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特許6381553電気化学電池用の電解質およびその電解質を含有する電池セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381553
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】電気化学電池用の電解質およびその電解質を含有する電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0563 20100101AFI20180820BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180820BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20180820BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20180820BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20180820BHJP
   C01F 7/00 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   H01M10/0563
   H01M10/052
   H01M10/054
   H01M4/48
   H01M4/58
   !C01F7/00 Z
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-556397(P2015-556397)
(86)(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公表番号】特表2016-511922(P2016-511922A)
(43)【公表日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】EP2013000366
(87)【国際公開番号】WO2014121803
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】517005824
【氏名又は名称】アレヴォ・インターナショナル・エス・アー
【氏名又は名称原語表記】ALEVO INTERNATIONAL S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ジンク,ロラン
(72)【発明者】
【氏名】プスツォッラ,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ダムバッハ,クラウス
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05145755(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36、10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化硫黄および導電性塩を含有する電気化学電池用の電解質であって、
前記電解質中の水酸基のモル濃度は、50mmol/l以下であり、
前記電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度は、350mmol/l以下であることを特徴とする電解質。
【請求項2】
前記電解質中の水酸基のモル濃度は、45mmol/l以下であることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度は、250mmol/l以下であることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項4】
前記電解質は、導電性塩1モル当たり、少なくとも1モルのSOを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項5】
前記導電性塩は、ルイス酸/ルイス塩基付加物であり、前記電解質は遊離ルイス塩基を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項6】
前記導電性塩は、アルカリ金属のアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩または没食子酸塩であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項7】
前記導電性塩は、テトラハロゲンアルミン酸リチウムであることを特徴とする、請求項6に記載の電解質。
