特許第6381869号(P6381869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381869肝臓中性脂肪低減作用を有する津田かぶ由来の乳酸菌
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381869
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】肝臓中性脂肪低減作用を有する津田かぶ由来の乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20180820BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20180820BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20180820BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180820BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20180820BHJP
   C12R 1/24 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   A61K35/74 A
   A61K35/747
   A61P3/06
   A61P9/12
   A23L33/135
   C12R1:24
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-32626(P2013-32626)
(22)【出願日】2013年2月21日
(65)【公開番号】特開2014-132890(P2014-132890A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-271179(P2012-271179)
(32)【優先日】2012年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名:島根県産業技術センター研究成果発表会、主催者名:島根県産業技術センター、開催日:平成24年6月12日、で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名:島根県産業技術センター研究成果発表会、主催者名:島根県産業技術センター、開催日:平成24年6月12日、で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:株式会社山陰中央新報社、刊行物名:山陰経済ウイークリー 2012.8.1、発行年月日:平成24年8月1日、で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者名:日本食品科学工学会、刊行物名:第59回大会プログラム 社団法人日本食品科学工学会、発行年月日:平成24年7月4日、(2)発行者名:日本食品科学工学会、刊行物名:日本食品科学工学会 第59回大会講演集、発行年月日:平成24年8月29日、(3)研究集会名:日本食品科学工学会 第59回大会、主催者名:日本食品科学工学会、開催日:平成24年8月30日、で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日:平成24年9月24日、掲載アドレス:<https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120924/163352/>、で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)放送番組名:NHK総合 おはよう中国「リポート・かぶから発見の乳酸菌に期待〜島根」、放送日:平成24年12月1日、(2)放送番組名:NHK総合 NHKニュースおはよう日本、放送日:平成24年12月6日、(3)放送番組名:NHK総合 「地域を創る 津田かぶの“乳酸菌”で特産品を」、放送日:平成24年12月8日、で公開
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1518
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 忍
(72)【発明者】
【氏名】勝部 拓矢
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/090961(WO,A1)
【文献】 特開2012−036158(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/023665(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/023663(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/155518(WO,A1)
【文献】 特開2008−214253(JP,A)
【文献】 特開2009−102270(JP,A)
【文献】 特開2011−201801(JP,A)
【文献】 特開2008−024680(JP,A)
【文献】 特開2005−013146(JP,A)
【文献】 特開2008−150350(JP,A)
【文献】 特開2006−314207(JP,A)
【文献】 特開2000−210075(JP,A)
【文献】 特開2011−193820(JP,A)
【文献】 Materials Integration,2012年 8月20日,Vol.25, No.8,9,p.56-63
【文献】 島根県産業技術センター研究報告,2014年,Vol.50,p.1-8
【文献】 有機合成化学協会誌,1998年,56(9),781
【文献】 心身健康科学,2010年,6(1),6-12
【文献】 第3回研究プロジェクト情報交換会の開催,2016年11月29日,http://www.proken.shimane-u.ac.jp/event/11.12.27projekt-jouhoukoukan%20.pdf、公開:2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/00
A23L 31/00−33/00
A61K 35/00−36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌体にコレステロールを取り込む作用を有する、津田かぶ由来のラクトバチルス・ブレビス乳酸菌Lactobacillus brevis 119-2(受託番号:NITE P-1518)またはその培養物。
【請求項2】
生体内での肝臓中性脂肪低減作用、
グルタミン酸の存在下でのγ−アミノ酪酸生産作用、及び
肝臓及び血液中の総コレステロール量を低下させる作用
を有する、請求項1に記載の津田かぶ由来の乳酸菌またはその培養物。
【請求項3】
血液中のLDLコレステロール量を低下させ、HDLコレステロール量を増加させる作用を有する請求項1または2に記載する津田かぶ由来の乳酸菌またはその培養物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかに記載する乳酸菌またはその培養物を生菌の状態で含む経口組成物(但し、津田かぶ及びその食品加工物を除く。)。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載する乳酸菌またはその培養物を生菌の状態で含有する、肝臓中性脂肪低減または肝臓中性脂肪蓄積予防の用途に用いられる経口組成物。
【請求項6】
さらにコレステロール低下及び血圧上昇抑制の用途に用いられる請求項に記載する経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓中性脂肪を低減する作用を有する乳酸菌、並びに当該乳酸菌またはその発酵物を含有する経口組成物、特に肝臓中性脂肪を低減する作用を有する飲食組成物または医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質代謝異常を原因とするメタボリック症候群は内蔵脂肪型肥満に高血圧症、高血糖症、及び高脂血症のうち、2つ以上が合併した症状であり、様々な予防対策が検討されているものの、未だ解決には至っていない。近年は、食事により症状を未然に防ぐ予防的な考えが中心になりつつあり(非特許文献1)、整腸作用(非特許文献2)、免疫賦活作用(非特許文献3)、また、脂質代謝関連として血中コレステロール低下作用(非特許文献4)や脂質代謝改善効果(非特許文献5)などの報告がある、乳酸菌のプロバイオテクスが注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「医療制度改革大綱」平成17年12月1日 政府・与党医療改革協議会
【非特許文献2】東幸雅, 伊藤和徳, 大木篤史, 井上明浩, 井上和久, 佐藤学, 辧野善巳,Lactobacillus gasseri NY0509およびLactobacillus casei NY1301発酵乳飲料の健常成人の糞便内菌叢に及ぼす影響, 食科工誌48, (2001), 35
【非特許文献3】M. Kimura, K. Danno, H. Yasui, Immunomodulatory Function and Probiotic Properties of Lactic acid Bacteria Isolation from Mongolian fermented Milk, Bioscience Microflora, 25, (2006), 147-155
【非特許文献4】R. M. Pigeon, E. P. Cuesta, S. E. Gilliland, Binding of Free Bile acids by Cells of Yogurt Starter Culture Bacteria J. Dairy Sci., 85 (2002), 2705-2710
【非特許文献5】原田智子、田中麻貴、都築公子、菅原誠、高木尚紘、福田満、食科工, 57, (2001), 175-179
【非特許文献6】M. Kimura, K. Hayakawa, H. Sansawa, Involvement of γ-Amino butyric acid (GABA) B Receptors in the Hypotensive Effect of Systemically Administered GABA in Spontaneously Hypertensive Rats, Jpn. J. Phrarmacol., 89, (2002), 388-394
【非特許文献7】A. M. Abdou, S. Higashiguchi, K. Horie, Mujo Kim, H. Hatta, H. Yokogoshi, Relaxation and immunity enhancement effects of Aminobutyric acid (GABA) administration in humans, Bio Factors., 26, (2006), 201-208
【非特許文献8】S. Saski, C. Thoda, M. Kim, T. Yokozawa γ-Aminobutyric acid Specifically Inhibits Progression of Tubular Fibrosis and Atrophy in Nephrrectomized Rats Biol. Pharm. Bull., 30, (2007), 687-687
【非特許文献9】Folch, J., Lees, M. and Stanley, G.H.S. (1957) A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues. The journal of Biological Chemistry 226, 497-509
【非特許文献10】Frank. A. M. Klaver, Roelof van der.Meer, The Assumed Assimilation of Cholesterol by Lactobacilli and Bifidobacterium bifidum Is Due to Their Bile Salt-Deconjugating Activity, Appl. Env. Micro,59,(1993),1120-1124
【非特許文献11】T. D. Tnguyen,J. H. Kang, M. S. Lee, Characterization of Lactobacillus plantarum PH04, a potential prebiotic bacterium with cholesterol-lowering effects, Int. J. Food Microbiology, 113 (2007), 358-361
【非特許文献12】M. P. Talanto, F. Sesma, A. Pesce de Ruiz Holgado and G.F. deVal dez,Bile salts hydrolase plays a key role on cholesterol removal by Lactobacillus reuteri, Biotechology Letters, l19, (1997), 845-847
【非特許文献13】H. Kimoto, S. Ohomomo, T. Okamoto, Cholersterol Removal from Media by Lactococci, J. Dairy Sci, 85, (2002), 31382-31388.
