(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記第1の値と前記第2の値との差分の所定時間あたりの変化量を示す第3の値に基づいて、前記電動機の回生量の増加の割合が変化するように、前記電動機を制御する
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の電動機の回生制御装置。
前記制御部は、前記第3の値が基準値より大きくなると、前記電動機の回生量が第1の割合で増加するように前記電動機を制御し、前記第3の値が前記基準値より小さくなると、前記電動機の回生量が前記第1の割合より小さい第2の割合で増加するように前記電動機を制御する
ことを特徴とする請求項8に記載の電動機の回生制御装置。
前記制御部は、第1時刻における前記第2の値と前記第1時刻より前の第2時刻における前記第2の値との差分の所定時間あたりの変化量を示す第3の値に基づいて、前記電動機の回生量の増加の割合が変化するように、前記電動機を制御する
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の電動機の回生制御装置。
前記制御部は、前記第3の値が基準値より大きくなると、前記電動機の回生量が第1の割合で増加するように前記電動機を制御し、前記第3の値が前記基準値より小さくなると、前記電動機の回生量が前記第1の割合より小さい第2の割合で増加するように前記電動機を制御する
ことを特徴とする請求項11に記載の電動機の回生制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。ここでは、電動補助車両の一例として電動アシスト自転車を説明するが、本発明は電動アシスト自転車に限定されるものではない。なお、図面において共通の又は類似する構成要素には同一又は類似の参照符号が付されている。
【0013】
[電動アシスト自転車の全体構成]
図1を参照して、電動アシスト自転車1の全体構成を説明する。
図1は、本実施形態における電動アシスト自転車1の外観図である。
図1に示すように、電動アシスト自転車1は、主に、フレーム11、サドル13、クランク14、ハンドル17、車輪18、19、二次電池101、制御装置102、及びモータ105を含んで構成される。二次電池101は蓄電装置の一例であり、モータ105は電動機に相当する。
【0014】
具体的には、フレーム11の一端に、ハンドル17がフロントパイプ12を介して取り付けられ、フレーム11の他端には、サドル13が取り付けられている。ハンドル17には、ブレーキを作動させるためのブレーキレバー20と、搭乗者によるブレーキレバー20の操作量を検知するブレーキセンサ104と、電動駆動力による補助及び回生充電の度合を示す複数の動作モードを選択するための操作パネル106と、が取り付けられている。
【0015】
また、フレーム11には、クランク14が取り付けられている。クランク14は、搭乗者の踏力がペダル15を介して作用することにより回転する。かかるクランク14には、搭乗者によるペダル15の踏み込みによりクランク14に生ずるトルクを検出するトルクセンサ103と、クランク14の回転を検知するクランク回転センサ108と、が設けられている。
【0016】
車輪18は、フロントパイプ12の下端に設けられ、図示しないハブにモータ105を内蔵している。かかるモータ105により車輪18が回転駆動され、車輪18の回転は、車輪18に取り付けられた前輪回転センサ109によって検知される。このように車輪18及びモータ105は電動駆動機構を構成している。本実施形態では、モータ105としてブラシレス直流モータが用いられているが、ブラシレス直流モータ以外の種類のモータが用いられてもよい。
【0017】
車輪19は、クランク14に対して車輪18とは反対側に配置されており、クランク14との間に架設されたチェーン16を介して搭乗者の踏力が伝達されることで回転駆動される。このように、クランク14、チェーン16、及び車輪19は、人力駆動機構を構成している。かかる人力駆動機構は、変速機構を備えていてもよい。また、チェーン16の代わりに伝動ベルトが用いられてもよい。
【0018】
フレーム11と車輪19との間には、二次電池101が着脱自在に配設されている。また、二次電池101とサドル13との間には、制御装置102が取り付けられている。制御装置102は制御回路を内蔵しており、上述した各種センサの出力信号に基づいて、モータ105を電動駆動させたり、回生充電させたりするように制御する。このように制御装置102は、電動機の回生制御装置として機能する。また、モータ105と制御装置102とは、電動機の回生駆動装置を構成している。
【0019】
[制御装置の構成]
図2を参照して制御装置102の構成を説明する。
図2は、制御装置102を示すブロック図である。
図2に示されるとおり、制御装置102は、制御器120と、FET(Field Effect Transistor)ブリッジ140と、を有する。
【0020】
(FETブリッジ)
FETブリッジ140は、二次電池101からの直流電流をモータ105の巻線に供給するインバータとして機能するブリッジ回路であって、モータ105のU相,V相,及びW相に対応して6個のスイッチを有している。具体的には、FETブリッジ140は、モータ105のU相についてスイッチングを行うハイサイドFET(S
uh)及びローサイドFET(S
ul)と、モータ105のV相についてスイッチングを行うハイサイドFET(S
vh)及びローサイドFET(S
vl)と、モータ105のW相についてスイッチングを行うハイサイドFET(S
wh)及びローサイドFET(S
wl)と、を含む。このFETブリッジ140は、コンプリメンタリ型スイッチングアンプの一部を構成している。本実施形態では、上述したFETブリッジ140に含まれるスイッチ素子をオン・オフするためにPWM(Pulse Width Modulation)制御が用いられる。
【0021】
(制御器)
制御器120は、上述した各種センサからの出力信号に基づいてモータ105の動作を制御する。制御器120は、演算部121と、クランク回転入力部122(クランク回転検出部)と、前輪回転入力部123(車輪回転検出部)と、モータ速度入力部124と、可変遅延回路125と、モータ駆動タイミング生成部126と、トルク入力部127と、ブレーキ入力部128と、AD入力部129と、を有する。
【0022】
演算部121は、操作パネル106、クランク回転入力部122、前輪回転入力部123、モータ速度入力部124、トルク入力部127、ブレーキ入力部128、及びAD入力部129の出力信号を受信し、以下で述べる演算を行って、モータ駆動タイミング生成部126及び可変遅延回路125に対して指示信号を出力する。本実施形態において、演算部121は、演算に用いる各種データ、処理途中のデータ等を格納するためのメモリ130を内蔵しているが、メモリ130は演算部130とは別に設けられてもよい。なお、演算部121は、プログラムをプロセッサが実行することによって実現される場合もあり、この場合には当該プログラムがメモリ130に記録されている場合もある。
【0023】
