(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381969
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】インクジェットプリント方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/32 20140101AFI20180820BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20180820BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
C09D11/32
B41M5/00 116
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-111382(P2014-111382)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-224322(P2015-224322A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 明広
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−095078(JP,A)
【文献】
特開2009−242649(JP,A)
【文献】
特開平11−078210(JP,A)
【文献】
特開2005−330298(JP,A)
【文献】
特開2008−273808(JP,A)
【文献】
特開2007−284279(JP,A)
【文献】
特開2006−083362(JP,A)
【文献】
特開2008−303380(JP,A)
【文献】
特開2004−292707(JP,A)
【文献】
特開2013−230416(JP,A)
【文献】
特開2014−177600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無機顔料と合成樹脂および有機溶剤を含むインクであって、有機溶剤の沸点が200℃以上であり、合成樹脂の分子量が1万〜20万であり、無機顔料の粒径が100〜400nmであるインクジェット用インクを用い、
インクジェット方式にて無機質基材上に画像を形成した後、焼成するインクジェットプリント方法。
【請求項2】
前記インクが無機顔料を10〜50重量%の範囲で含有する請求項1記載のインクジェットプリント方法。
【請求項3】
前記インクの無機顔料が複合酸化物系無機顔料である請求項1〜2のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項4】
前記インクが有機溶剤を30〜89重量%の範囲で含有する請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項5】
前記インクの有機溶剤がグリコールエーテル系である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項6】
前記インクの有機溶剤の表面張力が20〜35mN/mである請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項7】
前記インクが合成樹脂を0.01〜30重量%の範囲で含有する請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項8】
前記インクの合成樹脂がアクリル系樹脂である請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【請求項9】
前記インクの合成樹脂の450℃環境下での分解残渣が5%未満である請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットプリント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無機顔料を色材とするインクジェット用インクであって、焼成時においても変色、消色することなく発色性に優れており、顔料を高濃度に含有していてもインク吐出の際に乾燥しにくく、連続吐出性に優れたインクジェット用インクに関する。より詳しくは、ガラス、陶磁器、琺瑯、タイル等のセラミックス、金属等の無機材料に適したインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス、金属等の無機材料を着色する場合は、耐熱性、安定性及び耐光性が重視され、これらの観点から色材として主に無機顔料が使用されており、焼成によって固着させる方法が採用されている。
【0003】
近年、係る分野においては、デザイン傾向の高度化により、無機顔料の色バリエーションについても様々な研究がなされ、色域の幅広い発色性の良好な粒子径からなる無機顔料が提案されているが、十分な成果が得られていない。
【0004】
また、インクジェット用インクとしてこのような色材を使用するには、ノズルでの詰まりを防ぐために粒径が非常に細かくなるまで分散が行われるが、粒径が細かくなるに従い発色性は低下し、インク中に顔料を高濃度で含有させなければならず、インクの安定性や乾燥性が問題となっていた。
【0005】
上記の問題を解決する方法として、〔特許文献1〕や〔特許文献2〕にて色表現にすぐれ、焼成後の変色、消色の発生しないインクジェットインクセットが提案されているが、いずれも水系インクセットであり、高発色を求めた場合は、顔料を高濃度で含有させる必要があるが、乾燥し易いといった面からノズル詰まりを引き起こしインクジェット吐出安定性に乏しくなり、生産性に影響があった。
