特許第6381883号(P6381883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6381883-不随意運動の予防及び/又は治療組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381883
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】不随意運動の予防及び/又は治療組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/428 20060101AFI20180820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   A61K31/428
   A61P43/00 111
   A61P21/00
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-209692(P2013-209692)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-74607(P2015-74607A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年10月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名: 「26th ECNP Congress Barcelona」 発行日(公開日):平成25年9月9日 発行所(HP):European College of Neuropsychopharmacology(ECNP) 演題番号:P3.d.029 公開者:岡東歩美、木村大、高瀬直子、金原信久、渡邊博幸、伊豫雅臣 公開のタイトル:Potential treatment with extended−release D2/D3 receptor agonist for tardive dystonia
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】伊豫 雅臣
(72)【発明者】
【氏名】金原 信久
(72)【発明者】
【氏名】木村 大
(72)【発明者】
【氏名】岡東 歩美
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 博幸
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−140461(JP,A)
【文献】 特開2013−009662(JP,A)
【文献】 特開2013−056911(JP,A)
【文献】 European Journal of Pharmacology,1992年 5月14日,Vol.215, No.2-3,p.161-170
【文献】 Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry,1999年,Vol.67, No.6,p.807-810
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/428
A61P 21/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラミペキソール塩酸塩水和物を有効成分として含む遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤であって、
相動性緊張型のジストニアを軽減するために該有効成分の1日投与量が0.1 mg〜0.7mgであり、並びに/又は、相動性緊張型のジストニア改善若しくは持続緊張型のジストニアの発症を抑制するために該有効成分の1日投与量が1.0〜1.95mgである、ことを特徴とする遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載の遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤であって、
相動性緊張型のジストニアを軽減するために有効成分の1日投与量が0.1 mg〜0.7mであることを特徴とする遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載の遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤であって、
相動性緊張型のジストニア改善、及び/若しくは持続緊張型のジストニアの発症を抑制するために有効成分の1日投与量が1.0〜1.95mgであることを特徴とする遅発性ジストニアの予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不随意運動の予防及び/又は治療組成物、特にジストニアの予防及び/又は治療組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(不随意運動)
不随意運動とは、意思とは無関係に、あるいは意思に逆らって出現する運動の総称である。健常人でも状況によりみられ、心因性に発生することもある。中枢神経系の運動機能支配調節系のいずれの障害でも発生するが、臨床的には舞踏病をはじめとする錐体外路症状として出現することが多い。
【0003】
(ジストニア)
ジストニアとは、筋肉の緊張の異常によって様々な不随意運動が生じる状態の総称である。ジストニアには、全身の筋肉が異常に動いてしまう全身性ジストニアと、局所のみの筋緊張の異常による局所ジストニアに大別される。
