(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381881
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタ及びその駆動方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/337 20060101AFI20180820BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20180820BHJP
H01L 29/808 20060101ALI20180820BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20180820BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
H01L29/80 W
H01L29/80 H
H01L29/80 C
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-207061(P2013-207061)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-78710(P2014-78710A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2016年9月28日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0113034
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】全 ▲祐▼徹
(72)【発明者】
【氏名】金 鍾燮
(72)【発明者】
【氏名】朴 基烈
(72)【発明者】
【氏名】朴 永煥
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 在浚
(72)【発明者】
【氏名】河 種奉
(72)【発明者】
【氏名】申 在光
【審査官】
恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−029506(JP,A)
【文献】
特開2010−067816(JP,A)
【文献】
特開2010−157602(JP,A)
【文献】
特開2007−150282(JP,A)
【文献】
特開2009−148106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/808
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体物質を含むチャネル層と、
第2半導体物質を含み、前記チャネル層に2次元電子ガスを引き起こすチャネル供給層と、
前記チャネル供給層の両側に設けられるソース電極及びドレイン電極と、
前記チャネル供給層上に設けられ、前記2次元電子ガスに空乏領域を形成する空乏形成層と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記空乏形成層上に設けられる第1ゲート電極と、
前記ソース電極と前記第1ゲート電極との間の前記空乏形成層上に、前記第1ゲート電極と離隔して設けられる少なくとも一つの第2ゲート電極と、を含み、
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが前記空乏形成層によって互いに連結され、
前記第2ゲート電極が、前記第1ゲート電極に第1ゲート電圧が印加されるにつれて第2ゲート電圧が誘導されるフローティング電極である、高電子移動度トランジスタ。
【請求項2】
前記第2ゲート電極には、前記空乏形成層を通じて第2ゲート電圧が誘導される、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項3】
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間で、前記空乏形成層がストリップ状に形成される、請求項2に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項4】
前記第2ゲート電極と前記ソース電極とが前記空乏形成層によって互いに連結される、請求項2に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項5】
前記ソース電極と前記第2ゲート電極との間で、前記空乏形成層がストリップ状に形成される、請求項4に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項6】
前記チャネル供給層の上面の少なくとも一部を覆うコーティング層をさらに含む、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項7】
前記コーティング層が前記空乏形成層と同じ物質を含む、請求項6に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項8】
前記コーティング層が前記空乏形成層より薄い厚さに形成される、請求項7に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項9】