演算部121について詳細に説明する。演算部121は、車輪18の回転に応じた第1の値を算出する。具体的には、前輪回転センサ109が車輪18の回転を検知すると、車輪18の回転に応じた信号を出力する。前輪回転入力部123は、前輪回転センサ109からの信号を受信すると、かかる信号から車輪18の回転数(回転量)を検出して演算部121に出力する。そして、演算部121は、後述するように、受信した前輪回転入力部123からの信号に基づいて第1の値を算出する。
【0024】
ここで第1の値は、車輪18の回転に応じた値であって、モータ105に回生動作を行わせるかどうかの判定に利用される。第1の値は、後述する第2の値と対比可能な値であればよく、例えば、車輪18の回転から推測される車両速度(以下、車輪速度と言う)、車輪18の回転から推測される走行距離(第1距離)、及び、車輪18の回転速度をクランク14の回転速度に換算した数値、を含む。このような第1の値の一例としての車輪速度及び第1距離の算出手法については追って述べる。
【0025】
また、演算部121は、クランク14の回転に応じた第2の値を算出する。具体的には、クランク回転センサ108がクランク14の回転を検知すると、クランク14の回転に応じた信号を出力する。クランク回転入力部122は、クランク回転センサ108からの信号を受信すると、かかる信号からクランク14の回転数(回転量)を検出して演算部121に出力する。そして、演算部121は、後述するように、受信したクランク回転入力部122からの信号に基づいて第2の値を算出する。
【0026】
ここで第2の値とは、クランク14の回転に応じた値であって、上述した第1の値とともに、モータ105の回生動作の要否判定に利用される。第2の値は、上述した第1の値と対比可能な値であればよく、例えば、クランク14の回転から推測される車両速度(以下、クランク速度と言う)、クランク14の回転から推測される走行距離(第2距離)、及び、クランク14の回転速度を車輪18の回転速度に換算した数値、を含む。このような第2の値の一例としてのクランク速度及び第2距離の算出手法については追って述べる。
【0027】
また、演算部121は、モータ速度入力部124からの信号に基づいて、モータ105の回転速度や、モータ情報を算出する。本実施形態では、モータ105の回転子(図示せず)における磁極の位置を検出するためにホール素子(図示せず)が用いられている。モータ105の回転子の回転に応じてホール素子から出力されるホール信号は、モータ速度入力部124によって受信される。モータ速度入力部124は、受信したホール信号からモータ105の回転数を検出して、演算部121に出力する。そして、演算部121は、受信したモータ速度入力部124からの信号に基づいて、モータ情報を算出する。モータ情報は、モータの動作を制御するために利用される情報であり、例えば、モータ105の回転速度や、モータ105の回転数から推測される走行速度(以下、モータ速度と言う)を含む。
【0028】
更に、演算部121は、トルク入力部127、ブレーキ入力部128、及びAD(Analog-Digital)入力部129からの信号を受信する。具体的に述べると、トルク入力部127は、クランク14に作用するトルクを示すトルク信号をトルクセンサ103から受信し、かかるトルク信号をディジタル化して演算部121に出力する。演算部121は、かかるトルク信号を、例えばモータ105による回生充電の可否の判定のために利用する。
【0029】
また、ブレーキ入力部128は、ブレーキレバー20の操作量に応じた制動力を示す制動信号をブレーキセンサ104から受信し、かかる制動信号をディジタル化して演算部121に出力する。演算部121は、かかる制動信号を受信すると、回生動作を開始する。演算部121は、ブレーキレバー20の操作量に応じて回生充電量を制御するようにして、回生による制動力を調整できるようにしてもよい。
【0030】
また、AD入力部129は、二次電池101の出力電圧を測定し、測定された電圧信号を演算部121に出力する。演算部121は、かかる電圧信号の値に応じて、二次電池101の充放電を制御する。過充電による二次電池101へのダメージを防ぐため、二次電池101の電圧が所定の上限電圧以上にならないように、所定の上限電圧になったら、二次電池101に充電しないように制御してもよい。また、過放電による二次電池101へのダメージを防ぐため、二次電池101の電圧が所定の下限電圧以下にならないように、所定の下限電圧になったら、二次電池101から放電しないように制御してもよい。
【0031】
また、演算部121は、操作パネル106からの操作信号を受信する。操作パネル106は、車両速度、二次電池101の残量、後述する動作モードなどを表示するための表示部と、動作モードの変更や前照灯の点灯・消灯のための操作ボタンと、を備えている。動作モードは、電動駆動力による補助及び回生充電の度合を示しており、例えば以下のように複数設定されている。
− 強アシストモード: 電動駆動力による補助を優先する
− 中アシストモード: 電動駆動力による補助と回生充電とをバランスよく作動させる
− 弱アシストモード: 回生充電の機会を増加させる
− オフ: モータを動作させない
【0032】
演算部121は、受信した各種信号を用いて演算を行い、演算結果として進角値を可変遅延回路125に出力する。可変遅延回路125は、演算部121から受信した進角値に基づいて、モータ105のホール素子から受信したホール信号の位相を調整し、調整後のホール信号をモータ駆動タイミング生成部126に出力する。
【0033】
また、演算部121は、演算結果として得られた、例えばPWMのデューティー比に相当するPWMコードをモータ駆動タイミング生成部126に出力する。モータ駆動タイミング生成部126は、可変遅延回路125からの調整後のホール信号と、演算部121からのPWMコードと、に基づいて、スイッチング信号を生成し、かかるスイッチング信号をFETブリッジ140に含まれる各FETに対して出力する。なお、モータ駆動の基本動作については、国際公開第2012/086459号パンフレット等に記載されており、本実施の形態の主要部ではないので、ここでは説明を省略する。
【0034】
(車輪速度とクランク速度)
ここで、車輪速度とクランク速度について説明する。車輪速度は、車輪18の回転と同期して電動アシスト自転車1が走行していると想定した場合に車輪18の回転から推定される車両速度を表すものとする。この場合、車輪18はスリップ等による空転がない状況を想定している。上述したように、車輪18の回転速度は、例えば前輪回転入力部123からの車輪回転情報や、本実施形態のように車輪18とモータ105が一体化しているハブモータを使用している場合にはモータ速度入力部124からのホール信号から得られるので、車輪18の回転速度と車輪18の径とを用いて車両速度の推定値を算出することができる。かかる車輪速度の算出は演算部121において実行される。
【0035】
また、クランク速度は、クランク14の回転から推定される車両速度を表すものとする。本実施形態のようにクランク14の回転によって車輪19を駆動する電動アシスト自転車1では、クランク14と車輪19がリンクして動作している状態を想定すると、クランク14の回転速度と後述するギア比とを用いて車両速度の推定値を算出することができる。かかるクランク速度の算出は演算部121において実行される。
【0036】