【非特許文献14】Derek K. Walker, Stanley E. Gilliland, Relationships Among Bile Tolerance, Bile Salt Deconjugation, and Assimilation of Choresterol by Lactobacillus acidophilus, J. Dairy. Sci, 76, (1993), 956-961
【非特許文献15】Y. K. Lee, C. Y. Lim, W. L. Teng, A. C. Ouwehand, E. M. Tuomola, S. S alminen, Quantitative Approach in the study of Adhesion of Lactic Acid Bacteria to Intestinal Cells and Their Competition with Enterobacteria. Appl. Environ. Microbiol., 66, (2000), 3692-3697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、脂肪肝の原因となる肝臓の中性脂肪を低減する作用を有する乳酸菌、特に肝臓中性脂肪低減作用に加えて、γ−アミノ酪酸生産作用及びコレステロール低下作用を有し、メタボリック症候群の予防または改善に有効なプロバイオテクスとして使用できる乳酸菌を提供することを目的とする。また、本発明は当該乳酸菌またはその発酵物を含む経口組成物、例えば飲食組成物や医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、島根県松江市の特産品である津田かぶに注目し、鋭意検討していたところ、津田かぶに存在する乳酸菌のうちLactobacillus brevisに属する乳酸菌に、肝臓の中性脂肪を低減する作用があることを見出した。また、当該乳酸菌には、肝臓中性脂肪低減作用に加えて、血圧上昇抑制効果(非特許文献6)、リラックス効果(非特許文献7)、及び腎臓機能改善効果(非特許文献8)などが報告されている抑制性の神経伝達物質であるγ−アミノ酪酸(GABA)を生産する作用があること、またコレステロール低下作用があることを確認した。
【0006】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、当該津田かぶ由来の乳酸菌を、肝臓の中性脂肪を低減するための新たな機能性素材として提供するものである。また、津田かぶ由来の乳酸菌を、肝臓の中性脂肪を低減するのみならず、脂質代謝と血圧の両面からメタボリック症候群を予防し改善するための新たな機能性素材として提供するものである。また本発明は、当該乳酸菌またはその発酵物を含有する経口組成物(飲食組成物、医薬組成物)を、上記目的、つまり肝臓の中性脂肪を低減すること、また肝臓の中性脂肪を低減するのみならず、脂質代謝と血圧の両面からメタボリック症候群を予防し改善することを目的として提供するものである。
【0007】
本発明には、下記の態様が含まれる。
【0008】
(I)津田かぶ由来の乳酸菌
(I-1)生体内で肝臓中性脂肪低減作用を有する、津田かぶ由来のラクトバチルス・ブレビス乳酸菌(Lactobacillus brevis)
(I-2)生体内での肝臓中性脂肪低減作用に加えて、
グルタミン酸の存在下でのγ−アミノ酪酸生産作用及び
肝臓及び血液中の総コレステロール量を低下させる作用
を有する、(I-1)に記載の乳酸菌。
(I-3)血液中のLDLコレステロール量を低下させ、HDLコレステロール量を増加させる作用を有する(I-2)に記載する津田かぶ由来の乳酸菌(Lactobacillus brevis)。(I-4)γ−アミノ酪酸(GABA)生産作用に基づいて、γ−アミノ酪酸が有する作用を備える、(I-2)に記載の乳酸菌。
(I-5)γ−アミノ酪酸(GABA)が有する作用が、血圧上昇抑制作用、リラックス作用、及び腎臓機能改善作用からなる群から選択される少なくとも1種である、(I-4)に記載の乳酸菌。
(I-6)上記津田かぶ由来のラクトバチルス・ブレビス乳酸菌がLactobacillus brevis)が、Lactobacillus brevis 119-2(L. brevis 119-2)である、(I-1)〜(I-5)のいずれかに記載する乳酸菌。
【0009】
(II)津田かぶ由来の乳酸菌の利用
(II-1)(I-1)乃至(I-6)のいずれに記載するラクトバチルス・ブレビス乳酸菌またはその培養物を含む経口組成物(但し、津田かぶ及びその食品加工物を除く。)。
(II-2)(I-1)乃至(I-6)のいずれに記載するラクトバチルス・ブレビス乳酸菌の生菌体または当該の生菌体を含むその培養物を含有する肝臓中性脂肪低減剤、肝臓中性脂肪蓄積予防剤、またはコレステロール低下剤
(II-3)(I-1)乃至(I-6)のいずれに記載するラクトバチルス・ブレビス乳酸菌の培養物を含む経口製剤であって、当該培養物が上記乳酸菌の生菌体及びγ−アミノ酪酸を含有するものである、肝臓中性脂肪低下、血圧上昇抑制、及びコレステロール低下のための経口製剤。
(II-4)錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、及びシロップ剤からなる群から選択される製剤形態を有する飲食物、特にサプリメントである(II-3)に記載する経口製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳酸菌には肝臓中性脂肪低減作用があるため、これを継続的に経口摂取することにより、高コレステロール食を摂取することで生じる肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制し、脂肪肝を予防することが可能である。また本発明の乳酸菌は、肝臓中性脂肪低減作用に加えて、GABA生産作用に基づいて血圧上昇抑制作用を有するとともに、血中及び肝臓のコレステロールを低下する作用(総コレステロール低下作用、LDLコレステロール低下作用)をも有するため、動脈硬化や高血圧症などのリスクファクターを低減させて、これらメタボリック症候群の予防に有効に利用することができる。
【0011】
従って、本発明の乳酸菌またはその培養物は、肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制し、脂肪肝を予防するための機能性食品素材として、また動脈硬化や高血圧症などのメタボリック症候群を予防するための機能性食品素材として有効である。
【0012】
また、かかる乳酸菌またはその培養物を含む本発明の経口組成物は、肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制し、脂肪肝を予防するための機能性食品として、また動脈硬化や高血圧症などのメタボリック症候群を予防するための機能性食品として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(1)乳酸菌投与群(津田かぶ由来分離乳酸菌+高コレステロール食投与群)、(2)対照群(高コレステロール食投与群)、及び(3)標準群(基礎飼料投与群)から摘出した肝臓切片を、ヘマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡観察した画像を示す。白い球状体は脂肪滴様の小胞体を示す。
図2】津田かぶ由来分離乳酸菌(L. brevis 119-2)のγ−アミノ酪酸(GABA)生産性を示す結果を示す(実験例2)。(A)は、培養後培地の上清と比較対照培地(培養前培地)をそれぞれアミノ酸分析したHPLCクロマトグラムを示す。(B)は、培養に伴う、培養液中のγ−アミノ酪酸(GABA)とグルタミン酸の濃度(mM)を示す。
図3】津田かぶ由来分離乳酸菌(L. brevis 119-2)をコレステロール含有培地で培養した後の培地中のコレステロール濃度(μg/ml)を示す(実験例3)。乳酸菌無添加の培地のコレステロール濃度(μg/ml)をコントロール値とする。数値は平均値±標準偏差を示し、異なるシンボルは有意水準5%で有意差があることを示す。
