiO
2を有する、暗室内で照射されていない素子のJ−V特性(中央、実質的に水平なプロット)のグラフである。
【
図9】Pt/ナノ多孔質TiO
2を有する照射された素子(ゼロより著しく大きい電力密度を示すバー)およびナノ多孔質TiO
2を有する照射された素子(ゼロをわずかに下回っている電力密度を示すバー)の電力密度のグラフである。電極面積は1cm
2である。
【
図10】放射化学電池における電子線のMCシミュレーションの一部としてのPET(20μm)/水(1mm)/Pt(50nm)/TiO
2(1μm)/ガラス(1mm)構造内の電子線の吸収されたエネルギー分布である。
【
図11】電子照射の中心で吸収されたエネルギーの強度の断面図である。
【
図12】1〜3として印される、異なる電子線(546keV)の位置についての模式的な断面図および模式的な上面図を含み、dは10nmであり、sは200nmであり、t1は50nmであり且つt2は45nmである。
【
図13】
図12の1〜3の位置でのPt/ナノ多孔質TiO
2表面の放射スペクトルである(それぞれプロット1〜3に相応)。矢印は最も高いピーク位置を示す。プロット4はUV−VIS分光計を使用したPt/ナノ多孔質TiO
2の反射を示す。
【
図14】290nmについての
図12の1の位置での、Pt/ナノ多孔質TiO
2上のPtナノ孔の最上部での、近傍界強度分布の上面図(a)および断面図(b)である。場の強度はログスケールで、[E]
2/[E
0]
2で示され、前記EおよびE
0はそれぞれ、生成された電場強度および最小の電場強度である。
【
図15】287nmについての
図12の2の位置での、Pt/ナノ多孔質TiO
2上のPtナノ孔の最上部での、近傍界の強度分布の上面図(a)および断面図(b)である。場の強度はログスケールで、[E]
2/[E
0]
2で示され、前記EおよびE
0はそれぞれ、生成された電場強度および最小の電場強度である。
【
図16】377nmについての
図12の3の位置での、Pt/ナノ多孔質TiO
2上のPtナノ孔の最上部での、近傍界の強度分布の上面図(a)および断面図(b)である。場の強度はログスケールで、[E]
2/[E
0]
2で示され、前記EおよびE
0はそれぞれ、生成された電場強度および最小の電場強度である。
【
図17】Pt、TiO
2、水および空気の間を比較した誘電関数のグラフである。
【
図18】純粋な酸素除去水の放射線分解において生じる一次生成物の、計算されたpH依存性のグラフである(t=10
-7s、D=10Gy)。T. Palfi et al., Rad. Phys. Chem. 79, 1154 (2010)。
【
図19】(a)はシリコン基板上のTiO
2ナノ粒子膜(「TiO
2/Si」)の高解像度のSEM像であり、(b)はTiO
2/Siの低解像度のSEM像であり、(c)はTiO
2/Si放射線分解電極のEDSスペクトルである。
【
図20】TiO
2/SiのXRDのデータであり、ここでAはアナターゼを示しRはルチルを示す。
【
図21】(a)は水との界面での電子線の吸収されたエネルギー分布であり、(b)はMCシミュレーションを使用した、TiO
2膜およびSi基板中に吸収されたエネルギーである。
【
図22】(a)は放射線下でのn−TiO
2/n
+−Si電極についての試験の設定の模式図であり(R.E.、W.E.およびC.E.はそれぞれ参照電極、動作電極および対向電極である)、(b)はn−TiO
2/n
+−Si電極の写真および模式図であり、(c)は暗室内(一番下にプロットされた線)、暗室内での放射線曝露下(中央にプロットされた線)、および蛍光灯下(一番上にプロットされた線)での、TiO
2/Si放射線分解電極のI−V特性である。
【
図23】放射線に曝露される場合および放射線に曝露されない場合の、様々な時間間隔での0.1MのLi
2SO
4水溶液中でのメチレンブルーの正規化された時間依存性分解である。
【0011】
発明の詳細な説明
放射性同位体を使用した従来のエネルギー変換の分野は、ほとんど固体状態の材料のみに集中していた。これまでのところ、半導体への放射線による損傷を完全に回避するための方法がないにもかかわらず、放射線による損傷および関連する構造欠陥問題を低減または無くすための手段として液相材料の使用が紹介されており、なぜなら、液相材料は電離放射線、例えばβ粒子の運動エネルギーを効率的に吸収するからである。
【0012】
実際のところ、比較的大量の放射線のエネルギーを水によって吸収させることができる。放射線のエネルギーが水溶液によって吸収される場合、フリーラジカル(例えばe
aq-、
・OH、H
・、HO
2・)が、放射線分解の相互作用によって生成され得る。それらのフリーラジカルは、分子状の副生成物、例えばH
2O
2およびH
2の生成をもたらすことがある。本発明は、電子の生成のために前述のことを使用し、水を分裂させることによるフリーラジカルから放射線分解電流を分離する素子を使用する。
【0013】
本願において、液体は放射性同位体からの効率的なエネルギー変換のために優れた媒体であり得ることが立証される。電離放射線によって連続的に生成される液体中のフリーラジカルを、電気エネルギーの生成のために使用できることも示される。
【0014】
放射線分解電気化学的システム
1つの実施態様において、放射線分解電気化学的システムは、カソード、半導体を含むアノード、前記カソードとアノードとの間に配置される電解質水溶液、および電離放射線を含み、その際、前記電離放射線が前記溶液中で水分子を分裂させ、且つ、溶媒和フリーラジカルを形成し、それがラジカルの電荷に依存してアノードまたはカソードに移動し、且つ、アノードおよびカソードでレドックス反応に関与し、そのことによって、アノードおよびカソードが電気的に接続される際に仕事を行うことができる電流が生成される。
【0015】
他の実施態様において、放射線分解電気化学的システムは、以下の(a)〜(d):
(a) カソード、
(b) 以下の(i)および(ii)を含むアノード:
(i) 半導体部、および
(ii) 前記半導体部と接触することにより整流性のない金属・半導体接合を形成するオーミック用金属を含む伝導体部、および
(c) カソードおよびアノードと接触しているが、アノードの伝導体部とは接触していない電解質水溶液; ここで、前記電解質水溶液がその中の水分子
を分裂させるために充分なエネルギーの電離放射線に曝された際に、前記電解質水溶液中で溶媒和フリーラジカルイオンが形成される、および
(d) 電離放射線; 前記電離放射線の一部が前記電解質水溶液中で水分子を分裂させて、正に帯電したフリーラジカルイオンおよび負に帯電したフリーラジカルイオンを形成し、それらは前記電解質水溶液中で溶媒和される、
を含み、且つその際、負に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンは、それらを取り囲む水分子から解放され、且つカソードと溶液との界面でレドックス反応に関与し、且つ、正に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンはそれらを取り囲む水分子から解放され、且つアノードと溶液との界面でレドックス反応に関与して、そのことにより、アノードおよびカソードが電気的に接続される際に仕事を行うことができる電流が生成される。
【0016】
半導体部
有利には、特定の実施態様において、電離放射線の一部が半導体部内で電子・ホール対を形成し、それが分離して、ホールはアノードと溶液との界面に移動してそこでレドックス反応に関与し、且つ、電子はカソードと溶液との界面に移動してそこでレドックス反応に関与して、そのことにより電流に寄与する。一般に、電子・ホール対のそのような形成を容易にし、且つ電子およびホールを輸送するために、半導体部は約10nm〜約500μmの範囲の厚さを有する。
【0017】
ナノスケールの組織
特定の実施態様において、半導体部はナノスケールの組織を有する。とりわけ、ナノスケールの組織は単にそれがより多くの表面積をもたらし、ひいてはレドックス反応のための反応部位をもたらすので有利である傾向がある。そのような1つの実施態様において、ナノスケールの組織は平均直径約10nm〜約500nmの範囲を有するナノ孔を含む。さらには、半導体ナノ孔は、約10nm〜約500μmの範囲の間隔をあけられていてよい。
【0018】
半導体部の構造
上記のナノスケールの組織は、適切な方法および/または構造によって達成することができる。特定の実施態様において、放射線分解の、半導体部は、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、焼結ナノ粒子、ナノシート、ナノメートル厚の膜、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される構造を含み、且つ前記半導体ナノ孔は前記構造の間の分離に相応する。典型的には、ナノワイヤまたはナノチューブが選択される。
