特許第6382024号(P6382024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382024
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】燃料電池単セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20180820BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALN20180820BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20180820BHJP
【FI】
   H01M8/02
   !H01M8/1213
   !H01M8/12 101
   !H01M8/12 102A
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-169161(P2014-169161)
(22)【出願日】2014年8月22日
(65)【公開番号】特開2016-46078(P2016-46078A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡司
(72)【発明者】
【氏名】小島 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】向原 佑輝
(72)【発明者】
【氏名】新田 高弘
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−106608(JP,A)
【文献】 特表2012−527068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスが供給されるアノード(1)と、固体電解質層(2)と、酸化剤ガスが供給されるカソード(3)とを有する燃料電池単セル(5)であって、
上記アノード(1)側に、
長手方向が上記酸化剤ガスの流れ方向(O)に沿って形成されており、かつ、上記アノード(1)に含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする高熱伝導部(6)を有していることを特徴とする燃料電池単セル(5)。
【請求項2】
上記高熱伝導部(6)を複数有しており、該各高熱伝導部(6)は直線状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項3】
上記高熱伝導部(6)は、上記アノード(1)の外表面に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項4】
上記高熱伝導部(6)は、上記アノード(1)内に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項5】
上記高熱伝導部(6)と上記アノード(1)を構成する材料よりなる低熱伝導部(7)とが交互に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項6】
上記電子導電性材料は、Niおよび/またはNiOであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項7】
上記燃料ガスと上記酸化剤ガスとが一軸方向に流れる方式を採用していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池単セル(5)。
【請求項8】
上記アノード(1)を支持体とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池単セル(5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池単セルに関し、さらに詳しくは、電解質として固体電解質を利用する燃料電池単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードと、固体電解質層と、カソードとを有する固体電解質型の燃料電池単セルが知られている。この種の燃料電池単セルとしては、例えば、空気極支持体の内部に形成された流路に沿って、空気極支持体を構成する材料よりも熱伝導性の高い材料よりなる均熱部材が設けられた燃料電池単セルが公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−283237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池単セルは、一般に、燃料ガスの流入量に比べ、酸化剤ガスの流入量が多い。そのため、燃料電池単セルは、酸化剤ガスによる熱伝導等により、発電時に酸化剤ガスの流れ方向に温度分布が生じやすい。セル面内に温度分布が生じると、セルの局所的な劣化や応力によるセル割れが生じやすくなる。それ故、燃料電池単セルでは、発電時におけるセル面内の温度分布を低減することが要求される。
