(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
多極化された電気コネクタ(以下、単にコネクタということがある)は、コネクタ同士の嵌合を行う際および嵌合を解除する際に大きな力が必要となる。このため、レバーによる倍力効果を利用して相手コネクタとの嵌合および嵌合の解除を行うレバー式コネクタが使用されている。レバー式コネクタは、互いに嵌合される一対のコネクタの一方のハウジングに、レバーが往復回転可能に支持されている。典型的なレバーは、一対のアームと、アームを互いに連結する連結梁を有するU字形の部材であり、ハウジングに設けられる支点軸に両方のアームに設けられる支点孔を挿入することでレバーは正転および反転が自在に支持される。
レバー式コネクタは、通常、コネクタハウジングと、レバーと、電線カバーと、を備えており、電線カバーは、コネクタハウジングに対して正規の向きに組み付けられる。そして、レバーが嵌合開始の位置に置かれた状態で相手方コネクタと突き合わせて、レバーを嵌合完了の位置まで回転させると、嵌合動作が完了する。
【0003】
レバー式コネクタは、電線カバーを正規の向きとは逆向きに反転してハウジングに組み付けることができるように見えるため、電線カバーを誤った向きで装着する誤組み付けが生じ得る。つまり、例えば右向きに電線を引き出すのが正規の向きであるにもかかわらず、左向きに電線を引き出すように電線カバーを組み付けそうになることがある。そこで、特許文献1は、レバーに当接することにより電線カバーの誤組み付けを防止する誤組み付け防止突起を電線カバーから突出して設けることを提案している。この誤組み付け防止突起は、コネクタハウジングおよびレバーの外表面より外方に突出しているので、外部からの衝撃を吸収してコネクタハウジングの緩衝部材にもなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施の形態は、コネクタ10と相手コネクタ90が、コネクタ10が備えるスライダ50を介して嵌合されるものである。なお、相手コネクタ90は、嵌合にかかわる部分を抜粋して描いている。
【0012】
コネクタ10は、ハウジング20と、一対のスライダ50と、電線カバー40と、レバー70とを備えている。これらはいずれも樹脂を射出成形することにより作製されている。なお、コネクタ10において、スライダ50がハウジング20に挿入される側(
図1でスライダ50が描かれている側)を前と定義する。
【0013】
[ハウジング20]
ハウジング20は、
図1に示すように、略矩形形状の嵌合部21を備える。嵌合部21には、図示しない端子金具が保持されているとともに、相手コネクタ90を受容する空隙であるキャビティが設けられている。このキャビティは、図中、嵌合部21の下面側に開口している。
嵌合部21の幅方向の両側には、スライダ50を受容するための一対のスライダ受容溝25が前後方向に貫通して形成されている。スライダ50は、レバー70の操作に従って、このスライダ受容溝25の内部を前後方向にスライドする。
嵌合部21には、レバー70の支持円板72の一部を収容し、内部でスライダ受容溝25に繋がる噛合い室26が、各スライダ受容溝25に対応して設けられている。スライダ50に形成されるラック(図示を省略)は、この噛合い室26の内部において、レバー70のギア75と噛み合う。嵌合部21は、噛合い室26に隣接して、ハウジング側干渉構造27(以下、単に干渉構造27)を備えている。干渉構造27は、ハウジング20の嵌合部21の上縁が周囲よりも突出する突起からなる。干渉構造27は、レバー70が装着された電線カバー40を誤った向きでハウジング20に組み付けようとすると、レバー70のレバー側干渉構造76(以下、単に干渉構造76)と干渉することで、電線カバー40がハウジング20に誤組付けされるのを防止する。
【0014】
[電線カバー40]
図1に示すように、ハウジング20の上部には、電線カバー40が取り付けられている。電線カバー40は、ハウジング20に着脱自在に固定される。各端子金具(図示せず)に接続された電線(図示せず)は、電線カバー40に一体的に設けられる電線ガード40aの側から外部に引き出される。
