特許第6381649号(P6381649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381649
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】傾斜薄膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/50 20060101AFI20180820BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C23C16/50
   C23C16/44 A
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-538729(P2016-538729)
(86)(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公表番号】特表2017-500448(P2017-500448A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】US2014056467
(87)【国際公開番号】WO2015088613
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年9月19日
(31)【優先権主張番号】14/104,796
(32)【優先日】2013年12月12日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラーナデー, アルポナ
(72)【発明者】
【氏名】マトス, マーヴィ エー.
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−135879(JP,A)
【文献】 特表2012−526190(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/066630(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/114627(WO,A1)
【文献】 特開2004−018908(JP,A)
【文献】 特開2000−256850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層傾斜組成薄膜を作製する方法であって、
少なくとも1つの化学前駆体をプラズマ内に導入することであって、前記導入することが、第1の化学前駆体及び前記第1の化学前駆体と異なる第2の化学前駆体を含む、導入することと、
前記導入することの間及び/又は後に、第1の膜の厚み、及び前記第1の膜と第2の膜との界面を基板の表面に第1の堆積をすることであって、前記第1の膜が、前記第の化学前駆体から得られた化学組成を有し、前記界面が前記第1の化学前駆体と前記第2の化学前駆体とから得られた化学組成を有する、第1の堆積をすること、
前記第1の堆積の間、前記第2の化学前駆体の前記堆積に関連する少なくとも1つのプラズマ関連プロセスパラメータを修正すること、
前記修正することの後に、前記界面の少なくとも一部の前記化学組成を、前記基板に対する水平方向又は垂直方向単独において、或いは垂直方向及び水平方向の組み合せにおいて変化させること、
前記変化させることの間及び/又は後に、前記第2の化学前駆体から得られた前記第2の膜の厚みを堆積する第2の堆積をすることであって、前記第2の膜が、前記第1の膜と異なる化学組成を有し、前記第2の膜の少なくとも一部が、前記表面に対する水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向において前記第1の膜から空間的に分離されている、第2の堆積をすること
を含み、
前記第1の堆積及び前記第2の堆積をすることにより、前記第1の膜と前記第2の膜との間に前記界面が設けられ、前記界面が前記第2の膜の元素組成に対する前記第1の膜の元素組成の変化を含み、前記界面が、前記表面に対する、前記第1の膜の垂直断面と前記第2の膜の垂直断面との間に形成される、方法。
【請求項2】
前記導入することが、前記プラズマ内に、前記第1の化学前駆体及び前記第1の化学前駆体と同時に前記第1の化学前駆体と異なる前記第2の化学前駆体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入することが、前記プラズマ内に、前記第1の化学前駆体を導入した後、連続して前記第1の化学前駆体と異なる前記第2の化学前駆体を導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記修正することが、プラズマ出力、キャリアガス流量、前駆体温度、バブラー流量、希釈物流量、又は前記基板に対するプラズマヘッドの垂直位置からなる群から選択された1つ又は複数のパラメータを変化させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板が、1つ又は複数の半導電性材料、金属、又は非金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記堆積が、大気圧プラズマ堆積技法を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アーティクルの表面からのシリコンオキシカーバイドを含む第1の膜の厚みと、
前記第1の膜と異なる第2の膜と、
前記第1の膜と前記第2の膜との間の界面と、
を含むアーティクルであって、
前記第1の膜が、前記アーティクルの表面に対して垂直方向、或いは、水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜の前記厚みの少なくとも一部の中に傾斜化学組成を有し、
前記第2の膜が前記第1の膜の中に存在し、前記第2の膜が傾斜化学組成を有し、且つ前記第2の膜の少なくとも一部が、前記アーティクルの表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜から空間的に分離されており、
前記界面が、前記第2の膜の元素組成に対する前記第1の膜の元素組成の変化を含み、前記界面が、前記アーティクルの表面に対する、前記第1の膜の垂直断面と前記第2の膜の垂直断面との間にある、アーティクル。
【請求項8】
前記第2の膜が、前記アーティクルの表面に対して垂直方向で前記第1の膜と化学的に異なる、請求項7に記載のアーティクル。
【請求項9】
前記第2の膜が、前記第1の膜上に直接存在する、請求項7に記載のアーティクル。
【請求項10】
前記第1の膜と前記第2の膜との間の前記界面が、酸素及び炭素のうちの1つ又はその両方の元素組成傾斜を含む、請求項7に記載のアーティクル。
【請求項11】
前記アーティクルの表面が、航空宇宙ビークルの少なくとも一部である、請求項7に記載のアーティクル。
【請求項12】
アーティクルの表面からの第1の膜の厚みと、
前記第1の膜と第2の膜との間の界面と、
を含むアーティクルであって、
前記第1の膜が、前記アーティクルの表面に対して垂直方向、或いは、水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜の前記厚みの少なくとも一部の中に傾斜化学組成を有し、
前記界面が、前記第2の膜の元素組成に対する前記第1の膜の元素組成の変化を含み、前記界面が、前記アーティクルの表面に対する、前記第1の膜の垂直断面と前記第2の膜の垂直断面との間にある、アーティクル。
【請求項13】
前記アーティクルの表面が、航空宇宙ビークルの少なくとも一部である、請求項12に記載のアーティクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アーティクルの表面からの第1の膜の厚みを含むアーティクルであって、第1の膜が、アーティクルの表面に対して垂直方向及び/又は水平方向で、第1の膜の厚みの少なくとも一部の中に傾斜化学組成(gradient chemical composition)を有するアーティクル、並びにアーティクルを生成する方法及びシステム。
【背景技術】
【0002】