【0005】
なお、上述した従来の燃料電池単セルは、均熱部材を用いてセル全面へ均一に熱を分散させることにより、セル面内の温度分布を低減しようとするものである。しかし、通常、セルへ反応ガスを供給する、あるいは、セルから反応ガスを排出するためのガスマニホールドが設けられないセル側面からの放熱量は、無視できないほど大きい。そのため、従来構成では、セル側面からの放熱の影響を大きく受け、発電時におけるセル面内の温度分布を低減することが難しいと考えられる。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、発電時におけるセル面内の温度分布を低減することが可能な燃料電池単セルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、燃料ガスが供給されるアノードと、固体電解質層と、酸化剤ガスが供給されるカソードとを有する燃料電池単セルであって、
上記アノード側に、
長手方向が上記酸化剤ガスの流れ方向に沿って形成されており、かつ、上記アノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする高熱伝導部を有していることを特徴とする燃料電池単セルにある。
【発明の効果】
【0008】
上記燃料電池単セルは、アノード側に、上記高熱伝導部を有している。そのため、上記燃料電池単セルは、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向のセル熱抵抗が、酸化剤ガスの流れ方向と直交方向のセル熱抵抗に比べて小さくなる。それ故、発電により生じた熱は、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向に放熱される。つまり、上記燃料電池単セルは、発熱するセル自身が酸化剤ガスの流れ方向と平行方向に積極的に熱分散を行うことができる。なお、高熱伝導部は、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向に発電により生じた熱の放熱を促す。そのため、上記燃料電池単セルは、セル側面からの放熱の影響を受け難い。したがって、上記燃料電池単セルは、発電時におけるセル面内の温度分布を効率良く低減することができる。また、高熱伝導部は、アノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする。そのため、上記燃料電池単セルは、他のアノード部位との接合性を十分に確保しつつ、セル面内の温度分布を低減することができる。
【0009】
よって、本発明によれば、発電時におけるセル面内の温度分布を低減することが可能な燃料電池単セルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の燃料電池単セルの積層構造を模式的に示した図である。
図2】実施例1の燃料電池単セルを、図1に示すII−II面側から見た図である。
図3】実施例2の燃料電池単セルの積層構造を模式的に示した図である
図4】実施例2の燃料電池単セルを、図3に示すIV−IV面側から見た図である。
図5】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図2に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース1−1、ケース1−2、ケース1−3)を説明するための図である。
図6】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図2に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース2−1、ケース2−2、ケース2−3)を説明するための図である。
図7】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図2に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース3−1、ケース3−2、ケース3−3)を説明するための図である。
図8】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図4に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース4)を説明するための図である。
図9】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図4に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース5)を説明するための図である。
