(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6381841
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】引張装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20180820BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
G01L5/00 103B
F16B43/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-35403(P2018-35403)
(22)【出願日】2018年2月28日
【審査請求日】2018年3月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151690
【氏名又は名称】株式会社東日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】小松 恭一
(72)【発明者】
【氏名】辻 洋
(72)【発明者】
【氏名】辻 修
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聖司
【審査官】
大森 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−166299(JP,A)
【文献】
実開昭56−039612(JP,U)
【文献】
特許第4028254(JP,B2)
【文献】
特開平10−170362(JP,A)
【文献】
特開2006−337058(JP,A)
【文献】
特開2011−021989(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0084197(US,A1)
【文献】
特開平01−026013(JP,A)
【文献】
特開2014−088951(JP,A)
【文献】
特開2014−149043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00,
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結体に締結され、座金が挿通されたボルトを上方に引っ張るための引張装置であって、
前記座金の外周面には、第1雄ネジ部が形成されており、
下端部に有天筒状の接続部材中空部が形成され、前記接続部材中空部における天面を除く内周面に前記第1雄ネジ部が螺合する第1雌ネジ部が形成された接続部材と、
前記第1雄ネジ部を前記第1雌ネジ部に螺合させた状態で、前記接続部材を引っ張る引張機構と、
前記接続部材の外周周りに配置され、前記引張機構による引張時に前記被締結体から作用する反力を受けるテンション受部と、
を有し、
前記座金は、前記ボルトの頭部及び前記被締結体に狭圧されており、
前記の引っ張りを開始する引張開始時において、
前記ボルトの前記頭部は前記接続部材中空部の前記天面に接触しており、前記座金の外周面1周以上の長さを有する前記第1雄ネジ部が前記第1雌ネジ部に螺合しており、前記接続部材の下端部と前記被締結体との間にはクリアランスが形成されていることを特徴とする引張装置。
【請求項2】
被締結体に締結され、座金が挿通されたボルトを上方に引っ張るための引張装置であって、
前記座金の外周面には、第1雄ネジ部が形成されており、
下端部に形成された有天筒状の大径中空部と、前記大径中空部の天面に形成された有底筒状の小径中空部とを有し、前記大径中空部における天面を除く内周面に前記第1雄ネジ部が螺合する第1雌ネジ部が形成された接続部材と、
前記第1雄ネジ部を前記第1雌ネジ部に螺合させた状態で、前記接続部材を引っ張る引張機構と、
前記接続部材の外周周りに配置され、前記引張機構による引張時に前記被締結体から作用する反力を受けるテンション受部と、
を有し、
前記座金は、ナット及び前記被締結体に狭圧されており、
前記の引っ張りを開始する引張開始時において、
前記ナットは前記大径中空部の前記天面に接触しており、前記座金の外周面1周以上の長さを有する前記第1雄ネジ部が前記第1雌ネジ部に螺合しており、前記ボルトの先端は前記小径中空部に向かって延出しており、前記接続部材の下端部と前記被締結体との間にはクリアランスが形成されていることを特徴とする引張装置。
