(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンを主成分として含む請求項1に記載の冷媒循環装置。
前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンのシス体またはハイドロクロロフルオロオレフィンのシス体を主成分として含む請求項1に記載の冷媒循環装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HFOおよびHCFOは、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するため、HFCよりも安定性が低い。HFOおよびHCFOの中には、シス体またはトランス体という幾何異性体を有するものがある。一般に、シス−トランス異性体を有するHFOおよびHCFOでは、一方の幾何異性体が他方の幾何異性体よりも安定な構造をとることが知られている。例えば、HFO1234zeでは、トランス体の方がシス体よりも安定な構造とされている。冷媒の安定性が低いと、熱サイクル中で冷媒の物性が変化することがある。熱サイクル中の冷媒の物性が、冷媒充填時の冷媒の物性から変化する状況では、安定的な熱サイクルが維持できない。そのため、HFOおよびHCFO、特にHFOのシス体(HFO−シス体)およびHCFOのシス体(HCFO−シス体)は、熱物性、特性は優れているが、物性変化の観点から、冷媒として使用し難い場合がある。
【0007】
ヒートポンプ装置および有機ランキンサイクル装置では、冷媒と熱媒との間で熱交換が行われる。冷媒の沸点が熱媒の温度よりも低いと、より強靭な装置としない限り、熱交換効率が制限される。そのため、冷媒の沸点は、利用可能な熱媒の温度により近いことが求められる。ヒートポンプ装置では、熱媒として外気や水などが用いられる。
【0008】
HFO1234yfの沸点は−29℃である。HFO1234zeは、HFO1234yfよりも沸点が高い。HFO1234ze(Z)の沸点は+10℃であり、HFO1234ze(E)の沸点(b.p.−19℃)よりも高い。このように、幾何異性体を有するHFOおよびHCFOは、不安定な構造をとる幾何異性体が、他方の幾何異性体よりも高い沸点を有する。熱交換効率の観点から、HFOおよびHCFOの中では、シス体が冷媒として優れていることがある。特に、80℃以上の熱源を利用するヒートポンプ装置および有機ランキンサイクル装置では、トランス体よりも沸点が高いシス体が冷媒として優れていることがあり、シス体(HFO−シス体、HCFO−シス体)の安定性を高めることが求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、HFOまたはHCFO、特にHFO−シス体またはHCFO−シス体を冷媒として用いても安定的な熱サイクルを維持できるヒートポンプ装置および有機ランキンサイクル装置、ならびに、該装置を用いた冷媒循環方法および異性化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の冷媒循環装置
、冷媒循環方法および異性化抑制方法は以下の手段を採用する。
本発明は、冷媒を利用する冷媒循環装置であって、前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンを含み、冷媒循環回路中に、前記冷媒の異性化反応を抑制する反応抑制部が設けられることを特徴とする冷媒循環装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、冷媒を利用する冷媒循環装置において、前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンを含み、冷媒循環回路中に、前記冷媒の異性化反応を抑制する反応抑制材を含む反応抑制部を設け、前記冷媒を前記反応抑制材と接触させる異性化抑制方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、冷媒を利用する冷媒循環装置において、前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンを含み、冷媒循環回路中に、前記冷媒の異性化反応を抑制する反応抑制材を含む反応抑制部を設け、前記冷媒を前記反応抑制材と接触させる冷媒循環方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、冷媒循環回路(熱サイクル)中に反応抑制部を設けることで、冷媒の異性化反応を抑制できる。それによって、冷媒の熱物性変化を抑えられ、安定的な冷媒循環回路を維持できる。異性化反応とは複数の異性体を有するハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)が、目的物と異なる異性体
へ構造変化することを意味する。冷媒循環において、冷媒は、加熱・冷却されてもよいし、加圧・減圧されてもよい。
【0014】
