(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記排ガス浄化用触媒では触媒金属の配置に改善の余地が認められた。即ち、かかる排ガス浄化用触媒では、隔壁の内部全体に第1の触媒層を備え、その上にべったりと第2の触媒層が形成されている。このように入側セルの表面を触媒層で覆ってしまうと、圧損が過度に上昇することがあった。
本発明はかかる課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、圧損の上昇を抑制しつつ、排ガス浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【0007】
本発明者らが様々な角度から検討を行ったところ、触媒層を隔壁全体にわたって広範に形成するよりも、排ガス流入側の端部に近い隔壁(例えば排ガス流入側の端部近傍の隔壁)と、排ガス流出側の端部に近い隔壁(例えば排ガス流出側の端部近傍の隔壁)とに集中的に形成する方が、高い浄化性能を得られることがわかった。
一方で、本発明者らの検討によれば、隔壁の延伸方向に触媒層が形成されていない部分があると、圧損との兼ね合いで、当該部分への排ガスの流れが大きくなる。このため、排ガスの有害成分が触媒層の非形成部をすり抜けて、排気のエミッションが悪化することがわかった。
【0008】
これらの知見を基に本発明者らは更に鋭意検討を重ね、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
本発明に係る排ガス浄化用触媒は、自動車エンジンなどの内燃機関の排気管に配置されて該内燃機関から排出される排ガスの浄化を行うウォールフロー型の排ガス浄化用触媒である。ここに開示される排ガス浄化用触媒は、ウォールフロー構造の基材と第1触媒層と第2触媒層とを備えている。上記基材は、排ガス流入側の端部が開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部が開口した出側セルと、上記入側セルと上記出側セルとを仕切る多孔質な隔壁とを備えている。上記第1触媒層は、上記入側セルに接する上記隔壁の内部に、上記排ガス流入側の端部から上記隔壁の延伸方向に沿って上記隔壁の全長L
wよりも短く形成されている。上記第2触媒層は、上記出側セルに接する上記隔壁の内部に、上記排ガス流出側の端部から上記隔壁の延伸方向に沿って上記隔壁の全長L
wよりも短く形成されている。そして、上記延伸方向において、上記第1触媒層の長さをL
1とし、上記第2触媒層の長さをL
2としたとき、次式:L
w<(L
1+L
2)<2L
w;を満たすよう、上記第1触媒層と上記第2触媒層とが上記延伸方向に一部重なり合って構成されている。
【0009】
排ガス浄化性能に大きく寄与する領域、即ち、排ガス流入側の端部近傍と排ガス流出側の端部近傍)に触媒層を集中的に配置することで、触媒金属を効率よく活用することができる。そのため、高い浄化性能を実現することができる。また、第1触媒層と第2触媒層とを隔壁の延伸方向で部分的に相互に重ね合わせることにより、排ガスの「すり抜け」を防止して排ガス成分を的確に浄化(無害化)することができる。そのため、排ガスのエミッションを効果的に低減することできる。更に、2つの触媒層を、それぞれ隔壁の内部に、隔壁の全長L
wより短く形成することにより、圧損の上昇を抑制することができる。
【0010】
なお、本明細書において、触媒層が「隔壁の内部に形成されている」とは、触媒層の大部分が隔壁の内部に存在する(偏在する)ことを意味する。例えば第1触媒層の断面を電子顕微鏡で観察したときに、排ガス流入側の端部から延伸方向に向かって0.1Lwの長さの範囲における触媒金属の全量を100質量%とする。特に限定されるものではないが、このときに隔壁の内部側に存在する触媒金属が、典型的には80質量%以上、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上であることをいう。したがって、例えば隔壁の外部(典型的には表面)に触媒層を形成しようとした結果、当該触媒層の一部が非意図的に隔壁の内部へも侵食しているような場合とは、明確に区別されるものである。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記第1触媒層と上記第2触媒層とが重なり合う長さは、上記L