ここで、ギア比は、クランク回転入力部122の出力信号に基づくクランク14の回転速度と、上述した車輪19の回転速度と、の比率から算出することができる。かかるギア比の算出は演算部121において実行される。あるいは、ギア比を検出することが可能な専用変速機から必要な情報を取得してもよい。
【0037】
[制御装置の動作]
図3を参照して、制御装置102の動作、特にモータ105の回生制御手順について説明する。
図3は、回生制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【0038】
(回生動作の判定)
図3に示されるように、本実施形態では、モータ105の回生動作を実行するかどうかが繰り返し判定される。かかる判定は演算部121において行われる。具体的には、ステップS11において、前輪回転入力部123からの車輪回転情報及びクランク回転入力部122からのクランク回転情報に基づいて、車輪速度及びクランク速度が算出されたうえで、次の(式1)を満たすかどうかが判定される。
車輪速度 > クランク速度 + α1, α1≧0 (式1)
ここで定数α1は、車輪速度とクランク速度とに速度差が生じてから回生動作が働く(ONする)までの余裕を示す指標であって、0以上の値として設定される。定数α1が大きいほど、モータ105の回生動作がONしにくくなる。
【0039】
あるいは、上記(式1)の代わりに次の(式1’)が用いられてもよい。
車輪速度 / クランク速度 > α2, α2≧1 (式1’)
ここで定数α2もまた、車輪速度とクランク速度とに速度差が生じてから回生動作が働く(ONする)までの余裕を示す指標であって、1以上の値として設定される。定数α2が大きいほど、モータ105の回生動作はONしにくくなる。
【0040】
いずれにしても、ステップS11において(式1)又は(式1’)が満たされないと判定されると、ステップS12においてモータ105の回生動作は停止される。一方、ステップS11において(式1)又は(式1’)が満たされていると判定されると、ステップS13においてモータ105の回生動作はONとなる。
【0041】
このように、α1、α2といった定数を適宜調整することで、車輪速度とクランク速度の間にわずかな速度差が生じると直ちに回生動作をONすることもできるし、明らかな速度差が生じた場合に回生動作をONさせることもできる。ここで、回生制御が実行されるとき、車輪速度とクランク速度との速度差が大きいほど、回生量が多くなるように設定されてもよい。
【0042】
(車両の走行状態とモータの動作との関係)
図4及び
図5を参照して、電動アシスト自転車1の走行状態とモータ105の動作との関係を説明する。
図4及び
図5は、電動アシスト自転車1の走行状態とモータ105の動作との関係の例を示す表である。ここに、
図4及び
図5において本実施形態における回生判定と比較される「クランクの回転数に基づく回生判定(比較例)」とは、クランクの回転数が所定回転数(例えば、クランク速度に換算すると時速6km)未満であること、つまり、クランク14が事実上回転していないこと、を判定基準の1つとする回生判定手法を示すものとする。なお、本実施形態と比較例におけるモータ105の「駆動動作」は、同一の車輪速度、同一のクランク速度、及び同一のクランクトルクという条件の下で行われるものとする。
【0043】
具体的に、
図4及び
図5では、電動アシスト自転車1の走行状態が、車輪速度、クランク速度、及びクランクトルクの3要素における差異に応じてケース1〜ケース6の6態様に分類され、各ケースについて回生及び駆動の動作が行われるか、行われないかが示されている。なお、ケース1〜ケース3では、回生動作の判定式である上記(式1)の定数α1が例えば時速3kmに設定され、ケース4〜ケース6では、定数α1は例えば時速6kmに設定されているものとする。
【0044】
ケース1では、車輪速度が時速20km、クランク速度が時速20km、クランクトルクが10Nmであって、電動アシスト自転車1は、発進に伴う加速状態にあるか、搭乗者の踏力を利用して巡行している。この状態では、モータ105の駆動動作が実施され、回生動作は、比較例の下でも本実施形態の下でも行われない。
【0045】
ケース2では、車輪速度が時速20km、クランク速度が時速15km、クランクトルクが0Nmであって、電動アシスト自転車1は惰性走行を行っている。この状態では、モータ105の駆動動作は停止される。また、回生動作は、比較例の下では実施されないが、本実施形態の下では、上記(式1)が満たされるため、実行される。ケース2は、典型的には、電動アシスト自転車1が巡行走行から惰性走行へ移行した直後の状態、例えば坂道を下り始めた状態、を示しているところ、本実施形態は、このような状態でも回生充電の機会と捉えて、回生動作を実行する。
【0046】
ケース3では、車輪速度が時速20km、クランク速度が時速5km、クランクトルクが0Nmであって、電動アシスト自転車1は、クランク14の回転が停止に近い状態で惰性走行している。この状態では、モータ105の駆動動作は停止され、回生動作は、比較例の下でも本実施形態の下でも実行される。
【0047】
ケース4では、車輪速度が時速30km、クランク速度が時速30km、クランクトルクが10Nmであって、車両が搭乗者の踏力で巡行している。この状態では、モータ105の駆動動作が停止され、回生動作は比較例の下でも本実施形態の下でも行われない。
【0048】
ケース5では、車輪速度が時速30km、クランク速度が時速20km、クランクトルクが0Nmであって、電動アシスト自転車1は惰性走行に移行している。したがって、このケースでは、ケース2と同様に、モータ105の駆動動作は停止される。回生動作は、比較例の下では実行されないが、本実施形態の下では、上記(式1)が満たされるため、実行される。本実施形態では、クランク14が比較的早く回転している段階から回生充電を開始するため、大きな回生電力を獲得する機会が増える。
【0049】
ケース6では、車輪速度が時速30km、クランク速度が時速24km、クランクトルクが0Nmであって、ケース5よりもクランク14は回転しているが、電動アシスト自転車1は惰性走行の状態にある。このケースでも、ケース5と同様に、モータ105の駆動動作は停止され、回生動作は、比較例の下では実施されないが、本実施形態の下では、上記(式1)が満たされるため、実行される。ただし、ケース5とケース6とにおいて、クランク速度が大きいほど回生量を小さくするようにモータ105が調整されてもよい。クランク速度が大きいことは搭乗者の加速の意思を示唆しているため、回生動作に伴う回生制動力を抑えることが好ましいと考えられる。
【0050】
(一連の走行と回生充電との関係)
図6を参照して、電動アシスト自転車1の発進から惰性走行に至る一連の走行において回生充電が行われる様子を説明する。
図6は、電動アシスト自転車1の走行状態とモータ105の回生充電との関係の例を示すグラフである。なお、
図6において「比較例」とは、
図4及び
図5において本実施形態における回生判定と比較される「クランクの回転数に基づく回生判定(比較例)」を指すものとする。また、
図6における回生充電量は、クランク速度が低下するにつれて増加し、クランク速度が0に等しい程度になると最大となるものとする。
【0051】