上記発明の一態様において、前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンを主成分として含むことが好ましい。
【0015】
反応抑制部で異性体化を抑制できる対象の含有量が多いと、冷媒を安定化させる効果がより顕著となる。
【0016】
上記発明の一態様において、前記冷媒が、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンのシス体またはハイドロクロロフルオロオレフィンのシス体を主成分として含むことが好ましい。
【0017】
上記発明の一態様において、前記反応抑制部が、前記冷媒のシス体からトランス体への異性化反応を抑制することが好ましい。
【0018】
シス体はトランス体へと異性化する。シス体からトランス体への異性化反応を抑制することで、冷媒の沸点を高く維持できる。
【0019】
上記発明の一
参考態様において、前記反応抑制部は、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、金属シリコン、ケイ素鋼、スズ、マグネシウム、亜鉛、およびゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種の材料を主とする反応抑制材を備えることが好ましい。
上記発明の一態様において、反応抑制部内には反応抑制材が配置され、前記反応抑制材は、銅と鉄とアルミニウムとを混在させた構成物、または、アルミニウムを主とす
る。
【0020】
上記から選択された材料を主とする反応抑制材は、熱サイクル中でハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンの異性化反応を抑制できる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記反応抑制材は、ポーラス構造体、メッシュ構造体、または、ひだ状構造体であ
る。
【0022】
反応抑制材を上記構造体とすることで、冷媒と反応抑制材との接触面積が大きくなる。それによって、ハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンの異性化反応をより抑制できる。
【0023】
上記発明の一態様において、冷媒循環装置は、前記冷媒循環回路中に、前記冷媒の温度が175℃以上となる領域を有し、前記反応抑制部は、前記冷媒の温度が175℃以上になりえる領域に設けられることが好ましい。
【0024】
本発明者らは、ハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンのシス体は、冷媒温度が175℃以上になると異性化反応が加速する傾向があることを見出した。上記発明の一態様によれば、異性化反応が起こりやすい領域に反応抑制部を設けることで、効率よくハイドロフルオロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンの異性化反応を抑制できる。
【0025】
上記発明の一態様において、冷媒循環装置は、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備え、前記反応抑制部は、前記圧縮機から前記凝縮器までの間に設けられ得る。
【0026】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、および蒸発器を順次接続してなる冷媒循環回路において、圧縮機から凝縮器までの間は、冷媒がガス体として存在する高温・高圧環境であり、異性化反応が進みやすい領域である。上記発明の一態様によれば、圧縮機から凝縮器までの間に反応抑制部を設けることで、異性化反応が進みやすい領域でハイドロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンのシス体の異性化反応を抑制できる。
【0027】
上記発明の一態様において、冷媒循環装置は、前記冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備え、前記反応抑制部は、前記凝縮器から前記膨張弁までの間に設けられ得る。
【0028】
冷媒循環装置において、冷媒は、凝縮器により凝縮され、液体となる。液化された冷媒は、ガス体であるときよりも体積が小さくなる。上記発明の一態様によれば、凝縮器と膨張弁との間に反応抑制部を設けることで、より多くの冷媒が反応抑制材に接触できる。
【0029】
上記発明の一態様において、前記反応抑制部は、前記凝縮器内に組み込まれてもよい。
【0030】
冷媒循環装置の構成要素には冷媒による圧力がかかる。そのため、冷媒循環装置の構成要素は、冷媒からの圧力に耐えうる剛性を備えている必要がある。上記発明の一態様によれば、反応抑制部を凝縮器内に組み込むため、新たに耐圧容器を設ける必要がない。それにより、冷媒循環装置を軽くすることができる。
【0031】
上記発明の一態様において、冷媒循環装置は、前記冷媒を圧送するポンプと、圧送された冷媒を、熱源により加熱して蒸発させる蒸発器と、蒸発させた冷媒を膨張させる膨張機と、膨張させた冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、前記反応抑制部は、前記蒸発器から前記膨張機までの間に設けられ得る。