【請求項8】
前記電解質が、前記電解質中に溶解した全ての塩のモル数に対して、30モル%以下の、活性金属のカチオンとは異なるカチオンを有する溶解した塩を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解質、正極および負極を含有する電気化学的電池セル。
【請求項10】
活性金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属または周期表の第12族の金属またはアルミニウムであることを特徴とする、請求項9に記載の電池セル。
【請求項11】
前記活性金属は、リチウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛またはアルミニウムであることを特徴とする、請求項10に記載の電池セル。
【請求項12】
前記負極は、挿入電極であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項13】
前記負極は、炭素を含有することを特徴とする、請求項12に記載の電池セル。
【請求項14】
前記正極は、金属化合物を含有し、前記金属化合物における金属は原子番号22〜28の遷移金属であることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項15】
前記正極は、金属リン酸塩を含有する、請求項9〜14のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項16】
前記正極は、金属酸化物を含有する、請求項9〜15のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項17】
前記正極は、インターカレーション化合物を含有することを特徴とする、請求項14〜16のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項18】
電気化学電池用の電解質を製造するための方法であって、
前記電解質中の水酸基のモル濃度は、50mmol/l以下であり、
前記電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度は、350mmol/l以下であり、
ルイス酸、ルイス塩基およびアルミニウムを混合し、
混合物を、最低温度より高い温度へ少なくとも6時間にわたり加熱し、前記最低温度は少なくとも200℃で前記混合物の融点より高く、これにより前記ルイス酸およびルイス塩基の付加物を形成する、方法。
【請求項19】
前記最低温度は、250℃であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
最低期間は、12時間であることを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物は、ルイス酸1モル当たり、少なくとも40mmolのアルミニウムを含有することを特徴とする、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学電池用の電解質に関する。電解質は、二酸化硫黄および導電性塩を含有する。本発明はまた、電解質を製造するための方法およびその電解質を含有する電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池は、多数の技術分野において極めて重要である。開発の目的は、特に高エネルギー密度(単位重量および単位体積当たりの電荷容量)、高い充電および放電電流(低い内部抵抗)、多数回の充電および放電サイクルを備える長い耐用寿命、極めて良好な操作安全性および必要最小限のコストを得ることである。
【0003】
電解質は、各電池セルの重要な機能要素である。電解質は導電性塩を含有し、電池セルの正極および負極と接触している。導電性塩の少なくとも一つのイオン(アニオンもしくはカチオン)は、電解質内でセルが機能するために必要とされる電極間の電荷移動がイオン伝導によって発生できるように可動性を有する。
【0004】
本発明によると、SOをベースとする電解質が使用される。本発明の状況では、この用語は、電解質が二酸化硫黄を添加物として低濃度で含有するだけではなく、電解質中に含有されていて電荷移動に作用する導電性塩のイオンの可動性が少なくとも一部にはSOによって保証されることを意味する。電解質は、好ましくは、セル内に含有される電解質の総量に対して、重量で少なくとも20%(「重量%」)のSO、35重量%のSO、45重量%のSOおよび55重量%のSOを含有しており、さらにこの順で好ましい。電解質は、さらにまた95重量%以下のSOを含有することができ、85重量%以下および75重量%以下、の順でより好適である。