【0006】
〔特許文献3〕においては、無機顔料の粒子径や特定の種類を組み合わせたインクジェット用インクセットについて提案されているが、いずれもインクジェット吐出安定性について深く検討されたものではなく、十分な成果は得られていない。
【0007】
以上より、無機顔料を色材とするインクジェット用インクであって、焼成時においても変色、消色することなく発色性に優れ、顔料を高濃度に含有していてもインク吐出の際に乾燥しにくく、連続吐出性に優れたインクジェット用インクは未だ確立されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−263176号公報
【特許文献2】特開2006−002100号公報
【特許文献3】特開2008−222962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決することにあり、特に無機顔料を色材とするインクジェット用インクであって、焼成時においても変色、消色することなく発色性に優れ、顔料を高濃度に含有していてもインク吐出の際に乾燥しにくく、連続吐出性に優れたインクジェット用インク、それを用いたインクジェットプリント方法、及びインクジェットプリント物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意努力した結果、無機顔料と合成樹脂および有機溶剤を含むインクであって、有機溶剤の沸点が200℃以上であり、合成樹脂の分子量が1万〜20万であり、無機顔料の粒径が100〜400nmであることを特徴とするインクジェット用インクであれば、顔料を高濃度に含有していてもインク吐出の際に乾燥しにくく、連続吐出性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は(1)無機顔料と合成樹脂および有機溶剤を含むインクであって、有機溶剤の沸点が200℃以上であり、合成樹脂の分子量が1万〜20万であり、無機顔料の粒径が100〜400nmであるインクジェット用インクを用い、
インクジェット方式にて無機質基材上に画像を形成した後、焼成するインクジェットプリント方法である。
(2)前記インクが無機顔料を10〜50重量%の範囲で含有する(1)記載のインクジェットプリント方法である。
(3)前記インクの無機顔料が複合酸化物系無機顔料である(1)〜(2)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(4)前記インクが有機溶剤を30〜89重量%の範囲で含有する(1)〜(3)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(5)前記インクの有機溶剤がグリコールエーテル系である(1)〜(4)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(6)前記インクの有機溶剤の表面張力が20〜35mN/mである(1)〜(5)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(7)前記インクが合成樹脂を0.01〜30重量%の範囲で含有する(1)〜(6)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(8)前記インクの合成樹脂がアクリル系樹脂である(1)〜(7)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である。
(9)前記インクの合成樹脂の450℃環境下での分解残渣が5%未満である(1)〜(8)のいずれかに記載のインクジェットプリント方法である
。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によるインクジェット用インクによれば、変色、消色することなく、発色性に優れ、広い色域の表現が可能であり、かつ基材を選ばずに着色することができる。更には濃度、画質といったインクジェット特有の高品質を十分に表現することができるため、近年のデザイン力の向上に対応した無機顔料によるインクジェットプリント物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明で使用する色材は無機顔料であり、具体的には金属、金属酸化物又は金属塩からなる。これらは熱、光に対して安定である反面、その構造から色表現に乏しく、酸化・還元により分解しやすい性質がある。
【0014】
従って、無機顔料のインクジェットプリントにおいては一般に色域が狭くなってしまうが、本発明では、発色性を高めるために顔料を高濃度で含有させても、特定の有機溶剤や合成樹脂を選択し顔料の物性を整えることでノズルでのインク乾燥を防ぎ、連続吐出性に優れたインクジェット用インクが提供でき、広い色域を実現することが可能となる。
【0015】
本発明で用いられる溶媒としては、有機溶剤であることを前提とする。有機溶剤であると沸点の選択範囲も広く、合成樹脂の溶解性も高いため、粘度調整も水と比較して容易である。溶媒が水であると高濃度の顔料インクが調製できないので好ましくない。さらに、ヘッドの乾燥によって吐出不良を起こしやすい。
