(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の体外循環回路を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図1は、本発明の体外循環回路の第1実施形態を示す概略図である。
図2は、
図1中の体外循環回路が備える人工肺の平面図である。
図3は、
図2に示す人工肺を矢印A方向から見た図である。
図4は、
図3中のB−B線断面図である。
図5は、
図3中の矢印C方向から見た図である。
図6は、
図2中のD−D線断面図である。
図7は、
図6中のE−E線断面図である。なお、
図2、
図4、
図5中の左側を「左」または「左方(一方)」、右側を「右」または「右方(他方)」という。また、
図2〜
図7中、人工肺の内側を「血液流入側」または「上流側」、外側を「血液流出側」または「下流側」として説明する。
【0028】
図1に示す体外循環回路1は、脱血ライン11と、送血ライン12と、迂回ライン13と、人工肺10と、送血ポンプ(血液ポンプ)14と、貯血槽15とを備え、体外循環中に血液Bに対してガス交換可能に構成されている。以下、各部の構成について説明する。
【0029】
脱血ライン11は、患者Sの静脈(大静脈)に留置された第1のカテーテル(図示せず)に接続されている。また、脱血ライン11は、第1のカテーテルと反対側の部分が、人工肺10の上流側(血液流入ポート201)に接続されている。このような脱血ライン11は、第1のカテーテルを介して脱血された血液B(静脈血)が人工肺10まで流下する流路であり、例えば可撓性を有するチューブで構成されている。
【0030】
脱血ライン11の下流側には、送血ライン12が設けられている。送血ライン12は、患者Sの動脈に留置された第2のカテーテル(図示せず)に接続されている。また、送血ライン12は、第2のカテーテルと反対側の部分が、人工肺10の下流側(血液流出ポート28)に接続されている。このような送血ライン12は、人工肺10を流出した血液Bが第2のカテーテルまで流下する流路であり、例えば可撓性を有するチューブで構成されている。なお、血液Bは、送血ライン12を流下後、第2のカテーテルを通過して、患者に戻される。
【0031】
脱血ライン11の途中には、送血ポンプ14が設けられている。送血ポンプ14は、血液Bを強制的に移送するポンプであり、例えば、遠心ポンプで構成されている。この送血ポンプ14では、作動時の回転数の大小に応じて、体外循環する血液Bの流量も上下する。
【0032】
脱血ライン11の途中の送血ポンプ14よりも上流側には、貯血槽15が設けられている。貯血槽15は、血液Bを一時的に貯留することができ、これにより、例えば、体外循環する血液量の調節を行なうことができる。
【0033】
図1に示すように、脱血ライン11と送血ライン12との間には、人工肺10が設けられている。
図2〜
図6に示すように、この人工肺10は、全体形状がほぼ円柱状をなしている。人工肺10は、内側に設けられ、脱血ライン11を流下してきた血液Bに対し熱交換を行う熱交換部10Bと、熱交換部10Bの外周側に設けられ、当該血液Bに対しガス交換を行うガス交換部としての人工肺部10Aとを備え、これらがユニット化された熱交換器付き人工肺である。なお、熱交換部10Bで熱交換が行われ、人工肺部10Aでガス交換が行われた血液Bは、送血ライン12に送られる。
【0034】
人工肺10は、ハウジング2Aを有しており、このハウジング2A内に人工肺部10Aと熱交換部10Bとが収納されている。
【0035】
ハウジング2Aは、円筒状ハウジング本体21Aと、円筒状ハウジング本体21Aの左端開口を封止する皿状の第1の蓋体22Aと、円筒状ハウジング本体21Aの右端開口を封止する皿状の第2の蓋体23Aとで構成されている。
【0036】
円筒状ハウジング本体21A、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、樹脂材料で構成されている。円筒状ハウジング本体21Aに対し、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、融着や接着剤による接着等の方法により固着されている。
【0037】
円筒状ハウジング本体21Aの外周部には、管状の血液流出ポート28が形成されている。血液流出ポート28は、円筒状ハウジング本体21Aの外周面のほぼ接線方向に向かって突出している(
図6参照)。そして、この血液流出ポート28に送血ライン12を接続することができ、当該送血ライン12に血液Bが流出することとなる。
【0038】