図1において、電線カバー40の両側面には、レバー70を軸支する支持軸41が設けられている。また、電線カバー40の両側面には、レバー70と係止されることでレバー70が過剰に回転するのを規制する回転規制突起42a,42bが設けられている。電線カバー40の両側面には、レバー70を嵌合開始の位置において仮係止するための突起44a,44bが設けられている。嵌合開始の位置に置かれたレバー70、嵌合完了の位置に向けて押されると、突起44a,44bを乗り越えてから嵌合完了の位置に向けて回転される。また、電線カバー40の上面には、レバー70を嵌合完了の位置において係止するためのロック43a,43bが設けられている。
電線カバー40は、
図1に示す右向きにハウジング20に装着することができるのに加えて、
図6に示すように
図1とは逆の向きに反転させてハウジング20に装着することができるように作製されている。
図1の向きに電線カバー40が装着される場合にはレバー70は、レバー70に隠れている突起44aにより嵌合開始の位置に仮係止されており、反時計回りに押されると突起44aを乗り越えて嵌合完了の位置まで回転されると、ロック43bに係止される。
図6の向きに電線カバー40が装着される場合にはレバー70は、レバー70に隠れている突起44bにより嵌合開始の位置に仮係止されており、反時計回りに押されると突起44bを乗り越えて嵌合完了の位置まで回転されると、ロック43aに係止される。
【0015】
[スライダ50]
一対のスライダ50は、嵌合部21の両側面に設けられる一対のスライダ受容溝25内にハウジング20の前側から挿入され、ハウジング20に対して
図1に示す嵌合開始の位置と
図3に示す嵌合完了の位置との間を直線的に往復移動可能に設けられている。スライダ50は、ハウジング20の各スライダ受容溝25内に受容可能なように略矩形形状を有している。
スライダ50の上端面には、図示を省略するラックが形成されている。このラックは、各スライダ50が各スライダ受容溝25内において、ハウジング20に対して嵌合開始の位置と嵌合完了の位置との間を移動するときに、レバー70のギア75と噛み合う。
【0016】
また、スライダ50には相手コネクタ90に設けられるボス93が挿入されて相手コネクタ90と係合するカム溝51が設けられており、スライダ50が嵌合開始の位置から嵌合完了の位置に移動すると、相手コネクタ90に設けられるボス93がこのカム溝51の内部を移動することで、ハウジング20に相手コネクタ90が引き込まれ、嵌合される。なお、ボス93に対応して3つの独立したカム溝51が形成されている。
【0017】
[レバー70]
レバー70は、一対のアーム71と、各々のアーム71の一端側に設けられる支持円板72と、一対のアーム71の他端側を繋ぐ連結梁73とを備えたU字型の部材である。
支持円板72の中心には、電線カバー40の支持軸41が挿入される支持孔が設けられている。支持軸41に支持孔を嵌入することによりレバー70は電線カバー40に支持されながら、レバー70が電線カバー40に対して支持軸41を回転軸として往復回転が可能とされる。
また、支持円板72の外周には、嵌合部21に受容されたスライダ50のラックに噛み合うギア75が設けられている。レバー70を嵌合開始の位置から嵌合完了の位置まで回転させると、ギア75とラック(図示を省略)の協働によりスライダ50が嵌合開始の位置から嵌合完了の位置(嵌合位置)まで移動するようになっている。
【0018】
レバー70は、支持円板72の一部が他の部分よりも選択的に径が拡大された干渉構造76が、ギア75の一方端に隣接して設けられている。干渉構造76は、レバー70が装着された電線カバー40をハウジング20に向きを間違って組み付けようとすると、ハウジング20の干渉構造27と干渉することで、電線カバー40がハウジング20に誤組付けされるのを防止する。
【0019】
[相手コネクタ90]
相手コネクタ90は、簡略化して記載しているが、上部に嵌合部92を有するハウジング91を備えている。嵌合部92は、略矩形形状に形成され、その両側面にはカム従動子として機能する円筒状のボス93が設けられている。ボス93は、スライダ50のカム溝に対応して、1つの側面に3つずつ設けられている。嵌合部92のキャビティ94内には、図示を省略するが複数の端子金具が収容、保持される。この端子金具は、コネクタ10と相手コネクタ90が嵌合されると、コネクタ10に保持される端子金具と接続される。