図10】実験例におけるシミュレーションにて設定した、図4に対応する方向から見た燃料電池単セル(ケース6)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記燃料電池単セルは、電解質として固体電解質を利用する固体電解質型の燃料電池単セルである。固体電解質層を構成する固体電解質には、酸素イオン導電性を示す固体酸化物セラミックス等を用いることができる。なお、固体電解質として固体酸化物セラミックスを用いる燃料電池は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)と称される。
【0012】
上記燃料電池単セルは、具体的には、固体電解質層と、固体電解質層の一方面に積層されたアノードと、固体電解質層の他方面に中間層を介してまたは中間層を介さずに積層されたカソードとを有する構成とすることができる。なお、中間層は、主に、カソードを構成する材料と固体電解質層を構成する材料との反応を防止するための層である。カソードおよび中間層は、1層または2層以上から構成することができる。アノードに供給される燃料ガスとしては、例えば、水素ガス、メタンガス、メタンガスを主成分とするガス等を用いることができる。カソードに供給される酸化剤ガスとしては、例えば、酸素ガス、空気ガスなどを用いることができる。
【0013】
上記燃料電池単セルは、発電性能が高い等の観点から、平板形の電池構造をとることができる。とりわけ、上記燃料電池単セルは、電極であるアノードを支持体とするアノード支持型であるとよい。
【0014】
この場合には、カソードの厚みに比べて、アノードの厚みが十分に厚くなる。そのため、アノード側に高熱伝導部を形成、配置する際の自由度が向上する。
【0015】
上記燃料電池単セルにおいて、アノードは、単層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。アノードが複数層から構成される場合、アノードは、具体的には、例えば、固体電解質層側に配置される活性層と、活性層における固体電解質層側と反対側の面に積層される拡散層とを備える構成等とすることができる。なお、活性層は、主に、アノード側における電気化学的反応を高めるための層である。また、拡散層は、供給される燃料ガスを拡散させることが可能な層である。拡散層は、1層または2層以上から構成することができる。
【0016】
この場合には、拡散層により拡散された燃料ガスが活性層に比較的均一に流入し、アノード側における電気化学反応が生じる。そのため、セル面内で比較的均一に発電させやすくなる。また、例えば、活性層よりも拡散層の厚みを十分に厚くすることができるので、構造信頼性の高いアノード支持型の燃料電池単セルを得やすくなる。
【0017】
上記燃料電池単セルにおいて、高熱伝導部は、長手方向が酸化剤ガスの流れ方向に沿って形成されている。したがって、高熱伝導部の長手方向は、酸化剤ガスの流れ方向と略平行になっている。また、高熱伝導部は、アノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分としている。なお、上記「主成分とする」とは、70体積%超がアノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料であることを意味する。高熱伝導部は、好ましくは、75体積%以上、より好ましくは、80体積%以上がアノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料であるとよい。熱伝導率がより大きくなり、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向への放熱が促進されるためである。
【0018】
上記燃料電池単セルは、高熱伝導部を複数有する構成とすることができる。この際、各高熱伝導部は、直線状に形成されていることが好ましい。
【0019】
この場合には、直線状に形成された複数の高熱伝導部により、発電により生じた熱が、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向に放熱されやすくなる。そのため、セル面内の温度分布をより一層効率良く低減することが可能な燃料電池単セルが得られる。
【0020】
この場合、各高熱伝導部は、同一の形状に形成されていてもよいし、例えば、酸化剤ガスの流れ方向と直交方向における高熱伝導部の幅が異なる、高熱伝導部の厚みが異なる等、異なる形状に形成されていてもよい。また、各高熱伝導部は、セル面方向に配置することができる。この場合には、各高熱伝導部よりなる層を形成しやすくなる。
【0021】
上記燃料電池単セルは、アノード側に高熱伝導部を有している。上記燃料電池単セルにおいて、高熱伝導部は、具体的には、アノードの外表面に形成されている構成とすることができる。
【0022】
