特許第6381757号(P6381757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381757運動トルクを等化するデバイスを有する計時器用ムーブメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381757
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】運動トルクを等化するデバイスを有する計時器用ムーブメント
(51)【国際特許分類】
   G04B 1/22 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   G04B1/22
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-173847(P2017-173847)
(22)【出願日】2017年9月11日
(65)【公開番号】特開2018-66727(P2018-66727A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2017年9月11日
(31)【優先権主張番号】16194627.2
(32)【優先日】2016年10月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・レジュレ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
【審査官】 藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−021172(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/045806(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第363586(JP,Z2)
【文献】 独国特許出願公開第102013102180(DE,A1)
【文献】 実開昭56−092985(JP,U)
【文献】 特表2010−507086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
G04C 1/00−99/00
A63H 1/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構と、及び前記機構を駆動するように設けられるばねバレル(11、111)とを有する計時器用ムーブメントであって、
前記ばねバレル(11、111)は、前記機構に駆動トルクを与えるように設けられる運動学的リンケージによって前記機構を駆動し、
前記ばねバレルは、前記ばねバレルが運動トルクをはたらかせることを可能にするように設けられる運動ばね(133)を有し、
当該計時器用ムーブメントは、さらに、前記ばねバレルに運動学的に接続されて前記ばねバレルによって駆動され補助的トルクをはたらかせることを可能にする等化デバイス(3、7、103、107、203、207)を有し、
この補助的トルクは、前記運動トルクに加えられて共同で駆動トルクを形成し、
前記補助的トルクは、前記運動ばねの巻き上げの度合いに応じて変化し、これによって、この運動ばねによって発生する運動トルクの変化に対抗して、巻き上げの度合いの有用範囲内の駆動トルクを実質的に等化し、
前記等化デバイスは、第1の磁性要素(3、103、203)及び第2の磁性要素(7、107、207)によって形成される磁性システムを有し、
前記第1の磁性要素及び前記第2の磁性要素は、前記等化デバイスが前記ばねバレルによって駆動されるときに、前記第1の磁性要素及び前記第2の磁性要素によって占められる相対的位置に応じて変化する磁力を一方が他方に対して与えることによって互いに対して配置され、この磁力によって前記補助的トルクを発生させる
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【請求項2】
前記等化デバイス(103、107)によって与えられる前記補助的トルクは、運動トルクに対抗する
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項3】
前記運動トルクと前記等化デバイス(203、207)によって与えられる前記補助的トルクは、同じ向きを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項4】
前記第1の磁性要素(3、103、203)は、磁性カムである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項5】