図6では、電動アシスト自転車1が、時刻t0において発進して加速し、時刻t1において定速度での巡行に移行し、時刻t2において惰性走行に移行し、その後、時刻t7において所定速度(例えば時速3km)まで走行速度を低下させている。時刻t0から時刻t2までは、本実施形態でも比較例でも、回生充電は行われない。回生充電は、時刻t2から始まる惰性走行中に実施されるが、回生充電の開始時期は本実施形態の方が比較例より先である。
【0052】
具体的に説明すると、本実施形態における回生充電は、車輪速度とクランク速度との間に定数α1だけの速度差が生じる時刻t2において開始し、クランク速度の低下に伴って増加する。その後、クランク速度が0に等しいほどに低下した時刻t6において、回生充電量は最大となり、車輪速度が所定速度まで低下する時刻t7まで、最大の回生充電量で回生動作が行われる。他方、比較例における回生充電は、クランク速度が所定速度まで低下した時刻t5に至って開始し、時刻t6において回生充電量は最大となり、時刻t7まで、最大の回生充電量で回生動作が行われる。時刻t7以降には、本実施形態でも比較例でも回生動作は行われない。
【0053】
図6における一連の走行の過程で回生される電力量は、本実施形態及び比較例における回生充電量を示す各曲線と、時間軸と、で囲まれた面積に等しい。したがって、本実施形態における回生充電の方が、比較例よりも面積の差分だけ大きな電力量を回生していることになる。このような結果は、本実施形態が、上述したケース2、ケース5、ケース6のように回生の機会を増やしたことに由来する。
【0054】
(回生充電量の調節)
図7及び
図8を参照して、回生充電量の調節手法を説明する。
図7は、車輪速度及びクランク速度の間の速度差に(式1)の定数α1を加えた値と、回生充電量と、の関係の例を示すグラフである。
図8は、車輪速度のクランク速度に対する割合と、回生充電量と、の関係の例を示すグラフである。
【0055】
具体的には、
図7の特性線C11は、上記(式1)で与えられる判定条件を満たすと、最大回生量で回生充電するようにモータ105を制御することを示している。そのため、以下に述べる特性線C12〜C18に対して最も回生頻度が多く、回生量を多くすることができる。なお、
図8の特性線C21に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、
図7における特性線C12では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たした場合、ある所定の回生量y11(>0)から回生充電を開始する。そして、速度差に比例するように回生量を増加させていき、所定の速度差x12以上の速度差が生じると、所定の最大回生量で回生充電する。そのため、特性線C12では、特性線C11に次いで回生頻度が多い。回生量に伴って回生制動力が増大することからすると、回生開始時における搭乗者の違和感は、特性線C11に比べて少なくなり、乗り心地が良くなる。なお、
図8の特性線C22に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、
図7における特性線C13では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たした場合、回生量の変化量が速度差に伴って小さくなるように増えていく。特性線C12に近い効果があるが、特性線C12に比べて回生量の急激な変化が少なく、したがって、回生制動力の急激な変化も少ないため、特性線C12よりも違和感が少なくなる。なお、
図8の特性線C23に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、
図7における特性線C14では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たしても、直ちに回生動作をせず、所定の速度差x12(>x11)がついたときに、所定の最大回生量で回生充電する。
図7に示す制御例のうちで最も回生頻度が少なく、したがって回生制動力が生ずる頻度も少ないから、走行性能への影響が少ない。なお、
図8の特性線C24に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、
図7における特性線C15では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たしても、直ちに回生が働かない。ある所定の速度差x11(>0)になってから回生充電を開始する。そのため、特性線C14に次いで回生頻度が少ない。また、回生開始から徐々に回生量が増えていくので、回生開始時における搭乗者の違和感は特性線C14に比べて少なくなり、乗り心地が良くなる。なお、
図8の特性線C25に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、
図7における特性線C16では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たした場合、回生量の変化量が速度差とともに大きくなるように(例えばn次関数のように;n>1)に増えていく。速度差が少ないときは回生量が少ない。特性線C15に近い効果があるが、特性線C15に比べて回生量の急な変化が少なく、したがって回生制動力の急激な変化も少ないため、特性線C15より違和感が少なくなる。なお、
図8の特性線C26に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、
図7における特性線C17では、上記(式1)で与えられる判定条件を満たした場合、回生量が速度差に比例して大きくなるように増える。特性線C17における比例定数、つまりC17の傾きは、任意の値に設定することが可能である。特性線C17に則した制御は、上述した特性線C11〜C16のなかで、回生量と走行性のバランスが最も中間的な制御となる。なお、
図8の特性線C27に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、
図7における特性線C18は、特性線C17に比べて、速度差が所定速度x11より大きくならないと回生充電を開始しないので、回生頻度は少なくなる。回生開始後はある所定の回生量y11から回生充電を開始するので、特性線C15に近い効果があるが、回生量は特性線C15よりも多くなる。なお、
図8の特性線C28に則したモータ105の制御でも同様の効果を得ることができる。
【0063】
このように、
図7の特性線C11〜C13及び
図8の特性線C21〜C23に則した制御では、回生頻度が多く、回生量も多くできる、といった利点がある。したがって、これら特性線に基づく制御は、1度の二次電池101の充電で走行し得る距離を延ばすことを望む搭乗者や、環境問題に関心のある搭乗者に適している。また、
図7の特性線C14〜C16、C18及び
図8の特性線C24〜C26、C28に則した制御の特徴は、回生頻度が少なく、回生量も少ないことから、走行性への影響が少ないことである。したがって、かかる制御は、乗り心地を優先する搭乗者に適した制御手法であると言える。また、
図7の特性線C17及び
図8の特性線C27に則した制御は、上述のとおり回生量と走行性のバランスに優れている。このような特性の異なる回生パターンを用意することで、搭乗者の好みや走行状態に応じた回生制御を実施することが可能となる。
【0064】