【0032】
ポンプ、蒸発器、膨張機、および凝縮器を順次接続してなる冷媒循環回路において、蒸発器から膨張機までの間は、冷媒がガス体として存在する高温・高圧環境であり、異性化反応が進みやすい領域である。上記一態様によれば、蒸発器と膨張機との間に反応抑制部を設けることで、ハイドロオレフィンまたはハイドロクロロフルオロオレフィンのシス体の異性化反応を抑制できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の冷媒循環装置、冷媒循環方法および異性化抑制方法によれば、反応抑制部を備えることで、冷媒循環回路中におけるHFOまたはHCFOの異性化反応を抑制できる。それにより、冷媒の熱物性変化を抑え、安定的な冷媒循環回路を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係るヒートポンプ装置(冷媒循環装置)の一例を示す概略構成図である。
図2は、
図1の反応抑制部の側面図である。
図3は、
図1の反応抑制部の斜視図である。
【0036】
ヒートポンプ装置1は、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4、蒸発器5、および反応抑制部6を備えている。圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4および蒸発器5は、順次、配管で接続され冷媒循環回路(ヒートポンプサイクル)を形成する。ヒートポンプ装置
1の各構成部材は、冷媒からの圧力に耐えうるよう設計されている。ヒートポンプサイクル内には、冷媒が充填されている。
【0037】
圧縮機2は、蒸発器5から流れてくる冷媒を吸入し、圧縮した後、該圧縮した冷媒を凝縮器3に向けて吐出するものである。圧縮機2は、冷媒の温度を175℃以上に高めることができる。圧縮機2は、ターボ圧縮機などの公知のものを用いることができる。圧縮機2は、多段式圧縮機であってもよい。圧縮機2は、複数設けられてもよい。
圧縮機2は、冷媒を吸入する吸入口、および、圧縮した冷媒を吐出する吐出口を備えている。圧縮機2の吐出口には、圧縮された冷媒ガスを凝縮器3へ向けて吐出するための吐出配管が接続されている。
【0038】
凝縮器3は、圧縮機2で圧縮された冷媒を冷却して凝縮し、冷媒液とすることができる。凝縮器3は、プレート式熱交換器またはシェルアンドチューブ型熱交換器などとされ得る。凝縮器3は、1つまたは複数設けられてよい。凝縮器3は、圧縮された冷媒が流入する流入配管と、凝縮器3で凝縮した冷媒を流出する流出配管とを備えている。
【0039】
膨張弁4は、凝縮器3で凝縮された冷媒液を断熱膨張させて減圧する弁である。膨張弁4としては、公知のものを用いることができる。
【0040】
蒸発器5は、膨張弁4により断熱膨張させた冷媒液を蒸発させるものである。蒸発器5は、プレート式熱交換器またはシェルアンドチューブ型熱交換器などとされ得る。
【0041】
ヒートポンプサイクル内に充填する冷媒は、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を含む。冷媒は、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を主成分とすることが好ましい。ハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、冷媒中に50GC%より多く、好ましくは75GC%より多く、更に好ましくは90GC%より多く含まれてい
る。ハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)はシス体であることが好ましい。
【0042】
具体的に、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)は、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ze(Z))、(Z)−1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ye(Z))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(HFO1225ye(Z))、(Z)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO1336mzz(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ze(E))、(E)−1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ye(E))、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(HFO1225ye(E))、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO1336mzz(E))、などとされる。