【0019】
例示的な半導体部の構造は、例えば金属膜を基板上にRFスパッタによって堆積し、前記金属膜を例えばエッチングによってパターニングし、前記金属を酸化してパターニングされた半導体酸化物をもたらすことによって形成されるナノワイヤである。
【0020】
半導体材料
電離放射線が半導体部を通過する際、それが半導体部内で電子・ホール対を生成し、そのいくつかは再結合するが、しかし他は分離し、且つアノードと液体との界面でのビルトインポテンシャルに起因して移動する。ホールはアノードと液体との界面へと動き、且つ水分子のレドックス対と反応する傾向がある。これに対し、電子は、半導体部を通じて伝導体部へと動き、カソードを通って、水分子のレドックス対と反応する傾向がある。
【0021】
典型的には、半導体部のために、バンドギャップが大きい半導体材料を含むことが望ましい。典型的には、半導体部のために、単結晶材料を含むことも望ましい。とはいえ、多結晶材料も受け容れられる。特定の実施態様において、半導体部はバンドギャップが大きい単結晶半導体材料からなる。例示的なバンドギャップが大きい半導体材料は、TiO
2、Si、SiC、GaN、GaAs、ZnO、WO
3、SnO
2、SrTiO
3、Fe
2O
3、CdS、ZnS、CdSe、GaP、MoS
2、ZnS、ZrO
2およびCe
2O
3およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。なおもさらなる実施態様において、バンドギャップが大きい単結晶半導体材料は酸化物、例えばTiO
2である。
【0022】
半導体部は、真性半導体(i)、n型半導体(n)、n
+型半導体(n
+)、p型半導体(p)、p
+型半導体(p
+)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
特に望ましい組み合わせは、n、p、n−p、p−p
+、n−n
+、n−i−pおよびn
+−n−i−p−p
+からなる群から選択される構造を含む。
【0024】
ショットキー部
放射線分解電気化学的システムはさらに、半導体部と接触することにより整流性のある金属・半導体接合を形成するショットキー用金属を含むショットキー部を含む。例示的なショットキー用金属は、Pt、Au、Pd、Fe、Co、Cr、Ni、Ag、Ti、Ru、Cu、Mo、Ir、およびRh、それらの合金、および前記金属元素および/または合金の組み合わせを含む。特定の実施態様において、ショットキー用金属は1つまたはそれより多くの貴金属元素を含む。他の実施態様において、ショットキー用金属はPtである。
【0025】
特定の実施態様において、ショットキー部は、ナノスケールの組織を有し、前記ナノスケールの組織は、ショットキー部が電離放射線の一部に曝された際に局在表面プラズモンを生成し、その際、前記プラズモンの一部がショットキー部内で電子・ホール対を形成し、それが分離する。励起された電子は一時的に、ショットキー用金属の伝導帯内で、フェルミ準位の上で通常は空の状態を占有し、且つ励起された電子の大半は半導体部の伝導帯に入るために充分なエネルギーを有する。さらに、電離放射線はショットキー用金属と半導体との接合近傍の空乏領域を通じてエネルギーを付与し(deposit)、且つ、電場により電子・ホール対が異なる方向に分離される(電子は半導体に向かい、且つホールはショットキー用金属と液体との界面に向かい、それがショットキーとオーミックとの間の電位差を生じる)と考えられる。
【0026】
さらには、ショットキー部は好ましくは、ホールがアノードと溶液との界面に移動し且つそこでレドックス反応に関与し、且つ電子が(半導体部および伝導体部を介して)カソードと溶液との界面に移動し且つそこでレドックス反応に関与し、そのことによって電流に寄与することを可能にする厚さを有する。ショットキー部の適切な厚さは約1nm〜約100nmの範囲である傾向がある。
【0027】
プラズモンの形成と関連する他の望ましい効果は、プラズモンの一部が、正に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンがそれらを取り囲む水分子から解放されてアノードと溶液との界面でレドックス反応に関与しそのことによって電流に寄与することを補助することである。例えば、ショットキー部のナノスケールの組織は、波長約100nm〜約800nmの範囲内で最適な表面プラズモン共鳴を提供する直径を有するナノ孔を含むことができる。これは典型的には約10nm〜約500nmの範囲の平均直径を有するナノ孔を用いて達成される。また、前記ナノ孔は、典型的には約10nm〜約500
μmの範囲の間隔をあけられている。
【0028】
伝導体部
特定の実施態様において、オーミック用金属はAl、Ag、Fe、Cr、Ti、Ni、Au、Pt、Pb、MoおよびCuからなる群、それらの合金、および前記金属元素および/または合金の組み合わせから選択される。特定の実施態様において、伝導体部は、箔、シートまたはプレートであり、それらは半導体が堆積される下地であってよい。選択的に、伝導体部は、基板上に堆積された膜であってよく、且つ半導体部は前記伝導体部の膜上に堆積される。
【0029】
カソード
特定の実施態様において、カソードはPt、Au、Pd、Fe、Cr、Co、Ni、Ag、Ti、Ru、Cu、MoおよびIrからなる群、それらの合金、および前記金属元素および/または合金の組み合わせから選択されるカソード用金属を含む。他の実施態様において、カソードは貴金属元素を含む。さらに他の実施態様において、カソード用金属はPtである。
【0030】
特定の実施態様において、カソードはナノスケールの組織を有し、前記ナノスケールの組織は、カソードが電離放射線の一部に曝された際に局在化表面プラズモンを生成し、その際、プラズモンの一部が、負に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンがそれらを取り囲む水分子から解放されてカソードと溶液との界面でレドックス反応に関与しそのことによって電流に寄与することを補助する。これは典型的には約10nm〜約500nmの範囲の平均直径を有するナノ孔を用いて達成される。また、前記ナノ孔は、典型的には約10nm〜約500
μmの範囲の間隔をあけられている。
【0031】
電解質水溶液
特定の実施態様において、電解質水溶液は、アノード(半導体部)と溶液との界面で適した整流性の接合が形成されるようなpHを有するように選択される。塩基性の電解質溶液については、レドックス対の化学的エネルギーはE=E
0−pH×0.059eVだけ変化する。例えば、2H
++2e
-→H
2(g)はpH=0で0Vであるが、pH=14の場合、化学的エネルギーは0Vから−0.826Vに変化する。このことは、p型半導体は半導体と液体との間の界面でショットキーコンタクト(整流性のある接合)を形成できないが、n型半導体はより安定なショットキーコンタクトを形成できることを意味する。従って、n型半導体および/またはn
+型半導体が電解質水溶液と接触する場合には、水溶液は塩基性のpHを有する。選択的に、p型半導体および/またはp
+型半導体が電解質水溶液と接触する場合には、電解質水溶液は酸性のpHを有する。
【0032】
特定の実施態様において、塩基性の溶液は、KOH、NaOHおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ性電解質を含み、且つ、酸性の溶液はH
2SO
4、HNO
3、LiSO
4およびそれらの混合物からなる群から選択される酸性電解質を含む。塩基性電解質は、電解質水溶液中で約0.1M〜約5Mの範囲の濃度であり、且つ酸性電解質は電解質水溶液中で約0.1M〜約5Mの範囲の濃度である。
【0033】
電離放射線
電離放射線は、α粒子、β粒子、中性子、γ線およびそれらの組み合わせからなる群からのものを放出する、1つまたはそれより多くの放射性同位体を含む放射線源からのものである。特定の実施態様において、放射線源は、
63Ni、
90Sr、
35S、
204Tlおよび
3H、
148Gdおよび
137Csからなる群から選択される、β粒子放出型の放射線同位体である。他の実施態様において、放射線源は、
210Po、
244Cm、
238Puおよび
241Amからなる群から選択される、α粒子放出型の放射線同位体である。
【0034】
接触式または内部放射線源