円筒状ハウジング本体21Aの外周部には、管状のパージポート205が突出形成されている。パージポート205は、その中心軸が円筒状ハウジング本体21Aの中心軸と交差するように、円筒状ハウジング本体21Aの外周部に形成されている。
【0039】
第1の蓋体22Aには、管状のガス流出ポート27が突出形成されている。ガス流出ポート27は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心と交差するように、第1の蓋体22Aの外周部に形成されている(
図3参照)。
【0040】
また、血液流入ポート201は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心に対し偏心するように、第1の蓋体22Aの端面から管状に突出している。この血液流入ポート201には、脱血ライン11を接続することができ、当該脱血ライン11からの血液Bが流入することとなる。
【0041】
第2の蓋体23Aには、管状のガス流入ポート26、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203が突出形成されている。ガス流入ポート26は、第2の蓋体23Aの端面の縁部に形成されている。熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203は、それぞれ、第2の蓋体23Aの端面のほぼ中央部に形成されている。また、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203の中心線は、それぞれ、第2の蓋体23Aの中心線に対してやや傾斜している。
【0042】
図4、
図6に示すように、ハウジング2Aの内部には、その内周面に沿った円筒状をなす人工肺部10Aが収納されている。人工肺部10Aは、円筒状の中空糸膜束3Aと、中空糸膜束3Aの外周側に設けられた気泡除去手段4Aとしてのフィルタ部材41Aとで構成されている。中空糸膜束3Aとフィルタ部材41Aとは、血液流入側から、中空糸膜束3A、フィルタ部材41Aの順に配置されている。
【0043】
また、人工肺部10Aの内側には、その内周面に沿った円筒状をなす熱交換部10Bが設置されている。熱交換部10Bは、中空糸膜束3Bを有している。
【0044】
図7に示すように、中空糸膜束3Aおよび3Bは、それぞれ、多数本の中空糸膜31で構成され、これらの中空糸膜31を層状に集積して積層させてなるものである。積層数は、特に限定されないが、例えば、3〜40層が好ましい。なお、中空糸膜束3Aの各中空糸膜31は、それぞれ、ガス交換機能を有するものである。一方、中空糸膜束3Bの各中空糸膜31は、それぞれ、熱交換を行なう機能を有するものである。
【0045】
図4に示すように、中空糸膜束3Aおよび3Bは、それぞれ、その両端部が隔壁8および9により円筒状ハウジング本体21Aの内面に対し一括して固定されている。隔壁8、9は、例えば、ポリウレタン、シリコーンゴム等のポッティング材や接着剤等により構成されている。さらに、中空糸膜束3Bは、その内周部が、第1の円筒部材241の外周部に形成された凹凸部244に係合している。この係合と隔壁8および9による固定により、中空糸膜束3Bが円筒状ハウジング本体21Aに確実に固定され、よって、人工肺10の使用中に中空糸膜束3Bの位置ズレが生じるのを確実に防止することができる。また、凹凸部244は、中空糸膜束3B全体に血液Bを巡らせるための流路としても機能する。
【0046】
なお、
図6に示すように、中空糸膜束3Aの最大外径φD1
maxは、20mm〜200mmであるのが好ましく、40mm〜150mmであるのがより好ましい。中空糸膜束3Bの最大外径φD2
maxは、10mm〜150mmであるのが好ましく、20mm〜100mmであるのがより好ましい。また、
図4に示すように、中空糸膜束3Aおよび3Bの中心軸方向に沿った長さLは、30mm〜250mmであるのが好ましく、50mm〜200mmであるのがより好ましい。このような条件を有することにより、中空糸膜束3Aは、ガス交換機能に優れたものとなり、中空糸膜束3Bは、熱交換機能に優れたものとなる。
【0047】
ハウジング2A内の隔壁8と隔壁9との間における各中空糸膜31の外側、すなわち、中空糸膜31同士の隙間には、血液Bが
図7中の上側から下側に向かって流れる血液流路33が形成されている。
【0048】
血液流路33の上流側には、血液流入ポート201から流入した血液Bの血液流入部として、血液流入ポート201に連通する血液流入側空間24Aが形成されている(
図4、