【0043】
具体的に、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233zd(Z))、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233zd(E))などとされる。
【0044】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)の純度は、好ましくは97GC%以上、より好ましくは99GC%以上、さらに好ましくは99.9GC%以上とされる。
【0045】
冷媒は、添加物を含んでいてもよい。添加物は、ハロカーボン類、その他のハイドロフルオロカーボン類(HFC)、アルコール類、飽和炭化水素類などが挙げられる。
【0046】
<ハロカーボン類およびその他のハイドロフルオロカーボン類>
ハロカーボン類としては、ハロゲン原子を含む塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等を挙げることができる。
ハイドロフルオロカーボン類としては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3
,3−
ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソブタン(HFC−356mmz)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10−mee)等を挙げることができる。
【0047】
<アルコール>
アルコールとしては、炭素数1〜4のメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等を挙げることができる。
【0048】
<飽和炭化水素>
飽和炭化水素としては、炭素数3以上8以下のプロパン、n−ブタン、i−ブタン、ネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、およびシクロヘキサンを含む群から選ばれる少なくとも1以上の化合物を混合することができる。これらのうち、特に好ましい物質としてはネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
【0049】
反応抑制部6は、冷媒の異性化反応を抑制するものである。反応抑制部6は、冷媒の温度が175℃以上となりえる領域に設けられる。本実施形態において、冷媒の温度が175℃以上となりえる領域は、圧縮機2から凝縮器3までの間とされる。反応抑制部6は、圧縮機2と凝縮器3とを接続する配管の少なくとも一部を兼ねている。反応抑制部6は、圧縮機2と凝縮器3とを接続する配管の全部を兼ねることが好ましい。
図2において、反応抑制部6は、圧縮機2の吐出口に直接接続されている。
【0050】
反応抑制部6は、第1反応抑制材を含む。第1反応抑制材は、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、金属シリコン、ケイ素鋼、スズ、マグネシウム、亜鉛、およびゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種の材料を主成分とする。主成分とは、最も多く含まれる成分を意味する。第1反応抑制材は、銅、鉄、およびアルミニウムの3種を混在させた構成物であることが好ましい。第1反応抑制材は、アルミニウムの単体またはゼオライトであってもよい。
第1反応抑制材の材料を上記から選択することで、冷媒の異性化反応を抑制できる。材料を上記から選択した第1反応抑制材は、175℃以上の高温環境で使用できる。
第1反応抑制材は、
第1反応抑制材の主成分が表面にあらわになった状態で使用されるとよい。
【0051】
第1反応抑制材は、ポーラス構造体、メッシュ構造体、または、ひだ状構造体であることが好ましい。第1反応抑制材は、冷媒(ガス)の流れに沿って並行に複数枚設置される薄板状の構造であってもよい。第1反応抑制材が冷媒と接触できる面積を大きしてかつ流れを阻害しなくすることで、冷媒
の異性化反応を効率的に抑制し、且つ圧力損失も抑制できる。
【0052】
本実施形態において、第1反応抑制材は、反応抑制部6内に配置されている。例えば、
図3に示すように、第1反応抑制材
7として、円筒状に成形されたメッシュ構造
体が、反応抑制部6の内部に配置される。
図3において、メッシュ構造
体の外径は、反応抑制部(配管)6の内径と略同等とされる。
第1反応抑制材7は、冷媒が圧縮機2から吐出されて凝縮器3に吸入されるまでの間、常に冷媒と接触可能であるよう配置されることが好ましい。すなわち、圧縮機2から凝縮器3までを接続する配管(吐出配管および流入配管を含む)の全長にわたり、メッシュ構造
体が配置されるとよい。
【0053】