【0005】
好ましくは、電解質は、活性金属がアルカリ金属であるアルカリ金属電池で使用される。しかし、活性金属は、さらにアルカリ土類金属または周期表の第2亜属由来の金属であってもよい。用語「活性金属」は、セルの充電または放電中に電解質内で負極もしくは正極へイオンが移動し、その場所で直接的もしくは間接的に外部回路の内外への電子の移動を生じさせる電気化学工程に関与する金属を意味する。活性金属は、好ましくはリチウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛もしくはアルミニウムであり、リチウムが特に好ましい。SOをベースとする電解質を備えるリチウム電池は、Li−SO電池と呼ばれる。以下では、例として(しかし一般性を制限することなく)、負極の活性金属としてリチウムを取り上げる。
【0006】
アルカリ金属電池の場合には、好ましくは導電性塩としてテトラハロゲンアルミン酸塩、特に好ましくはアルカリ金属のテトラクロロアルミン酸塩、例えばLiAlClが使用される。また別の好ましい導電性塩は、アルカリ金属、特にリチウムのアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩および没食子酸塩である。
【0007】
長年にわたり、リチウム電池のためのSOをベースとする電解質について考察されてきた。
【0008】
先行技術文献D1の‘‘Handbook of Batteries’’,David Linden(編集者),2nd edition,McGraw−Hill,1994では、SOをベースとする無機電解質の高イオン伝導率が強調されている。この電解質は、さらに他の電気的データに関しても有益であると述べられている。さらに、この論文の中では、SOをベースとする電解質を備える系が長年にわたり調査中で特殊な用途にとっては重要であるが、特にこの電解質は高度に腐食性であるために、さらなる商業的適用性は制限されると記載されている。
【0009】
SOをベースとする電解質の一つの利点は、実際に一般的であるリチウムイオン電池の有機電解質とは対照的に、この電解質が燃焼することがあり得ないことである。リチウムイオン電池の公知の安全性に関するリスクは、主としてそれらの有機電解質によって誘発される。リチウムイオン電池が引火または爆発さえすると、電解質の有機溶媒は、可燃性物質を形成する。本発明による電解質は、好ましくは本質的に有機物質を含んでいないが、このとき「実質的に含んでいない」は、存在する有機物質の量が極めて少ないために安全性のリスクを何ら提示しないと解釈することができる。
【0010】
これに基づいて、本発明は、このような電解質の有益な特性を維持しながら、電解質が充填された電気化学電池の改良された電気的特性をもたらす、SOをベースとする電解質を利用可能にする技術的課題に取り組んでいる。
【0011】
この課題は、請求項1による電解質によって解決される。電解質中では、水酸基(OH)を含有する化合物の含量は極めて少ないので、電解質中の水酸基のモル濃度(mmol/l)は1L(リットル)当たり50mmol(ミリモル)以下である。同時に、クロロスルホン酸基(SOCl)を含有する化合物の含量は極めて少ないので、電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度は350mmol/l以下である。
【0012】
SOをベースとする電解質は、通常は導電性塩のルイス酸成分およびルイス塩基成分を相互に混合する工程ならびにそれらを混合物の上方もしくは中を流動させられる気体状SOと反応させる工程によって製造される。発熱反応、例えば:LiCl+AlCl→LiAlClでは、SO中に溶解させられるルイス酸/ルイス塩基付加物が形成される。導電性塩がSO中に溶解すると、そのイオンは、可動性、例えばLiおよびAlClになる。
【0013】
この方法は、文献に、例えば、
先行技術文献D2の米国特許第4891281号明細書および
先行技術文献D3のD.L.Foster et al:‘‘New Highly Conductive Inorganic Electrolytes’’,J.Electrochem.Soc.,1988,2682−2686に記載されている。
【0014】
既に長年にわたり考察されてきた課題は、電解質の製造中に、微量の水がその中に持ち込まれて反応して加水分解産物を生じさせ、上記加水分解産物が水酸基を含有することである。例えば、下記の反応:
(A)HO+LiAlCl→AlClOH+Li+HCl
が発生する。
【0015】
以下の刊行物は、この問題に取り組んでいる。
先行技術文献のD4:米国特許第4925753号明細書
