【実施例1】
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。
図3に、本実施例で使用する供試材のフープラップ複合圧力容器の一部断面図を示す。何れも
図16に示すような口金を有するタイプのライナーである。
A’図は、従来の供試材であり、ドーム部における内周面開始点と外周面開始点とが軸方向で一致している。B’図は、本実施形態で示される供試材であり、内周面開始点31Aよりも外周面開始点30Aが50mmのオフセット量を有している。C’図は、本実施形態で示される供試材であり、内周面開始点31Aよりも外周面開始点30Aが100mmのオフセット量を有している。
【0040】
各供試材は、筒形状部において、外径が406mm、内径が322mm、肉厚42mmで、FRPの終端縁は、外周面開始点よりも内側に5mmに位置しており、FRP厚さは20mmである。
A’図の供試材は、内周面の曲率半径が161mm、外周面の曲率半径が203mmで曲率の中心は、内外周面開始点の中心に位置している。開口部38mm径であり、口金部は、外径100mmで長さは90mmである。
B’図の供試材は、内周面の曲率半径が161mm、外周面の曲率半径が203mmで曲率の中心は、内周面の曲率中心が50mm外側にずれている。開口部38mm径であり、口金部は、外径100mmで長さは65mmである。
C’図の供試材は、内周面の曲率半径が161mm、外周面の曲率半径が203mmで曲率の中心は、内周面の曲率中心が100mm外側にずれている。開口部38mm径であり、口金部は、外径100mmで長さは27mmである。
【0041】
図4に示すようにFRP終端部におけるドーム部肉厚が筒形状部肉厚より大きく、増肉される構造となり、FRP終端部で高い応力が発生してこの部分から破裂することを抑制する。
【0042】
上記供試材における応力解析を行う際の評価点を
図5に示す。各供試材において、FRPの終端縁の位置をB点、口金部内面のコーナー部をA点と定める。
各供試材について、径方向の応力σr、軸方向の応力σL、周方向の応力σt、第一主応力σ1、第三種応力σ3を有限要素法によって算出し、その値を表1〜表3および
図6に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
表1〜3および
図6から明らかなように、形状1よりも形状2、3の応力値が低減しており、FRP終端位置が5mm不足しても本実施形態では、B点での応力集中が起きにくいことが示されている。
図7には、オフセット量と平坦外径面の終端縁におけるドーム部肉厚の関係を示す。平坦外径面の終端縁におけるドーム部肉厚は、オフセット量にともない増加するが、オフセット量が50mmで応力低減効果が飽和する。この場合のドーム部肉厚は48.06mmとなる。
B点における応力低減効果は、50mm程度で飽和するので、上限値は50mmが望ましい。
【0047】
図8には、筒形状部外径に対するオフセット量(Lオフセット) の比であるオフセット比と、
図5のA、B点における応力との関係を示した。A、B点の応力が小さくなるオフセット比の最適上限値は12.3%となる。
【0048】
図9には、オフセット位置におけるドーム部肉厚と、A点応力の関係を示す。
口金部A点における応力は図に示すようにオフセット量を増やしていくと低減し、50mm以上で再び上昇する傾向を示すので、A点での水素中でき裂進展抑制効果はある。
しかしこのまま(形状2または形状3)では、開口径がφ38mmと小さいので、ドーム部内部、口金部のしわ状のき裂を確認したり、加工で取り除いたりすることは一般的な方法では不可能である。
そこで、口金部を廃し、
図11に示すようなリテーナーリング方式(非特許文献5)により蓋を担持する構造の蓄圧器を考える。この形状の蓄圧器において、実際にドーム部内面のしわ状のき裂を除去したり、直接的にしわ状のき裂の有無を検査したりする作業のために必要な開口径を考慮し、開口径を90mmまたは110mmまで拡大した。
図10にはその解析モデルを示す。ここで、開口径90mmを形状4、開口径110mmを形状5とする。
【0049】
形状4および形状5では、ドーム部内周面の曲率半径は161mm、ドーム部外周面の曲率半径は250mmとなっている。曲率中心は、ドーム部内周面は、筒形状部の中心軸上にあり、ドーム部外周面では、それよりも47mm径方向に離れた位置にある。
