(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6381847
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】工作機械用送りねじ装置におけるナット支持装置、工作機械用送りねじ装置及び平面研削盤
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
F16H25/24 G
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-97728(P2018-97728)
(22)【出願日】2018年5月22日
【審査請求日】2018年5月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170853
【氏名又は名称】黒田精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 雅史
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−133700(JP,A)
【文献】
特開昭62−297565(JP,A)
【文献】
実開昭62−153453(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と前記ねじ軸がねじ係合するナット部材とを含む工作機械用送りねじ装置において前記ナット部材を支持するナット支持装置であって、
取付基板と、
前記ナット部材を保持するナット保持部材と、
前記取付基板に固定された基部及び前記ナット保持部材に固定された遊端部を含み、前記ナット部材の軸線方向と同方向の剛性が前記ナット部材の軸線周り方向と同方向の剛性より高いばね装置と、
前記取付基板に固定された固定部材と、
前記ナット部材の軸線方向と同方向に前記ねじ軸が貫通する貫通孔と、前記ナット保持部材に連結された第1端部及び前記固定部材に連結された第2端部とを含み、前記ナット保持部材を前記固定部材に対して回転拘束状態で前記固定部材に接続する撓み継手とを有し、
前記ばね装置は、前記取付基板と前記ナット保持部材との間に位置して前記基部を含む中間片部と、前記中間片部の両側の縁部から各々前記取付基板より離れる方向に延出して前記ナット保持部材の両側方に位置して前記遊端部を含む一対の側片部とを有するスリーブ支持板ばねにより構成されている工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項2】
ねじ軸と前記ねじ軸がねじ係合するナット部材とを含む工作機械用送りねじ装置において前記ナット部材を支持するナット支持装置であって、
取付基板と、
前記ナット部材を保持するナット保持部材と、
前記取付基板に固定された基部及び前記ナット保持部材に固定された遊端部を含み、前記ナット部材の軸線方向と同方向の剛性が前記ナット部材の軸線周り方向と同方向の剛性より高いばね装置と、
前記取付基板に固定された固定部材と、
前記ナット部材の軸線方向と同方向に前記ねじ軸が貫通する貫通孔と、前記ナット保持部材に連結された第1端部及び前記固定部材に連結された第2端部とを含み、前記ナット保持部材を前記固定部材に対して回転拘束状態で前記固定部材に接続する撓み継手とを有し、
前記ナット保持部材は、前記ナット部材の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔を画定するスリーブ部材により構成され、前記ナット収納孔に前記ナット部材の本体部を収容する工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項3】
ねじ軸と前記ねじ軸がねじ係合するナット部材とを含む工作機械用送りねじ装置において前記ナット部材を支持するナット支持装置であって、
取付基板と、
前記ナット部材を保持するナット保持部材と、
前記取付基板に固定された基部及び前記ナット保持部材に固定された遊端部を含み、前記ナット部材の軸線方向と同方向の剛性が前記ナット部材の軸線周り方向と同方向の剛性より高いばね装置と、
前記取付基板に固定された固定部材と、
前記ナット部材の軸線方向と同方向に前記ねじ軸が貫通する貫通孔と、前記ナット保持部材に連結された第1端部及び前記固定部材に連結された第2端部とを含み、前記ナット保持部材を前記固定部材に対して回転拘束状態で前記固定部材に接続する撓み継手とを有し、
前記撓み継手は、中間ブロックと、前記中間ブロックの一方の端面と当該端面に対向する前記ナット保持部材の端面との間に設けられて当該両端面に連結されたスリーブ側板ばねと、前記中間ブロックの他方の端面と当該端面に対向する前記固定部材の端面との間に設けられて当該両端面に連結された固定側板ばねとを有する工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項4】
前記ばね装置は、前記取付基板と前記ナット保持部材との間に位置して前記基部を含む中間片部と、前記中間片部の両側の縁部から各々前記取付基板より離れる方向に延出して前記ナット保持部材の両側方に位置して前記遊端部を含む一対の側片部とを有するスリーブ支持板ばねにより構成されている請求項2又は3に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項5】