この明細書に記載されたセル中では、SOは、導電性塩の溶媒および液体負極の両方として機能する。この文献は、水分および加水分解産物が出発物質によって電解質中にどのように侵入するのか、およびセル成分、特にリチウム正極の腐食の増加がどのようにもたらされるかについて記載している。水分の侵入を回避するために、一種のルイス成分(アルカリ金属塩)は200℃で16時間にわたり乾燥させられ、もう一種のルイス成分(塩化アルミニウム)は新たに昇華させられる。さらに、セルの作動中のより高い開始時容量を達成するために、アルミニウムの濃度は(例えば、LiAlClの濃度を増加させることによって)増加させられる。さらに「不凍剤」として機能し、LiAlClの濃度上昇によって誘発される電解質の凍結温度の上昇も補償する同一アニオンのカルシウム塩が加えられる。
【0016】
先行技術文献D5:米国特許第5145755号明細書
この文献は、D4によって生成された電解質のIRスペクトル分析による試験について記載している。この分析は、OH振動の領域内の強力で範囲の広い吸収帯を示している。そこで、D4に記載された方法の洗浄効果は不十分である。D5には、電解質溶液から加水分解産物を除去するための異なる方法が記載されている。ここで、出発塩(ルイス酸およびルイス塩基)が混合され、塩化スルフリルを用いて還流下で90℃へ加熱される。塩混合物は、次に塩化スルフリルを除去するために120℃〜150℃で溶融させられる。この塩混合物にSOガスを供給することによって、加水分解産物を本質的に含んでいないと言える電解質が生成される。
【0017】
先行技術文献D6:I.R.Hill and R.J.Dore:‘‘Dehydroxylation of LiAlCl・xSO Electrolytes Using Chlorine’’,J. Electrochem.Soc.,1996,3585−3590
この刊行物は、緒言としてSOをベースとする電解質の脱水酸化についての以前の試みについて記載している。この電解質タイプの顕著な短所は、通常は水酸化物汚染を含有していること、およびこの汚染を排除するための以前の試みが非効率であったことであると説明している。これらの著者らは、必要とされる脱水酸化が加熱によっては達成できないという事実に基づいて、化学的処理が不可欠であると結論している。D5に記載された塩化スルフリルによる脱水酸化に関して、彼らは、電解質が洗浄された塩を使用して生成された場合に水による再汚染が発生し得ると批判している。このため、彼らは、LiAlCl・xSO電解質の脱水酸化が好ましいはずであると述べている。このためにこの文献は、電解質が塩化スルフリル(SOCl)および塩素ガス(Cl)各々を用いて処理される二種の方法を比較している。どちらの方法も十分な脱水酸化を可能にすると述べられている。塩素ガス法の方が好ましい方法であると見られている。この文献内のIRスペクトルで示されたように、どちらの方法においても水酸基に置換するクロロスルホン酸基が生成される。クロロスルホン酸基の電気化学的活性は、セルの広範な放電中に対応する赤外線域の強度を観察することによって調査される。赤外線域の強度は低下しない、およびその結果としてクロロスルホン酸基は電池反応に関与しないと述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4891281号明細書
【特許文献2】米国特許第4925753号明細書
【特許文献3】米国特許第5145755号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】‘‘Handbook of Batteries’’,David Linden(編集者),2nd edition,McGraw−Hill,1994
【非特許文献2】D.L.Foster et al:‘‘New Highly Conductive Inorganic Electrolytes’’,J.Electrochem.Soc.,1988,2682−2686
【非特許文献3】I.R.Hill and R.J.Dore:‘‘Dehydroxylation of LiAlCl4・xSO2 Electrolytes Using Chlorine’’,J. Electrochem.Soc.,1996,3585−3590