この場合には、上記作用効果を得るために、アノードの外表面に高熱伝導部を追加形成するだけで済む。そのため、セル面内の温度分布を効率良く低減することができ、製造性に優れた燃料電池単セルが得られる。さらに、高熱伝導部は、アノードに含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする。そのため、高熱伝導部を、アノード側における集電体として機能させることができる。それ故、アノード側の集電体を別途設ける必要がなくなり、製造性に優れた燃料電池単セルが得られる。
【0023】
なお、アノードの外表面に高熱伝導部を形成する方法としては、例えば、高熱伝導部を形成するためのペースト材をアノードの外表面に印刷し、焼成する方法などを例示することができる。
【0024】
上記燃料電池単セルにおいて、高熱伝導部は、アノード内に形成されている構成とすることもできる。
【0025】
この場合には、高熱伝導部と発熱部位との距離がより近くなる。そのため、発電により生じた熱が、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向に放熱されやすくなる。それ故、セル面内の温度分布をより一層効率良く低減することが可能な燃料電池単セルが得られる。なお、アノード内に高熱伝導部を形成する方法としては、例えば、高熱伝導部を形成するための材料を含むシート材を、他のアノード部分を形成するためのシート材とともに積層し、焼成する方法などを例示することができる。
【0026】
また、アノード内に高熱伝導部を有する場合、具体的には、高熱伝導部とアノードを構成する材料よりなる低熱伝導部とが、交互に配置されているとよい。この場合には、高熱伝導部と低熱伝導部とが交互に配置されているので、発電部位が偏在し難い。なお、高熱伝導部および低熱伝導部は、低熱伝導部に含まれる電子導電性材料の含有割合<高熱伝導部に含まれる電子導電性材料の含有割合の関係を満たすように構成することができる。
【0027】
上記において、アノードが活性層と拡散層とを有する場合、高熱伝導部は、具体的には、拡散層内に形成することができる。この場合には、活性層における反応場を損ない難い利点がある。また、高熱伝導部の厚みを比較的厚くしやすくなるため、酸化剤ガスの流れ方向と直交方向における高熱伝導部の断面積を大きくしやすい。そのため、発電により生じた熱が、酸化剤ガスの流れ方向と平行方向により放熱されやすくなる。
【0028】
上記燃料電池単セルは、燃料ガスと酸化剤ガスとが一軸方向に流れる方式を採用していることが好ましい。
【0029】
この場合には、一軸方向に生じる温度分布を低減しやすい燃料電池単セルが得られる。燃料ガスと酸化剤ガスとが一軸方向に流れる方式としては、具体的には、燃料ガスと酸化剤ガスとがセル面内で同方向に流れる並行流方式、燃料ガスと酸化剤ガスとがセル面内で逆方向に流れる対向流方式などを例示することができる。上記燃料電池単セルは、発電分布、シール性等の観点から、より好ましくは、並行流方式を採用しているとよい。
【0030】
上記燃料電池単セルにおいて、各部位を構成する材料としては、以下のものを例示することができる。
【0031】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の酸化ジルコニウム系酸化物;ランタンガレート系酸化物;CeO、CeOにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、Dr、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素等がドープされたセリア系固溶体等の酸化セリウム系酸化物などを例示することができる。固体電解質層の厚みは、オーミック抵抗の低減などの観点から、好ましくは3〜20μm、より好ましくは3〜10μmとすることができる。
【0032】
アノードの材質としては、例えば、Ni、NiO等の電子導電性材料、これら電子導電性材料とイットリア安定化ジルコニア等の上記固体電解質との混合物などを例示することができる。なお、NiOは、発電時の還元雰囲気でNiとなり、電子導電性を発現できるため、電子導電性材料に含まれる。アノードは、好ましくは、電子導電性材料と固体電解質との混合物より構成することができる。この場合には、電子導電性材料の焼結を防ぎやすくなるので、適度な気孔率を確保しやすくなる。電子導電性材料と固体電解質との体積比は、反応点数の確保、ガス拡散性の確等のバランスの観点から、例えば、好ましくは30/70〜70/30、より好ましくは35/65〜65/35、さらに好ましくは40/60〜60/40の範囲内とすることができる。アノードの厚みは、ガス拡散、電気抵抗、強度などの観点から、例えば、好ましくは、100〜800μm、より好ましくは、200〜400μmとすることができる。なお、上記体積比は、還元により体積が減少する電子導電性材料については、還元による体積減少後の電子導電性材料に換算した場合の値が用いられる。具体的には、例えば、電子導電性材料としてNiOが選択された場合、上記体積比は、NiOをNiに換算した場合の値となる。