【0020】
[コネクタ10の嵌合手順]
以下、
図1〜
図4,
図7を参照して、コネクタ10と相手コネクタ90を嵌合する手順を説明する。なお、ここでの説明は、電線が右向きに引き出される正規の向きで電線カバー40がハウジング20に組み付けられているものとする。
始めに、電線カバー40は、
図7(a),(b)に示すように、ハウジング20に組み付けられるまでは、レバー70が嵌合完了の位置に置かれており、ロック43bに係止されている。この嵌合完了の位置が、本発明における「電線カバーがハウジングに組み付けられる位置」に該当する。このときまでスライダ50がスライダ受容溝25の内部に引き込まれている。
図7(b)に示すように、電線カバー40を
図7(b)に示すようにハウジング20に組み付けたならば、レバー70を図中の時計回りに押すことで、
図1および
図4(a)に示す嵌合開始の位置まで回転させる。
【0021】
次に、
図1および
図4(a)に示すように、電線カバー40がハウジング20にすでに組み付けられているコネクタ10と相手コネクタ90とを位置合わせして対峙させる。このとき、嵌合開始の位置に置かれているレバー70は、アーム71が回転規制突起42aに突き当ることで嵌合開始の位置を越える回転が規制されるとともに、アーム71が電線カバー40の突起44aに仮係止されることで嵌合完了の位置に向けた回転が規制されている。また、正規の向きで電線カバー40がハウジング20に組み付けられていると、ハウジング20の干渉構造27には、レバー70のいずれの部分も干渉することがない。
【0022】
次に、
図2および
図4(b)に示すように、コネクタ10(ハウジング20)の嵌合部21の内部に相手コネクタ90の嵌合部92を挿入する。嵌合部21の奥まで嵌合部92を挿入すると、嵌合部92のボス93がスライダ50のカム溝51に挿入されるとともに、レバー70のギア75は、スライダ50の図示を省略するラックに噛み合うことで、嵌合動作を行う準備が整う。
【0023】
次に、連結梁73を操作して突起44aとの仮係止を解除してから、連結梁73を嵌合完了の位置に向けて押すことで、レバー70を嵌合完了の位置まで図中の反時計回りに回転させる。この操作の過程で、ギア75がラックに順次噛み合うことで、スライダ50は、図中、右向きに移動する。この動作に伴ってボス93がスライダ50のカム溝51の奥まで移動することで、相手コネクタ90の嵌合部92が嵌合部21の奥まで引き込まれ、
図3および
図4(c)に示すように、嵌合が完了する。レバー70は、嵌合完了の位置まで移動し、連結梁73がロック43bに係止されることで、嵌合開始の位置に向けた回転が規制される。
【0024】
レバー70が嵌合開始の位置から嵌合完了の位置まで回転する過程において、干渉構造76が移動する軌跡の範囲には、干渉構造76に干渉する部位が存在していないので、レバー70の回転が拘束されることはない。
【0025】
保守・点検のために、嵌合がなされているコネクタ10と相手コネクタ90とを離脱させるには、レバー70の連結梁73とロック43bの係止を解除してから、レバー70を嵌合開始の位置まで時計回りに回転させればよい。
【0026】
さて、電線カバー40を正規の向きとは逆に、左向きに電線が引き出されるようにハウジング20に組み付けようとしたとする。このとき、レバー70は、電線カバー40に装着され、かつ嵌合完了の位置に置かれているものとする。そうすると、
図5に示すように、干渉構造76が干渉構造27に突き当るので、電線カバー40は、傾斜したままで止まり、正規の位置までハウジング20に押し込むことができない。したがって、作業者は、この時点で電線カバー40をハウジング20に誤組み付けしようとしたことを検知できる。
【0027】
以上の説明は、電線を右向きに引き出すのを正規の向き、左向きに引き出すのを誤った向きとしているが、本実施形態のコネクタ10は、これとは逆に、電線を左向きに引き出すのを正規の向き、右向きに引き出すのを誤った向きとすることもできる。つまり、コネクタ10は、電線を双方向に引き出すことができる。ただし、