図6参照)。
【0049】
血液流入側空間24Aは、円筒状をなす第1の円筒部材241と、第1の円筒部材241の内側に配置され、その内周部の一部に対向して配置された板片242とで画成された空間である。そして、血液流入側空間24Aに流入した血液Bは、第1の円筒部材241に形成された複数の側孔243を介して、血液流路33全体にわたって流下することができる。
【0050】
また、第1の円筒部材241の内側には、当該第1の円筒部材241と同心的に配置された第2の円筒部材245が配置されている。そして、
図4に示すように、熱媒体流入ポート202から流入した例えば水等の熱媒体Hは、第1の円筒部材241の外周側にある中空糸膜束3Bの各中空糸膜31の流路(中空部)32、第2の円筒部材245の内側を順に通過して、熱媒体流出ポート203から排出される。また、熱媒体Hが各中空糸膜31の流路32を通過する際に、血液流路33内で、当該中空糸膜31に接する血液Bとの間で熱交換(加温または冷却)が行われる。
【0051】
なお、
図1に示すように、熱媒体流入ポート202には、熱媒体Hを供給する熱媒体供給ライン16が接続され、熱媒体流出ポート203には、熱交換に供された熱媒体Hが排出される熱媒体排出ライン17が接続されている。
【0052】
血液流路33の下流側においては、血液流路33を流れる血液B中に存在する気泡を捕捉する機能を有するフィルタ部材41Aが配置されている。
【0053】
フィルタ部材41Aは、ほぼ長方形をなすシート状の部材(以下単に「シート」とも言う)で構成され、そのシートを中空糸膜束3Aの外周に沿って巻回して形成したものである。フィルタ部材41Aも、両端部がそれぞれ隔壁8、9で固着されており、これにより、ハウジング2Aに対し固定されている(
図4参照)。なお、このフィルタ部材41Aは、その内周面が中空糸膜束3Aの外周面に接して設けられ、該外周面のほぼ全面を覆っているのが好ましい。
【0054】
また、フィルタ部材41Aは、血液流路33を流れる血液中に気泡が存在していたとしても、その気泡をできる限り捕捉することができる(
図7参照)。また、フィルタ部材41Aにより捕捉された気泡は、血流によって、フィルタ部材41A近傍の各中空糸膜31内に押し込まれて入り込み、その結果、血液流路33から除去される。
【0055】
また、フィルタ部材41Aの外周面と円筒状ハウジング本体21Aの内周面との間には、円筒状の隙間が形成され、この隙間は、血液流出側空間25Aを形成している。この血液流出側空間25Aと、血液流出側空間25Aに連通する血液流出ポート28とで、血液流出部が構成される。血液流出部は、血液流出側空間25Aを有することにより、フィルタ部材41Aを透過した血液Bが血液流出ポート28に向かって流れる空間が確保され、血液Bを円滑に排出することができる。
【0056】
図4に示すように、第1の蓋体22Aの内側には、円環状をなすリブ291が突出形成されている。そして、第1の蓋体22Aとリブ291と隔壁8により、第1の部屋221aが画成されている。この第1の部屋221aは、ガスGが流出するガス流出室である。中空糸膜束3Aの各中空糸膜31の左端開口は、第1の部屋221aに開放し、連通している。人工肺10では、ガス流出ポート27および第1の部屋221aによりガス流出部が構成される。一方、第2の蓋体23Aの内側にも、円環状をなすリブ292が突出形成されている。そして、第2の蓋体23Aとリブ292と隔壁9とにより、第2の部屋231aが画成されている。この第2の部屋231aは、ガスGが流入してくるガス流入室である。中空糸膜束3Aの各中空糸膜31の右端開口は、第2の部屋231aに開放し、連通している。人工肺10では、ガス流入ポート26および第2の部屋231aによりガス流入部が構成される。
【0057】
ここで、本実施形態の人工肺10における血液の流れについて説明する。
この人工肺10では、血液流入ポート201から流入した血液Bは、血液流入側空間24A、側孔243を順に通過して、熱交換部10Bに流れ込む。熱交換部10Bでは、血液Bは、血液流路33を下流方向に向かって流れつつ、熱交換部10Bの各中空糸膜31の表面と接触して熱交換(加温または冷却)がなされる。このようにして熱交換がなされた血液Bは、人工肺部10Aに流入する。
【0058】
そして、人工肺部10Aでは、血液Bは、血液流路33をさらに下流方向に向かって流れる。一方、ガス流入ポート26から供給されたガスG(酸素を含むガス)は、第2の部屋231aから人工肺部10Aの各中空糸膜31の流路32に分配され、該流路32を流れた後、第1の部屋221aに集積され、ガス流出ポート27より排出される。血液流路33を流れる血液Bは、人工肺部10Aの各中空糸膜31の表面に接触し、流路32を流れるガスGとの間でガス交換、すなわち、酸素加、脱炭酸ガスがなされる。
