【実施例】
【0061】
以下、実験例において、本発明及びその効果を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例や実験例に限定されるものではない。
【0062】
実験例1
津田かぶから単離した乳酸菌(
Lactobacillus brevis)の中に、肝臓の中性脂肪を低減する作用を有する乳酸菌が存在することを見出し、当該乳酸菌を単離した。
【0063】
(1)乳酸菌(
Lactobacillus brevis)の分離同定
津田かぶ(英名/Turnip・Brassica rapa)の根(生)を破砕し、当該破砕物の水抽出液を、炭酸カルシウムを含む乳酸菌培養用の平板培地(MRS)に塗沫した。これを好気条件で37℃、48時間培養し、ハローを形成した白色コロニーを、グラム染色にて検鏡し、グラム陽性及び桿菌であることを確認した。さらに、カタラーゼ活性(陰性)、発酵形式(ヘテロ)、15℃生育性(+)、各種糖からの酸生成の有無(フルクトース発酵:+、リボース発酵:+、マンノース発酵:−)、及び糖資化性(前述する表1参照)の試験結果をバージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)に照らし、また16S rRNA遺伝子による相同性検索の結果から、津田かぶから単離した菌を、
Lactobacillus brevisに属する乳酸菌と同定した。
【0064】
(2)肝臓の中性脂肪低減作用の確認試験
(1)で単離した乳酸菌を被験動物に摂取させて、病理組織学検査、並びに肝臓1gあたりの中性脂肪量を測定し、肝臓の中性脂肪を低減させる作用を有する乳酸菌を取得した。
【0065】
(i)試験動物
試験動物として、日本クレア株式会社から入手したラット/Jcl:SD/雄性4週齢を用いた。1週間の予備飼育をし、一般状態に異常がないラットを本試験(各群11匹)に用いた。飼育条件は、温度20〜26℃、相対湿度30〜80%、照明時間12時間(午前8時点灯、午後8時消灯)、FRPラットブラケットケージに個別収容、飼料は予備飼育中はマウス・ラット・ハムスター用飼料(CRF-1;オリエンタル酵母工業株式会社)を自由摂取させた。飲料は水道水を自由摂取させた。
【0066】
(ii)試験用乳酸菌の調製
(1)で得られた乳酸菌(
L.
brevis)を、MRS液体培地を用いて37℃で50rpm、振とう培養を行った後、滅菌水で洗浄後、凍結乾燥(アルバック社製)を行い、試験まで冷暗所に設置したデシケーター内で保存した。
【0067】
(iii)試験方法及びその結果
a)試験動物群の設定
試験動物を(1)乳酸菌投与群(乳酸菌+高コレステロール食投与群)、(2)対照群(高コレステロール食投与群)、及び(3)標準群(基礎飼料投与群)の3群(各群11匹)にわけ、(1)乳酸菌投与群には、5%(dry wt/wt)の乳酸菌とコレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)、(2)対照群にはコレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)のみ、及び(3)標準群には基礎飼料のみを、それぞれ14日間自由摂取させた。
【0068】
b)病理組織学的検査
上記各被験動物から、自由摂取後14日目に肝臓(外側左葉)を摘出し、その一部を切り出して、10%中性緩衝ホルマリン溶液中で固定した。固定した肝臓は、パラフィンブロックを作成し、ミクロトームを用いて薄切りした。薄切片にヘマトキシリン・エオジン染色(H・E染色)を施し、光学顕微鏡で観察した。その結果、肝臓の脂肪滴様小胞体を減少させる作用を有する乳酸菌が存在することを確認した。そして、これを肝臓脂肪低減作用のある乳酸菌として取得し、Lactobacillus brevis 119-2(L. brevis 119-2)と命名した。なお、乳酸菌の肝臓の脂肪滴様小胞体を減少させる作用は、脂肪滴様小胞体の数や大きさが、対照群のそれらと対比して、有意に減少していることを基準として判断した。
【0069】
当該乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を摂取させた(1)乳酸菌投与群、並びに(2)対照群、及び(3)標準群の各群の肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色による顕微鏡観察結果を
図1に示す。これからわかるように、対照群と比較して、乳酸菌投与群において明らかな脂肪滴様小胞体の数と大きさが減少しているのが認められた。
【0070】
c)肝臓脂質検査
(1)上記乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群、及び(2)対照群の被験動物から肝臓(外側左葉)を摘出し、脂質抽出を行った。肝臓中の脂質抽出は、Folchらの方法(非特許文献9)を参考にし、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業製)(GPD/DAOS法)を用いて、肝臓1g当たりの中性脂肪量を算出した。その結果、(1)乳酸菌投与群の肝臓1g当たりの中性脂肪量は、50.10±16.04 mgであり、(2)対照群の53.94±17.34 mgよりも減少していることが確認された。この結果から、肝臓脂質検査からも、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)に、肝臓の中性脂肪を減少させる作用があることが確認された。