前記第2ゲート電極には、前記チャネル供給層を通じて第2ゲート電圧が誘導される、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項10】
前記第2ゲート電極に誘導される前記第2ゲート電圧が、前記第1ゲート電極に印加された前記第1ゲート電圧、前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間隔及び前記第2ゲート電極と前記ソース電極との間隔によって定められる、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項11】
前記高電子移動度トランジスタのしきい電圧が、前記第2ゲート電極に誘導される前記第2ゲート電圧によって定められる、請求項10に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項12】
前記第1半導体物質は、GaN系物質である、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項13】
前記第2半導体物質が、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された少なくとも一つである、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項14】
前記空乏形成層がp型半導体物質を含む、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項15】
前記空乏形成層がIII−V族系列の窒化物半導体物質を含む、請求項13に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の高電子移動度トランジスタを駆動する方法において、
前記第1ゲート電極に第1ゲート電圧を印加することで、フローティング電極である前記第2ゲート電極に第2ゲート電圧を誘導する、高電子移動度トランジスタの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子及びその駆動方法に係り、詳細には、高電子移動度トランジスタ及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な電力変換システムには、オン/オフスイッチングを通じて電流のフローを制御する素子、すなわち、パワー素子が要求される。電力変換システムでは、パワー素子の効率がシステム全体の効率を左右する。
【0003】
現在常用化されているパワー素子は、シリコン(Si)を基盤とするパワーMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)がほとんどである。しかし、シリコンの物性限界及び製造工程の限界などによって、シリコンを基盤とするパワー素子の効率を高め難くなっている。このような限界を乗り越えるため、III−V族系列の化合物半導体をパワー素子に適用して変換効率を高めようとする研究や開発が進んでいる。これに関して、化合物半導体の異種接合(heterojunction)構造を用いる高電子移動度トランジスタ(HEMT;High Electron Mobility Transistor)が注目されている。
【0004】
高電子移動度トランジスタは、電気的分極特性が互いに異なる半導体層を含む。高電子移動度トランジスタでは、相対的に大きい分極率を持つ半導体層が、これと接合された他の半導体層に2次元電子ガス(2DEG;2−Dimensional Electron Gas)を引き起こし、このような2次元電子ガスは、非常に高い電子移動度を持つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ノーマリオフ(Normally−Off)特性を持ち、しきい電圧を高める高電子移動度トランジスタ及びその駆動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面において、第1半導体物質を含むチャネル層と、第2半導体物質を含み、前記チャネル層に2次元電子ガスを引き起こすチャネル供給層と、前記チャネル供給層の両側に設けられるソース電極及びドレイン電極と、前記チャネル供給層上に設けられ、前記2次元電子ガスに空乏領域を形成する空乏形成層と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記空乏形成層上に設けられる第1ゲート電極と、前記ソース電極と前記第1ゲート電極との間の前記空乏形成層上に、前記第1ゲート電極と離隔して設けられる少なくとも一つの第2ゲート電極と、を含む高電子移動度トランジスタが提供される。
【0007】
前記第2ゲート電極は、前記第1ゲート電極に第1ゲート電圧が印加されるにつれて第2ゲート電圧が誘導されるフローティング電極となる。
【0008】
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とは、前記空乏形成層によって互いに連結され、前記第2ゲート電極には、前記空乏形成層を通じて第2ゲート電圧が誘導される。前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間で、前記空乏形成層はストリップ状に形成される。
【0009】