【0033】
上記燃料電池単セルにおいて、電子導電性材料は、触媒活性、発電時における熱伝導性等の観点から、Niおよび/またはNiOであることが好ましい。この場合には、Niおよび/またはNiOを主成分とする高熱伝導部を有する燃料電池セルが得られる。
【0034】
カソードの材質としては、例えば、ランタン−マンガン系酸化物、ランタン−コバルト系酸化物、ランタン−鉄系酸化物等の導電性を有するペロブスカイト型酸化物、上記ペロブスカイト型酸化物と酸化セリウム系酸化物等の上記固体電解質との混合物などを例示することができる。上記ペロブスカイト型酸化物としては、具体的には、例えば、La1−xSrCo1−yFe系酸化物(x=0.4、y=0.8等)、La1−xSrCoO系酸化物(x=0.4等)、La1−xSrFeO系酸化物(x=0.4等)、La1−xSrMnO系酸化物(x=0.4等)、Sm1−xSrSrCoO系酸化物(x=0.5等)などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。カソードの厚みは、ガス拡散性、電極反応抵抗、集電性などの観点から、好ましくは20〜100μm、より好ましくは30〜60μmとすることができる。
【0035】
中間層の材質としては、上記酸化セリウム系酸化物などを例示することができる。中間層の厚みは、オーミック抵抗の低減、カソードからの元素拡散防止などの観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは1〜5μmとすることができる。
【0036】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例の燃料電池単セルについて、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0038】
(実施例1)
実施例1の燃料電池単セルについて、図1図2を用いて説明する。図1図2に示すように、本例の燃料電池単セル5は、燃料ガスが供給されるアノード1と、固体電解質層2と、酸化剤ガスが供給されるカソード3とを有している。燃料電池単セル5は、アノード1側に、高熱伝導部6を有している。高熱伝導部6は、長手方向が酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って形成されており、かつ、アノード1に含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする。以下、これを詳説する。
【0039】
本例において、燃料電池単セル5は、固体電解質層2とカソード3との間に中間層4を有している。具体的には、燃料電池単セル5は、固体電解質層2と、固体電解質層2の一方面に積層されたアノード1と、固体電解質層の他方面に中間層4を介して積層されたカソード3とを有しており、アノード1を支持体とする平板形の単セルである。アノード1は、具体的には、固体電解質層側に配置される活性層11と、活性層11における固体電解質層2側と反対側の面に積層された拡散層12とを備えている。なお、アノード1に供給される燃料ガスは、水素ガスであり、カソード3に供給される酸化剤ガスは、空気ガスである。
【0040】
燃料電池単セル5は、燃料ガスと酸化剤ガスとが一軸方向に流れる方式を採用している。具体的には、燃料電池単セル5は、燃料ガスと酸化剤ガスとがセル面内で同方向に流れる並行流方式とされている。図中、符号Fは、燃料ガスの流れ方向であり、符号Oは、酸化剤ガスの流れ方向である。
【0041】
ここで、燃料電池単セル5は、高熱伝導部6を複数有している。各高熱伝導部6は、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って直線状に形成されている。また、各高熱伝導部6は、アノード1の外表面である拡散層12の外表面に形成されている。なお、各高熱伝導部6は、互いに所定間隔離れた状態で配置されている。
【0042】
燃料電池単セル5における各部位の材質等は、次の通りである。固体電解質層2は、ジルコニア系固体電解質より形成されている。ジルコニア系固体電解質は、具体的には、8mol%のYを含むイットリア安定化ジルコニア(以下、8YSZ)等の酸化ジルコニウム系酸化物である。固体電解質層2の厚みは、10μmである。
【0043】
アノード1における活性層11は、電子導電性材料と固体電解質とを含む混合物(サーメット)より形成されている。電子導電性材料は、Niであり、固体電解質は、8YSZである。電子導電性材料と固体電解質との体積比は、50/50である。活性層11の厚みは、20μmである。
【0044】
アノード1における拡散層12は、電子導電性材料と固体電解質とを含む混合物(サーメット)より形成されている。電子導電性材料は、Niであり、固体電解質は、8YSZである。電子導電性材料と固体電解質との体積比は、50/50である。拡散層12の厚みは、500μmである。