【0071】
実験例2 γ−アミノ酪酸(GABA)生産性の確認
実験例1で津田かぶから単離してきた乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を、5%濃度になるようにグルタミン酸ナトリウムを添加したMRS液体培地(Becton, Dickinson and Company。以下、同じ。)に接種して、初発pH5.5、30℃にて7日間培養した。得られた培養物の上清(培養後の培地)と比較対照用の培地(培養前の培地)を、それぞれアミノ酸分析にかけ、NBD―F(7-Fluoro-4-nitrobenzo-2,1,3-oxadiazole)法により、各培地中のγ−アミノ酪酸(GABA)とグルタミン酸の量を測定した。
【0072】
結果を
図2に示す。(A)は、アミノ酸分析のHPLCクロマトグラムを、また(B)は、培養培地中のγ−アミノ酪酸(GABA)とグルタミン酸の量の推移を、培養時間とともに示す。この結果からわかるように、実験例1で単離した乳酸菌(L. brevis 119-2)は、培地中のグルタミン酸を消費してγ−アミノ酪酸(GABA)を産生すること、つまり乳酸菌(L. brevis 119-2)にはγ−アミノ酪酸(GABA)生産作用があることが確認された。
【0073】
実験例3 コレステロール低下作用
(1)培養培地中でのコレステロール低下作用
実験例1で津田かぶから単離してきた乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を、MRS液体培地で、37℃で24時間,50rpmで振とう培養し、これを3回繰り返した後、培地を除き、10倍希釈菌液の吸光度がOD
650=0.15になるように生理食塩水で調整した。これを、最終濃度1%(v/v)になるように、10mg/ml コレステロールエタノール溶液を最終濃度70μg/ml添加した0.2%タウロコール酸含有MRS-THIOに植菌し、嫌気条件下、37℃で24時間、50rpmで振とう培養した(ガスパックシステム;BBL製,アネロパック;三菱ガス化学製)。培養後、4℃で10分間、5400rpm遠心分離し、上清に含まれるコレステロールをヘキサンで抽出した後、ヘキサンを乾固した。これに、0.2% OPA酢酸液と硫酸を加え、波長550nmにおける吸光度を測定し、既知濃度の標準コレステロールから作成した検量線に基づいて培養培地中のコレステロール濃度を求めた。
【0074】
結果を、乳酸菌無添加区(コントロール)の培養培地中のコレステロール量とともに、
図3に示す。
図3からわかるように、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)には、培養培地中のコレステロール量を低下させる作用が有意にあることが確認された(有意水準5%で有意差ありと判断)。
【0075】
(2)血液及び肝臓中のコレステロール低下作用
(i)血液中のコレステロール低下作用
実験例1(2)(iii)c)において、(1)乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群(n=11)、及び(2)対照群(n=11)の被験動物について各飼料自由摂取から14日目に、18〜23時間絶食させた後に、セボフルラン(セボフレン;丸石製薬株式会社)吸入麻酔下で、腹部大動脈からヘパリンナトリウム化血液を得、遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)して血漿を得た。得られた血漿を用いて、総コレステロール(TCHO)(GOD/POD法)、HDLコレステロール(HDLC)(デキストラン硫酸Mg沈殿法・GOD/POD法)、及びLDLコレステロール(LDLC)(TCHO及びHDLCから算出)を測定した。
【0076】
結果を下記表に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
この結果から、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)に、肝臓の中性脂肪のみならず、総コレステロール量を減少させる作用があることが確認された。
【0079】
(ii)肝臓中のコレステロール低下作用
実験例1(2)(iii)c)において、(1)乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群(n=11)、及び(2)対照群(n=11)の被験動物から、それぞれ摘出した肝臓(外側左葉)に含まれる総コレステロール量を測定した。総コレステロール量の測定は、コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業製)(コレステロールオキシダーゼ・DAOS法)を用いて、肝臓1g当たりの総コレステロール量(mg)を算出した。その結果、(1)乳酸菌投与群の肝臓1g当たりの総コレステロール量は、50.14±12.53 mg(平均値±標準偏差)であり、(2)対照群の62.51±12.92 mg(平均値±標準偏差)よりも有意に減少していることが確認された(p<0.05)。
【0080】
この結果から、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)には、肝臓の中性脂肪のみならず、総コレステロール量を減少させる作用があることが確認された。
【0081】
実験例4 コレステロール低下作用の評価
L.