成膜技法は、様々な基板上で薄膜を作製するために用いることができる。従来、高性能膜は、PECVD又はマグネトロンスパッタリングなどの様々な真空技法を用いて作られてきた。しかしながら、真空チャンバを使用して大面積部分又は輪郭部分を被覆することは困難である。更に、真空蒸着法において、真空チャンバ部品を入手して組み立てるためには、大規模な設備投資が必要とされる。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、多層傾斜組成薄膜を作製する方法が提供される。この方法は、少なくとも1つの化学前駆体をプラズマ内に導入すること、第1の膜の厚みを基板の表面に堆積することであって、第1の膜が、少なくとも1つの化学前駆体から得られた化学組成を有する、堆積すること、第1の膜の厚みの堆積の間、少なくとも1つの化学前駆体の堆積に関連する少なくとも1つのプラズマ関連プロセスパラメータを修正すること、及び第1の膜の厚みの少なくとも一部の化学組成を、単独で又は組み合せで、基板に対する垂直方向或いは垂直方向及び水平方向において変化させることを含む。
【0004】
有利には、前記導入する工程は、プラズマ内に、第1の化学前駆体及び第1の化学前駆体と同時に第1の化学前駆体と異なる少なくとも1つの別の化学前駆体を含み、前記方法は、第1の膜の中で、第2の化学前駆体から少なくとも部分的に得られた第2の膜の厚みを堆積することであって、第2の膜が、第1の膜と異なる化学組成を有する、堆積することを更に含む。
【0005】
有利には、前記導入する工程は、プラズマ内へ連続的に第1の化学前駆体及び第1の化学前駆体と異なる少なくとも1つの別の化学前駆体を含み、少なくとも1つの別の化学前駆体から少なくとも部分的に得られた第2の膜の厚みを堆積することであって、第2の膜が、第1の膜と異なる化学組成を有する、堆積することを含む。
【0006】
好ましくは、前記修正する工程は、プラズマ電力、キャリアガス流量、前駆体温度、バブラー流量、希釈物流量、又は基板に対するプラズマヘッドの垂直位置からなる群から選択された1つ又は複数のパラメータを変化させることを含む。
【0007】
有利には、基板は、1つ又は複数の半導電性材料、金属、又は非金属を含む。
【0008】
有利には、前記堆積工程は、大気圧プラズマ堆積技法を含む。
【0009】
別の態様では、化学傾斜を有する膜を堆積するためのシステムが提供される。このシステムは、プラズマを生成するように構成される大気圧プラズマ装置、大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数のプラズマ源ガス、大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数の前駆体源、及び任意選択的に、大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数のシールドガス源を備える。
【0010】
有利には、大気圧プラズマ装置は、基板表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向に位置決めされ得る。
【0011】
有利には、大気圧プラズマ装置は、基板表面に対する少なくとも2つの軸の周りで、位置決め可能であり、且つ/又は制御される。
【0012】
有利には、大気圧プラズマ装置は、アーティクルに対する垂直関係又は水平関係のうちの1つ又は複数の関係で移動するように、自動化されている。
【0013】
別の態様では、アーティクルが提供される。アーティクルは、アーティクルの表面からの第1の膜の厚みを含み、第1の膜は、アーティクルの表面に対して垂直方向、或いは、垂直方向及び水平方向で、単独で又は組み合わせで、第1の膜の厚みの少なくとも一部の中に傾斜化学組成を含む。
【0014】
有利には、アーティクルは、第1の膜と異なる第2の膜を更に含み、第2の膜は第1の膜の中に存在し、第2の膜は傾斜化学組成を有し、且つ第2の膜の少なくとも一部は、アーティクル表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向で、第1の膜から空間的に分離されている。
【0015】
好ましくは、第2の膜は、アーティクル表面に対して垂直方向で第1の膜と化学的に異なる。
【0016】
代替的に、第2の膜は、第1の膜上に直接存在する。
【0017】
有利には、第2の膜の少なくとも一部は、アーティクル表面に対して水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向で、第1の膜から空間的に分離されている。
【0018】
好ましくは、アーティクルは、第1の膜と第2の膜との間の界面を更に含み、界面は、第2の膜の元素組成に対する第1の膜の元素組成の変化によって特徴付けられる。
【0019】
有利には、界面は、アーティクル表面に対する、第1の膜の垂直断面と第2の膜の垂直断面との間にある。
【0020】
代替的に、界面は、アーティクル表面に対する、第1の膜の水平断面と第2の膜の水平断面との間にある。
【0021】
好ましくは、第1の膜と第2の膜との間の界面は、酸素及び炭素のうちの1つ又はその両方の元素組成傾斜(elemental composition gradient)を含む。
【0022】
有利には、アーティクルの表面は、航空宇宙ビークルの少なくとも一部である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本明細書に開示されている本発明の方法の態様の例示的なフロー図を示す。
図2】本明細書に開示されている本発明の方法の態様の例示的なフロー図を示す。
図3A】本明細書に開示されている本発明の方法の例示的な態様を示す。
図3B】本明細書に開示されている本発明の方法の例示的な態様を示す。
図4A】本明細書に開示されている本発明の方法の例示的な態様を示す。
図4B】本明細書に開示されている本発明の方法の例示的な態様を示す。
図5】本明細書に開示されている本発明の方法の例示的な態様を示す。
図6】本発明の方法の態様の堆積された膜のサンプルの厚み(ナノメートル)のグラフィック表現を示す。
図7】本発明の方法の態様の堆積された膜のサンプルの試験の後の曇り度のグラフィック表現を示す。
図8】本発明の方法の態様の堆積された膜のサンプルのプロセスパラメータ、物理パラメータ、並びに光学的及び機械的特性の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、特に、堆積された薄膜被覆の機械的特性を最適化する方法を提供する。この方法は、徐々に変化する(例えば、傾斜する)機械的特性及び/又は化学組成を有する多層膜の設計及び作製を提供する。本開示は、更に、固有の機械的特性を有する多層傾斜構造を提供する。1つの態様では、多層傾斜構造は、大気圧プラズマ堆積を使用して作製される。薄膜堆積の間に1つ又は複数のプロセス条件を制御することにより、透明度、耐浸食性、耐摩耗性、又は弾力性などの新しい特性又は改善された特性がもたらされ得る。
【0025】
定義
様々なエレメントを説明するために第1、第2などの用語を本明細書で使用してもよいが、これらのエレメントは、これらの用語に制限されるべきでないことを理解されたい。これらの用語は、あるエレメントを他のエレメントと区別するためにのみ使用される。例えば、本発明の範囲から逸脱しない限り、第1のエレメントは、第2のエレメントと称されてもよく、同様に、第2のエレメントは、第1のエレメントと称されてもよい。本明細書で使用されているように、「及び/又は」という用語は、関連して列挙されたアイテムのうちの1つ又は複数のアイテムの任意の組み合わせ及びすべての組み合わせを含む。
【0026】
層又は膜、領域又は基板などのエレメントが、別のエレメントの「上に堆積される」又は「上へと堆積される」と記載されているとき、別のエレメントの上に直接堆積され得るか、又は、介在するエレメントが更に存在し得ることを理解されたい。それとは対照的に、あるエレメントが別のエレメントの「上に直接堆積される」又は「上へと直接堆積される」と記載されているとき、介在するエレメントは存在しない。
【0027】