前記ばね装置は、互いに重ね合わされた複数の前記スリーブ支持板ばねの集合体により構成されている請求項1又は4に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項6】
前記ナット保持部材は、前記ナット部材の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔を画定するスリーブ部材により構成され、前記ナット収納孔に前記ナット部材の本体部を収容する請求項1又は3に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項7】
前記ばね装置は、前記取付基板と前記ナット保持部材との間に位置して前記基部を含む中間片部と、前記中間片部の両側の縁部から各々前記取付基板より離れる方向に延出して前記ナット保持部材の両側方に位置して前記遊端部を含む一対の側片部とを有するスリーブ支持板ばねにより構成され、
前記スリーブ部材は、前記ナット収納孔に前記ナット部材の本体部を収容し、外周面に前記スリーブ支持板ばねの前記一対の側片部が固定される平坦面を有する請求項6に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項8】
前記ナット部材は前記本体部の外周に設けられたフランジ部を有し、
前記スリーブ部材は前記フランジ部のフランジ面が当接する端面を含み、ボルトによって前記フランジ部が前記スリーブ部材に固定されている請求項6又は7に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項9】
前記撓み継手は、中間ブロックと、前記中間ブロックの一方の端面と当該端面に対向する前記ナット保持部材の端面との間に設けられて当該両端面に連結されたスリーブ側板ばねと、前記中間ブロックの他方の端面と当該端面に対向する前記固定部材の端面との間に設けられて当該両端面に連結された固定側板ばねとを有する請求項1又は2に記載の工作機械用送りねじ装置のナット支持装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載された前記ナット支持装置に支持された前記ナット部材と、前記ナット部材にねじ係合したねじ軸とを有する工作機械用送りねじ装置。
【請求項11】
ベッドと、前記ベッド上に往復移動可能に設けられ、被研削物を載置されるワークテーブルと、前記被研削物を研削する砥石車とを有する平面研削盤であって、
前記ワークテーブルを往復移動させる送り装置として請求項10に記載の工作機械用送りねじ装置を有する平面研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械用送りねじ装置におけるナット支持装置及び工作機械用送りねじ装置に関し、更に詳細には、工作機械用送りねじ装置のナット部材をフローティング状態で支持するナット支持装置、当該ナット支持装置によって支持されたナット部材を含む工作機械用送りねじ装置及び当該工作機械用送りねじ装置を含む平面研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
送りねじ装置のナット部材をフローティング状態で支持するナット支持装置として、取付基板と、前記取付基板に固定された一端及び前記ナット部材の一端に固定された他端を含む撓み継手構造の回転拘束部材と、前記取付基板に固定された支持ブラケットと、前記ナット部材の前記一端に曲げ方向の可撓部を含んで連結される一端及び前記支持ブラケットに曲げ方向の可撓部を含んで連結される他端を含むタイバーとを有するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このナット支持装置は、取付基板に対するナット部材の軸線方向の傾きを許容して取付基板に対してナット部材が回転することを回転拘束部材によって阻止し、ナット部材と取付基板との軸力の伝達をタイバーによって行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−70746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のナット支持装置は、ナット部材の一端に連結されるタイバーの一端と支持ブラケットに連結されるタイバーの他端とで心ずれが生じると、タイバーの中心軸線がナット部材の中心軸線に対して傾斜し、その傾斜角に応じてタイバーによるナット部材と支持ブラケットとの軸線方向の間隔が狭くなる軸線方向の偏差が発生する。この偏差は取付基板に対するナット部材の軸線方向の位置精度及び再現性を低下させる。