acidophilus、
L.
plantrum、
L.
reuteriなどの乳酸菌のコレステロール低下効果は、胆汁酸脱抱合作用によることが報告されている(非特許文献10〜12)。つまり乳酸菌が生成する酵素により乳化作用を有する胆汁酸が分解され、溶解度が低下したコレステロールが体外へ排泄されることで体内のコレステロール値が低下する。また、KimotoらはLc. Lactis(生菌)は、コレステロールを菌体の膜に取り込むことで菌体とともに体外へ排泄し、死菌体ではその活性が有意に低下することを報告している(非特許文献13)。
【0082】
そこで、実験例1で分離した乳酸菌(
L.
brevis 119-2)のコレステロール低下作用のメカニズムを検討するために、胆汁酸脱抱合作用、生菌体および死菌体のコレステロール低下効果、培養培地中のコレステロールの量論的変化および菌体表面の顕微鏡観察を行った。
【0083】
(1)胆汁酸脱抱合作用の評価
乳酸菌(
L.
brevis 119-2)の胆汁酸脱抱合作用を、非特許文献14に記載する方法に準じて評価した。なお、試験菌として、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)に加えて、胆汁酸脱抱合作用に基づくコレステロール低下作用が知られている
L.
acidophilus ATCC43121、及び
L.
plantrum NRIC1918を用いた。
【0084】
具体的には、試験菌を、まずMRS液体培地で37℃で24時間、振とう培養(50rpm)し、これを3回繰り返して安定化した。次いで、培地を除き、菌体を滅菌水で洗浄した後、10倍希釈菌液が吸光度OD
650=0.15になるように再度滅菌水に懸濁し、0.2%タウロコール酸含有MRS-THIO(0.2% Sodium Thioglycolate)培地に1%(v/v)添加した。次いで37℃で24時間培養し、得られた培養液を1N NaOHでpH7.0に調整した後一定量にし、遠心分離(3000 rpm×10分)して菌体を除去した。次いで、菌体除去後の培養培地に5N塩酸を添加してpH1.0に調整した後、一定量にした。
【0085】
これから適量を採取し、3倍量の酢酸エチルを加えて溶解しているコール酸を回収した。具体的には、添加した酢酸エチルを窒素ガス気流下、60℃で乾固し、0.05N NaOHでコール酸を溶解し、16N硫酸、1%フルフラールを加えて65℃で13分間反応させた。酢酸を加え、吸光度(OD
660)を測定した。検量線からコール酸濃度を測定した。
【0086】
各乳酸菌の胆汁酸脱抱合作用の結果を
図4に示す。
図4(A)は、菌体除去後の培養培地をHPLCに供して、添加したタウロコール酸ナトリウムの残量を測定したクロマトグラムを示す。
図4(B)は、菌体除去後の培養培地に含まれるコール酸濃度を測定した結果を示す。ちなみに、コール酸はタウロコール酸ナトリウムの分解物である。なお、図中、コントロールは試験菌無添加の培養培地の結果である。
【0087】
(A)に示すように、タウロコール酸の減少が認められた
L. plantrum NRIC1918、
L.
acidophilusATCC43121と異なり、
L.
brevis 119-2は、コントロールと同様に、タウロコール酸ナトリウムのピークが検出され、タウロコール酸の減少は認められなかった。この結果に対応して、(B)に示すように、タウロコール酸Naの分解物であるコール酸は、
L.
brevis 119-2では殆ど検出されず、
L.
plantrum RIC1918、及び
L.
acidophilusATCC43121にのみ特有に検出された。また検出されたコール酸は両菌株とも3.4 μmol/mlであり、添加したタウロコール酸ナトリウム3.7 μmol/mlのほぼ全量がコール酸に分解された。
【0088】
この結果から、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)のコレステロール低下作用は、
L.
acidophilus、
L.
plantrum、及び
L.
reuteriなどの乳酸菌のコレステロール低下作用と異なり、胆汁酸脱抱合作用によるものではないことが確認された。
【0089】
(2)生菌体および死菌体のコレステロール低下作用の評価
試験菌として、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)に加えて、
L.
acidophilus ATCC43121、及び
L.