反応抑制部6の内面は、第2反応抑制材で被覆されていることが好ましい。第2反応抑制材は、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、金属シリコン、ケイ素鋼、スズ、マグネシウム、および亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の材料を主成分とする。第2反応抑制材は、メッキ、塗布または蒸着などにより、反応抑制部6の内面を覆うことができる。それにより、第1反応抑制材が、反応抑制部6内の一部にしか配置されていない領域であっても、冷媒が反応抑制材に接触できる環境となる。
【0054】
次に、ヒートポンプ装置
1の動作を説明する。
ヒートポンプ装置1に充填されている冷媒は、圧縮機2で圧縮されて高温・高圧のガス体とされる。圧縮された冷媒は、圧縮機2の吐出口から吐出される。ヒートポンプ装置1において、圧縮機2の吐出口で最も冷媒の温度が高くなる。
【0055】
吐出された冷媒は、反応抑制部6を経由して凝縮器3へと流れる。冷媒は、反応抑制部6を通過する際に、反応抑制材(第1反応抑制材、第2反応抑制材)と接触することができる。それにより、冷媒中におけるHFO−トランス体またはHCFO−トランス体の存在割合が増加するのを抑えられる。
【0056】
反応抑制部6を経由した冷媒は、凝縮器3に吸入される。凝縮器3に吸い込まれた冷媒は、凝縮され、圧縮機2の吐出部のガスより温度が低下するが高温・高圧の冷媒液となる。
【0057】
凝縮された冷媒は、膨張弁4により断熱膨張させられ、低温・低圧の冷媒液となる。断熱膨張させた冷媒は、蒸発器5に供給され、蒸発し低温・低圧のガス体となる。蒸発した冷媒は、圧縮機2に吸い込まれ、以降同じサイクルが繰り返される。
【0058】
本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、圧縮機2と凝縮器3との間に反応抑制部6を設けることで、冷媒(HFO−シス体またはHCFO−シス体)の異性化反応を抑制し、安定的な熱サイクルを維持できる。
【0059】
図2のように、反応抑制部6を圧縮機2に直接接続した場合には、オーバーホール時、または冷媒を抜いて保守作業をする時に、適宜、反応抑制部のメンテナンス(反応抑制材の交換など)を実施できる。
【0060】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係るヒートポンプ装置の構成は、特に説明がない限り、第1実施形態と同様とされる。
図4は、本実施形態に係るヒートポンプ装置(冷媒循環装置)の一例を示す概略構成図である。
図5は、反応抑制部の断面図である。
図6および
図7は、反応抑制材の一例を示す斜視図である。
【0061】
反応抑制部16は、圧縮機2から凝縮器3までを接続する配管に、直列に接続されている。反応抑制部16は、収容室11、冷媒入口12および冷媒出口13を有する。収容室11は、圧力容器構造とされ、内部に第1反応抑制材
17が冷媒と接触可能に収容されている。収容室
11は、ヒートポンプ装置の凝縮器3やその周辺に設置されるフレームに固定される。冷媒入口12は、バルブ14を介して吐出配管15に接続されている。冷媒入口12は、圧縮機2から吐出された冷媒の全量を収容室11へと導く。冷媒入口12は、冷媒(ガス)が入口部から滑らかに内部を旋回ながら流れる構造を有する。冷媒入口12の流路断面は、冷媒(ガス)の損失が発生しないよう十分な流路面積を有する構造とされる。冷媒出口13は、収容室11へと導かれた冷媒が第1反応抑制材17を経由して凝縮器3へと流れ出る位置に設けられている。冷媒出口13は、バルブ18を介して流入配管19に接続されている。
【0062】
反応抑制部16は、メンテナンス部を備えているとよい。
図5において、反応抑制部16には、メンテナンス部20が設けられている。メンテナンス部20は、反応抑制部16に設けられた開口を塞ぐ蓋部材である。蓋部材は、ボルトなどにより反応抑制部に固定されている。
図4に示すように、メンテナンス部20’として、ディスチャージバルブが設けられていてもよい(簡略化のため、
図5では記載を省略した)。メンテナンス部20を設けることで、第1反応抑制材17を交換できるなど、反応抑制部16のメンテナンスが容易となる。
【0063】
第1反応抑制材17の材料は、第1実施形態と同様とされる。
第1反応抑制材17は、固定具などによって反応抑制部16に固定されていると良い。
図5では、第1反応抑制材17とメンテナンス部20との間に固定具22が設けられている。固定具22は、ばねなどとされる。第1反応抑制材17と冷媒出口13側の反応抑制部16との間には、別の固定具23が設けられている。別の固定具23は、パッキンまたはシール材などとされる。
【0064】
図6および
図7に、第1反応抑制材を例示する。
図6に示す第1反応抑制材
17は、極細線のワイヤーメッシュを積層し、それを巻いた形状とされる。
反応抑制部に第1
反応抑制材を収容したときの、
反応抑制部内の空間率は、冷媒の流れを阻害しない程度、例えば95%を超えるものされる。
図7に示す第1反応抑制材
17は、多孔質構造の円筒ブロックとされる。
図7の第1反応抑制材