以上のように、本実施形態では、搭乗者のブレーキ操作を契機とするのではなく、回生動作について特別の意識せずに運転していても、回生制御の頻度が増加する。また、搭乗者にとって違和感なく回生制御が働くような特性線C11〜C18、C21〜C28の何れかを選択して設定することができる。また、ペダル15の漕ぎ具合を調整することで回生充電量を調整することも可能である。その結果、回収する電力が増加するため、充電1回あたりの走行距離の向上が期待できる。さらには、二次電池101の容量を少なくしても、走行距離や使用時間を維持することが可能となるため、装置の小型軽量化やコスト削減を期待することもできる。
【0065】
[変形例1]
図9を参照して、本実施形態の変形例1を説明する。
図9は、変形例1における回生制御の流れを示すフローチャートである。変形例1と上述した実施形態との相違は、回生制御の流れにある。よって、以下、回生制御の流れを中心に説明する。
【0066】
ステップS21において上記(式1)が満たされるかどうかが判定され、満たされない場合には、ステップS22において回生動作が停止されることは、上述した本実施形態に係るステップS11,S12と同様である。上記(式1)が満たされる場合、ステップS23において車両速度(例えば車輪速度)が所定速度以上であるかどうかが判定される。ここでいう所定速度は、例えば時速3kmのような低速である。そして、車両速度が所定速度以上である場合には、ステップS24において回生動作が実行され、他方、車両速度が所定速度未満である場合には、ステップS22に移行して、回生動作が停止される。このような各ステップが繰り返し行われる。
【0067】
低速走行の際に回生動作が行われると、回生制動力により電動アシスト自転車1が減速し、電動アシスト自転車1を停止させようとする際に、停止位置の微調整がしづらくなる。搭乗者のブレーキ操作の微調整により停止できるように、低速走行では回生動作を行わないように制御する。また、搭乗者が電動アシスト自転車1を手で押しているときに、回生動作に伴う回生制動力を電動アシスト自転車1に作用させることを回避することも可能である。
【0068】
[変形例2]
図10を参照して、本実施形態の変形例2を説明する。
図10は、変形例2における回生制御の流れを示すフローチャートである。変形例2は、変形例1と同様に、回生制御の流れにおいて本実施形態と異なるので、やはり回生制御の流れを中心に説明することとする。
【0069】
変形例2では、変形例1における回生制御の流れに、アシストモード(動作モード)の判定が付加されている。つまり、ステップS31において上記(式1)が満たされるかどうかが判定され、満たされない場合には、ステップS32において回生動作が停止されること、また、上記(式1)が満たされる場合、ステップS33において車両速度が所定速度以上であるかどうかが判定されることは、変形例1と同様である。そして、車両速度が所定速度以上である場合には、更に、ステップS34において弱アシストモード(所定のモード)に設定されているかどうかが判定される。弱アシストモードに設定されていると判定されると、回生動作が実行され、他方、弱アシストモード以外の動作モードが設定されている場合には、ステップS32に移行して、回生動作が停止される。このような各ステップが繰り返し行われる。
【0070】
このように弱アシストモード(所定のモード)に設定されている場合に回生動作を行うことによって、搭乗者の意向に応じたきめ細やかなモータ制御を可能とする。ここでは、ステップS34において特定の一つのアシストモードであるかどうかを判定しているが、複数のアシストモードのいずれか1つが設定されている場合に、回生動作を行うようにしてもよい。たとえば、搭乗者が省電力で動作させることを希望していると推測される、弱アシストモード又は中アシストモードが選択されているときに、回生を行ってもよい。
【0071】
[変形例3]
図11を参照して、本実施形態の変形例3を説明する。
図11は、変形例3における回生制御の流れを示すフローチャートである。変形例3は、変形例1、変形例2と同様に、回生制御の流れにおいて本実施形態と異なるので、やはり回生制御の流れを中心に説明することとする。
【0072】
変形例3では、変形例2における回生制御の流れに、後述する(式2)の判定が付加されている。つまり、ステップS41において上記(式1)が満たされるかどうかが判定され、満たされない場合には、ステップS42において回生動作が停止されること、上記(式1)が満たされる場合、ステップS43において車両速度が所定速度以上であるかどうかが判定されること、そして、車両速度が所定速度以上である場合に、ステップS44において弱アシストモード(所定のモード)に設定されているかどうかが判定されることは、変形例2と同様である。そして、弱アシストモードに設定されていると判定されると、ステップS45において、以下の(式2)が判定される。
前回クランク速度+α3 ≧ 今回クランク速度, α3≧0 (式2)
かかる(式2)が満たされていると判定されると、ステップS46において回生動作が実行され、他方、(式2)が満たされていない場合には、ステップS42に移行して、回生動作が停止される。そして、ステップS47においてクランク速度が更新されたうえで、上記の各ステップが再度実行される。
【0073】
ここで、定数α3を適切な値に設定することで、クランク速度が増加するような変化が生じた場合に回生動作を停止することができる。(式2)を満たしていないとき、つまり、最新のクランク速度が上昇したときは、搭乗者に加速の意思がある場合なので、回生を停止することで搭乗者の意図に沿うように回生制御を行うことが可能となる。
【0074】
[変形例4]
図12〜
図14を参照して、本実施形態の変形例4を説明する。
図12は、変形例4において回生充電量の時間変化の例を示すグラフである。
図13は、変形例4において単位時間あたりの回生充電量と、車輪速度及びクランク速度の間の差分の時間変化と、の関係の例を示すグラフである。
図14は、変形例4における回生制御の流れを示すフローチャートである。変形例4では、回生制動力による急激な減速を抑制するために、スルーレートの概念が新たに導入される。ここにスルーレートは、回生充電量が単位時間当たりに変化できる割合として規定される。以下、スルーレートを中心に説明することとする。
【0075】
例えば、搭乗者がペダル15を漕ぐ動作を急に停止した場合に、急に回生制御が働いて、急激な減速感が発生してしまうことがある。そこで、変形例4では、回生制御を働かせる際にスルーレートを設定し、車輪速度とクランク速度との差分の時間変化に応じてスルーレートの設定値を調整することで、回生制動によるショックを和らげることとしている。
例えば、上述した
図7の特性線C11〜C18及び
図8の特性線C21〜C28において決定された回生量に対して、スルーレートを設定することができる。なお、スルーレートは、所定の設定値のみで使用しても良いし、複数の設定値から選択して使用しても良い。複数のスルーレートを設定することで、搭乗者の挙動に適した回生制御をすることができるため、乗り味を向上させることが期待できる。
【0076】
(スルーレートの例)
図12を参照して、スルーレートの例を説明する。
図12では、横軸に時刻tを、縦軸に単位時間当たりの回生量(スルーレート)をそれぞれ取り、異なる8組のスルーレートの例を示す特性線C31〜C34が示されている。以下、特性線C31〜C34を順に説明する。