前記磁性カムは、スパイラル状である
ことを特徴とする請求項4に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項6】
前記磁性カムは、強磁性体によって形成される
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項7】
前記磁性カム(3、103)及び前記第2の磁性要素は、半径方向のタイプの磁性システムを形成する
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項8】
前記磁性カム(203)及び前記第2の磁性要素は、軸方向のタイプの磁性システムを形成する
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項9】
前記第2の磁性要素(7、107、207)は、バイポーラー永久磁石である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項10】
前記ばねバレル(11)によって駆動される前記機構は、渦巻き状のバランス車のためのエスケープを有する
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項11】
前記ばねバレル(111)によって駆動される前記機構は、鳴動機構である
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項12】
前記等化デバイスは、前記ばねバレルと運動学的リンケージを形成する補助的な減速車ワークを有し、
この補助的な減速車ワークの1つの車(19)は、前記第1の磁性要素又は前記第2の磁性要素を支え、前記ばねバレルが前記完全に巻き上げられた状態と前記完全に巻きを緩められた状態の間の複数の回転をする間に、1回転未満の回転をするように構成している
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項13】
前記等化デバイスは、パワーリザーブを示すデバイスを少なくとも部分的に形成する
ことを特徴とする請求項12に記載の計時器用ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機構と、及びこの機構を運動学的リンケージによって駆動するように設けられるばねバレルとを有する計時器用ムーブメントに関する。この運動学的リンケージは、前記機構に駆動トルクを与えるように設けられ、前記ばねバレルは、ドラムと、及び前記ドラム内に設けられる運動ばねを有し、運動ばねの巻き上げの度合いに応じて変化する運動トルクを前記機構に与える。計時器用ムーブメントは、さらに、ばねバレルに運動学的に接続される等化デバイスを有し、これによって、前記ばねバレルによって駆動されることができ、補助的トルクを与えることができる。補助的トルクは、前記運動トルクを増大させて、これらは共同で駆動トルクを形成する。前記補助的トルクは、運動ばねの巻き上げの度合いに応じて変化するように設けられ、これによって、運動トルクの変化に対抗して、駆動トルクを実質的に等化する。
【背景技術】
【0002】
等化デバイスを有する計時器用ムーブメントであって、上記の定義に当てはまるものが既に知られている。ばねバレルによって与えられるトルクの変化を補償するようにはたらくスピンドルを備えたデバイスが知られている。また、特に、「スタックフリード(stackfreed)」が知られている。これは、16世紀や17世紀にドイツで用いられていた等化デバイスであり、計時器用ムーブメントのばねの巻き上げの変化を補償する。実際に、この補償には、一端にてローラーを支える板ばねによって構成しているブレーキデバイスが関わる。このローラーは、以下においてスパイラルとも呼ぶ渦巻き状の面のカムのエッジを押す。このカムは、ばねバレルに運動学的に接続している。運動ばねが完全に巻き上げられると、スパイラルの最も突き出ている部分に対して板ばねがローラーを強く押す。そして、運動ばねが完全に巻き上げられていないときには、板ばねは、最も突き出ていない部分に対してローラーをそれほど強く押さない。与えられる圧力に摩擦力がほぼ比例するために、その圧力を変化させることによって、運動トルクの変化に対抗させることができる。カムの輪郭を正確に調整することによって、原理的にはモーターの力をほぼ一定にすることができる。「スタックフリード」は、発生する摩擦が高い程度であると、相当に大きい割合のモーターの力を吸収してしまうという大きな短所がある。別の短所は、板ばねは、ほとんどの他の戻し手段のように、劣化して、漸進的に弾性を失う。他方で、摩擦が大きいことによって、構成要素の磨耗が加速してしまう。最後に、一般的に、計時器の構成要素の寸法構成が非常に小さいことが広く知られている。これらの条件の下で、一般的にばねが許容誤差の影響を大きく受けるために、さらなる問題が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の1つの目的は、前記のような従来技術の短所を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、この目的を請求項1に記載の計時器用ムーブメントを提供することによって達成する。