特定の実施態様において、前記システムは電気化学的電池であり、且つ電離放射線は保護層によって封入された放射線源からのものであり、且つ前記保護層の少なくとも一部は電解質水溶液と接触しており、その際、前記保護層は放射線と電解質水溶液との間での化学反応を防止する。さらに他の実施態様において、電気化学的電池は少なくとも実質的に封止され、且つカソード、アノード、封入された放射線源、および電解質水溶液は少なくとも実質的に封止された電気化学的電池内にある。「少なくとも実質的に封止」との記載は、例えば生成されるガスを逃がし且つ/またはシステム、電池もしくは素子内、外および/またはそれらを通じた液体もしくは気体の動きを改善することを可能にする通気口または呼吸孔の存在を許容することが意図されている。さらに、用語「電気化学的システム」および「電気化学電池」とは、複数の容器または室を含むシステムまたは電池を除外することを意図していない。例えば、システムは複数の電池を含むことができる。さらに、該系または電池は複数の容器または室を含むことができる。例えば、系または電池は、アノード部および電解質溶液を含む1つまたはそれより多くの容器または室、および、ブリッジおよび/またはメンブレンによって接続された、カソードおよび例えば異なるpH条件を有する異なる電解質溶液を含む1つまたはそれより多くの容器または室を含むことができる。
【0035】
他の実施態様において、放射線源は、アノードから、半導体部の格子の損傷を防止するまたは制限するために少なくとも充分な距離であって且つ電離放射線が電解質水溶液中を伝わることができるおおよその距離以下の距離をおかれている。例えば、放射線源が
90Srである場合、通常、それはアノードから約1mm〜約4mmの範囲の距離がおかれている。それはカソードにはもっと近くてよく、例えば0.1mm〜10mmの範囲の距離である。
【0036】
外部放射線源
特定の実施態様において、電離放射線は、電解質水溶液と接触していない放射線源からのものである。例えば、アノードおよび電解質水溶液は、封止された容器内にあり、その容器を放射線源からの電離放射線が通過する。
【0037】
かかる外部放射線源の実施態様は、放射線同位体の存在を検出するために有用な放射線分解電気化学的システムを可能にする。例えば、外部の源からの電離放射線の存在中で、アノードおよびカソードを電気的に接続する際に電流を生成することができ、その際、電流は放射線源の存在、強度、位置またはそれらの組み合わせを示す程度を有する。
【0038】
基板部
特定の実施態様において、放射線分解電気化学的システムはさらに、伝導体部と接触した基板部を含むことができ、且つその際、伝導体部は基板部上に堆積された層である。基板部は任意の適切な材料から選択することができる。例えば、いくつかの実施態様において、基板部はガラス、Si、プラスチックおよび金属からなる群、およびそれらの合金および前記のものの組み合わせから選択される基板材料を含む。
【0039】
レドックス対化合物
特定の実施態様において、電解質水溶液はさらにレドックス化合物を含み、前記レドックス化合物はカソードと溶液との界面およびアノードと溶液との界面で生じるレドックス反応に関与するレドックス対を提供し、そのことによって1つまたはそれより多くのガス状の生成物の生成を減少させるまたは除去する。例示的なレドックス化合物およびレドックス対はそれぞれ、
からなる群から選択できる。存在する場合、レドックス化合物は典型的には、電解質水溶液中で約1μM〜約5Mの範囲の濃度である。
【0040】
他の放射線分解電気化学的システムの実施態様
他の実施態様において、放射線分解電気化学的システムは、以下の(a)〜(d):
(a) カソード; ここで、前記カソードはPt、Au、Pd、Fe、Co、Ni、Ag、Ti、Ru、Cu、MoおよびIrからなる群、それらの合金および上記の金属元素および/または合金の組み合わせから選択されるカソード用金属を含み、且つ、前記カソードは約10nm〜約500nmの範囲の平均直径を有するナノ孔を含むナノスケールの組織を有し、且つ前記ナノ孔は約10nm〜約500
μmの範囲である間隔があけられている、
(b) 以下の(i)〜(iii)を含むアノード:
(i) 半導体部; ここで、前記半導体部は約10nm〜約500nmの範囲の平均直径を有するナノ孔を含むナノスケールの組織を有し、且つ前記半導体のナノ孔は約10nm〜約500μmの範囲である間隔があけられており、且つ、前記半導体部の構造はナノワイヤまたはナノチューブであり、且つ、前記半導体部は、TiO
2、Si、SiC、GaN、GaAs、ZnO、WO
3、SnO
2、SrTiO
3、Fe
2O
3、CdS、ZnS、CdSe、GaP、MoS
2、ZnS、ZrO
2およびCe
2O
3からなる群、およびそれらの組み合わせから選択される単結晶のバンドギャップの大きな半導体材料を含む、
(ii) 前記半導体部と接触することにより整流性のある金属・半導体接合を形成するショットキー用金属を含むショットキー部; ここで、前記ショットキー用金属は、Pt、Au、Pd、Fe、Co、Ni、Ag、Ti、Ru、Cu、Mo、IrおよびRhからなる群、およびそれらの合金、および前記の金属元素および/または合金の組み合わせから選択され、且つ、前記ショットキー部の厚さは約1nm〜約100nmの範囲であり、且つ、前記ショットキー部は約10nm〜約500nmの範囲の平均直径を有するナノ孔を含むナノスケールの組織を有し、且つ前記ナノ孔は約10nm〜約500
μmの範囲である間隔があけられている、および
(iii) 前記半導体部と接触することにより整流性のない金属・半導体接合を形成するオーミック用金属を含む伝導体部; ここで、前記オーミック用金属はAl、Ag、Ti、Ni、Au、Pt、Pb、MoおよびCuからなる群、それらの合金、および前記金属元素および/または合金の組み合わせから選択される、および
(c) カソードおよびアノードと接触しているがアノードの伝導体部とは接触していない電解質水溶液; ここで、前記電解質水溶液がその中の水分子を分裂させるために充分なエネルギーの電離放射線に曝された際に、前記電解質水溶液中で溶媒和フリーラジカルイオンが形成され、且つ、前記水溶液はn型半導体および/またはn
+型半導体が前記電解質水溶液と接触する際には塩基性のpHを有するか、またはp型半導体および/またはp
+型半導体が前記電解質水溶液と接触する際には酸性のpHを有し、そのことにより、半導体部と溶液との界面で安定な整流接合が形成され、且つ、前記電解質水溶液はさらに、カソードと溶液との界面およびアノードと溶液との界面で起きるレドックス反応に関与するレドックス対を提供するレドックス化合物を含み、そのことにより1つまたはそれより多くのガス状の生成物の生成が減少または除去され、前記レドックス化合物およびレドックス対はそれぞれ、
からなる群から選択される、および
(d) 電離放射線; 前記電離放射線の一部が、前記電解質水溶液中の水分子を分裂させて、正に帯電したフリーラジカルイオンおよび負に帯電したフリーラジカルイオンを形成し、それらは前記電解質水溶液中で溶媒和され、ここで放射線源は
63Ni、
90Sr、
35S、
204Tlおよび
3H、
148Gdおよび
137Csからなる群から選択されるβ粒子放出型の放射性同位体、または
210Po、
244Cm、
238Puおよび
241Amからなる群から選択されるα粒子放出型の放射性同位体であり、且つ、前記電離放射線は、保護層によって封入された放射線源からのものであり、且つ前記保護層の少なくとも一部は前記電解質水溶液と接触しており、その際、前記保護層は、放射線と電解質水溶液との間の化学反応を防止し、且つその際、放射線源はアノードから、半導体部に対する格子の損傷を防止または制限するために少なくとも充分な距離であって且つ電離放射線が前記電解質水溶液中に伝わることができるおおよその距離以下の距離をおかれている、
を含み、その際、負に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンは、それらを取り囲む水分子から解放され、且つカソードと溶液との界面でレドックス反応に関与し、且つ、正に帯電した溶媒和フリーラジカルイオンはそれらを取り囲む水分子から解放され、且つアノードと溶液との界面でレドックス反応に関与して、そのことにより、アノードおよびカソードが電気的に接続される際に仕事を行うことができる電流が生成される。
【0041】
放射線分解電気化学的反応の実施
他の実施態様において、本発明は、アノードおよびカソードを電気的に接続して上述の放射線分解電気化学システムの任意の実施態様を稼働させることを含む、放射線分解電気化学的反応を行う方法に関する。
【0042】
電流の生成
さらに他の実施態様において、本発明は、アノードおよびカソードを電気的に接続して上述の放射線分解電気化学的システムの任意の実施態様を稼働させることを含む、仕事を行うための電流を生成する方法に関する。
【0043】
水素発生機