このことは、このナット装置によってフローティング状態で支持されたナット部材を含む送りねじ装置の位置精度及び再現性を低下する原因になる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、工作機械用送りねじ装置のナット支持装置において、ナット部材を位置精度よくフローティング状態で支持することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの実施形態による工作機械用送りねじ装置のナット支持装置は、ねじ軸(22)と前記ねじ軸(22)がねじ係合するナット部材(20)とを含む工作機械用送りねじ装置(9)において、前記ナット部材(20)を支持するナット支持装置(10)であって、取付基板(12)と、前記ナット部材(20)を保持するナット保持部材(16)と、前記取付基板(12)に固定された基部(14A)及び前記ナット保持部材(16)に固定された遊端部(14B)を含み、前記ナット部材(20)の軸線方向と同方向の剛性が前記ナット部材(20)の軸線周り方向と同方向の剛性より高いばね装置(14)と、前記取付基板(12)に固定された固定部材(36)と、前記ナット部材(20)の軸線方向と同方向に前記ねじ軸(22)が貫通する貫通孔(50)と前記ナット保持部材(16)に連結された第1端部(42)及び前記固定部材(36)に連結された第2端部(44)とを含み、前記ナット保持部材(16)を前記固定部材(36)に対して回転拘束状態で前記固定部材(36)に接続する撓み継手(38)とを有する。
【0008】
この構成によれば、取付基板(12)に対してナット保持部材(16)が心ずれを生じても、ばね装置(14)は軸線方向に高い剛性を有しているから、ナット保持部材(16)が取付基板(12)に対して軸線方向に変位することが抑制され、ナット保持部材(16)に保持されたナット部材(20)の軸線方向の位置精度が低下することが抑制される。
【0009】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記ばね装置(14)は、前記取付基板(12)と前記ナット保持部材(16)との間に位置して前記基部を含む中間片部(14A)と、前記中間片部(14)の両側の縁部から各々前記取付基板(12)より離れる方向に延出して前記ナット保持部材(16)の両側方に位置して前記遊端部を含む一対の側片部(14B)とを有するスリーブ支持板ばね(24)により構成されている。
【0010】
この構成によれば、ばね装置(14)はナット保持部材(16)に保持されたナット部材(20)の軸線方向と同方向の剛性が同ナット部材(20)の軸線周り方向と同方向の剛性より高くなり、併せてばね装置(14)によるナット保持部材(16)の支持が確実なものになる。
【0011】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記ばね装置(14)は、互いに重ね合わされた複数のスリーブ支持板ばね(24)の集合体により構成されている。
【0012】
この構成によれば、スリーブ支持板ばね(24)の枚数によってばね装置(14)の特性を容易に適正値に設定することができる。
【0013】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記ナット保持部材(16)は、前記ナット部材(20)の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔(16B)を画定するスリーブ部材(16)により構成され、前記ナット収納孔(16B)に前記ナット部材(20)の本体部(20A)を収容する。
【0014】
この構成によれば、スリーブ部材(16)やナット部材(20)の本体部(20A)の軸長が長くても、ナット支持装置(10)の軸長が長くなることが抑制される。
【0015】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記ナット保持部材(16)は、前記ナット部材(20)の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔(16B)を画定する円筒形状のスリーブ部材(16)により構成され、前記ナット収納孔(16B)に前記ナット部材(20)の本体部(20A)を収容し、外周面に前記スリーブ支持板ばね(24)の前記一対の側片部(14B)が固定される平坦面(16E)を有する。
【0016】
この構成によれば、スリーブ部材(16)やナット部材(20)の本体部(20A)の軸長が長くても、ナット支持装置(10)の軸長が長くなることが抑制されると共に、スリーブ部材(16)とスリーブ支持板ばね(24)との接続強度が向上する。
【0017】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記ナット部材(20)は前記本体部(20A)の外周に設けられたフランジ部(20B)を有し、前記スリーブ部材(16)は前記フランジ部(20B)のフランジ面(20C)が当接する端面(16A)を含み、ボルト(18)によって前記フランジ部(20B)が前記スリーブ部材(16)に固定されている。
【0018】
この構成によれば、フランジ部(20B)を有する標準仕様のナット部材(20)を加工することなくナット部材(20)がスリーブ部材(16)に確実に固定される。
【0019】