【0059】
ガス交換がなされた血液B中に気泡が混入している場合、この気泡には、フィルタ部材41Aにより捕捉されるものがあり、フィルタ部材41Aの下流側に流出するのが防止される。
【0060】
以上のようにして熱交換、ガス交換が順になされた血液Bは、血液流出ポート28より流出する。
【0061】
前述したように、中空糸膜束3Aおよび3Bは、いずれも、多数本の中空糸膜31で構成されたものである。中空糸膜束3Aと中空糸膜束3Bとは、用途が異なること以外は、同じ中空糸膜31を有する。
【0062】
中空糸膜31の内径φd
1は、50μm〜700μmであるのが好ましく、70μm〜600μmであるのがより好ましい(
図7参照)。中空糸膜31の外径φd
2は、100μm〜1000μmであるのが好ましく、120μm〜800μmであるのがより好ましい(
図7参照)。さらに、内径φd
1と外径φd
2との比d
1/d
2は、0.5〜0.9あるのが好ましく、0.6〜0.8であるのがより好ましい。このような条件を有する各中空糸膜31では、自身の強度を保ちつつ、当該中空糸膜31の中空部である流路32に流体(ガスGまたは熱媒体H)を流すときの圧力損失を比較的小さくすることができるとともに、その他、中空糸膜31の巻回状態を維持するのに寄与する。例えば、内径φd
1が前記上限値よりも大きいと、中空糸膜31の厚さが薄くなり、他の条件によっては、強度が低下する。また、内径φd
1が前記下限値よりも小さいと、他の条件によっては、中空糸膜31に流体を流すときの圧力損失が大きくなる。
【0063】
また、隣り合う中空糸膜31同士の距離は、φd
2の1/10〜1/1であるのがより好ましい。
【0064】
このような中空糸膜31の製造方法は、特に限定されないが、例えば、延伸法、固液相分離法、押出成形を用いた方法が挙げられる。この方法により、所定の内径φd
1および外径φd
2を有する中空糸膜31を製造することができる。
【0065】
このような中空糸膜31の製造方法は、特に限定されないが、例えば、押出成形を用いた方法、特に延伸法または固液相分離法を用いた方法が挙げられる。この方法により、所定の内径φd
1および外径φd
2を有する中空糸膜31を製造することができる。
【0066】
各中空糸膜31の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン等の疎水性高分子材料が用いられ、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレンである。このような樹脂材料を選択することは、中空糸膜31の巻回状態を維持するのに寄与するともに、製造時の低コスト化にも寄与する。
【0067】
図1に示すように、人工肺10のガス流入ポート26には、人工肺部10AにガスGを供給するガス供給ライン18が接続されている。ガス供給ライン18は、例えば可撓性を有するチューブで構成されている。このガス供給ライン18の上流側には、酸素を含むが、窒素を実質的に含まないガスGが充填されたタンク(図示せず)が接続されている。そして、ガスGは、ガス供給ライン18を人工肺10に向かって流下することができる。
【0068】
なお、ガスGは、人工肺部10Aに供給される以前の状態、すなわち、ガス供給ライン18を通過している最中の、酸素の含有率が95%以上、100%以下であるのが好ましく、100%であるのがより好ましい。また、このガスGにおける窒素の許容含有率は、0%以上、5%未満であるのが好ましく、0%であるのがより好ましい。
【0069】
前述したように、
図1に示す体外循環回路1には、迂回ライン13が設けられている。この迂回ライン13は、脱血ライン11には、送血ポンプ14と人工肺10との間に接続されている(以下この接続されている部分を「分岐点19」と言う)。また、迂回ライン13は、送血ライン12には、その長手方向の途中に接続されている(以下この接続されている部分を「合流点20」と言う)。これにより、迂回ライン13は、人工肺10(ガス交換部)を迂回して、脱血ライン11と送血ライン12とを接続する流路(シャント)となる。
【0070】
そして、血液Bは、分岐点19で、人工肺10に向かう血液(第1の血液)B1と、迂回ライン13に向かう血液(第2の血液)B2とに一旦分流する。血液B1は、人工肺10によってガス交換が行われ、その後合流点20に向かう。一方、血液B2は、ガス交換が行なわれずにそのまま迂回ライン13を流下して、合流点20に向かう。合流点20(送血ライン12)では、血液B1と血液B2とが合流することとなる。
