(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板上に蒸着された前記膜材料が2ポンド(0.907kg)から2.5ポンド(1.134kg)の間の押付力を用いる磨耗試験に合格することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、平滑で緻密であり、一様な複合MgO-MgF
2膜を有する光学素子の形成並びに、複合MgO-MgF
2膜をさらに緻密化及び平滑化する、酸素含有プラズマ雰囲気におけるMgF
2材料の蒸発及びフッ素欠損によるMgF
2源材料からそのような膜を形成する方法に向けられる。本開示はさらに、1〜14μmにおいて広帯域反射防止スペクトル性能を提供し、厳しい磨耗試験に耐えることができる、耐久機械特性をもつ低屈折率膜材料に向けられる。選ばれたIR範囲、例えば、SWIR,MWIRまたはLWIRに対し、膜厚は膜が用いられるであろう範囲に依存する。すなわち、最も厚い膜がLWIR範囲に用いられ、最も薄い膜がSWIR範囲に用いられ、中間の厚さの膜がMWIR範囲に用いられるであろう。本明細書に説明される複合MgO-MgF
2膜は3つの範囲の全てにおいて用いることができる。被着膜に対する広い範囲は100nmから1500nmである。LWIR範囲に対する一実施形態において、膜厚は600nmから900nmの範囲にある。MWIR範囲に対する一実施形態において、厚さは250nmから450nmの範囲にある。SWIR範囲に対する一実施形態において、厚さは150nmから300nmの範囲にある。
【0006】
最も硬い金属フッ化物材料の1つであるMgF
2は、LWIRまでの透過率により低屈折率キャッピング層として優れた候補であるように思われるが、1つの欠点がある。可視スペクトル域及びUVスペクトル域に比較して、LWIRスペクトル域には比較的厚い層が必要であることは既知である。実際、LWIR範囲におけるMgF
2AR膜はUV範囲のMgF
2膜より40倍にも厚くならなければならない。しかし、MgF
2膜の多孔度及び表面粗さは膜厚が大きくなるにつれてかなり高くなり、これは続いて、LWIR用途における、対応する膜耐久性を減じる。本開示はこの問題を、化学的及び機械的に強化されたMgO-MgF
2複合膜の作製による技術的解決策を提供するための、その場プラズマ平滑化をともなう改良プラズマイオン支援蒸着の使用によって解決する。
【0007】
赤外AR膜のための耐久MgO-MgF
2複合膜の目標は、
1.フッ素を欠損させ、フッ素を酸素で置換する−プラズマイオンによるMgO-MgF
2複合膜の形成、
2.改良PIAD(プラズマイオン支援蒸着)を反転マスク法とともに用いるMgO-MgF
2複合膜の緻密化、
3.その場プラズマ平滑化とプラズマ支援蒸着の比の調節によるMgO-MgF
2複合膜の光学特性及び機械的特性の最適化、
の工程を用いて達成できることが本明細書に示される。
【0008】
結果は、本明細書に説明されるSWIR範囲、MWIR範囲及びLWIR範囲のそれぞれにおいて用いることができる、広帯域MgO-MgF
2複合膜の高められた耐久性を提供する、平滑で緻密化されたMgO-MgF
2複合膜である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「複合膜」は、MgF
2が、本明細書に説明されるようにPIAD及び富酸素雰囲気を用いて基板上に蒸着されて、フッ素の欠損及び置換がプラズマイオン支援によって緻密化及び平滑化されるMgO-MgF
2膜の形成とともにおこるような、バルク材料として用いられる、MgO-MgF
2膜を意味する。得られる膜はMg原子がF原子及びO原子のいずれとも結合して一様な膜となることができる膜であり、MgF
2構造のボイドまたは微孔をMgOが埋めているだけの膜ではない。複合膜においては、複合膜が蒸着されている間に、基金属フッ化物材料の微孔が埋められて緻密化され、よってより厚く、より耐久性がある膜が作成され得る。以前の膜では、金属フッ化物層が形成された後に酸化物が別の層として施され、金属フッ化物の微孔またはいずれの柱状組織も埋めている。さらに、以前の用途においては、膜構造はUV光に用いるためであった。そのような構造は赤外領域、特にLWIRにおいて用いることはできない。また、本明細書において「膜」と「被膜」は互換で用いられ得る。さらに、本明細書に説明される膜は、1〜3μmの短波赤外範囲(SWIR)、3〜5μmの中波赤外範囲(MWIR)及び8〜14μmの長波赤外範囲(LWIR)での動作に向けられる。
【0011】