上記ナット支持装置(10)において、好ましくは、前記撓み継手(38)は、中間ブロック(40)と、前記中間ブロック(40)の一方の端面(40A)と当該端面(40A)に対向する前記ナット保持部材(16)の端面(16C)との間に設けられて当該両端面(40A、16C)に連結されたスリーブ側板ばね(42)と、前記中間ブロック(40)の他方の端面(40B)と当該端面(40B)に対向する前記固定部材(36)の端面(36B)との間に設けられて当該両端面(40B、36B)に連結された固定側板ばね(44)とを有する。
【0020】
この構成によれば、ナット保持部材(16)及び固定部材(36)が各々撓み継手(38)の軸端接続部材をなすから、軸端接続部材を別途設ける必要がなくなり、部品点数の削減のもとに撓み継手(38)の構成が簡素化される。
【0021】
本発明の一つの実施形態による工作機械用送りねじ装置(9)は、上述の実施形態の前記ナット支持装置(10)に支持された前記ナット部材(20)と、前記ナット部材(20)にねじ係合したねじ軸(22)とを有する。
【0022】
この構成によれば、工作機械用送りねじ装置(9)の軸線方向の位置精度が低下することが抑制され、高い位置精度の軸送りが行われる。
【0023】
本発明の一つの実施形態による平面研削盤(1)は、ベッド(2)と、前記ベッド(2)上に往復移動可能に設けられ、被研削物(W)を載置されるワークテーブル(4)と、前記被研削物(W)を研削する砥石車(6)とを有する平面研削盤(1)であって、前記ワークテーブル(4)を往復移動させる送り装置として上述の実施形態の工作機械用送りねじ装置(9)を有する。
【0024】
この構成によれば、ワークテーブル(4)が高い位置精度をもって移動し、研削精度が向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明による工作機械用送りねじ装置におけるナット支持装置によれば、ナット部材を位置精度よくフローティング状態で支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による平面研削盤の一つの実施形態を示す正面図
【
図2】本発明による工作機械用送りねじ装置におけるナット支持装置及び工作機械用送りねじ装置の一つの実施形態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による平面研削盤の一つの実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0028】
平面研削盤1は、ベッド2と、ベッド2上をリニアガイドレール3に案内されて往復移動可能で、被研削物Wを載置されるワークテーブル4と、主軸5に取り付けられた砥石車6とを有する。
【0029】
ワークテーブル4の往復移動はボールねじによる工作機械用送りねじ装置9によって行われる。工作機械用送りねじ装置9は、両端部を各々ブラケット7によって回転可能に支持されたねじ軸22と、一方のブラケット7に取り付けられてねじ軸22を回転駆動する電動モータ8と、ワークテーブル4に取り付けられたナット支持装置10によって支持され、ねじ軸22がねじ係合するナット部材20とを有する。ナット部材20は、ボール循環部(不図示)を内蔵した円筒形状の本体部20A及び本体部20Aの一方の軸端近傍の外周に設けられたフランジ部20Bを有する(
図3参照)。
【0030】
次に、ナット支持装置10の一つの実施形態を、
図2〜
図5を参照して説明する。尚、以下の説明において、「軸線方向」は全て送りねじ装置の軸線方向(ナット部材及びねじ軸の軸線方向)である。また、説明の便宜上、「軸線方向」に対して、上下方向及び左右方向を図示のように定義する。
【0031】
ナット支持装置10は軸線方向に長い略矩形の平板状の取付基板12を有する。取付基板12は、
図1に示されているように、ワークテーブル4の下面に複数のボルト(不図示)よって固定される。
【0032】
取付基板12の軸線方向の一方の側の下面にはばね装置14によってナット保持部材をなすスリーブ部材16が吊り下げ状態で取り付けられている。スリーブ部材16は軸線方向に長い略円筒体により構成されている。スリーブ部材16は、上面の面取りにより上部平坦面16Dを有し、左右両側面の面取りより側部平坦面16Eを有する。上部平坦面16Dは後述するねじ止め板26との干渉を避けるために有用である。側部平坦面16Eはナット部材20の軸線方向と同方向に平行に延在する平面である。
【0033】
スリーブ部材16はナット部材20のフランジ部20Bのフランジ面20Cが当接する端面16A及び端面16Aに開口してナット部材20の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔16Bを有する。換言すると、スリーブ部材16はナット部材20の中心軸線と同方向に延在するナット収納孔16Bを画定している。
【0034】
スリーブ部材16の端面16Aには複数のボルト18によってナット部材20のフランジ部20Bが固定されている。ナット部材20の本体部20Aはナット収納孔16Bに収容されている。
【0035】
ナット部材20の本体部20Aはナット収納孔16Bに収容されていることにより、ばね装置14の接続のためにスリーブ部材16の軸長が長くても、またボール循環部(不図示)を内蔵する本体部20Aの軸長が長くても、ナット支持装置10の軸長が長くなることが抑制され、ナット支持装置10の小型化設計が可能になる。