【0045】
カソード3は、ペロブスカイト型酸化物より形成されている。ペロブスカイト型酸化物は、La1−xSrCo1−y(x=0.4、y=0.8、以下、LSCF)である。カソード3の厚みは、50μmである。
【0046】
中間層4は、酸化セリウム系酸化物より形成されている。酸化セリウム系酸化物は、10mol%のGdがドープされたセリア(以下、10GDC)である。中間層4の厚みは、5μmである。
【0047】
高熱伝導部6は、アノード1に含まれる電子導電性材料と同一の材料であるNiより形成されている。高熱伝導部6の厚みは、100μm〜300μmである。高熱伝導部6の幅は、1mmであり、高熱伝導部6間のピッチは1mmである。
【0048】
本例の燃料電池単セル5は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0049】
シート状の拡散層形成用材料、シート状の活性層形成用材料、シート状の固体電解質層形成用材料、および、シート状の中間層形成用材料をこの順に積層し、積層体を得る。なお、積層体は、CIP成形法等による圧着や脱脂等を行うことができる。得られた積層体を1250〜1500℃程度の温度で同時焼成する。これにより、拡散層12、活性層11、固体電解質層2、および、中間層4がこの順に積層された焼結体を得る。得られた焼結体における拡散層12の外表面に、スクリーン印刷法等により、高熱伝導部形成用材料を塗布する。この高熱伝導部形成用材料が塗布された積層体を1250〜1500℃程度の温度で焼成する。これにより、アノード1の外表面である拡散層12の外表面に高熱伝導部6を形成する。この高熱伝導部6が形成された焼結体における中間層4の表面に、カソード形成用材料を積層し、900〜1200℃程度の温度で焼成する。これにより、中間層4の表面にカソード3を形成する。以上により、燃料電池単セル5を得ることができる。
【0050】
次に、本例の燃料電池単セルの作用効果について説明する。
【0051】
燃料電池単セル5は、アノード1側に、高熱伝導部6を有している。そのため、燃料電池単セル5は、酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向のセル熱抵抗が、酸化剤ガスの流れ方向Oと直交方向のセル熱抵抗に比べて小さくなる。それ故、発電により生じた熱は、酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向に放熱される。つまり、燃料電池単セル5は、発熱するセル自身が酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向に積極的に熱分散を行うことができる。なお、高熱伝導部6は、酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向に発電により生じた熱の放熱を促す。そのため、燃料電池単セル5は、セル側面からの放熱の影響を受け難い。したがって、燃料電池単セル5は、発電時におけるセル面内の温度分布を効率良く低減することができる。また、高熱伝導部6は、アノード1に含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする。そのため、燃料電池単セル5は、他のアノード部位との接合性を十分に確保しつつ、セル面内の温度分布を低減することができる。
【0052】
また、本例では、燃料電池単セル5は、高熱伝導部6を複数有しており、各高熱伝導部6は、直線状に形成されている。そのため、直線状に形成された複数の高熱伝導部6により、発電により生じた熱が、酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向に放熱されやすい。それ故、燃料電池単セル5は、セル面内の温度分布をより一層効率良く低減することが可能となる。
【0053】
また、本例では、高熱伝導部6は、アノード1の外表面に形成されている。そのため、燃料電池単セル5は、上記作用効果を得るために、アノード1の外表面に高熱伝導部6を追加形成するだけで済む。それ故、燃料電池単セル5は、セル面内の温度分布をより一層効率良く低減することができ、製造性に優れる。さらに、高熱伝導部6は、アノード1に含まれる電子導電性材料と同一の材料を主成分とする。そのため、燃料電池単セル5は、高熱伝導部6を、アノード1側における集電体として機能させることができる。それ故、燃料電池単セル5は、アノード1側の集電体を別途設ける必要がなくなり、製造性に優れる。
【0054】
(実施例2)
実施例2の燃料電池単セルについて、図3図4を用いて説明する。図3図4に示すように、本例の燃料電池単セル5は、高熱伝導部6がアノード1内に形成されている点で、実施例1と大きく異なっている。すなわち、高熱伝導部6は、具体的には、アノード1における拡散層12内に形成されている。拡散層12では、高熱伝導部6と、アノード1を構成する材料よりなる低熱伝導部7とが交互に配置されている。したがって、高熱伝導部6のみならず、低熱伝導部7も、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って直線状に形成されている。
