(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切削抵抗パラメータは、加工後のワークの表面と回転工具の切刃の先端が描く円との接点と、前記接点における前記現在の曲率を有し切込み厚さを加味した加工前のワークの局所的な表面を示す円と前記回転工具の切刃の先端が描く円とが交差する交点と、前記回転工具の中心とによって形成される接触角である請求項1に記載の加工方法。
前記切削抵抗パラメータは、加工後のワークの表面と回転工具の切刃の先端が描く円との接点と、前記接点における前記現在の曲率を有し切込み厚さを加味した加工前のワークの局所的な表面を示す円と前記回転工具の切刃の先端が描く円とが交差する交点との間に延びる前記切刃の先端が描く円の円弧の長さである請求項1に記載の加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1において、工作機械100は、工場の床面に固定される基台となるベッド102を具備している。ベッド102上にはコラム104が立設され、コラム104には、Z軸送り機構を介して上下方向(Z軸方向)に、そしてY軸送り装置を介して左右方向(Y軸方向、
図1の紙面に垂直な方向)に移動可能に主軸頭106が支持されている。主軸頭106は、鉛直方向の回転軸線Oを中心として主軸108を回転可能に支持する。主軸108の先端には下向きに切削用工具Tが取り付けられている。工具Tは例えばエンドミルであり、主軸頭106内に組み込まれたスピンドルモータ(図示せず)により回転駆動される。ベッド102上には、X軸送り機構を介して前後方向(X軸方向、
図1では左右方向)に移動可能にテーブルベース110が支持されている。
【0012】
X軸、Y軸、Z軸の送り機構は、例えばX軸。Y軸、Z軸の各々の方向に延設されたボールねじと、該ボールねじを回転駆動するX軸、Y軸、Z軸サーボモータとにより構成される。また、該X軸、Y軸、Z軸サーボモータには、X軸、Y軸、Z軸の送り速度を検出するロータリエンコーダのような速度検出器が取付けられている。更に、工作機械100は、X軸、Y軸、Z軸の各々の座標位置を検出するデジタルスケールのような位置検出器を有している。
【0013】
テーブルベース110には、A軸回転送り機構を介して、X軸方向の回転軸Lxを中心としてA軸方向に揺動可能に傾斜テーブル112が取り付けられている。傾斜テーブル112には、C軸回転送り機構を介して、Z軸方向の回転軸Lzを中心としてC軸方向に回転可能に回転テーブル114が取り付けられている。回転テーブル114上には、ワーク固定用治具を介してワークWが固定されている。A軸、C軸回転送り機構は、例えばサーボモータと、該サーボモータの回転位置を検出するロータリエンコーダを備えている。
【0014】
このような工作機械100の構成によれば、工具TとワークWとを直交3軸方向(X軸、Y軸,Z軸方向)に相対移動可能で、かつ、ワークWをC軸方向に回転可能である。このため、ワークWに対して工具Tを鉛直方向所定位置にセットした状態で、ワークWをC軸方向に回転させながら、ワークWに対して工具Tを水平方向に相対移動させることで、ワーク表面に所望の曲面を加工することができる。
【0015】
図6を参照して、本発明の加工方法を適用して加工するワークWとしてスクロールを加工する場合を説明する。
図6は、ワークWの一例としてのスクロールの平面図である。
図6では、ワーク中心を原点O
1としたX−Y平面上にスクロールが示されている。ワークWは、例えばコンプレッサの構成部品であり、基部120上にスクロール形状の壁部122が突設され、壁部122に沿って流路が形成されている。なお、基部120の形状は、円形、三角形、矩形等いかなるものでもよい。壁部122の内壁面124および外壁面126は、半径r
0の基礎円128を有するインボリュート曲線によって定義され、壁部122の厚さt
wはインボリュート曲線に沿って一定である。
【0016】
壁部122の内壁面124および外壁面126には、予め加工代が設けられ、この加工代が工具Tにより切削され最終形状のスクロールが形成される。スクロール加工を行うにあたっては、まず、ワーク中心(基礎円128の中心O
1)が回転テーブル114の回転中心(C軸)に一致するようにワークWを回転テーブル114にセットする。その後、NC加工プログラムに従い、ワークWをC軸回りに回転させながら、O
1を中心とした基礎円128に接する直線L1に沿って工具Tを相対移動させる。この際、ワークWのC軸送り量(回転量)と工具TのX軸方向の送り量の比が中心O
1からの距離によって変化するように、回転量θと送り量Xとを同期させる。これによりNC加工プログラムの構成を簡素化しつつ、スクロールを高速かつ高精度に加工することができる。
