(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381669
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-559775(P2016-559775)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080958
(87)【国際公開番号】WO2016079875
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
実公平6−11406(JP,Y2)
【文献】
特開2009−103159(JP,A)
【文献】
特開2007−255607(JP,A)
【文献】
特開平05−309588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に装着され、当該外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に充填されているグリースのうち、前記波動発生器の外周側部分を覆っているグリース部分の温度を制御するグリース温度制御機構と、
を有しており、
前記グリース温度制御機構は、前記波動発生器の外周側部分に対して、その全周に亘って、装置中心軸線の方向から対峙しているヒーターを備えており、
前記ヒーターは、前記外歯歯車の内周面の全周に亘って当該内周面に接触しており、前記内周面と共に撓み可能な撓み性を備えている波動歯車装置。
【請求項2】
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に装着され、当該外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に充填されているグリースのうち、前記波動発生器の外周側部分を覆っているグリース部分の温度を制御するグリース温度制御機構と、
を有しており、
前記グリース温度制御機構は、前記波動発生器の外周側部分に対して、その全周に亘って、装置中心軸線の方向から対峙しているヒーターを備えており、
前記ヒーターは、前記外歯歯車の内周面の全周に亘って貼り付けられており、前記外歯歯車と共に撓み可能な撓み性を備えている波動歯車装置。
【請求項3】
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に装着され、当該外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に充填されているグリースのうち、前記波動発生器の外周側部分を覆っているグリース部分の温度を制御するグリース温度制御機構と、
を有しており、
前記グリース温度制御機構は、前記波動発生器の外周側部分に対して、その全周に亘って、装置中心軸線の方向から対峙しているヒーターを備えており、
前記外歯歯車は、カップ形状の外歯歯車であり、非円形に撓み可能な円筒状胴部、前記円筒状胴部の後端から半径方向の内方に延びるダイヤフラム、前記ダイヤフラムの内周縁に形成した円盤状あるいは円環状のボス、および、前記円筒状胴部の外周面部分に形成した外歯を備えており、
前記ヒーターは、前記外歯歯車と一体回転するヒーター支持部材によって支持されており、
さらに、出力フランジと、
押さえ部材と、
前記押さえ部材と前記出力フランジの間に、前記ボスを挟んだ状態で、これら三部材を締結固定する締結ボルトと、
を有し、
前記押さえ部材に前記ヒーター支持部材が固定されているか、あるいは、前記押さえ部材と前記ヒーター支持部材が単一部材からなる波動歯車装置。
【請求項4】
前記ヒーターは、前記外歯歯車の前記円筒状胴部の内周面の全周に亘って当該内周面に対して非接触状態で対峙している請求項3に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記ヒーターは、前記外歯歯車の前記円筒状胴部の内周面の全周に亘って当該内周面に接触しており、前記内周面と共に撓み可能な撓み性を備えている請求項3に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記グリース温度制御機構は、
前記グリース部分の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器の検出温度に基づき、前記ヒーターを駆動して、始動時の前記グリース部分の温度を制御する制御部と、