【0005】
運動ばねの巻き上げの度合いの有用範囲内にて補助的トルクの変化が運動トルクの変化に対抗することは、巻き上げの度合いに対する補助的トルクの導関数の符号が、巻き上げの度合いに対する運動トルクの導関数の符号とは異なることによってなされる。また、時間に対する補助的トルクの導関数の符号は、時間に対する運動トルクの導関数の符号とは異なるようになる。
【0006】
本発明に係る等化デバイスは、第1の磁性要素及び第2の磁性要素を有する。これらは、磁力を一方が他方にはたらかせるように設けられる。この磁力は、磁性要素どうしの相対的位置、そして、運動ばねの巻き上げの度合いに応じて変化する。等化デバイスが発生させる補助的トルクは、この可変磁力によって発生する。主な実施形態において、前記第1及び第2の磁性要素の少なくとも一方が永久磁石を有する。好ましい変形態様において、これらの2つの磁性要素はそれぞれ、バイポーラー永久磁石、及び高透磁率の磁性材料によって作られたカムによって形成される。一般的には、「磁性カム」とは、カムとこのカムに関連づけられた他方の磁性要素の間の関心事の磁気的相互作用の下でアクティブである少なくとも1つの物理的パラメータ(場合に応じて、半径方向/側方又は軸方向)を有する磁性要素であって、カムとこの他方の磁性要素の間の相対的な変位の方向に応じてこの他方の磁性要素とこれらの磁性要素の間で磁力を発生させ、この磁力の強さがこの相対的な変位に応じて変化するような磁性要素を意味するものと理解することができるであろう。なお、関心事の物理的パラメータは、カムを追従する磁化材料によって与えられる磁束の強さのようなカムに固有なパラメーターであることができ、あるいは他方の磁性要素と相対的なもの、特に、これらの磁性要素の間の距離、であることができる。
【0007】
本発明に係る等化デバイスには、いくつかの利点がある。具体的には、本発明に係る等化デバイスは、可変な補助的トルクを摩擦なしで発生させるような非接触のシステムを形成する。また、永久磁石によって発生する磁力が、磁位に由来する保存力であることが知られている。したがって、等化デバイスによって与えられる補助的トルクも磁位に由来し、これによって、運動ばねの完全な巻き上げ/巻き緩めのサイクルの間に本発明に係る等化デバイスによって消散されるエネルギーを理論上ゼロにすることができる。このようにして、このような等化デバイスによって与えられる利点を困難なく享受することができる。ただし、特に、「スタックフリード」タイプのデバイスにおいて、補助的トルクのために与えられるエネルギーが全体的には消散されることに留意する必要がある。
【0008】
添付の図面を参照しながらもっぱら例(これに制限されない)として与えられる以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び1Bは、同じ磁性カムの2つの代替構成をそれぞれ示している2つの基礎的な図である。これは、本発明に係る計時器用ムーブメントの等化デバイスにおいて使用可能である。
図2】本発明の特定の第1の実施形態に係る計時器用ムーブメントについての部分的な平面図である。この部分的な図は、ばねバレルと等化デバイスを示している。
図3】本発明の第2の特定の実施形態に係る計時器用ムーブメントの側方から見た部分的な斜視図である。この部分的な図は、ばねバレルと等化デバイスの部品を示している。
図4図3の計時器用ムーブメントについての下方から見た部分的な斜視図である。この部分的な図は、ばねバレルと等化デバイスの部品を示している。