wの2%以上60%以下(好ましくは10%以上40%以下)である。これにより、本発明の効果を、より高いレベルで発揮することができる。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、上記第1触媒層の長さ(平均長さ)L
1が、上記L
wの20%以上90%以下である。排ガス流入側の端部から隔壁の延伸方向の全長L
wに対して少なくとも20%の部分に触媒金属を配置することで、排ガス浄化能力をより一層好適に発揮させることができる。また、L
1をL
wの90%以下とすることで、圧損の上昇をより良く抑制することができる。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、上記第2触媒層の長さ(平均長さ)L
2が、上記L
wの20%以上90%以下である。排ガス流出側の端部から隔壁の延伸方向の全長L
wに対して少なくとも20%の部分に触媒金属を配置することで、排ガス浄化能力をより一層好適に発揮させることができる。また、L
2をL
wの90%以下とすることで、圧損の上昇をより良く抑制することができる。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、上記延伸方向と直交する厚み方向において、上記隔壁の厚みをT
wとし、上記第1触媒層の厚みをT
1とし、上記第2触媒層の厚みをT
2としたとき、次式:0.2T
w≦(T
w−T
1−T
2)≦0.4T
w;を満たしている。これにより、触媒金属を効率よく活用することができ、触媒金属の使用量を低減することができる。また、厚み方向に触媒層同士の重なりを無くすことで、触媒金属の移動が起こり難くなる。このため、シンタリングや合金化による触媒の劣化を抑制することができる。したがって、触媒活性を長期に亘り安定的に発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適ないくつかの実施形態を説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。
【0017】
ここに開示される排ガス浄化用触媒は、ウォールフロー構造の基材と、該基材の隔壁に設けられた2つの触媒層とを備えている。そして、上記隔壁の延伸方向において、2つの触媒層の一部分同士が重なり合っていることで特徴付けられる。したがって、その他の構成は特に限定されない。本発明の排ガス浄化用触媒は、後述する基材、担体、触媒金属を適宜選択し、用途に応じて所望する形状に成形することができる。
【0018】
まず、ウォールフロー構造の基材について説明する。基材は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の骨格を構成するものである。基材としては、従来この種の用途に用いられるものを適宜採用することができる。
図1は、基材の一例を示す模式図である。
図1に示す基材は、外形が円筒形状のハニカム基材(ハニカム構造体)1である。ハニカム基材1は、ハニカム基材1の延伸方向(円筒形状の筒軸方向)に沿って規則的に配列された複数のセルと、該セルを仕切る隔壁とを有している。隣り合うセル同士は延伸方向の一の開口端と他の一の開口端とが交互に封止されている。
図2は、ハニカム基材1の端部1aの断面を示す模式図である。この態様では、端部1aは略円形状である。端部1aでは封止部2と開口部4とが市松模様状に配されている。封止部2と開口部4との間には多孔質な隔壁6が配置されている。
【0019】
ハニカム基材1は、例えば内燃機関が高負荷条件で運転された際に生じる高温(例えば400℃以上)の排ガスに曝された場合や、PMを高温で燃焼除去する場合などにも対応可能なように、耐熱性素材からなるとよい。耐熱性素材としては、例えば、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)などのセラミックや、ステンレス鋼などの合金が挙げられる。ハニカム基材1の容量(セルの総体積)は、通常0.1L以上、好ましくは0.5L以上であり、例えば5L以下、好ましくは3L以下、より好ましくは2L以下であるとよい。ハニカム基材1の延伸方向の全長(換言すれば隔壁6の延伸方向の全長L