【0077】
特性線C31及びC32は、スルーレートの設定値が0%〜100%まで時刻tに比例して変化する点で共通している。ただし、これら特性線は時刻t0から最大の回生量に至るまでの時間において異なり、特性線C31では時刻t1で、特性線C32では時刻t2で、それぞれ最大の回生量に達する。t1<t2であるため、特性線C31に比べて、特性線C32の方が回生量100%に達するまでの時間が長い。つまり、特性線C31は、特性線C32よりも急激な回生量の変化を示す。かかる急激な回生量の変化は、短い時間で大きな回生量や制動力を得られるため、特性線C31はこのような特性を好む搭乗者に適している。他方、特性線C31に比べて回生量の変化が少ない特性線C32では、回生制動力に伴う違和感が少ない動作が期待できる。
【0078】
また、特性線C33及びC34のように所定のオフセットを設定してもよい。つまり、特性線C33及びC34では、時刻t0において回生量が0%からy31%[0<y31<100]に立ち上がった後、時刻tに比例して回生量が増加し、時刻t1又は時刻t2(>t1)で、最大の回生量に到達する。このように、特性線C33及びC34では、特性線C31、C32に比べて、初動から回生量の多い制御が行われるため、速やかに強い回生量や制動力を得ることを望む搭乗者に適している。また、特性線C33に比べて、特性線C34の方が回生量100%まで達するまでの時間が長いので、特性線C31、C32の関係と同様に、回生量と制動力を重視する場合は特性線C33を、搭乗者の違和感の軽減を重視する場合は特性線C34を、それぞれ使用するとよい。
【0079】
次に、特性線C35、C36について説明する。特性線C33、C34では、回生量が所定のオフセット後に線形的に増加するところ、特性線C35,C36は、回生量にオフセットはなく、曲線的ないし非線形な増加を示している。したがって、特性線C35,C36は、特性線C33,C34よりも回生量の増加時における制動力の変化が比較的小さくなるため、乗り味の向上が期待できる。なお、特性線C35,C36の間の相違は、最大の回生量に至るまでの時刻t1、t2(t1<t2)であり、特性線C31、C32の関係と同様に、回生量と制動力を重視する場合は特性線C35を、搭乗者の違和感の軽減を重視する場合は特性線C36を使用するとよい。
【0080】
特性線C37、C38では、特性線C35,C36と同様に、回生量が曲線的な増加を示す。ただし、特性線C37、C38では、回生開始時における回生量の増加割合は比較的小さく、時間とともに回生量を大きく増加させている。したがって、特性線C37、C38を採用することで、更に制動の変化を緩やかにすることが期待できる。
【0081】
特性線C39では、スルーレートが実質ない動作となる。この場合、もっとも急激に回生量や制動力を得ることができる。
このように、直線的、曲線的、オフセットあり、などの様々なスルーレートを使用することができる。いずれのスルーレートの設定を選択するかは、搭乗者による指示に基づいてもよいし、後述するように、走行状態に応じて演算部121によって適宜行われてもよい。
【0082】
(スルーレートの選択手法)
図13及び
図14を参照して、スルーレートの選択手順の一例を説明する。ここでは、スルーレート選択の際に、以下に述べる値(第3の値)a1を使用する。
【0083】
まず、ある時刻t0(例えば現在の時刻)における車輪速度v0(Tire)とクランク速度v0(Crank)との間の差分v0(Tire-Crank)と、時刻t0より前の時刻t1における車輪速度v1(Tire)とクランク速度v1(Crank)との間の差分v1(Tire-Crank)と、の差Δv(Tire-Crank)を算出し、次の(式3)のように、かかる速度差Δv(Tire-Crank)を時間Δt(=t0−t1)で除して時間微分をとることで、加速度の次元を有する値a1を算出する。
a1 = [{v0(Tire) - v0(Crank)} - {v1(Tire) - v1(Crank)}]/Δt
= [v0(Tire-Crank) - v1(Tire-Crank)}]/Δt = Δv(Tire-Crank)/Δt ・・(式3)
以下、加速度の次元を有する値a1を加速度ということがある。
【0084】
そして、
図13における特性線C42の例では、上述のようにして算出された値a1を、予め設定されている閾値a1(th)と比較し、値a1が閾値a1(th)未満であるか閾値a1(th)以上であるかで、スルーレートをステップ状に変化させる。つまり、値a1が閾値a1(th)以上であると、スルーレート1を選択し、また、値[a1]が閾値a1(th)未満であると、スルーレート1より回生量の増加割合の少ないスルーレート2を選択する。なお、閾値a1(th)は複数設定されてもよい。
【0085】
また、上記のようにスルーレートが選択される場合、スルーレートが選択される手順は、
図14のように進められる。つまり、ステップS51において、上述のように算出された最新の値a1が閾値a1(th)と比較される。値a1が閾値a1(th)より大きい場合、手順はステップS52に進み、スルーレート1が設定される。他方、値a1が閾値a1(th)未満である場合、ステップS53においてスルーレート2が設定される。そして、このようなステップS51〜S54が、最新の値a1が算出されると、実行される。
【0086】
あるいは、
図13の特性線C41のように、スルーレートが値a1に比例して増加するようにスルーレートを設定することも可能である。
【0087】
(走行ケースに即したスルーレートの選択例)
走行ケースに即してスルーレートの選択例を説明する。ここでは、
図13の特性線C42を利用し、閾値a1(th)を2.45[m/s
2](約0.25G)とする。
【0088】
第1の走行ケースは、車輪速度15[km/h]、クランク速度15[km/h]で走行していた車両が、1秒後に車輪速度15[km/h]、クランク速度が0[km/h]となった場合である。このケースは、一定走行中にクランクが急減速した場合に相当し、搭乗者が減速を意図している可能性が高いと考えられる。したがって、この場合、早く回生制動を発動すべきである。
【0089】
このとき、Δv(Tire-Crank)=15−0=15[km/h]、Δt=1[s]、a1≒4.17[m/s
2]となる。したがって、a1≧a1(TH)となり、スルーレート1が選択される。
【0090】
第2の走行ケースは、車輪速度15[km/h]、クランク速度15[km/h]で走行している車両が、1秒後に車輪速度15[km/h]、クランク速度が10[km/h]となった場合である。このケースは、一定走行中にクランクがゆっくり減速した場合に相当し、搭乗者が減速を意図していない可能性があると考えられる。したがって、この場合、ゆっくり回生制動を発動すべきである。
【0091】
このとき、Δv(Tire-Crank)=15−10=5[km/h]、Δt=1[s]、a1≒1.39[m/s
2]となる。したがって、a1<a1(TH)となり、スルーレート2が選択される。
【0092】
このように、一定走行中にクランクを急減速させると、早く最大値に至るようなスルーレートが選択され、クランクをゆっくり減速させると、比較的遅く最大値に至るようなスルーレートが選択される。