図5図3及び4のばねバレルと等化デバイスについての下から見た部分的な斜視図である。なお、磁性カムと磁石を示すためにいくつかの部品を省略している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1A及び1Bは、磁性システムの2つの代替構成を示しており、これらはそれぞれ、本発明に係る等化デバイスの第1及び第2の磁性要素によって形成されている。図示した2つの構成において、第1及び第2の磁性要素はそれぞれ、磁性カム及びバイポーラー磁石である。このカムは平坦な形であり、磁性材料(例えば、第2の永久磁石を形成するようにNdFeB、SmCo又はPtCoであったり、強磁性体であったりする)で作られる。軸5のまわりを回転するように、カム3A、3Bが設けられる。この軸5は、このカム3A、3Bの一般平面に垂直である。ここで、カム3A、3Bと対向するようにバイポーラー磁石7がマウントされ固定される。このバイポーラー磁石7のNS極の軸は、実質的に回転軸5の方向を向いている。
【0011】
図1A及び1Bの例において、バイポーラー磁石7は、カム3A、3Bと同じ平面内に設けられる。ここでは、カム−磁石のアセンブリーのための半径方向のタイプの磁性システムを主題とする。これらの例において、カムは、バイポーラー磁石の方向と同じ方向の実質的に半径方向に磁化された磁石によって形成されて引力の磁気的相互作用がはたらくか、あるいは高透磁率の磁性材料によって形成されて同様にバイポーラー磁石と引力の磁気的相互作用がはたらく。図示した変形態様において、カム3A、3Bの形態は、スパイラル状であり、固定されたバイポーラー磁石に対向しているカムの輪郭(以下において、外側輪郭を「エッジ」とも呼ぶ)は、スパイラル状であり(すなわち、幾何学的なスパイラル状の曲がりを形成する)、これによって、カムが軸5のまわりを回転すると固定磁石とカムの間の距離が変化する。スパイラル状の形状のおかげで、カムのエッジは、必ずしもカムの半径と垂直ではない。その結果、磁石によってカムに与えられる磁気的引力(矢印Fmによって示している)は、純粋的に半径方向を向いてはおらず、したがって、この力Fmには接線方向の成分(矢印Ftによって示している)がある。
【0012】
図1A及び1Bにて概略的に示した2つの構成どうしは、カムのエッジの傾きの方向、すなわち、このエッジによって定められるスパイラルの方向、という特徴によって区別することができる。実際に、図1Aにおいて、カム3Aのエッジと磁石7の間の距離は、反時計回りの方向にカム3Aが回転するときに漸進的に増加し、逆に図1Bにおいては、カム3Bのエッジと磁石7の間の距離は、同様に反時計回りの方向にカム3Bが回転するときに漸進的に減少することがわかる。そして、磁気的引力の強さが変化する。まず、図1Aを参照すると、カム3Aのエッジと磁石7の間の距離が、前記回転の間に漸進的に増加することがわかる。この距離が増加するとともに、これに付随して、磁石7がカム3Aに与える接線方向の磁力の強さが減少する。なお、磁化された材料によってカムが形成される変形態様において、このカムと固定磁石の間の距離の変化に起因する磁力の強さの変化に加えて、カムが発生させる磁束の強さの角度的変化によって、相補的な強さの変化が発生しうる。これによって、等化デバイスの補助的トルクを発生させる接線方向/角度的な磁力を増加させることができる。ここで図1Bを参照すると、図1Aとは逆に、磁石とカムの間の距離が減少すると、これに付随して、磁力の強さを増加させることを伴う。図1Aは、さらに、磁力の接線方向の成分Ftが、カム3Aの回転運動の方向に対抗することを示している。逆に、図1Bにおいて、接線方向の成分の向きは、カム3Bの回転運動の方向と一致している。まとめると、図1Aの構成によって、カムの回転に対抗する力が発生し、この力の強さは、回転するにしたがって減少する。一方、図1Bの構成によって、カムの回転運動の方向と同じ数学的符号の方向の力が発生し、この力の強さは、回転するにしたがって増加する。すなわち、図1Aの構成によって、カムの回転とは反対の方向のトルクが発生し、図1Bの構成によって、カムの回転と同じ方向のトルクが発生する。
【0013】
図1A及び1Bに示すように、磁気的等化デバイスの構成は、必ずしも半径方向のタイプの磁性システムを備えない。実際に、図3〜5を参照しながら第2の実施形態とともに詳細に説明するように、カム−磁石のアセンブリーの構成は、軸方向のタイプの磁性システムを形成することができる。この場合、第2の磁性要素(バイポーラー磁石)は、カムと同じ平面内に配置されておらず、カムの上又は下の平面内に配置されており、これによって、磁石とカムの間の磁気的相互作用によってカムの回転軸と平行な主な成分を有する力が発生するようにされる。なお、半径方向のタイプ又は軸方向のタイプの構成であっても、必ずしも磁性アセンブリーの要素が半径方向又は軸方向に磁化されるとは限らない。実際に、特に、半径方向のタイプの磁性システムにおいて、カムが磁石によって形成されるときにカムの磁化軸は、軸方向であることができる。同じことが、カムに関連づけられる磁石にもいえる。
【0014】