17はスポンジ形状とされ、適度な剛性を有する固体とされる。「適度な剛性」とは、冷媒の流れを受けても、元の形状を維持し、冷媒流路を塞がない程度の硬さを意味する。
【0065】
反応抑制部16の内面は、第2反応抑制材で被覆されているとよい(不図示)。第2反応抑制材は、第1実施形態と同様とされる。それにより、冷媒が反応抑制材と接触できる面積がより広くなる。
【0066】
吐出配管15および流入配管19の内面も、第2反応抑制材で構成、または被覆されているとよい。それにより、吐出配管15および流入配管19の内面が反応抑制部の一部として作用する。
【0067】
本実施形態に係るヒートポンプ装置10では、圧縮機2から吐出された冷媒の全量が、反応抑制部16に導かれる。冷媒は反応抑制部16を通過する際に、反応抑制材と接触することができる。それにより、冷媒中における異性体(トランス体等)の存在割合の増加が抑えられる。
【0068】
反応抑制部
16を経由した冷媒は、凝縮器
3、膨張弁
4および蒸発器
5を経由して圧縮機
2に吸い込まれ、以降同じサイクルが繰り返される。
【0069】
(変形例)
図8に、本実施形態に係るヒートポンプ装置(冷媒循環装置)の別の例を示す概略構成図である。本変形例の構成は、反応抑制部の接続位置が異なる以外、第2実施形態と同様とする。
【0070】
反応抑制部26は、圧縮機2から凝縮器3までを接続する配管に、並列に接続されている。冷媒入口は、バルブ24を介して配管の上流側Aに接続されている。冷媒入口は、圧縮機から吐出された冷媒の一部または全部を収容室へと導くことができる。収容室に導く冷媒量は、バルブ24の開閉によって調整できる。冷媒出口は、収容室へと導かれた冷媒が反応抑制材を経由して凝縮器3へと流れ出る位置に設けられている。冷媒出口は、バルブ28を介して配管の下流側Bに接続されている。小さなサーキットを作成することで、反応抑制部の交換やメンテナンスが容易となる。
【0071】
冷媒出口は、冷媒が凝縮器3に直接吸入されるよう設計されてもよい。
【0072】
本実施形態に係るヒートポンプ装置では、圧縮機2から吐出された冷媒の一部が、分流されて反応抑制部26に導かれる。例えば、圧縮機2と凝縮器3とをつなぐ配管のA地点から、ヒートポンプサイクルを循環する冷媒の2体積%を分流し、
反応抑制部26の収容室へと導く。収容室に導かれた冷媒は、反応抑制材(第1反応抑制部、第2反応抑制部)と接触することができる。それにより、冷媒中におけるトランス体の存在割合の増加が抑えられる。
【0073】
反応抑制部
26を経由した冷媒は、凝縮器
3、膨張弁
4および蒸発器
5を経由して圧縮機
2に吸い込まれ、以降同じサイクルが繰り返される。
【0074】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係るヒートポンプ装置
では、反応抑制部が、凝縮器と膨張弁との間に設けられており、圧縮機と凝縮器との間には設けられていない。それ以外の構成は、第1実施形態と同様とされる。
図9は、本実施形態に係るヒートポンプ装置(冷媒循環装置)の一例を示す概略構成図である。
【0075】
反応抑制部36は、凝縮器3と膨張弁4との間に直列に接続されている。
反応抑制部36は、収容室、冷媒入口、および冷媒出口を備えている。冷媒入口は、バルブ34を介して流出配管31に接続されている。冷媒入口は、凝縮器3から流出した冷媒の全量を収容室へと導く。収容室は、耐圧容器とされ、内部に第1反応抑制材が冷媒と接触可能に収容されている。第1反応抑制材の材料は、第1実施形態と同様とされる。第1反応抑制材は、ポーラス構造体、メッシュ構造体、または、ひだ状構造体であることが好ましい。
第1反応抑制材は冷媒液の流れを加速しないよう十分な大きな空間の中に配置し、冷媒液の流れを撹拌するように配置することで、
第1反応抑制材の表面に多くの冷媒が接する工夫がされている。冷媒出口は、収容室に導かれた冷媒が、第1反応抑制材を介して膨張弁4へ向けて流出するよう設計されている。
【0076】
冷媒は、凝縮器3で凝縮されて液化する。液化された冷媒は、ガス体であるときよりも体積が小さくなる。凝縮器3と膨張弁4との間に反応抑制部36を設けることで、より多くの冷媒を反応抑制材と接触させることができる。
【0077】
反応抑制部
36の内面は、第1実施形態と同様に、第2反応抑制材で被覆されているとよい。
凝縮器3から膨張弁4までをつなぐ配管の内面も、第2反応抑制材で被覆されているとよい。
【0078】
本実施形態に係るヒートポンプ装置30では、圧縮機2から吐出された冷媒は
凝縮器3に流入した後、凝縮器3から流出し
て反応抑制部36に導かれる。冷媒は反応抑制部36を通過する際に、反応抑制材と接触することができる。それにより、冷媒中においてHFO−トランス体またはHCFO−トランス体の存在割合が増加するのを抑制できる。
【0079】
反応抑制部36を経由した冷媒は、膨張弁4および蒸発器
5を経由して圧縮機
2に吸い込まれ、以降同じサイクルが繰り返される。
【0080】
なお、本実施形態では、反応抑制部36が凝縮器3と膨張弁