図4L. brevis 119-2、L. acidophilus ATCC43121、及びL. plantarumNRIC1918の胆汁酸脱抱合作用を示す(実験例4(1))。(A)は、菌体除去後の培養培地をHPLCに供して、添加したタウロコール酸ナトリウム(矢印)の残量を測定したクロマトグラムを示す。(B)は、菌体除去後の培養培地に含まれるコール酸濃度を測定した結果を示す。なお、図中、コントロールは乳酸菌無添加の培養培地の結果である。図中、数値は平均値±標準偏差を、また異なるシンボルは有意水準5%で有意差があることを示す。
図5】試験菌として、L. brevis 119-2、L. plantarum NRIC1918、及びL. acidophilusATCC43121を用いて、生体菌および死菌体のコレステロール低下作用を調べた結果を示す(実験例4(2))。図中、数値は平均値±標準偏差を、また異なるシンボルは有意水準5%で有意差があることを示す。
図6】乳酸菌(L. brevis 119-2)に関して、生菌体の培養過程における菌体及び培地中のコレステロール量の経時変化を示す(実験例4(3))。
図7】津田かぶ由来分離乳酸菌(L. brevis 119-2、及びL. brevis 119-6)について、コレステロール含有培地で培養した後、Filipin IIIで染色し、蛍光観察した写真画像を示す。(a)は乳酸菌(L. brevis 119-2)の画像、(c)はその拡大図(×1000)、(b)は乳酸菌(L.brevis 119-6)の画像である。
図8】乳酸菌(L. brevis 119-2)及びコントロール菌(Lactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103))に対して行った消化液耐性試験の結果を示す。(A)は人工胃液耐性試験の結果、(B)は人工胆汁末耐性試験の結果である(実験例5(1))。
図9】乳酸菌(L. brevis 119-2)、コントロール菌(Lactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103))、ネガティブコントロール菌(Lactobacillus lactis NBRC12007)に対して行った腸管上皮細胞への付着性試験の結果を示す(実験例5(2))。(A)は腸管上皮細胞に対する菌の付着を示す顕微鏡観察画像〔(a) 乳酸菌(L. brevis 119-2)、(b) L. rhamnosus GG菌(コントロール菌)、 (c) Lc. lactis NBRC12007(ネガティブコントロール菌)〕、(B)は腸管上皮細胞への付着菌数を示す(実験例2)。付着菌数は、細胞培養ウエル面積当たりの菌数で表示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.津田かぶ由来の乳酸菌
本発明の乳酸菌は、島根県松江市の特産品である津田かぶ(英名/TurnipBrassica rapa)から単離されたラクトバチルス属(Lactobacillus)ブレビス(brevis)種に属する植物由来乳酸菌であり、その一つをLactobacillus brevis 119-2(L. brevis 119-2)と命名した。以下、本明細書において、本発明が対象とする乳酸菌を、上記L. brevis 119-2を含めて、「本発明の乳酸菌」と総称する。
【0015】
なお、本発明の乳酸菌は、津田かぶの根(生)から下記のスクリーニング方法により単離することができ、後述する特徴を備えている。本発明の乳酸菌は、L. brevis 119-2を含めて、島根県松江市北陵町1番地に所在する島根県産業技術センターにおいて分譲可能な状態で保存されている。また併せて、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に「識別の表示:Lactobacillus brevis 119-2」という名称で2013年1月23日(寄託日)付けで国内寄託されている(受託番号:NITE P-1518)。
【0016】
(1)本発明の乳酸菌の特徴
本発明の乳酸菌を、MRS寒天培地(pH6.5)上で、37℃で3日間、好気的条件で静置培養した場合の特徴は以下の通りである。
【0017】
【表1】
【0018】
以上の諸性質をバージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)に照らし、また下記配列のプライマーを用いた16S rRNA遺伝子による相同性検索の結果から、本発明の乳酸菌はLactobacillus brevisに属する菌株と同定された。
【0019】
【表2】
【0020】
なお、本発明の乳酸菌は、上記の菌学的特徴に加えて、後述するように肝臓中性脂肪低減作用を有する(実験例1参照)。さらに本発明の乳酸菌は、肝臓中性脂肪低減作用に加えて、γ−アミノ酪酸生産作用(実験例2参照)及びコレステロール低下作用(総コレステロール量の低下作用、LDLコレステロールの低下作用)(実験例3及び4)を有する。また、本発明の乳酸菌は、後述する実験例5に示すように、消化液(胃液、胆汁酸)に抵抗性があり、しかも腸管上皮細胞に対する付着性を有している。このため、本発明の乳酸菌を経口摂取すると、生きた状態で腸まで届き、腸内に一定期間滞留するため、プロバイテクス菌として有用である。
【0021】
(2)本発明の乳酸菌のスクリーニング方法
肝臓中性脂肪低減作用を有する本発明の乳酸菌は、下記(a)〜(c)のスクリーニング操作を行うことで、津田かぶから単離することができる。
(a)津田かぶ(英名/Turnip・Brassica rapa)の根(生)を破砕し、当該破砕物の水抽出液を、炭酸カルシウムを含む乳酸菌培養寒天培地(MRS)で、好気条件下、37℃で72時間培養し、周囲にハローを形成する白色コロニーを選択する。これをグラム染色にて検鏡し、乳酸菌であることを確認する。
【0022】
(b)上記で単離した乳酸菌の菌学的特徴(菌の形態、グラク染色、運動性、胞子、カタラーゼ活性、酸素に対する態度、生育温度、生育pH、乳酸発酵形式、旋光性、糖資化性)を試験し、またrRNA遺伝子による相同性検索を行い、前述する表1に記載する特徴を備えているLactobacillus brevisに属する乳酸菌を選択する。
【0023】
(c)上記で得られたL. brevisに属する乳酸菌を、人以外の被験動物(例えば、マウス)(被験群)に、コレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)とともに経口的に摂取させる。例えば2週間以上摂取させた後に、肝臓を摘出し、比較対照群(乳酸菌を投与することなく、高コレステロール食を摂取させた被験動物)の肝臓と下記(i)及び/又は(ii)を比較する。
(i)肝臓中の脂肪摘様小胞体の数と大きさ
(ii)肝臓の中性脂肪の含有量(mg/g肝臓)
(i)と(ii)の少なくとも一方、好ましくは両方が、比較対照群よりも被験群のほうが低値であることを指標として、試験に供したL. brevisに属する乳酸菌の中から、肝臓中性脂肪低減作用を有する乳酸菌を単離する。
【0024】
さらに肝臓中性脂肪低減作用に加えて、GABA生産性及びコレステロール低下作用を併せ有する本発明の乳酸菌は、上記(a)〜(c)に加えて、下記のスクリーニング操作を行うことで、津田かぶから単離することができる。
【0025】
(d)対象の乳酸菌を、5%のグルタミン酸ナトリウムを含むMRS液体培地で培養する。培養液をアミノ酸分析に供して、オルトフタルアルデヒド法などにより、培養液中のγ−アミノ酪酸(GABA)の生成の有無を指標として、GABAを生産する乳酸菌(GABA生産性乳酸菌)を単離する。
【0026】
(e)対象の乳酸菌について、コレステロール低下作用の有無を指標として、コレステロール低下作用を有する乳酸菌を単離する。コレステロール低下作用は、コレステロールを添加した培養培地で対象の乳酸菌を培養して、培地中のコレステロール濃度の低下を指標とするインビトロ法(例えば、実験例3(1)参照)で評価してもよいし、また人以外の被験動物(例えば、マウス)(被験群)に、対象の乳酸菌をコレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)とともに経口的に摂取させ、例えば2週間以上摂取させた後に、血液または/及び肝臓中のコレステロール量(総コレステロール量)を測定し、比較対照群(乳酸菌を投与することなく、高コレステロール食を摂取させた被験動物)の同コレステロール量よりも低下していることを指標とするインビボ法(例えば、実験例3(2)参照)で評価してもよい。なお、動物を用いたインビボ法は、インビトロ法により1次スクリーニングを行い、そこで選別された乳酸菌に対して、さらに検証を行うために採用することができる。