さらに他の実施態様において、本発明は、アノードおよびカソードを電気的に接続して上述の電気化学的システムの任意の実施態様を稼働させることを含む放射線分解電気化学的反応を行うこと(その際、電解質溶液は上述のレドックス化合物を含まない)、およびレドックス反応の間に生成された水素ガスを収集することを含む、水素ガスの製造方法に関する。
【0044】
電子・ホール対および表面プラズモンの生成
議論を容易にするために、ショットキー部は白金であり、半導体部はナノ多孔質チタニアであり、且つ電子放射線はβ線とするが、記載される原理および作業は、前記に従って選択される他の適切な材料にも当てはまる。
【0045】
高エネルギーのβ線はPtおよびナノ多孔質TiO
2を通過し、電子・ホール対がナノ多孔質TiO
2内部で生成される。特に、TiO
2中で生成されたホールはPtと液体との界面に向かって移動し、その後、水分子のレドックス対と反応する一方で、電子はPtと電解質との界面でのビルトインポテンシャルに起因してナノ多孔質TiO
2を通って他方の電気的コンタクトへと輸送される。一般に、TiO
2は耐食性であるが、さらなる層のPtは、水の分裂に必要とされる高いpH値の厳しい条件下でTiO
2層をさらに保護することができる。さらに、TiO
2の多孔性は、Pt膜中に無数のナノ孔をもたらし、それが振動する外部電場に応じて調和振動子として作用する局在化表面プラズモンを生成する。
【0046】
Pt表面上で励起された表面プラズモンは、電子・ホール対を生成することができ、その際、励起された電子は一時的に、Ptの伝導帯内でフェルミエネルギー準位より上の、通常は空の状態を占有する。励起された電子の大半は、TiO
2の伝導帯に入るために充分なエネルギーを有する。電気化学的システム内のβ線は、運動エネルギーの損失を通じて水中でフリーラジカルを生成する。準安定状態において、フリーラジカルは水分子中に再結合されるか、または水分子中で捕捉される。従って、放射線によって生成されたフリーラジカルを、プラズモンを利用したバンドギャップの広い酸化物半導体材料によって、室温での水の分裂技術を使用して、電気に変換することができる。例えば、β線下で、TiO
2上の金属のナノ多孔質構造によって得られた表面プラズモンは、プラズモンとフリーラジカルとの間の効率的なエネルギー移動を介して放射線分解変換を強化した。
【0047】
β
線下でのフリーラジカルの生成および挙動
非常に強化された出力電圧を理解するためには、水の放射線分解の詳細を理解する必要がある。水溶液を通過する高エネルギーの電子は、水分子をイオン化するかまたは励起することができ、以下の式によって示されるとおり多数の遷移種および安定な生成物を形成する:
【化1】
それらの生成物の高い準位は、媒体中への100eVの吸収によって形成される。生成されたラジカルは強力なレドックス剤である(即ち、e
aq-は強い還元剤であり、H
・は同様に強い還元および酸化剤であり、且つ
・OHは強力な酸化剤である)。高pHでの水中で、e
aq-および
・OHはβ線によって最大量で生成される一方で、
・OHは主に酸性の電解質内で生成される傾向がある。e
aq-および・OHの標準電位は、それぞれ、E
0(H
2O/e
aq-)=−2.9V
NHEおよびE
0(
・OH/H
2O)=+2.7V
NHEである。完全にするために、表Aに示される1つまたはそれより多くの以下の反応((R1)〜(R50))が、水の放射線分解の間に発生するまたは起きることがある。T. Palfi et al., Rad. Phys. Chem. 79, 1154 (2010)。
【0048】
【表1】
【0049】
それらの2つの種(e
aq-および
・OH)は、水の放射線分解の間に水分子と反応し、その後、水溶液中に残留する。その際、それらは互いに、または取り囲む水分子ともはや反応できない。それらの2つの種(e
aq-および
・OH)が水溶液中で溶媒和されたら、それらは数μ秒の間、準安定状体で水分子によって取り囲まれることができる。水が非常に大きな誘電率を有し且つ極性分子からなり、そのことが正電荷と負電荷との間の静電引力を防ぎ、且つ逆に帯電した水の双極子の端部によって取り囲まれた電荷の分離状態を保持することはよく知られている。溶媒和電子の長い寿命の間、β線は水中での溶媒和電子の数を、最終的にそれらが水の表面に移動するまで連続的に増加させ、その際、それらは熱エネルギーとして放出される。浮かび上がった電子は、負に帯電した水表面を形成する。
【0050】
理論的には、水は、フリーラジカルよりも低い標準電位(E
0(H
2O/O
2)=+0.82V
NHEおよびE
0(H
2O/H
2)=−0.41V
NHE)を有し、それは水の電気化学的エネルギーがフリーラジカルの電気化学的エネルギーよりも低いことを示す。さらに、溶媒和電子(e
aq-)の高い電気化学的エネルギーは困難な化学反応が起きるのを可能にすることができる。さらには、外部電場または磁場の存在により、溶媒和電子を、取り囲む分子でそれらが取り囲まれた環境から解放することができる。これは、水中のe
aq-が非常に小さな拡散効率(4.8×10
-5cm
2/s)および電子移動度(1.84×10
-3cm
2/V・s)を有するからである。水中の溶媒和電子は、取り囲む固い水分子のネットワークによって設定される0.2〜0.5eVの電位障壁を越えるためにも必要とされる。さらには、水が両方のPt電極(プラズモン層および対向電極)の間に位置しているので、同じ電気化学的反応が両方のPt表面上で起きるのであれば、単純に電流の流れは予想されない。
【0051】
実施例
例: Ptナノ多孔質チタニア放射線分解電気化学的電池
A.
アノードの製造
図1を参照して、ナノ多孔質半導体を薄いPt膜で被覆して、特別に設計された金属・半導体接合を製造する。チタニアが半導体用に選択され、なぜならそれは一般的で安定であり、大きなバンドギャップの酸化物であるからである。薄いTi膜を陽極酸化し且つ引き続き熱酸化することによって、ナノ多孔質構造を形成した。多孔質構造の大きな表面積は、平面の表面よりも多くの化学反応部位を提供する。特に、2μm厚のチタン膜を、RFスパッタ装置を使用してガラス基板上に堆積し、且つ電極用に1cm
2の面積をパターニングした。基板を標準的な溶剤洗浄工程で洗浄し、N
2ガスを流しながら乾燥させ、且つ、直ちに0.01質量%のHF水溶液中で40Vの電圧を印加しながら5分間、陽極酸化した。陽極酸化されたTi膜を洗浄および乾燥した直後、基板を対流炉内で、450℃で2時間アニールした。半導体と金属との界面で安定なショットキーコンタクトを形成するために、薄い(50nm厚)のPt膜を、高周波(RF)スパッタ装置を使用して均質に堆積した。銅ワイヤを各々の試料の電極に接続し、エポキシで覆って電解質を電気的に絶縁した。
【0052】
図2における接合のバンド図に示されるとおり、0.45eVのショットキー障壁が形成され、なぜなら、真空準位に対して、TiO
2(n型半導体性酸化物)のフェルミエネルギー(E
F)が5.2eVである一方で、Ptのフェルミエネルギーは5.65eVであるからである。PtとTiO
2との間のショットキー障壁の高さはXPS分析を使用して確認され、且つ、PtとPt/TiO
2層との間で0.6eVで測定された。
【0053】
B.
構造特性および光学的特性
走査型電子顕微鏡法(SEM)を、FEI Quanta 600 FEG拡張真空走査型電子顕微鏡を使用して、加速電圧10kVおよびエネルギー分散型分光計(Noran System Six)を用いて実施した。X線回折(XRD)分析を、Rigaku Miniflex 600 X線回折計を使用し、Cu Kα線を用いて実施した。反射スペクトルを、Perkin−Elmer lambda 25 UV−VIS分光計および可変角反射率装備品を使用して測定した。
【0054】
ナノ多孔質TiO
2についての走査型電子顕微鏡(SEM)像およびX線回折(XRD)のデータを、
図3、
図4および
図5に示す。断面SEM像は、直径100nmおよび深さ1μmで、間隔100nmを有するナノ孔の存在を示す(
図3)。
図4は、ナノ多孔質TiO
2の、50nm厚のPt膜で被覆された表面を上から見たSEM像を示す。ナノ多孔質TiO
2膜上にPtを堆積した後、Ptナノ孔の大きさはおよそ10〜20nmになった(
図4、挿入図)。孔の密度は3〜5×10
9cm
-2である。
図5におけるXRDデータによって示されるとおり、アズデポのTiを5分間陽極酸化した後、Ti(002)ピークの強度はTi(001)ピークの強度と比べて減少し、そのことはTiの<002>方向に沿って垂直に配置された均質なナノ孔の存在を示す。陽極酸化されたTiを450℃で2時間熱酸化した後、Tiの(001)および(002)ピークは消失し、且つ、ルチルの結晶構造に相応する新しいピーク(37.24°)が現れ、そのことはTiO
2が3.2eVのバンドギャップを有することを示す。
【0055】
C.