図面で示されているように、「下」、「上」、「上方」、「下方」、「水平方向」、「垂直方向」、「上部」、又は「下部」などの相対的な用語は、本明細書では、あるエレメント、層/膜、又は領域と、別のエレメント、層/膜、又は領域との関係を説明するように使用され得る。これらの用語は、図面で示されている配向に加えて、装置の様々な配向を包含することが意図されている。
【0028】
本明細書で使用されている用語は、特定の態様を説明するためのものにすぎず、本開示を限定することを意図していない。本明細書で使用されているように、単数形「1つの(a、an)」及び「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限りは、複数形も含むことが意図されている。本明細書で使用されている「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(includes)」、及び/又は「含んでいる(including)」という用語は、記載された特徴、工程、操作、エレメント、及び/又はコンポーネントの存在を特定するものであるが、別の特徴、工程、操作、エレメント、及び/又はコンポーネントのうちの1つ又は複数の存在又は追加を除外するものではない。
【0029】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されている(技術用語及び科学用語を含む)全ての用語は、一般的に、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。更に、本明細書で使用されている用語は、本明細書及び関連技術の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書に明確に定義されない限り、理想化された意味又は過度に形式的な意味に解釈されないことを更に理解するであろう。
【0030】
特に明記しない限り、例えば、「〜未満」及び「〜を越える」などの比較表現、定量表現は、等価の概念を包含することが意図されている。例えば、「〜未満」は、最も厳密な数学的な意味での「未満」を意味するのみではなく、「〜以下」という意味も包含し得る。
【0031】
特に明記しない限り、「被覆」という用語は、1つ又は複数の「薄膜」又は層、例えば、プラズマが堆積された薄膜又は層を包含する。被覆という用語は、本明細書で使用される場合、厚みが最大約1ミクロンの単層(単原子層)及び/又は約1ミクロンから数百ミクロンまでの厚みを有する1つ又は複数の層を含み得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「浸食」という用語は、表面又は表面層膜に対する科学的及び機械的影響のうちの1つ又は複数を包含する。この影響とは、例えば、雨滴又は砂などの化学物質及び/又は小粒子が、表面材料に衝突してそれを磨滅させるような影響であり、影響の程度は、表面を含む材料の厚み、硬度、及び強靭性に関連する。
【0033】
「摩耗」という用語は、本明細書で使用する場合、例えば、スクラッチング、スカッフィング、損傷、又は消耗などの表面に対する影響を包含しており、これらは、第2の、硬質の又はより硬い、或いはより粗い表面(サンドペーパーなど)との相互作用によって引き起こされる場合があり、結果として、表面が擦り減る。摩耗の場合、影響の程度は、接触表面の硬さに関連し、薄膜の硬さは、モジュラス(弾性率及び/又はヤング率)を決定し得る圧痕技法(indentation technique)によって決定され得る。
【0034】
「空間的」という用語は、本明細書で使用される場合、垂直方向又は水平方向での分離又は傾斜を包含する。1つの態様では、「空間的」とは、連続的な、半連続的な、又は階段状の化学組成傾斜を有する堆積膜、並びに基板の表面上の2つ以上の堆積膜を包含する。この2つ以上の堆積された膜は、1つ又は複数の方向でその化学組成を識別することができる。傾斜膜は、空間的に配置された場合、基板上に多元的に堆積することが可能であり、且つ、膜及び/又は基板に対して改善をもたらすことが可能である。
【0035】
「基板」という用語は、本明細書で使用される場合、平らな面又はでこぼこした面又は曲面などの輪郭面を有する物体を包含する。基板は、1つ又は複数の端部及び/又は側面を有し得る。1つの態様では、「基板」は、物体の1つ又は複数の表面を包含する。基板は、半導体、金属、プラスチック、セラミック、ガラスなどの無機材料、有機材料、無機・有機材料を含む。特定の態様では、「基板」と「アーティクル」という用語は、その各表面のうちの1つ又は複数の表面に1つ又は複数の傾斜膜を堆積することに関連して、交換可能に使用してもよい。
【0036】
本明細書で使用されている「約」という用語は、他に示されていない限り、単独で、記載された値の+/−10%を包含する。
【0037】
ポリカーボネート及び延伸アクリルなどのポリマー材料は、航空機の窓又はキャノピーにおいて使用される。しかしながら、こうした材料は、傷やくぼみという形で影響を受けやすく、外見と透明性が損なわれる。現在、望ましくない影響に対する材料の耐性を改善する被覆を生成するため、溶液処理技法が使用されている。市場には市販の浸食耐性被覆があるが、コスト、適用し易さ、又は高分子基板への接着性などの様々な要因により、これらは必ずしも理想的な溶液ではない。現在説明されている大気圧プラズマ膜は、ポリカーボネート及び延伸アクリルなどの基板に接着する耐久性膜を堆積するための溶液、並びに金属、セラミック、及び複合材などの他の材料のための溶液を提供する。大気圧プラズマを使用して生成された膜は、浸食と摩耗に対して耐性があり、特に浸食と摩耗の影響を受けるポリマーの寿命を延長することができる。
【0038】
本明細書で開示されているのは、単一層膜被覆において所望の機械的特性を設けることを試みるのではなく、徐々に変化する特性によって、多層膜の新しい機械的特性又は改善された機械的特性を達成する方法である。更に、被覆されるべき部品が空間的に変化する場合、1種類の膜又は1つの連続的な膜が各断面で最適な特性を有しない場合がある。
【0039】
したがって、現在開示されている方法は、基板及び/又は基板全体の上の特定の位置に対して、単一の膜又は多層の膜を適合させる堆積技法と連動する自動操作を提供する。現在開示されている堆積の方法は、酸炭化ケイ素(silicon oxy−carbide)、酸化亜鉛、窒化被膜、又はダイヤモンド状の炭素膜など、特定の元素組成又は元素組成構成の膜を生成するために使用され得る。これらはすべて、航空宇宙産業及び他の産業における用途が見出されており、コンポーネントの寿命を延ばし、重量を減らし、且つ/又は、導電性などの特定の表面機能性を付与する。1つの態様では、本開示は、種々の材料の層を組み込む多層膜の堆積を提供し、多機能特性を有する表面の作製を可能にする。
【0040】
現在開示されている方法は、更に、1つ又は複数の材料及び/又は組成物の「薄膜」又は「厚膜」を作製することを提供する。薄膜は、約10オングストロームから約1000ナノメートルの厚みを集合的に有する1つ又は複数の層を含むことになる。この文脈における「厚み」とは、約1ミクロンから約1000ミクロンの間の平均的な厚みの膜又は被覆のことである。特許請求の範囲から逸脱しない限り、薄膜と呼ばれる膜と厚膜と呼ばれる膜との間では、厚みにおいて幾らかの重複があってもよい。厚膜を生成することにより、下部の基板(例えば、ポリマー基板)の浸食耐性の向上が改善され、且つ/又は、水分又は酸素のバリア性、導電性、光学的特性などの他の特性がもたらされたり、改善されたりする。別の態様では、現在開示されている方法は、多層/傾斜薄膜を生成することにより、優れた浸食及び摩耗耐性を有する膜を提供する。1つの態様では、薄膜は、ポリマーに対して優れた接着性をもたらし、傾斜層構造によって、多層/傾斜薄膜の少なくとも一部にわたって機械的特性が徐々に変化することが可能となる。別の態様では、摩耗耐性を提供するために、次いで、硬い最上層/膜を多層/傾斜薄膜の少なくとも一部の上に形成することが可能である。より「硬い」最上層/膜は、例えば、圧痕技法によって測定されたとき、バルクよりも少なくとも5パーセント大きいモジュラスであってもよい。
【0041】