さらに、精神疾患に用いる向精神薬等の影響で出現するジストニア症状を遅発性ジストニアと呼ばれている。
【0004】
(ジストニアの治療)
ジストニアの治療としては、ベンアゾジアゼピン系の薬物投与、ボツリヌス神経毒投与、抗ドパミン拮抗薬投与、抗コリン剤投与、筋弛緩作用の強い安定剤の投与が知られている。
これらの治療方法で用いる薬剤の有効成分は、本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物の有効成分であるドパミンD2/D3受容体アゴニストとはまったく異なる。
【0005】
また、ジストニアの治療に関する下記の報告がある。
特許文献1は、「内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体と、脳特異的タンパク質S−100に対する活性化増強型抗体とを含む組み合わせ医薬組成物、並びに自律神経血管ジストニア(VVD)及びその症状を治療するためのその使用」を開示している。該文献に記載の医薬組成物の有効成分は、本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物の有効成分であるドパミンD2/D3受容体アゴニストとはまったく異なる。
特許文献2は、「トリアゾロピリミジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩であるアデノシンA2A受容体拮抗作用を有する運動障害の予防および/又は治療剤」を開示している。該文献に記載の医薬組成物の有効成分は、本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物の有効成分であるドパミンD2/D3受容体アゴニストとはまったく異なる。
【0006】
また、従来のジストニアの治療方法は、長期投与により効果が低減したり、さらには副作用の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2013−536174号公報
【特許文献2】特開2013−56911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、不随意運動の予防及び/又は治療組成物、特にジストニアの予防及び/又は治療組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ドパミンD2/D3受容体アゴニストであるプラミペキソール塩酸塩水和物を、不随意運動を生じる遅発性ジストニア発症患者に投与することにより、遅発性ジストニアを改善できることを確認して、本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物(特に、ジストニアの予防及び/又は治療組成物)を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.ドパミンD2/D3受容体アゴニストを有効成分として含む不随意運動の予防及び/又は治療組成物。
2.前記不随意運動は、ジストニアである前項1に記載の予防及び/又は治療組成物。
3.前記ドパミンD2/D3受容体アゴニストは、以下のいずれか1以上から選択される前項1又は2に記載の予防及び/又は治療剤。
(1)プラミペキソール塩酸塩水和物又はその薬学的に許容される塩
(2)ペルゴリドメシル酸塩又はその薬学的に許容される塩
(3)カベルゴリン又はその薬学的に許容される塩
(4)タリペキソール塩酸塩又はその薬学的に許容される塩
(5)ロビニロール塩酸塩又はその薬学的に許容される塩
4.プラミペキソール塩酸塩水和物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含むジストニアの予防及び/又は治療組成物。
5.前記プラミペキソール塩酸塩水和物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物の1日の投与量が、下記のいずれかであることを特徴とする前項4に記載の予防及び/又は治療剤。
(1)0.1mg〜0.7mg
(2)1.0mg〜1.9mg
6.プラミペキソール塩酸塩水和物の1日の投与量が、0.375mg〜1.875mgであることを特徴とする、U-shape型の遅発性ジストニアの予防及び/又は治療組成物。
7.プラミペキソール塩酸塩水和物の1日の投与量が、0.375mg〜0.75mgであることを特徴とする、遅発性ジストニアの予防及び/又は治療組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の新規な不随意運動の予防及び/又は治療組成物は、不随意運動、特にジストニアを改善した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ESRSの総点及びESRS-Dystonia得点の推移(患者M)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(不随意運動の予防及び/又は治療組成物)
本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物(「本発明の組成物」と称する場合がある)は、少なくとも有効成分として、ドパミンD2/D3受容体アゴニストが含まれている。なお、ドパミンD2/D3受容体アゴニストとは、ドパミンD2アゴニスト 及び/又はドパミンD3受容体アゴニストであることを意味する。