w)は、通常10〜500mm、例えば50〜300mm程度であるとよい。隔壁6の厚み(延伸方向に直交する方向の長さ)は、排ガス浄化性能や機械的強度の向上、圧損抑制などの観点から、例えば0.05〜2mm程度であるとよい。隔壁6の気孔率は、機械的強度の向上や圧損抑制などの観点から、通常40〜70%程度であるとよい。隔壁6の平均細孔径は、PMの捕集性能の向上や圧損抑制の観点から、通常10〜40μm程度であるとよい。なお、ハニカム基材1全体の外形は、
図1のような円筒形にかえて、例えば楕円筒形、多角筒形などとすることもできる。
【0020】
次に、ハニカム基材1を用いて形成された排ガス浄化用触媒について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒10の隔壁近傍の構成を模式的に示す拡大断面図である。なお、この図では、排ガスが流れる向きを矢印方向で描いている。すなわち、
図3の向かって左側が排ガス流路(排気管)の上流であり、
図3の向かって右側が排ガス流路の下流である。排ガス浄化用触媒10は、いわゆるウォールフロー構造である。排ガス浄化用触媒10は、排ガス流入側の端部24aが開口した(コの字状の)入側セル24と、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部25aが開口した(コの字状の)出側セル25と、両セルを仕切る多孔質な隔壁26とを備えている。入側セル24の排ガス流出側の端部25aと、出側セル25の排ガス流入側の端部24aとには封止部22が配置され、目封じされている。隔壁26の内部(具体的には隔壁26の細孔内)には、所定の性状(例えば長さや厚み、貴金属担持量)の2つの触媒層(即ち、第1触媒層261と第2触媒層262)が形成されている。
【0021】
このような構成の排ガス浄化用触媒10では、内燃機関から排出された排ガスが排ガス流入側の端部24aから入側セル24内へと流入し、多孔質な隔壁26の細孔内を通過して、隣接する出側セル25の排ガス流出側の端部25aから流出する。排ガス中の有害成分は、排ガス浄化用触媒10内を通過する間に、触媒層と接触し、浄化(無害化)される。例えば、排ガスに含まれるHC成分やCO成分は触媒層の触媒機能によって酸化され、水(H
2O)や二酸化炭素(CO
2)などに変換(浄化)される。NO
x成分は触媒層の触媒機能によって還元され、窒素(N
2)に変換(浄化)される。PM成分は隔壁26の細孔内を通り難いため、一般に、入側セル24内の隔壁26上に堆積する。堆積したPMは、触媒層の触媒機能によって、或いは所定の温度(例えば、500〜700℃程度)で燃焼されて、分解・除去される。
【0022】
2つの触媒層(第1触媒層261及び第2触媒層262)は、排ガスを浄化する場として排ガス浄化用触媒10の主体をなすものである。2つの触媒層は、それぞれ、酸化及び/又は還元触媒として機能する触媒金属粒子と、該触媒金属粒子を担持する担体とを備えている。
【0023】
触媒金属としては、種々の酸化触媒や還元触媒として機能し得る金属種を考慮することができる。典型的には、白金族であるロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの貴金属が挙げられる。或いは、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)などを使用してもよい。また、これらの金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。更には、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属など、他の金属種であってもよい。触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。上記触媒金属粒子の平均粒径(透過型電子顕微鏡観察により求められる粒径の平均値。以下同じ。)は通常1〜15nm程度であり、10nm以下、7nm以下、更には5nm以下であるとよい。
【0024】
第1触媒層261と第2触媒層262とに含まれる金属種は同じであってもよく、異なっていてもよい。一例として、一方の触媒層(例えば第1触媒層261)に還元活性が高い金属種(例えばロジウム)を、もう一方の触媒層(例えば第2触媒層262)に酸化活性が高い金属種(例えばパラジウム及び/又は白金)を、それぞれ用いることができる。他の一例として、2つの触媒層(第1触媒層261及び第2触媒層262)に同種の金属(例えばロジウム)を用いることができる。