電気特性
試験用の設定およびPt/ナノ多孔質TiO
2カソードの図を
図6および
図7に示す。実験の間、
90Sr/
90Y源のPETプラスチックでシールドされた膜上でのガスの泡は、水の分裂が起きていることを明らかに実証した。ポテンシオスタットを使用して、1MのKOH水溶液中でのPt/ナノ多孔質TiO
2電極の放射線分解性能を評価した。データ採取のために、ポテンシオスタット(DY2322、Digi−lvy)を3つの電極(参照電極、対向電極および作用電極)に接続した。連続的なJ−V測定を、3電極系において、一定の掃引速度0.05V/sで、Ag/AgCl参照電極に対して1.0V〜−1.5Vで採取した。他の可能な参照電極は、標準水素電極、飽和カロメル電極、銅−硫酸銅(II)を含む。電解質溶液は1MのKOHであった(Sigma Aldrich、99%)。我々の実験のために、ステンレス鋼内に封止された放射性同位体源(
90Sr/
90Y、15mCi)を選択した。電極と放射線源との間の距離は、素子表面で15mCiの一定の放射能を保持するように選択され、それは約1mmであった。全ての実験は、光電流の作用を排除するために暗室内で実施された。さらに、反応が拡散されたラジカルのみを含むことを確実にするために、溶液は撹拌されなかった。
【0056】
電流密度・電圧特性を、開路電圧および0V、−0.1V、−0.4V、−0.7Vおよび−0.9Vでの電流密度で1200秒間、各々連続的に照射しながら測定した。
図8は、照射下でのPt/ナノ多孔質TiO
2放射線分解電極についての電流密度・電圧(J−V)特性を示す(赤線)。比較のために、照射下でのナノ多孔質TiO
2電極の放射性電流(radio current)(青線)および非照射下でのPt/ナノ多孔質TiO
2の暗電流(黒線)。ナノ多孔質TiO
2の放射性電流がPt/ナノ多孔質TiO
2の暗電流よりもわずかに大きい一方で、Pt/ナノ多孔質TiO
2の放射性電流は、ナノ多孔質TiO
2の放射性電流とPt/ナノ多孔質TiO
2の暗電流との両方よりも著しく大きい。Pt/ナノ多孔質TiO
2の放射性電流密度が0Vについて−175.4μA/cm
2で飽和する一方で、Pt/ナノ多孔質TiO
2の暗電流密度およびTiO
2の放射性電流密度は、それぞれ約−1.051μA/cm
2および−0.0719μA/cm
2である。−0.9Vで、Pt/ナノ多孔質TiO
2の放射性電流密度、Pt/ナノ多孔質TiO
2の暗電流密度、TiO
2の放射性電流密度は、それぞれ−83.336μA/cm
2、70.31μA/cm
2、および2.85μA/cm
2である。これらの測定を以下の表Bに要約し、照射された素子の性能をPt/ナノ多孔質TiO
2およびナノ多孔質TiO
2で比較する。
【0057】
【表2】
【0058】
図9は、プラズモンPt層の有無による、素子からの出力電圧における明確な違いを表す。Pt/ナノ多孔質TiO
2電極の出力電圧密度(−0.1Vで11.59μW/cm
2および−0.9Vで75.02μW/cm
2)は、ナノ多孔質TiO
2の電圧密度(−0.1Vで−0.0027μW/cm
2および−0.9Vで−2.565μW/cm
2)よりも高い。15mCi(±10%)の放射性材料の能力については、単位時間あたりのβ粒子の総数が5.55×10
8s
-1と見積もられ、且つβ粒子の全入力電力密度は139.238μW/cm
2であり、ここで
90Sr/
90Yの平均運動エネルギーは490.96keVである。従って、効率は74.7%となる。照射下での高い出力電圧についての1つの可能な理由は、β粒子のEHPイオン化エネルギーの特定の準位が容易に電子を励起することができることであり、なぜなら、EHPイオン化エネルギーは各々の材料のバンドギャップよりもはるかに高い一方で、太陽光のスペクトルの大部分はTiO
2のバンドギャップより低く、そのことは、TiO
2層が日光を充分に吸収しないことを示すからである。従って、β粒子は、水の分裂を介した電気の生成のために信頼性のあるエネルギー源である。
【0059】
D.
数値的なシミュレーションを使用した電子線のエネルギー吸収
強化された放射線の電力変換の機構を研究するために、水溶液中に吸収されたエネルギーをモンテカルロ(MC)シミュレーションを使用して計算した。このシミュレーションに使用された電子の数は10,000であり、且つ、電子線の運動エネルギーは546keVであった。β粒子は電子(e
-)または陽電子(e
+)であり、それは核内での中性子対プロトン比が大きすぎる場合に生成され、核を不安定にする。このシミュレーションにおいて、一時電子によって生成された二次電子の存在は無視され、且つ電子線はガウス分布によって定義された。TiO
2膜によって吸収されたエネルギーは、電子線の総エネルギーの約0.25%であると計算された(
図10および
図11)。水の中心で、吸収されたエネルギーは約55.57%であった。入射β線は、我々のナノ多孔質構造によって散乱され且つ反射することができ、そのことは、このシミュレーションにおいて予想されるよりもより多くのエネルギーがPt/ナノ多孔質TiO
2および水によって吸収されるであろうことを示すことに留意されたい。
【0060】
β線は一次はじき出し原子(PKA)によって固体中で空位を作り出すことができる。ルチルのTiO
2については、はじき出しの閾値エネルギーは約47eVである。空位の生成のために必要とされるβ線の入射運動エネルギーの水準は、はじき出しのエネルギーの式、T
m=2(E+2mc
2)E/Mc
2から見積もることができ、前記式中、Eはβ線の運動エネルギーであり、cは光速であり、且つmおよびMはそれぞれ電子および目標原子の質量である。β線下で、47eVのはじき出しの閾値エネルギーは、酸素について271keVおよびチタンについて633.5keVの入射運動エネルギーと等価である。水が356keVのβ線を吸収できることも、MCシミュレーションから判明した。TiO
2におけるPKA損傷が271keVを上回る運動エネルギーから生じるので、我々の放射線分解電池の性能の劣化は、627keVを上回る運動エネルギーで開始し得る。
90Sr/
90Yからのβ線が627keVよりも高いエネルギーのβ粒子を含むにもかかわらず、前記放射線分解電池は約6時間の間、いかなる性能の劣化も示さなかった。さらには、水は、
90Sr/
90Yの放射スペクトルにおける全運動エネルギーの72.02%を吸収することができる。
【0061】
Pt/ナノ多孔質TiO
2を通過する全運動エネルギーを測定するために、放射線源の方向損失を考慮に入れた。方向損失は、距離と源の形状に関する、源と素子との間の幾何学的な作用である。各々R
sおよびR
dの半径を有する2つの平行な円板が距離Lのところに設置される場合、立体角(Ω
s)は
【数1】
によって計算される。従って、方向損失(η)はη=(1−Ω
s)・100%によって見積もることができる。本願の放射線分解電池の方向損失は、約54.88%であると見積もられ、且つ、627keVよりも高い運動エネルギーの量はβ線の全運動エネルギーの12.62%のみであり、このことは、放射線分解電池の性能の劣化が深刻なものではあり得ないことを示す。
【0062】
この状況において、入射高エネルギーβ粒子は、半導体内でエネルギー損失を介して電子を励起することができ、前記エネルギー損失は
【数2】
によって示される電子・ホール対(EHP)イオン化エネルギーとして定義され、前記式中、E
gおよびE
phはそれぞれ、バンドギャップおよびフォノンのエネルギー(0.5≦E
ph≦1eV)である。TiO
2については、W
±は約9.46eVである。高いEHPイオン化エネルギーは、TiO
2と液体での界面での低いショットキー障壁をトンネルするために充分であるため、
図8に示されるとおり、ナノ多孔質TiO
2の放射性電流は、Pt/ナノ多孔質TiO
2の放射性電流よりも低い。β粒子がTiO
2層(1μm)を通過する際、生成されるEHPの数は単独のβ粒子あたり約144と見積もられる、即ち、付与電力は0.12μW/cm
2と見積もられる。空乏領域内で生成されたEHPの大半が薄いTiO
2層のビルトインポテンシャルによって分離されるにもかかわらず、測定された出力電力密度は、−0.9Vで75.02μW/cm
2である予想値よりも遙かに低かった。この結果は、β線を介してTiO
2内で生成されたEHPが実験において測定された全出力電力密度を生成するためには不充分であることを示す。
【0063】
E.