を備えている請求項1、2または3に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ形状あるいはシルクハット形状の可撓性の外歯歯車を備えた波動歯車装置に関する。さらに詳しくは、グリース加熱用のヒーターを内蔵し、始動困難な極低温環境下でも始動可能な波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置としては、カップ形状の可撓性の外歯歯車を備えたカップ型波動歯車装置、およびシルクハット形状の可撓性の外歯歯車を備えたシルクハット型波動歯車装置が知られている。カップ形状の外歯歯車では、非円形に撓み可能な円筒状胴部の前側開口端の側の部位の外周面部分に外歯が形成され、その後側開口端には、半径方向の内方に延びるダイヤフラムが形成され、ダイヤフラムの内周縁には、円盤状あるいは円環状のボスが形成されている。ダイヤフラムおよびボスが、カップ形状の底の部分に該当する。外歯歯車は、ボスを介して、負荷側部材などの部材に締結固定される。シルクハット形状の外歯歯車では、円筒状胴部の前側開口端の外周面部分に外歯が形成され、その後側開口端には、半径方向の外方に延びるダイヤフラムが形成され、ダイヤフラムの外周縁には円環状のボスが形成されている。ダイヤフラムおよびボスが、シルクハット形状の庇の部分に該当する。
【0003】
カップ型波動歯車装置あるいはシルクハット型波動歯車装置においては、その内部に充填あるいは塗布したグリースによって、潤滑対象の各接触部が潤滑される。グリースで各部を潤滑する波動歯車装置は、低温環境下の使用時、低容量のモーターでは始動できなくなることがある。
【0004】
特許文献1には、低温環境下、例えば−30℃の低温下において、外部から波動歯車装置を加熱することによって、グリースの粘性を低下させて波動歯車装置を円滑に駆動する方法が提案されている。ここに開示の波動歯車装置では、熱伝導率の高い素材から部品を製造し、内歯歯車の外周面にヒーターを面接触状態に取り付け、ヒーターからの熱を波動歯車装置の全体に伝達している。ヒーターの近傍に配置した温度計の測定結果に基づき、ヒーターの温度を調整して、内歯歯車と外歯歯車との間、波動発生器と外歯歯車との間、および、波動発生器内に塗布されているグリースの温度を一定に維持している(特許文献1の段落0008〜0014)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−255607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低温環境下の波動歯車装置は、低温専用グリースで潤滑しているが、−30℃以下の環境下では、グリースの粘性の影響で、始動時の回転トルクが急増し、低容量のモーターでは始動できなくなる場合がある。また、極低温環境下、例えば、−55℃以下の環境下では、グリースの塑性、粘性の影響で、始動時の回転トルクが急増し、低容量のモーターでは始動できなくなる場合がある。ここで、低温専用グリースは、波動歯車装置の始動性を重視し、小さな動粘度の基油を使用しており、室温以上の環境下での高負荷運転では十分な潤滑性能は期待できない。
【0007】
特許文献1に開示の方法は、低温環境下においてヒーターを用いて波動歯車装置の全体を加熱して、各部分のグリースの温度を一定に維持している。しかしながら、各部分のグリースの温度を一定に維持するためには、大きな熱量が必要である。また、内歯歯車の外周面の側から加熱する場合には、波動発生器の内部のグリースが所定温度に加熱されるまでに時間を要する。また、投入熱量を多くすると、ヒーターに近い部分のグリースが、室温以上に過熱された状態に陥り、十分な潤滑性能を発揮できなくなるおそれがある。特に、極低温環境下では、波動歯車装置内部のグリースの温度を一定に維持することは困難である。
【0008】
本発明の課題は、この点に鑑みて、内部の一部分のグリース温度を制御することにより、始動困難な極低温環境下でも確実に始動できるようにした波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に装着され、当該外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に充填されているグリースのうち、前記波動発生器の外周側部分を覆っているグリース部分の温度を制御するグリース温度制御機構と、
を有しており、
前記グリース温度制御機構は、前記波動発生器の外周側部分に対して、その全周に亘って、装置中心軸線の方向から対峙しているヒーターを備えている。
【0010】
低温環境下、特に極低温環境下での波動歯車装置の始動トルクは、外歯歯車の内側に配置されている波動発生器の部分のグリース量と、この部分のグリース温度に大きく影響を受ける。すなわち、この部分のグリースの塑性、粘性抵抗が高いと、始動トルクが大幅に高くなってしまう。また、一旦、始動すると、すなわち、モーターによって波動発生器が回転を始めると、波動発生器に塗布されているグリース、あるいはその周りに充填されているグリースの流れ(例えば、波動発生器の軌道部へのグリースの移動)、グリースの粘性による発熱(高せん断力を受ける波動発生器の軸受け軌道部の粘性抵抗による発熱)などにより、波動歯車装置のランニングトルクは減少して通常の回転トルクに戻る。
【0011】
したがって、始動の可否が問題となり、始動の可否を左右する波動発生器の部分に塗布・充填されているグリース、その周りを覆っているグリースの塑性、粘性抵抗を、始動前に下げるようにすればよい。すなわち、波動歯車装置の内部のグリースのうち、波動発生器のベアリング部分の内部あるいは周囲にある特定のグリース部分の温度を制御(加熱)することにより、低温環境下、特に、極低温環境下においても、波動歯車装置を始動することが可能になる。