【0071】
なお、迂回ライン13は、脱血ライン11や送血ライン12と同様に、人工肺10とは別体の、例えば可撓性を有するチューブで構成されているのが好ましい。このように各ラインがそれぞれチューブで構成されていることにより、例えば、体外循環回路1が使用される環境(例えば患者Sの位置等)に応じて、人工肺10、送血ポンプ14、貯血槽15等の配置を適宜変更することができる。これにより、使用環境に相応しい好適な状態で体外循環を行なうことができる。
【0072】
次に、体外循環回路1での血液Bの体外循環の一例について、
図1を参照しつつ説明する。
【0073】
体外循環回路1は、
図1に示す状態、すなわち、脱血ライン11が患者Sの静脈に接続され、送血ライン12が患者Sの動脈に接続された状態となっている。この状態で送血ポンプ14を作動させて、体外循環を開始する。また、患者Sでは、血液Bに対して、酸素を消費し、二酸化炭素を放出する代謝が行われている。そして、体外循環が開始されると、まず、血液Bは、貯血槽15、送血ポンプ14を順に通過しつつ脱血ライン11を流下する。この血液Bは、前記代謝により二酸化炭素を比較的多く含んだ状態となっている。以下この状態を「状態I(State I)」と言う。また、この状態Iの血液Bは、二酸化炭素の他に、酸素や窒素も含んでおり、酸素飽和度が例えば65%程度となっている。また、術野から血液Bとともに空気が体外循環回路1内に混入し、これが気泡となって存在していることが多分にある。
【0074】
その後、状態Iの血液Bは、分岐点19に達すると、当該分岐点19で血液B1と血液B2とに分かれる。当然このときの血液B1と血液B2とは、いずれも状態Iのままである。なお、血液B1と血液B2との比率(血液B1:血液B2)は、所定の比率となるよう調整されており、例えば、95:5〜70:30であるのが好ましく、95:5〜80:20であるのがより好ましい。
【0075】
血液B1は、人工肺10の血液流入ポート201を介して流入して、当該人工肺10でガス交換が行なわれる。また、人工肺10のガス流入ポート26を介して供給されるガスGは、実質的に窒素を含まない酸素のみを含むものである。すなわち、前述したように、ガスGは、酸素の含有率が好ましくは95%以上、100%以下であり、より好ましくは100%のものである。また、窒素の許容含有率は、好ましくは0%以上、5%未満であり、より好ましくは0%である。これにより、ガス交換後の血液B1は、状態Iよりも酸素を多く含み、二酸化炭素(一部または全部)が除去された状態となる。以下この状態を「状態II(State II)」と言う。また、状態IIの血液B2では、酸素飽和度がほぼ100%となっている。
【0076】
一方、血液B2は、ガス交換が行なわれず、状態Iのまま迂回ライン13を流下する。
そして、前記ガス交換された血液B1と、血液B2とは、合流点20で合流して混合し、当該混合した血液Bが送血ライン12を流下して患者Sに送り込まれる。
【0077】
ところで、ガス交換後に患者Sに送り込まれる血液Bは、酸素飽和度が100%となっているよりも、酸素飽和度が95〜98%となっているのが好ましい。従来は、このような目標飽和度を得るために、前記背景技術で述べたように、酸素と窒素とが所定の割合(例えば酸素80%、窒素20%の割合)で混合された混合ガスを人工肺に供給していた。
【0078】
この従来に対し、本発明の体外循環回路1では、酸素飽和度がほぼ100%の状態IIの血液B1に、窒素や二酸化炭素を含む状態Iの血液B2が合流点20で合流するため、結果として、この合流した血液Bは、酸素飽和度が95〜98%に調整された状態のものとなる。以下この状態を「状態III(State III)」と言う。
【0079】
また、体外循環回路1では、人工肺10には窒素が供給されず、酸素のみが供給される。このため、合流点20以降の状態IIIの血液Bでは、従来の体外循環回路中の血液よりも溶存窒素量(窒素分圧)が小さい。血液B中の気泡は、空気であり窒素80%を含む。そのため、気泡は、窒素分圧の低い血液B中に溶け込むことができ、体外循環回路1中から消失することとなる。
【0080】
そして、血液Bは、状態IIIで患者Sに戻り、当該患者Sでの代謝に用いられる。このように体外循環回路1では、患者Sでの代謝と人工肺10でのガス交換とが繰り返される。
【0081】