【0027】
なお、(c)〜(e)の順番は、特に制限されず、(c)→(d)→(e)、(d)→(e)→(c)、または(e)→(d)→(c)、(e)→(c)→(d)、または(d)→(c)→(e)のいずれの方法であってもよい。
【0028】
なお、(a)〜(e)のスクリーニングステップの各操作の詳細は、後述する実験例にて記載する。
【0029】
(3)本発明の経口組成物
本発明の経口組成物は、本発明の乳酸菌を有効成分として含有することを必須の要件とする。該組成物は、通常の飲食品と同様に、適当な可食性担体(食品素材)を利用して、飲食品形態または医薬品形態に調製される。また、該組成物は、通常の医薬品と同様に、適当な製剤学的に許容される賦型剤または希釈剤を利用して、医薬品形態に調製される。
【0030】
なお、本発明の乳酸菌は、少なくとも肝臓中性脂肪低減作用を備えるものであれば、好ましくは肝臓中性脂肪低減作用に加えて、GABA生産作用及びコレステロール低下作用を備えるものであれば、特に生菌である必要はなく、通常の一般的加熱滅菌操作によって滅菌されたものであってもよい。但し、乳酸菌は、一般にヨーグルトなどとしてよく知られているように、生菌として摂取されることによって整腸作用、腸内細菌叢改善作用などによる健康維持、長寿などに効果があることが知られている。このため、本発明の乳酸菌も生菌として本発明の経口組成物に配合されるのが好ましい。
【0031】
本発明の乳酸菌は、また、例えば各乳酸菌の培養物、培養物の粗精製品乃至精製品、それらの凍結乾燥品などとして、本発明の経口組成物中に配合することも可能である。上記培養物は、例えば代表的には、本発明の乳酸菌に適した培地、例えばMRS培地などを用いて、好気条件下、37℃で48時間程度培養することにより得ることができる。また菌体は、上記培養後、培養物を例えば、3,000rpmで10分間程度遠心分離して集菌することによって得ることができる。これらは常法に従い精製することができる。更に、上記菌体は凍結乾燥することもできる。かくして得られる凍結乾燥菌体も本発明の組成物の有効成分として利用することができる。本明細書において、本発明の乳酸菌のこれらの培養物、培養物の粗精製品乃至精製品、及びそれらの凍結乾燥品を総括して「本発明の乳酸菌及びその培養物」と称する。
【0032】
本発明の経口組成物中には、必要に応じて更に、本発明の乳酸菌の維持や増殖などに適した栄養成分の適量を含有させることができる。該栄養成分の具体例としては、各微生物の培養のための培養培地に利用される例えばグルコース、澱粉、蔗糖、乳糖、デキストリン、ソルビトール、フラクトースなどの炭素源;例えば酵母エキス、ペプトンなどの窒素源;ビタミン類、ミネラル類、微量金属元素、その他の栄養成分などの各成分を挙げることができる。ビタミン類としては、例えばビタミンB、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンKなどが例示できる。微量金属元素としては、例えば亜鉛、セレンなどが例示できる。その他の栄養成分としては、例えば乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクチュロース、ラクチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの各種オリゴ糖が例示できる。これらのオリゴ糖の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、本発明の経口組成物中に1〜3 重量%程度となる量範囲から選ばれるのが好ましい。
【0033】
本発明の経口組成物の飲食品形態及び医薬品形態への調製は、常法に従うことができる。またこれら各形態への調製に当たって用いられる担体は、可食性担体乃至製剤学的に許容される賦形剤、希釈剤などの担体のいずれでもよい。医薬品形態及びその調製に利用できる製剤学的に許容される賦形剤及び希釈剤の詳細は、後記「医薬品形態組成物」の項において詳述する。また、飲食品形態への調製およびその際利用できる可食性担体の詳細は、後記「飲食品形態組成物」の項において記述する。特に飲食品形態の場合は、口当たりのよい味覚改善効果のある担体が好ましい。本発明の経口組成物中への乳酸菌の配合量は、一般には、本発明の経口組成物100g中に、菌数が108〜1011個前後となる量から適宜選択することができる。菌数の測定は、菌培養用の寒天培地に希釈した試料を塗布して37℃下で培養を行い、生育したコロニー数を計測することにより算出する。この菌数と濁度とは相関するため、予め菌数と濁度(波長650-660nmにおける吸光度)との相関を求めておくと、濁度を測定することによって上記菌数を計数することができる。上記乳酸菌の配合量は、上記量を目安として、調製される本発明の経口組成物の形態、及び目的とする作用効果(肝臓中性脂肪低減作用、または肝臓中性脂肪低減作用に加えてGABA生産作用[血圧上昇抑制作用等]及びコレステロール低下作用)などに応じて適宜変更することができる。
【0034】
なお、本発明の経口組成物は、好ましくは本発明の乳酸菌を生菌の状態で含むものである。この場合、該経口組成物を製剤化するに当たり、加熱や加圧などの乳酸菌に対して過酷な条件を採用することを避けることが好ましい。例えば、固形形態の経口組成物を調製するに当たっては、本発明の乳酸菌を凍結乾燥菌体として直接処方するか、凍結乾燥菌体を適当なコーティング剤で加工して用いることが好ましい。
【0035】
(3−1)医薬品形態組成物
本発明の経口組成物は、有効成分とする本発明の乳酸菌と共に、製剤学的に許容される適当な製剤担体を用いて、一般的な医薬製剤の形態に調製することができる。該製剤担体としては、通常、この分野で使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤あるいは賦形剤を例示することができる。これらは所望の製剤の投与単位形態に応じて適宜選択して使用される。
【0036】
上記医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が選択できる。その代表的なものとしては錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、マイクロカプセル及びカプセル剤等の固形製剤、並びに液剤、懸濁剤、シロップ及び乳剤等の液状製剤が挙げられる。
【0037】
錠剤の形態に成形する場合、上記製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウムなどの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドなどの界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤;グリセリン、デンプンなどの保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などを使用することができる。
【0038】
更に錠剤は必要に応じて、通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができる。好ましい製剤は、腸溶性錠剤または腸溶性カプセル製剤形態であり、これによれば胃酸による侵襲を受けることなく乳酸菌を腸に到達させることができる。
【0039】
丸剤の形態に成形する場合、製剤担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤;ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などが使用できる。
【0040】
更に、本発明の製剤形態を有する経口組成物には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などを含有させることもできる。
【0041】
医薬品形態の経口組成物に配合される本発明の乳酸菌の量は、当該乳酸菌の作用が発揮される量であればよく、その限りにおいて、広範囲より適宜選択することができる。通常、製剤1投与単位形態中に約107−1012個程度含有されることが好ましい。
【0042】
上記製剤の投与方法は特に制限がなく、各種製剤形態、対象患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。
【0043】