4とをつなぐ配管に直列に接続させたが、第2実施形態の変形例と同様に、並列に接続してもよい。
【0081】
〔第4実施形態〕
本実施形態に係る冷媒循環装置は、反応抑制部が、凝縮器に組み込まれており、圧縮機と凝縮器との間には設けられていない。その他、説明のない構成は、第1実施形態と同様とされる。
【0082】
図10に、本実施形態に係る冷媒循環装置(ヒートポンプ装置)の凝縮器の縦断面図を示す。凝縮器43はシェルアンドチューブ式の熱交換器とされる。凝縮器43は、複数の伝熱管41、冷媒入口管42、冷媒出口管
44を備えている。複数の伝熱管41は、水平に配設され、内部には冷却流体が流れる。冷媒は冷媒入口管42から入り、伝熱管41を流れる冷却流体と熱交換を行い、冷媒出口管
44から流出する。本実施形態において反応抑制部46は、冷媒出口管
44に設けられている。凝縮器
43の出口部では、冷媒(液)は冷媒出口管
44を液封する状態で存在するため、反応抑制部
46は冷媒(液)中に沈める形で設置される。反応抑制部
46が冷媒の流れを阻害すると、最大負荷域の運転時において、凝縮器
43に冷媒(液)が滞留し、ヒートポンプの性能を低下するなどの弊害が生じる。そのため、反応抑制部46は、十分な空間をもって設置されることが好ましい。反応抑制部46は、反応抑制材そのものである。反応抑制材は、第2実施形態の第1反応抑制材と同様のものを用いることができる。
【0083】
反応抑制部46を凝縮器
43に組み込むことで、別途耐熱容器を設けなくてよいため、ヒートポンプ装置を軽くできる。
【0084】
なお、上記実施形態において、凝縮器は1つであるが、これに限定されず、凝縮器は複数設けられてもよい。凝縮器を2以上備える場合、第3実施形態および第4実施形態の反応抑制部
(36,46)は、一番上流側(圧縮機側)にある凝縮器から膨張弁までの間に設けることができる。例えば、圧縮機側から順に第1凝縮器、第2凝縮器および膨張弁を備えるヒートポンプ装置では、第1凝縮器と第2凝縮器との間に反応抑制部が設けられてもよい。
【0085】
また、第1実施形態から第4実施形態は、それぞれ組み合わせることができる。例えば、
図11に示すように、圧縮機2から凝縮器3までの間と、凝縮器3から膨張弁4までの間とに、それぞれ反応抑制部16,36が設けられてもよい。
【0086】
〔第5実施形態〕
図12は、本実施形態に係る有機ランキンサイクル装置(冷媒循環装置)の一例を示す概略構成図である。
【0087】
有機ランキンサイクル装置50は、ポンプ52、蒸発器55、膨張機54、凝縮器53、および反応抑制部56を備えている。ポンプ52、蒸発器55、膨張機54および凝縮器53は、順次、配管で接続され冷媒循環回路(有機ランキンサイクル)を形成する。有機ランキンサイクル装置の各構成部材は、冷媒からの圧力に耐えうるよう設計されている。有機ランキンサイクル内には、冷媒として第1実施形態と同様のHFO−シス体が充填されている。
【0088】
ポンプ52は、凝縮器
53から流れてくる冷媒を吸入した冷媒を、蒸発器
55に向けて圧送するものである。
【0089】
蒸発器55は、圧送された低温・高圧の冷媒を、外部からの熱源を利用して加熱し、蒸発させることができる。熱源は、タービンまたはエンジンの排気などの廃熱とされ、冷媒の温度を175℃以上に高めることができる。蒸発器55は、ボイラまたはエバポレータなどとされ得る。
【0090】
膨張機54は、蒸発させた高温・高圧の冷媒を膨張させてタービン等を回転させ、発電機を駆動させ電力を発生させるものである。
【0091】
凝縮器53は、膨張機
54で膨張された高温・低圧冷媒を冷却して凝縮し、冷媒液とすることができる。凝縮器
53は、復水器などとされる。
【0092】
反応抑制部56は、冷媒の異性化反応を抑制するものである。反応抑制部56は、冷媒の温度が175℃以上となりえる領域に設けられる。本実施形態において、冷媒の温度が175℃以上となりえる領域は、蒸発器55から膨張機54までの間とされる。反応抑制部56は、蒸発器55と膨張機54とを接続する配管の少なくとも一部を兼ねている。反応抑制部56は、蒸発器55と膨張機54とを接続する配管の全部を兼ねることが好ましい。
【0093】
反応抑制部56は、第1実施形態と同様の第1反応抑制材を含む。
第1反応抑制材は、冷媒が蒸発器
55から
出て膨張機54に吸入されるまでの間、常に冷媒と接触可能であるよう配置されることが好ましい。すなわち、蒸発器5
5か
ら膨張機54までを接続する配管の全長にわたり、第1反応抑制材が配置されるとよい。
【0094】
反応抑制部56の内面は、第1実施形態と同様に、第2反応抑制材で被覆されていることが好ましい。
【0095】
次に、有機ランキンサイクル装置50の動作を説明する。
有機ランキンサイクル装置50に充填されている冷媒は、蒸発器55において外部からの熱源により加熱され、高温・高圧の蒸気となる。有機ランキンサイクル装置50において、蒸発器55の出口で最も冷媒の温度が高くなる。
【0096】