本発明の組成物における「予防」とは、不随意運動を生じる可能性のある患者、現在は不随意運動を生じていないが過去に不随意運動を生じた過去がある患者等に対して、本発明の組成物を投与することを意味するが、特に限定されない。
本発明の組成物における「治療」とは、不随意運動を生じている患者の不随意運動を緩和、低減、改善、完治等を意味するが、特に限定されない。
以下、本発明の不随意運動の予防及び/又は治療組成物を下記で説明する。
【0014】
(不随意運動)
本発明の組成物を投与することによる予防・治療の対象となる不随意運動は、以下を列挙することができるが特に限定されない。好ましくは、ジストニア、より好ましくは遅発性ジストニアを予防・治療の対象とする。なお、本発明の「ジストニア」は、遅発性ジストニアを含む。
(1)ジストニア
(2)遅発性ジストニア
(3)ジスキネジア
(4)遅発性ジスキネジア
(5)コレア
(6)バリズム
(7)アタキシア
(8)アカシジア
(9)アテトーゼ
(10)チック
(11)ミオクローヌス
【0015】
(ドパミンD2/D3受容体アゴニスト)
本発明の組成物に有効成分として含まれるドパミンD2/D3受容体アゴニストは、以下を列挙することができるが、不随意運動の予防・治療に効果があれば特に限定されない。プラミペキソール塩酸塩水和物又はその薬学的に許容される塩が、本発明の組成物して好ましい。
(1)プラミペキソール塩酸塩水和物又はその薬学的に許容される塩
ドパミン作動性パーキンソン病治療剤、レストレスレッグス症候群治療剤として、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社等から販売されている。
(2)ペルゴリドメシル酸塩又はその薬学的に許容される塩
ドパミンD1、D2作動性パーキンソン病治療剤として、マイラン等から市販されている。
(3)カベルゴリン又はその薬学的に許容される塩
ドパミン作動薬として、ファイザー株式会社等から市販されている。
(4)タリペキソール塩酸塩又はその薬学的に許容される塩
パーキンソン病治療剤として、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社から販売されている。
(5)ロビニロール塩酸塩又はその薬学的に許容される塩
ドパミンD2 受容体系作動薬として、グラクソ・スミスクライン株式会社から販売されている。
【0016】
(不随意運動の予防及び/又は治療組成物の組成)
本発明の組成物は、ドパミンD2/D3受容体アゴニストに加え、ジストニアに効果のある他の薬効成分であって、ドパミンD2/D3受容体アゴニスト以外の有効成分を含有していてもよい。
また、これら薬効成分の他に、適宜、投与形態等に応じて、当業者によく知られた適切な薬学的に許容される担体を含有していてもよい。薬学的に許容される担体としては、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、及びpH調整剤等を例示できる。
【0017】
本発明の組成物を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤又は懸濁剤の製剤の形態が好ましく、経鼻腔や口腔等の経粘膜投与用の場合は、粉末、滴剤、又はエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。また、直腸投与用の場合は、クリ−ム又は坐薬のような半固形剤の製剤の形態が好ましい。これらの製剤はいずれも、例えばレミントンの製薬科学(マック・パブリッシング・カンパニー、イーストン、PA、1970年)に記載されているような製薬技術上当業者に知られているいずれかの方法によって調製することができる。
注射用製剤は担体として、例えば、アルブミン等の血漿由来タンパク、グリシン等のアミノ酸、及びマンニトール等の糖を加えることができ、さらに緩衝剤、溶解補助剤、及び等張剤等を添加することもできる。また、水溶製剤又は凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐためにTween(登録商標)80、Tween(登録商標)20等の界面活性剤を添加するのが好ましい。
さらに、注射用製剤以外の非経口投与剤形は、蒸留水又は生理食塩液、ポリエチレングリコ−ルのようなポリアルキレングリコ−ル、植物起源の油、及び水素化したナフタレン等を含有してもよい。例えば、坐薬のような直腸投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、例えば、ポリアキレングリコ−ル、ワセリン、及びカカオ油脂等を含有する。膣用製剤では、胆汁塩、エチレンジアミン塩、及びクエン酸塩等の吸収促進剤を含有してもよい。吸入用製剤は固体でもよく、賦形剤として、例えば、ラクト−スを含有してもよく、さらに、経鼻腔滴剤は水又は油溶液であってもよい。
【0018】
(不随意運動の予防及び/又は治療組成物の投与量及び投与計画)
本発明の組成物の正確な投与量及び投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度等に依存して調整できる。投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、及び患者の病状等に応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。
本発明の組成物を、不随意運動を発症している患者に投与する場合は、該組成物中に含まれる有効成分は、不随意運動の軽減及び/又は予防に有効な量を含有することが好ましい。