【0012】
本発明の波動歯車装置では、この点に着目して、外歯歯車の内側に配置されている波動発生器の外周側部分(ウエーブジェネレータ)の近傍にヒーターを配置してある。これにより、波動発生器の外周側部分に塗布され、あるいは、その周囲に充填されている特定のグリース部分を、ヒーターによって加熱し、当該グリース部分の温度を制御することができる。
【0013】
これにより、低温環境下での波動歯車装置の始動トルクを下げることができ、低容量のモーターによっても波動歯車装置を始動できる。また、一部のグリース(すなわち、特定部分に配置されているグリース)のみを加熱すればよいので、波動歯車装置内部のグリースを全体的に加熱して一定の温度に維持する場合のような大きな熱量を必要とせず、ヒーターに近い位置にあるグリース部分が過熱状態に陥り、十分な潤滑性能を期待できなくなるという弊害も発生しない。
【0014】
本発明の波動歯車装置において、グリース温度制御機構は、波動歯車装置のグリース部分の温度を検出する温度検出器と、温度検出器の検出温度に基づき、ヒーターを駆動して、始動時の前記グリース部分の温度を制御する制御部とを備えていることが望ましい。これにより、精度良くグリース温度制御を行うことができる。
【0015】
本発明の波動歯車装置において、ヒーターを、外歯歯車の内周面の全周に亘って当該内周面に対して非接触状態で対峙させておくことができる。
【0016】
また、ヒーターを、外歯歯車の内周面の全周に亘って当該内周面に接触させておくこともできる。この場合には、外歯歯車の内周面と共に撓み可能な撓み性を備えたヒーターを用いればよい。例えば、ヒーターとして、コイルスプリング状に巻いた発熱線、シリコンラバーヒーター等の板状のヒーター等を用いることができる。
【0017】
シリコンラバーヒーター等の板状のヒーターを用いる場合においては、当該ヒーターを、外歯歯車の内周面の全周に亘って貼り付けておくことができる。
【0018】
本発明の波動歯車装置において、外歯歯車と一体回転するヒーター支持部材によって、ヒーターを支持することができる。
【0019】
カップ形状の可撓性外歯歯車を備えた波動歯車装置は、出力フランジと、押さえ部材と、押さえ部材および出力フランジの間に、外歯歯車のボスを挟んだ状態で、これら三部材を締結固定する締結ボルトとを備えている場合がある。この場合には、ヒーターを支持するヒーター支持部材を、押さえ部材に固定しておけばよい。または、押さえ部材とヒーター支持部材を、単一部材から形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係るカップ型波動歯車装置を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のグリース温度制御機構の変形例1を示す半縦断面図である。
【
図3】
図1のグリース温度制御機構の変形例2を示す半縦断面図である。
【
図4】
図1のグリース温度制御機構の変形例3を示す半縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0022】
(全体構成)
図1は、本実施の形態に係るカップ型の波動歯車装置を示す縦断面図である。波動歯車装置1は筒状の装置ハウジング2を有している。装置ハウジング2の後端部(図面における下側の部位)には、クロスローラーベアリング3を介して、円盤状の出力フランジ4が回転自在の状態で取り付けられている。
【0023】
装置ハウジング2の外周部には取付けフランジ2aが形成されており、ここには、円周方向に所定のピッチでボルト穴2bが形成されている。装置ハウジング2の前端部の円形内周面には内歯5aが形成されている。この前端部が、剛性の内歯歯車5として機能する。換言すると、装置ハウジング2に内歯歯車5が一体形成されている。装置ハウジング2の内部には、カップ形状の可撓性の外歯歯車6が同軸に配置されている。外歯歯車6の内側には波動発生器7が同軸に装着されている。波動発生器7は外歯歯車6を非円形、例えば楕円状に撓めて、内歯歯車5に部分的に噛み合わせている。
【0024】
波動発生器7は、入力軸連結用の軸穴8aを備えた剛性のプラグ8と、このプラグ8の楕円状の外周面に装着したウエーブベアリング9とを備えている。ウエーブベアリング9は半径方向に撓み可能な軌道輪を備えたベアリングであり、プラグ8に装着された状態では、その外輪外周面が楕円状に撓められている。プラグ8の軸穴8aに挿入される入力軸10は、締結ボルト11等によってプラグ8に同軸に締結固定される。入力軸10を介してモーター等からの出力回転が波動発生器7に入力される。
【0025】
外歯歯車6は、非円形に撓み可能な円筒状胴部6aを備えている。この円筒状胴部6aの前側開口端の側の外周面部分には、外歯6cが形成されている。円筒状胴部6aにおける外歯6cが形成されている部分を外歯形成部分と呼ぶ。円筒状胴部6aの後端からは、半径方向の内方にダイヤフラム6fが延びている。ダイヤフラム6fの内周縁に連続して、円環状のボス6gが形成されている。
【0026】