AR膜の光学性能が最外層の屈折率によって支配されることは既知である。最外層の屈折率を低めることで広帯域AR膜の達成が可能になる[ジュー・ウォン(Jue Wang)等,「超低屈折率SiO
2膜を含む光学膜(Optical coatings with ultralow refractive index SiO
2 films),第41回ボールダーダメージシンポジウム(Boulder Damage Symposium)」、2009年9月21〜23日,SPIE 7504,75040F]。他方で、膜の耐久性及び環境性は主として光学膜の最外層により影響される。この結果、最外層の材料特性が光学性能だけでなく機械的強度及び環境安定性にも肝要な役割を果たす。最も硬いフッ化物材料の1つとして、MgF
2はUV,可視範囲からLWIRまでの光学膜用途にための低屈折率層として優れた候補である。しかし、LWIR範囲におけるAR膜のためのMgF
2膜厚はUV範囲におけるAR膜のために用いられるMgF
2膜厚より40倍厚い必要がある。さらに、MgF
2膜の多孔度及び表面粗さは膜厚に強く相関する。厚いMgF
2膜では多孔質になり、また非常に粗い表面が生じ、この結果、耐摩耗性が低くなる。LWIR範囲での使用に適し、高められた耐久性を提供する、MgO-MgF
2複合膜を、高バイアス電圧を用いる改良PIAD及び富酸素プラズマ環境を用いて作製した。
【0012】
改良プラズマイオン支援蒸着(PIAD)はSiO
2のような酸化物膜に対して確立され、米国特許出願公開第2010/02154932号及び第2009/0141358号の明細書に説明されている。改良PIAD法により、緻密で平滑な酸化物膜の作成が可能になる。しかし、DUV膜に用いられるような混成酸化物−フッ化物膜に対しては、金属フッ化物層を蒸着し、次いで金属フッ化物層間にその場平滑化された酸化物層を挿入することによって間接的にフッ化物層を埋め、平滑化するために、この方法が用いられた。DUV膜とは対照的に、本開示においては、プラズマイオンが反転マスク構成−米国特許出願公開第2008/0050910号明細書を見よ−及び富酸素環境内で改変MgF
2膜に直接に用いられ、MgO-MgF
2複合膜が形成される。強化されたMgO-MgF
2複合膜はLWIR広帯域AR膜のためのキャッピング層として用いられ、耐摩耗性及び環境耐久性が高められたMgO-MgF
2キャッピング層が得られた。
【0013】
図1は、同時に緻密化もされる、厚いMgO-MgF
2複合膜の蒸着を可能にした、反転マスク及び側方遮蔽を用いる改良PIADの略図である。
図1は、基板24を載せた基板キャリア22が中に配置された真空チャンバ28及び、ターゲット18に入射して,基板24上への蒸着のために反転マスク12を通過する蒸気束20をつくる、電子ビーム10を備える蒸着装置8を備える。さらに、プラズマ21,例えばアルゴンプラズマを発生するプラズマ源16及びプラズマを酸素含有プラズマとしてつくるための酸素源/フィードがある。
【0014】
膜緻密化プロセスは
図1に示されるようなマスク技術を用いて制御され、
図1において区画α及びβはそれぞれマスク遮蔽領域及びマスク非遮蔽領域に対応する。このプロセスは式(1):
【0016】
で表され、ここで、P
αはその場プラズマ平滑化を表し、P
βはプラズマイオン支援蒸着に対応する。V
bはバイアス電圧であり、J
iはイオン/(cm
2・秒)単位のプラズマイオン束であり、m
iはa.u.単位の質量である。Rはnm/秒単位の膜蒸着速度であり、eは電子の電荷であり、κは単位変換係数であり、n
sは原子/cm
2単位の表面原子密度であり、α及びβは蒸気束のマスク遮蔽領域及びマスク非遮蔽領域が、回転周波数がfの回転プレートの中心に対してなす、ラジアン単位の角度である。マスクの形状及び高さ、APSパラメータ及びプレート回転周波数の調節により、フッ素欠損とプラズマ支援蒸着に対する運動量転移の大きさを別々に制御することが可能になる。フッ素減損を補償してMgO-MgF
2複合膜を得るため、改良PIADプロセス中に酸素ガス,O
2が蒸着システム内に導入される。本明細書に説明される蒸着プロセスにおいて用いたパラメータは、V
b=110V,α/β=2/1,O
2流量=6sccm,Ar流量=11sccm,R=0.25nm/秒,f=0.4Hz及び基板温度=120℃である。ここでsccmは標準状態における立方cm/分を表す。酸素流量は蒸着速度及び印加バイアス電圧に比例し、蒸着束炉及びバイアス電圧に依存して3sccmから25sccmの範囲とすることができる。本明細書に説明されるプロセスにおいては比較的高い110Vのバイアス電圧がプロセスに用いられていることに注意するべきである。本プロセス条件とは対照的に、DUV用途のためのPIAD MgF