【0017】
ここで、例えば
図6に示すように、ワークWを矢印R1方向に回転させながら、工具TをワークWの外側から直線L1に沿って矢印A方向(X軸に沿って正(+)の方向)に相対移動させ、外壁面126を加工したとする。この外壁面126の加工に続けて、ワークWのC軸回りの回転方向をR1としたまま内壁面124を加工するためには、図の点線で示すように、工具Tを回転中心O
1のY軸方向反対側に基礎円128の半径r
0分だけずらし、基礎円128に接する直線L2に沿って矢印A方向(X軸に沿って正(+)の方向)に相対移動させる。この場合には、X−Y平面の第2象限で外壁面126が加工され、X−Y平面の第4象限で内壁面124が加工される。
【0018】
壁部122、特にスクロールの中心部において内壁面124を加工する場合、加工すべき曲面の曲率が工具Tの半径に対して非常に大きくなり、そのため従来の加工方法では、工具TとワークWとの間の接触角も大きくなり加工負荷が増大する。加工負荷が増大すると、工具Tは、その中心軸に対して垂直方向に撓むこととなる。また、
図6に示すスクロールのように、ワークWの加工部位が比較的薄い壁部のような場合には、ワークWにおいて現に加工されている加工点およびその近傍でワークWが変形する。こうした工具TおよびワークWの変形により加工精度が低下する。
【0019】
以下、
図2を参照して、このように変化する曲面を加工する際に生じ得る加工精度の低下を防止した本発明の曲面加工方法を実施する制御装置の好ましい実施形態を説明する。
図2において、制御装置10は、読取解釈部12、補間部14、位置制御部18、速度制御部22およびサーボアンプ24を備えたNC装置を主要な構成要素として具備している。
【0020】
制御装置10に与えられたNC加工プログラム40は読取解釈部12に入力される。読取解釈部12は、加工プログラムを読取り解釈して動作指令を出力する。この動作指令は、各送り軸、
図1の例ではX軸、Y軸、Z軸の直線送り軸およびC軸の回転送り軸の送り量と送り速度とを含んでいる。速度補正部28は、後述するように、NC加工プログラム40に記述されている各送り軸の送り速度を補正した後に動作指令を補間部14へ出力する。
【0021】
補間部14は、速度補正部28からの動作指令に基づき、各送り軸32の駆動用サーボモータ30に対する位置指令qrを出力する。補間部14から出力された位置指令qr(モータ回転位置指令)は加算器16に入力され、該位置指令qrと位置検出器36が検出した座標値との差分が位置制御部18に入力される。位置制御部18は速度指令ωr(モータ回転速度指令)を生成する。速度指令ωrは加算器20に入力され、該速度指令ωrと速度検出器34が検出した速度値との差分が速度制御部22に入力される。速度制御部22はトルク指令τを生成する。トルク指令τがサーボアンプ24に入力される。
【0022】
サーボアンプ24は、入力されたトルク指令τに見合ったトルクを発生させるように制御電流をサーボモータ30に供給する。この供給された電流によりサーボモータ30が回転駆動され、送り軸32が駆動される。
【0023】
速度補正部28は入力部26から入力される工具Tの工具径を含む工具データと、読取解釈部12が読み取り解釈したNC加工プログラムに関する情報、特にワークWの形状データおよび読取解釈部12からの動作指令に基づいて、ワークWに加工すべき曲面の変化に追従して最適な送り速度を演算する。なお、入力部26は、例えば工作機械100の操作盤(図示せず)に設けられているキーボード(図示せず)やタッチパネル(図示せず)によって形成することができる。NC加工プログラム40中に工具データが記述されている場合には、工具データを読取解釈部12から速度補正部28へ出力するようにしてもよい。
【0024】
上述したように、工具Tの側面の切刃で加工すべき曲面の曲率が大きくなると切削抵抗が増大し、工具Tの倒れやワークWの変形により加工精度や加工効率が低下する。本発明では、加工すべき曲面の変化する曲率に最適な加工速度を以下に説明するように速度補正部28においてリアルタイムで演算し、こうした問題を解決している。
【0025】
先ず、加工すべき曲面の輪郭を関数pの時刻t(0≦t≦1)における位置として定義する。
【数1】
【0026】
関数pを時刻tで微分することにより速度vが得られる。
【数2】
【0027】
速度vを時刻tで微分することにより加速度aが得られる。
【数3】
【0028】
このとき、曲率cは以下の式(4)にて示される。
【数4】
【0029】
以下、
図3〜
図5を参照して、式(4)で求めた曲率cに基づき、以下の処理により接触角eを求める方法を説明する。なお、
図3〜