【請求項3】
前記引張機構は、テンションロッドと、前記テンションロッドを上下方向に延びる軸部周りに回転可能に支持する軸受部と、前記テンションロッドを前記軸部周りに回転させるための回転機構とを有し、
前記接続部材の上端部には、外周面に第2雄ネジ部が形成された凸部が設けられており、
前記テンションロッドの下端部には、前記第2雄ネジ部に螺合する第2雌ネジ部を内周面に有する中空部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の引張装置。
【請求項4】
前記テンション受部は、上下方向において前記軸受部及び前記被締結体に挟まれていることを特徴とする請求項3に記載の引張装置。
【請求項5】
前記凸部は軸径が前記ボルトと略同じであり、前記第2雄ネジ部及び前記第2雌ネジ部には摩擦トルクを低減する摩擦トルク低減材が塗布されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の引張装置。
【請求項6】
前記接続部材は、前記ボルトよりも引張強度が高いことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一つに記載の引張装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結体に締結されたボルトを上方に引っ張る引張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの機械、橋梁などの構造物の組立てには、ねじを用いた締結が行われる。ねじの締結体としての強度は、締め付け力に大きく依存する。一方、ボルト締結体における締結力の管理は、トルクや回転角を測定して一般に締め付け時に行われるだけであり、締め付け後にはほとんど行われていない。しかし、機械の作動中に予期しない外力の作用によってボルトが緩み、締め付け力が低下した場合には、疲労破壊の危険性が著しく増加する。したがって、ボルトの破断事故を防止し、ねじ締結体の信頼性を向上させるためには、締結後のボルトの締付け力の検出にも注意を払う必要がある。
【0003】
特許文献1には、被締結体の挿通孔にボルトを挿入し、挿通孔を貫通したボルトの雄ねじ部にナットを螺合締結することにより、被締結体を狭圧するボルト・ナット締結体にあって、ナット上面に対して、該上面から突出するボルトの雄ねじ部を引張して、ボルトのばね定数の変移点を検出し、該変移点での引張力を締付け力とすることを特徴とするボルト・ナット締結体の締付け力検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4028254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の締付け力検出方法では、ナットの上面から突出するボルトの雄ネジ部に引張部材の雌ネジ部を螺合させる必要がある。しかしながら、ボルトの軸径が小さく、ナットの上面から突出するボルト軸部の突出長さが短いため、螺合するネジの周方向長さが不足する場合がある。螺合するネジの周方向長さが不足すると、引張部材を介してボルトを引っ張る時に、ネジ山が塑性変形して、軸力検出の誤差が大きくなるおそれがある。
【0006】
そこで、本願発明は、ボルトの軸部とは異なる部位に引張装置を螺合させて、ボルトを引っ張ることにより、軸力検出等の誤差を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明は(1)被締結体に締結され、座金が挿通されたボルトを上方に引っ張るための引張装置であって、前記座金の外周面には、第1雄ネジ部が形成されており、前記第1雄ネジ部が螺合する第1雌ネジ部を有する接続部材と、前記第1雄ネジ部を前記第1雌ネジ部に螺合させた状態で、前記接続部材を引っ張る引張機構と、前記接続部材の外周周りに配置され、前記引張機構による引張時に前記被締結体から作用する反力を受けるテンション受部と、を有することを特徴とする。
【0008】
(2)前記引張機構は、テンションロッドと、前記テンションロッドを上下方向に延びる軸部周りに回転可能に支持する軸受部と、前記テンションロッドを前記軸部周りに回転させるための回転機構とを有し、前記接続部材の上端部には、外周面に第2雄ネジ部が形成された凸部が設けられており、前記テンションロッドの下端部には、前記第2雄ネジ部に螺合する第2雌ネジ部を内周面に有する中空部が形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の引張装置。