従来の技法は、厚膜を生成するのに非常に長い堆積/硬化時間を要し、或いは、真空チャンバの使用を要する。このような厚みのある単一膜は、ある特性のみを最適化し、他の特性を最適化しない場合がある(例えば、浸食耐性が最適化されているが、摩耗耐性が低いか、ない)。したがって、本開示は、外気で生成された特性とバランスをとって、多層又は傾斜膜を設ける。1つの態様では、現在開示されている方法は、大気圧プラズマ堆積技法を使用する。大気圧プラズマ堆積は、幾つかの利点を有する。大気圧プラズマ堆積は、従来の意味での「真空チャンバ」を必要としない。したがって、大気圧プラズマ堆積によって、移動式及び/又はロボット型プラズマ源が提供される。大気圧プラズマ堆積は、基板の全体又は一部にわたってスキャン及び/又はラスタリング(rastering)を行い得るプラズマヘッドを提供する。したがって、種々の形状及び表面輪郭の部分を被覆する方法を提供し得る。それとは対照的に、従来の技法は、一般的に真空を利用せずに使用することはできず、空間的に変化し且つ/又は化学的に傾斜する多層膜を生成するために容易に適合させたり、構成したりすることはできず、或いは、従来の技法は、複雑な形状又は起伏の大きい形状に適合させることはできない。典型的には、従来の堆積技法は、被覆される基板が、真空堆積チャンバ内の支持構造上に配置されることを要し、且つ/又は、表面上に堆積される膜の性質及び組成を修正するマスク技法を要する。他の従来方法(すなわち、フローコート法)では、溶媒を著しく使用することに加え、長い硬化/乾燥時間を要し、空間的に変化する膜を生成することは簡単ではない。従来の堆積技法は、自動化したり、携帯したりすることができず、且つ/又は、ロボット(多軸被覆プロセス)のために構成されない。一例として、大気圧プラズマ堆積によって、多軸(例えば、6軸)であり得るロボットシステムを備えるプラズマヘッドの統合がもたらされる。本明細書に開示されているシステム及び方法を使用して、従来の技法を使用しては可能且つ/又は現実的ではない、空間的に傾斜する膜を生成することが提供される。1つの態様では、大気圧プラズマヘッドを配置し、且つ/又は、移動させるため、コンベヤシステム又は多軸ロボットを利用してもよい。現在開示されている方法は、滑動性を有する材料/組成転移で組成を品質向上させる薄膜を堆積することを提供する。このような方法は、種々の材料の間の界面において急激な変化が伴う堆積材料の段階的転移を防止又は抹消し、その代り、制御された組成傾斜をもたらす。堆積されている表面に対して任意の方向で変化が生じ得る。段階的転移に対して、徐々に変化すること(傾斜)は、非類似材料の界面に比べて、より優れた接着性及びより少ない応力をもたらすことが示され、それにより、堆積された膜の中の不完全性又は不一致の源が回避される。したがって、1つの態様では、現在開示された方法は、基板の特定の位置及び/又は領域で、上部に堆積される後続の被覆の適合性が改善される表面(基板)を作製することを提供する。
【0042】
本開示の1つの態様では、それぞれの連続する層にわたって、膜又は化学前駆体の堆積パラメータを変化させることが提供される。堆積パラメータを変化させることによって、傾斜形成された又は傾斜状の機械的特性を有する膜及び/又は被覆が提供される。傾斜形成された又は傾斜状の機械的特性を有するこのような膜及び/又は被覆を適合させて、プラスチックやガラスなど、そのような特性を欠く基板に対して、新たな又は改善された浸食耐性と摩耗耐性を設けることができる。現在開示されている方法及びその方法から作製された膜は、堆積プロセスの間に基板の表面の温度が比較的低いため、ポリマーなどの「温度に敏感な」基板の上に堆積してもよい。外部冷却、例えば、ガス又流体による冷却、及び/又は、基板からの熱伝導は、必要であれば提供することができる。
【0043】
現在開示されている方法及びその方法から作製された膜は、更に、タッチスクリーンやスマートフォンなどの電子装置に利点及び恩恵をもたらし得る。現在開示されている方法は、更に、医療移植片を「バイオ機能化」するため、或いは、摩耗耐性の透明性高分子アーティクル(transparent polymeric article)(例えば、自動車ヘッドライトカバー、フロントガラスなど)を提供するために使用されてもよい。
【0044】
図1で示されているように、プロセスフロー図100は、スタートプログラム機能工程105を有するように示されている。この工程105は、プラズマ条件を設定する工程110を含む。オプション工程113では、例えば、基板表面の少なくとも一部を洗浄及び/又は機能化するため、純粋な酸素プラズマ又は複数のガスの組み合わせを用いて基板表面を準備することが提供される。工程115では、後述の第1の化学前駆体を導入することが提供されるが、工程120、125、及び130は、1つ又は複数のプロセスパラメータを変化させること、並びに、第1の傾斜層/膜(以下「層」又は「被覆」と呼ぶ)を基板上に堆積させることが提供される。第1の層は、同一の又は異なる化学前駆体又は前駆体によって設けられた、連続的な、半連続的な、又は階段状の傾斜化学組成を有し、第1の層の堆積の間及び/又はその後、1つ又は複数のプロセスパラメータを変化させるというオプションを有する。例として、「プロセスパラメータ」は、プラズマ出力又は酸素流量、基板に対するプラズマヘッドの位置及び/又は距離、堆積の間のプラズマヘッドの速度及び/又は加速、1つ又は複数の化学前駆体材料の流量など、1つ又は複数のプラズマ関連パラメータ或いはプロセス制御を含む。工程140、145、及び150は、第2の化学前駆体を導入すること、及び第2の層を第1の層の上に堆積することを含む。第2の層は、第1の層と同じ又は異なる化学前駆体であり得る、同一の又は異なる化学前駆体及び/又は前駆体によって設けられた、連続的な、半連続的な、又は階段状の傾斜化学組成を有し、第2の層の堆積を開始する前、その間、又はその後、1つ又は複数のプロセスパラメータを変化させるというオプションを有する。1つの態様では、第2の化学前駆体は、第1の化学前駆体と同一であるが、第2の化学前駆体の堆積は、種々の堆積パラメータを用いて行われ、それにより、続いて堆積される膜の傾斜化学組成が設けられる。工程155は、続いて堆積された多層膜の上の「最上層」の堆積又は形成を含む。この層は、追加の機能性を設けるために、或いは、多層複合材を熱力学的に又は化学的に安定化させるために使用してもよい。工程160、165、及び170では、方法の継続実施及び/又は終了が提供される。
【0045】
これより図2を参照すると、プロセスフロー図200及び300がそれぞれ示されている。これらは、別々の独立したプロセス又は連結された処理プログラムを構成し得る。したがって、工程205及び305では、プログラムの開始、及びプラズマ条件の設定(工程210、310)が提供される。工程215及び315では、プラズマヘッドのスキャン及び/又はラスタリングを開始すること、且つ/又は、基板を移動させること(基板に対して垂直方向及び/又は水平方向で)が提供される。工程220、225、及び230は、工程320及び/又は325のうちの1つ又はその両方から独立してもよく、且つ/又はそれらに連結されてもよい。これらの工程では、第1の前駆体を導入すること、第1のプロセスパラメータを実装すること、少なくとも1つの追加の前駆体を導入すること、少なくとも1つの追加のプロセスパラメータを導入すること、並びに傾斜化学組成を有する基板表面に沿って空間的に分離された層を堆積することが提供される。工程260、360、265、270及び370では、図示されているように、方法の継続実施及び/又は終了が提供される。
【0046】