【0093】
このように常に現在の値a1に応じてスルーレートを選択して使用することができる。もっとも、一度選択したスルーレートを、所定の条件が満たされるまで連続して使用してもよい。例えば、一度選択したスルーレートを、回生量が最大に達するまで使用してもよい。あるいは、一度選択したスルーレートを一定時間継続して使用する、としてもよい。こうすることで、例えば悪路などを走行しているために速度の急変が続いても、スルーレート選択がその都度発生しなくなり、違和感の低減や乗り味の向上が期待できる。
【0094】
[変形例5]
図15及び
図16を参照して、本実施形態の変形例5を説明する。
図15は、変形例5において単位時間あたりの回生充電量と、異なる時刻におけるクランク速度同士の差分の時間変化と、の関係の例を示す、
図13と同様のグラフである。
図16は、変形例5における回生制御の流れを示す、
図14と同様のフローチャートである。
【0095】
変形例5は、変形例4と同様に、単位時間当たりの回生充電量(スルーレート)が変化する。ただし、スルーレートの選択が、異なる時刻におけるクランク速度同士の変化量に応じて行われる点で、変形例4と相違する。よって、この点を中心に説明することとする。
【0096】
変形例5では、スルーレート選択の際に、車輪速度を使用せず、クランク速度だけを利用する。具体的には、異なる時刻t0、t1(t0<t1)におけるクランク速度v0(Crank)、v1(Crank)を使用して速度差Δv(Crank)を求め、次の(式4)のように時間Δt(=t1−t0)で除する(時間微分をとる)ことで、クランク加速度a(Crank)を求める。かかるクランク加速度は第3の値に相当する。
[v1(Crank) - v0(Crank)]/Δt = Δv(Crank)/Δt = a(Crank) ・・・ (式4)
ここで、スルーレート選択の閾値をa(Crank)(TH)とする。
【0097】
変形例4と同様に、走行ケースに即してスルーレートの選択例を説明する。ここでは、
図15の特性線C52を利用し、閾値a(Crank)(TH)を2.45[m/s
2](約0.25G)とする。
【0098】
第1の走行ケースとして、クランク速度が15[km/h]から1秒後に0[km/h]となった場合、つまり、クランク14が急減速した場合を考える。このとき、クランク加速度a(Crank)≒4.17m/s
2となる。a(Crank) ≧ a(Crank)(TH)であるから、スルーレート1’が選択される。
【0099】
第2の走行ケースとして.クランク速度が15[km/h]から1秒後に10[km/h]となった場合、つまり、クランク14がゆっくり減速した場合を考える。このとき、a(Crank)≒1.39m/s
2となる。a(Crank) < a(Crank)(TH)のため、スルーレート2’が選択される。
【0100】
このように、変形例5でも、一定走行中にクランクを急減速させると、早く最大値に至るようなスルーレートが選択され、クランクをゆっくり減速させると、比較的遅く最大値に至るようなスルーレートが選択される。
【0101】
変形例5においても、スルーレートを複数選択することができる。この場合、選択の組み合わせについては、電動アシスト自転車1の走行モード等によって変えてもよい。例えば、弱アシストモードが設定されている場合、搭乗者が省エネルギー走行を重視している可能性があるので、回生量の増加割合が多くなるようにスルーレートを設定してもよい。一例を挙げると、特性線C35,C36で示されるスルーレートをクランク加速度a(Crank)によって切り替えるとよい。反対に、強アシストモードが設定されている場合、搭乗者は走行性能を重視している可能性があるので、回生量の増加割合が少なくなるようにスルーレート設定してもよい。一例を挙げると、特性線C37,C38で示されるスルーレートをクランク加速度a(Crank)によって切り替える。
【0102】
別の例として、車両の特徴や車種によってスルーレートを選択してもよい。例えば、タイヤ径が大きい車両、またはスポーツタイプの車両などでは、走行性能を重視させ、それ以外は回生性能を重視させてもよい。
【0103】
[変形例6]
変形例5までは、少なくともクランク速度に着目して回生動作を制御したが、これ以外の関係に着目して制御を行ってもよい。変形例6では、車輪18の回転から推定される走行距離(第1距離)と、クランク14の回転から推定される走行距離(第2距離)と、の関係が用いられる。つまり、変形例6では、車輪18の回転に応じた累積値と、クランク14の回転に応じた累積値と、を比較し、車輪18の回転に応じた累積値の方が大きいときに回生動作を行うこととする。
【0104】
具体的に述べると、搭乗者の踏力がクランク14に作用している状態では、車輪18の回転から推定される累積走行距離と、クランク14の回転から推定される累積走行距離は一致する。他方、搭乗者の踏力がクランク14に作用していない状態では、車輪18の回転から推定される累積走行距離は、クランク14の回転から推定される累積値より大きくなる。したがって、この状態のときに、回生を行うようにする。
【0105】
車輪18の回転情報は、車輪回転センサ109から取得できる。また、クランク14の回転情報は、クランク回転センサ108から取得できる。そこで、例えば、車輪回転センサ109から出力されたパルス信号を前輪回転入力部123が受け、車輪18の回転数を示すパルス情報として演算部121へ送り、演算部121においてパルス情報を累積させ、走行距離に相当する情報を算出する。同様に、クランク回転センサ108から出力されたパルス信号をクランク回転入力部122が受け、クランク14の回転数を示すパルス情報を演算部121へ送り、演算部121においてパルス情報を累積させ、走行距離に相当する値を算出する。このようにして算出された累積値を演算部121で比較することにより回生を制御する。その他の付随する制御は、車輪速度とクランク速度の比較による実施形態と同様に実施してもよい。
【0106】
[まとめ]
以上説明したように、電動機の回生制御装置1は、電動アシスト自転車1に設けられ、人力で回転するクランク14を通じて駆動される車輪19の回転量を検出する前輪回転センサ109と、クランク14の回転量を検出するクランク回転センサ108と、車輪19の回転量に基づいて第1の値を算出し、かつ、クランク14の回転量に基づいて第2の値を算出し、第1の値及び第2の値のうち少なくとも第2の値に基づいて、車輪19に駆動力を供給するモータ105を通じて回生充電が行われる二次電池101に対して回生制御を行うための制御情報を算出し、当該制御情報に基づいてモータ105の回生量を制御する演算部120と、を備えている。ここで、第1の値は、車輪19の回転量に基づいて算出された速度を示す値(車輪速度)であり、第2の値は、クランク14の回転量に基づいて算出された速度を示す値(クランク速度)でもよい。あるいは、第1の値は、車輪19の回転量に基づいて算出された距離を示す値(第1距離)であり、第2の値は、クランク14の回転量に基づいて算出された距離を示す値(第2距離)でもよい。かかる実施形態によれば、回生の機会を増やすことができるため、効率よく電力回生できる。したがって、二次電池101の充電1回あたりの走行距離を延ばすことが可能となる。
【0107】