また、体外循環回路1では、人工肺10に酸素のみのガスGを供給し、かつ、迂回ライン13を設けるという簡単な構成によって、代謝とガス交換とが繰り返されている間、酸素飽和度を目標飽和度に維持しつつ、体外循環中に生じる気泡を確実に除去することができる。このように体外循環回路1は、体外循環中に気泡の発生を防止または抑制するように、当該気泡を血中に強制的にできる限り溶存させる方法(気泡消失方法)を実行することができるものとなっている。
【0082】
<第2実施形態>
図8は、本発明の体外循環回路の第2実施形態を示す概略図である。
【0083】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0084】
本実施形態は、体外循環回路の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0085】
図8に示すように、本実施形態では、体外循環回路1は、前記第1実施形態の体外循環回路1と異なり、貯血槽15が省略されたものとなっている。この貯血槽15が省略された体外循環回路を「閉鎖系」の体外循環回路と言うことがある。この回路では、貯血槽15が省略され分、当該回路に充填される血液量(プライミングボリューム)を減少させることができる。これにより、患者Sへの負担が低減される、すなわち、低侵襲が図られる。
【0086】
そして、このような閉鎖系体外循環回路でも、前記第1実施形態と同様に、体外循環中に生じる気泡を確実に除去することができる。
【0087】
なお、前記第1実施形態のような体外循環回路1、すなわち、貯血槽15を有する体外循環回路を「開放系」の体外循環回路と言うことがある。
【0088】
<第3実施形態>
図9は、本発明の体外循環回路の第3実施形態を示す概略図である。
【0089】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0090】
本実施形態は、人工肺、送血ポンプおよび貯血槽の各配置が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0091】
図9に示すように、本実施形態では、人工肺10が最上流側に配置され、以降、送血ライン12の途中には、貯血槽15、送血ポンプ14がこの順に配置されている。また、迂回ライン13は、脱血ライン11の途中に接続されており、送血ライン12には、送血ポンプ14と人工肺10(ガス交換部)との間に接続されている。
【0092】
このような構成の体外循環回路1でも、前記第1実施形態と同様に、体外循環中に生じる気泡を確実に除去することができる。
【0093】
<第4実施形態>
図10は、本発明の体外循環回路(第4実施形態)が備える人工肺の斜視図である。
【0094】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0095】
本実施形態は、体外循環回路および人工肺の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
本実施形態では、人工肺10と別体で構成された迂回ライン13が省略されている。
【0096】
また、
図10に示すように、人工肺10は、血液流入ポート201と血液流出ポート28とに連通して接続された連通管204を有している。これにより、血液流入ポート201に流入した血液Bは、人工肺10中のガス交換部としての人工肺部10A(中空糸膜束3A)に向かう血液B1と、連通管204を通り、血液流出ポート28に向かう血液B2とに分かれる。血液B2は、ガス交換が行われずに、血液流出ポート28に向かい、当該血液流出ポート28で、ガス交換が行われた血液B1と合流する。
【0097】
このように本実施形態では、連通管204は、迂回ライン13として機能し、ガス交換部としての人工肺部10Aとともに、1つの人工肺10にユニット化されている。これにより、体外循環回路1での配管を簡単なものとすることができる。また、このような構成の体外循環回路1でも、前記第1実施形態と同様に、体外循環中に生じる気泡を確実に除去することができる。
【0098】
<第5実施形態>
図11は、本発明の体外循環回路(第5実施形態)が備える人工肺の横断面図である。
【0099】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第5実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、人工肺の構成が異なること以外は前記第4実施形態と同様である。
【0100】
図11に示すように、本実施形態では、ガス交換機能を有する中空糸膜束3Aには、その一部が欠損した欠損部34が形成されている。欠損部34の位置としては、特に限定されず、例えば、図示のように血液流出ポート28に臨む部分とすることができる。