上記の方法又は装置(システム)のフロー図及び/又はブロック図を参照して本明細書で説明された本開示の態様は、フロー図及び/又はブロック図の中の各ブロック、並びにフロー図及び/又はブロック図のブロックの組み合わせが、コンピュータプログラム命令によって実施され得るように理解される。これらのコンピュータプログラム命令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、又はその他のプログラム可能なデータ処理装置に供給され得る。図面のフロー図及びブロック図は、本開示の様々な態様によるシステム及び方法の可能な実装形態の機能性及び操作を示す。その際、フロー図及びブロック図の各ブロックは、プロセッサの操作を表し得る。これらの操作はいずれも、コンピュータによる実装のための1つ又は複数の実行可能な命令によって表し得る。幾つかの代替的な実装形態では、ブロックに記載された複数の機能は、図に記載の順序を逸脱して行われ得ることを更に留意するべきである。例えば、連続して示されている2つのブロックは、実際には、ほぼ同時に実行されてもよく、或いは、関与する機能又は結果として望まれる膜によっては、逆順で実行することがあってもよい。ブロック図及び/又はフロー図の各ブロック、並びに、ブロック図及び/又はフロー図のブロックの組み合わせは、特定機能又は作業を行う特殊用途のハードウェアベースの自動化システムによって実装可能である。
【0047】
これより図3A及び図3Bを参照すると、大気圧プラズマ装置12、1つ又は複数のプラズマ源ガス流14、1つ又は複数の前駆体流16、及び任意選択的に1つ又は複数のシールドガス流18を含む、多層及び/又は傾斜組成被覆を適用するための開示されたシステムの1つ態様が示されている。大気圧プラズマ装置12の出力20は、単成分又は多成分プラズマ22である。単成分又は多成分プラズマ22は、基板24上に多層被覆26を適用するため、基板24に対して水平方向又は垂直方向に位置決めされ得る。プラズマ22は、図3Aで示されるように、任意の形状であってもよく、或いは、ポイントソースとして、シャワーヘッドのようなパターン、或いは先細形状又は先広形状であってもよい。
【0048】
基板24は、プラズマ22によって多層被覆を受けることができる任意の基板であってもよい。基板24は、金属又は非金属であってもよい。非金属は、セラミック、プラスチック、ポリマー、無機/有機材料の複合材、ポリマーの複合材、及び無機/有機繊維を含む。基板24は、導電性、非導電性、又は半導電性であってもよい。1つの特定の態様では、基板24は、延伸アクリルのような透明ポリマー基板であってもよい。更に、図3は、ほぼ平坦な構造を有する基板24を示しているが、当業者であれば、種々の形状、表面輪郭、大きさ、及び構造を有する基板24を、本開示の範囲から逸脱しない範囲で使用し得ることを理解するであろう。
【0049】
大気圧プラズマ装置12は、物質を励起してプラズマ22を好ましくは大気圧条件下で生成することができる任意の装置又はシステムであってもよい。大気圧プラズマ装置12は、当該技術分野で公知であるように、直流エネルギー、高周波エネルギーなどを使用してプラズマ22を生成するように構成され得る。1つの態様では、大気圧プラズマ装置12は、大気圧プラズマ溶射ガン(atmospheric plasma spray gun)であってもよい。本開示に従って有用な大気圧プラズマ装置12の一例は、カリフォルニア州カルバー市に位置するSurfx Technologies, LLCから入手可能なATOMFLO(商標)400プラズマシステムである。
【0050】
プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12による励起時に大気圧プラズマを生成し得る1つ又は複数のガス状化学前駆体(gaseous chemical precursors)(反応性及び/又は非反応性)の流れであってもよい。適切なプラズマ形成ガスの例としては、酸素ガス(O)、窒素ガス(N)、水素ガス(H)、及びフッ素ガス(F)などのガスとして自然発生する分子化合物、並びに希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン)などの他のガスが含まれる。プラズマ源ガス流14は、特定の組み合わせのガスをも含み得る。例として、プラズマ源ガス流14は、温度感受性ポリマー上に堆積するように、プラズマが低温を維持しつつも高濃度の活性種を有することを可能にし得る実質的に純粋なヘリウム又はアルゴンガスの流れであってもよい。ヘリウム又はアルゴンガスは、酸素、窒素、二酸化炭素、硫化水素、アンモニウムなどの1つ又は複数の追加のガスを更に含み得る。プラズマ源ガス流14は、特定の源のガス流の組み合わせの導入を促進するのに適切な時間でプラズマ装置12に供給するようにプログラミングされ得る。
【0051】
1つの態様では、プラズマ源ガス流14は、非周囲条件下で大気圧プラズマ装置12に供給されてもよい。別の態様では、プラズマ源ガス流14は、周囲条件下で大気圧プラズマ装置12に供給されてもよい。例えば、プラズマ源ガス流14は、約1atmの圧力及び約25℃の温度であり得る。当業者であれば、プラズマ源ガス流14の物理的状態は、特定の用途によって変化してもよく、ソース材料、基板、並びに/或いは望まれる多層被覆の最終的な厚み及び/又は最終的な組成の性質によって、大気圧プラズマ装置12の性能を最適化するように調整されてもよいことを理解されるであろう。
【0052】
前駆体流16は、同一又は種々の前駆体の1つ又は複数の流れであってもよく、任意選択的に、前駆体を大気圧プラズマ装置12に導入するためのキャリアガスであってもよい。キャリアガスは、大気圧プラズマ装置12において実質的なプラズマ形成に寄与しないガス又はガスの組み合わせとして選択されてもよい。有用なキャリアガスの例として、例えば、ヘリウムガス(He)及びアルゴンガス(Ar)などの希ガスが含まれる。
【0053】
前駆体は、大気圧プラズマ22によって基板24上に堆積されたときに、膜又は被覆26を形成し得る任意の材料であってもよい。1つの態様では、前駆体は、大気圧プラズマ22によって基板24上に堆積されたときに、シリコンオキシカーバイド(SiO)膜又は被覆を形成し得る材料であってもよい。別の態様では、前駆体は、環状シロキサンであってもよい(又は環状シロキサンを含んでもよい)。前駆体の例としては、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ジメチルシロキサン(DMSO)、及びヘキサメチルジシラザン(HMDSO)が挙げられる。これらの前駆体の組み合わせは、本明細書に開示されている方法で、連続して且つ/又は一緒に使用することができる。1つの態様では、1つ又は複数のモノマーを、重合膜を生成するために単独で或いは他の化学前駆体と組み合わせて大気圧プラズマ内に導入してもよい。更に別の態様では、例えば、ジエチル亜鉛、テトラアルキルチタン組成物(tetra alkyl titanium compounds)などの有機金属化合物を、導電性、半導電性、又は絶縁膜を生成するために単独で或いは他の化学前駆体と組み合わせて大気圧プラズマ内に導入してもよい。この導電性、半導電性、又は絶縁膜は、耐摩耗膜を設けるための1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)、テトラエトシキラン(TEOS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN);導電性高分子膜を設けるための3,4−エチレンジオキシチオフエン(EDOT)、ピロール含有前駆体;疎水性膜を設けるためのCHClF(クロロジフルオロメタン)、インジウム錫酸化物を設けるためのインジウム(acac)、導電性透明膜などを設けるためのZnドープ酸化インジウムを設けるための硝酸インジウムと混在した種々の異種の硝酸亜鉛などの被覆である。
【0054】
1つの態様では、前駆体は、標準温度及び標準圧力における蒸気圧が比較的高い液体であってもよく、キャリアガスを前駆体に気泡として導入することにより、前駆体流16を形成することができる。しかしながら、この技術分野の当業者であれば、蒸発法のような様々な代替的な技法を使用して1つ又は複数の前駆体を前駆体流16に導入することができることを理解するであろう。1つの特定の態様では、前駆体流16は、周囲条件下でTMCTS液中にヘリウムガスを気泡として導入することにより形成することができる。
【0055】