このように開口部を大きくすると受圧面積が増えるため応力は上昇してしまうが、き裂を除去でき、浸透探傷試験法(PT)あるいは磁粉探傷試験法(MT)などで直接的に内面検査作業が可能となるため、ごく微小なき裂でも見逃すことはない。
一方で、外面からしか検査できない場合は、き裂の有無の確認は超音波探傷試験法(UT)により行うことができるが(例えば表4)、超高圧圧力容器の設計指針(非特許文献6)により、検出限界を考慮した疲労き裂解析において想定可能な最小き裂寸法は表4に示すように、本実施例では筒形状部2の肉厚が42mmのため、深さ1.1mm、長さ3.3mm以上になる。
【0050】
【表4】
【0051】
一方で開口径を大きくして内面から直接検査できる場合、製造時に検査できる方法は、非特許文献6によれば、超音波探傷試験法以外ではJIS Z 2320−1〜3による磁粉探傷試験法(MT)、JIS Z 2343−1〜4による浸透探傷試験法(PT)が適用可能となるので、き裂の検出限界を考慮すると、疲労き裂解析における想定可能な最小き裂寸法はUT法より小さく深さ0.3mm、長さ1.0mm程度までとすることができる。
【0052】
そこで、形状1、2、4、5について疲労寿命を比較する。疲労寿命の評価は、非特許文献6のKHK S 0220の方法に基づき、
図12に示す高圧水素ガス環境の影響を加味した疲労き裂寿命評価手順を用いて行う。
この手順では、初期き裂形状a(=表面き裂の深さ)、l(=表面き裂の長さ)を設定し、応力拡大係数を算出する。次いで、き裂進展速度を算出する。本実施例ではライナーは何れも引張強さが930MPa級の低合金鋼であり、き裂進展速度は、
図13に示されるこの材料の90MPa水素ガス環境で疲労き裂進展試験の結果を用いて算出を行った。き裂進展速度は、90MPa水素ガス環境で疲労き裂進展試験を行って算出を行う。き裂進展試験では、da/dNは疲労き裂進展速度、ΔKは荷重繰り返しの間の応力拡大係数の変動範囲、C、mは定数である。
き裂進展速度の算出後、繰り返し回数n=n+1によるき裂増分Δa、Δlを算出し、その後、き裂寸法を更新する。すなわち、a=a+Δa、l=l+Δlを算出する。
次に、限界き裂深さに到達したかを判定する。判定では、ライジングロード試験によるKIHまたは遅れ試験によるKIHを用いて行う。
限界き裂深さに到達していなければ、応力拡大係数を算出するステップに戻り、限界き裂深さに到達していれば、許容繰り返し数Ncの算出を行って終了する。
【0053】
図13には
図12の疲労き裂進展寿命計算に用いる水素ガス中疲労き裂進展データ(c,m,KIH)を示す。
図14には形状1、2、4、5における想定き裂挿入位置を示す。き裂挿入位置は応力が最も集中する危険点(形状1,2においては口金コーナー内面(A点)、形状4、5においてはリテーナーリングとドーム部内周面が接触する点)である。形状4、5においてはこの部分にドーム部内周面とリテーナーリングが接触するため、接触応力も考慮してある。
【0054】
また、金属はき裂が存在しなくても金属疲労により破断する。したがってき裂がない場合の水素中の疲労破断寿命(Nf)を
図15に示す水素中疲労寿命曲線から求め、先に算出した疲労き裂進展解析による許容繰り返し数(Nc)と比較し、何れか小さい方を寿命として選択する。表5に結果を示す。
【0055】
【表5】
【0056】
この結果から、水素ステーションを15年間稼働させた場合に必要な回数30万回を満足可能なのは、開口部をφ90mmとした形状4が達成可能であり、形状5のように開口部がφ110mmと大きすぎても受圧部の応力負担が大きくなり、疲労寿命が達成できなくなる。したがって、開口径は最大でもφ90mmとするのが望ましい。
【0057】
一方、開口径の下限界値については、非特許文献7に浸透探傷法の内面検査事例が示されているが、検査に必要な器具(薬液の塗布や噴霧、洗浄液の噴射ノズルCCDカメラなど)を挿入する都合を考えると、この場合はφ70mm程度と示されている。したがって、開口径の下限値はφ70mmが妥当と考えられる。
なお、実施例では、筒形状部内径がφ322.4mmの場合で開口径の最大限界値がφ90mmであるが、あらゆる筒形状部内径を考えた場合、本実施例より開口径の筒形状部内径に対する比率:筒形状部内径/開口径は3.6以下とすることが望ましい。
【0058】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは実施形態に対する適宜の変更が可能である。