本発明では、有機溶剤の沸点を200℃以上とする。沸点が200℃以上であれば、ノズル周辺での乾燥を抑えることができ、安定吐出に優れる。なお、有機溶剤はインクに対して30〜89重量%の範囲で含有することがより好ましい。30重量%未満であると、乾燥性が十分に得られず、ノズル詰まりが起こるおそれがある。また、89重量%より多いとインク中に顔料を高濃度で含有出来ず発色性に劣るおそれがある。
【0016】
また、有機溶剤の表面張力はヘッドでの安定吐出の観点から20〜35mN/mであることが好ましい。20mN/mより低いと、インクが記録ヘッド表面より溢れ易くなり連続吐出性に劣るという問題がある。35mN/mよりも高いとインクが基材へ浸透し難くなり、インク量を多く付与できないため、発色性に劣ったり、焼成後の外観が劣ったりする。なお、本文で表記する表面張力は、ウェルヘルミー式でインク温度が25〜30℃にて測定した値である。
【0017】
本発明の有機溶剤としては、環境に配慮した第4類第3石油類、第4類第4石油類等が好ましく、化学的に安定であることからグリコールエーテル類がより好ましい。グリコールエーテル類としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどがあるが、沸点が250℃以上のテトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。必要に応じて脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸エステル等を添加することも可能である。
【0018】
さらに、本発明ではインクに分散された状態での粒径Di(50)を100〜400nmとする。上記の範囲であれば、ノズルでの乾燥をより防ぐことができ、安定吐出が可能となる。粒径Di(50)とは、インク中の顔料粒子径の大きい側と小さい側が等量となる径のことであり、その測定方法として動的光散乱法が挙げられる。動的光散乱法としては、例えば、マルバーン インスツルメンツ リミテッド製のゼータサイザーナノシリーズで測定が可能である。粒径Di(50)が100nm未満であると発色性が極端に低下するおそれがある。また、粒径Di(50)が400nmを超えるとインクが乾燥しやすくなり、ノズル詰まりが起こりやすくなるおそれがある。また、焼成後に表面の光沢感が損なわれるおそれがある。
【0019】
ここで、本発明の無機顔料は、インクに対して10〜50重量%含まれていることが好ましい。10重量%よりも少ないと、発色性に劣り、インクの付与量を増やして濃度を稼ぐ必要があるが、無機質基材のインク受容能力によってはインクが溢れる可能性がある。50重量%よりも多いとインク自身を安定的に保つことが困難である。
【0020】
本発明における顔料は、焼成の際に消色や変色が生じにくい観点から複合酸化物系無機顔料であることが好ましい。
【0021】
本発明における複合酸化物系無機顔料の黄色成分はアンチモン系顔料もしくはジルコン系顔料が好ましい。アンチモン系顔料は、鮮やかな黄色表現が可能であり、焼成による変色、消色が発生しにくい顔料ある。具体的には、鉛アンチモンイエロー、アンチモンチタンクロムイエロー、アンチモンチタンイエロー、アンチモンチタンニッケルイエローなどが挙げられる。また、ジルコン系顔料は、アンチモン系顔料よりも発色性は若干落ちるもののより高い温度条件でも変色、消色が発生しにくい顔料ある。具体的には、ジルコンプラセオジウムイエローなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明における複合酸化物系無機顔料の赤色成分はスズ−クロム系顔料が好ましい。スズ−クロム系顔料は、鮮やかな赤色表現が可能であり、焼成による変色、消色が発生しにくい顔料である。また、ゴールドパープルと同様な色味がありながら、比較的安価であるという利点がある。具体的には、クロムスズマロンなどが挙げられる。
【0023】
また、本発明における複合酸化物系無機顔料の青色成分はコバルト系顔料が好ましい。コバルト系顔料は、鮮やかな青色表現が可能であり、焼成による変色、消色が発生しにくい顔料である。具体的には、紺青、コバルトブルー、コバルトアルミニウムブルーなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明における複合酸化物系無機顔料の黒色成分は鉄系顔料が好ましい。鉄系顔料は、鮮やかな黒色表現が可能であり、焼成による変色、消色が発生しにくい顔料である。具体的には、酸化鉄、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラックなどが挙げられる。なかでもコバルトフェライトブラックは黒色度が高くより好ましい。
【0025】
本発明のインクに使用される合成樹脂は、分子量を1万〜20万とする。合成樹脂を使用することによって記録ヘッドに適した粘度に調整できるが、分子量が20万を超えると安定してヘッドから吐出出来ないおそれがある。また分子量が1万未満であると粘度調整の効果が少なくインク中に多く合成樹脂を添加する必要があり、コスト高になるおそれがある。
【0026】
合成樹脂は、インクに対して0.01〜30重量%含まれているのが好ましい。0.01重量%未満では粘度調整の効果が少なく、30重量%より多いと記録ヘッドの吐出不良が発生したり、焼成後灰分が残り易いという問題がある。
合成樹脂の要求性能としては、有機溶剤に可溶であること、焼成後の灰分が残り難いことが望ましく、具体的にはアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が挙げられるが、コスト面を考慮した場合、アクリル系樹脂が望ましい。