図2は、本発明の第1の特定の実施形態に係る計時器用ムーブメントについての部分的な平面図である。この部分的な図は、本発明を理解するために不可欠なムーブメントの構成要素のみを示している。他の部品、特に、時方輪列と巻き機構は、伝統的なものであることができ、図示していない。
【0015】
図2に示すムーブメントは、ばねバレル11を有し、このばねバレル11は、ばねバレル11のシャフトにマウントされたピニオン13を有する。ピニオン13は、ばねバレル(図示せず)のばねの巻きが緩むときに、少なくとも1つのムーブメント機構を駆動しつつ時計回りの方向に回転する。この図2が示すように、ピニオン13は、まず、車15とピニオン17によって形成される第1の可動体を有する補助的な減速車ワークを駆動する。車15は、ばねバレルのピニオン13と噛み合うように構成しており、ピニオン17は、車19と噛み合うように構成している。車19は、偏心位置にてこの車19のプレートにマウントされたバイポーラー磁石107を支えており、このバイポーラー磁石107は、半径方向の磁気的な方向を有する。磁気渦巻きカム103は、車19と対向するように車19と同心的に固定されるように構成している。さらに、磁性カム103と一体化された2つの制限用半径方向止め21及び23が設けられる。これらの制限用止め21及び23は、好ましくは、非磁性体で作られ、カムのエッジの不連続部22の両側に配置され、磁石107がこの不連続部22に対向するように動くことがないようにされる。
【0016】
以下において説明する減速車ワークのギヤ比は、完全に巻き上げられた状態と完全に巻きを緩められた状態の間でばねバレルが行う回転の回転数に応じて変化する。実際に、この比は、車19と一体化されている磁石107の回転の角度が常に360°未満であるように、ばねバレルの回転数よりも大きくなければならない。すなわち、第1の磁性要素又は第2の磁性要素を支える車19は、ばねバレルが完全に巻き上げられた状態と完全に巻きを緩められた状態の間で複数の回転を行うときに、少なくとも1回転を行う。図示した例において、ばねバレルのシャフトは7回転して、ばねバレルのばねを完全に巻き上げられた状態から完全に巻きを緩められた状態に又はその逆に動かす。他方では、減速車ワークの速度伝達比は8.4である。これらの条件の下で、車19は、腕時計の動作時に時計回りの方向に5/6回転よりもわずかに少ない回転を行う。2つの制限用止め21及び23は、磁石107がそのトラベルのいずれかの端に達したときに磁石107を止めることによって車19の2つの限界の角度位置を決める。
【0017】
上で説明した補助的な減速車ワークにおいて、車19は、ばねバレルのピニオン13と同じ方向に回転する。これらの条件の下で、ムーブメントを駆動するときにばねバレル(図示せず)のばねが巻きを緩めると、車19と磁石107は、時計回りの方向に回転する。カム103の変化する半径が反時計回りの方向に増加しているために、磁石107とカム103の間の磁気的引力には、接線方向の成分Ftがある。このカム103は、反時計回りの方向に可動磁石107に作用する。したがって、ばねバレルのばねが緩む方向に動いて車19が時計回りの方向に回転すると、この回転に磁力が対抗する。さらに、ばねが巻きを緩めるにしたがって、磁力の強さが減少する。なお、ここで説明した等化デバイスが、運動トルクに対抗する補助的な磁気トルクを与え、この磁気トルクの大きさが、ばねバレルのばねが巻きを緩められるときに、運動トルクの大きさとともに減少することを理解することができるであろう。図1A及び1Bと関連して行った説明によると、第1の実施形態の代替変形態様において、等化デバイスは、さらに、運動トルクを強化する補助的な磁気トルクを容易に与えることができ、ばねバレルのばねが巻きを緩めるときに、この磁気トルクの大きさが運動トルクの大きさが減少するにしたがって増加することを理解することができるであろう。
【0018】
本発明によると、計時器用機構に運動トルクを供給する運動学的なリンケージによって計時器用機構を駆動するように、計時器用ムーブメントのばねバレルが設けられる。計時器用ムーブメントの場合には、計時器用機構を駆動するために設けられる運動学的リンケージは、一般的に、増速車ワーク(例えば、駆動される計時器用機構は、スイス式パレットを備えたエスケープであり、増速車ワークは、計時器用ムーブメントの時方輪列を形成する)を有する。第1の変形態様によると、時方輪列(図示せず)は、ばねバレルのピニオン13によって直接駆動される。なお、この場合、時方輪列は、等化デバイスと並列に配置されている(標準的な「スタックフリード」と同様に)。別の変形態様において、等化デバイスを用いてばねバレルによって機構が駆動される。この場合、等化デバイスの補助的な車ワークの少なくとも一部は、ばねバレルと機構の間の運動学的リンケージを形成する。