1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、有効成分量として、非経口投与の場合は、約0.01〜1000mg/人/日、好ましくは0.1〜500mg/人/日で投与され、また、経口の場合は約0.01〜500mg/人/日、好ましくは0.1〜100mg/人/日で投与されることが望ましい。
【0019】
(プラミペキソール塩酸塩水和物を有効成分して含む不随意運動の予防及び/又は治療組成物)
本発明のプラミペキソール塩酸塩水和物を有効成分して含む不随意運動の予防及び/又は治療組成物は、下記の実施例及び本発明者らの知見により、遅発性ジストニアを有する患者に対して、下記の1日の適切な投与量を新規に見出した。
極少投与量である0.1〜0.7mg、好ましくは0.2〜0.6mg、より好ましくは約0.375mg投与により、相動性緊張型のジストニア(phasic dystonia)を軽減することができる。
中投与量である1.0〜1.95mg、好ましくは1.2〜1.9mg、より好ましくは約1.8mg投与により、相動性緊張型のジストニアの改善、持続緊張型のジストニア(tonic dystonia)の発症の抑制、さらには副作用であるジスキネジアの発症の抑制をすることができる。
【0020】
以下、実施例にて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0021】
(ドパミンD2/D3受容体アゴニスト投与による遅発性ジストニアの改善確認)
ドパミンD2/D3受容体アゴニストであるプラミペキソール塩酸塩水和物を、不随意運動である遅発性ジストニアと診断された患者に投与して、遅発性ジストニアの改善確認を行った。詳細は、以下の通りである。なお、ジストニアの改善評価は、ESRS{Extrapyramidal Symptoms Rating Scale、錐体外路症状の評価尺度:参照文献:Guy Chouinarda,b,T, Howard C. Margolesea. Manual for the Extrapyramidal Symptom Rating Scale (ESRS). Schizophrenia Research 76 (2005) 247- 265.}を用いた。
【0022】
(患者M)
患者M は、X年ある病院にてうつ病で治療が開始され、sulpiride(スルピリド:抗精神病薬)、levomepromazine(レボメプロマジン:抗精神病薬)等が処方されていた。Fluvoxamine(フルボキサミン:抗うつ薬)、imipramine(イミプラミン:抗うつ薬)も処方されていたようだが、詳細は不明である。
X+3年1月頃より首が動くようになり、首と肩に痛みが生じるようになった。
X+4年2月10日に治療抵抗性のうつ状態と遅発性ジストニアのため当科紹介初診。受診時、lithium(リチウム:気分安定薬)800mg、sulpride 100mg、seroquel (セロクエル:抗精神病薬)75mg、biperiden (ビペリデン:抗コリン薬)2mg、paroxetine (パロキセチン:抗うつ薬)20mg等が処方されていた。当科にて双極性障害及び遅発性ジスキネジアと診断された。治療方針として、当科にて気分障害の治療を行い、遅発性ジストニアについてはA型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス)による治療が行われた。さらに、神経内科にて、抗精神病薬による頸部の遅発性ジストニアと診断された。
Trihexyphenidyl (トリヘキシフェニジル:抗コリン薬)6mg、clonazepam (クロナゼパム:ベンゾジアゼピン系薬であり抗不安薬)1mgまで増量するも効果がなかった。A型ボツリヌス毒素製剤注射2回目施行するも改善乏しく、嚥下困難(dysphagia)が出現したため中止した。
抗うつ薬、抗精神病薬を中止してlithium 800mgにてX+4年8月中旬に気分の安定が得られたため、それ以降、精神科的にはlithiumにて治療を行った。
【0023】
(1)X+4年11月26日
右頸部の遅発性ジストニアが著明にみられ、頭を左側に旋回し、両手で抑えながら会話をしていた(ESRS 46点)。Pramipexole 徐放性剤(プラミペキソール塩酸塩水和物:ドパミンD2/D3受容体アゴニスト)0.375mgの処方を開始した。
(2)X+4年11月29日
右頸部の大きな回旋運動は改善し、両手で抑えなくても会話ができたが、依然ジストニアは認められた(ESRS 27点)。継続してPramipexole 徐放性剤0.375mgを処方した。
(3)X+4年12月10日
ジストニアは前回とほとんど変わらなかった(ESRS 23点)。そのため、Pramipexole 徐放性剤を0.75mgに増量して処方した。
(4)X+4年12月17日
ジストニアに改善がみられた(ESRS 16点)。そのためPramipexole 徐放性剤を1.125mgに増量して処方した。
(5)X+5年1月7日
ジストニアは軽度だがさらに改善した(ESRS 12点)。そのため、Pramipexole 徐放性剤を1.5mgに増量して処方した。
(6)X+5年1月28日
回旋運動に悪化がみられた(ESRS 34点)。そのため、Pramipexole 徐放性剤を1.125mgに減量して処方した。
(7)X+5年2月4日
ジストニアは全体的に改善が見られるが、前回の同用量に比べて重度であった(ESRS 27点)。さらに、Pramipexole 徐放性剤を0.75mgに減量して処方した。