なお、本発明の無機顔料インクの粘度は、連続吐出安定性の観点から30℃の条件で10〜30CPSであることが好ましい。
【0027】
また、本発明のインク中で使用する合成樹脂は450℃環境下での分解残渣が5%未満であることが好ましい。5%以上であると焼成後に灰分が残りやすく、意匠に影響を与えてしまうおそれがある。
【0028】
本発明に用いられる無機質基材としては、ガラス、陶磁器、琺瑯、タイル等のセラミックス、金属等の無機材料が挙げられるが、特に限定されない。
【0029】
本発明のインクジェットプリント方法は、本発明のインクセットのインクを用いて無機質基材にインクをインクジェットプリントした後、焼成することで達成される。
インクジェット記録方式としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式などの連続方式、ステムメ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等いずれも採用可能である。また、記録ヘッドを固定して記録媒体に噴射させるタイプのライン型、記録ヘッドを記録媒体に対して相対的に動かすタイプのシリアル型のどちらのタイプでも採用可能である。
【0030】
また無機顔料インク中には接着性を持たせる目的でガラスフリットを添加することも可能である。ガラスフリットは主に二酸化珪素を主成分とし、使用目的に応じて補助剤を添加して使用される。補助剤としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化鉛、酸化ビスマス、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸、酸化ジルコニウム、酸化チタン、更には天然物の長石、珪石、硼砂、カオリン等の混合物も添加することができる。これら材料は単独または混合した形で用いることができる。
【0031】
なお、無機顔料とガラスフリットの混合物ではなく、無機顔料合成の段階からガラスフリットを添加して使用すること(以下、上絵の具という)も当然可能である。
【0032】
更にインク中へ無機顔料、又は無機顔料及びガラスフリット、又は上絵の具を、媒体へ分散させる場合は分散剤として様々な界面活性剤を単独又は混合した形で任意に使用することが可能である。
【0033】
具体的には、アニオン性界面活性剤として、脂肪酸せっけん、アルキルコハク酸ナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、アルキル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩、ジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、アルキルリン酸ナトリウム、スチレン無水マレイン酸共重合物、オレフィン無水マレイン酸共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アクリルアミドアクリル酸塩共重合物、アルギン酸ソーダ等、カチオン性界面活性剤としてアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等、両性界面活性剤としてアルキルベタイン、アミドベタイン等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤はナトリウム塩だけでなく任意の金属塩やアンモニウム塩等が使用可能である。
【0034】
また、必要に応じて表面張力調整剤、粘度調整剤、比抵抗調整剤、熱安定剤、酸化防止剤、還元防止剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤等の添加剤を加えることも当然可能である。
【0035】
無機顔料インクは上記材料を混合し、更にその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミル、サンドミル等の分散機を使って分散させ、その後濾過を行うことで得ることができる。
【0036】
更に必要であれば基材上に吸液性のある材料をインク受容層として設けることによりインク吐出着弾後の滲みを抑えることが可能となる。
【0037】
好ましくは、ガラスフリットからなるインク受容層を基材上に設けることによりプリント後及び焼成後も滲み現象が無い画像が形成され、更に未焼成ガラスフリットを受容層として使用することにより、無機顔料及びインク中のガラスフリットと受容層中のガラスフリットが溶融混和することによって接着性に優れたガラス被膜を形成することが可能となる。
【0038】
従って、インク受容層に使用するガラスフリットは、前述したインクに添加することができるガラスフリットと同じものであるか、又は異なっても軟化点や膨張率が近いものが好ましい。著しく異なると接着性不良等が生じるためである。
【0039】
ガラスフリットの乾燥付与量は50〜500g/m
2が好ましい。50g/m
2未満では、インクの滲みを十分に抑えることができず、500g/m
2を超えると焼成後のガラスフリット層が膜厚になり過ぎる為に、クラック等が生じる場合があるためである。
【0040】
インク受容層として使用されるガラスフリットはその成分中に2〜10%程度のカドミウムを含有したガラスフリットであることが望ましい。
【0041】
本発明のインクにおいてインク受容層にカドミウム含有ガラスフリットを使用することにより焼成後の無機顔料の発色性が著しく向上するためである。