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、水酸化物を含有する化合物を除去するための公知の方法において不回避的に生成される(SOCl)がセルの機能を有意に損傷させること、および特にセルの充電容量ならびに多数回の充電および放電サイクルにわたるその有用性に関して、相当に大きな改良を行うことを主な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願発明の範囲内では電解質中の水酸基のモル濃度(モル数とも呼ばれる)が50mmol/l以下であるだけではなく、同時に電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度が350mmol/lの最大値を超えない場合に達成されることが確定された。特に良好な結果は、電解質中の水酸基のモル濃度が45mmol/l以下、好ましくは25mmol/l以下、さらに好ましくは15mmol/l以下および特に好ましくは5mmol/l以下である場合に達成される。電解質中のクロロスルホン酸基のモル濃度に関して、特に有益であるのは、最大値が250mmol/l、好ましくは200mmol/lおよび特に好ましくは150mmol/lを超えない場合に特に有益である。
【0022】
既述のように、水酸基は、電解質製造のための出発物質または電解質自体に微量の水が持ち込まれることによって発生し得る。反応方程式(A)によると、水は電解質と反応して水酸基含有化合物AlClOHを生成する可能性がある。しかし、他の水酸基含有化合物もまた生成される可能性がある。全ての水酸基含有化合物は、OH振動によって赤外分光分析法を使用しておよそ3,350cm−1の波長数で検出できる。赤外分光分析法とは対照的に、微量の水を分析するための公知のカール・フィッシャー(Karl Fischer)法は、電解質中の水酸基含有化合物を決定するには適していない。カール・フィッシャー法は、水酸基含有化合物、例えばAlClOHに加えて、さらに電解質の酸化物含有化合物、例えばAlOClもまた検出する。このため高いカール・フィッシャー値は、高濃度の水酸基含有化合物とは一致しない。
【0023】
クロロスルホン酸基を含有する化合物は、例えば、
(B) AlClOH+Cl+SO→AlCl(SOCl)+HClにしたがって塩素と電解質溶液の水酸基含有化合物との反応によって生成される。
【0024】
クロロスルホン酸基を含有する化合物は、赤外分光分析法によって電解質中で検出できる。およそ665cm−1、1,070cm−1および1,215cm−1の波長数での三つの帯域は、クロロスルホン酸基を備える化合物の存在にとって特徴的である。
【0025】
セル中に含有される電解質の総量中のSOの好ましい重量%については既に記載されている。電解質中の導電性塩の重量%は、好ましくは70重量%以下でなければならないが、さらに60、50、40、30、20および10重量%以下がこの順でさらに好ましい。
【0026】
電解質は、好ましくは主としてSOおよび導電性塩を含まなければならない。電池セル中の電解質の総重量と説明されるSO+導電性塩の重量%は、好ましくは50重量%以上でなければならないが、60、70、80、85、90、95および99重量%以上の数値がこの順でさらに好ましい。
【0027】
電解質中には、数種の異なる塩を、それらイオンのうちの少なくとも一種が電解質中で可動性であり、結果として塩が導電性塩として作用するようにセルが機能するために必要な電荷移動へのイオン伝導によって寄与するように、溶解させることができる。好ましくは、それらのカチオンが活性金属のカチオンである塩の比率が優位を占める。電解質中に溶解した全ての塩のモル数を参照すると、電解質中の活性金属のカチオンとは異なるカチオンを備える溶解した塩のモル比は30モル%以下でなければならないが、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下および1モル%以下がこの順でさらに好ましい。
【0028】
導電性塩および二酸化硫黄のモル比に関して、電解質が導電性塩1モル当たり少なくとも1モルのSOを含有するのが好ましいが、SOの導電性塩1モル当たり2、3、4および6モルの数値がこの順でさらに好ましい。極めて高いモル比のSOが可能である。好ましい上限は、導電性塩1モル当たり50モルのSOであると規定できるが、導電性塩1モル当たり25および10モルのSOがこの順でさらに好ましい。
【0029】
上記で説明したように、本発明による電解質は、好ましくは本質的に有機物質を含んでいない。しかし、これは電解質中に有機物質、例えば一種または複数の有機共溶媒を含有している本発明の一部の実施形態を除外しない。しかしそのような実施形態では、電解質中の有機物質の総量は、電解質の総重量に比較して、あらゆる場合に50重量%以下でなければならないが、40、30、20、15、10、5、1および0.5重量%以下がこの順でさらに好ましい。さらに別の好ましい実施形態によると、有機物質は、200℃以下の引火点を有するが、150、100、50、25および10℃以下の数値がこの順でさらに好ましい。
【0030】
さらに別の好ましい実施形態によると、電解質は二種以上の有機物質を含有し、有機物質は(重量比から計算して)平均200℃以下の引火点を有するが、150、100、50、25および10℃以下の数値がこの順でさらに好ましい。