(8)X+5年2月18日
ジストニアはやや改善した(ESRS 22点)。さらに、Pramipexole 徐放性剤を0.375mgに減量して処方した。
(9)X+5年2月25日
ジストニアはさらに改善がみられた(ESRS 11点)。Pramipexole 徐放性剤を0.375mgで維持して処方した。
(10)X+5年3月4日
ジストニアは改善した状態が維持された(ESRS 11点)。Pramipexole 徐放性剤0.375mgで維持して処方した。
(11)X+5年3月18日
両手で支えないと止まらない話せないほどに頚部ジストニアが悪化した(ESRS 26点)。Pramipexole 徐放性剤0.75mgに再度増量して処方した。
(12)X+5年3月25日
前回よりも改善しているが日によって変動があった(ESRS 22点)。Pramipexole 徐放性剤0.75mgで維持して処方した。
(13)X+5年4月8日
発作的な引っ張られるジストニアは消失しているが、緊張するとジストニアは出現した(ESRS 19点)。Pramipexole 徐放性剤0.75mgで維持して処方した。
(14)X+5年4月25日
揺れたり、右に傾くという症状が見られ、片手で動きを支えており、やや悪化した(ESRS 22点)。Pramipexole 徐放性剤0.75mgで維持して処方した。
(15)X+5年6月6日
ジストニアは軽度改善した(ESRS 19点)。Pramipexole 徐放性剤をさらに増量し 1.125mgで処方した。
(16)X+5年6月20日
ジストニアは改善した(ESRS 14点)。Pramipexole 徐放性剤増量し 1.5mg で処方した。
(17)X+5年6月27日
ジストニアは改善した(ESRS 6点)。患者Mの自覚的には不変であった。Pramipexole 徐放性剤を1.5mgにて維持して処方した。
(18)X+5年7月18日
ジストニアは不変であった(ESRS 6点)。Pramipexole 徐放性剤を1.875mgに増量して処方した。
(19)X+5年8月8日
やや右に傾いているが不変であった(ESRS 6点)。Pramipexole 徐放性剤 を1.875mgで維持して処方した。
(20)X+5年8月29日
精神的な緊張で悪化することがあるが、診察時は改善が維持されていた(ESRS 6点)。Pramipexole 徐放性剤1.875mgで維持して処方した。
【0024】
(患者Mのジストニアの改善確認)
上記プラミペキソール塩酸塩水和物(Pramipexole 徐放性剤)の投与スケジュール、ESRSの総得点及びESRS-Dystonia得点を下記表1に示す。さらに、ESRSの総得点及びESRS-Dystonia得点の推移を図1に示す。
下記表1及び図1から明らかなように、プラミペキソール塩酸塩水和物の投与によりESRSのスコアが減少した。すなわち、錐体外路症状、特に遅発性ジストニアが改善されたことを確認した。
より詳細には、プラミペキソール塩酸塩水和物は当初用量依存的に遅発性ジストニアを改善したが、その後、1.5mgで増悪し、減量により改善した。しかし、その後また悪化したため、増量により再度改善しその後1.875mgで維持した。服薬遵守は患者の申告に基づくが、少量から効果発現し、その後、増量により一過性に悪化するも、さらに増量すると改善が得られるというU-shape型の遅発性ジストニア改善効果を得られた。
【0025】
【表1】
【0026】
(患者N)
本患者Nの診断名は、統合失調感情障害及び遅発性ジスキネジアであった。抗精神病薬を長期使用後に、不随意運動が出現し、特に些細なストレスで不随意運動が増悪すること、さらに抗精神病薬を減量しても症状は改善しなかったため遅発性ジストニアと診断した。詳細は以下の通りである。
【0027】
(1)1996年5月に2〜3週HPD(ハロペリドール:抗精神病薬)を使い18mgまで増量して処方した。該増量の際に、急性ジストニアが出たのでRIS(リスペリドン:抗精神病剤薬)4mgに変更し、その後10年程3〜4mgで維持し、RIS4mgの状態で遅発性ジストニアが出現した。
(2)2010年3月頃より遅発性ジストニアの不随意運動として頚部の左方捻転、左上肢から頚部の体幹を巻き込むような捻転、眼輪筋の緊張による閉眼が出現した。
ミラペックス(登録商標)(プラミペキソール塩酸塩水和物:ドパミンD2/D3受容体アゴニスト)を0.375mgまで増量したところ、上記それぞれの症状は軽度軽減した。しかし、未だ食事をとることができないほどの症状であった。さらに、0.75mgの増量で特に左上肢の捻転、眼輪筋の緊張による閉眼が改善し、食事がとれるまでに改善した。
【0028】
(患者Nのジストニアの改善確認)
上記プラミペキソール塩酸塩水和物の投与スケジュール、ESRSの総得点、ESRS-Dystonia得点、PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale:統合失調症の指標)の総得点及びGAF(Global Assessment of Functioning:日常生活や社会生活の質の評価)得点を下記表2に示す。
下記表2から明らかなように、プラミペキソール塩酸塩水和物の投与によりESRSのスコア及びESRS-Dystoniaスコアが減少した。すなわち、錐体外路症状、特にジストニアが改善されたことを確認した。
PANSSに関し、スコアの変化がなかった。すなわち、プラミペキソール塩酸塩水和物の投与により、統合失調症には、悪化も、改善もなく、影響しなかった。
GAFに関し、スコアが上昇した。すなわち、統合失調症症状が変化ないにもかかわらず上昇したことは、ジストニアの改善により生活の質が大きく改善した。