【0042】
なお、インク受容層には必要に応じて接着剤を添加することも可能である。インク受容層を付与する際の作業性を高める効果があるからである。具体的には、澱粉、天然ガム、植物性蛋白、海藻、カゼイン、ゼラチン等の天然高分子、エーテル型セルロース、エステル型セルロース、エーテル型澱粉、エステル型澱粉、加工天然ガム等の半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラート樹脂、ポリビニルアクリレート樹脂、ポリビニルメチル樹脂、架橋型ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、メタクリル酸ソーダ、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ乳酸等の合成高分子が挙げられる。
【0043】
また、前記インク受容層には必要に応じて分散剤、酸化防止剤、還元防止剤、pH調整剤等の添加剤を加えることも当然可能である。
【0044】
本発明にかかるインクジェットプリント方法は、1回で全ての無機顔料を焼成するのが好ましい。複数回行うと、コスト面の問題が生じる他、色バラツキの原因となるためである。
【0045】
焼成温度としては一般的には、陶磁器の場合、上絵の具方法では700〜850℃、イングレーズでは1100〜1300℃で30〜60分、ガラスの場合、500〜650℃で30〜60分、また琺瑯の場合、750〜850℃に予め加熱された焼成炉に1〜2分であるが、実際には使用する基材の熱による変形や炉の種類等を考慮し、焼成時間や焼成温度は設定される。
【0046】
係る場合に使用するガラスフリットは基材に対して適正な熱膨張率及び軟化点を持った物質が選定される。仮に基材とガラスフリットの熱膨張率及び軟化点に著しく違いがある場合、基材との接着性が充分に行われず、接着不良やクラックを引き起こす場合があるので注意が必要である。
【0047】
例えば、基材が600℃付近に軟化点を有するガラスの場合、使用するガラスフリットの軟化点が基材の軟化点の600℃付近若しくはそれ以下のものが選定され、800℃付近に軟化点を有するタイルや陶器類の場合は、ガラスフリットの軟化点は800℃付近若しくはそれ以下のものが選定されることとなる。
【0048】
次に、本発明について実施例をあげて説明するが、本発明は、必ずしもこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
インクを調製するための材料を下記の処方で配合し、ビーズミル分散機を用いて分散した。その後、濾過によって不純物を除去し、均一な無機顔料インクを作成した。
【0050】
≪インク処方≫
無機顔料 30重量%
分散剤:ソルスパース33000
(日本ルーブリゾール(株)製)10重量%
有機溶剤:ハイソルブMTEM
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点275℃ 表面張力31.8mN/m)50重量%
合成樹脂:BR−105
(三菱レイヨン(株)製 アクリル系 分子量5万 分解残渣1%) 10重量%
合計100重量%
無機顔料は以下のものを使用した。
粒径の測定は、マルバーン インスツルメンツ リミテッド製のゼーターサイザーナノS(動的光散乱法)を用いた。
【0051】
≪無機顔料≫
黄色成分:NF−5850 YELLOW 日研(株)製(アンチモン-チタン-ニッケル複合酸化物系イエロー)
分散後の粒径は、Di(50)が220nmであった。
赤色成分:HS−76 MAROON 日研(株)製(スズ-クロム複合酸化物系マロン)
分散後の粒径は、Di(50)が250nmであった。
青色成分:NF−2800 BLUE 日研(株)製(コバルト-アルミ複合酸化物系ブルー)
分散後の粒径は、Di(50)が210nmであった。
黒色成分:NF−650 BLACK 日研(株)製(コバルト-フェライト複合酸化物系ブラック)
分散後の粒径は、Di(50)が200nmであった。
【0052】
以下の手順でタイル(陶器質:施釉)に対してインク受容層の形成を行った。
ガラスフリットをボールミルで乾式分散を行った。次いで、ポリビニルアルコール及び純水を加え、乳鉢で混練し、スクリーンを用いてタイルにコーティングした後、110℃で10分間乾燥し基材にインク受容層を形成した。
【0053】
≪インク受容層の処方≫
ガラスフリット32117
(カドミウム入りガラスフラッキス、イザワピグメンツ社製) 65重量%
ポリビニルアルコール(接着剤:PVA−110、クラレ社製) 5重量%
純水 残り
合計 100重量%
このインク受容層が施されたタイルに対して上記インクを使用し、インクジェットプリンタを用い下記の加飾条件にて記録を行った。
【0054】
≪インクジェット加飾条件≫
・ノズル径 70μm
・電圧 50V
・パルス幅 15μm
・駆動周波数 5kHz
・ヘッド温度 40℃
・インク量 200g/m
2
・図柄 各単色、各混色(2次色、3次色、4次色)をベタ柄で表現した
記録後は陶芸用電気炉を使用し、以下の条件で焼成を行い、目的とするインクジェットプリント物を得た。
【0055】
≪焼成条件≫
温度;1150℃
時間;45分間
以下の方法で、得られたインクジェットプリント物の評価を行った。表1にその結果を示す。
【0056】
≪評価内容≫
連続吐出性 ○ 30分間連続吐出においてノズル詰まり無し/
ヘッド表面からのインク溢れ無し