蒸気は、反応抑制部56を経由して膨張機54へと流れる。冷媒は、反応抑制部56を通過する際に、反応抑制材(第1反応抑制材、第2反応抑制材)と接触することができる。それにより、冷媒中におけるHFO−トランス体またはHCFO−トランス体の存在割合が増加するのを抑えられる。
【0097】
冷媒は、膨張機54にて断熱膨張され、これによって発生する仕事によって、タービンを駆動させる。膨張した冷媒は、凝縮器53へと流れ、冷却されて液体となる。凝縮された冷媒は、ポンプ52に吸い込まれ、以降同じサイクルが繰り返される。
【0098】
<HFOの異性化反応>
反応抑制材が、冷媒(HFO−シス体)の異性化反応を抑制できることを以下の試験で確認した。
試験は、JIS K2211 シールドチューブ試験に準拠した方法で実施した。
【0099】
冷媒は、HFO1234ze(Z)(セントラル硝子株式会社製、純度99.8%)を用いた。
【0100】
反応抑制材は、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、SUS304、SUS316、ゼオライトまたは、鉄と銅とアルミニウムとをそれぞれ同体積で混在させたものとした。鉄は、JIS C 2504に規定する材質で、直径1.60mm、長さ50mmの試験片を用いた。銅は、JIS C 3102に規定する材質で、直径1.60mm、長さ50mmの試験片を用いた。アルミニウムは、JIS H 4040に規定する材質で、直径1.60mm、長さ50mmの試験片を用いた。SUS304およびSUS316は、JISオーステナイト系ステンレス鋼の試験片を用いた。ゼオライトは、東ソー株式会社製のゼオラムA3(9−14♯)を用いた。反応抑制材は、試験前に脱脂処理および研磨処理を施し、新しいはだを出したものを使用した。
【0101】
Pyrexガラス管(直径10mm×内径8mm×長さ200mm)に、冷媒0.5gおよび各反応抑制材を入れ、密封した。試験片は、反応抑制材が1種類の金属である場合には3片、3種類の金属を混在させる場合には金属種毎に1片入れた。
密封したガラス管を試験温度175℃〜250℃で14日間加熱した。14日後の冷媒を、水素炎イオン化検出器(FID)を備えるガスクロマトグラフ(島津製作所製,GC−2010plus)にて分析した。また、試験前後に冷媒の外観を目視で確認した。
【0102】
比較対照として、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)を冷媒に用いて、同様の試験を実施した。
【0103】
FID分析結果を表1に示す。
【表1】
【0104】
試験温度175℃から250℃で加熱したHFC245の純度は、いずれも99.9GC%より高かった。これにより、HFC245は250℃以下で良好な熱安定性を有することが確認された。
【0105】
図13に、冷媒中におけるHFO−トランス体の存在割合の変化履歴を示す。同図において、横軸は試験温度(℃)、縦軸はHFO−トランス体の存在割合(GC%)、実線が反応抑制材なし、点線が反応抑制材ありの試料である。試験温度175℃のHFO1234ze(Z)は、反応抑制材の有無に関わらず、99GC%以上の純度を保っていた。しかしながら、試験温度が175℃以上に上がると、冷媒中におけるトランス体の存在割合が増加した。特に、試験温度が200℃を超えると、異性化反応は加速される傾向を示した。
このことから、175℃以上の作動温度でHFO1234ze(Z)を冷媒として用いる場合、異性化反応への対策が必要となることがわかった。
【0106】
反応抑制材の非存在下では、冷媒中のトランス体が、試料No.5(試験温度225℃)で18.4GC%、試料No.7(試験温度250℃)で24.1GC%まで増加した。試料No.12及び試料No.13は、冷媒中のトランス体の存在割合が
26.0GC%および
26.8GC%だった。これは、反応抑制材が存在しない試料No.7と同等の値である。一方。試料No.8,9,10,11は、冷媒中のトランス体の存在割合が、試料No.7よりも低く抑えられていた。冷媒中のトランス体の存在割合は、試料No.8(試験温度250℃)で3.3GC%、試料No.11(試験温度250℃)で3.5GC%だった。このことから、冷媒中に反応抑制材を存在させることによって、175℃以上250℃以下の高温環境で、HFO1234ze(Z)の異性化反応を抑制できることが確認された。反応抑制材としては、鉄と銅とアルミニウムとをそれぞれ同体積で混在させたもの、アルミニウム、またはゼオライトが適していることが確認された。
【0107】
また、冷媒中に反応抑制材を存在させた場合、試料No.8(試験温度250℃)のHFO1234ze(Z)の純度は、96.3GC%であった。一方、反応抑制材の非存在下における同試験温度のHFO1234ze(Z)の純度は、75.2GC%であった。このことから、冷媒中に反応抑制材を存在させると、異性体化を抑制できるとともに、HFO1234ze(Z)の純度の低下も抑制できることが確認された。
【0108】
反応抑制材を存在させた試料において、試験前後の冷媒の外観に変化はなく、冷媒およびガラス管は無色透明を維持し、スラッジなどの不要物の生成もみられなかった。