好ましい一態様では、排ガス流入側に近い第1触媒層261に少なくともRhまたはRhの合金を含み、排ガス流出側に近い第2触媒層262に少なくともRh、Pd、Ptまたはこれらの金属の合金を含んでいる。これにより、触媒金属の浄化活性を高いレベルで発揮させることができる。
【0025】
第1触媒層261と第2触媒層262の触媒金属担持率(担体を100質量%としたときの触媒金属含有率)は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。各触媒層の触媒金属の担持率は、例えば触媒層の長さや厚みなどによっても異なり得るため特に限定されないが、それぞれ、概ね1.5質量%以下であるとよく、0.05〜1.5質量%であることが好ましく、0.2〜1質量%であることがより好ましい。担持率を所定値以上とすることで、触媒金属による排ガス浄化作用が得られ易くなる。また担持率を所定値以下とすることで、金属の粒成長(シンタリング)の進行や圧損の上昇を抑制することができる。更に、コスト面でも有利である。
【0026】
触媒金属を担持する担体としては、従来この種の排ガス浄化用触媒で使用される無機化合物を考慮することができる。なかでも、比表面積(ここではBET法により測定される比表面積をいう。以下同じ。)が比較的大きな多孔質担体を好ましく用いることができる。好適例として、アルミナ(Al
2O
3)、セリア(CeO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、及びこれらの固溶体(例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物))、或いはこれらの組み合わせなどが挙げられる。担体粒子(例えばアルミナ粉末やCZ複合酸化物の粉末)は、耐熱性や構造安定性の観点から、比表面積が10〜500m
2/g、例えば200〜400m
2/gであるとよい。担体粒子の平均粒径は、典型的には1〜500nm、例えば10〜200nmであるとよい。なお、第1触媒層261と第2触媒層262とに含まれる担体の種類は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
第1触媒層261は、隔壁26内部の入側セル24と接する領域に、排ガス流入側の端部24aから延伸方向に沿って隔壁26の全長L
wよりも短く形成されている。入側セル24へと流入した排ガスは隔壁26内を通過する。このため、第1触媒層261を隔壁26の内部に設けることで、隔壁26通過時の排ガス浄化性能を効果的に高めることができる。また、本発明者らの検討によれば、かかる構成は、排ガス流入時の圧損を低減する点からも特に有効である。
【0028】
第1触媒層261の延伸方向の長さ(平均長さ)L
1は、上記L
wの概ね20%以上、典型的には25%以上、好ましくは30%以上、例えば50%以上であって、概ね90%以下、典型的には85%以下、好ましくは80%以下、例えば70%以下であるとよい。
図3に示す態様では、第1触媒層261の長さL
1が上記L
wの凡そ60%である。本発明者らの検討によれば、入側セル24の封止部22近傍の部分には、不燃成分からなるアッシュ(ASH)が堆積し易い傾向がある。このため、L
1を所定値以下とすることで、圧損の上昇を好適に抑制することができる。また、L
1を所定値以上とすることで、排ガス浄化能力をより一層好適に発揮させることができる。
【0029】
第2触媒層262は、隔壁26内部の出側セル25と接する領域に、排ガス流出側の端部25aから延伸方向に沿って隔壁26の全長L
wよりも短く形成されている。
第2触媒層262の延伸方向の長さ(平均長さ)L
2は、上記L
wの概ね20%以上、典型的には25%以上、例えば30%以上、好ましくは50%以上であって、概ね90%以下、典型的には85%以下、好ましくは80%以下、例えば70%以下であるとよい。
図3に示す態様では、第2触媒層262の長さL
2が上記L
wの凡そ60%である。これにより、圧損の上昇を抑制しつつ高い浄化性能を実現することができる。
なお、