前記第2ゲート電極と前記ソース電極とは、前記空乏形成層によって互いに連結される。前記ソース電極と前記第2ゲート電極との間で、前記空乏形成層はストリップ状に形成される。
【0010】
前記チャネル供給層の上面の少なくとも一部を覆うコーティング層をさらに含む。前記コーティング層は、前記空乏形成層と同じ物質を含む。この場合、前記コーティング層は、前記空乏形成層より薄い厚さに形成される。
【0011】
前記第2ゲート電極には、前記チャネル供給層の上面を通じて第2ゲート電圧が誘導される。
【0012】
前記第2ゲート電極に誘導される第2ゲート電圧は、前記第1ゲート電極に印加される第1ゲート電圧、前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間隔及び前記第2ゲート電極と前記ソース電極との間隔によって定められる。前記高電子移動度トランジスタのしきい電圧は、前記第2ゲート電極に誘導される前記第2ゲート電圧によって定められる。
【0013】
前記第1半導体物質は、例えば、GaN系物質であり、前記第2半導体物質は、例えば、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された少なくとも一つである。前記空乏形成層は、p型半導体物質を含む。前記空乏形成層は、III−V族系列の窒化物半導体物質を含む。
【0014】
他の側面において、前述した高電子移動度トランジスタを駆動する方法において、前記第1ゲート電極に第1ゲート電圧を印加することで、フローティング電極である前記第2ゲート電極に第2ゲート電圧を誘導する高電子移動度トランジスタの駆動方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高電子移動度トランジスタ及びその駆動方法は、ノーマリオフ(Normally−Off)特性を持ち、しきい電圧を高めるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタを示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した高電子移動度トランジスタの平面図である。
【
図5A】
図1に示した高電子移動度トランジスタにおける、第1ゲート電圧によるチャネル形成過程を示す図面である。
【
図5B】
図1に示した高電子移動度トランジスタにおける、第1ゲート電圧によるチャネル形成過程を示す図面である。
【
図5C】
図1に示した高電子移動度トランジスタにおける、第1ゲート電圧によるチャネル形成過程を示す図面である。
【
図6】例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタを示す斜視図である。
【
図7】
図6に示した高電子移動度トランジスタの断面図である。
【
図8】さらに他の例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタを示す斜視図である。
【
図9】
図8に示した高電子移動度トランジスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して実施形態を詳細に説明する。図面で同じ参照符号は同じ構成要素を称し、各構成要素のサイズや厚さは、説明の明瞭性のために誇張されている。
【0018】
図1は、例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタ100を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示した高電子移動度トランジスタ100の平面図である。そして、
図3は、
図2のIII−III’線の断面図であり、
図4は、
図2のIV−IV’線の断面図である。
【0019】
図1ないし
図4を参照すれば、基板110上にチャネル層112が設けられている。基板110は、例えば、サファイア、Si、SiCまたはGaNなどを含む。しかし、これは単に例示的なものであり、基板110は、それ以外にも他の多様な物質を含む。チャネル層112は、第1半導体物質を含む。ここで、第1半導体物質は、III−V系列の化合物半導体物質になりうるが、これに限定されるものではない。例えば、チャネル層112は、GaN系物質層、具体的な例としてGaN層になる。この場合、チャネル層112は、ドーピングされていないGaN層になり、場合によっては所定の不純物がドーピングされたGaN層になってもよい。
【0020】
一方、図示はしていないが、基板110とチャネル層112との間には所定のバッファ層がさらに設けられることもある。バッファ層は、基板110とチャネル層112との間の格子定数及び熱膨張係数の差を緩和させてチャネル層112の結晶性低下を防止するためのものである。バッファ層は、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された一つ以上の物質を含み、単層または複数層構造を持つ。バッファ層は、例えば、AlN、GaN、AlGaN、InGaN、AlInN及びAlGaInNからなる物質のうち少なくとも一つを含む。一方、基板110とバッファ層との間には、バッファ層の成長のための所定のシード層(図示せず)がさらに設けられてもよい。
【0021】