plantrum NRIC1918を用いて、生体菌および死菌体のコレステロール低下作用を評価した。
【0090】
MRS液体培地で2回前培養を行った試験菌から培地を除き、これに、10倍希釈液が吸光度(OD
650)0.15になるように滅菌水に懸濁し、これを新たなMRS液体培地に1%(v/v)の割合で添加した。これを37℃で24時間培養した後、120℃で20分間オートクレーブ処理をした。培地を除き、同量の0.2%タウロコール酸Na含有MRS-THIOに懸濁し、これを「死菌体区」とした。上記と同様に、前培養した試験菌を滅菌水に懸濁し、0.2%タウロコール酸Na含有MRS-THIOに1%(v/v)の割合で添加し、これを「生菌体区」とした。
【0091】
両試験区を37℃で24時間嫌気条件下で振とう(10rpm)培養した。培養後、4℃で10分間、5400 rpm(2800×g)遠心分離し、得られた培地中のコレステロールをヘキサンで抽出した後、ヘキサンを乾固し、0.2%OPA酢酸液と硫酸で発色した。吸光度550nmを測定し、標準品の検量線から培養培地中のコレステロール濃度を求めた。
【0092】
結果を
図5に示す。図中、コントロールは乳酸菌無添加の培養培地の結果である。
【0093】
図5からわかるように、コントロールに対して、生菌体にはいずれも有意にコレステロール低下作用が認められたが、死菌体では、
L.
plantrumを除き、コレステロール低下作用は認められなかった。なお、
L.
plantrum は、有意差は認められたものの、生菌体に比べると、そのコレステロール低下作用はわずかだった。
【0094】
このことから、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)のコレステロール低下作用は、生体菌に特有に認められる作用であることが確認された。
【0095】
(3)培養培地中のコレステロールの経時変化および菌体表面の顕微鏡観察
乳酸菌(
L.
brevis119-2)に関して、生菌体の培養過程における菌体及び培地中のコレステロールの量を測定した。
【0096】
なお、菌体中のコレステロールは、培地を除いた菌体に同量の蒸留水を加え、上記と同様にヘキサンにて抽出した後、GC/MSにて測定をした。GC/MSによるコレステロールの検出は、移動相He 1.2ml/min、スプリットレスの条件で、GC/MS(GCQ Thermo Fisher scientific)を用いて行った。また、コレステロールの定量には、内部標準物質として5αcholestanを用いて行った。
【0097】
結果を
図6に示す。これからわかるように、培地(medium)中のコレステロールは培養6時間目から減少し、培養24時間で培養前の20%以下になり、その後安定した。菌体(cell)中のコレステロールは、培養6時間目から増加し、27時間まで経時的に増加傾向だった。遠心分離時の遠心管から回収された沈殿物(precipitation)中から、コレステロールがわずかに検出された。沈殿物は6時間及び9時間に比べて、24時間で増加傾向だった。コレステロール総量には経時的な異同はほとんどなく、培地中のコレステロールが経時的に菌体に移行する傾向が認められた。
【0098】
コレステロール含有培地で培養した後、Filipin IIIで染色した乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を蛍光観察した写真画像を
図7(a)及び(c)に示す。これからわかるように、乳酸菌(L. brevis 119-2)は、菌体中に蛍光が観察され、コレステロールが菌体中に取り込まれることが確認された。また、蛍光は菌体全体に偏在していることが観察された。一方、津田かぶ由来の
L.
brevisでも、コレステロール低下作用を示さなかった菌体(
L.
brevis 119-6)では蛍光が観察されなかった(
図7(b))。
【0099】
以上の結果から、乳酸菌(生菌)(
L.
brevis 119-2)のコレステロール低下作用のメカニズムは、
Lc.
Lactis(生菌)と類似しており、コレステロールを菌体内に取り込むことによるものであり、菌体内に取り込まれたコレステロールは菌体とともに体外へ排泄されることで、体内のコレステロール量が低下するものと考えられる。
【0100】
実験例4 プロバイオテクスの評価
プロバイオテクス菌は生きて腸まで届き、宿主に対し良好な働きをすることと定義されている。そこで、プロバイオテクスであるためには、経口摂取した乳酸菌が消化液に対して耐性であり、また腸管にて一定期間滞留する必要がある。
【0101】
そこで、上記実験例2で単離した乳酸菌(
L.