図3に示す態様では、第1触媒層261と第2触媒層262の長さが略等しい。しかし、これには限定されない。例えば、一方の触媒層の長さを相対的に長く、もう一方の触媒層の長さを相対的に短くすることもできる。
【0030】
排ガス浄化用触媒10では、隔壁26の全長L
wと、第1触媒層261の長さL
1と、第2触媒層262の長さL
2とが、次式:L
w<(L
1+L
2)<2L
w;を満たしている。換言すれば、隔壁26の延伸方向において、第1触媒層261及び第2触媒層262の一部が相互に重なり合っている。第1触媒層261と第2触媒層262とを延伸方向に敢えて重ねることで、排ガスが触媒層の形成されていない部分を通過して、未浄化のまま排出されることが未然防止される。これにより、排ガス成分が的確に触媒層と接触することとなり、効果的にエミッションを低減することできる。
【0031】
第1触媒層261と第2触媒層262とが延伸方向に重なり合う長さは、例えば各触媒層の厚みなどによっても異なり得るため特に限定されない。通常は、上記L
wの概ね2%以上、典型的には5%以上、好ましくは10%以上、例えば20%以上であって、概ね60%以下、典型的には50%以下、好ましくは40%以下であるとよい。なかでも、低コストと高性能とを高度に両立する観点からは、上記L
wの10〜25%程度であることが好ましい。
【0032】
第1触媒層261と第2触媒層262の厚み(平均厚み)は、例えば隔壁26の全体厚みT
wや触媒層の延伸方向の長さなどによっても異なり得るため特に限定されない。典型的には、第1触媒層261と第2触媒層262とは、それぞれ、隔壁26の全体厚みT
wよりも短く形成される。例えば、第1触媒層261の厚みT
1と第2触媒層262の厚みT
2とが、それぞれ、上記T
wの20%以上、典型的には25%以上、好ましくは30%以上、例えば35%以上であって、90%以下、典型的には80%以下、例えば70%以下であるとよい。
【0033】
好ましい一態様では、隔壁の全体厚みT
wと、第1触媒層261の厚みT
1と、第2触媒層262の厚みT
2とが、次式:0.2T
w≦(T
w−T
1−T
2)≦0.4T
w;を満たしている。換言すれば、第1触媒層261と第2触媒層262とが厚み方向に接触しないように、隙間が空いている。つまり、厚み方向において、第1触媒層261と第2触媒層262との間には、上記T
wの20〜40%(例えば25〜35%)程度の厚さで、基材のみからなる部分を設けるとよい。これにより、所望の触媒性能を安定して発揮できる。また、触媒金属の移動を抑制して、シンタリングや合金化による触媒金属の劣化を抑制することができる。
【0034】
上述のような触媒層は、従来と同様の方法で形成することができる。
例えば
図3に示す態様の排ガス浄化用触媒10は、以下のように形成するとよい。
先ず、
図1,2に示すようなハニカム基材1を用意し、ハニカム基材1の隔壁内部に第1触媒層261を形成する。具体的には、所望の触媒金属成分(典型的には触媒金属をイオンとして含む溶液)と、所望の担体粉末とを含む第1触媒層形成用スラリーを調製する。スラリーの性状(粘度や固形分率など)は、使用するハニカム基材1のサイズや隔壁26の気孔率などを考慮して調整するとよい。次に、このスラリーをハニカム基材1の排ガス流入側の端部24aから入側セル24内に供給し、内部コート法によって、隔壁26の細孔内に所望の性状の第1触媒層261を形成する。第1触媒層261の性状(例えば厚みや気孔率)は、例えばスラリーの性状やスラリーの供給量などによって調整することができる。或いは、上記スラリーの供給時に出側セル25を加圧して、入側セル24と出側セル25に圧力差を生じさせ、上記スラリーが隔壁26内に浸透しすぎないよう調整するのもよい。
【0035】
次に、第1触媒層261の形成時と同様に、第2触媒層形成用スラリーを調製する。このスラリーをハニカム基材1の排ガス流出側の端部25aから出側セル25内に供給し、内部コート法によって、隔壁26の細孔内に所望の性状の第2触媒層262を形成する。
スラリーを付与した後のハニカム基材1は、所定の温度及び時間で乾燥、焼成する。これにより、
図3に示すような排ガス浄化用触媒10を製造することができる。
【0036】
なお、触媒層形成用スラリーは、触媒金属及び担体に加えて、従来公知の酸素吸放出材やバインダ、添加剤などの任意の添加成分を含み得る。酸素吸放出材としては、担体又は非担持体としてのCZ複合酸化物などが挙げられる。バインダとしては、アルミナゾル、シリカゾルなどが挙げられる。