チャネル層112上には、チャネル供給層114が設けられる。チャネル供給層114は、チャネル層112に2次元電子ガスを引き起こす。ここで、2次元電子ガス2DEGは、チャネル層112とチャネル供給層114との界面下のチャネル層112内に形成される。チャネル供給層114は、チャネル層112をなす第1半導体物質とは異なる第2半導体物質を含む。第2半導体物質は、第1半導体物質と分極特性、エネルギーバンドギャップ及び格子定数のうち少なくとも一つが異なる。具体的に、第2半導体物質は、第1半導体物質より分極率とエネルギーバンドギャップのうち少なくとも一つが第1半導体物質より大きくなる。
【0022】
チャネル供給層114は、例えば、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された少なくとも一つを含み、単層または複数層構造を持つ。具体的な例として、チャネル供給層114は、AlGaN、AlInN、InGaN、AlN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含む。しかし、これらに限定されるものではない。チャネル供給層114は、ドーピングされていない層であるが、所定の不純物がドーピングされた層であってもよい。このようなチャネル供給層114の厚さは、例えば、数十nm以下である。例えば、チャネル供給層114の厚さは約50nm以下であるが、これに限定されるものではない。
【0023】
チャネル供給層114の両側のチャネル層112上には、ソース電極151及びドレイン電極152が設けられる。ここで、ソース電極151及びドレイン電極152は、2次元電子ガス2DEGと電気的に連結される。ソース電極151及びドレイン電極152は、チャネル供給層114上に設けられてもよく、チャネル供給層114の内部またはチャネル層112の内部まで挿入されるように設けられてもよい。それ以外にも、ソース電極151及びドレイン電極152の構成は多様に変化される。
【0024】
ソース電極151とドレイン電極152との間のチャネル供給層上には、空乏形成層130が所定厚さに設けられる。ここで、空乏形成層130は、2次元電子ガス2DEGに空乏領域を形成する役割を行える。このような空乏形成層130によって、その下に位置するチャネル供給層114部分のエネルギーバンドギャップが高くなり、その結果、空乏形成層130に対応するチャネル層112部分に2次元電子ガス2DEGの空乏領域が形成される。よって、2次元電子ガス2DEGのうち空乏形成層130に対応する部分は切れるか、または残りの部分とは異なる特性(例えば、電子濃度など)を持つ。2次元電子ガス2DEGが切れた領域を‘断絶領域’と称し、このような断絶領域によって、高電子移動度トランジスタ100はノーマリオフ特性を持つ。
【0025】
空乏形成層130は、p型半導体物質を含む。すなわち、空乏形成層130は、p型半導体層であるか、またはp型不純物でドーピングされた半導体層となる。また、空乏形成層130は、III−V族系列の窒化物半導体を含む。例えば、空乏形成層130は、GaN、AlGaN、InN、AlInN、InGaN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含み、Mgのようなp型不純物でドーピングされる。具体的な例として、空乏形成層130は、p−GaN層またはp−AlGaN層である。このような空乏形成層130によってその下のチャネル供給層114部分のエネルギーバンドギャップが高くなりつつ、2次元電子ガス2DEGの断絶領域が形成される。
【0026】
空乏形成層130は、後述する第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間で、
図1に示したように、ストリップ状に形成される。そして、空乏形成層130は、ソース電極151と第2ゲート電極122との間でストリップ状に形成される。しかし、これに限定されず、空乏形成層130は、他の多様な形状に形成されうる。
【0027】
空乏形成層130上には、第1ゲート電極121が設けられる。第1ゲート電極121は、多様な金属物質または金属化合物などを含む。ここで、第1ゲート電極121は、空乏形成層130と同じ幅に形成される。一方、第1ゲート電極121は、空乏形成層130より広い幅に形成されてもよい。第1ゲート電極121は、ドレイン電極152よりソース電極151にさらに近く位置する。但し、これは単に例示的なものであり、第1ゲート電極121の位置は多様に変形される。
【0028】
ソース電極151と第1ゲート電極121との間の空乏形成層130上には、第2ゲート電極122が設けられる。第2ゲート電極122は、第1ゲート電極121と所定間隔離隔して設けられる。第2ゲート電極122は、第1ゲート電極121と同じ物質を含む。しかし、必ずしもこれに限定されるものではない。さらに、空乏形成層130は、第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間及びソース電極151と第2ゲート電極122との間に形成されて、ソース電極151と第2ゲート電極122及び第2ゲート電極122と第1ゲート電極121とを互いに電気的に連結する。第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間の空乏形成層130及びソース電極151と第2ゲート電極122との間の空乏形成層130は、ストリップ状に形成され、単位長当り抵抗値が互いに等しい。しかし、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0029】