時間領域差分法(FDTD)シミュレーション
我々の素子において1つの使用可能な外部電場は、Ptナノ孔の表面プラズモンからの局所電場である。Pt/ナノ多孔質TiO
2放射線分解電極上で表面プラズモンを生成するために、3D−FDTD(時間領域差分法)の数値的なシミュレーションを、電子照射をシミュレーションするための市販のFDTDコードを使用して行った(例えばwww.lumerical.comで入手可能)。FDTDシミュレーションは、ガラス基板上で直径10nmおよび深さ505nmを有するナノ孔の周期的な配列で構成されるPt(50nm)/ナノ多孔質TiO
2(1μm)に基づいた。電子線は、電子線の速度によって定義される時間位相の遅延を有する一連の密集した双極子としてモデル化された。構造の不在下で、一定の速度で動く電子線はいかなる放射線も生成しない。計算において使用された材料の特性は、Devore, J. R. Refractive indices of rutile and sphalerite, J. Opt. Soc. Am. 41 , 416−419 (1951)およびPalik, E. D., Handbook of optical constants of solids, Academic Press (1997)内に示される分散のデータに基づく。
図14〜
図16のナノ孔の底部での異なる位置での詳細な電子照射プロファイルは、Pt/ナノ多孔質TiO
2構造が散乱方向に強い影響を及ぼすことを示す。
【0064】
FDTDにおいては、巨視的なマックスウェル方程式が、印加された電場に対する材料の応答に従う離散的な空間および時間において解かれる。Pt/ナノ多孔質TiO
2においてβ線で励起されたフォトンの放出の数値的な調査のために、電子線を
【数3】
によって表される線電流密度源としてモデル化することができ、前記式中、eは電子による電荷であり、vは電子の速度であり、(x
0,y
0)は集光された電子線の位置を表し、zは電子の速度の方向であり、且つ、
はz方向沿いの単位ベクトルである。該シミュレーションにおいて、電流密度は、電子の速度vに関連する時間位相の遅延(z/v)を有する一連の双極子としてモデル化された(このシミュレーションにおいては、v=0.875c、実験内で使用されたβ粒子の運動エネルギー546keVに相応、且つcは自由空間中での光速である)。シミュレーションは、3つの異なる点: 孔の中心、孔の側壁、および2つの孔の間(
図12において1、2および3として印す)で行われた。
【0065】
近傍界の電気的強度および異なる位置での放出スペクトルをシミュレートするために、誘導された電場分布を[E]
2/[E
0]
2によって計算し、前記式中、EおよびE
0はそれぞれ、生成された電場強度および最小の電場強度であり、200〜700nmの波長範囲内でPt表面に対して直角に、および平行に放射される。集光された電子照射下での異なる位置でのPt/ナノ多孔質TiO
2における近傍界の強度分布を、FDTDシミュレーションを使用して調査した。
図13に示されるとおり、電子照射が
図12における位置1、2および3付近にそれぞれ集光される場合、最も高い放出スペクトルピークは波長293nm、517nm、および376nmで生じると計算される。それらの結果は、ナノ孔が照射される場合に、最も強い表面プラズモンのエネルギー(4.23eV)および場の強度が生成されることを示す。周期的なPt/ナノ多孔質TiO
2上の位置3については、異なるパターンも示される。表面プラズモンを確認するために、UV−VIS分光計を使用してPt/ナノ多孔質TiO
2構造の反射率を測定した。
図13に示されるとおり、プロット1〜3は、水中のPt/ナノ多孔質TiO
2の計算された放出スペクトルである一方で、プロット4は、空気中のPt/ナノ多孔質TiO
2の測定された反射率である。プロット4の反射ピーク(ドット)は、プロット1〜3で示されるシミュレーションされた放出ピークに関して同様の位置で見出された。Pt/ナノ多孔質TiO
2の最も強い反射ピーク(矢印)は、空気/Ptナノ孔におけるプラズモン共鳴結合によって245nm(5.06eV)で示される。
【0066】
2つの材料の間の表面プラズモン現象を理解するために、適切な連続的な関係を有する比誘電関数
【数4】
を有する2つの材料の間の界面での電磁波についてマックスウェル方程式を解いた。該誘電関数の実数部と虚数部が示される。n
jおよびκ
jはそれぞれ、屈折率および消衰係数であり、jは1または2である。境界条件により、表面上を伝搬する波についての分散関係は
【数5】
であり、前記式中、k(=k’+ik’’)、ωおよびcはそれぞれ、波数および波の周波数、光速である。純粋に虚数ではないk’については、
【数6】
である。この関係に基づき、
図17に示されるグラフがプロットされた。
【0067】
表面プラズモンのエネルギーは
【数7】
付近で生じるので、表面プラズモンの波長はPtの線(実質的に線形の関係の線)上の交差する点から見つけることができる。水とPtとの界面(Ptの線と水の線(約2のところでy軸と水平に交差する)との交点)と比較して、空気とPtとの界面(Ptの線と空気の線(約1のところでy軸と水平に交差する)との交点)は、わずかに短い波長で表面プラズモン現象を示す。
図17における水とPtとの交点および空気とPtとの交点での波長は、
図13におけるプロット1および4に図示されたとおりの最も強い反射ピーク(左のドット)での波長に非常に近い。さらには、PtとTiO
2との界面での表面プラズモンのエネルギーは、
図13に図示されたとおりの450nm付近の落ち込み(右のドット)と一致する。従って、
図13のプロット4に示された放出ピークおよび
図17に示された左のドットからの合致したデータは、電子線照射下での空気/Ptナノ孔におけるプラズモン共鳴結合の証拠を示す。2つの層の計算データ(
図17)と、多層のシミュレーション結果(
図13、プロット1〜3)と、実験データ(
図13、プロット4)との間には、非常に少ない量のばらつきしかない。
【0068】
さらに、最も高い電場強度を示した電子のプロファイル(
図14〜
図16)は、電子照射経路(電気双極子)を追跡することができ、且つ同時に、Pt/ナノ多孔質TiO
2構造における電場強度も、Ptナノ孔で生成される表面プラズモンによって電子照射経路付近で強化される。
【0069】
F.
レーザー励起
Pt/TiO
2における表面プラズモン効果をよりよく理解するために、Pt/TiO
2構造において3つの異なるレーザーを使用した励起を行った。様々な色、例えば赤(650nm、1.91eV)、緑(532nm、2.33eV)および青(405nm、3.05eV)を有するレーザーを使用し、且つ全てのレーザーの励起電力は5mWであった。空気とPtとの界面についての表面プラズモンの波長は
図17に示されるとおり、250nm付近で見出される。より短い波長(250nmにより近い)を有する青色レーザーは、長い波長を有する他のレーザーよりも良好に結合することができる。青色レーザーによって励起されたPt/TiO
2の開路電圧(V
oc)および短絡電流(I
sc)が最も高い値を示し、それは表面プラズモンによって生成されたホットキャリアが薄いTiO
2膜を通じたそれらの輸送を効率的に高めることを意味し、なぜなら、表面プラズモンのエネルギーは、フォトンのエネルギーが増加する際にPt/TiO
2のトンネル障壁よりも高くなるからである。従って、それらのレーザーよりも高いエネルギーを有するβ線は、Pt表面上で生成されたホットキャリアを効率的に輸送するために充分な表面プラズモンのエネルギーを生成することができる。
【0070】
G.
議論
金属電極の表面に移動する電子およびホールは、金属表面上で吸収された反応物質をそれぞれ還元および酸化することができる。還元(Red)および酸化(Ox)反応は、
図8のJ−V測定データに示されるとおり、還元電流および酸化電流を生成することができる。酸化電流密度(下方の赤い曲線)は、照射下、0Vで、還元電流(上方の赤い曲線)よりも低く、それは反応 Red→Ox+ne
-がPt/ナノ多孔質TiO
2上で支配的であり、且つ使用可能な電子が連続的に供給されることを示し、一方で、照射されていない素子の電流密度のデータ(上方および下方の黒い線)は大きく異なるように見えない。
【0071】
図14〜16に示されるように、非常に局所化された電場がPt表面を横切って振動する場合、電場の振動によるPt表面における電子密度の変位は、周囲の分子イオンと相互作用することができるクーロン引力を生成し、それは、水分子によって取り囲まれたe
eq-および
・OHイオンが脱出でき且つ局在化表面プラズモンを介してPt表面に取り付けられることができることを意味する。しかしながら、局在化表面プラズモンのエネルギーがe
eq-および
・OHのエネルギー障壁よりも低い場合、それらはコヒーレントに振動できないか、または準安定状態から脱出できない。e
eq-および
・OHの仕事関数は、真空準位に対してpH0でそれぞれ1.6eVおよび7.2eVであると計算された。FDTDシミュレーションから、表面プラズモンのエネルギー4.23eVが決定され、それは真空準位から1.42eVであり、且つe
eq-のエネルギー準位よりも高く、そのことにより、電子がそれらの準安定状態から脱出し且つ脱出した電子が金属表面上で表面プラズモンを生成することが可能になる。
【0072】
さらに、励起された電子の存在は、同量のエネルギー(真空準位に対して10.64eV)を有する励起されたホールが存在することを示す。それらの励起されたホールはPt表面上で
・OHと相互作用することができる。実際には、Pt/TiO
2のショットキー接合はn型のTiO
2層内で空間電荷領域を作り出し、なぜなら、電子はTiO
2側からPt側へと拡散する一方で、ホールは逆に移動するからである。平衡状態において、Pt中の等量の電子がPtとTiO
2との界面で捕捉され、且つTiO
2側からPt側に向かって内部電場(0.45eV)を作り、さらなるキャリアの移動を妨げる。表面プラズモンがβ線によってPt表面上で生成される場合、Pt中の電子は、内部電場よりも高い表面プラズモンの電場によってTiO
2に向かって押され、且つ同時にホールはPtと水との界面に向かって動く。蓄積されたホールは、負に帯電したイオンまたはラジカルのようなドナーを引きつける。従って、強い電場の強化が、Ptと水との界面で蓄積されたホールの数を著しく増加させ、且つ大きな内部電位差を作り出すことができる。