【0101】
この人工肺10では、血液Bは、中空糸膜束3Bを通過して熱交換がされた後、中空糸膜束3Aを通過する血液B1と、中空糸膜束3Aを通過せずに欠損部34を通過する血液B2とに分かれる。血液B1は、ガス交換が行なわれるが、血液B2は、ガス交換が行われずに、血液流出ポート28に向かう。そして、血液B1と血液B2とは、血液流出ポート28で合流する。
【0102】
このように本実施形態では、欠損部34が迂回ライン13として機能し、人工肺10の構成を簡単なものとすることができ、前記第1実施形態と同様に、体外循環中に生じる気泡も確実に除去することができる。
【0103】
<第6実施形態>
図12は、本発明の体外循環回路(第6実施形態)が備える人工肺の横断面図である。
【0104】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第6実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、人工肺の構成が異なること以外は前記第4実施形態と同様である。
【0105】
図12に示すように、本実施形態では、ガス交換機能を有する中空糸膜束3Aでは、当該中空糸膜束3Aを構成する多数本の中空糸膜31のうちの一部の中空糸膜31が閉塞された閉塞中空糸膜35(
図12中のクロスハッチングを施した部分)となっている。閉塞中空糸膜35を設ける位置としては、特に限定されず、例えば、図示のように血液流出ポート28に臨む部分とすることができる。
【0106】
なお、中空糸膜31を閉塞させる方法としては、特に限定されず、例えば、中空糸膜31の少なくとも一端部をポッティング材等で閉塞させる方法、中空糸膜31の壁部を貫通する多数の細孔をポッティング材等で閉塞させる方法等が挙げられる。
【0107】
この人工肺10では、血液Bは、中空糸膜束3Bを通過して熱交換がされた後、中空糸膜束3Aの閉塞されていない中空糸膜31の外側を通過する血液B1と、閉塞中空糸膜35の外側を通過する血液B2とに分かれる。血液B1は、ガス交換が行なわれるが、血液B2は、ガス交換が行われずに、血液流出ポート28に向かう。そして、血液B1と血液B2とは、血液流出ポート28で合流する。
【0108】
このように本実施形態では、閉塞中空糸膜35の外側が血液流路33のうちの迂回ライン13として機能し、前記第1実施形態と同様に、体外循環中に生じる気泡も確実に除去することができる。
【0109】
<第7実施形態>
図13は、本発明の体外循環回路の第7実施形態を示す概略図である。
【0110】
以下、この図を参照して本発明の体外循環回路の第7実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0111】
本実施形態は、体外循環回路の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0112】
図13に示すように、本実施形態では、迂回ライン13の分岐点19側近傍に、当該迂回ライン13に向かう血液Bの流量を調整可能な流量調整部30が設けられている。流量調整部30としては、特に限定されず、例えば、絞り弁を用いることができる。
【0113】
この流量調整部30により、患者Sの性別、体格差、年齢等に応じて、酸素飽和度が目標飽和度、すなわち、その患者Sに適した値に確実になるように容易かつ確実に設定することができる。
【0114】
以上、本発明の体外循環回路を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、体外循環回路を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0115】
また、本発明の体外循環回路は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0116】
また、人工肺部の中空糸膜束を構成する各中空糸膜と、熱交換部の中空糸膜束を構成する各中空糸膜とは、前記各実施形態では同じものであったが、これに限定されず、例えば、一方(前者)の中空糸膜が他方(後者)の中空糸膜よりも細くてもよいし、双方の中空糸膜が互いに異なる材料で構成されていてもよい。
【0117】
また、人工肺部と熱交換部とは、前記実施形態では熱交換部が内側に配置され、人工肺部が外側に配置されていたが、これに限定されず、人工肺部が内側に配置され、熱交換部が外側に配置されていてもよい。この場合、血液は、外側から内側に向かって流下する。