本実施形態で、第2ゲート電極122は、第1ゲート電極121に第1ゲート電圧が印加されることで第2ゲート電圧が誘導されるフローティング電極である。ここで、第2ゲート電極122には、第1ゲート電極121に印加される電圧より低い電圧が誘導される。第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧は、第1ゲート電極121に印加される第1ゲート電圧、第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間隔、及びソース電極151と第2ゲート電極122との間隔によって定められる。具体的には、第1ゲート電圧がV
g1、第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間隔がL
fg、ソース電極151と第2ゲート電極122との間隔がL
sfである場合、第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧V
g2は、V
g1×L
sf/(L
fg+L
sf)となる。ここで、第2ゲート電圧V
g2は、第1ゲート電極121及び/または第2ゲート電極122の位置を変化させることで調節される。
【0030】
後述するように、フローティング電極である第2ゲート電極122は、高電子移動度トランジスタ100のしきい電圧を高める役割を行うものであり、このような第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧によって高電子移動度トランジスタ100のしきい電圧が定められる。
【0031】
図5Aないし
図5Cは、高電子移動度トランジスタ100において、第1ゲート電極121に印加される電圧によるチャネル形成過程を示す図面である。ここで、ソース電極151及びドレイン電極152には、それぞれ所定のソース電圧V
s及びドレイン電圧V
dが印加される。第1ゲート電極121に印加される第1ゲート電圧がV
g1、第1ゲート電極121と第2ゲート電極122との間隔がL
fg、ソース電極151と第2ゲート電極122との間隔がL
sfである場合、フローティング電極である第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧V
g2は、V
g1×L
sf/(L
fg+L
sf)で計算される。
【0032】
図5Aは、第1ゲート電極121に印加される第1ゲート電圧V
g1が第1しきい電圧V
th1より小さな場合を示す図面である。ここで、第1しきい電圧V
th1は、第1及び第2ゲート電極121、122の下部に形成されたチャネルをそれぞれオン状態にするための最小電圧を意味する。
図5Aを参照すれば、第1ゲート電極121に印加された第1ゲート電圧V
g1が第1しきい電圧V
th1より小さな場合、第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧V
g2も第1しきい電圧V
th1より小さくなる。よって、第1ゲート電極121の下部に形成される第1チャネル121a、及び第2ゲート電極122の下部に形成される第2チャネル122aはいずれもオフ状態になる。
【0033】
図5Bは、第1ゲート電極121に印加される第1ゲート電圧V
g1が第1しきい電圧V
th1よりは大きく、第2しきい電圧V
th2よりは小さな場合を示す図面である。ここで、第2しきい電圧V
th2は、V
th1×(L
fg+L
sf)/L
sfである。
図5Bを参照すれば、第1ゲート電極121に印加された第1ゲート電圧V
g1が第1しきい電圧V
th1よりは大きく、第2しきい電圧V
th2よりは小さな場合、第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧V
g2は、第1しきい電圧V
th1より小さくなる。よって、第1ゲート電極121の下部に形成される第1チャネル121aはオン状態になるが、第2ゲート電極122の下部に形成される第2チャネル122aはオフ状態になる。
【0034】
図5Cは、第1ゲート電極121に印加される第1ゲート電圧V
g1が第2しきい電圧V
th2より大きい場合を示す図面である。
図5Cを参照すれば、第1ゲート電極121に印加された第1ゲート電圧V
g1が第2しきい電圧V
th2より大きい場合、第2ゲート電極122に誘導される第2ゲート電圧V
g2は、第1しきい電圧より大きくなる。よって、第1ゲート電極121の下部に形成される第1チャネル121a、及び第2ゲート電極122の下部に形成される第2チャネル122aがいずれもオン状態となり、その結果、高電子移動度トランジスタ100のチャネル層112に電流が流れる。
【0035】
以上のように、本実施形態による高電子移動度トランジスタ100はノーマリオフ特性を持ち、またソース電極151と第1ゲート電極121との間にフローティング電極である第2ゲート電極122を設けることで、高電子移動度トランジスタ100のしきい電圧V
thを、第1しきい電圧V
th1から第2しきい電圧V