外歯歯車6における円筒状胴部6aの外歯形成部分の内側に、波動発生器7が装着されている。外歯形成部分は波動発生器7によって楕円形状に撓められ、楕円形状の長軸の両端に位置する外歯6cが内歯歯車5の内歯5aに噛み合っている。
【0027】
外歯歯車6のボス6gは、押さえ部材12と出力フランジ4の間に挟まれた状態で、複数本の締結ボルト13によって、出力フランジ4に対して同軸に締結固定されている。押さえ部材12には、円筒部分12aと、この円筒部分12aの前側開口端から半径方向の外方に広がっている円盤状部分12bとが形成されている。円筒部分12aは、ボス6gの前側から、その中空穴および出力フランジ4の中空穴に嵌め込まれ、ボス6gと出力フランジ4を同軸となるように位置決めしている。円盤状部分12bと出力フランジ4の間にボス6gを挟んだ状態で、締結ボルト13によって、これらの三部材が締結固定されている。
【0028】
(グリース温度制御機構)
波動歯車装置1にはグリース温度制御機構15が組み付けられている。グリース温度制御機構15は、外歯歯車6の内側に充填されているグリース16のうち、波動発生器7の外周側部分を覆っているグリース部分16aの温度を制御する。すなわち、図において一点鎖線の枠で示すように、波動発生器7のウエーブベアリング9の内部に塗布、充填されているグリース、ウエーブベアリング9の側方に位置するグリースの温度を制御する。
【0029】
グリース温度制御機構15は、波動発生器7の外周側部分に対して、その全周に亘って、装置中心軸線1aの方向から対峙している円環状のヒーター17を備えている。また、グリース部分の温度を検出する熱電対等の温度検出器18と、温度検出器18の検出温度に基づき、ヒーター17を駆動して、波動歯車装置1の始動時のグリース部分16aの温度を制御する制御部19とを備えている。
【0030】
ここで、ヒーター17は、長方形断面の板状ヒーターを円環状に形成したものであり、円筒形状のヒーター支持部材21に取り付けられている。ヒーター支持部材21は、本例では、ボス6gに固定されている押さえ部材12に一体形成されている。すなわち、押さえ部材12の円盤状部分12bの外周縁部には、装置中心軸線1aの方向に沿って、波動発生器7の近傍位置まで延びる円筒状のヒーター支持部材21が形成されている。ヒーター支持部材21における先端開口部21aに、円環状のヒーター17が取り付けられ、ヒーター17は所定の間隔で、装置中心軸線1aの方向から波動発生器7の外周側部分(ウエーブベアリング9の部分)に対峙している。
【0031】
グリース温度制御機構15を備えた波動歯車装置1では、外歯歯車6の内部における波動発生器7の外周部分の近傍にヒーター17が配置されている。ヒーター17によって、外歯歯車6の内部のグリース16のうちの一部分のグリース温度を制御することができる。
【0032】
入手可能な波動歯車装置用の低温専用グリースを用いた場合でも、−55℃以下の極低温状態の場合には、グリースが固化し、−65℃では通常のモーターでは波動歯車装置1を始動できなくなる。本例の波動歯車装置1では、グリース温度制御機構15を用いて、外歯歯車6の内部のグリース16のうち、波動発生器7の外周側部分のグリース部分を加熱して−55℃よりも高い温度状態に制御している。これにより、極低温環境下でも波動歯車装置1を確実に始動させることができる。
【0033】
(グリース温度制御機構の変形例1)
図2は本発明を適用した波動歯車装置の半縦断面図であり、グリース温度制御機構15の変形例1を示す。本例のグリース温度制御機構15Aは、波動発生器7に向けて半径方向の外方に広がる円錐台状のヒーター17Aが備わっている。これ以外の構成は
図1に示す場合と同一であるので説明を省略する。
【0034】
(グリース温度制御機構の変形例2)
図3は本発明を適用した波動歯車装置の半縦断面図であり、グリース温度制御機構15の変形例2を示す。本例のグリース温度制御機構15Bは、発熱線をコイルスプリング状に巻いた構成の円環状のヒーター17Bを有している。これ以外の構成は
図1に示す場合と同様である。
【0035】
ヒーター17Bは、ヒーター支持部材21の先端開口部21aから半径方向の外方に広がる円環状の取付けフランジ21bの外周面に取り付けられている。また、当該取付けフランジ21bの外周縁部によって、外歯歯車6の円筒状胴部6aの内周面に対して、全周に亘って接触している。円筒状胴部6aは、楕円状輪郭の波動発生器7の回転に伴って、各部分が半径方向に繰り返し撓む。円環状のヒーター17Bは円筒状胴部6aの撓みに追従可能な撓み性が備わっているので、全周に亘って円筒状胴部6aの内周面に接触した状態が維持される。
【0036】
(グリース温度制御機構の変形例3)
図4は本発明を適用した波動歯車装置の半縦断面図であり、グリース温度制御機構15の変形例3を示す。本例のグリース温度制御機構15Cのヒーター17Cは、シリコンラバーヒーター等の弾性特性(撓み性)を備えた板状ヒーターを円筒形状にしたものである。また、ヒーター17Cは、接着剤等によって、直接に、外歯歯車6の円筒状胴部6aの内周面の全周に亘って貼り付けられている。したがって、上記の各例におけるヒーター支持部材21は不要である。これ以外の構成は、
図1に示す場合と同様である。