【0009】
(3)前記テンション受部は、上下方向において前記軸受部及び前記被締結体に挟まれていることを特徴とする上記(2)に記載の引張装置。
【0010】
(4)前記凸部は軸径が前記ボルトと略同じであり、前記第2雄ネジ部及び前記第2雌ネジ部には摩擦トルクを低減する摩擦トルク低減材が塗布されていることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の引張装置。
【0011】
(5)前記接続部材は、前記ボルトよりも引張強度が高いことを特徴とする上記(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の引張装置。
【0012】
(6)前記第1雄ネジ部は、前記座金の外周面1周以上の長さを有することを特徴とする上記(1)乃至(5)のうちいずれか一つに記載の引張装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、座金の外周面に形成された雄ネジ部に引張装置の雌ネジ部を螺合させて、ボルトを引っ張る(言い換えると、座金を介してボルトを引っ張る)ことができる。これにより、螺合するネジの周方向長さが不足して、軸力検出等の検出精度が低下することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(第1実施形態)
本実施形態の引張装置は、被締結体をボルト及び座金で締結するとともに、被締結体の上面を抑えながら座金を介してボルトを引っ張る装置であり、ボルトの軸力(言い換えると、ボルトの締結力)検出や、ボルトが締結される被締結体のバネ定数の検出等に用いられる。軸力検出の基本的な考え方は、特許第4028254号に記載された内容と同様である。以下の実施形態では軸力検出を例に挙げ、引張装置の構成及び動作について説明する。
【0017】
図1は本実施形態の引張装置の概略図であり、座金を引っ張る動作を開始した直後の状態を示している。なお、引張装置に含まれる複数の部材を互いに異なる種類のハッチングで表わすことにより、部材間の境界を明確にしている。
図2はボルト及び座金の斜視図である。
【0018】
引張装置1は、接続部材2と、引張機構3と、テンション受部4と、ハンドル5とを含む。なお、一点鎖線で示すXは、上下方向に延びる引張装置1の回転軸を示している。
【0019】
接続部材2は、円柱部21及び円柱部21の上面に形成された凸部22を含む。円柱部21の下端部には、上下方向に延びる接続部材中空部21aが形成されている。接続部材中空部21aの周面には、回転軸X周りに延びる第1雌ネジ部21a1が形成されている。凸部22は、円柱部21よりも径が小さい円柱形状に形成されており、その外周面には回転軸X周りに延びる第2雄ネジ部22aが形成されている。接続部材2には、ボルト10よりも引張強度が高い材料を用いることができる。これにより、軸力検出の際に、接続部材2が塑性変形することを抑制できる。
【0020】
引張機構3は、テンションロッド31と、軸受部32と、角ドライブ33(回転機構に相当する)と、レンチ34(回転機構に相当する)とを含む。テンションロッド31は、円柱状の小径ロッド部31aと円柱状の大径ロッド部31bとからなり、小径ロッド部31aの上端部及び大径ロッド部31bの下端部が互いに連接している。これらの小径ロッド部31a及び大径ロッド部31bは、一体的に形成されている。
【0021】
小径ロッド部31aの下端部には、上下方向に延びるテンションロッド中空部311が形成されており、このテンションロッド中空部311の内周面には、回転軸X周りに延びる第2雌ネジ部311aが形成されている。大径ロッド部31bの上端部には、取り付け開口部312が形成されている。
【0022】
軸受部32はスラスト軸受けであり、テンションロッド31の小径ロッド部31aを回転可能に支持している。軸受部32の上端面はテンションロッド31の大径ロッド部31bの下端面に接触しており、軸受部32の下端面はテンション受部4の上端面に接触している。つまり、軸受部32は、上下方向において、大径ロッド部31b及びテンション受部4により挟まれている。
【0023】