【0036】
ナット部材20はフランジ部20Bによってスリーブ部材16の端面16Aに固定されるから、フランジ部20Bを有する標準仕様のナット部材20を加工することなくナット部材20がスリーブ部材16に確実に固定される。この固定により、ナット部材20の本体部20Aの軸長がナット収納孔16Bの軸長より短い範囲内で、本体部20Aの軸長が異なる各種のナット部材20の保持が高い汎用性をもって行われる。
【0037】
ばね装置14は、互いに重ね合わされた複数のスリーブ支持板ばね24の集合体により構成され、取付基板12の下面とスリーブ部材16の上面との間に位置する中間片部14Aと、中間片部14Aの左右両側の縁部から各々、1/4円弧状の湾曲部14Cをもって取付基板12より離れる方向、つまり下方に延出し、スリーブ部材16の左側方及び右側方に位置する左右一対の側片部14Bとを有し、ナット部材20の軸線方向で見てスリーブ部材16の上部及び左右の側部を囲む溝形をしている。
【0038】
中間片部14Aは、取付基板12及び各スリーブ支持板ばね24を貫通してねじ止め板26にねじ係合した複数のボルト28により取付基板12とねじ止め板26とに挟まれるようにして取付基板12に固定され、ばね装置14の基部をなす。各側片部14Bは、各スリーブ支持板ばね24及び各側片部14Bの両面に側片部14Bを挟むように配置された各2枚のスペーサ板30を貫通してスリーブ部材16の側部平坦面(外周面)16Eにねじ係合した複数のボルト32によりスペーサ板30を挟んでスリーブ部材16に固定された遊端部をなす。
【0039】
これにより、ばね装置14によるスリーブ部材16の支持が確実なものになると共に、ばね装置14は、スリーブ部材16及びナット部材20の軸線方向と同方向の剛性が、スリーブ部材16及びナット部材20の軸線周り方向(ねじ軸22の回転方向)と同方向の剛性より高くなる。ばね装置14のこれらの剛性及びばね特性は、スリーブ支持板ばね24の枚数によって容易に適正値に設定することができる。
【0040】
この構成により、ばね装置14は、スリーブ部材16を介して取付基板12に対するナット部材20を軸線周り方向の回転変位を許容して取付基板12に対するナット部材20の軸線方向の変位を拘束してスリーブ部材16及びナット部材20を取付基板12からフローティング支持する。
【0041】
ばね装置14の軸線方向の寸法(長さ)は側片部14Bの上下方向の寸法より十分に長く、側片部14Bがスリーブ部材16及びナット部材20の軸線方向と同方向に整合して長く延在し、側片部14Bが同方向と平行な側部平坦面16Eに固定されているので、ばね装置14によって支持されているスリーブ部材16及びスリーブ部材16に保持されているナット部材20のねじ軸22に対する真直性が高く保証される。
【0042】
取付基板12の軸線方向の他方の側の下面には複数のボルト34によって長方体形状の固定部材36が固定されている。固定部材36はナット部材20と同軸方向にねじ軸22が遊嵌合状態で貫通する貫通孔36Aを含む。つまり、貫通孔36Aの内径はねじ軸22の外径より十分に大きい。
【0043】
固定部材36とスリーブ部材16との間に撓み継手38が設けられている。撓み継手38は、中間ブロック40と、中間ブロック40の一方の端面40Aと当該端面40Aに対向するスリーブ部材16の端面16Cとの間に設けられてボルト46によって両端面40A、16Cに連結された複数の板ばねによるスリーブ側板ばね42と、中間ブロック40の他方の端面40Bと当該端面40Bに対向する固定部材36の端面36Bとの間に設けられてボルト48によって両端面40B、36Bに連結された複数の板ばねによる固定側板ばね44とを有する。これにより、撓み継手38は、スリーブ側板ばね42がスリーブ部材16との連結部である第1端部をなし、固定側板ばね44が固定部材36との連結部である第2端部をなし、スリーブ部材16を回転拘束状態で固定部材36に接続する。中間ブロック40、スリーブ側板ばね42及び固定側板ばね44には、スリーブ部材16及びナット部材20と同軸方向にねじ軸22が遊嵌合状態で貫通する貫通孔50が形成されている。つまり、貫通孔50の内径はねじ軸22の外径より十分に大きい。
【0044】
撓み継手38は、取付基板12及び固定部材36に対するスリーブ部材16及びナット部材20の心ずれを許容するが、取付基板12及び固定部材36に対するスリーブ部材16及びナット部材20の軸線周り方向(ねじ軸22の回転方向)の変位を拘束する。
【0045】
上述のナット支持装置10によれば、ねじ軸22の回転によってナット部材20を回転させようとする力は撓み継手38によって受け止められ、ナット部材20を軸線方向に移動させようとする力はばね装置14によって受け止められる。
【0046】
取付基板12及び固定部材36に対してスリーブ部材16及びナット部材20が心ずれを生じても、ばね装置14は軸線方向に高い剛性を有しているから、ばね装置14によって取付基板12から支持されているスリーブ部材16及びナット部材20が取付基板12に対して軸線方向に変位することが抑制される。