【0019】
再び図2を参照すると、ばねバレル13のドラムには、外側の歯列がないことがわかる。これは、スムースなばねバレルと呼ばれるものである。実際に、スピンドルムーブメントに関連して知られているものと同様に、本発明は、等化デバイスがばねバレルに角度的に固定されることを必要とする。すなわち、車19の角度的なトラベルのための制限用止め21及び23によって定められる2つの限界角度がそれぞれ、ばねバレルのばねの「完全に巻き上げられた」状態と「完全に巻きを緩められた」状態に対応することが必要である。この制約を満たすために、バイポーラー磁石がばねバレルの支持体(プレート)に対して固定されるような1つの変形態様において、ばねバレルのばねの巻き上げと巻き緩めは両方とも、ばねバレルの同じ可動部品に作用するようにされている。したがって、図2の例によると、機構の駆動及びばねバレルの巻き上げは両方とも、ばねバレルのピニオン13によって行われ、これは、等化デバイスにもつながれている。独立的に知られている方法において、巻き竜頭及び/又は振動する質量体によって巻き上げを行うことができる。さらに、巻き機構は、ばねバレルのピニオン13と直接、又はばねバレルのピニオン13の下流にある別の車ワークの要素と噛み合うことができる。しかし、バイポーラー磁石がばねバレルのシャフトと回転可能に一体化されているような別の変形態様において、ばねバレルの巻き上げ及び巻きの緩めを、ばねバレルのシャフトとドラムを介して又はこれの逆に、行うことができる。
【0020】
なお、上記の等化デバイスは、さらに、パワーリザーブを指示するデバイスとしてもはたらくことができる。このために、第1の変形態様において、車19の軸に針がマウントされる。第2の変形態様において、パワーリザーブインジケーターの角度的トラベルを縮小させるために、あるいは、特に、直線的運動をするインジケーターを設けるために、カム103にレバーが接続される。このレバーは、カム従動子を定め、カム103の側面に当接するように構成している。パワーリザーブインジケーターは、レバーと一体化したり、このレバーによってアクチュエートされる別個の要素によって形成したりすることができる。
【0021】
図3〜5の部分的な図は、ミニッツリピート機能付き腕時計用ムーブメントに対応する本発明の第2の実施形態を示している。ミニッツリピートは、専用のばねバレルによって駆動される鳴動機構である。この鳴動機構は、アクチュエートされるとベルばねを繰り返し打つハンマーのおかげで機能する。このタイプの機構の特定の特徴として、鳴動が行われる速さが、バレルばねが受ける駆動トルクの大きさに依存するということがある。
【0022】
まず、図3及び4を参照すると、ばねバレル(概して参照符号111が付与されている)を見ることができる。図示したばねバレルは、ばねバレル111のドラム131によって形成される。このドラム131は、ドラム131とばねバレルシャフト137によって形成されるケースを閉じるばねバレルカバー135(図5に示した)によってばね133を収容するようにはたらく。このばねバレルシャフト137は、ばねバレルを通り抜け、プレートとブリッジ(図示せず)の間で両端によって回転する。再び図4において、ばねバレルシャフト137は、ピニオン113と車139を有する歯付き可動要素と一体化されていることがわかる。
【0023】
図3及び4を再び参照すると、巻きラック141と単方向性の車ワーク143が示されている。単方向性の車ワークは、それ自体が知られているデバイスである。本例において、車ワーク143は、入力車145を有する。この入力車145は、ラック141と出力車147(図3に示した)と噛み合っており、この出力車147は、バレルばねのピニオン113と噛み合っている。歯車145及び147は、同軸であり、一方が他方に対して回転することができる。これらの2つの車の入力車145と出力車147の一方は、これらの入力車145と出力車147の間に挟まれる同軸のラチェット(図示せず)を支える。このラチェットに対向しているの車のプレート上で、歯止め(図示せず)が回転する。この歯止めは、ばね(図示せず)によってラチェットの周部にロックされている。この歯止めは、入力車が反時計回りの方向に回転するときには、ラチェットの歯と連係し、また、入力車が時計回りに回転するときには、ラチェットに対してスライドするように設けられる。
【0024】