【0037】
ここに開示される排ガス浄化用触媒は、圧損の上昇を抑制しつつ、優れた排ガス浄化性能を発揮し得るものである。したがって、種々の内燃機関、例えば自動車のガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気系(排気管)に好適に配置することができる。なかでもガソリンエンジンは通常、理論空燃比で制御されているため、排ガスが流入側の端部に近い隔壁部分及び流出側の端部に近い隔壁部分を流れやすい。このため、本発明の適用が特に効果的である。
【0038】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に限定することを意図したものではない。
【0039】
≪I.触媒層のサイズ(長さ、厚み)の検討≫
<例1>
基材として、セル数300cpsi(cells per square inch)、容積(セル通路の容積も含めた全体の嵩容積をいう)0.9L、全長105mm、外径103mm、隔壁の厚み0.3mmであり、気孔率が59%のコーディエライト製のハニカム基材を準備した。
次に、担体であるAl
2O
3粉末(γ−Al
2O
3)40gと、触媒金属としてのRh含有量が0.2gである適量のロジウム水溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を撹拌混合した後、乾燥、焼成(500℃、1時間)することにより、Al
2O
3粉末にRhが担持された形態の触媒金属担持粉末を得た。かかる触媒金属担持粉末と、焼成後のCZ複合酸化物量が60gとなるセリア−ジルコニア複合酸化物溶液と、適量の純水とを混合し触媒層形成用スラリーを調製した。
次に、上記スラリーを、焼成後の触媒金属の担持量が基材1L当たり100gとなるようハニカム基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、該入側セルと接する隔壁の細孔内に第1触媒層(延伸方向の長さL
1:隔壁の全長の30%、厚みT
1:隔壁の厚みの35%)を形成した。このとき、出側セルの排ガス流出側の端部からガスを供給して、入側セルと出側セルとの間に相対的な圧力差を生じさせ、スラリーが隔壁内に浸透する深さを調整した。
次に、上記スラリーを、焼成後の触媒金属の担持量が基材1L当たり100gとなるようハニカム基材の排ガス流出側の端部から出側セル内に供給し、該出側セルと接する隔壁の細孔内に第2触媒層(延伸方向の長さL
2:隔壁の全長の30%、厚みT
2:隔壁の厚みの35%)を形成した。このとき、入側セルの排ガス流入側の端部からガスを供給して、入側セルと出側セルとの間に相対的な圧力差を生じさせ、スラリーが隔壁内に浸透する深さを調整した。
そして、150℃で1時間乾燥した後、500℃で1時間の焼成を行うことにより、排ガス浄化用触媒(例1)を得た。例1では、隔壁の延伸方向の中央部分において、触媒層の形成されていない部分が隔壁の全長L
wの40%にわたって存在している。
【0040】
<例2>
第1触媒層及び第2触媒層の延伸方向の長さを、いずれも隔壁の延伸方向の全長L
wの50%としたこと以外は上記例1と同様に、排ガス浄化用触媒(例2)を作製した。
【0041】
<例3>
第1触媒層及び第2触媒層の延伸方向の長さを、いずれも隔壁の延伸方向の全長L
wの55%としたこと以外は上記例1と同様に、排ガス浄化用触媒(例3)を作製した。この例では、第1触媒層と第2触媒層とが延伸方向にL
wの10%の長さにわたって重なり合っている。換言すれば、隔壁の延伸方向の中央部分では、第1触媒層と第2触媒層とが(触媒層の形成されていない部分を介して)厚み方向に積層され、多層構造になっている。
【0042】
<例4〜例9>
第1触媒層及び第2触媒層の延伸方向の長さL
1、L
2を表1に示すように形成したこと以外は上記例3と同様に、第1触媒層と第2触媒層とが延伸方向の一部で重なり合っている排ガス浄化用触媒(例4、例5)を作製した。また、参考例として、第1触媒層及び第2触媒層の延伸方向の長さL
1、L
2と厚みT
1、T
2を表1に示すように形成したこと以外は上記例1と同様に、排ガス浄化用触媒(例6〜例9)を作製した。
触媒層の仕様を下表1に纏める。
【0044】
<排ガス浄化性能の評価>