シールドガス流18は、大気圧プラズマ装置12において実質的なプラズマ形成に寄与しないシールドガス流であってもよい。シールドガスは、プラズマ22の中に存在し得るが、任意の特定の理論に制限されることなく、大気中の水分、酸素、及び他の汚染物質がプラズマ22に与える影響を最小限に抑えることができる。適切なシールドガスの例として、例えば、ヘリウムガス(He)及びアルゴンガス(Ar)などの希ガスが含まれる。シールドガス流18は、シールドガスの組み合わせを含んでもよい。1つの特定の態様では、シールドガス流18は、実質的に純粋なヘリウムガスの流れであってもよい。
【0056】
1つの態様では、シールドガス流18は、非周囲条件下で大気圧プラズマ装置12に供給されてもよい。別の態様では、シールドガス流18は、周囲条件下で大気圧プラズマ装置12に供給されてもよい。例えば、シールドガス流18は、約1atmの圧力、且つ約25℃の温度であってもよい。この技術分野の当業者であれば、シールドガス流14の物理的状態は、特定の用途に左右される場合があり、大気圧プラズマ装置12の性能を最適化するために調整し得ることを理解するであろう。
【0057】
この段階で、この技術分野の当業者であれば、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18は、プラズマ22を形成するために大気圧プラズマ装置12内に導入されるように構成され得ることを理解するであろう。しかしながら、この技術分野の当業者であれば、大気圧プラズマ装置12に達する前に、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18のうちの2種類以上のガス流を組み合わせ、且つ/又は混合し得ることを理解するであろう。例えば、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18を単一の流れとして大気圧プラズマ装置12に供給してもよい。
【0058】
プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18の流量を制御することにより、プラズマ22中のプラズマ源ガス、前駆体、及びシールドガスの所望濃度を得ることができる。図3Aに示されているように、制御バルブ10をプラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18上に設けて、関連流量を制御することができる。この技術分野の当業者であれば、プラズマ22中のプラズマ源ガス、前駆体、及びシールドガスの相対濃度を操作して、大気圧プラズマ装置12の性能を最適化し、結果的に得られる被覆26に所望の特性を付与することができることを理解するであろう。例えば、プラズマ22の中の酸素の濃度を低くして(例えば、流量を調整することによって)、被覆26の炭素含有量を増大させ、それにより、基膜又は層26が生じ得る。代替的に、プラズマ22の中の酸素の濃度を高くして、層の無機性を高めることにより、以下で説明されるように、より密度の高い、例えばより硬い層(例えば、下位の層又は膜よりもモジュラスが高い)が生じ得る。同様に、プラズマ22の中の酸素の濃度を低くして、モジュラスが低く、弾性が高いように、層の有機性を高めることができる。
【0059】
1つの態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約30LPMを占めてもよく、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約2〜5LPMを占めてもよく、シールドガス流18は、残りを占めてもよい。別の態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、最大で約2容積パーセントを占めてもよく、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、最大で約5容積パーセントを占めてもよく、シールドガス流18が残りの容積パーセントを占める。更に別の態様では、プラズマ源ガス流14は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約1〜2容積パーセントを占めてもよく、前駆体流16は、大気圧プラズマ装置12に流入するガス流のうち、約0〜約10容積パーセントを占めてもよく、シールドガス流18は、0〜100容積パーセントを占める。
【0060】
図3A、3B、並びに図4A図4B図5を参照すると、多層膜被覆26を基板24に適用する方法は、基板を洗浄する工程(図示せず)から開始し得る。基板24は、ケトン又は軽アルコール(例えば、メタノール又はイソプロピルアルコール)のような種々の溶剤を使用して洗浄し得る。基板24を洗浄及び/又は活性化するために、プラズマを更に使用してもよい。プラズマ内の酸素の存在によって、多層膜被覆26を受け入れる表面が活性化され得る。清浄な基板は、オプションで、この技術分野において公知であるように、アルミニウム系ゾルゲル接着促進剤(aluminum−based sol−gel adhesion promoter)又はシリコン系接着促進剤(silicon−based adhesion promoter)のような接着促進剤で処理されてもよい。
【0061】
現在開示されているシステムは、プラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18を大気圧プラズマ装置12に供給して、プラズマ22を生成することから構成され得る。プラズマ22の大きさ(幅又は直径)は、大気圧プラズマ装置12の大きさ、並びにプラズマ源ガス流14、前駆体流16、及びシールドガス流18の流量を含む種々の要素に左右され得る。例えば、プラズマ22は、約2インチの幅であってもよい。
【0062】
特に図3A及び図3Bを参照すると、プラズマ22が第1の被覆26を基板上に堆積させるように、大気圧プラズマ装置12に対して基板24を水平方向に位置決めし、基板24を空間的に被覆し得る。プラズマ22は、基板の表面に対してほぼ平行な方向に沿って移動してもよく、且つ/又は、第2の被覆27を基板24の表面の上に(又はその直接上に)堆積するために基板24にわたってラスタースキャンされてもよい。第2の被覆は、例えば、破線の矢印によって示されているように、第1の被覆と異なる化学組成又は傾斜組成である。第1の被覆と第2の被覆との間の関係は、ランダムな関係であってもよく、或いは、2次元で示されたパターン、例えば、堆積された多層膜の長手方向軸であってもよい。
【0063】
携帯型装置を使用することができるが、当業者であれば、基板24と大気圧プラズマ装置12との間に、且つ/又は、基板24と大気圧プラズマ装置12とに沿って、多軸制御装置を提供及び/又は維持するべく、適切な自動化を導入し得ることを理解するであろう。連続的な、半連続的な、又は階段状の傾斜化学組成を有する1つ又は複数の追加の被覆を、被覆26、27のうちの1つ又はその両方の上に空間的に堆積してもよい。任意の他の適切な被覆方法(ゾルゲルなど)を使用して、他の被覆(非プラズマ堆積)を空間的に分離された被覆26、27に適用することができる。
【0064】
図4A及び4Bを参照すると、例示的な多層被覆75が示されている。ここでは、プラズマ装置12は、一組で両方向を示す矢印で示されているように、基板表面に対して水平方向及び/又垂直方向に移動する。空間的に分離された図3A及び図3Bの態様並びに図4A及び図4Bの態様の組み合わせが想起される。
【0065】
図5を参照すると、多層被覆77の一態様が示されている。多層被覆77は、複数の堆積された膜80、82、83、84、及び86を有するように示されている。これらは、1つ又は複数のプロセスパラメータを調整することによって堆積され得る。1つ又は複数のプロセスパラメータには、前駆体源の組成、前駆体源の組成及びプラズマ源ガスの組成、単独での基板24の移動速度或いは例えばプラズマヘッド12又は基板24のいずれかの移動を表す破線の矢印によって示されているようなプラズマ装置12の垂直方向の調整と組み合わせたときの基板24の移動速度、並びに他のプロセスパラメータ又は上述のプロセスパラメータの組み合わせなどが含まれる。堆積された膜80、82、83、84、及び86は、空間的に分離された堆積膜のうちの1つ又は複数の膜、並びに、堆積される基板に対して垂直方向又は水平方向で化学組成傾斜を有する堆積膜を表す。1つの態様では、本明細書で開示されている方法は、アーティクルの表面上に傾斜多層膜を設けるために使用される。アーティクルの表面は、航空宇宙ビークルの少なくとも一部であってもよい。図5で示されているように、第1の膜は、第2の膜又は複数の膜の中に設けられてもよい。膜のうちの1つ又は複数(同一の又は異なる化学組成である)は、例えば、プロセスパラメータのうちの1つ又は複数の制御及び/又はプラズマヘッドの移動及び/又はアーティクル(又は基板)の移動によって、単独で、多元パターンの変動する元素組成(膜の組成の1つ又は複数の元素)を有する。