【0055】
高熱伝導部6は、電子導電性材料と固体電解質との混合物(サーメット)より形成されている。電子導電性材料は、Niであり、固体電解質は、8YSZである。電子導電性材料と固体電解質との体積比は、90/10である。高熱伝導部6の厚みは、650μmである。高熱伝導部6の幅は、1mmであり、高熱伝導部6間のピッチは、1mmである。一方、低熱伝導部7は、電子導電性材料と固体電解質との混合物(サーメット)より形成されている。電子導電性材料は、Niであり、固体電解質は、8YSZである。電子導電性材料と固体電解質との体積比は、50/50である。低熱伝導部7の厚みは、650μmである。低熱伝導部7の幅は、1mmである。燃料電池単セル5は、低熱伝導部7に含まれる電子導電性材料の含有割合<高熱伝導部6に含まれる電子導電性材料の含有割合の関係を満たしている。拡散層12の厚みは、650μmである。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0056】
本例の燃料電池単セル5は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0057】
高熱伝導部6を形成するための第1部位と低熱伝導部7を形成するための第2部位とを含むシート状の拡散層形成用材料を準備する。シート状の拡散層形成用材料は、材料を混合したスラリーを成形することなどにより準備することができる。シート状の拡散層形成用材料、シート状の活性層形成用材料、シート状の固体電解質層形成用材料、および、シート状の中間層形成用材料をこの順に積層し、積層体を得る。得られた積層体を1250〜1500℃程度の温度で同時焼成する。これにより、高熱伝導部6と低熱伝導部7とを含む拡散層12、活性層11、固体電解質層2、および、中間層4がこの順に積層された焼結体を得る。得られた焼結体における中間層4の表面に、カソード形成用材料を積層し、900〜1200℃程度の温度で焼成する。これにより、中間層4の表面にカソード3を形成する。以上により、燃料電池単セル5を得ることができる。
【0058】
次に、本例の燃料電池単セルの作用効果について説明する。
【0059】
本例では、高熱伝導部6は、アノード内に形成されている。そのため、高熱伝導部6と発熱部位との距離がより近くなる。そのため、発電により生じた熱が、酸化剤ガスの流れ方向Oと平行方向に放熱されやすくなる。それ故、燃料電池単セル5は、セル面内の温度分布をより一層効率良く低減することが可能となる。
【0060】
また、高熱伝導部6と低熱伝導部7とが交互に配置されているので、発電部位が偏在し難い。その他の作用効果は、実施例1と同様である。
【0061】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
燃料電池単セルの発電時におけるセル面内の温度分布を調べるため、シミュレーションを実施した。これについて説明する。
【0062】
(ケース1−1)
ケース1−1では、以下の燃料電池単セルを設定した。すなわち、ケース1の燃料電池単セルは、アノードと、固体電解質層と、カソードとを有している。燃料電池単セルの大きさは、100mm角である。図5に示されるように、アノード1の外表面には、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って複数の高熱伝導部6が直線状に形成されている。固体電解質は8YSZからなり、厚みは0.01mmである。固体電解質の熱伝導率は1W/m・Kである。アノードはNi−8YSZ(体積比で、Ni:8YSZ=50:50)からなる単層であり、厚みは0.45mmである。アノードの熱伝導率は2W/m・Kである。カソードはLSCFからなり、厚みは0.04mmである。カソードの熱伝導率は1W/m・Kである。高熱伝導部はNiからなり、厚みは0.1mm、幅1mm、ピッチは1mmである。高熱伝導部の熱伝導率は90W/m・Kである。なお、燃料ガスの流れ方向Fは、酸化剤ガスの流れ方向Oと同方向である。
【0063】
(ケース1−2)
ケース1−1において、高熱伝導部6の厚みを0.2mmとした点以外は、同様にして、ケース1−2の燃料電池単セルとした。
【0064】
(ケース1−3)
ケース1−1において、高熱伝導部6の厚みを0.3mmとした点以外は、同様にして、ケース1−3の燃料電池単セルとした。
【0065】
(ケース2−1)
ケース1−1において、図6に示されるように、アノード1の外表面に、酸化剤ガスの流れ方向Oと直交する方向に沿って複数の熱伝導部90が直線状に形成されている点以外は、同様にして、ケース2−1の燃料電池単セルとした。
【0066】
(ケース2−2)