図6(a),(b)に示すように、レバー70を電線カバー40に対して装着する向きを反転させることが前提となる。
【0028】
図6(a)に示すように、左向きに電線を引き出す場合にも、レバー70の嵌合開始の位置は、右向きに引き出す場合と同じである。そうすることで、電線カバー40を反転して装着しても、レバー70を反時計回りに回転させると、スライダ50をハウジング20の内部に引き込み、
図6(b)に示すように、相手コネクタ90との嵌合を行うことができる。
【0029】
左向きに電線を引き出すのが正規の向きであるにも関わらず、誤って右向きに電線を引き出すように電線カバー40をハウジング20に組み付けようとしても、
図6(c)に示すように、干渉構造76が干渉構造27に突き当るので、電線カバー40は、傾斜したままで止まり、正規の位置までハウジング20に押し込むことができない。したがって、作業者は、この時点で電線カバー40をハウジング20に誤組み付けしようとしたことを検知できる。
【0030】
以下、本実施形態のコネクタ10が奏する効果を説明する。
はじめに、コネクタ10は、レバー70が嵌合開始の位置に装着された電線カバー40をハウジング20に誤組み付けしようとしても、干渉構造76と干渉構造27が互いに干渉して、電線カバー40が傾いたままでそれ以上押し込むことができない。したがって、作業者は誤組み付けしようとしていることを容易に検知することができる。
【0031】
次に、コネクタ10は、電線カバー40をハウジング20に装着する向きを反転させることで、電線を双方向に引き出すことができる。しかも、電線を右向きに引き出す場合および電線を左向きに引き出す場合のいずれであっても、電線カバー40がハウジング20に誤組み付けされることを検知できる。
本実施形態のレバー式のコネクタ10は、干渉構造76と干渉構造27からなる干渉構造がレバー70とハウジング20の間に設けられている。したがって、
図4(a),(b)と
図6(a)を比較すれば判るように、電線カバー40の向きを反転させてハウジング20に組み付けても、干渉構造に阻害されることなく、レバー70のハウジング20に対する嵌合開始の相対的な位置を反転の前と同じにして、嵌合のための回転動作を行うことができる。よって、コネクタ10は、電線を引き出す向きに制約を受けることなく、電線カバーの誤組み付けを防止できる。
仮に、レバー70と電線カバー40の間に干渉構造を設けたとすると、電線カバー40を反転させてハウジング20に組み付けると、干渉構造が、レバー70の嵌合のための回転動作を阻害してしまう。
【0032】
本実施形態のコネクタ10は、同じ仕様のハウジング20、電線カバー40およびレバー70を用いて、以上の効果を奏するところに価値がある。つまり、電線を引き出す向きに応じた仕様の電線カバー、あるいは、レバー70を作製する必要がないから、電線の双方向引き出しに対応し、電線カバーの誤組み付けを検知できるコネクタを低コストで提供することができる。
【0033】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
本実施形態は、スライダ50を用いて相手コネクタ90との嵌合を実現するコネクタ10について説明したが、レバーにカムの機能を持たせて相手コネクタと嵌合する形式のレバー式コネクタに適用することもできる。
また、ハウジング20とレバー70の干渉構造として、嵌合部21の上縁から上方に向けて突出するハウジング側干渉構造27と、レバー70の支持円板72の一部の径を選択的に拡大したレバー側干渉構造とした。しかし、ハウジング20とレバー70の間に設けられる干渉構造はこれに限定されない。例えば、支持円板72の表面から軸方向(幅方向)に突出する突起を設ける一方、この突起と干渉する突起を嵌合部21に設けることもできるなど、その目的を果たすことができる限り、干渉構造の形状及び設置位置は任意である。ただし、本実施形態の干渉構造は、コネクタ10の幅方向の範囲内に収まるので、小型化が要請されるコネクタ10の場合に有効である。