【0073】
取り囲む水分子の電位障壁(0.2〜0.5eV)よりも高いエネルギーで、溶媒和電子(e
eq-)は水中で迅速にPt表面に向かって引きつけられることができる。さらには、表面プラズモンは可視波長において数百GHzの共鳴周波数を有する。これは、強いクーロン引力が非常に速く振動して水中のe
eq-を引きつけることを意味する。TiO
2とPt対向電極との間の距離が5cmである場合、電場は約0.09V/cmであり且つ水中の電子の速度は1.6256×10
4cm/sに達する。水中のe
eq-がTiO
2から1mm離れているとすると、それは603秒でTiO
2表面に移動でき、且つ大半の溶媒和電子はTiO
2電極に迅速に到着しない。従って、開路電圧のゆっくりと飽和する曲線が、β線照射下のTiO
2電極上で観察される一方で、Pt/TiO
2電極は非常に速く飽和する曲線を有する。TiO
2電極の電場は、表面プラズモン効果を有するPt/TiO
2電極の電場よりも遙かに弱く、且つ電場強度におけるこの違いが、水中のe
eq-の収集に影響を及ぼし得る。e
eq-が電極表面に到達したら、e
eq-はいかなるエネルギー損失もなく注入され、なぜなら、電気化学的エネルギーがTiO
2の伝導帯端(−0.1〜−0.2 V
NHE)よりも高いからである。
【0074】
前記を考慮すると、β線は水中の運動エネルギーの損失を通じて多くのフリーラジカルを生成する。その際、β線によるPt表面での局在化表面プラズモンの生成は、水中でβ線によって生成されたフリーラジカルを含む化学反応を強化する。Pt/ナノ多孔質TiO
2の5.04eVでの反射ピーク、およびシミュレートされた放射スペクトルと測定された反射スペクトルとの間の類似性は、表面プラズモン共鳴がTiO
2のバンドギャップのエネルギーよりも高いエネルギーで生じることを示し、そのことは、TiO
2と表面プラズモンとの間の共鳴エネルギーの移動を示す。
【0075】
表面プラズモンによって生成された熱い電子の数の増加が、Pt/TiO
2接合の厚さを減少させ、且つその接合の電場を高めるので、狭い接合が、フリーラジカルから得られたキャリアが薄膜内でキャリアの緩和なくコンタクト用の金属に向かって効率的に移動することを可能にする。プラズモン性Pt層を有する素子からは、プラズモン性Pt層のない素子からよりも遙かに高い電力が生成されたことが確認された。レーザーの試験によって示されたとおり、増加した表面プラズモンのエネルギーはPt表面上で生成されたホットキャリアを効率的に輸送することができる。従って、放射線分解電池から得られる高い電力密度は、大きな電気化学的エネルギーを有する連続的に蓄積されるフリーラジカルが、Pt表面上で生成された表面プラズモンエネルギーによって電気に変換されることに起因し得ると結論付けることができる。
【0076】
例: チタニア−シリコン放射線分解電気化学的電池
A.
アノードの製造
図22(a)および(b)を参照して、2cm×2cmのアンチモンでドープされたn
+型(100)Siウェハ(0.02−0.04Ωcm、University Wafer)をまず、標準的な溶剤洗浄工程で洗浄した。その後、ウェハを窒素ガス流で乾燥させ、且つエタノール中に懸濁されたチタニアナノ粒子(Degussa Corp.、P25)で直ちに被覆した。エタノールをホットプレート上で、100℃で3分間蒸発させた。その後、ナノ粒子を対流式オーブン内、450℃で2時間アニールした。ナノ粒子膜の厚さは約20μmであった。TiO
2ナノ粒子で被覆されたSi基板の裏面に、銀塗料を使用して銅ワイヤを取り付けた。電極を完成させるために、試料の端部および裏面をエポキシで保護して、それらを接触する電解質から絶縁した。
【0077】
B.
構造特性および光学的特性
走査型電子顕微鏡法(SEM)を、FEI Quanta 600 FEG拡張真空走査型電子顕微鏡を使用して、加速電圧10kVおよびエネルギー分散型分光計(Noran System Six)を用いて実施した。X線回折(XRD)分析を、Rigaku Miniflex 600 X線回折計を使用し、Cu Kα線を用いて実施した。反射スペクトルを、Perkin−Elmer lambda 25 UV−VIS分光計および可変角反射率装備品を使用して測定した。蛍光ランプのスペクトルをOcean optics製のHR2000+分光計によって測定した。
図19(c)に示されるとおり、EDSスペクトルはTi、OおよびSi(基板に起因)が観察されたことを示す。この結果は、他の不純物がTiO
2ナノ粒子膜内に含有されていないことを明らかに示す。
【0078】
我々はX線回折(XRD)分析を調査し、なぜなら、組成比およびナノ粒子のサイズはTiO
2と電解質との界面での水の分裂の強化に著しく影響するからである。
図20は、TiO
2ナノ粒子膜のX線回折(XRD)データを示す。XRDデータはアナターゼとルチルとの両方の結晶構造に相応する多くのピークを示す。2つの結晶相の存在は、元の材料がアナターゼとルチルとの混合物であったという事実によって理解することができる。アナターゼ(101)ピークおよびルチル(110)ピークは、式
【数8】
を使用して分析され、前記式中、IAおよびIRはそれぞれアナターゼおよびルチルのピークのX線強度である。アナターゼおよびルチルの見積もられる質量パーセンテージは、82%および18%である。平均結晶サイズは、L
c=kl/bcosqによって記載されるシェラーの式によって計算され、前記式中、k(0.94)およびl(Cu Kα1=0.1540593nm)は多結晶の形状およびX線の波長に関し、bおよびqはそれぞれの回折ピークの半値幅(FWHM)およびブラッグ角である。XRDデータからのピークのFWHMの値を得るために、観察された回折パターンをガウス関数によってフィッティングした。ここから、アナターゼのTiO
2とルチルのTiO
2の粒径はそれぞれ約20.3nmおよび28.4nmであった。
【0079】
C.
数値的なシミュレーションを使用した電子線のエネルギー吸収
TiO
2(バンドギャップ: 3.2eV)におけるβ線のエネルギー損失を理解するために、水溶液中に吸収されたエネルギーをモンテカルロ(MC)シミュレーションを使用して計算した。このシミュレーションにおいて使用された電子の数は100,000であり、且つ、電子線の運動エネルギーは1.176MeVであった。β粒子は、電子(e
-)または陽電子(e
+)であり、且つ中性子対プロトン比が不安定である場合に生成される。放射性同位体
137Csはβ粒子(電子、1.176MeV)およびγ線(661.6keV)を放出するが、このシミュレーションについてはそれはβ粒子のみを放出すると仮定された。γ線が高エネルギーのフォトンであるため、γ線はコンプトン散乱および半導体中への光電吸収によって高エネルギーの電子を励起することができ、その後、それらのエネルギーのある電子は、材料中で電子と電子との衝突および様々な励起子の生成を介してそれらのエネルギーを失う。しかしながら、γ線(661.6keV)の質量減衰係数は、Siについて約0.0778cm
2/gであり且つTiO
2について約0.028cm
2/gである一方で、β粒子についての質量吸収係数(1.176MeV)は約14.13cm
2/gである。質量減衰係数および質量吸収係数(μ)は、
【数9】
に関し、前記式中、N
0およびN(t)はそれぞれ、β粒子またはプロトンの初期の数および半導体の厚さtでのそれらの数である。従って、このシミュレーションにおけるγ線の効果は除外でき、なぜなら、γ線と半導体との相互作用はβ粒子と半導体との相互作用よりも遙かに小さいからである。
【0080】
我々の現実の試験の設定を模倣するために、電子線の直径は7.5mmであり且つ線源は水中で電極から1mm離れているように設定された。電極はTiO
2(10μm)、シリコン(300μm)およびエポキシ(2mm)からなった。このシミュレーションは、一次電子によって生成される二次電子の存在は無視したことに留意されたい。
図21(a)は、水との界面での電子線の吸収されたエネルギー分布である。電子線の中心で吸収されたエネルギーの強度は、線の外側よりも遙かに高く、なぜなら、電子線はガウス分布によって定義されるからである。
図21(b)に示されるとおり、TiO
2膜およびSi基板中に吸収されたエネルギーはそれぞれ電子線の全エネルギーの約4.5%および13.5%であると計算された。また、水の中心において吸収されたエネルギーは約24.9%であった。最後の電子は、TiO
2/Siを通過してエポキシの中央で停止する。放射能が5μCiである場合、単位時間あたりのβ粒子の総数は0.925×10
5s
-1であると見積もられる。β粒子の全入力電力密度は30.757mW/cm
2であると見積もられた。ここで、高エネルギーを有する入射β粒子は相互作用を介して半導体中の電子を励起することができる。高エネルギー放射線下で、それらの相互作用は、
【数10】
によって示される電子・ホール対(EHP)のイオン化エネルギーとして定義される量におけるそのエネルギーを引き渡すために、β粒子を必要とし、前記式中、E
gおよびE
phはそれぞれバンドギャップおよびフォトンのエネルギーである(0.5<E
ph<1eV)。TiO
2について、W
±は約9.46eVである。β粒子がTiO
2(20μm)を通る際、生成されたEHPの数は、吸収されたβ粒子のエネルギー対TiO
2におけるEHPイオン化エネルギーの比によって、単独のβ粒子あたり約5594と見積もられ、且つ電力の付与は1.384nW/cm
2によって見積もられる。Si(300μm)についてはさらに、W
±は約3.6eVであり且つ生成されたEHPの数および付与電力はそれぞれ約44100および4.152nW/cm
2である。しかしながら、空乏領域から1より多くの拡散距離ぶん離れた、生成されたEHPの大部分は、ビルトインポテンシャルによって分離前に再結合される。TiO
2膜がナノ粒子からなるので、その拡散距離は単結晶構造を有するSiの拡散距離よりも遙かに短い。従って、n
+型Siの短い空乏領域にもかかわらず、シリコン基板内部で生成されたフォトキャリアの多くは空乏領域に動くことができ、Si中での長い拡散距離のおかげで電子を戻す。これは、我々の試験設定において、TiO
2およびSi内で生成されたEHPの多くが電気を生成するために使用され得ることを意味する。
【0081】
D.