上記製剤の投与量は、その用法、対象患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などにより適宜選択されるが、通常、有効成分である本発明の乳酸菌の量は1日当り体重1kg当り約0.5−20mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1−4 回に分けてヒトに投与することができる。また、本発明の製剤は、その効果を効果的に得るためには継続して摂取(投与)されることが好ましい。例えば、連続または間歇的に2週間以上に亘って摂取(投与)する態様を例示することができる。
【0044】
本発明の医薬品形態を有する経口組成物はそれを摂取(投与)することによって、該組成物中の本発明の乳酸菌の肝臓中性脂肪低減作用に基づいて、肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制することが可能である。つまり、本発明の経口組成物は、肝臓中性脂肪低減剤若しくは肝臓中性脂肪蓄積予防剤として有効に使用することができる。
【0045】
また本発明の医薬品形態を有する経口組成物は、それを摂取(投与)することによって、該組成物中の本発明の乳酸菌の肝臓中性脂肪低減作用、並びにGABA生産作用及びコレステロール低下作用に基づいて、肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制するとともに、血圧の上昇を抑制し、また血液及び肝臓のコレステロール値を低下若しくはその上昇を抑制することが可能である。つまり、本発明の医薬品形態を有する経口組成物は、肝臓中性脂肪低減、血圧上昇抑制、及びコレステロール低下を目的(効能・効果)とする総合的な製剤として有効に使用することができる。
【0046】
(3−2)飲食品形態組成物
飲食品形態の本発明の経口組成物の具体例としては、津田かぶそのものや津田かぶの加工物(例えば、漬け物などの惣菜やふりかけなどの加工食品)以外のものであれば、特に制限されない。好ましくは、本発明の乳酸菌を含有する固形製剤(錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、マイクロカプセル及びカプセル剤等)、及び液状製剤(液剤、懸濁剤、シロップ及び乳剤等)などの製剤形態を有する飲食品;ガム、キャラメル、グミ、及びヌガーなどの菓子類;発酵乳、乳酸菌飲料、発酵野菜飲料、発酵果実飲料、及び発酵豆乳飲料等の発酵飲食品;プディングやババロア等の上記発酵飲食品以外の乳製品などを挙げることができる。なお、本明細書において、「発酵乳」および「乳酸菌飲料」なる用語は、旧厚生省「乳及び乳製品の成分などに関する省令」第二条37「発酵乳」および38「乳酸菌飲料」の定義に従うものとする。即ち、「発酵乳」とは、乳または乳製品を乳酸菌または酵母で発酵させた糊状または液状にしたものをいう。従って該発酵乳には飲料形態と共にヨーグルト形態が包含される。また「乳酸菌飲料」とは、乳または乳製品を乳酸菌または酵母で発酵させた糊状または液状にしたものを主原料としてこれを水に薄めた飲料をいう。
【0047】
かかる発酵飲食品は、定法に従って製造することができ、例えば、乳酸菌の栄養源を含む適当な発酵用原料物質、例えば野菜類、果実類、豆乳(大豆乳化液)などの液中で、乳酸菌を培養して該原料物質を発酵させることによって製造することができる。
【0048】
乳酸菌を利用した発酵は、予めスターターを用意し、これを発酵用原料物質に接種して発酵させる方法が好ましい。ここでスターターとしては、例えば、予め90〜121℃で5−20分間程度、殺菌処理を行った発酵用原料物質、及び酵母エキスを添加した10%脱脂粉乳などに、本発明の乳酸菌を接種して培養したものを挙げることができる。このようにして得られるスターターは、通常、本発明の乳酸菌を10−109個/g培養物程度含んでいる。
【0049】
上記の発酵用原料物質には、必要に応じて本発明の乳酸菌の良好な生育のための発酵促進物質、例えばグルコース、澱粉、蔗糖、乳糖、デキストリン、ソルビトール、フラクトースなどの炭素源、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源、ビタミン類、ミネラル類などを加えることができる。
【0050】
乳酸菌の接種量は、一般には発酵用原料物質含有液1mL中に菌体が約1×106個以上、好ましくは1×107個前後含まれるものとなる量から選ばれるのが適当である。培養条件は、一般に、発酵温度20〜45℃程度、好ましくは25〜37℃程度、発酵時間5〜72時間程度から選ばれる。
【0051】
尚、上記の如くして得られる乳酸発酵物は、カード状形態(ヨーグルトまたはプディング様の形態)を有している場合があり、このものはそのまま固形食品として摂取することもできる。該カード状形態の乳酸発酵物は、これを更に均質化することにより、所望の飲料形態とすることができる。この均質化は、一般的な乳化機(ホモジナイザー)を用いて実施することができる。こうした均質化によって、滑らかな食感を有する飲料を得ることができる。尚、この均質化にあたっては、必要に応じて適当に希釈したり、pH調整のための有機酸類を添加したり、また、糖類、果汁、増粘剤、界面活性剤、香料などの飲料の製造に通常用いられる各種の添加剤を適宜添加することもできる。かくして得られる飲料は、適当な容器に無菌的に充填して最終製品とすることができる。
【0052】
その摂取(投与)量は、これを摂取する生体の年齢、性別、体重、疾患の程度などに応じて適宜決定され、特に限定されるものではない。一般には乳酸菌量が約106〜109個/mLとなる範囲から選ばれるのがよい。該製品は一般にその約50 mL〜1,000mLを1日ヒト1人あたりに摂取されるように調製することができる。
【0053】
飲食品形態の本発明の組成物の他の好適な具体例としては、サプリメント形態、具体的には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、マイクロカプセル及びカプセル剤等の固形製剤、並びに液剤、懸濁剤、シロップ及び乳剤等の液状製剤の形態を有する飲食品を挙げることができる。
【0054】
当該製剤は、前述する医薬形態組成物と同様に、製剤担体として、通常、この分野で使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤あるいは賦形剤を用いて製造することができる。各種形態に応じた処方や製造方法は、基本的には、上記医薬品形態組成物と同様であり、上記の説明をここに援用することができる。
【0055】
飲食品形態の経口組成物に配合される本発明の乳酸菌の量は、当該乳酸菌の作用が発揮される量であればよく、その限りにおいて、広範囲より適宜選択することができる。通常、製剤1投与単位形態中に約107−1012個程度含有されることが好ましい。
【0056】
上記製剤の投与方法は特に制限がなく、各種製剤形態、対象者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。
【0057】
上記製剤の摂取量は、その用法、対象者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などにより適宜選択されるが、通常、有効成分である本発明の乳酸菌の量は1日当り体重1kg当り約0.5−20 mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1−4回に分けて摂取することができる。また、本発明の製剤は、その効果を効果的に得るためには継続して摂取されることが好ましい。例えば、連続または間歇的に2週間以上に亘って摂取する態様を例示することができる。
【0058】
本発明の飲食品形態を有する経口組成物はそれを摂取(投与)することによって、該組成物中の本発明の乳酸菌の肝臓中性脂肪低減作用に基づいて、肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制することが可能である。つまり、本発明の飲食品形態を有する経口組成物は、肝臓中性脂肪低減剤若しくは肝臓中性脂肪蓄積予防剤として有効に使用することができる。
【0059】