【0047】
これにより、心ずれに起因する軸線方向の偏差が抑制され、スリーブ部材16に保持されたナット部材20の軸線方向の位置精度及び再現性が低下することが抑制され、ナット部材20が位置精度よくフローティング状態で支持される。この支持により、ナット部材20及びねじ軸22による工作機械用送りねじ装置9の軸線方向の位置精度及び再現性が低下すること抑制され、高い位置精度による軸送り動作が行われるようになる。これに伴い平面研削盤1では、ワークテーブル4が高い位置精度をもって移動し、研削精度が向上する。
【0048】
スリーブ支持板ばね24の一対の平板状の側片部14Bはスリーブ部材16の側部平坦面16Eに複数のボルト32によって固定されるから、スリーブ部材16とスリーブ支持板ばね24との接続が高い強度をもって行われる。このことにより、スリーブ部材16が軸線方向に変位することが抑制され、スリーブ部材16に保持されたナット部材20の軸線方向の位置精度が、ナット部材20に対して取り付けのための加工を施すことなく向上する。
【0049】
取付基板12に対する回転変位を許容するスリーブ部材16の支持が、板ばね、特に、互いに重ね合わされた複数のスリーブ支持板ばね24の集合体によるばね装置14によって行われることにより、ばね変形による振動の抑制効果が得られ、動作時の騒音が低減する。また、ばね装置14が複数のスリーブ支持板ばね24の集合体によって構成されていることにより、スリーブ支持板ばね24の溝形の折曲加工が容易になる。
【0050】
スリーブ部材16及び固定部材36が各々撓み継手38の軸端接続部材をなすから、換言すると、スリーブ部材16及び固定部材36が撓み継手38の軸端接続部材を兼ねているから、撓み継手38において軸端接続部材を別途設ける必要がなくなり、部品点数の削減のもとに撓み継手38の構成が簡素化される。
【0051】
上述したように、取付基板12に対してナット部材20がフローティング支持されていると、上述の心ずれが許容されることから、ナット支持装置10の各構成部品に要求される加工精度及び組付精度が低くてもよくなる。また、組み付けの際の調整も容易に行われ得るようになる。これらのことにより、生産性が向上し、コストダウンが可能になる。
【0052】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0053】
例えば、ばね装置14は、1枚のスリーブ支持板ばね24によって構成されたものであってもよく、ナット部材20の軸線方向と同方向の剛性がナット部材20の軸線周り方向と同方向の剛性より高い特性を有するものであれば、板ばねに限られることもない。撓み継手38は、板ばねを含むものに限られることはなく、金属ベローズ等によるものであってもよい。ナット部材20を保持する部品は、スリーブ部材16に限られることはなく、ナット収納孔を形成されたブロック部材等であってもよい。
【0054】
本実施形態による工作機械用送りねじ装置9は、平面研削盤1以外の各種の工作機械の軸送り機構にも適用することができる。
【0055】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、当業者は本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 :平面研削盤
2 :ベッド
3 :リニアガイドレール
4 :ワークテーブル
5 :主軸
6 :砥石車
7 :ブラケット
8 :電動モータ
9 :工作機械用送りねじ装置
10 :ナット支持装置
12 :取付基板
14 :ばね装置
14A :中間片部(基部)
14B :側片部(遊端部)
14C :湾曲部
16 :スリーブ部材(ナット保持部材)
16A :端面
16B :ナット収納孔
16C :端面
16D :上部平坦面
16E :側部平坦面(外周面)
18 :ボルト
20 :ナット部材
20A :本体部
20B :フランジ部
20C :フランジ面
22 :ねじ軸
24 :スリーブ支持板ばね
26 :ねじ止め板
28 :ボルト
30 :スペーサ板
32 :ボルト
34 :ボルト
36 :固定部材
36A :貫通孔
36B :端面
38 :撓み継手
40 :中間ブロック
40A :端面
40B :端面
42 :スリーブ側板ばね(第1端部)
44 :固定側板ばね(第2端部)
46 :ボルト
48 :ボルト
50 :貫通孔
W :被研削物
【要約】
【課題】ナット支持装置において、ナット部材を位置精度よくフローティング状態で支持することである。
【解決手段】取付基板12と、ナット部材20を保持するナット保持部材16と、取付基板12に固定された基部14A及びナット保持部材16に固定された遊端部14Bを含み、ナット部材20の軸線方向と同方向の剛性がナット部材20の軸線周り方向と同方向の剛性より高いばね装置14と、取付基板12に固定された固定部材36と、ナット部材20の軸線方向と同方向にねじ軸22が貫通する貫通孔50と前記ナット保持部材16に連結された第1端部42及び前記固定部材36に連結された第2端部44とを含み、ナット保持部材16を前記固定部材36に対して回転拘束状態で前記固定部材36に接続する撓み継手38とを有する。
【選択図】
図1