電気特性
放射性電流および光電流を測定するための、試験の設定および電極の構成を
図22(a)および(b)に模式的に示す。I−V測定を、3電極系において、一定の掃引速度0.05V/sで、Ag/AgCl参照電極に対して1.5V〜−1.5Vで採取した。それぞれの電解質溶液は硫酸リチウム(Li
2SO
4、Sigma Aldrich、99%)および硫酸(H
2SO
4、95〜98%)であった。1MのKCl溶液で満たされた塩のブリッジを、2つの半電池の間で使用した。封止された標準的な放射性同位体源(137Cs、5μCi、Pasco)を選択した。電極から放射線源までの距離は約1mmに定められ、素子表面で5μCiの一定の放射能が保持された。データ採取のために、ポテンシオスタット(DY2322、Digi−lvy)を3つの電極(参照電極、対向電極および作用電極)と接続した。全ての実験は、光電流からの作用を排除するために暗室内で実施された。さらには、拡散されたラジカルのみとの反応を確実にするために、溶液中で撹拌は使用されなかった。
【0082】
図22(c)はTiO
2/Si放射線分解電極についての電流対バイアス電圧(I−V)特性を示す。比較のために、TiO
2/Si電極のI−V特性は、200nm〜1100nmの範囲で熱量計(Scientech、AC5000)を使用して測定された光強度6.6mW/cm
2を有する蛍光ランプの下で測定された。TiO
2のバンドギャップより上で、TiO
2中で吸収可能な波長(<387.5nm)は、蛍光ランプの放出光全体の約8.86%であり、これは、吸収可能な電力強度が約584.76W/cm
2であることを意味する。Si基板の吸収可能な平均電力強度は、約6.5%(428.957μW/cm
2)であると計算された。1.5Vで、TiO
2/Si電極における電流は、放射性電流(−18.2μA、中央のプロット)よりも多くの光電流(−42.6μA、一番上のプロット)であった。暗電流(下方のプロット)は1.5Vで−8.05μAであった。放射線の活性な領域は、光活性領域の約44.2%であり、なぜなら、電子線の直径がより狭いからであることに留意されたい。放射線の入力エネルギーと比較して、莫大な量のフォトンの入力エネルギーがTiO
2/Si電極に供給され且つ吸収されるにもかかわらず、1.5Vでの光電流は放射性電流から大きくは異ならなかった。放射性電流が強化されることについての1つの可能な理由は、蛍光ランプのスペクトルが、TiO
2のバンドギャップ未満のより広い波長を有することであり、これはこの材料内における吸収がないことおよび厚いTiO
2膜に起因するSi基板における低い吸収を示す。一方で、各々の材料におけるβ粒子のEHPイオン化エネルギーは材料中で電子を容易に励起でき、なぜなら、それが各々の材料のバンドギャップのエネルギーよりも遙かに高いからである。他の可能な理由は、β粒子の運動エネルギーの損失による電極内でのEHPの多重の生成である。それらの結果は、β粒子が通常光と比較して、水の分裂を通じた電気の生成のためのより良い源であることを示唆する。
【0083】
E.
フリーラジカルの生成
さらに、水の放射線分解によるフリーラジカルの生成を評価した。水溶液を通過する高エネルギーの電子は、水分子をイオン化するかまたは励起することができ、以下の式によって示されるとおり多数の遷移種および安定な生成物を形成する:
【化2】
前記の生成物の多くの分子は、媒体中への100eVの吸収によって形成される。生成されたラジカルは強力なレドックス剤である、即ち、e
aq-は強い還元剤であり、H
・は同様に強い還元および酸化剤であり、且つ
・OHは強力な酸化剤である。水溶液の放射線分解能力を理解するために、0.1MのLi
2SO
4電解質を有する5mg/Lのメチレンブルー(MB、C
16H
18ClN
3S)水溶液の放射線分解脱色をUV−VIS分光計によって評価した。この色素溶液の試料20mlを、
137Csの放射線下で瓶の中に入れ、且つ吸収スペクトルを測って、MBの濃度を、リファレンスを用いて時間の関数として測定した。MB溶液において292nm、613nmおよび663nmの特有のピークがあった。両方の溶液のそれらのピーク強度は時間の増加と共に徐々に低下した。脱色の割合は、
図23に示されるとおり、λmax=663nmでの強度における変化に関して見積もられる。1380分の放射後、663nmでのMB水溶液の吸収ピークはそれぞれ、放射線のない場合には91.46%低下し、放射線ありの場合は82.58%減少した。色素がフリーラジカルと反応する際、分解生成物が生成され、引き続きMBの色が希釈される。MBとフリーラジカルとの反応速度は、式:
y=y
0+A
1 exp(−k
1t)+A
2 exp(−k
2t)
によって記載される。前記式中、k
1およびk
2は2つの分解生成物の反応速度であり、且つtは時間である。それらの結果は、共に熱的に活性化された過硫酸塩の酸化および放射線曝露によってLi
2SO
4水溶液内で形成される
・OHおよびSO
4・-のフリーラジカルに起因し得る。熱的な活性化を通じて、過硫酸塩がS
2O
82-+熱→2SO
4・-によって活性化されることができ、その際、ヒドロキシル基がSO
4・-+H
2O→SO
42-+
・HO+H
+によって生成され得る。それらのラジカルはMBの分解を引き起こすことができる。以下の表Cに示されるとおり、放射線曝露ありのMBについてのk
1が放射線曝露なしのMBについてのk
1と類似しているが放射線曝露ありのMBについてのk
2は放射線曝露なしのMBについてのk
2と比較して47.5%高いので、k
1およびk
2はそれぞれSO
4・-および
・OHに関連し得ると考えられる。さらには、放射線曝露ありのMBについての振幅A
1およびA
2は、放射線曝露なしのMBについてのものと比較して約122.0%および76.2%高い。放射線によって水溶液中で生成されるそれらのフリーラジカルは、TiO
2中の励起された電子によって生成される
・OHとの触媒活性を非常に高めることができる。従って、放射線曝露下で生成された電流の著しい増大は、放射線によって水中で形成された
・OHおよびSO
4・-ラジカルがTiO
2/Si電極上の放射線触媒(radiocatalytic)活性における増加に影響し得るからである。
【0084】
表C
0.1MのLi
2SO
4水溶液中のメチレンブルーの分解についての速度定数および振幅の比較。
【0085】
【表3】
【0086】
TiO
2/Si電極の放射線触媒作用が実証された。放射線触媒化学電池は、光触媒化学電池より大きな電流の生成を示した。電子・ホール対の高いイオン化エネルギー、および電子・ホール対の増加、およびβ粒子の運動エネルギーの損失によって生成されたフリーラジカルを使用して、TiO
2ナノ粒子膜のエネルギー吸収が強化されたおかげで、放射線触媒電池の性能が著しく強化された。
【0087】
本発明の原理が例示され且つ説明され、当業者にとっては、かかる原理から逸脱することなく本発明を配置および詳細において修正できることが明らかであるはずである。
【0088】
本発明の材料および方法が様々な実施態様および例示的な実施例に関して説明されたが、当業者にとっては、本発明の概念、主旨および範囲から逸脱することなく、ここに記載された材料および方法に変更を適用できることが明らかである。当業者にとって明らかな全てのかかる同様の代替および修正は、添付の特許請求の範囲によって定義されるとおりの本発明の主旨、範囲および概念の範囲であると考えられる。