角ドライブ33は、大径ロッド部31bの取り付け開口部312に着脱可能に装着されており、角ドライブ33を回転させることにより、テンションロッド31を回転軸X周りに回転させることができる。角ドライブ33は、ハンドル5及びレンチ34を用いて回転させることができる。本実施形態の構成では、レンチ34を用いてテンションロッド31を回転軸X周りに1回転させた時に、テンションロッド31の第2雌ネジ部311aのネジピッチ分だけ接続部材2が上動するように設計されている。なお、本実施形態では、角ドライブ33、ハンドル5及びレンチ34を用いてテンションロッド31を回転させたが、本発明はこれに限るものではなく、テンションロッド31を回転させる動力を発生させることが可能な他の駆動手段を用いることもできる。
【0024】
レンチ34は、水平方向に長尺に形成されており、同一の力で回転させた時に、ハンドル5よりも大きなトルクを得ることができる。レンチ34には、図示しない角度センサ(例えば、ジャイロセンサ)が設けられている。角度センサによって、テンションロッド31の回転量を計測することができる。ただし、レンチ34ではなく、テンションロッド31に直接角度センサを取り付けてもよい。
【0025】
テンション受部4には、軸力を検出するための図示しない軸力検出部が設けられている。軸力検出部には、例えば歪ゲージを用いることができる。歪ゲージは、力が加わると変形し、その変形量に応じた電気信号を出力する。テンション受部4の下端部には、上下方向に延びるテンション中空部41が形成されている。テンション中空部41の内部には、接続部材2が収容されており、接続部材2の円柱部21はテンション中空部41の内周面に沿って配置されている。つまり、テンション受部4は、接続部材2を包囲するように配設されている。
【0026】
ここで、引張機構3の構成は上述の構成に限るものではなく、軸力検出時に接続部材2を回転させずに上動させることができれば、他の構成であってもよい。例えば、円柱部21の上面に内周面に雌ネジを有する凹部を形成し、テンションロッド31の下端部(つまり、小径ロッド部31aの下端部)に外周面に雄ネジが形成された凸部を形成するとともに、この凸部を前記の雌ネジに螺合させることにより、接続部材2を引っ張る構成であってもよい。また、テンションロッド31による回転動作ではなく、油圧による引張力と上下の変位量とを測定することにより、軸力を検出してもよい。
【0027】
次に、ボルト、座金及び被締結体について詳細に説明する。ボルト10は、六角ボルトであり、ボルト軸部10a及びボルト頭部10bから構成されている。ボルト軸部10aには雄ネジが形成されている。座金11は、ボルト10よりも径寸法が大きく設定されており、外周面には第1雄ネジ部11aが周方向に延びて形成されている。座金11は、上下方向において、ボルト頭部10b及び被締結体H1に狭圧されている。座金11を使用することにより、接触面積が大きくなるため、被締結体H1に対する接触面圧を下げることができる。したがって、被締結体H1が強度の低い材料(例えば、アルミニウム)で構成されている場合にも、本願発明は適用することができる。
【0028】
軸力検出は、座金11の第1雄ネジ部11aを接続部材2の第1雌ネジ部21a1に螺合させた状態で行うことができる。ここで、第1雄ネジ部11aは、ボルト頭部10bよりも径方向外側に張り出した座金11の外周面に形成されているため、座金11及び接続部材2を螺合させたときのネジの周方向長さを十分に確保することができる。これにより、軸力検出時にネジ山が塑性変形して、軸力検出の検出精度が低下することを抑制できる。
【0029】
第1雄ネジ部11aは、座金11の外周面1周以上の長さを有することが望ましい。第1雄ネジ部11aの長さが、座金11の外周面の1周未満だと、座金11の周方向において引張力が付与されない領域(言い換えると、第1雌ネジ部21a1に当接しない領域)が発生するため、荷重が引張り方向(つまり、上下方向)とは異なる方向に働き、軸力検出の精度が低下するおそれがある。
【0030】
被締結体Hは、上下方向において重ね合わされた被締結体H1及びH2からなり、これらの被締結体H1及びH2には夫々ボルト孔H1a及びH2aが形成されている。ボルト孔H2aの周面には、ボルト軸部10aの雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されている。ボルト孔H1aに挿入されたボルト10がボルト穴H2aと螺合することによって、ボルト10が被締結体Hに締結される。