× 30分間連続吐出においてノズル詰まり有り/
ヘッド表面からのインク溢れ有り
乾燥性 ○ 30分間停止後、インク吐出時にノズル詰まり無し
× 30分間停止後、インク吐出時にノズル詰まり有り
発色性 ○ 目視判定にて鮮明性豊かな色表現ができている
× 目視判定にて鮮明性乏しく画像が白けていたり、灰分が残っている
焼成後外観 ○ 目視判定にて光沢感が得られている
× 目視判定にて光沢感が損なわれている
【0057】
[実施例2]使用する有機溶剤をハイソルブBDBに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブBDB
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点256℃ 表面張力24.9mN/m)
【0058】
[実施例3]使用する有機溶剤をハイソルブBDMに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブBDM
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点212℃ 表面張力24.1mN/m)
【0059】
[実施例4]使用する有機溶剤をハイソルブMPMに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブMPM
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点294℃ 表面張力33.8mN/m)
【0060】
[実施例5]使用する合成樹脂をオリコックスKC−1100に変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
合成樹脂:オリコックスKC−1100
(共栄社化学(株)製 アクリル系 分子量13万 分解残渣1%)
【0061】
[実施例6]インク作成時の分散条件を変更し、粒径Di(50)が大きくなるようにした以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。なお、
黄色成分の分散後の粒径は、Di(50)が300nmであった。
赤色成分の分散後の粒径は、Di(50)が340nmであった。
青色成分の分散後の粒径は、Di(50)が310nmであった。
黒色成分の分散後の粒径は、Di(50)が320nmであった。
【0062】
[比較例1]
使用する有機溶剤をハイソルブEDEに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブEDE
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点189℃ 表面張力25.0mN/m)
【0063】
[比較例2]
使用する有機溶剤をハイソルブDMに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブDM
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点194℃ 表面張力34.3mN/m)
【0064】
[比較例3]
使用する有機溶剤をハイソルブMDMに変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
有機溶剤:ハイソルブMDM
(東邦化学工業(株)製 グリコールエーテル系 沸点162℃ 表面張力28.1mN/m)
【0065】
[比較例4]
使用する合成樹脂をオリコックスKC−7000に変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
合成樹脂:オリコックスKC−7000
(共栄社化学(株)製 アクリル系 分子量30万 分解残渣1%)
【0066】
[比較例5]
使用する合成樹脂をJoncryl678に変更する以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。
合成樹脂:Joncryl678
(BASF(株)製 アクリル系 分子量0.8万 分解残渣10%)
【0067】
[比較例6]
インク作成時の分散条件を変更し、粒径Di(50)が大きくなるようにした以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。なお、
黄色成分の分散後の粒径は、Di(50)が420nmであった。
赤色成分の分散後の粒径は、Di(50)が460nmであった。
青色成分の分散後の粒径は、Di(50)が410nmであった。
黒色成分の分散後の粒径は、Di(50)が420nmであった。
【0068】
[比較例7]
インク作成時の分散条件を変更し、粒径Di(50)が小さくなるようにした以外は実施例1と同様にしてインクジェットプリント物を作成し、評価を行った。なお、
黄色成分の分散後の粒径は、Di(50)が80nmであった。
赤色成分の分散後の粒径は、Di(50)が90nmであった。
青色成分の分散後の粒径は、Di(50)が80nmであった。
黒色成分の分散後の粒径は、Di(50)が80nmであった。
【0069】
表1に示すように実施例1〜6は連続吐出性、乾燥性、発色性、焼成後外観ともに優れたものであった。
【0070】
また実施例1〜4と比較例1〜3の結果からも分かるように、インクに含まれる有機溶剤の沸点が200℃以上であると、ノズル周辺でインクが乾燥しにくく、安定吐出性に優れていた。
【0071】
【表1】