【0031】
本発明による電解質を製造するために適合した方法は、以下の工程:
ルイス酸、ルイス塩基およびアルミニウムを固体形で混合する工程、
この混合物を少なくとも6時間にわたり最低温度で維持する工程であって、最低温度は混合物の融点より高く、少なくとも200℃である工程、を特徴とする。このとき、ルイス酸およびルイス塩基の付加物が形成される。
【0032】
最低温度は、好ましくは250℃であり、300℃、350℃、400℃、450℃および500℃がこの順で特に好ましい。最低時間は、好ましくは12時間であり、18、24、48および72時間がこの順で特に好ましい。
【0033】
出発混合物中のアルミニウムの比率は、アルミニウムがルイス酸1モル当たり少なくとも40mmolでなければならず、ルイス酸1モル当たり200および400mmolの数値がこの順でさらに好ましい。
【0034】
ルイス酸は、好ましくはAlClである。ルイス塩基は、好ましくは導電性塩の塩化物であり、そこでリチウム電池の場合にはLiClである。
【0035】
出発物質は、好ましくは微粒子形で使用され、加熱する工程の前にしっかりと混合される。温度の上昇は、主として圧力の急速な上昇を回避するために、緩徐に発生しなければならない。起こりうるガス圧の増加を補正するために、反応容器は、少なくとも加熱工程の開始時には開放していなければならないが、このとき望ましくない外部気体の侵入は、好都合には真空の印加または洗浄瓶に類似する液封の使用によって防止される。固体汚染物質、特にアルミニウムは、工程の終了時に(例えば、ガラス繊維クロスを使用する)ろ過によって除去するのが有利である。ろ過は、融液がフィルタを通過するために十分に液体である温度で行われなければならない。他方、温度は、フィルタの損傷およびそれによって誘発される融液の汚染を回避するために十分に低くなければならない。250℃の温度が実際に適していることが証明されている。
【0036】
以下では、図面、典型的な実施形態および実験結果を参照しながら本発明についてより詳細に説明する。本明細書に記載した特徴は、本発明の好ましい実施形態を作成するために、個別に、または組み合わせて使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明による電池セルの断面図を示す図である。
図2】五つの異なるモル濃度の水酸基を備えるキャリブレーション電解質溶液のFTIRスペクトル(透過率)を示す図である。
図3】異なるモル濃度の水酸基を備える電解質のFTIRスペクトル(透過率)を示す図である。
図4】異なるモル濃度の水酸基を含有するセルにおいて放電容量が公称容量の66.5%に達するサイクル数の依存性についてのグラフ表示を示す図である。
図5】異なるモル濃度の水酸基を備えるセルについての電極上の最上層を形成するために非可逆的に消費された容量のグラフ表示を示す図である。
図6】電解質中の異なるモル濃度の水酸基を備える二種のセルのサイクル数に応じた放電容量のグラフ表示を示す図である。
図7】異なるモル濃度のクロロスルホン酸基を含有する二種の電解質のFTIRスペクトル(ATR)を示す図である。
図8】それらの電解質中で異なるモル濃度のクロロスルホン酸基を備えるセルについての最上層容量および放電容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1に図示した充電式電池2のハウジング1は、複数(図示した場合には三個)の正極4および複数(図示した場合には四個)の負極5を含む電極配置を封入している。電極4、5は、通常の方法で電極リード6、7によって電池の対応する端子接点9、10と接続されている。電池セルには、電解質が好ましくは全細孔内に、特に電極4、5の内側に完全に浸透するような方法でSOをベースとする電解質が充填されている。電極は、液体形またはゲル形であってよい。
【0039】
一般的であるように、電極4、5は、平面形状を有する、つまりそれらは他の二つの寸法におけるそれらの伸張部に比較して薄い厚さを有する層として形作られる。電極4、5は、通例と同様に、金属から製造されて、必要とされる各電極の活性物質の導電性接続を提供するために機能する電流コネクタ要素を含んでいる。電流コネクタ要素は、各電極の電極反応に関与する活性物質と接触している。電極は、各場合においてセパレータ11によって相互から分離されている。図示した柱状セルのハウジング1は、本質的に立方形であり、図1の断面図に示した電極および壁は図面の平面に垂直に伸びており、本質的に直線状および平坦である。しかし、本発明によるセルはまたらせん状セルとして設計できる。
【0040】
負極5は、好ましくは挿入電極である、つまり活性金属のイオンがセルの充電中に挿入され、それらがセルの放電中にそれから抽出される電極物質を含んでいる。好ましくは、負極は炭素を含有する。