th2に高める。そして、第1ゲート電極121及び/または第2ゲート電極122の位置を変化させることで、高電子移動度トランジスタ100のしきい電圧を調節することもできる。一方、上述の場合においてはソース電極151と第2ゲート電極122との間にストリップ状の空乏形成層130が設けられた場合が説明されたが、ソース電極151と第2ゲート電極122との間に空乏形成層130が設けられなくてもよい。また、上述の場合においてはソース電極151と第1ゲート電極121との間に一つの第2ゲート電極122が設けられた場合が説明されたが、ソース電極151と第1ゲート電極121との間に複数の第2ゲート電極122が設けられてもよい。
【0036】
図6は、例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタ200を示す斜視図である。そして、
図7は、
図6に示した高電子移動度トランジスタ200の断面図である。以下では、前述した実施形態と異なる点を中心として説明する。
【0037】
図6及び
図7を参照すれば、基板210上にチャネル層212が設けられている。チャネル層212は、第1半導体物質を含む。ここで、第1半導体物質は、III−V系列の化合物半導体物質になりうるが、これに限定されるものではない。例えば、チャネル層212は、GaN系物質層、具体的な例としてGaN層になる。一方、図示はしていないが、基板210とチャネル層212との間には所定のバッファ層がさらに設けられてもよい。
【0038】
チャネル層212上には、チャネル供給層214が設けられる。チャネル供給層214は、チャネル層212に2次元電子ガス2DEGを引き起こす。チャネル供給層214は、チャネル層212をなす第1半導体物質とは異なる第2半導体物質を含む。第2半導体物質は、第1半導体物質と分極特性、エネルギーバンドギャップ及び格子定数のうち少なくとも一つが異なる。具体的には、第2半導体物質は、分極率とエネルギーバンドギャップのうち少なくとも一つが第1半導体物質より大きい。例えば、チャネル供給層214は、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された少なくとも一つを含み、単層または複数層構造を持つ。具体的な例として、チャネル供給層214は、AlGaN、AlInN、InGaN、AlN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含む。しかし、これらに限定されるものではない。
【0039】
チャネル供給層214の両側のチャネル層212上にはソース電極251及びドレイン電極252が設けられる。ソース電極251及びドレイン電極252はチャネル供給層214上に設けられてもよく、チャネル供給層214の内部またはチャネル層212の内部に挿入されるように設けられてもよい。そして、それ以外にもソース電極251及びドレイン電極252の構成は多様に変化される。
【0040】
ソース電極251とドレイン電極252との間のチャネル供給層214上には、空乏形成層230が所定厚さに設けられる。ここで、空乏形成層230は、2次元電子ガス2DEGに空乏領域を形成する役割を行える。空乏形成層230は、p型半導体物質を含む。すなわち、空乏形成層230は、p型半導体層であるか、またはp型不純物にドーピングされた半導体層である。また、空乏形成層230は、III−V族系列の窒化物半導体を含む。例えば、空乏形成層230は、GaN、AlGaN、InN、AlInN、InGaN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含み、Mgなどのp型不純物でドーピングされる。具体的な例として、空乏形成層230は、p−GaN層またはp−AlGaN層である。このような空乏形成層230によってその下のチャネル供給層214部分のエネルギーバンドギャップが高くなりつつ、2次元電子ガス2DEGの断絶領域が形成される。空乏形成層230は、後述する第1及び第2ゲート電極221、222に対応する形状に形成される。
【0041】
空乏形成層230上には、第1ゲート電極221が設けられる。そして、ソース電極251と第1ゲート電極221との間の空乏形成層230上には第2ゲート電極222が設けられる。そして、チャネル供給層214の露出された上面を覆うように、コーティング層231が形成される。ここで、コーティング層231は、その下のチャネル供給層214を保護する役割を行える。本実施形態で、コーティング層231は、空乏形成層230と同じ物質からなる。この場合、コーティング層231は、空乏領域を形成しないように空乏形成層230に比べて非常に薄く形成される。一方、コーティング層231は、空乏形成層230とは異なる物質からなってもよい。一方、図面では、コーティング層231がチャネル供給層214の露出された上面全体を覆うように形成された場合が例示的に図示されているが、これに限定されず、コーティング層231は、チャネル供給層214の露出された上面の一部のみを覆うように形成されてもよい。
【0042】