また本発明の飲食品形態を有する経口組成物は、それを摂取(投与)することによって、該組成物中の本発明の乳酸菌の肝臓中性脂肪低減作用、並びにGABA生産作用及びコレステロール低下作用に基づいて、肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制するとともに、血圧の上昇を抑制し、また血液及び肝臓のコレステロール値を低下若しくはその上昇を抑制することが可能である。つまり、本発明の飲食品形態を有する経口組成物は、肝臓中性脂肪低減、血圧上昇抑制、及びコレステロール低下を目的(効能・効果)とする総合的な製剤として有効に使用することができる。
【0060】
斯くして飲食品形態を有する本発明の経口組成物には、「肝臓中性脂肪低減」若しくは「肝臓中性脂肪蓄積予防」用途に用いられる健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメント等の、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂食される
飲食物が含まれる。また飲食品形態を有する本発明の経口組成物には、「肝臓中性脂肪低減」若しくは「肝臓中性脂肪蓄積予防」用途に加えて、「血圧上昇抑制」、及び「コレステロール低下」用途に用いられる健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメント等の、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂食される飲食物が含まれる。
【実施例】
【0061】
以下、実験例において、本発明及びその効果を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例や実験例に限定されるものではない。
【0062】
実験例1
津田かぶから単離した乳酸菌(Lactobacillus brevis)の中に、肝臓の中性脂肪を低減する作用を有する乳酸菌が存在することを見出し、当該乳酸菌を単離した。
【0063】
(1)乳酸菌(Lactobacillus brevis)の分離同定
津田かぶ(英名/Turnip・Brassica rapa)の根(生)を破砕し、当該破砕物の水抽出液を、炭酸カルシウムを含む乳酸菌培養用の平板培地(MRS)に塗沫した。これを好気条件で37℃、48時間培養し、ハローを形成した白色コロニーを、グラム染色にて検鏡し、グラム陽性及び桿菌であることを確認した。さらに、カタラーゼ活性(陰性)、発酵形式(ヘテロ)、15℃生育性(+)、各種糖からの酸生成の有無(フルクトース発酵:+、リボース発酵:+、マンノース発酵:−)、及び糖資化性(前述する表1参照)の試験結果をバージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)に照らし、また16S rRNA遺伝子による相同性検索の結果から、津田かぶから単離した菌を、Lactobacillus brevisに属する乳酸菌と同定した。
【0064】
(2)肝臓の中性脂肪低減作用の確認試験
(1)で単離した乳酸菌を被験動物に摂取させて、病理組織学検査、並びに肝臓1gあたりの中性脂肪量を測定し、肝臓の中性脂肪を低減させる作用を有する乳酸菌を取得した。
【0065】
(i)試験動物
試験動物として、日本クレア株式会社から入手したラット/Jcl:SD/雄性4週齢を用いた。1週間の予備飼育をし、一般状態に異常がないラットを本試験(各群11匹)に用いた。飼育条件は、温度20〜26℃、相対湿度30〜80%、照明時間12時間(午前8時点灯、午後8時消灯)、FRPラットブラケットケージに個別収容、飼料は予備飼育中はマウス・ラット・ハムスター用飼料(CRF-1;オリエンタル酵母工業株式会社)を自由摂取させた。飲料は水道水を自由摂取させた。
【0066】
(ii)試験用乳酸菌の調製
(1)で得られた乳酸菌(L.brevis)を、MRS液体培地を用いて37℃で50rpm、振とう培養を行った後、滅菌水で洗浄後、凍結乾燥(アルバック社製)を行い、試験まで冷暗所に設置したデシケーター内で保存した。
【0067】
(iii)試験方法及びその結果
a)試験動物群の設定
試験動物を(1)乳酸菌投与群(乳酸菌+高コレステロール食投与群)、(2)対照群(高コレステロール食投与群)、及び(3)標準群(基礎飼料投与群)の3群(各群11匹)にわけ、(1)乳酸菌投与群には、5%(dry wt/wt)の乳酸菌とコレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)、(2)対照群にはコレステロール含有基礎飼料(高コレステロール食)のみ、及び(3)標準群には基礎飼料のみを、それぞれ14日間自由摂取させた。
【0068】
b)病理組織学的検査
上記各被験動物から、自由摂取後14日目に肝臓(外側左葉)を摘出し、その一部を切り出して、10%中性緩衝ホルマリン溶液中で固定した。固定した肝臓は、パラフィンブロックを作成し、ミクロトームを用いて薄切りした。薄切片にヘマトキシリン・エオジン染色(H・E染色)を施し、光学顕微鏡で観察した。その結果、肝臓の脂肪滴様小胞体を減少させる作用を有する乳酸菌が存在することを確認した。そして、これを肝臓脂肪低減作用のある乳酸菌として取得し、Lactobacillus brevis 119-2(L. brevis 119-2)と命名した。なお、乳酸菌の肝臓の脂肪滴様小胞体を減少させる作用は、脂肪滴様小胞体の数や大きさが、対照群のそれらと対比して、有意に減少していることを基準として判断した。
【0069】
当該乳酸菌(L. brevis 119-2)を摂取させた(1)乳酸菌投与群、並びに(2)対照群、及び(3)標準群の各群の肝臓切片のヘマトキシリン・エオジン染色による顕微鏡観察結果を図1に示す。これからわかるように、対照群と比較して、乳酸菌投与群において明らかな脂肪滴様小胞体の数と大きさが減少しているのが認められた。
【0070】
c)肝臓脂質検査
(1)上記乳酸菌(L.brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群、及び(2)対照群の被験動物から肝臓(外側左葉)を摘出し、脂質抽出を行った。肝臓中の脂質抽出は、Folchらの方法(非特許文献9)を参考にし、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業製)(GPD/DAOS法)を用いて、肝臓1g当たりの中性脂肪量を算出した。その結果、(1)乳酸菌投与群の肝臓1g当たりの中性脂肪量は、50.10±16.04 mgであり、(2)対照群の53.94±17.34 mgよりも減少していることが確認された。この結果から、肝臓脂質検査からも、乳酸菌(L. brevis 119-2)に、肝臓の中性脂肪を減少させる作用があることが確認された。
【0071】
実験例2 γ−アミノ酪酸(GABA)生産性の確認
実験例1で津田かぶから単離してきた乳酸菌(L. brevis 119-2)を、5%濃度になるようにグルタミン酸ナトリウムを添加したMRS液体培地(Becton, Dickinson and Company。以下、同じ。)に接種して、初発pH5.5、30℃にて7日間培養した。得られた培養物の上清(培養後の培地)と比較対照用の培地(培養前の培地)を、それぞれアミノ酸分析にかけ、NBD―F(7-Fluoro-4-nitrobenzo-2,1,3-oxadiazole)法により、各培地中のγ−アミノ酪酸(GABA)とグルタミン酸の量を測定した。
【0072】
結果を図2に示す。(A)は、アミノ酸分析のHPLCクロマトグラムを、また(B)は、培養培地中のγ−アミノ酪酸(GABA)とグルタミン酸の量の推移を、培養時間とともに示す。この結果からわかるように、実験例1で単離した乳酸菌(L. brevis 119-2)は、培地中のグルタミン酸を消費してγ−アミノ酪酸(GABA)を産生すること、つまり乳酸菌(L. brevis 119-2)にはγ−アミノ酪酸(GABA)生産作用があることが確認された。
【0073】
実験例3 コレステロール低下作用
(1)培養培地中でのコレステロール低下作用
実験例1で津田かぶから単離してきた乳酸菌(L. brevis 119-2)を、MRS液体培地で、37℃で24時間,50rpmで振とう培養し、これを3回繰り返した後、培地を除き、10倍希釈菌液の吸光度がOD650=0.15になるように生理食塩水で調整した。これを、最終濃度1%(v/v)になるように、10mg/ml コレステロールエタノール溶液を最終濃度70μg/ml添加した0.2%タウロコール酸含有MRS-THIOに植菌し、嫌気条件下、37℃で24時間、50rpmで振とう培養した(ガスパックシステム;BBL製,アネロパック;三菱ガス化学製)。培養後、4℃で10分間、5400rpm遠心分離し、上清に含まれるコレステロールをヘキサンで抽出した後、ヘキサンを乾固した。これに、0.2% OPA酢酸液と硫酸を加え、波長550nmにおける吸光度を測定し、既知濃度の標準コレステロールから作成した検量線に基づいて培養培地中のコレステロール濃度を求めた。