【0031】
なお、ボルト孔H2aに雌ねじ部を形成せずに、ボルト10をボルト孔H1a,H2aに挿入し、被締結体H(H2)の端面から下方に突出したボルト軸部10aに不図示のナットを螺合させることにより、ボルト10を被締結体Hに締結してもよい。
【0032】
ここで、ボルト10の被締結体Hに対する摩擦トルクは、接続部材2のテンションロッド31に対する摩擦トルクよりも大きく設定されている。つまり、締結状態にあるボルト軸部10aの雄ネジ部とボルト孔H2aの雌ネジ部との摩擦トルクは、螺合状態にある凸部22の第2雄ネジ部22aとテンションロッド31の第2雌ネジ部311aとの摩擦トルクよりも大きい。これにより、軸力検出を行う際に、ボルト10が回転することを防止できる。
【0033】
上述の摩擦トルクの大小関係を実現するために、本実施形態では、ボルト軸部10a及び凸部22の径寸法を互いに略同じに設定するとともに、潤滑剤(摩擦トルク低減材に相当する)を塗布することによりテンションロッド31の第2雌ネジ部311aに対する凸部22の摩擦トルクを低減している。ここで、別の方法として、凸部22の径をボルト軸部10aの径よりも小さくすることにより、摩擦トルクを低減する方法も考えられる。しかしながら、凸部22の径が小さくなると、引張時に応力が増大して、凸部22が破損するおそれがある。そこで、本実施形態では、ボルト軸部10a及び凸部22の径寸法を互いに略同じに設定するとともに、潤滑剤を用いて凸部22とテンションロッド31との摩擦トルクを低減することにより、上述の摩擦トルクの大小関係を実現している。
【0034】
次に、軸力検出時における引張装置1の動作について説明する。初期状態において、ボルト10及び座金11は被締結体Hに締結されているものとする。また、引張機構3、テンション受部4及びハンドル5は、予め組み立てられてユニット化されているものとする。
【0035】
最初に、座金11の第1雄ネジ部11aを接続部材2の第1雌ネジ部21a1に螺合させて、接続部材2及び座金11を連結する。ここで、接続部材中空部21aの高さ寸法が小さいと、第1雄ネジ部11aの全てのネジ山が第1雌ネジ部21a1に螺合する前に、ボルト頭部10bの上面が接続部材中空部21aの天面に当接してしまうため、引掛りが不十分となるおそれがある。一方、接続部材中空部21aの高さ寸法が大きいと、接続部材2の下端部が被締結体H1に圧接した状態で軸力検出が行われるため、検出誤差が大きくなる。したがって、接続部材2及び座金11の連結時に、第1雄ネジ部11aの全てのネジ山が第1雌ネジ部21a1に螺合し、かつ、接続部材2の下端部が被締結体H1を圧接しないように、ボルト頭部10b及び座金11の総厚を考慮して、接続部材中空部21aの高さ寸法を設定するのが好ましい。
【0036】
次に、接続部材2の凸部22の先端にテンションロッド中空部311の下端部を位置決めする。この時、テンション受部4は被締結体H1の上方に位置している(言い換えると、テンション受部4及び被締結体H1は互いに非接触の状態である)。続いて、手動によりハンドル5を回転軸X周りに回転させ、第2雌ネジ部311a及び第2雄ネジ部22aを螺合させる。ハンドル5をさらに回転させると、テンションロッド31が軸受部32及びテンション受部4とともに下方に螺進して、テンション受部4が被締結体H1に着座する。
【0037】
図1は、テンション受部4が被締結体H1に当接した直後の状態を示しており、テンションロッド31の下端部と円柱部21の上端部との間には、クリアランスS1が形成されている。また、凸部22の先端とテンションロッド中空部311の上端部との間には、クリアランスS1よりも大きいクリアランスS2が形成されている。
【0038】
テンション受部4が被締結体H1に着座すると、ハンドル5による手動操作ではトルクが小さいため、テンションロッド31をそれ以上回転させることができない。そこで、レンチ34による手動操作でテンションロッド31を回転させる。これにより、接続部材2を上動させることができる。なお、接続部材2は上動する際に回転しない。
【0039】