【0041】
正極の活物質は、正極で発生する酸化還元反応の結果としてその荷電状態を変化させるセルの成分である。本発明によるセルでは、正極の活物質は、好ましくはその中に活性金属を挿入できる層間化合物である。金属化合物(例えば、酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫化物、カルコゲニド、セレニド)が特に適しているが、遷移金属、特に原子番号22〜28の元素、特にコバルト、ニッケル、マンガンもしくは鉄の化合物が、これらの金属の混合酸化物および他の混合化合物を含め特に適している。リン酸鉄リチウムが特に好ましい。そのようなセルから放電されると、活性金属のイオンが正極活物質内に挿入される。電荷の中立性のために、これは電極での正極活物質の電極反応を生じさせ、電子は電極の電流コレクタ要素から正極活物質へ移動する。充電中には反転工程が発生する:活性金属(例えば、リチウム)が正極活物質からイオンとして放出され、電子は正極活物質から正極の電流コネクタ要素へ移動する。
【0042】
図2図8は、本発明の実験的試験に基づいている。
【0043】
図2は、異なるモル濃度の水酸基を備えるキャリブレーション電解質溶液のFTIRスペクトルを示す図である。吸光度Aは、波数kの関数として図示されている。
【0044】
適切なキャリブレーション溶液は、例えば、OH吸収帯を全く示さない、つまり水酸基を全く含有していない電解質に規定量の塩化リチウム一水和物を加える工程によって製造できる。0.0604gの塩化リチウム一水和物の添加は、含水量を、さらにキャリブレーション電解質の水酸基含量をも1mmol増加させる。
【0045】
異なるモル濃度の水酸基を備えるキャリブレーション電解質は、OHの吸収帯の範囲(3300cm−1)内でのFTIR分光分析法によって分析した。図2は、グラフに記載された五つのモル濃度の水酸基についてのスペクトルを示している。
【0046】
図3は、1リットル当たり0(点線)および76mmol(実線)の水酸化物のモル濃度についてのキャリブレーション曲線に加えて、上記の文献D3の指示にしたがって製造された電解質のFTIRスペクトル(破線)が図示されている、図2に対応する表示を示している。このスペクトルは、当分野の最新技術にしたがって製造された電解質が1リットル当たりおよそ94mmol(およそ1,000ppmに対応する)の水酸基を含有していたことを図示している。上記の文献D6でもまた、未洗浄電解質がこのモル濃度に対応する水酸化物量を含有すると報告されている。
【0047】
水酸基含有化合物は、電池セルの電気化学的特性に有害な作用を及ぼす。放電容量Qは、放電中に電池セルから取り出せる電荷容量を規定する。一般に、Qは、充電および放電中にサイクル毎に減少する。この減少が小さいほど、電池の耐用寿命が長くなる。
【0048】
図4は、水酸基のモル濃度が容量の低下に、したがって電池セルの耐用寿命に及ぼす影響を図示している。このグラフは、二個の炭素負極を備える電池セルにおいて、導電性塩としてLiAlClを備えるSOをベースとする電解質およびリン酸鉄リチウムを備える正極が数百サイクルにわたり充電および放電される実験に基づいている。セルの公称容量は100mAhに達した。セルの充電は、充電終了時電圧3.6Vまでの100mAの電流および40mAへの充電電流の低下に対応する1Cを用いて行われた。この後、セルは、2.5Vの電位に達するまで同一電流を用いて放電された。充電と放電の間には、各場合に10分間の休止時間が置かれた。
【0049】
図4では、規定の最小容量(ここでは公称容量の66.5%)に達するまで試験セルを用いて実施された充電および放電サイクル数を図示している。左側の棒で表示された水酸化物無含有セルは、500サイクル後に初めてこの数値に達した。これとは対照的に、16、40および50mmol/lの水酸化物含量を備える他のセルは、はるかに少ないサイクル数しか達成せず、50mmol/lの水酸化物含量を備えるセルはたった約300サイクルしか達成しなかった。例えば、電池セルが1日1回充電および放電され、規定の放電容量まで使用されると仮定すると、これは、水酸化物無含有セルは1年7カ月の耐用寿命を有するが、他方50mmol/lの水酸化物含量を備えるセルはたった10カ月間しか使用できないことを意味する。
【0050】