2膜の蒸着においては、ほぼ50Vの低いバイアス電圧がフッ素欠損を排除するために必要である。MgF
2源材料のフッ素欠損及び酸素による置換によって複合MgO-MgF
2膜が形成される本開示においては、MgO-MgF
2膜を形成するための、富酸素雰囲気内におけるMgF
2膜改良のために、高いバイアス電圧が意図的に印加される。改良PIADプロセスによって作製されたMgO-MgF
2複合膜の強化された耐摩耗性には、改変された膜組成、高められた膜充填密度及び平滑化された膜表面、の3つの属性がある。
【0017】
(a)改変された膜組成及び高められた膜充填密度
式(1)に基づけば、膜組成に与えられるプラズマ運動量転移量P
βは式(2):
【0020】
プラズマイオン支援により膜が緻密化及び平滑化される、PIAD改良膜の屈折率は膜充填密度及び膜組成に直接に相関することが分かっている。
図2は200nm厚改良MgO-MgF
2膜の屈折率,nの波長の関数としてのグラフである。バルクのMgF
2及びMgOに対し、改良MgO-MgF
2膜について、多くの参照データが利用できる、2μmの波長における屈折率の比較を行うことができる。本明細書に開示される改良MgO-MgF
2膜の推定屈折率は1.43である。同じ波長におけるMgF
2及びMgOのバルク材料の屈折率はそれぞれ1.37及び1.73である(「化学・物理ハンドブック(Handbook of Chemistry and Physics),第48版,(The Chemical Rubber Co.,米国オハイオ州クリーブランド,1968年),p.B−192」。改良MgO-MgF
2膜の比較的高い屈折率を説明するためには、富酸素プラズマ環境における膜緻密化プロセスの影響を考察する必要がある。
【0021】
初めに組成を見ると、フッ素欠損は一般にプラズマがフッ素と相互作用をするときに生じる(ジェイ・ウォン等,「フッ化物光学素子の長寿命化(Extended lifetime of fluoride optics)」,第39回ボールダーダメージシンポジウム,2009年,SPIEプロシーディングス,6720,672011-9を見よ)。フッ素欠損量は強くプロセスに依存する。110Vのバイアス電圧及び0.25nm/秒の蒸着速度を用いれば、結果としてMgO-MgF
2膜の形成をもたらすMgF
2改変プロセス中に最大で10%のフッ素が欠損するとの想定が妥当である。富酸素プラズマ環境内では欠損フッ素サイトが酸素で置換されて、MgOが形成され、この結果、MgO-MgF
2複合膜が得られる。膜形成源材料としてMgO及びMgF
2を用いて蒸着した材料の、10%のMgOと90%のMgF
2からなる膜の、2μmの波長における推定屈折率は1.40であり、これは、MgF
2だけが金属含有源材料であり、いくらかのMgF
2をMgOに転換するために酸素が用いられる、本開示の改良MgO-MgF
2膜に対する値の1.43より低い。改変MgF
2膜の屈折率の追増分は、PIADプロセスの結果、MgF
2バルク材料より高い、高膜充填密度が得られるという事実の一因となり得る。同様の緻密化効果がSiO
2膜で得られている(ジェイ・ウォン等,「緻密化SiO
2膜の弾性/塑性緩和(Elastic and plastic relaxation of SiO
2 films)」,Applied Optics,2008年,第47巻,第13号,p.189-192)。PIADプロセスに酸素が用いられる本開示においては、改変MgF
2膜または被膜が、純MgF
2膜または被膜の代わりに、MgO-MgF
2複合膜を形成するために緻密化される。
【0022】
(b)平滑化された膜表面
上で論じたような高い膜充填密度及び改変された膜組成に加えて、平滑な膜表面が膜の耐久性を強化することを認識することも重要である。プラズマ平滑化に用いられるプラズマ運動量転移P
βは式(3):
【0024】
で定めることができる。ここで、式(3)のn
sは原子/cm
2単位の蒸着膜の表面原子密度である。他の全てのパラメータは式(1)において説明してある。このプロセスは、プラズマが3〜4原子層毎の蒸着膜表面と連続的に相互作用するから、その場プラズマ平滑化と呼ばれる。
【0025】
プラズマ平滑化効果は改良MgO-MgF
2複合膜の表面構造をPVDで得られた標準的純MgF
2膜の表面構造と比較することで実証することができる。
図3a及び3bはそれぞれ、改良PIADプロセスで蒸着された200nm厚MgO-MgF