図5は、加工領域におけるワークと工具とをZ軸方向に略図であり、
図3〜
図5の紙面がX−Y平面となっている。
図3〜
図5において、設計上の加工面、つまり加工後のワークWの表面である加工面が曲線S
0で示され、加工前のワークWの表面が曲線S
1で示されている。曲線S
0と曲線S
1との間の距離Rcは加工代(切込み厚さ)となっている。
図3〜
図5において、X軸に沿って正(+)の領域が未加工領域であり、負(−)の領域が加工済領域である。つまり、工具TはワークWに対してX軸に沿って正(+)の方向に相対移動している。更に、
図3〜
図5では工具Tは、半径(=工具径)R
tの円C
tで示されており、円C
tの中心O、つまり工具Tの回転軸線Oを原点(0、0)とする。
【0030】
図3は、加工面の曲率cの絶対値が十分に小さく、ワークWの加工面を平面で近似できる場合を示している。
図3において、加工済ワークWの表面(加工面)を表す曲線S
0は点D(0、−R
t)で円C
tと接触しX軸方向に延びる直線となっている。ここで、「十分に小さい曲率c」は、工作機械100の速度補正部28(NC装置)の演算性能にもよるが、例えば10
-6とすることができる。また、円C
rと直線S
1との交点をP
cとする。本例では、∠P
cODを工具TとワークWとの間の接触角と定義する。
【0031】
図4は加工面の曲率cの絶対値が十分に小さくなく、かつ、曲率cが正の場合を示している。
図4において、円C
0はY軸上で円C
tおよび曲線S
0に接し、曲率半径r=1/|c|と、中心(0、r−R
t)とを有する円である。円C
rは、円C
0と同じ中心(0、r−R
t)および円C
0に対して加工代Rcだけ小さな半径を有した円である。円C
rと円C
tとの交点をP
cとする。本例では、∠P
cODを工具TとワークWとの間の接触角と定義する。
【0032】
図5は加工面の曲率cの絶対値が十分に小さくなく、かつ、曲率cが負の場合を示している。
図5において、円C
0はY軸上で円C
tおよび曲線S
0に接し、曲率半径r=1/|c|と、中心(0、−r−R
t)とを有する円である。円C
rは、円C
0と同じ中心(0、−r−R
t)および円C
0に対して加工代Rcだけ大きな半径を有した円である。円C
rと円C
tとの交点をP
cとする。本例では、∠P
cODを工具TとワークWとの間の接触角と定義する。
【0033】
図4、5において、接点Dは工具Tの切刃の先端とワークWの表面とが接する加工点を表しており、円C
0は、加工点における工具T(円C
t)と局所的な加工面S
0を表しており、円C
rは加工点における加工面S
0に対して加工代を有したワークWの未加工表面を表している。
図4の例では、曲率が大きくなると接触角∠P
cODは小さくなるが、
図5の例では、曲率が大きくなると接触角∠P
cODは大きくなる。
【0034】
接触角∠P
cODにより決定される円弧P
cDは、ワークWに切り込んだ工具Tの切刃がワークW内を移動する経路を示しているので、接触角∠P
cODの大きさおよび円弧P
cDの長さは切削抵抗を代表するパラメータとなっている。本発明では、時々刻々と変化する曲率によって変化する切削抵抗を代表するパラメータを切削抵抗パラメータとする。扇形P
cODの面積もまた切削抵抗パラメータである。本発明は、このように切削抵抗そのものを演算または測定するのではなく、切削抵抗パラメータに基づいて工具Tの送り速度を決定している。既述の説明から理解されるように、切削抵抗パラメータは、加工点Dにおける加工面の曲率c、回転工具Tの工具径R
tおよび切込み厚さRcによって決定され送り速度には依存しない。
【0035】
接触角∠P
cODの値eは、2つの円C
t、C
rの交点P
cを演算し、原点Oから交点P
cまでのベクトルと、原点Oから交点Dまでのベクトルとの内積を演算することによって簡単に求めることができる。最終的に、接触角∠P
cODは曲率cの関数となるので、∠P
cOD=e(c(t))とすることができる。速度補正部28は、曲率c=0としたときの接触角をe(0)、読取解釈部12からの動作指令に含まれている送り速度をFbとして、時々刻々と変化する送り速度Fを以下の式(5)から演算する。なお、円弧P
cDまたはP
cOD扇形は接触角∠P
cODに比例するので、円弧P
cDまたはP
cODを切削抵抗パラメータとしても最終的に式(5)にたどり着く。
【数5】
【0036】
なお、既述の実施形態では、速度補正部28をNC装置に組み込んで、最適な加工速度をリアルタイムで演算する例を説明したが、NC加工プログラムを生成するCAM装置に速度補正部28と同様の構成要素を組み込み、予めNC加工プログラムに補正後の最適な送り速度を記述するようにしても本発明の加工方法は実施することができる。