既に説明したように、電気化学的セルの電解質中に含有された水酸基は、電極最上層を形成するための初期充電サイクルにおいて不可逆的に消費される充電量(「最上層容量」Q)が水酸化物イオンのモル濃度に応じて増加する限り、上記セルの電気的データの悪化をもたらす。最上層容量Qは、例えば、第1サイクルにおけるセルの充電および放電容量を比較することによって決定できる。図5は、そのような実験の結果を図示している。最上層容量Q負極の理論的電荷容量のパーセンテージとして)は、四種の異なる電解質中に含有された水酸化物イオンのモル濃度Mの関数として図示されている。最上層容量は、電解質が水酸化物イオンを全く含有していないセルについてより50mmol/lを備えるセルについての方が高いことがわかる。これに相応して、水酸化物を全く含有していないセルでは利用可能な放電容量はより高くなる。
【0051】
水酸基含有セルについてのその後の全部の充電および放電サイクルは水酸化物無含有セルよりも相応して低いレベルで開始するので、その作用は相当に大きい。図6は、充電および放電サイクル数に応じた公称容量のパーセンテージとしての放電容量Qを示しており、実線の曲線は水酸化物無含有電解質を用いた結果を示しており、破線は50mmol/lのモル濃度の水酸基を備える電解質についての結果を示している。
【0052】
上述のように、電解質の水酸基含有汚染を除去するため、そこで関連する不利点を排除するために、以前に様々な方法が試験された。そこで乾燥出発物質の使用および/または電解質の加熱によっては所望の洗浄作用を達成できないことが確証された。このため、塩素または塩素含有物質を使用した化学的方法が提案された(文献D5および文献D6を参照されたい)。しかし、本発明の状況では、そのような方法に関連する電解質中のクロロスルホン酸基の形成は追加の問題を誘発することが確証された。
【0053】
図7は、FTIRスペクトル(ATR)、つまりスルホン酸基を含有していない(破線)および290mmol/lのスルホン酸基を含有する(実線)の二種の電解質溶液についての波数kに依存する吸光度Aを示している。3つの帯域は、クロロスルホン酸基を含有する化合物の存在に起因して発生する665cm−1、1070cm−1および1215cm−1に明らかに見ることができる。
【0054】
図8は、電解質が三種の異なるモル濃度のクロロスルホン酸基を含有しているセルについての最上層容量Qを示している。これらの測定は、三電極系(作用電極:炭素(グラファイト);対電極:リチウム;無電流電位測定用の参照電極:リチウム)において半電池実験として実施した。電極をガラス製Eセル内に配置し、各場合における試験対象の電解質溶液を充填した。左側の棒は、本質的に水酸基を含有していないだけではなく、クロロスルホン酸基も実質的に含有していない本発明による電解質を備えるセルの例を示している。この場合、最上層容量は17%に過ぎない。他の2本の棒は、73mmol/lおよび291mmol/lのクロロスルホン酸基を備えるセルについての結果を示している。最上層容量が高いほど、放電容量は低くなる。これは(不可逆性であるために消耗されてしまう)最上層容量Qと有用な放電容量Qとの百分率関係がクロロスルホン酸基含量に起因して有意に悪化することを意味する。
【0055】
本発明による電解質は、例えば、下記の方法によって製造できる。
a)乾燥させる工程:塩化リチウムを120℃で3日間にわたり真空下で乾燥させる。アルミニウム粒子を450℃で2日間にわたり真空下で乾燥させる。
b)混合する工程:434g(10.3モル)のLiCl、1300g(9.7モル)のAlClおよび100g(3.4モル)のAlは、気体の排出を可能にする開口部を備えるガラス瓶内でしっかりと混合する。AlCl:LiCl:Alモル比は、1:1.06:0.35に対応する。
c)溶融/加熱処理する工程:混合物を下記のように熱処理する:
250℃で2時間;
350℃で2時間;
500℃で2時間;
6時間後に瓶の開口部を閉鎖する;
500℃で3日間;
d)冷却する/ろ過する工程:250℃に冷却した後、融液をガラス繊維布に通してろ過する。
e)SOを添加する工程:1日後に融液を室温へ冷却する。融液を含む瓶から排気させる。SOは、加圧下でSOガスを含有する容器からSO:LiAlClの所望のモル比が得られるまで供給する。これは計量によって精査できる。この瓶はSOの供給中に冷却されるが、このとき塩融液はSO中に溶解し、本発明による液体電解質が得られる。
【0056】
本明細書に記載した方法によって、ルイス塩基LiClおよびルイス酸AlClの付加物が形成される。過剰のLiClは、電解質中に遊離LiClが含有されていることを意味する。これにより遊離AlClの形成が防止される。一般に、上記の例とは無関係に、電解質がルイス酸/ルイス塩基付加物に加えて遊離ルイス塩基を含有することは有利である。言い換えれば、遊離ルイス塩基およびルイス酸/ルイス塩基付加物中に含有されたルイス塩基の合計対ルイス酸/ルイス塩基付加物中に含有されたルイス酸のモル比は、1より大きくなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8