第2ゲート電極222は、第1ゲート電極221に第1ゲート電圧が印加されることで第2ゲート電圧が誘導されるフローティング電極である。本実施形態で、第1ゲート電極に第1ゲート電圧が印加されれば、コーティング層と当接するチャネル供給層の上面を通じて、第2ゲート電極に第2ゲート電圧が誘導される。ここで、第2ゲート電極222には、第1ゲート電極221に印加される電圧より低い電圧が誘導される。第2ゲート電極222に誘導される第2ゲート電圧は、第1ゲート電極221に印加される第1ゲート電圧、第1ゲート電極221と第2ゲート電極222との間隔、及びソース電極251と第2ゲート電極222との間隔によって定められる。ここで、第2ゲート電極222に誘導される第2ゲート電圧は、第1ゲート電極221及び/または第2ゲート電極222の位置を変化させることで調節される。一方、上述の場合においてはソース電極251と第1ゲート電極221との間に一つの第2ゲート電極222が設けられた場合が説明されたが、ソース電極251と第1ゲート電極221との間に複数の第2ゲート電極222が設けられてもよい。
【0043】
図8は、例示的な実施形態による高電子移動度トランジスタ300を示す斜視図である。そして、
図9は、
図8に示した高電子移動度トランジスタ300の断面図である。以下では、前述した実施形態と異なる点を中心として説明する。
【0044】
図8及び
図9を参照すれば、基板310上に第1半導体物質を含むチャネル層312が設けられている。チャネル層312は、例えば、GaN系物質層、具体的にはGaN層になる。一方、図示はしていないが、基板310とチャネル層312との間には所定のバッファ層がさらに設けられてもよい。チャネル層312上には、第1半導体物質とは異なる第2半導体物質を含むチャネル供給層314が設けられる。チャネル供給層314は、チャネル層312に2次元電子ガス2DEGを引き起こす。例えば、チャネル供給層314は、Al、Ga、In及びBのうち少なくとも一つを含む窒化物から選択された少なくとも一つを含み、単層または複数層構造を持つ。さらに具体的な例として、チャネル供給層314は、AlGaN、AlInN、InGaN、AlN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含む。しかし、これらに限定されるものではない。
【0045】
チャネル供給層314両側のチャネル層312上には、ソース電極351及びドレイン電極352が設けられる。ソース電極351及びドレイン電極352は、チャネル供給層314上に設けられてもよく、また、チャネル供給層314の内部またはチャネル層312の内部に挿入されるように設けられてもよい。チャネル供給層314上には空乏形成層330が設けられる。空乏形成層330はp型半導体物質を含む。空乏形成層330はIII−V族系列の窒化物半導体、例えば、GaN、AlGaN、InN、AlInN、InGaN及びAlInGaNのうち少なくとも一つを含む。具体的な例として、空乏形成層330は、p−GaN層またはp−AlGaN層である。空乏形成層330は、後述する第1及び第2ゲート電極321、322に対応する形状に形成される。
【0046】
空乏形成層330上には第1ゲート電極321が設けられる。そして、ソース電極351と第1ゲート電極321との間の空乏形成層330上には、第2ゲート電極322が設けられる。第2ゲート電極322は、第1ゲート電極321に第1ゲート電圧が印加されることで第2ゲート電圧が誘導されるフローティング電極である。本実施形態で、第1ゲート電極321に第1ゲート電圧が印加されれば、第1ゲート電極321と第2ゲート電極322との間のチャネル供給層314の上面を通じて、第2ゲート電極322に第2ゲート電圧が誘導される。ここで、第2ゲート電極322には、第1ゲート電極321に印加される電圧より低い電圧が誘導される。第2ゲート電極322に誘導される第2ゲート電圧は、第1ゲート電極321に印加される第1ゲート電圧、第1ゲート電極321と第2ゲート電極322との間隔、及びソース電極351と第2ゲート電極322との間隔によって定められる。ここで、第2ゲート電極322に誘導される第2ゲート電圧は、第1ゲート電極321及び/または第2ゲート電極322の位置を変化させることで調節される。一方、以上では、ソース電極351と第1ゲート電極321との間に一つの第2ゲート電極322が設けられた場合が説明されたが、ソース電極351と第1ゲート電極321との間に複数の第2ゲート電極322が設けられてもよい。
【0047】
以上の実施形態による高電子移動度トランジスタは、ノーマリオフ特性を持ち、またソース電極と第1ゲート電極との間にフローティング電極である第2ゲート電極を設けることで、しきい電圧を高める。そして、第1及び第2ゲート電極の位置を変化させることで、高電子移動度トランジスタのしきい電圧を調節する。以上のように例示的な実施形態により技術的内容を説明したが、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高電子移動度トランジスタ関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
100 高電子移動度トランジスタ
110 基板
112 チャネル層
114 チャネル供給層
121 第1ゲート電極
122 第2ゲート電極
130 空乏形成層
151 ソース電極
152 ドレイン電極
200 高電子移動度トランジスタ
210 基板
212 チャネル層
214 チャネル供給層
221 第1ゲート電極
222 第2ゲート電極
230 空乏形成層
231 コーティング層
251 ソース電極
252 ドレイン電極
300 高電子移動度トランジスタ
310 基板
312 チャネル層
314 チャネル供給層
321 第1ゲート電極
322 第2ゲート電極
330 空乏形成層
351 ソース電極
352 ドレイン電極