接続部材2が上動すると、軸受部32を介して大径ロッド部31bからテンション受部4に対して押し下げ力が働く。一方、被締結体H1に着座しているテンション受部4は下方に移動することができないため、軸受部32及び被締結体H1によって狭圧され、被締結体H1からテンション受部4に対して反力が働く。この時、歪ゲージから電気信号(例えば、電圧)が出力され、この出力信号から軸力を算出することができる。なお、算出した軸力は、例えばレンチ34やテンション受部4の外周面に設けられた図示しない表示部に表示させることができる。また、クリアランスS2は、クリアランスS1よりも大きいため、円柱部21が小径ロッド部31aに当接する前に、凸部22がテンションロッド中空部311の上端部に当接することを防止できる。つまり、ボルト10を引っ張るための十分な作動長さを確保できるため、軸力検出不能となることを防止できる。
【0040】
このように、本実施形態では、座金11の側面に形成された第1雄ネジ部11aを接続部材2に螺合させ、座金11を介してボルト10を引っ張る方法を採用しているため、座金を使用可能なボルトであれば、ボルト頭部の形状に関わらず、ボルトの軸力検出を行うことができる。したがって、六角ボルト、六角穴付きボルト、六角穴付き丸頭ボルト、四角ボルトなど頭部形状が異なる複数のボルトを同じ引張装置で引っ張り、軸力検出を行うことができる。
【0041】
座金11に対して接触面圧の軽減と軸力検出時の螺合部材としての機能を兼用させているため、座金とは異なる別の螺合部材を軸力検出のために用いる必要がない。したがって、部品点数の増大を抑制することができる。
【0042】
(第2実施形態)
図3を参照しながら、本実施形態の引張装置100について説明する。
図3は、
図1に対応しており、テンション受部4が被締結体H1に当接した直後の状態を示している。なお、第1実施形態と同様の構成については、詳細な説明を省略する。本実施形態のボルト10は、ボルト頭部10bが被締結体H2の下面に接触し、ボルト軸部10aの先端が被締結体H1の上面から突出している。つまり、ボルトの向きが第1実施形態の逆向きとなっている。なお、ボルト孔H1a及びH2aには、ネジが切られていない。
【0043】
ボルト軸部10aの突出部分には、座金11が挿通されており、この座金11の上からナット50が締結されている。つまり、座金11が被締結体H1及びナット50によって狭圧されている。座金11は、ナット50よりも外径寸法が大きく設定されている。
【0044】
座金11の外周面に第1雄ネジ部11aが形成されている点は、第1実施形態と同様である。接続部材中空部21aは、大径中空部211a及び小径中空部212aからなる上限二段構成となっており、大径中空部211aの上端部及び小径中空部212aの下端部が連接されている。大径中空部211aには、軸力検出時に座金11の第1雄ネジ部11aに螺合する第1雌ネジ部21a1が形成されている。
【0045】
ここで、大径中空部211a及び小径中空部212aの上下方向の寸法は、接続部材2を座金11に螺合させた時に、ボルト軸部10aが小径中空部212aの天面に当接する前に、ナット50の上面が大径中空部211aの天面に当接するようにサイズ調整されている。本実施形態の構成においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 100 引張装置
2 接続部材
3 引張機構
4 テンション受部
5 ハンドル
10 ボルト
10a ボルト軸部
10b ボルト頭部
11 座金
11a 第1雄ネジ部
21 円柱部
21a 接続部材中空部
21a1 第1雌ネジ部
22 凸部
22a 第2雄ネジ部
31 テンションロッド
31a 小径ロッド部
31b 大径ロッド部
32 軸受部
33 角ドライブ
34 レンチ
50 ナット
311 テンションロッド中空部
311a 第2雌ネジ部
H(H1,H2) 被締結体
【要約】
【課題】ボルトの軸部とは異なる部位に引張装置を螺合させて、ボルトを引っ張ることにより、軸力検出等の誤差を小さくすることを目的とする。
【解決手段】被締結体Hに締結され、座金11が挿通されたボルト10を上方に引っ張るための引張装置1であって、前記座金11の外周面には、第1雄ネジ部11aが形成されており、前記第1雄ネジ部11aが螺合する第1雌ネジ部21a1を有する接続部材2と、前記第1雄ネジ部11aを前記第1雌ネジ部21a1に螺合させた状態で、前記接続部材2を引っ張る引張機構3と、前記接続部材2の外周周りに配置され、前記引張機構3による引張時に前記被締結体Hから作用する反力を受けるテンション受部4と、を有することを特徴とする引張装置。
【選択図】
図1