【0066】
実施例
Surfx Technologies LLCから入手した大気圧プラズマAtomflo400装置を使用して、多層膜を堆積した。表1は、アルミニウム基板上で空間的に分離されたシリコンオキシカーバイド(SiO)被覆を作製するための処理条件を表す。当該装置は、約0.3−0.5L/分の流量の酸素ガス、ヘリウムガスによって搬送された1.0L/分の流量のTMCTS及び/又はHMDSO、並びに30L/分の流量のヘリウムガス(シールドガス)が供給された。TMCTS/ヘリウム流は、周囲条件下でヘリウムガスキャリアをTMCTS液の容器内に気泡として導入することによって得られた。以上の説明から、当業者であれば、組成及び方法における様々な修正及び変更を想起されよう。
【0067】
【0068】
表1は、図2で示されるように堆積の間に1つ又は複数の層の組成に影響を与える、プラズマ電力、キャリアガス流量、前駆体温度、バブラー流量、又は希釈物流量のうちの1つ又は複数の修正を示す。これらの例では、プラズマヘッドの垂直方向位置は基板表面に対して一定に保たれたが、プラズマヘッドの垂直方向位置は、以上で説明されたように変動させてもよい。
【0069】
表2は、#3と指定された第1の空間的に分離された領域において、以上のサンプル「G1」で実行されたオージェ分析を表す。アルゴンイオンのスパッタレートを較正するため、1000Åの厚みのTaの厚み規格が使用された。計算されたスパッタレートは、125Å/分であった。オージェ電子分光法並びに/或いは走査型電子顕微鏡法(SEM)及びエネルギー分散型X線(EDX)分析(SEMーEDX)分析方法によって測定された炭素含有量の変化では、底部近辺においてより多くの炭素含有量が示され、少なくとも1つの面積において組成における傾斜が示された。膜の上部は、炭素量が実質的に皆無又は微量であり、上部にガラス状の耐性のあるより硬い膜が生成される。膜の底部で炭素濃度が高いことにより、ポリマー基板への接着性の改善がもたらされる。
【0070】
【0071】
表3は、TMCTS及びHMDSO前駆体の組み合わせが堆積された第2のサンプルに対応するサンプル「G2」に対して実行されたオージェ分析を表す。
【0072】
【0073】
別の例では、炭素が豊富なTMCTS膜の厚みのある基層がむき出しのアクリル基板の上部に堆積された、傾斜膜堆積が提供される。より硬く、よりガラス状の被覆を生成する前駆体、HMDSOは、膜の厚みの上で膜の化学組成を傾斜させる(傾斜をつくる)ために徐々に導入された。任意の特定の理論に制約されるわけではないが、ポリマー表面近傍でTMCTSを使用する(初期プラズマ堆積処理段階)ことにより、優れた接着層が生成されるが、プラズマ堆積処理の終盤でHMDSOを使用することにより、耐性のある、ガラス状の「上部面」仕上げがもたらされる。サンプルG−1、G−2、G−3、及びG−4は、似たような態様で生成される。BA8及びBA14は、単層のTMCTS膜であり、ML_17は、時間の関数としてプラズマO流量のみを変化させることによって作られたTMCTSの多層膜である。サンプルG−1、G−2、G−3、及びG−4は、図6で見られるように、BA8、BA14、及びML_17よりも遥かに薄い。したがって、これらは、より厚みのある単層膜と同程度の浸食耐性を保持すると予測されない。しかしながら、驚くべきことに、図7で示されているように、現在作製されているこれらの傾斜膜のうちの幾つかは、単層のTMCTS膜よりもテーバー摩耗(Taber abrasion)下では実際により優れた性能を示す。これは、プラズマ堆積の最終段階においてHMDSO前駆体で生成された、上部のより硬い、SiO状の層が原因であると考えられている。図7で示されている単層膜及び多層膜に対する落下砂試験の後の曇りの変化では、より厚みのある単層膜に比べて多層膜が似たような予測せぬ結果を示す。
【0074】
基板の性質は、ポリマー又は非ポリマーであってもよいが、1つの例示的な態様では、膜のスタックがむき出しのポリメチルメタクリレート(PMMA)基板上に堆積され、TMCTS前駆体のプラズマ堆積から作られた2から4ミクロンの厚みの層膜が設けられる。TMCTS−プラズマー膜は、PMMAによく接着する比較的低い弾性率(約10GPa)を有すると判定されてきた。結果として、TMCTS−プラズマー膜は、湿式及び乾式接着試験の下では優れた性能を示すが、より高いモジュラスを有するプラズマ堆積膜ほど耐性がない場合がある。したがって、現在の方法は、例として、ナノインデンテーション技法(Nanoindenter XP; Agilent Technologies)によって測定されるように、10Gpaよりも大きいモジュラス、例えば、約15−20Gpaの堆積膜を有する、プラズマが堆積されたOMCTS前駆体及び/又は別の前駆体から作られた第2の膜への(又は直接上への)堆積を利用する。1つの態様では、第2の膜は、1ミクロンの厚みよりも少なくてもよい。更に別の態様では、1つ又は複数の特定の機能特性を設けるため、例えば、20GPaよりも大きいモジュラスを有し、且つ約500nmの厚みを有する硬い膜の上部層を第2の層の上に(又は直接上に)堆積することができる。現在開示されている方法によって得られる適切な機能性は、限定されることなく、浸食耐性及び/又は摩耗耐性、導電性(電気及び/又は熱)、光学特性(曇り度又は透明度)、放射線吸収及び/又は反射(IR、マイクロ波など)、又はそれらの組み合わせ(「多機能性」)を含む。
【0075】
図8は、基板表面に対する膜の水平方向の厚みにわたって化学傾斜を設けるための変化するプロセスパラメータを有するOMCTS前駆体ガス流、変化するプロセスパラメータを有するTMCTS前駆体ガス流、並びにそれらの組み合わせから作製された傾斜多層膜の追加のサンプルのプロセスパラメータ及び物理的特性を提供する。図8で要約されているように、化学組成、ひいては、多層スタック全体にわたる機械的及び/又は物理的特性を徐々に変化させることにより、基板強化特性、例えば、透明度、曇り度、及びテーバー摩耗の最適化がもたらされ得る。例えば、順々に堆積されるTMCTS−OMCTSを選択することにより、膜全体にわたる接着性を最適化しながらも、浸食及び摩耗の両方に対する耐性を設けることができる。耐久性のある被覆に加えて、例えば、大気圧プラズマ堆積で作られた多層スタックは、表面の中に他の多機能性を組み込むために使用することができる。例えば、耐久性のあるシリコンオキシカーバイド被覆を設けるため、大気圧プラズマ堆積(ZnO−プラズマー膜)を用いて半導性酸化亜鉛(ZnO)膜を堆積してもよい。同様に、電荷蓄積の静電散逸を改善するため、ZnO又は他の導電膜をポリカーポネート又は炭素繊維強化ポリマー(CFRP)などの基板上に堆積してもよい。
【0076】
1つの態様では、導電性(電気)特性を有する多層膜を誘電体保護プラズマ堆積膜(dielectric, protective plasma deposited film)と組み合わせてもよい。したがって、導電性ZnO−プラズマ−膜は、本開示に従って堆積され得る。この堆積された膜は、例えば、上部に堆積又は上部に直接堆積することによって、以上で説明されたようなTMCTS−OMCTSの耐久性のある膜スタックを用いて保護され得る。その他の可能性がある多機能膜としては、赤外線拒絶/偏向膜(infrared rejecting/deflecting films)が含まれる。それにより、上述のような耐久性のある膜スタックが組み込まれた耐久性膜又は発電膜(energy harvesting film)によって包含された熱負荷が減少する。
【0077】