brevis 119-2)が、プロバイオテクス菌であることを確認するために、消化液耐性試験(非特許文献2参照)、および腸管上皮細胞への付着性試験(非特許文献15参照)を行った。
【0102】
(1)消化液耐性試験
消化液耐性試験として、非特許文献2に記載する方法に準じて、人工胃液と人工胆汁液に対する耐性試験を行った。
【0103】
具体的には、まず乳酸菌(
L. brevis 119-2)を、MRS液体培地で37℃、4時間培養し、3回継代を繰り返した。人工胃液耐性試験は、pHを3.0、2.5、及び2.0にそれぞれ調整した0.32% ペプシン(110 units/100ml)含有MRS液体培地で、上記乳酸菌(
L.
brevis 119-2)を37℃で4時間培養し、その後の生菌数をMRS寒天培地を用いて測定した。人工胆汁液耐性試験は、0.13、0.25、0.5または1.0%胆汁末(Oxygall Difco社製)を含有するMRS液体培地で、37℃で16時間培養し、培養後の培地の吸光度(OD
650)を測定した。なお、人工胃液耐性および人工胆汁末耐性は、
Lactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103)をコントロール菌として評価を行った。
【0104】
人工胃液耐性試験の結果を、
図8(A)に示す。空腹時の胃液に相当するpH2.0条件下では、コントロール菌ともに培養時間1時間以内で10
4 /ml以下になったが、食事中及び食後のpHに相当するpH2.5及び3.0では、いずれも培養時間4時間後でも、コントロール菌と同程度の生菌数を示し、人工胃液耐性を示した。
【0105】
人工胆汁末耐性試験の結果を、
図8(B)に示す。コントロール菌は、胆汁末の濃度に依存して生育が阻害されたが、乳酸菌(
L.
brevis 119-2)は、逆に胆汁末の濃度に依存して生育が促進される傾向が認められた。
【0106】
(2)腸管上皮細胞への付着性試験
腸管上皮細胞への付着性試験を、非特許文献15に記載する方法に準じて行った。
【0107】
具体的には、まず腸管上皮細胞(CaCo-2細胞)を1.25×10
5/mlの濃度で24穴プレートのウエルに1mL播種し、コンフルエント後15日間培養した。この腸管上皮細胞含有ウエルに、試験菌(1.5×10
10/ml)を予め抗生物質不含培地で100倍に希釈したものを1mL加え、37℃で5%炭酸ガス雰囲気下で1時間培養し、細胞に付着させた。なお、試験菌として、乳酸菌(L. brevis 119-2)、及び
Lactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103)(コントロール菌)に加えて、腸管上皮細胞への付着性が低いとされる
Lactobacillus lactis NBRC12007をネガティブコントロール菌として使用した。
【0108】
培養後、培地上清を除き、PBSで洗浄した後、試験菌から0.05% Trypsin−EDTA溶液で細胞をはがして、MRS寒天培地で菌数を測定した。また、同様に、チャンバースライド(2well、ナルゲン社製)を用いて腸管上皮細胞(Caco-2細胞)を培養して試験菌付着処理を行った後、メタノールで固定しグラム染色(クリスタルバイオレット)処理した後、顕微鏡観察をした。
【0109】
顕微鏡観察画像を
図9(A)に、腸管上皮細胞への付着菌数を
図9(B)に示す。なお、付着菌数は、細胞培養ウエル面積当たりの菌数で表示する。(A)において、(a), (b),及び(c)はそれぞれ乳酸菌(
L.
brevis119-2)、
L.
rhamnosus GG菌(コントロール菌)、及び
Lc.
lactis NBRC12007(ネガティブコントロール菌)の腸管上皮細胞への付着を示す。(A)に示すように、顕微鏡下で、(a)乳酸菌(
L.
brevis119-2)と(b)
L.
rhamnosusGGにおいて細胞表面に菌体の付着が観察された(図中、矢印)のに対して、ネガティブコントロール菌である(c)
Lc.lactis NBRC12007では、細胞への付着は観察されなかった。(B)において、顕微鏡観察と同様に、
Lc.
lactis NBRC12007(ネガティブコントロール菌)の付着菌数は10
2 cfu/wellとわずかであったのに対して、乳酸菌(L. brevis 119-2)は、
L.
rhamnosus GG菌(コントロール菌)と同程度の10
6cfu/wellもの多くの菌数が検出された。
【0110】
このことから乳酸菌(
L.
brevis 119-2)には、腸管上皮細胞(Caco-2細胞)に対して高い付着性があること確認された。
【0111】
上記(1)と(2)の結果から、本発明の分離乳酸菌(
L.
brevis 119-2)は、生きた状態で腸まで届き、また腸管上皮細胞に付着して腸管にて一定期間滞留する可能性が高く、このことからプロバイオテクス菌として有用であると考えられる。