以上により、プラミペキソール塩酸塩水和物投与により、錐体外路症状、さらには、ジストニアは、改善した。しかし、統合失調症には変化がなかった。すなわち、統合失調症の治療薬剤の副作用であるジストニアのみが改善されたので、プラミペキソール塩酸塩水和物がジストニアを改善した。
【0029】
【表2】
【0030】
(総評)
本発明者らは、上記実施例1の結果及び現在の本発明者らの知見により、抗精神病薬(ドパミンD2受容体アンタゴニスト又はドパミンD2/D3アンタゴニスト)の長期投与により前シナプスのD2受容体数及びD3受容体数が増加し、該増加が遅発性ジストニアの原因となっていると考える。
そして、ドパミンD2/D3受容体アゴニスト投与による不随意運動、特に遅発性ジストニアの改善は前シナプスのD2受容体及びD3受容体に作用することにより発揮され、遅発性ジストニア発現機序及び徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの用量依存的効果は以下であると考える。
【0031】
(遅発性ジストニア発現機序)
遅発性ジストニアは、ストレスや姿勢を保持しようとするときに局所の筋肉が一過性に収縮し、それを繰り返すタイプ(phasic type、相動性緊張型)と、局所の筋肉が持続的に緊張し続けて捻じれた姿勢が維持されるタイプ(tonic type、緊張持続型)に大きく分かれる。そして、前シナプス(プレシナプス)のドパミンD2及びD3受容体は後シナプス(ポストシナプス)のD2及びD3受容体よりもドパミンへの結合親和性が高い。そのため、放出されたドパミンが前シナプスのD2及びD3受容体に結合してドパミン放出を抑制・停止させる。前シナプスのD2及びD3受容体数が増加していれば、ドパミン放出に伴った運動が一気に過剰抑制されるが、ドパミン不足が生じるために再度ドパミンが放出されてまた運動の過剰抑制が生じるという相動性緊張型を示す。一方、前シナプスのドパミンD2及びD3受容体数がさらに過剰な場合には、シナプス間隙に常時存在する量のドパミンによっても放出抑制が生じていて、緊張持続型のジストニアが生じる。
【0032】
(徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの用量依存的効果)
1.(極低投与量)
一定量以下の極低投与量の徐放性ドパミンD2受容体アゴニストは少数の前シナプスのD2受容体に常に結合するものの、前シナプスのD2受容体を介したドパミン放出抑制はほとんど起こさないと考えられる。従って、該アゴニストのD2受容体への親和性が十分に高ければ、一定量のD2受容体が該アゴニストによって既に占拠されているため、ストレス等で放出されたドパミンが結合可能な前シナプスのD2受容体数は減少する。その結果、ドパミン放出後に生じる急激な放出抑制は軽減し、相動性緊張型のジストニアは軽減する。
極低投与量は、1日当たり0.375mg程度である。
2.(低投与用量)
徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの投与量を上記「1」から更に増加させた場合には、ドパミンD2受容体を介して軽度ドパミン放出を抑制している。この時にストレス等でドパミンが放出されると、その一過性に増加したドパミンによる急激な放出抑制と該アゴニストによって生じている放出抑制が相互作用してしまい、相動性緊張型のジストニアが再度悪化する。
低投与量は、1日当たり0.75mg程度である。
3.(中投与量)
徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの投与量を上記「2」から更に増加させると、持続的に比較的多くのドパミンD2受容体に結合しドパミン放出量を抑制し、ストレス等で放出されるドパミン量も少なくなる。そのため、相動性緊張型のジストニアは改善する。
中投与量は、1日当たり1.5mg程度である。
4.(高投与量)
徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの投与量を上記「3」から更に高投与量とすると、前シナプスのD2受容体を過剰に占拠して、ドパミン放出量が常に過剰抑制されており、またストレス等で放出されるドパミン量も少ないため、持続緊張型のジストニアが生じる。
高投与量は、1日当たり2.000mg程度である。
5.(極投与量)
徐放性ドパミンD2受容体アゴニストの投与量が大過剰、すなわちパーキンソン病治療における投与では後シナプスのD2受容体を刺激したときの反応が出始める。この時、遅発性ジストニアが生じる人では後シナプスのD2受容体数も過剰となっていることが考えられるため、このような場合ではジスキネジアが生じる。
【0033】
(徐放性ドパミンD2/D3受容体アゴニスト)
Pramipexole等のようなD2/D3受容体アゴニストについては、D3受容体を介した用量依存的な作用も同時に生じていることが考えらえる。
その場合、いずれの受容体を介した作用が先に生じるかはその薬剤のD2受容体への親和性の高さとD3受容体への親和性の高さによって異なる。Pramipexoleの場合にはD3受容体への親和性がD2受容体に対して60倍程度とされており、極低投与量では主にD3受容体を介した効果が中心に出現していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明では、新規な不随意運動の予防及び/又は治療組成物、特にジストニアの予防及び/又は治療組成物を提供することができる。
図1