【0074】
結果を、乳酸菌無添加区(コントロール)の培養培地中のコレステロール量とともに、図3に示す。図3からわかるように、乳酸菌(L. brevis 119-2)には、培養培地中のコレステロール量を低下させる作用が有意にあることが確認された(有意水準5%で有意差ありと判断)。
【0075】
(2)血液及び肝臓中のコレステロール低下作用
(i)血液中のコレステロール低下作用
実験例1(2)(iii)c)において、(1)乳酸菌(L. brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群(n=11)、及び(2)対照群(n=11)の被験動物について各飼料自由摂取から14日目に、18〜23時間絶食させた後に、セボフルラン(セボフレン;丸石製薬株式会社)吸入麻酔下で、腹部大動脈からヘパリンナトリウム化血液を得、遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)して血漿を得た。得られた血漿を用いて、総コレステロール(TCHO)(GOD/POD法)、HDLコレステロール(HDLC)(デキストラン硫酸Mg沈殿法・GOD/POD法)、及びLDLコレステロール(LDLC)(TCHO及びHDLCから算出)を測定した。
【0076】
結果を下記表に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
この結果から、乳酸菌(L. brevis 119-2)に、肝臓の中性脂肪のみならず、総コレステロール量を減少させる作用があることが確認された。
【0079】
(ii)肝臓中のコレステロール低下作用
実験例1(2)(iii)c)において、(1)乳酸菌(L. brevis 119-2)を摂取させた乳酸菌投与群(n=11)、及び(2)対照群(n=11)の被験動物から、それぞれ摘出した肝臓(外側左葉)に含まれる総コレステロール量を測定した。総コレステロール量の測定は、コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業製)(コレステロールオキシダーゼ・DAOS法)を用いて、肝臓1g当たりの総コレステロール量(mg)を算出した。その結果、(1)乳酸菌投与群の肝臓1g当たりの総コレステロール量は、50.14±12.53 mg(平均値±標準偏差)であり、(2)対照群の62.51±12.92 mg(平均値±標準偏差)よりも有意に減少していることが確認された(p<0.05)。
【0080】
この結果から、乳酸菌(L. brevis 119-2)には、肝臓の中性脂肪のみならず、総コレステロール量を減少させる作用があることが確認された。
【0081】
実験例4 コレステロール低下作用の評価
L. acidophilusL. plantrumL. reuteriなどの乳酸菌のコレステロール低下効果は、胆汁酸脱抱合作用によることが報告されている(非特許文献10〜12)。つまり乳酸菌が生成する酵素により乳化作用を有する胆汁酸が分解され、溶解度が低下したコレステロールが体外へ排泄されることで体内のコレステロール値が低下する。また、KimotoらはLc. Lactis(生菌)は、コレステロールを菌体の膜に取り込むことで菌体とともに体外へ排泄し、死菌体ではその活性が有意に低下することを報告している(非特許文献13)。
【0082】
そこで、実験例1で分離した乳酸菌(L. brevis 119-2)のコレステロール低下作用のメカニズムを検討するために、胆汁酸脱抱合作用、生菌体および死菌体のコレステロール低下効果、培養培地中のコレステロールの量論的変化および菌体表面の顕微鏡観察を行った。
【0083】
(1)胆汁酸脱抱合作用の評価
乳酸菌(L. brevis 119-2)の胆汁酸脱抱合作用を、非特許文献14に記載する方法に準じて評価した。なお、試験菌として、乳酸菌(L. brevis 119-2)に加えて、胆汁酸脱抱合作用に基づくコレステロール低下作用が知られているL. acidophilus ATCC43121、及びL. plantrum NRIC1918を用いた。
【0084】
具体的には、試験菌を、まずMRS液体培地で37℃で24時間、振とう培養(50rpm)し、これを3回繰り返して安定化した。次いで、培地を除き、菌体を滅菌水で洗浄した後、10倍希釈菌液が吸光度OD650=0.15になるように再度滅菌水に懸濁し、0.2%タウロコール酸含有MRS-THIO(0.2% Sodium Thioglycolate)培地に1%(v/v)添加した。次いで37℃で24時間培養し、得られた培養液を1N NaOHでpH7.0に調整した後一定量にし、遠心分離(3000 rpm×10分)して菌体を除去した。次いで、菌体除去後の培養培地に5N塩酸を添加してpH1.0に調整した後、一定量にした。
【0085】
これから適量を採取し、3倍量の酢酸エチルを加えて溶解しているコール酸を回収した。具体的には、添加した酢酸エチルを窒素ガス気流下、60℃で乾固し、0.05N NaOHでコール酸を溶解し、16N硫酸、1%フルフラールを加えて65℃で13分間反応させた。酢酸を加え、吸光度(OD660)を測定した。検量線からコール酸濃度を測定した。
【0086】
各乳酸菌の胆汁酸脱抱合作用の結果を図4に示す。図4(A)は、菌体除去後の培養培地をHPLCに供して、添加したタウロコール酸ナトリウムの残量を測定したクロマトグラムを示す。図4(B)は、菌体除去後の培養培地に含まれるコール酸濃度を測定した結果を示す。ちなみに、コール酸はタウロコール酸ナトリウムの分解物である。なお、図中、コントロールは試験菌無添加の培養培地の結果である。
【0087】
(A)に示すように、タウロコール酸の減少が認められたL. plantrum NRIC1918、L. acidophilusATCC43121と異なり、L. brevis 119-2は、コントロールと同様に、タウロコール酸ナトリウムのピークが検出され、タウロコール酸の減少は認められなかった。この結果に対応して、(B)に示すように、タウロコール酸Naの分解物であるコール酸は、L. brevis 119-2では殆ど検出されず、L. plantrum RIC1918、及びL. acidophilusATCC43121にのみ特有に検出された。また検出されたコール酸は両菌株とも3.4 μmol/mlであり、添加したタウロコール酸ナトリウム3.7 μmol/mlのほぼ全量がコール酸に分解された。
【0088】
この結果から、乳酸菌(L. brevis 119-2)のコレステロール低下作用は、L. acidophilusL. plantrum、及びL. reuteriなどの乳酸菌のコレステロール低下作用と異なり、胆汁酸脱抱合作用によるものではないことが確認された。
【0089】
(2)生菌体および死菌体のコレステロール低下作用の評価
試験菌として、乳酸菌(L. brevis 119-2)に加えて、L. acidophilus ATCC43121、及びL. plantrum NRIC1918を用いて、生体菌および死菌体のコレステロール低下作用を評価した。
【0090】
MRS液体培地で2回前培養を行った試験菌から培地を除き、これに、10倍希釈液が吸光度(OD650)0.15になるように滅菌水に懸濁し、これを新たなMRS液体培地に1%(v/v)の割合で添加した。これを37℃で24時間培養した後、120℃で20分間オートクレーブ処理をした。培地を除き、同量の0.2%タウロコール酸Na含有MRS-THIOに懸濁し、これを「死菌体区」とした。上記と同様に、前培養した試験菌を滅菌水に懸濁し、0.2%タウロコール酸Na含有MRS-THIOに1%(v/v)の割合で添加し、これを「生菌体区」とした。
【0091】
両試験区を37℃で24時間嫌気条件下で振とう(10rpm)培養した。培養後、4℃で10分間、5400 rpm(2800×g)遠心分離し、得られた培地中のコレステロールをヘキサンで抽出した後、ヘキサンを乾固し、0.2%OPA酢酸液と硫酸で発色した。吸光度550nmを測定し、標準品の検量線から培養培地中のコレステロール濃度を求めた。
【0092】