本開示の1つの態様では、全体的な堆積又は材料配置システムを制御するため、市販のロボットを構成し得る。1つの態様では、プラズマヘッド12は、1つ又は複数のコントローラ及び/又は中央制御システムに連結されているロボットシステムの多関節アームに適合され得る。それにより、多層又は傾斜膜の堆積のためにプラズマヘッドの少なくとも2つの軸移動がもたらされる。同様に、基板又はアーティクルは、堆積の間、多軸方向で移動するように構成され得る。プラズマヘッド及びアーティクル/基板の両方が、多軸移動のために構成され得る。別の態様では、現在開示されている傾斜膜堆積プロセスを完全に自動化させ、例えば、プラズマヘッドが基板表面の上をスキャンするにつれて堆積条件を微妙に変化させることによって、機械的特性が空間的に変化する傾斜膜を設けることができる。現在開示されている多重傾斜膜の機械的特性に影響を及ぼすことが見出された1つ又は複数のパラメータは、酸素流量、化学物質を通したヘリウム流量、プラズマヘッド速度、及びプラズマ電力を含む。堆積プロセスの間に手動で制御し得る空間的に傾斜した膜を堆積するため、これらのパラメータは、プラズマヘッドが表面全体にわたってスキャンするにつれて変化するようにプログラムすることができる。この種類のプロセスを使用し得る例としては、基板の特定の部分が密封剤で覆われる場合があり、その場合、空間的に傾斜する膜の適切な機械的特性は、基板の組成によって異なる。この自動化された大気圧プラズマ堆積方法を使用して、プラズマ堆積膜の組成及び特性を空間的に「傾斜」させることができ、それにより、マスキング又はその他の時間がかかり且つ困難な技術を必要とせずに、表面上で変化する部分に対して最適な膜が生成される。他の態様では、本明細書で開示されている方法は、構成要素を修正するために利用し得る。
さらに、本開示は、以下に記載する態様を含む。
(態様1)
多層傾斜組成薄膜を作製する方法であって、
少なくとも1つの化学前駆体をプラズマ内に導入すること、
第1の膜の厚みを基板の表面に堆積することであって、前記第1の膜が、前記少なくとも1つの化学前駆体から得られた化学組成を有する、堆積すること、
前記第1の膜の厚みの前記堆積の間、前記少なくとも1つの化学前駆体の前記堆積に関連する少なくとも1つのプラズマ関連プロセスパラメータを修正すること、
前記第1の膜の前記厚みの少なくとも一部の前記化学組成を、単独で又は組み合せで、前記基板に対する垂直方向或いは垂直方向及び水平方向において変化させること
を含む方法。
(態様2)
前記導入することが、前記プラズマ内に、第1の化学前駆体及び前記第1の化学前駆体と同時に前記第1の化学前駆体と異なる少なくとも1つの別の化学前駆体を含み、前記方法が、前記第1の膜の中で、第2の化学前駆体から少なくとも部分的に得られた第2の膜の厚みを堆積することであって、前記第2の膜が、前記第1の膜と異なる化学組成を有する、堆積することを更に含む、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記導入することが、前記プラズマ内に、続いて、第1の化学前駆体及び前記第1の化学前駆体と異なる少なくとも1つの別の化学前駆体を含み、前記少なくとも1つの別の化学前駆体から少なくとも部分的に得られた第2の膜の厚みを堆積することであって、前記第2の膜が、前記第1の膜と異なる化学組成を有する、堆積すること、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記修正することが、プラズマ出力、キャリアガス流量、前駆体温度、バブラー流量、希釈物流量、又は前記基板に対するプラズマヘッドの垂直位置からなる群から選択された1つ又は複数のパラメータを変化させることを含む、態様1から3のいずれか一項に記載の方法。
(態様5)
前記基板が、1つ又は複数の半導電性材料、金属、又は非金属を含む、態様1に記載の方法。
(態様6)
前記堆積が、大気圧プラズマ堆積技法を含む、態様1に記載の方法。
(態様7)
アーティクルの表面からの第1の膜の厚みを含むアーティクルであって、前記第1の膜が、前記アーティクルの前記表面に対して垂直方向、或いは、水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜の前記厚みの少なくとも一部の中に傾斜化学組成を有する、アーティクル。
(態様8)
前記第1の膜と異なる第2の膜を更に含み、前記第2の膜が前記第1の膜の中に存在し、前記第2の膜が傾斜化学組成を有し、且つ前記第2の膜の少なくとも一部が、前記アーティクル表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜から空間的に分離されている、態様7に記載のアーティクル。
(態様9)
前記第2の膜が、前記アーティクル表面に対して垂直方向で前記第1の膜と化学的に異なる、態様8に記載のアーティクル。
(態様10)
前記第2の膜が、前記第1の膜上に直接存在する、態様8に記載のアーティクル。
(態様11)
前記第2の膜の少なくとも一部が、前記アーティクル表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向で、前記第1の膜から空間的に分離されている、態様8に記載のアーティクル。
(態様12)
前記第1の膜と前記第2の膜との間の界面を更に含み、前記界面が、前記第2の膜の元素組成に対する前記第1の膜の元素組成の変化によって特徴付けられる、態様8に記載のアーティクル。
(態様13)
前記界面が、前記アーティクル表面に対する、前記第1の膜の垂直断面と前記第2の膜の垂直断面との間にある、態様12に記載のアーティクル。
(態様14)
前記界面が、前記アーティクル表面に対する、前記第1の膜の水平断面と前記第2の膜の水平断面との間にある、態様12に記載のアーティクル。
(態様15)
前記第1の膜と前記第2の膜との間の前記界面が、酸素及び炭素のうちの1つ又はその両方の元素組成傾斜を含む、態様12から14のいずれか一項に記載のアーティクル。
(態様16)
前記アーティクルの前記表面が、航空宇宙ビークルの少なくとも一部である、態様7に記載のアーティクル。
(態様17)
化学傾斜を有する膜を堆積するためのシステムであって、
プラズマを生成するように構成される大気圧プラズマ装置、
前記大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数のプラズマ源ガス、
前記大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数の前駆体源、及び
任意選択的に、前記大気圧プラズマ装置に対して構成可能な1つ又は複数のシールドガス源
を備えるシステム。
(態様18)
前記大気圧プラズマ装置が、基板表面に対して、水平方向、垂直方向、或いは水平方向及び垂直方向に位置決めされ得る、態様17に記載のシステム。
(態様19)
前記大気圧プラズマ装置が、前記基板表面に対する少なくとも2つの軸の周りで、位置決め可能であり、且つ/又は制御される、態様18に記載のシステム。
(態様20)
前記大気圧プラズマ装置が、アーティクルに対する垂直関係又は水平関係のうちの1つ又は複数の関係で移動するように、自動化されている、態様17に記載のシステム。
【0078】
本明細書に開示されている1つ又は複数の態様は、例示及び説明を目的として提示されているが、網羅的な説明であること、又は、開示された形態でこのような1つ又は複数の態様に限定されることを意図していない。添付した特許請求の範囲の態様の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には、多数の修正及び変更が明らかであろう。これらの態様は、本開示の態様の原理及び実際の用途を最もよく説明するため、並びに、考慮される特定の用途に適した様々な修正を有する様々な態様を他の当業者が理解できるようになるため、選択及び説明されている。
【0079】
本明細書では特定の態様が例示且つ説明されているが、当業者であれば、同じ目的を達成するように計画されている任意の構成を図示の特定の態様の代わりに用いてもよいこと、及び本発明の態様が他の環境では他の用途を有することを理解されよう。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8