2複合膜及び膜厚が同じ標準的純MgF
2膜のAFM像を示す。
図3a及び3bについて対応する表面粗さはそれぞれ0.4nm及び2.4nmである。
図3aの平滑化された膜構造はさらに、特にキャッピング層として用いられる場合に、膜の耐久性を高める。
【0026】
(c)耐久IR反射防止膜用キャッピング層としてのMgO-MgF2複合膜
改良MgO-MgF
2複合膜には、IR光学素子に、特に改良MgO-MgF
2複合膜がキャッピング層としてはたらき、高められた耐摩耗性及び環境安定性をもたらす、IR反射防止膜に、多くの可能な用途がある。例えば、MgO-MgF
2複合膜はLWIR広帯域AR用途のためのキャッピング層として用いることができる。
図4はLWIR広帯域AR膜の入射角12°における反射率(Rx)を、MgO-MgF
2複合キャッピング層が無い場合(参照数字30)及びMgO-MgF
2複合キャッピング層がある場合(参照数字32)について、グラフで示す。
図4に示されるように、MgO-MgF
2複合キャッピングコーティング層を有する光学素子の反射率は7.25μmから11.75μmの波長範囲において2%より低い。7.5μmから11.5μmの波長範囲において、反射率Rxは1%より低い。対照的に、MgO-MgF
2複合キャッピングコーティング層をもたない膜の反射率は同じ波長範囲において2%より高い。
【0027】
図5は、MgO-MgF
2複合膜をキャッピング層として用いているLWIR広帯域AR膜のスペクトル透過率Tx(参照数字40)及び反射率Rx_12°(参照数字42)をグラフで示す。反射率Rxはほぼ7.25μmから11.25μmの波長範囲において2%より低く、透過率Txは同じ波長範囲において60%より高い。キャッピング層をもたないLWIR広帯域AR膜は、本明細書のどこか他で説明した厳しい磨耗試験に落ちる。MgO-MgF
2複合AR膜の耐久性は700nm厚MgO-MgF
2複合キャッピング層の使用によって高まる。上述したように作製した700nm厚MgO-MgF
2複合キャッピング層をもつ味見試料はMIL-C-48497Aを用いた厳しい磨耗試験及び環境紙面の全てに合格した。
【0028】
上述したように、本開示は、1μmから14μmの範囲の波長を有する赤外光とともに用いるに適する、複合MgO-MgF
2反射防止膜をその上に有する光学素子に向けられ、反射防止膜厚は波長範囲によって可変であり、膜厚は100nmから1500nmの範囲にある。1〜3μm赤外波長範囲に適する一実施形態において、膜厚は150nmから300nmの範囲にある。3〜5μm赤外波長範囲に適する一実施形態において、膜厚は250nmから450nmの範囲にある。8〜13μm赤外波長範囲に適する一実施形態において、膜厚は600nmから1500nmの範囲にある。別の実施形態において、前記膜の反射率R
Xは、7.25μmから11.75μmの波長範囲において2%より低い。別の実施形態において、前記膜の反射率は、7.5μmから11.5μmの波長範囲において1%より低い。別の実施形態において、被覆光学素子は7.5μmから11.5μmの波長範囲において60%より高い透過率を有する。別の実施形態において、被覆光学素子の被膜は2ポンド(0.907kg)から2.5ポンド(1.134kg)の間の押付力を用いる磨耗試験に合格する。
【0029】
本開示はさらに、プラズマイオン支援蒸着を用いて基板の表面上に選ばれた材料の薄膜を蒸着する方法に向けられ、方法は、
真空チャンバを提供する工程、及び
真空チャンバ内に、
膜がその上に蒸着されるべき基板を提供する工程、
MgF
2材料源を提供する工程及び、膜材料蒸気束を供給するために、電子ビームを用いてMgF
2材料を蒸発させる工程、
−蒸気束はMgF
2材料源から反転マスクを通って基板に達する、
プラズマ源からのプラズマ内に酸素イオンを含むプラズマイオンを供給する工程、
基板を選ばれた回転周波数fで回転させる工程、
MgF
2材料を基板上に被膜として蒸着する工程、及び
MgF
2材料蒸着前及び蒸着中、基板及び被膜をプラズマイオンで衝撃する工程、
を含み、
方法は平滑で緻密であり、一様な複合MgO-MgF
2被膜を形成する。
【0030】
この方法において、被膜は100nmから1500nmの範囲の厚さに蒸着される。1〜3μmの波長範囲での使用のため、被膜は150nmから300nmの範囲の厚さに蒸着される。3〜5μmの波長範囲での使用のため、被膜は250nmから450nmの範囲の厚さに蒸着される。8〜13μmの波長範囲での使用のため、被膜は600nmから1500nmの範囲の厚さに蒸着される。