ばねバレル111は、車139の歯列によって鳴動車ワーク(図示せず)を駆動するように設けられる。既に記載したように、車139は、ばねバレルのシャフト137と一体化されている。なお、ばねバレルのばねが漸進的に巻きを緩められるときに、ばねバレルのシャフトは、ばねバレルの巻き上げの度合いに応じて変化する運動トルクを車139に伝達することによって、反時計回りの方向に車139を駆動する。さらに、鳴動機構を駆動するトルクがばねバレルの巻き上げの度合いに応じて変化するために、鳴動する速さは、ばねバレルのばねの巻き上げの度合いにも依存する。なお、車139は、完全に巻き上げられた状態と完全に巻きを緩められた状態の間で1回転未満の回転をする。磁石207は、ばねバレルが2つの前記極限の状態の間で巻きを緩められるときに磁石207がカムのエッジの不連続部を通らないように、車139に配置される。
【0025】
ばねバレルの巻き上げは、ラック141の助けを借りて達成される。腕時計の着用者は、腕時計ケース上に位置している押しボタン(図示せず)又はスライド(図示せず)の助けを借りて手動でラックをアクチュエートすることができる。腕時計の着用者がラックをアクチュエートするときに、ラックは、反時計回りの方向に単方向性の車ワーク143の入力車145を駆動しつつ回転する。この単方向性の車ワーク143の出力車147は、入力車145によって駆動され、この入力車145自身がばねバレルのピニオン113を駆動する。これによって、このピニオン113は、時計回りの方向に1回転よりもわずかに少ない回転を発生させ、これは、ばねバレル111の巻き上げを発生させる。そして、腕時計の着用者がスライド又は押しボタンを放すと、ばね(図示せず)が、図4の矢印の方向とは反対にラック141をロックする。ラック141の戻しトラベルには、時計回りの方向に単方向性の車ワークの入力車145を駆動する効果がある。単方向性の車ワークが時計回りの方向には回転を伝達しないので、ばねバレルのシャフト137はその反対方向には駆動されない。
【0026】
図5は、図3及び4の主題でもある第2の実施形態についての下から見た部分的な斜視図である。図5において、本発明に係る等化デバイスの2つの磁性要素を見ることができるように、いくつかの部品、ラック141及び車139を省略している。図示した例において、前記2つの磁性要素はそれぞれ、磁性カム203及び円筒状のバイポーラー磁石207である。図示したカム203は、上記の磁性カム3及び103と非常に類似している。カム203は、ばねバレルのシャフト137と同心的に取り付けられ、ばねバレルのカバー135に固定される。バイポーラー磁石207は、カム203に対向するように配置されるように、回転軸から離れた位置にて車139のプレートにマウントされる。したがって、バイポーラー磁石207は、第1の実施形態における場合とは異なりカム203と同じ平面内に配置されず、カム203よりも上のカム203と平行な平面内に配置される。この場合、磁石207は、好ましくは、軸方向(ばねバレルの回転軸と平行な方向)の磁化方向を有する。なお、これらの条件の下で、磁石207とカム203の間の磁気的相互作用が、本質的に軸方向である主方向とは異なる方向を有することを理解することができるであろう。したがって、ここでの等化デバイスの構成は、軸方向のタイプのものであり、これによって、一般的には半径方向のタイプのデバイスよりもコンパクトにすることができるという利点がある。
【0027】
上記鳴動機構において、車139と一体化されている磁石207が、ばねバレルのシャフト137と同じ方向に回転する。これらの条件の下で、ばねバレルのばね133が鳴動機構を駆動しつつ巻きを緩めるときに、磁石207は、カム203に対して反時計回りの方向に回転する。図5に示すように、カム203の半径方向の幅は、反時計回りの方向に磁石207が通るにしたがって増加する。これらの条件の下で、磁石207とカム203の間の磁気的相互作用の強さは、ばねバレルのばね133が巻きを緩めるにしたがって増加する。磁位によって、磁石にて接線方向の力が発生する。したがって、上記等化デバイスは、運動トルクと同じ向きに、ばねバレルのシャフト137に補助的トルクを与える。この補助的トルクは、運動トルクが減少するにしたがって増加する。
【0028】
また、添付の請求の範囲によって定められる本発明の範囲を逸脱せずに、本発明の主題であるいくつかの実施形態に対して当業者に明らかな様々な改変及び/又は改善を行うことができることを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0029】
3A、3B、22、203 カム
5 回転軸
7、107、207 磁石
11、111 ばねバレル
13、17 ピニオン
19 車
21、23 制限用止め
133 運動ばね
135 カバー
137 シャフト
141 巻きラック
143 車ワーク
145 入力車
147 出力車
図1
図2
図3
図4
図5