また、演算部120は、第2の値(クランク速度又は第2距離)に対する第1の値(車輪速度又は第1距離)の割合が所定の割合よりも大きくなると、二次電池101に対して回生充電を行うように、モータ105を制御してもよい。例えば、車輪速度のクランク速度に対する比率がクランク速度の変化によって受ける変動は、電動アシスト自転車1が高速走行を行っている時の方が、電動アシスト自転車1が低速走行を行っている時よりも小さい。そのため、電動アシスト自転車1が高速で走行するほど、上述した比率が所定の割合を上回る機会が減少し、回生の機会が減少するので、走行性を重視したい場合に有効である。
【0108】
また、演算部120は、第2の値(クランク速度又は第2距離)に対する第1の値(車輪速度又は第1距離)の割合が所定の割合よりも大きくなるにつれて、二次電池101に対する回生充電量が増大するように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、回生による電力回収量を増やすことができる。したがって、搭乗者の違和感を減らしつつ、回生電力を多くできるので、乗り心地と回生電力とを両立させることができる。
【0109】
また、演算部120は、第2の値(クランク速度又は第2距離)に対する第1の値(車輪速度又は第1距離)の割合が所定の割合を超えると、二次電池101に対する回生充電量が所定量となるように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、例えばクランク速度に対する車輪速度の割合が所定の割合を超えると、最大の充電量で回生することができる。したがって、明らかな坂道などで有効に機能するとともに、走行性への影響が少ない。
【0110】
また、演算部120は、第1の値(車輪速度又は第1距離)が第2の値(クランク速度又は第2距離)よりも大きくなると、二次電池101に対して回生充電を行うように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、低速走行時でも高速走行時でも所定の速度差で回生制御の判定を行うことができる。そのため、高速走行時でも回生動作が働きやすくなるので、回生性能を重視したいときに有効である。
【0111】
また、演算部120は、第1の値(車輪速度又は第1距離)と第2の値(クランク速度又は第2距離)との差分が大きくなるにつれて、二次電池101に対する回生充電量が増大するように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、回生による電力回収量を増やすことができる。したがって、搭乗者の違和感を減らしつつ、回生電力を多くできるので、乗り心地と回生電力とを両立させることができる。
【0112】
また、演算部120は、第1の値(車輪速度又は第1距離)と第2の値(クランク速度又は第2距離)との差分が所定値を超えると、二次電池101に対する回生充電量が所定量となるように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、十分な速度差がでたら、最大の充電量で回生することができる。したがって、明らかな坂道などで有効に機能するとともに、走行性への影響が少ない。
【0113】
また、演算部120は、第1の値(車輪速度)が所定速度未満を示す値であると、二次電池101に対する回生充電を停止するように、モータ105を制御してもよい。あるいは、演算部120は、第1の値(第1距離)が所定距離未満を示す値であると、二次電池101に対する回生充電を停止するように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、搭乗者が電動アシスト自転車1を停止させようとする際に、停止位置の微調整をしやすくなる。また、搭乗者が電動アシスト自転車1を手押しするときに、回生動作を停止させ、回生制動力による抵抗の増加を防止することができる。
【0114】
また、演算部120は、第1の値(車輪速度又は第1距離)と第2の値(クランク速度又は第2距離)との差分の所定時間あたりの変化量を示す第3の値a1に基づいて、モータ105の回生量の増加の割合(スルーレート)が変化するように、モータ105を制御してもよい。回生制御を働かせる際にスルーレートを設定し、車輪速度とクランク速度との差分の時間変化に応じてスルーレートの設定値を調整することで、回生制動によるショックを和らげることが可能となる。例えば、演算部120は、第3の値a1が基準値a1(th)より大きくなると、モータ105の回生量が第1の割合(スルーレート1)で増加するようにモータ105を制御し、第3の値a1が基準値a1(th)より小さくなると、モータ105の回生量が第1の割合より小さい第2の割合(スルーレート2)で増加するようにモータ105を制御してもよい。あるいは、演算部120は、第3の値a1が大きくなるにつれて、モータ105の回生量の増加の割合(スルーレート)が増加するようにモータ105を制御してもよい。
【0115】
また、演算部120は、第1時刻t1における第2の値(クランク速度又は第2距離)と第1時刻t1より前の第2時刻t0における第2の値(クランク速度又は第2距離)との差分の所定時間あたりの変化量を示す第3の値a(Crank)に基づいて、モータ105の回生量の増加の割合(スルーレート)が変化するように、モータ105を制御してもよい。回生制御を働かせる際にスルーレートを設定し、異なる時刻におけるクランク速度同士の差分の時間変化に応じてスルーレートの設定値を調整することで、回生制動によるショックを和らげることが可能となる。例えば、演算部120は、第3の値a(Crank)が基準値a(Crank)(TH)より大きくなると、モータ105の回生量が第1の割合(スルーレート1’)で増加するようにモータ105を制御し、第3の値a(Crank)が基準値a(Crank)(TH)より小さくなると、モータ105の回生量が第1の割合(スルーレート1’)より小さい第2の割合(スルーレート2’)で増加するようにモータ105を制御してもよい。あるいは、演算部120は、第3の値a(Crank)が大きくなるにつれて、モータ105の回生量の増加の割合(スルーレート)が増加するようにモータ105を制御してもよい。
【0116】
また、演算部120は、モータ105の動作態様を示す複数のモードのうち、所定のモードが選択された場合に、二次電池101に対して回生充電を行うように、モータ105を制御してもよい。かかる実施形態によれば、搭乗者の意思を反映させることができて、乗り心地が向上する。
【0117】
あるいは、モータ105及び制御装置102を備えた電動機の回生駆動装置である。あるいは、車両本体及び上述した電動機の回生駆動装置を備えた電動アシスト自転車1である。かかる実施形態によれば、回生の機会を増やすことができるため、効率よく電力回生できる。したがって、二次電池101の充電1回あたりの走行距離を延ばすことが可能となる。
【0118】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。上述した各部材の素材、形状、及び配置は、本発明を実施するための実施形態に過ぎず、発明の趣旨を逸脱しない限り、様々な変更を行うことができる。
【0119】
例えば、本実施形態では人力駆動されない方の車輪18をモータ105で電力駆動したが、モータ105は、人力駆動される方の車輪19を回転駆動してもよい。