結果を図5に示す。図中、コントロールは乳酸菌無添加の培養培地の結果である。
【0093】
図5からわかるように、コントロールに対して、生菌体にはいずれも有意にコレステロール低下作用が認められたが、死菌体では、L. plantrumを除き、コレステロール低下作用は認められなかった。なお、L. plantrum は、有意差は認められたものの、生菌体に比べると、そのコレステロール低下作用はわずかだった。
【0094】
このことから、乳酸菌(L. brevis 119-2)のコレステロール低下作用は、生体菌に特有に認められる作用であることが確認された。
【0095】
(3)培養培地中のコレステロールの経時変化および菌体表面の顕微鏡観察
乳酸菌(L.brevis119-2)に関して、生菌体の培養過程における菌体及び培地中のコレステロールの量を測定した。
【0096】
なお、菌体中のコレステロールは、培地を除いた菌体に同量の蒸留水を加え、上記と同様にヘキサンにて抽出した後、GC/MSにて測定をした。GC/MSによるコレステロールの検出は、移動相He 1.2ml/min、スプリットレスの条件で、GC/MS(GCQ Thermo Fisher scientific)を用いて行った。また、コレステロールの定量には、内部標準物質として5αcholestanを用いて行った。
【0097】
結果を図6に示す。これからわかるように、培地(medium)中のコレステロールは培養6時間目から減少し、培養24時間で培養前の20%以下になり、その後安定した。菌体(cell)中のコレステロールは、培養6時間目から増加し、27時間まで経時的に増加傾向だった。遠心分離時の遠心管から回収された沈殿物(precipitation)中から、コレステロールがわずかに検出された。沈殿物は6時間及び9時間に比べて、24時間で増加傾向だった。コレステロール総量には経時的な異同はほとんどなく、培地中のコレステロールが経時的に菌体に移行する傾向が認められた。
【0098】
コレステロール含有培地で培養した後、Filipin IIIで染色した乳酸菌(L. brevis 119-2)を蛍光観察した写真画像を図7(a)及び(c)に示す。これからわかるように、乳酸菌(L. brevis 119-2)は、菌体中に蛍光が観察され、コレステロールが菌体中に取り込まれることが確認された。また、蛍光は菌体全体に偏在していることが観察された。一方、津田かぶ由来のL. brevisでも、コレステロール低下作用を示さなかった菌体(L. brevis 119-6)では蛍光が観察されなかった(図7(b))。
【0099】
以上の結果から、乳酸菌(生菌)(L. brevis 119-2)のコレステロール低下作用のメカニズムは、Lc. Lactis(生菌)と類似しており、コレステロールを菌体内に取り込むことによるものであり、菌体内に取り込まれたコレステロールは菌体とともに体外へ排泄されることで、体内のコレステロール量が低下するものと考えられる。
【0100】
実験例4 プロバイオテクスの評価
プロバイオテクス菌は生きて腸まで届き、宿主に対し良好な働きをすることと定義されている。そこで、プロバイオテクスであるためには、経口摂取した乳酸菌が消化液に対して耐性であり、また腸管にて一定期間滞留する必要がある。
【0101】
そこで、上記実験例2で単離した乳酸菌(L. brevis 119-2)が、プロバイオテクス菌であることを確認するために、消化液耐性試験(非特許文献2参照)、および腸管上皮細胞への付着性試験(非特許文献15参照)を行った。
【0102】
(1)消化液耐性試験
消化液耐性試験として、非特許文献2に記載する方法に準じて、人工胃液と人工胆汁液に対する耐性試験を行った。
【0103】
具体的には、まず乳酸菌(L. brevis 119-2)を、MRS液体培地で37℃、4時間培養し、3回継代を繰り返した。人工胃液耐性試験は、pHを3.0、2.5、及び2.0にそれぞれ調整した0.32% ペプシン(110 units/100ml)含有MRS液体培地で、上記乳酸菌(L. brevis 119-2)を37℃で4時間培養し、その後の生菌数をMRS寒天培地を用いて測定した。人工胆汁液耐性試験は、0.13、0.25、0.5または1.0%胆汁末(Oxygall Difco社製)を含有するMRS液体培地で、37℃で16時間培養し、培養後の培地の吸光度(OD650)を測定した。なお、人工胃液耐性および人工胆汁末耐性は、Lactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103)をコントロール菌として評価を行った。
【0104】
人工胃液耐性試験の結果を、図8(A)に示す。空腹時の胃液に相当するpH2.0条件下では、コントロール菌ともに培養時間1時間以内で104 /ml以下になったが、食事中及び食後のpHに相当するpH2.5及び3.0では、いずれも培養時間4時間後でも、コントロール菌と同程度の生菌数を示し、人工胃液耐性を示した。
【0105】
人工胆汁末耐性試験の結果を、図8(B)に示す。コントロール菌は、胆汁末の濃度に依存して生育が阻害されたが、乳酸菌(L. brevis 119-2)は、逆に胆汁末の濃度に依存して生育が促進される傾向が認められた。
【0106】
(2)腸管上皮細胞への付着性試験
腸管上皮細胞への付着性試験を、非特許文献15に記載する方法に準じて行った。
【0107】
具体的には、まず腸管上皮細胞(CaCo-2細胞)を1.25×105/mlの濃度で24穴プレートのウエルに1mL播種し、コンフルエント後15日間培養した。この腸管上皮細胞含有ウエルに、試験菌(1.5×1010/ml)を予め抗生物質不含培地で100倍に希釈したものを1mL加え、37℃で5%炭酸ガス雰囲気下で1時間培養し、細胞に付着させた。なお、試験菌として、乳酸菌(L. brevis 119-2)、及びLactobacillus rhamnosus GG菌(ATCC53103)(コントロール菌)に加えて、腸管上皮細胞への付着性が低いとされるLactobacillus lactis NBRC12007をネガティブコントロール菌として使用した。
【0108】
培養後、培地上清を除き、PBSで洗浄した後、試験菌から0.05% Trypsin−EDTA溶液で細胞をはがして、MRS寒天培地で菌数を測定した。また、同様に、チャンバースライド(2well、ナルゲン社製)を用いて腸管上皮細胞(Caco-2細胞)を培養して試験菌付着処理を行った後、メタノールで固定しグラム染色(クリスタルバイオレット)処理した後、顕微鏡観察をした。
【0109】
顕微鏡観察画像を図9(A)に、腸管上皮細胞への付着菌数を図9(B)に示す。なお、付着菌数は、細胞培養ウエル面積当たりの菌数で表示する。(A)において、(a), (b),及び(c)はそれぞれ乳酸菌(L. brevis119-2)、L. rhamnosus GG菌(コントロール菌)、及びLc. lactis NBRC12007(ネガティブコントロール菌)の腸管上皮細胞への付着を示す。(A)に示すように、顕微鏡下で、(a)乳酸菌(L. brevis119-2)と(b)L. rhamnosusGGにおいて細胞表面に菌体の付着が観察された(図中、矢印)のに対して、ネガティブコントロール菌である(c)Lc.lactis NBRC12007では、細胞への付着は観察されなかった。(B)において、顕微鏡観察と同様に、Lc. lactis NBRC12007(ネガティブコントロール菌)の付着菌数は102 cfu/wellとわずかであったのに対して、乳酸菌(L. brevis 119-2)は、L.rhamnosus GG菌(コントロール菌)と同程度の106cfu/wellもの多くの菌数が検出された。
【0110】
このことから乳酸菌(L.brevis 119-2)には、腸管上皮細胞(Caco-2細胞)に対して高い付着性があること確認された。
【0111】
上記(1)と(2)の結果から、本発明の分離乳酸菌(L. brevis 119-2)は、生きた状態で腸まで届き、また腸管上皮細胞に付着して腸管にて一定期間滞留する可能性が高く、このことからプロバイオテクス菌として有用であると考えられる。
【受託番号】
【0112】
NITE P-1518
【配列表フリーテキスト】
【0113】
配列番号1及び2は、本発明の乳酸菌の属種を決めるために行った16S rRNA遺伝子による相同性検索で使用したプライマー配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]