上記得られた排ガス浄化用触媒(例1〜例9)をガソリンエンジンの排気管に装着し、排ガス浄化性能を比較した。具体的には、エンジンベンチの排気系に排ガス浄化用触媒を設置し、排ガスの評価温度(入りガス温)400℃に調節して、HC成分及びNO
x成分の浄化率を測定した。結果を表1の該当欄に示す。また、
図4には例1〜例5に係る排ガス浄化用触媒の浄化性能を比較したグラフを示す。
【0045】
まず、延伸方向の重なりの好適範囲について検討する。
図4から明らかなように、例1は最も浄化性能が悪かった。この理由としては、隔壁の延伸方向に触媒金属が担持されていない部分があったために、そこから未浄化の有害成分がすり抜けたことが考えられる。また、例2は、例1に比べて浄化性能が改善されていたが、未だ15%程度の有害成分が浄化されず排出されていた。
これに対して、2つの触媒層同士を延伸方向に相互に重ね合わせた例3〜例5では、相対的に高い浄化性能を示した。特に、延伸方向の重なりを隔壁の全長L
wの10〜40%とした例3、例4において最も優れた浄化性能を示した。
なお、延伸方向の重なりを隔壁の全長L
wの60%とした例5では、例3、例4に比べてやや浄化性能が低下した。この理由としては、入側セルと出側セルとの圧損差が考えられる。即ち、例5では、触媒金属を広範囲に担持したため、入側セルと出側セルとの圧損差が高くなっている。これにより、排ガスが触媒層内(特には隔壁内)をより早く通り抜けてしまうこととなり、例3、例4に比べて浄化性能が低下したことが考えられる。
【0046】
以上のことから、第1触媒層と第2触媒層とを隔壁の延伸方向に一部重ね合わせることで、相対的に高い排ガス浄化性能を実現することができる。また、延伸方向の重なりは、隔壁の全長L
wの2%以上60%以下(特には10%以上40%以下)とするとよい。かかる結果は、本発明の技術的意義を示すものである。
【0047】
次に、延伸方向の重なりが同等の試験例(例3、例8)を比較して、厚み方向の好適範囲を検討する。例3の浄化率は、参考例としての例8と概ね同等であった。このことから、厚み方向において、第1触媒層と第2触媒層との間には、上記T
wの20〜40%(典型的には25〜35%)程度の隙間を設けてもよい。換言すれば、厚み方向のT
w−T
1−T
2は、0.2T
w以上0.4T
w以下とすることができる。これにより、生産性や作業容易性を高めることができる。更には、所望の触媒性能を発揮できるとともに、触媒金属の移動を抑制し得、シンタリングや合金化による触媒金属の劣化を抑制することができる。
【0048】
また、例2と、参考例としての例6、例7との比較から、重なりが0(つまり、L
w=(L
1+L
2))の場合には、厚み方向において、触媒層が万遍なく存在しているか、あるいは第1触媒層と第2触媒層とが一部重なり合って構成されているとよい。換言すれば、次式:T
w≦(T
1+T
2)<2T
w;を満たすとよい。これにより、相対的に高い排ガス浄化性能を実現することができる。
【0049】
≪II. 触媒金属種の検討≫
<例10〜例12>
触媒金属の種類を表2に示すものに変更したこと以外は上記例8と同様に、排ガス浄化用触媒(例10〜例12)を作製した。そして、上記I.と同様に排ガス浄化性能を評価した。結果を表2の該当欄に示す。
【0051】
表2から明らかなように、第1触媒層にロジウムを、第2触媒層にロジウム又はパラジウムを用いた場合に、特に浄化率が高かった。このことから、触媒金属種としては、第1触媒層及び第2触媒層にロジウムを用いることが好ましい。或いは、他の好適例として、第1触媒層に還元活性が高いロジウムを、第2触媒層に酸化活性が高いパラジウムを用いることが好ましい。
【0052】
≪III. 2つの触媒層の重なりに関する詳細検討≫
<例13〜例16>
第2触媒層の延伸方向の長さL
2を表3に示すように形成したこと以外は上記例4と同様に、排ガス浄化用触媒(例13〜例16)を作製した。そして、上記I.と同様に排ガス浄化性能を評価した。結果を表3の該当欄に示す。
【0054】
表1、3から明らかなように、2つの触媒層の延伸方向の重なりを隔壁の全長L
wの10〜25%とした場合、格別に浄化性能が優れていた。かかる結果は、本発明の技術的意義を示すものである。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。