ケース2−1において、熱伝導部90の厚みを0.2mmとした点以外は、同様にして、ケース2−2の燃料電池単セルとした。
【0067】
(ケース2−3)
ケース2−1において、熱伝導部90の厚みを0.3mmとした点以外は、同様にして、ケース2−3の燃料電池単セルとした。
【0068】
(ケース3−1)
ケース1−1において、図7に示されるように、アノード1の外表面に、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って複数の熱伝導部91が直線状に形成されているとともに、酸化剤ガスの流れ方向Oと直交する方向に沿って複数の熱伝導部92が直線状に形成されている点、熱伝導部91および熱伝導部92のピッチをそれぞれ2mmとした点以外は、同様にして、ケース3−1の燃料電池単セルとした。
【0069】
(ケース3−2)
ケース3−1において、熱伝導部91および熱伝導部92の厚みをそれぞれ0.2mmとした点以外は、同様にして、ケース3−2の燃料電池単セルとした。
【0070】
(ケース3−3)
ケース3−1において、熱伝導部91および熱伝導部92の厚みを0.3mmとした点以外は、同様にして、ケース3−3の燃料電池単セルとした。
【0071】
(ケース4)
ケース4では、以下の燃料電池単セルを設定した。すなわち、ケース4の燃料電池単セルは、アノードと、固体電解質層と、カソードとを有している。燃料電池単セルの大きさは、100mm角である。図8に示されるように、アノード1内には、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って複数の高熱伝導部6が直線状に形成されている。アノード1は、活性層(不図示)と拡散層12とを備えており、拡散層12内に、高熱伝導部6と、アノード1を構成する材料よりなる低熱伝導部7とが交互に配置されている。固体電解質は8YSZからなり、厚みは0.01mmである。固体電解質の熱伝導率は1W/m・Kである。活性層はNi−8YSZ(体積比で、Ni:8YSZ=50:50)からなり、厚みは0.01mmである。活性層の熱伝導率は2W/m・Kである。拡散層において、高熱伝導部はNi−8YSZ(体積比で、Ni:8YSZ=90:10)からなり、厚みは0.65mm、幅は1mm、ピッチは1mmである。高熱伝導部の熱伝導率は25W/m・Kである。拡散層において、低熱伝導部はNi−8YSZ(体積比で、Ni:8YSZ=50:50)からなり、厚みは0.65mmである。低熱伝導部の熱伝導率は2W/m・Kである。カソードはLSCFからなり、厚みは0.04mmである。カソードの熱伝導率は1W/m・Kである。なお、燃料ガスの流れ方向Fは、酸化剤ガスの流れ方向Oと同方向である。
【0072】
(ケース5)
ケース4において、図9に示されるように、アノード1内に、酸化剤ガスの流れ方向Oと直交する方向に沿って複数の熱伝導部90が直線状に形成されている点、熱伝導部90の間に、低熱伝導部7が配置されている点以外は、同様にして、ケース5の燃料電池単セルとした。
【0073】
(ケース6)
ケース4において、図10に示されるように、アノード1内に、酸化剤ガスの流れ方向Oに沿って複数の熱伝導部91が直線状に形成されているとともに、酸化剤ガスの流れ方向Oと直交する方向に沿って複数の熱伝導部92が直線状に形成されている点、熱伝導部91および熱伝導部92の間に、低熱伝導部7が配置されている点、熱伝導部91および熱伝導部92のピッチをそれぞれ2mmとした点以外は、同様にして、ケース6の燃料電池単セルとした。
【0074】
上記のように設定した各ケースについて、燃料ガスの利用率を75%、酸化剤ガスである空気ガスの利用率を30%とし、0.25A/cmの発電を行った場合における、発電時のセル面内温度分布ΔT(℃)を計算により算出した。なお、燃料ガスおよび空気ガスは、セル面内を均一に流れると仮定した。また、ケース3−1、ケース3−2、ケース3−3、およびケース6は、セル全面へ均一に熱を分散させることが想定されたモデルである。ケース3−1は、ケース1−1、ケース2−1と対比される。ケース3−2は、ケース1−2、ケース2−2と対比される。ケース3−3は、ケース1−3、ケース2−3と対比される。ケース6は、ケース4、ケース5と対比される。各ケースについてのシミュレーション結果をまとめて表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、本発明に規定される要件を満たすケース1−1、ケース1−2、ケース1−3、および、ケース4の燃料電池単セルは、発電時におけるセル面内の温度分布を低減しやすいことが確認された。
【0077】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 アノード
2 固体電解質層
3 カソード
5 燃料電池単セル
6 高熱伝導部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10